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宝塚音楽学校 第104期生 文化祭が開催(永岡俊哉 評)

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こんにちは。羽衣国際大学准教授の永岡俊哉です。薮下さんが編集者を務める宝塚イズムの執筆者の一人で、このブログ宝塚歌劇支局プラスの管理人をしております。今回は2月16日から3日間計6回宝塚バウホールで上演された宝塚音楽学校第104期生文化祭の模様をお伝えしましょう。

 

 2018年2月16日~18日まで宝塚バウホールで6公演行われた104期の文化祭

 

 各公演とも幕間を入れて3幕2時間20分の公演だった。

 

 文化祭が終わり卒業すると、いよいよ舞台人としての生活がスタートする。

 

 

宝塚音楽学校 第104期生 文化祭が開催

 

 音楽学校卒業直前のこの時期に予科本科2年間の集大成として成果を披露するのと同時に、初めて舞台で観客に芸を見てもらう貴重な機会である文化祭。入団前なので、全員が本名で舞台に上がる。去年からCS放送が復活したのに続き、今年からは公演回数が2日間4回公演から1日2公演増えて3日間6回公演にという大きな変更があった。これまで文化祭は友の会に入っていてもプラチナチケットだったが、今年は比較的入手しやすかったようである。私は演劇をA、B両方観るために、2月16日12時の初回と18日16時の千秋楽を観劇した。私事で言うなら、今年で9年目(96期から見始めて9回目)の文化祭である。

 

文化祭自体の構成はこれまで通り。

第一部は「日本舞踊 清く正しく美しく、予科生(105期生)コーラス、クラシック・ヴォーカル、ポピュラー・ヴォーカル」(構成・演出:三木章雄、音楽:𠮷田優子)

第二部が演劇(脚本・演出:谷正純)演劇「MILKY WAY」

第三部がダンスコンサート(構成:羽山紀代美・三木章雄、演出:三木章雄)と続く。

104期生40人は4月27日からの星組公演で初舞台を踏むことになっており、芸名はまだ発表されておらず、以下、文化祭プログラム掲載の本名のみで記す。

 

 第一部、まず日舞は恒例の「清く正しく美しく」から。小林一三の偉業を讃えた白井徹造作詞、𠮷崎憲治作曲の名曲で、この曲に乗せて紋付袴姿に扇を手にした生徒が舞台狭しと動きながら日舞を踊る。振り付けは今年も新しいものとなっていた。歌手のソロは娘役の森羽龍さん。好きな言葉が「夢見る心」で、高音が良く伸びる素晴らしい歌声で日舞をリードした。これで低音が出れば非の打ち所が無いという歌唱だった。他に歌手として三徳美沙子、橋本志歩、林真由(東京)、東田かれん、村上すず子、𠮷村里紗の7名の生徒が舞台の上下に分かれてコーラスをした。日舞のセンターは好きな言葉が「初心忘れず」という娘役の小島風樹さん。笑顔も柔らかく表情も可憐で、なおかつ確実な扇さばきで32名の舞踊チームを率いた。ちなみに、小島さんは予科に双子の姉妹が在籍しているとのことで、来年また双子ジェンヌが誕生することになる。(なお、林真由さんは同姓同名がいるため、プログラムに東京、奈良と出身地表記されていて、それに倣った。)

 

 続く105期生40人による予科生コーラスは、公演回によって異なったが「世界で一番おいしいパンケーキ」もしくは小田和正の「キラキラ」と、スウェーデン民謡の「憧れ」の2曲で、予科性が1年間の成果を披露した。「キラキラ」は16年前発売の曲で彼女らの耳にもなじんでいるのか小田メロディーの音域が歌いやすいのか、美しい歌声が広がっていた。「憧れ」も彼女たちに合っているようで、緩やかなテンポのピアノ伴奏に心地よく歌声が乗っていて、ハーモニーが素晴らしかった。「世界の-」は信長貴富編曲の、合唱ではおなじみの曲なのだが、高音の伸びがもう少し欲しかったのと歌詞の扱いがもう少し丁寧だったらもっと良い仕上がりになったと感じた。ただ、フォローで言うわけではないが、104期生はもちろん、105期生も全体的に歌唱力のレベルが高く、歌劇団の歌唱力重視の教育の成果が如実に表れていると感じた。

 

 クラシック・ヴォーカルのトップは好きな言葉が「感謝」という首席の越智愛梨さん。オペラ「道化師」より“衣装を付けろ”を104期ナンバーワンの声量と音程で高らかに歌い上げた。男役として数年経てば低音がもっと出るようになり、歌えるスターとして完璧になると感じた。霧矢大夢や北翔海莉のような歌える大スターを目指して欲しい。余談だが、彼女は元雪組トップスターの水夏希を彷彿とさせるルックスで体形もすでに男役そのもの。気は早いが、新人公演主役を早く観たいものだ。

 クラシック・ヴォーカルの娘役は村上すず子さん。好きな言葉が「天真爛漫」と言うだけあって、やや幼い感じも残る笑顔が似合う華奢な少女という雰囲気なのだが、歌うと空気が一変し、オペラ歌手のように天にも届くような高音で客席を圧倒した。歌声と小柄な体型、キュートな表情の落差が魅力の、いい娘役になるのではないかと期待を持った。

 

 ポピュラー・ヴォーカルは、宝塚の名曲メドレー。

まずは「アイ・ラブ・レビュー」を戸谷雨音さん、山口真由さん、石田日向子さんの男役3人と全員のコーラスで歌った。3人は音程もしっかりしていて、さらに男役として中低音もなかなかの伸びで、好感が持てた。

娘役2人で歌う「PARFUM DE PARIS」は出野上渚さんと「清く正しく―」も歌った森さん。息の合ったコンビネーションで、娘役らしく可憐にあでやかに歌い上げた。

男役3人の「夢を見れば…」というより「エンター・ザ・レビュー」と言った方がタカラヅカファンには通じやすいだろうこの曲は、宇都宮梓音さん、小嶋留奈さん、山田絵莉香さんが歌った。なかなか良い出来だったが、サビの部分をもう少し丁寧に歌えば、もっといい仕上がりになったと思う。

「夢の果てに」は増田みれさんと吉村里紗さんが歌い、素晴らしい低音の響きを聞かせてくれた。

「心の翼」は石山弘華さんが男役としていつでも使えそうな中低音を響かせた。コーラスとの相性もとても良かった。

ベルばらの「ごらんなさい ごらんなさい」は娘役7人が歌ったが、この7人は失礼ながら可憐さの方が際立つ、小公女にぴったりの娘役だった。しかし、この学年は歌のレベルが高いのが特徴で、彼女らのハーモニーは心地よく、そのまま、オスカルやマリーアントワネットが出てきそうなコーラスだった。

「ミラキャット」は東田かれんさんと香川リリーさんの男役2人と、三徳美沙子さん、園田雪乃さん、林真由さん(東京)、平竹沙弥音さんの娘役4人。男役2人が6人をリードし、耳なじみも良いコンビネーションだった。

「ザ・ビューティーズ」は金谷安紗さん、亀岡優美子さん、北野真以華さん、吉田莉々加さん、久我遥香さん、平城優子さん、守絵衣実さん、山岸莉央さんの男役8人と娘役全員のコーラスだった。先述したが、今年のすごさはこの香盤で出てくる生徒でも、と言うと失礼なのだが、本当に歌が上手いのだ。

「シトラスの風」は橋本志歩さん、影山都花さん、山内万里奈さん、猪山空さんの娘役4人と男役全員のコーラス。声の厚みというか声量は物足りない気もしたが、音程は抜群で、彼女たちとは無関係だが、次の宙組公演の「シトラスの風」が楽しみになったほどだ。

そして、芝居仕立ての「うたかたの恋」は圧巻だった。その瞬間、25日まで中日劇場で公演中の「うたかたの恋」に場面が変わったかと思うほど素晴らしいコンビネーションを見せてくれた阿南萌実さんと石井みちるさん。歌の前の「マリー、来週の月曜日、旅に出よう!」とい言うルドルフと、マリーの「はい!あなたとご一緒なら、どこへでも!」の決め台詞から、バウホールが「うたかたの恋」舞台になった。歌も振りも素晴らしく、何よりも二人の息がぴったりで、芝居心も素晴らしく、感激した。

トリは再び歌の成績の上位者の登場だ。

娘役のトリの村上さんは「白い花がほほえむ」を素晴らしい響きで歌い上げた。これは「ラムール・ア・パリ」の主題歌で、寺田瀧雄作曲、演出家の内海重典作詞の宝塚ファンにはおなじみの曲だ。曲だけ聞いているととてもきれいなのだが、そこには悲しい物語があり、女性としての美しさはもちろん、生への感謝や恋人への切ない思いなど複雑な心情を歌うことが必須の、歌手たる娘役スターにピッタリの、そして最も難しい歌だと私は思っている。彼女としてはまだまだ納得いかないところもあると思うのだが、音校卒業前にあそこまで歌えれば文句のつけようが無いと、感心した。表情も美しく、切なく、はかなく…と、合格点を上げられると思った。

大トリは何をさせても素晴らしいと評判の越智さんが「もののふの詩」を朗々と歌い上げた。歌がどうのこうのと言う次元を超えて、迫力すら感じさせる圧倒的な歌唱で、クラシックとは違った、タカラヅカの男役としてこれから進んでいく彼女の原点となる歌だったのではないだろうか!特に、初日は「メナムに赤い花が散る」を作った植田紳爾氏も客席に居たのだが、植田氏はどんな思いであの曲を聞いたのだろうか?そして、彼女からすると植田大先生の目の前で歌った「もののふの詩」はどんな出来だったのだろうか?とにかく、楽しみな男役さんの誕生を心から祝福し、歓迎したい。

最後は「TAKARAZUKA FOREVER」を全員で歌い、第1部を終えた。

 

 第2部の演劇は谷氏が山本周五郎の短編「泥棒と若殿」を南ドイツに舞台を移して書いた皇太子と泥棒の話。異母弟の皇子のせいで崩れ落ちそうな屋敷に幽閉され、食べるものも無く死にそうになっている、後の皇太子でザクセン公国の皇子カイと、そこに押し入る間抜けな泥棒ザックの物語がメイン。そこに異母弟ゼルギウス、異母妹ドロテアらが仕組んだカイの妹シャルロッテを追い出すためでもある政略結婚と、実は素晴らしいイギリス貴族だった結婚相手のデミトリアスと従者のハル、2人に拾われた旅芸人一座から辛くて脱走したレナーテが物語を進めていく。「泥棒と若殿」では泥棒の伝九が主役で、この舞台でもよく見ると主役は泥棒のザックなのだが、そこは文化祭で、しかもタカラヅカ。本線が何本かある話になっていたのだ。誰が主役と言うよりも、その線では誰が主役でだれが受け役だと言う感じだ。

この話では、皇太子と泥棒の線では黙っていてもカッコイイ皇太子と、芝居巧者で口八丁手八丁の役となる泥棒のライン。スター路線の役となる素敵なイギリス貴族と、お笑い担当の従者のライン。そこに絡むのだが、路線娘役がするであろう妹役と、路線候補の若い娘役がやるであろう脱走した旅芸人娘なども。さらに、悪役だが後に改心する異母兄弟もタカラヅカには必要で、そこの担当者は路線であることはもちろん、タカラヅカでは将来が見込まれるかなり重要なポジションとなる。さらには登場するだけで女性をメロメロにしてしまう将来はトップスターになると思われる新公主演クラスの若手がするだろう近衛隊士、さらには芝居ではガヤとなるが群衆となる若手、ダンス巧者、歌手なども配されていた。タカラヅカ的にはとてもわかりやすい配役と言えよう。いつもそうなのだが、文化祭の演劇が谷氏の作品の時はタカラヅカではこうなるという筋で、生徒が劇団でこうなるのだろうとある程度予想できる配役になる脚本が作られるのである。

A組もB組も甲乙つけがたい出来だったが、皇太子カイはA組が重厚感のある守絵衣実さん、B組はカッコよさとはかなさが同居する吉村里紗さんが演じた。泥棒ザックはA組の石田日向子さんがセリフが前に出る芝居重視の役作りで、B組の山田絵莉香さんはテンポの良い笑いを取るのが上手い役作りだった。その違いは最後の別れのシーンで出た。私の個人的な感じ方なのかもしれないが、A組ではザックの側から見てしまい、B組では皇太子側から見てしまうのだ。演者によって変わるのが楽しめた両組の芝居だった。

 

 第3部のダンス・コンサートは、フィナーレに向かってテンションが上がっていくパートだ。まずはタップダンスから始まり、バレエ、ジャズダンス、モダンバレエ、フィナーレのジャズダンスで幕となる。全体的に身体能力が高く、コンビネーションも良い104期なのだが、あえて言えば、バレエの能力が頭一つ抜けていた粟井美羽さんの今後が楽しみである。

 

 その他、全体を通して目についたのは、男役の身体が出来上がっていたことである。かつてはまだまだ男役の身体の太さが目立つ文化祭だが、身長が高くなっているせいなのか、スラっとしたすぐに使えそうな生徒が目立った。歌のレベルが上がり、身体能力も高く、全体的にできる生徒が多い104期。もちろん、何でも素晴らしい出来である首席の越智さんや、歌の村上さん、バレエの粟井さん、日舞の小島さん、さらには星組トップ娘役、綺咲愛里の妹の三徳さんなどがこの104期を引っ張っていくことになるのだろうが、卒業して組配属されればその差はわずか。少しも早く各組の戦力になり、劇団やファンの期待に応えられる生徒になってもらいたいものである。

 

 4月27日から6月4日の星組での初舞台ロケットが今から楽しみである。

 

なお、今年もCS放送「タカラヅカスカイステージ」での放送が4月に予定されているので、加入されているファンの方は未来のスターの姿を是非、その目で確認していただきたい。ただ、その場合も名前の確認ができないので、文化祭のプログラムを購入し、その上でご覧になることをお勧めする。

 

 ©宝塚歌劇支局プラス2月19日記 永岡俊哉

 


歴代トップ勢ぞろい!宙組誕生20周年記念イベント、宝塚大劇場で開催

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歴代トップ勢ぞろい!宙組誕生20周年記念イベント、宝塚大劇場で開催

 

姿月あさとから真風涼帆まで、宙組歴代トップスターが勢ぞろいして「宙組誕生20周年記念イベント」(岡田敬二構成、演出)が、19日、宝塚大劇場で開催された。今回は、立ち見も売り切れ、立錐の余地もない超満員の熱気の中行われたこのイベントの模様をお伝えしよう。

 

 花、月、雪、星に続く5組目となった宙組は、東京宝塚劇場の新装開場を視野に1998年1月に誕生し、香港公演を経て、同年3月宝塚大劇場公演「エクスカリバー」(小池修一郎作、演出)と「シトラスの風」(岡田敬二作、演出)で華々しくお披露目された。以来20年、初代トップスター、姿月あさとから数えて8代目の新トップ、真風涼帆の大劇場披露を兼ねての記念イベントには歴代トップが勢ぞろい、客席には初代組長の大峯麻友や二代目の出雲綾のほか宙組OGたちの姿もみえ、なんともゴージャスな雰囲気が漂った。

 

 司会は宙組誕生時からの生え抜きである組長の寿つかさと副組長の美風舞良の二人。まずは宙組誕生の記者会見の模様からこの20年の主な作品の数々の名場面をまとめた映像が披露され、続いて二人の絶妙の司会で歴代トップの紹介から。トップバッターは昨年11月19日に退団したばかりの朝夏まなとの登場。朝夏は「退団三カ月の記念日に再び大劇場の舞台に立てて幸せです」とあいさつ。「王妃の館」と「神々の土地」の映像をみながら、「昨年の今頃、ちょうど大劇場に出てました。楽しかった」と思い出話に花が咲く。

 

続いて登場したのはゴールドずくめの凰稀かなめ。「風と共に去りぬ」と「ベルサイユのばら」オスカル編の映像が流れ、「風―」ではもみあげにこだわったこと、「ベルばら」は「この時はもう退団が決まっていて、まだ発表していなかったのですが、新曲の歌詞が私の気持ちにぴったりで、毎回歌うたびに感慨深かった」と今だから話せるエピソードを披露、「退団してちょうど3年目。宝塚を代表する大作に出演することが出来て幸せでした」と振り返った。

 

大空ゆうひ(祐飛)は「カサブランカ」。「大劇場でのお披露目で、私にとっては宙組全員とは初めましての公演だったのですが、メンバーが温かく迎えてくださって、本当にうれしかった」と改めて感謝の言葉。映画の名セリフ「君の瞳に乾杯」をいかに舞台の台詞として成立させるかを演出の小池修一郎氏と考えぬき「成立させました!」と話して大きな拍手を浴びていた。

 

ロングヘアをなびかせ純白のパンツルックで登場、思わず会場からため息がもれたのは大和悠河。サヨナラ公演の「薔薇の降る雨」と披露公演「宙FANTASISTA」の映像を見ながらの思い出話は、まずはキスの回数。「薔薇―」では陽月華と8回のキスシーンがあり、そのすべてを映像で披露、会場がおおいに沸いた。「宙―」では、寿と美風もカウントを手伝ってオープニングの大きな卵の中から飛び出すシーンを再現、明るい笑いに包まれた。目を手でかざして場内を眺め「大劇場、やっぱり広いですね」と久々の大劇場を満喫していた。

 

貴城けいは、博多座での披露公演「コパカバーナ」とドラマシティでのコンサートの映像が流れたが。「久しぶりに大劇場の舞台に立つとライトがまぶしいですね」と大劇場の照明の明るさを改めて実感していた。

 

「NEVER SAY GOODBYE」と「ファントム」の映像が流れたのは和央ようか。夫君のフランク・ワイルドホーンとの出会いとなった「NEVER―」は「思い出がありすぎて何から話していいか」と言いながら、まずは客席のワイルドホーン氏を紹介。「ファントム」では、「表情をどうするか、仮面をどうするかいろいろは話し合い、私がブルーの仮面がいいと言ったら、クリスタルの素敵な仮面を作ってくださって感激しました」と裏方の愛に感謝の言葉。

 

最後に登場したのは初代トップ、姿月あさと。寿、美風と抱き合って対面。「エクスカリバー」「シトラスの風」や「激情」の映像を見ながら、宙組立ち上げの苦労話に花が咲いた。「考えるよりとにかく行動だった。みんな汗だくで頑張りました」と無我夢中で突っ走った当時を振り返り、「シトラス―」で汗だくで踊る和央をみつけて「たかちゃん、やっぱり汗かいてる」に大笑い。「明日へのエナジー」の場面では、「本当にしんどかったけれど、名場面として今も何度も再演されていると聞いて、必死にやってよかったと思う」と初演の苦労が報われたことを喜んだ。

 

歴代トップ7人がそろったところで、新トップの真風と星風まどかが、宙組誕生の記者会見で書道家の望月美佐氏が書いた「宙」のパネルとともにが登場、姿月が、「組の名前は私たちも知らなかったので、最初の一画を見て、噂されていた”虹”ではないと分かったのですが、真横にいたので“宙”という字が“虎”にみえて“トラ”!」とみんなで顔を見合わせ「あとで“宙”と聞いてトラでなくてよかった」と胸をなでおろしたという話には満場大爆笑だった。7人がもういちどあいさつして真風の「これからの宙組をよろしく」の言葉で、トークコーナーは終了。

 

続く歌唱披露は、「シトラスの風」から「夢・アモール」を姿月、和央、真風というスペシャルバージョンで、引き続き「明日へのエナジー」は姿月を中心に、真風、星風のほか芹香斗亜、愛月ひかるら現役宙組生全員が燕尾服とドレス姿で共演、姿月の豊かな歌声が久々に大劇場に響き渡った。最後は「シトラスの風」をゲストも含めて全員で合唱、記念イベントを華やかに締めくくった。姿月は3月16日から始まる真風、星風の新生宙組公演「シトラスの風」の「明日へのエナジー」の場面などのアドバイザーとして稽古に立ち会い、宙組の後輩の指導に当たっているそうで「岡田先生の隣で指導に当たる自分が不思議な感覚」と言いながら「宙組が少しでもいい舞台をお見せできれば」と初代トップの責任感をうかがわせながら意気込んでいた。歴代トップたちの大きな愛に包まれた新生宙組メンバーのこれからの舞台が楽しみだ。

 

©宝塚歌劇支局プラス2月20日記 薮下哲司

 

 

「おとなスタイル」最終号に宝塚特集! 小林一三を描いた「マルーンの長いみち」上演

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「おとなスタイル」最終号に宝塚歌劇入門編が特集!若き日の小林一三を描いた「マルーンの長いみち」上演

 

“新50代からの私の「ヒトハナ」咲かせます”をキャッチフレーズに50代の女性をメーンターゲットにさまざまな生活情報を発信してきた雑誌「おとなスタイル」(講談社刊)最終刊となった2018年春号(2月24日発売)の好評連載シリーズ「おとなデビュー!」で宝塚歌劇を取りあげ「おとなが味わう「宝塚」入門」として6ページにわたって特集した。

 

編集長の原田美和子さんが熱心な宝塚ファンで、休刊にあたり自分が大好きな宝塚の魅力を、まだみたことのない50代の女性に説きたいというのがメーンテーマ。50代の女性というところに歯ごたえがあるうえ、原田さんの注文は、初心者が読んでもコアな宝塚ファンが読んでも納得のいくものをというハードルの高いもの。

 

50代まで宝塚を知らずに過ごしてきた女性は、知らず知らずの間に宝塚拒否症になっていて、宝塚という文字を見るだけでページを飛ばすのが常。逆に、宝塚ファンの女性は、宝塚という文字をみるだけで、何が書いてあるか吸い寄せられるように熟読する。それが少しでも間違っていたり、ピントが外れていたりするともう大変。その一番難しい両者双方ともに満足できる宝塚特集。これはなかなかの難題だ。

 

原田編集長は、わが「宝塚歌劇支局プラス」の熱心な読者で、そんな特集原稿を私にと白羽の矢。編集長には編集長なりの宝塚に対する美意識とこだわりがあり、そこを忖度しながら完成したのが今回の特集。

 

「宝塚の魅力」「スター」「美学」「作品」「演出家」「こだわり」の5つのパートに分けてたっぷり6ページ、初心者もファンも納得できたかどうかは読者の判断におまかせするとして、100周年後のこれからの宝塚を考えるうえでまずまず読み応えのある特集になったと思う。編集長のこだわりがぎっしりつまった「おとなスタイル」最終号には、ほかにも元タカラジェンヌでボイストレーナーの楊淑美さんの「お気に入り白シャツ」や女優、草笛光子さんのロングインタビュー「大人の条件」などが所収され税込み820円。全国書店で好評発売中。

 

さて、その宝塚歌劇の創始者である小林一三氏の没後60年を記念、若き日の小林氏の夢と挑戦を描いた兵庫県立ピッコロ劇団題60回公演「マルーンの長いみち」~小林一三物語~(古川貴義作、マキノノゾミ演出)が、23日から25日まで兵庫県立芸術文化センター阪急中ホールで上演された。

 

小林一三役に瀬川亮、妻コウ役に平井久美子のほかに元宝塚雪組トップの平みちが与謝野晶子役で特別出演。小林氏が、新しい証券会社に転職するため東京の三井銀行を退職して家族と共に大阪にやってきた20代後半から、さまざまな苦労の末、阪急電鉄の立ち上げに成功するまでの10数年を、愛妻コウとの夫婦愛を絡めて描いている。小林氏の立志伝はこれまでにも数々のドラマやドキュメンタリーで取りあげられてきたが、阪急電鉄の立ち上げだけに絞り、これに夫婦愛をからめたことで、小林氏の破天荒でありながら愛すべき人間像が、くっきりとうかびあがり、魅力ある人間ドラマとして成立した。なかでも夫婦に大きな影響を与える北浜銀行頭取、岩下清周と小林家のお手伝いのかよ、そして進行役の酒屋、小西新右衛門といった周囲の登場人物が生き生きとしていて舞台が弾んだ。

 

一方、小林氏が、長年つきあっている芸者の恋人コウがいながら別の女性と見合い結婚、結局、その結婚を破棄してコウと再婚するという、これまであまりふれられなかった家族や女性関係にも言及、宝塚歌劇を生み出した小林氏の女性観を巧みにあぶりだした。家族第一で女性に敬意を払うものの、日本古来の男性優位は譲らないという明治の男性の価値観に固まった小林氏が描いた宝塚少女歌劇像とは何だったのか。阪急や歌劇団が協力していない公演だからこそできる問いかけが興味深かった。

 

破天荒ながら憎めない個性の小林を瀬川がいかにもそれらしく演じて適役だったほか、そんな小林をサポートする岩下役の若杉宏二、小林家のお手伝いでこの舞台のキーマン的存在のかよ役の今井佐知子の好演が光った。妻コウ役の平井も堅実。与謝野晶子役で特別出演した平は、黒燕尾で「モン・パリ」を歌う場面から登場、晶子役では華やかな明治の女性の雰囲気を自然にかもしだした。

 

©宝塚歌劇支局プラス2月25日記 薮下哲司

風間柚乃 さわやか初主演!月組公演「カンパニー」新人公演

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   新人公演プログラムより

 

 

風間柚乃 さわやか初主演!月組公演「カンパニー」新人公演

 

月組公演、ミュージカル・プレイ「カンパニー」~努力、情熱、そして仲間たち~(石田昌也脚本、演出)新人公演(栗田優香担当)が、2月27日、宝塚大劇場で行われた。

 

今回、伊吹有喜氏の同名小説を舞台化した「カンパニー」は、現代の東京、製薬会社に勤めるサラリーマン青柳が、社長の娘がプリマを務めるバレエ団に出向を命じられ、会社が後援する公演を成功に導く為に奮闘するというストーリーで、サラリーマン社会やバレエ界の内情を描きながら淡いラブストーリーもまじえた宝塚には珍しい小市民劇。劇中劇として「白鳥の湖」バレエシーンがふんだんに登場するものの、ストーリー部分には現実的な会話がポンポン出てきて「夢を見に来ているのに現実に引き戻される」とか、説明がくどいとか、トップスターに背広姿はまだしも空手着や浴衣姿を着せるなんて言語道断とか、宝塚に夢を求める向きからはけちょんけちょん、半面、現実味のある内容からほんわかした夢と希望をくみとったファンからは予想以上の評判ともなっている。

 

ゼロか100か、見る側の評価が真っ二つに分かれた異色作となったが、初日の公演評にも書いたとおり、青年の夢と現実のギャップを分かりやすく、挫折から前向きにたちあがる様子がさわやかに描かれていてすこぶる後味がいい。それは、新人公演を見ても改めて同じだった。脇坂部長が左遷されるのが沖縄だったり、バレエダンサーとラーメン屋の主人のこだわりを一緒くたにしたり、無神経で大雑把なのが気になり、そのあたりが許せない人も確かにいるだろう。しかし、ベースは体育会系の真っ直ぐで心優しい青年の話である。

 

新人公演で青柳を演じたのは風間柚乃。100期生の期待のホープだ。昨年「グランドホテル」新人公演でオットー(本役・美弥るりか)に大抜てきされ、その丁寧で見事な演技で驚かされた逸材だ。「All for One」では本公演で物語の鍵を握るキーパーソン役、新人公演では月城かなとが演じた悪役を楽しげに演じた。そして、今回、満を持しての初主演となった。本役の珠城りょうに比べて小柄で、やや迫力に欠けるが、どこにでもいる現代青年を自然体で表現、一見、易しそうにみえて難しいこの役を完全に自分のものにしていた。ちょっとした仕草にすでに男役としてのスターオーラがあり、その細やかな演技は天性の資質というほかない。歌唱もオープニングの銀橋のソロの出だしはやや緊張気味だったが、徐々に余裕が出た。空手の達人という設定なので、普段の動作にもう少し大きさと鋭さがあってもいいと思ったが、それはまた次回の課題にしてほしい。

 

相手役のバレエダンサー、美波(愛希れいか)は美園さくら。二度目の新人公演ヒロインだが、どちらかというと古典的な役柄が似合う美園にとって、今回のような庶民的な雰囲気の役はかなりハードルが高いのではないかと思ったが、細やかな演技で好演だった。お祭りの場面での「東京五輪音頭」は美園の声質に合わない歌を無理に歌っている感じで、これは本人のせいではなくちょっとかわいそうだった。

 

世界的プリンシパル、高野(美弥るりか)は輝生かなで。バウ公演「Arkadia」での好演が記憶に新しいが、今回も地に足の着いた演技で、実力をいかんなく発揮。ダンス巧者でもありバレエシーンも安心してみていられた。

 

月城かなとが演じた水上役は、今回初めて大役に起用された彩音星凪(あやと・せな)。バーバリアンメンバーのボーカルで、茶髪がよく似合い、ダンスの切れ味も良く、演技もさわやかで要注目。101期生期待のホープだ。

 

男役から娘役に転向、第一回公演となった天紫珠李は早乙女わかばが演じた社長の娘、紗良役に起用され、その整った顔立ちと、男役出身らしい前に出る芝居で、存在感をアピール。バレエシーンでもオデットを優雅に踊るなど、この時期での男役から娘役への転向は賢明な選択だったようだ。今後の活躍をさらに期待したい。

 

ほかに瑞穂役(京三紗)の妃純凛、乃亜(憧花ゆりの)の麗泉里らも達者な演技で笑わせ、月組演技陣の層の厚さを見せつけた。

 

男役ではほかに蒼太(暁千星)の礼華はるが、ダンスシーンも含めて弾んだ演技で目を引いたが、青柳の同僚、山田役(輝月ゆうま)の一星慧(いっせい・けい)の一つ頭抜けた長身と美形ぶりがひときわ目立っていた。

 

暁千星は、青柳を左遷する上司の脇坂部長役(光月るう)で出演。長としての挨拶もしたが、「Arkadia」で少年役を好演、本公演でも蒼太役をはつらつと演じているが、いつの間にか、大人の役も似合うようになり、感慨深いものがあった。

 

普通の話を普通に見せないといけない難しい芝居だが、風間をはじめ月組は演技巧者ぞろいで見事にクリア、その層の厚さをまざまざとみせてくれた新人公演だった。風間は、終演後のあいさつも「役を生きることの難しさを改めて実感しました」などと非常にしっかりとしたもので、今後の活躍に目が離せなくなりそうだ。

 

©宝塚歌劇支局プラス3月1日記 薮下哲司

 

20周年の宙組、真風涼帆、星風まどかの新コンビ大劇場お披露目公演 始まる

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   ©宝塚歌劇団

 

宙組誕生20周年記念公演で、真風涼帆、星風まどかの新コンビ披露公演、宙組公演、ミュージカル・オリエント「天(そら)は赤い河のほとり」(小柳奈穂子脚本、演出)とロマンチック・レビュー「シトラスの風―Sunrise―」(岡田敬二作、演出)が16日、宝塚大劇場で開幕した。今回はこの模様をお伝えしよう。

 

「天―」は、小学館発行の「少女コミック」に1995年から2002年まで連載された篠原千絵氏原作の同名漫画をミュージカル化した新作。紀元前14世紀、古代オリエントのヒッタイト帝国(現在のトルコ中央部)を舞台に繰り広げられる歴史ファンタジーだ。コスチュームプレイが似合う真風と清楚ななかにも現代的感覚もある美少女、星風にとってはうってつけの題材で二人とも適役好演。お披露目公演としては大成功だったが、いかんせん全28巻の長編を1時間40分にまとめているので、波乱万丈のストーリーにもかかわらずエピソードの羅列に終始、駆け足すぎてやや上滑り気味、後半にむけてのうねるような盛り上がり感にとぼしい。長編漫画をパラパラめくりながら読んでいる感覚だ。さすがの小柳マジックも今回ばかりは不発気味だった。

 

舞台は、現代トルコの遺跡発掘現場。遺跡からヒッタイト帝国のムルシリ2世(真風涼帆)とその皇妃ユーリ・イシュタル(星風まどか)に関する粘土板が発見され考古学者たちが沸いている場面から始まる。粘土板に書き記したのは王の従者だったキックリ(凛城きら)。舞台は一転して古代ヒッタイトにタイムスリップ、芹香斗亜、愛月ひかるらのあと最後に豪華な古代衣装に身を包んだ真風が登場すると満員の客席からは大きな拍手が起こる。新トップお披露目にふさわしい晴れやかなオープニングだ。主題歌による総踊りが一段落するとキックリが進行役となって時代背景を説明、物語が進んでいく。

 

 

優れた才能で世継ぎと目される第三皇子カイル(真風)は、暁の明星輝くある日、宮殿の庭にある泉から突然現れたユーリこと現代の女子高生、鈴木夕梨(星風)と運命の出会いをする。実子に皇位を継がすため、他の皇子を亡き者にしようと画策する皇妃ナキア(純矢ちとせ)が、いけにえにするために現代から呼び寄せた少女で、それを知ったカイルは、ユーリの身を守るために側室としてかたわらに置くことにする。

 

現代的な感覚で物事をとらえ、運動神経抜群のユーリは、古代の人々の心をつかみ、戦いの女神イシュタルとして崇拝されるようになる。そんなユーリをいつしか深く愛するようになったカイルは、彼女を正妃に迎え、理想とする国づくりに邁進したいと考え、ユーリもまたカイルとともに生きることを願う。というのがストーリーの本筋。

 

このカイルとユーリのラブストーリーを縦軸に、ユーリが望む現代への帰還、隣国のミタンニやエジプトとの武力対立、そして皇妃ナキアの陰謀など2人の前にたちはだかるさまざまな障壁を横軸に物語は複雑に交錯していく。

 

舞台はとにかく展開がスピーディー。登場人物の名前や地名など聞きなれない語感のものが多いうえ、台詞の情報量が多いので、スターにみとれているとストーリーから置いてきぼりになりかねない。現代からタイムスリップした少女と古代の皇子が通訳なしで話せたり、敵対していたはずのミタンニ国のマッティワザ(愛月ひかる)がいつのまにか味方になっていたり(説明はあるのだがほとんどの人が聞き逃していた)、突っ込みどころ満載、その辺でひっかかると先に進めなくなる。もしそうなったら、いっそのこと真風と星風だけを見て、詳しいストーリーは気にしない方が賢明かも。紆余曲折の上、ハッピーエンドになる時代を超えた壮大なラブストーリーを黙って思いきり楽しみたい。

 

カイルに扮する真風は、もともと軍服が似合う典型的な宝塚の貴公子タイプだが、それだけにこだわらない現代的なセンスもあり、古代の皇子とはいうものの漫画チックで軽い感じがうまくはまった。もちろん華やかな古代衣装はその美貌をさらに引き立たせ、センターオーラはひときわ大きく輝いた。下村陽子作曲の主題歌も真風の音域にあっていて心地よく聞くことができた。

 

相手役の星風は、舞台人としての天性の資質を持つ実力派。早くからバウ公演や新人公演のさまざまなヒロインを演じてきたが、今回は古代にタイムスリップした現代の高校生というこれまでにない新しいキャラクター。活動的なミニの古代衣装で、立ち回りもふんだんにあり、まるで漫画から抜け出してきたよう。敵国のエジプトの武将ラムセス(芹香斗亜)からも好意をよせられるなど古代の人々すべてを魅了するにふさわしい前向きの明るさがよく伝わる好演だった。

 

そのエジプトの武将ラムセスを演じた芹香は、これが大劇場での宙組お披露目公演。「WEST SIDE STORY」のベルナルド役の時はそうも感じなかったのだが、今回はエジプト軍の軍服が映え、見違えるばかりの堂々たる見事な二番手ぶりでその存在感の大きさに圧倒された。真風とは敵国ながらどちらも一目置く存在で、ライバル的な関係。一見、チャラチャラしているように見えながら、体育会系の一本芯が通ったものを持ちあわせた男気のあるタイプを少ない出番で巧みに表現した。花組時代とは違う新たな芹香を見た思いだ。

 

同じ敵国ミタンニの黒太子マッティワザに扮したのは愛月。「不滅の棘」の白づくめから今回は黒づくめへの変身で、冷酷無比で残忍な人物。このなかでは一番、漫画的であり、ヒールなおいしい役どころなのだが、なにせダイジェストなので、回想シーンとかで過去の説明はあるものの深く描かれるところまではいかず、ユーリとの戦いで彼女に心酔して味方に付くあたりもやや説明不足だった。とはいえ「神々の土地」のラスプーチンの余韻もあって役そのものもオーバーラップして、個性的な役を楽しんで演じていた。

 

あと主要な役では途中で死んでしまうカイルの義弟ザナンザに扮した桜木みなと。実在の人物であるエジプトの王太后ネフェルティティの澄輝さやとが印象的。澄輝は初の娘役への挑戦で金色に輝く豪華な衣装に身をまとい、なかなかの存在感だった。

 

和希そら、留依蒔世、瑠風輝の期待の男役3人は、カイルの守護隊メンバー。最後にカイルを裏切る瑠風が異色の役どころ。大抜擢はカイルの罪をかぶって死ぬ使用人の少年ティトに扮した愛海(まなみ)ひかる。愛くるしい笑顔とすがすがしい演技で印象に残った。

 

今回が退団公演となる専科の星条海斗は皇妃ナキアを慕う神官ウルヒ。白衣に長いブロンドの髪は漫画から抜け出てきたそのままのイメージだが、辛い過去を持つ控えめで静かな役、台詞のトーンも抑え気味で、星条としては最後に新生面開拓といったところ。

 

古代のロマンのあとは宙組誕生20周年を記念したロマンチック・レビュー「シトラスの風-Sunrise-」。1998年4月、宙組第一回公演のレビューのリニューアルバージョン。2014年2月、中日劇場公演とその後全国ツアーでも上演されており、今回、晴れて大劇場での再演となった。

 

 

続く、懐かしいハリウッドミュージカルを彷彿させる「ステートフェア」の場面のあとの「Soul Spirit」(謝珠栄振付)が今回の新ナンバーのひとつで、かつてのダンスの名手、Mrボ―ジャングルに扮した寿つかさがいい味を見せた。続く「アマポーラ」が星条の銀橋ソロから中詰めの総踊りまで続くビッグナンバー。一曲をさまざまなテンポにアレンジして繋げていく力業が岡田氏ならではで、圧倒的な迫力を生んだ。

 

場面は一転、19世紀のシチリア。星風のアリアとともにイタリアオペラの世界に。軍服姿もりりしい真風、芹香が星風をめぐっての恋のさやあて。ショー定番の場面がオペラの名曲をバックに絢爛たる舞踏会で展開されるとなんだか品格が感じられるのが不思議。

 

ロケットのあとがいよいよ「明日へのエナジー」。初演以来、この場面だけ抜粋して上演されることもあるショーの名場面で、振付は謝珠栄。ゴスペルの魂を熱い歌とダンスで表現したもので、ベルリン公演ではこの場面が終ったあと満員の客席が総立ちの拍手を送った。

今回は初演で歌った姿月あさとが直々に振付指導に当たったが、そのせいか全員にいい意味での緊張感が生まれ、さらに見ごたえのある場面に仕上がっていた。

 

 続いて退団公演の星条のための銀橋ソロがあり、真風、星風新トップのための「Sunrise」へと続き、デュエットダンス、総踊りと発展、フィナーレのパレードとなった。

 

真風は「宙組20周年という記念公演でお披露目をさせて頂くことができる幸せと共に大きな責任も感じています。これからも宙組をよろしくお願いします」などと挨拶。鳴りやまない拍手に何度もカーテンコールがあり、総立ちの客席に「この景色を忘れず、これからも精進します」と丁寧にお辞儀をしていたのが印象的だった。

 

©宝塚歌劇支局プラス3月17日記 薮下哲司

 

OSKが桐生麻耶主演でミュージカル「巴里のアメリカ人」上演

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©OSK日本歌劇団

 

OSKが桐生麻耶主演でミュージカル「巴里のアメリカ人」上演

 

OSK日本歌劇団が、桐生麻耶主演で同名ミュージカル映画を舞台化した「巴里のアメリカ人」(上島雪夫演出、振付)が、17日、大阪・大丸心斎橋劇劇場で開幕した。

 

「巴里のアメリカ人」は、MGMの大物プロデューサー、アーサー・フリードが1951年に制作したミュージカル映画の大作。ダンスの名手、ジーン・ケリーが主演、ビンセント・ミネリ監督のこの作品はその年のアカデミー賞作品賞など6部門を受賞。「欲望という名の電車」や「陽のあたる場所」「アフリカの女王」など名だたる名作を退けての受賞だった。

 

2014年にパリ発の舞台ミュージカルとしてリニューアル、翌年にはブロードウェーで上演され、このバージョンは来年、劇団四季が上演することを発表している。今回の舞台は、それとは関係なく、映画をもとにOSKが独自に舞台化したオリジナルバージョン。OSKがミュージカル映画を翻案上演するのは長い歴史の中でも今回が初めてだが、これが素晴らしい出来栄えで、OSKのレベルの高さを改めて証明した形となった。

 

舞台はほぼオリジナルの映画通りの展開。第二次世界大戦でヨーロッパ戦線に参戦したアメリカ人青年ジェリー(桐生麻耶)は、終戦後そのままパリに残り、画家として生計をたてようとしていた。ジェリーは親友のピアニスト、アダム(華月奏)やボードビリアンのアンリ(真麻里都)らとパリでの生活を謳歌していたが、彼の絵を気にいった金持ちの未亡人ミロ(朝香櫻子)に誘われて行ったジャズクラブでリズ(城月れい)に一目ぼれしてしまう。リズは実は親友アンリのフィアンセだった。パリに住むアメリカ人青年とフランス娘のラブストーリーをジョージ・ガーシュインの名曲をちりばめて展開するクラシックなミュージカルだ。

 

「アイ・ガット・リズム」「ス・ワンダフル」「エンブレーサブル・ユー」などなど次から次へと耳馴染みの名曲が流れるだけでも楽しいが、それを歌う桐生や真麻らの歌声が耳に心地よく、城月のエレガントなダンスに見惚れてしまう。たった13人の出演者でこれだけの充実感のある舞台はなかなかない。上島雪夫氏のOSK作品は「ロミオとジュリエット」も力作だったが、肩の力を抜きながらも細部まできっちりと作り上げ、本来のミュージカルの楽しさを満喫させてくれた。

 

松竹座や新橋演舞場など松竹の公演は和洋のレビュー作品しか上演がなく、ミュージカル作品は小劇場での公演だけなので、芝居の実力を発揮する機会がなかったが、どこから見ても男性にしか見えない桐生の男役演技は、いまや洗練の極致にまで達し、宝塚の轟悠と双璧といっていいだろう。相手役の城月は卓越したダンサーで、OSKの愛希れいかといえば分かりやすい。その優雅な身のこなしは絶品だ。アンリ役の真麻のなめらかな歌声の心地よさも思わず聞き惚れるほど。そして、全員芝居も出来るのでどこにでもあるような三角関係のストーリーがなんとも切なく感じられた。クライマックスの10分間にわたる有名な大ダンスナンバーも少ない人数で華やかに展開、後味爽やかなミュージカルに仕上がった。来年の劇団四季版の公演前にミュージカルファンにはぜひ見ておいてほしい舞台だ。

 

©宝塚歌劇支局プラス3月18日記 薮下哲司

 

 

望海風斗、土方歳三に挑戦、雪組全国ツアー公演「誠の群像」開幕

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望海風斗、土方歳三に挑戦、雪組全国ツアー公演「誠の群像」開幕

 

望海風斗を中心とした雪組全国ツアー公演、幕末ロマン「誠の群像」―新選組流亡記―(石田昌也脚本、演出)とレヴュー・スぺクタキュラー「SUPER VOYAGER!」~希望の海へ~(野口幸作作、演出)が、23日、大阪・梅田芸術劇場メインホールから開幕した。今回はこの公演の初日の模様をお伝えしよう。

 

「誠―」は、司馬遼太郎原作でテレビシリーズ化もされた人気小説「燃えよ剣」「新選組血風録」をもとに幕末の京都を舞台に新選組の副長、土方歳三の激しい生き様を描いた時代劇ミュージカル。1997年、麻路さきを中心とした星組で初演され、以来21年ぶりの再演となった。

 

規律を守れない者は容赦なく切腹、粛清という土方の新選組副長としてのハードな言動とは裏腹に、花や俳句を好み、武家娘お小夜への切ない思いといった、人間土方の優しい一面も巧みに描き出し、宝塚的な男のロマンとして非常によくできた作品だ。新選組のために鬼となって生きる土方を表現したダイナミックな名場面“鬼”のダンス(藍エリナ振付)の迫力も健在だった。今でこそ日本物にもダンスシーンはちょくちょくあるが、それまでは日本物にこのような激しいダンスはなく、これが先駆的なもの、今見ても新鮮だった。一方、初演にあった彩輝直が演じた美貌の新選組隊士、加納惣三郎と夏美ようが扮した田代彪蔵のラブシーンがカットされたが、これはもともとなくてもいいシーンだったので、かえってすっきりした。明治維新150年を記念しての再演というが、望海のよく通る歌声とともに初演に優るとも劣らない充実した再演になったと言っていいだろう。

 

望海は、近藤勇の右腕として数々の事件で勇名をはせ、新選組内では規律に背いたものには切腹を命令、剣豪ぞろいの隊士たちから鬼の副長と恐れられた土方を、端正ななかにも鋭い眼光で演じ抜き、幕末に生きた最後の侍の心意気を巧みに表現。それはラストシーンで壮絶な滅びの美学にまで到達。それだけに、武家娘、お小夜に対する不器用な愛の表現が際立って、何に対しても真剣で不器用で妥協が出来ない男の真っ直ぐな純情が浮かび上がった。ファン時代にこの作品を観劇して以来ずっと思い入れがあったという望海の思いが一つの結晶になった感じだ。

 

相手役のお小夜に扮した真彩希帆は、武家娘の控えめな品格をうまく表現、持ち前の歌唱力は健在で、薄幸のヒロインを好演。久々の再会で、土方への恋心を吐露する場面が見せ場だが、その切ない雰囲気が際立った。

新選組総長、山南敬助と幕府海軍総裁、榎本武揚の二役を演じたのは彩風咲奈。初演でも稔幸が二役で演じたが、土方らのやり方に疑問を持ち新選組を去り、結局は切腹して果てる山南があまりに印象的でいい役であるがゆえ、死んだあとすぐに榎本役で再登場するのはやや疑問が残ったが、彩風的にはどちらの役も堂々たる貫録。男役としての魅力の増し、すっかり二番手という立場が似合ってきたようだ。

 

新選組とは敵対する立場の勝海舟役は彩凪翔。彩凪と真彩が回想する形でこの物語が進行する形をとっており、作品の立ち位置を明確にする役でもあり、この舞台のキーパーソンだが、彩凪がそのあたりをしっかりと腰を据えてぶれずに演じて、作品の柱を支えた。

 

病弱ながら新選組の天才剣士、沖田総司には綾凰華。普段は人も殺さぬ心優しい青年だがひとたび剣を取ると一瞬にして殺人者の目に変わる、そんな沖田の二面性を綾が的確に演じた。その変わり目が激しい分、心優しい青年の部分が愛おしい。

 

主要4人の配役がうまくはまって、35人という少ない人数ながら充実した内容の公演となった。近藤勇役の奏乃はるとのおおらかさ、芹沢鴨(高松凌雲と二役)を演じた夏美の手練れの芝居と脇も適材適所。京の舞妓や大原女の華やかな群舞といった従来の日本物らしい場面とともに「鬼」の激しいダンスが強烈なアクセントになって最期まで目が離せなった。思想的な立場には関係なく幕末に生きた一人の男の激しい生き様を描き、改めて再演に値する佳作だった。

 

「SUPER―」は、昨年末から2月初めまで宝塚、東京で上演された望海風斗のトップお披露目のためのレビューの全国ツアバージョン。いきなり客席降りがあるなど、全国ツアーを意識した演出。ラインダンスのセンターが綾から潤花に変わったり、退団した沙央くらまはじめ朝美絢や永久輝せあが欠けているので、そこに煌羽レオ、綾凰華が入るなどかなりの場面で役替わりがあった。沙央が歌い、朝美が女役で踊った「風のささやき~愛の幕切れ」の場面は千風カレンが歌い、眞ノ宮るいが踊ったのが大きな変更点。大劇場では大階段に純白の紳士と淑女が勢ぞろいした「DIAMOND SHOW TIME」は、5段の階段と少人数では気勢が上がらず、全体にこぢんまりしたショーにまとまった。とはいえ望海、真彩の歌とダンスの実力は存分に堪能できるレビューで、充実した二本立てだった。

 

望海は初日終了後に「宝塚を初めて見たのが“誠の群像”で、“誠”に生きる舞台上の人物に感動、私自身に大きな影響を与えてくださった作品。そんな作品に再び出会えた幸せをかみしめて北海道の千秋楽まで精進したい」とあいさつ、大きな拍手をあびていた。

 

©宝塚歌劇支局プラス3月24日記 薮下哲司

朝美絢、桜満開、バウ単独初主演、雪組公演「義経妖狐夢幻桜」開幕

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  ©宝塚歌劇団

 

朝美絢、桜満開、バウ単独初主演、雪組公演「義経妖狐夢幻桜」開幕

 

月組から雪組に組替えになり、一気に人気に火が付いた感じの朝美絢が単独初主演した「義経妖狐夢幻桜(よしつねようこむげんざくら)」(谷貴矢作、演出)が、花の道が例年より早く桜満開になった29日、宝塚バウホールで開幕した。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。

 

「義経-」は、源義経と兄、源頼朝の確執をベースにした歌舞伎の名作「義経千本桜」に登場する狐をモチーフにしながら日本古来の民話の要素を巧みに織り込み独自に展開した和風ロックファンタジー。花組公演「アイラブ・アインシュタイン」でアンドロイドが世界を蹂躙する一風変わったSFファンタジーを構築した谷氏らしい異色作だ。

 

宝塚と義経というと義経=ジンギスカン伝説を舞台化した大作「この恋は雲の涯まで」が代表的だが、今回は谷氏が朝美主演の舞台を任されるにあたって真っ先に義経が浮かんだということから朝美=義経のイメージから先行した企画。朝美の現代的な個性に合わせ、義経はヨシツネとカタカナで、しかも場所は日本によく似た国の中世と言う設定、ロックミュージカルとしての登場となった。

 

緞帳が上がると、真っ暗なステージに朝美ヨシツネが板付で登場。ピンスポットが当たった朝美はセンターオーラで輝くばかり。ポスター通りのヘアスタイルと衣装、紺色の袖口が印象的だ。台詞から歌に入ると、舞台は一転して明るくなり、登場人物全員勢ぞろいのプロローグに。登場人物一人一人がユニークなメイクや衣装で、舞台はこのあたりからもう摩訶不思議な世界観が漂う。

 

ヨシツネ(朝美)は平家を打ち破った英雄だが、その存在に危機を感じた兄ヨリトモ(永久輝せあ)によって追われる身。あてどない逃避行のある日、ツネ(星南のぞみ)という少女と出会い、彼女に案内されるままに近くの村に導かれる。そこは深い雪と不思議な香りに包まれた現実離れしたところだった。案内してくれたツネの姿はなく、村人も狐につままれたのでないかという始末。そうこうするうちにヨリトモが村に近づいたとの知らせ、ヨシツネは村を出ようとするが雪に惑わされて村を出られない。一方、ヨリトモの前にもツネが現れ、村を指し示すが、こちらもいつまでたっても村にたどりつけない。不思議な香りの正体は…。この村は誰が何のために作り上げたのか、謎は深まるばかりだった。とまあ発端はこんな感じで展開していく。

 

ストーリーをなぞっていくと、なかなか面白いのだが、舞台装置がシンプルで物語の世界観に合わず、台詞が理詰めで、しかも口調が現代的なこともあって、現実味が勝ちすぎてファンタジーという雰囲気があまりなく、かといって義経と頼朝をヨシツネとヨリトモと架空の人物に置き換えたことから現代日本に重ねあわせた硬派な視点が読み取れるかとも思ったのだがそれも感じられず、なんとも不可思議な作品だった。従来のドラマツルギーでは測れない作品なのかも。世界の果てに旅立つヨシツネを、朝美のこれからの宝塚生活になぞらえ、夢を見ることができるところは◎だった。

 

朝美は、独特のハイトーンでシャウトする歌声がなんとも魅力的で、兄に追われる身でありながら、兄の立場を理解して、それを恨みに思わないヨシツネのさわやかな心情を、生き生きと演じた。ヘアスタイル、派手な衣装がよく似合い、朝美=ヨシツネの代名詞になりそうだ。

 

ヨリトモを演じた永久輝せあは、下級生ながら貫録たっぷりの兄貴ぶり。上背もありひげをたくわえて、長いマントを翻して登場すると、思わず「NOBUNAGA」の龍真咲をほうふつとさせた。ヨシツネに対して敵役として黒い役だが、その存在感は抜群。クライマックスの朝美との果し合いも迫力満点だった。

 

謎の狐、ツネは星南のぞみ。最後までヨシツネの味方なのかどうなのか、なぜヨシツネを村に案内したのか、謎の多い少女だが、ラストでそれがすべて氷解する仕掛け。そんなツネを、時にかわいく、時に真心こめて、振り幅広く演じて好演だった。

 

ほかにヨシツネの従者ベンケイに扮した真那春人のメリハリの利いたはっきりした台詞力が舞台を締めていたことを特筆したい。この人の存在は大きい。カギを握る人物、エイサイに扮した久城あすも忘れてはならない。眼鏡と特異なメイクが強烈なインパクトだった。ヨシツネの幼馴染ヤスヒラを演じた縣千もおいしい役をしっかり決めた。専科から英真なおきがホウオウ役で出演したが、少ない出番でしっかりと脇を締めたのはさすがだった。娘役ではマサコの野々花ひまりの芸達者ぶり、シズカに扮した希良々うみの控えめな演技が印象的だった。

 

©宝塚歌劇支局プラス3月30日記 薮下哲司

 


早霧せいな、退団後初ミュージカルの抱負と近況語る

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 記者会見での一コマ(携帯で撮影のため、粗い画像になっています。)

 

早霧せいな、退団後初ミュージカルの抱負と近況語る

 

昨年7月「幕末太陽傳」を最後に退団した元雪組のトップスター、早霧せいなが、退団後の初ミュージカルとして「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」(5月19日から大阪・梅田芸術劇場シアタードラマシティ、6月1日から東京・赤坂ACTシアター)に挑戦することになり、その稽古を前に3月31日、大阪市内で会見、退団後初ミュージカルへの抱負を語った。今回はこの模様をお伝えしよう。

 

「ウーマン・オブ―」は1981年、ローレン・バコールの主演によってブロードウェーで初演されたミュージカルで、人気ニュースキャスターのヒロインが、風刺漫画家の夫との結婚生活と仕事をいかに両立させるかを描いた働く女性のための都会派ミュージカル。日本でも1982年に鳳蘭の主演で「ミズ」というタイトルで上演されている。当時の日本もかなり女性の社会進出は増えていたが、まだまだ厳しい時代で、この作品が描く内容はかなりの先取り感があり、36年たった今の方が内容的にぴったり。早霧の退団後初仕事にふさわしいミュージカルといえそうだ。

 

退団後初ミュージカルにこの作品をと聞いた時の印象としては「退団したばかりの、まだ女優という言葉にも立場にもしっくりこないころにお聞きしたので、あまり実感がなかった」といい「周囲の方にすすめられるままに」決めたという。しかし、上演台本が出来上がり「じっくり読ませて頂いてからは、ああ、これをやるのかとだんだん体に染み込んできました。でも女優という肩書にはまだ違和感があって、何かほかのいいネーミングはないですかねえ」と笑わせた。

 

ヒロインのテス・ハーディングはバリバリのニュースキャスターという設定。「その年一番活躍した女性という意味の“ウーマン・オブ・ザ・イヤー”の授賞式の場面から始まります。授賞式はドレスだと思いますが、普段はパンツスーツだったりすると思う。タイトなスカートでのダンスシーンとか踊ったことがないので、破かないようにしないと(笑)」とまずは衣装の心配から。「日本のワイドショーなどのキャスターではなく、CNNとかに出てくる戦闘的なキャスターです。自分が一番と思っている女性ですね。私はそこまでバリバリではないです(笑)」

 

テスは最初の結婚に失敗、漫画家の夫とは二度目の結婚という設定。「結婚という経験がないので、そこが問題ですが(笑)仕事と生活の両立ということでいえば、宝塚の時も結構厳しかったので、そのあたりを突き詰められたら。コメディって力仕事なんですよ。ただ台詞を言ったり歌ったりするだけではなく、もうひとつ上の部分が求められるんです。終わってからみなさんに“コメディ見たな”と思ってもらえるように頑張ります(笑)」

 

 退団して7月で丸一年になるが「もうすごい昔のことのように思える」と早霧。毎日稽古と自宅の往復でほかには何もできない毎日で「それが好きだったからやれたんです」と振り返る。退団後は「ロスになるかなあと思ったんですが、やれなかったことをやったり、見られなかった舞台を見たりして毎日が充実しています」という。ちなみにやれなかったこととは何かと思ったらキックボクシング!「在団中はけがしたらダメと思ってやらせてもらえなかったんです」とケロリ。「体を動かすことが好きなので、もちろんダンスも大好きです」という。「窓越しにしか見られなかった満開の桜を、目の前で見られる幸せ、毎日が充実しています」と目を輝かせた。

 

 女優という言葉には違和感はあるというが、「ずっと応援してくださった方たちのために、舞台、映像とか関係なく、お声がけ頂ける物いろんなことに挑戦していきたい」とこれからも前向きに活動していきたいという。

 

 久しぶりに会った早霧は、前にもまして明るく元気で、話しているとこちらまで元気をもらえる気がした。「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」でも鳳蘭とはまた違った魅力を見せてくれるに違いない。

 

©宝塚歌劇支局プラス3月31日記 薮下哲司

101期生の鷹翔千空が堂々の初主演、宙組新人公演「天は赤い河のほとり」

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    新人公演プログラムより

 

宙組期待のホープ、鷹翔千空(たかと・ちあき)が初主演したミュージカル・オリエント「天(そら)は赤い河のほとり」(小柳奈穂子脚本、演出)新人公演(町田菜花担当)が、4月3日、宝塚大劇場で行われた。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。

 

鷹翔は2015年「1789」で初舞台を踏んだ101期生。首席卒業の優等生で、175㌢の長身は宝塚の男役としては理想的。舞台度胸も満点で研2の時に「エリザベート」新人公演でルドルフに大抜擢、初の大役とは思えないしっかりとした歌とダンスで感心した覚えがある。次の「王妃の館」ではルイ14世、続く「神々の土地」はフェリックスと真風涼帆が演じた役を新人公演で演じ、いずれも華やかさの中にも地に足に着いた演技で強く印象に残った。風間柚乃とともに101期生の末恐ろしい大器と書いたのはついこの間だったような気がする。

 

その鷹翔の初めての新人公演主役が真風のトップお披露目公演でめぐってきた。「天―」は篠原千絵原作の長編漫画の舞台化で、全28巻を1時間40分あまりにまとめたダイジェスト版。新人公演も本公演とほぼ同じ展開で、紀元前14世紀のメソポタミア、ヒッタイト王国を舞台に、カイル王子と現代からタイムスリップさせられた女子高生ユーリの波乱万丈のラブストーリーが膨大な登場人物を絡めて展開する。

 

新人公演を見て改めて思うのは、登場人物がとにかく多すぎるということ。名前と関係が一回では覚えられず、しかもストーリーの展開が早いので、カギとなる重要な台詞を聞き逃すと誰が何のために何をしているのかが全く分からない状態になる。細かいことはつきつめず、古代の王子と現代からタイムスリップした少女のラブストーリーを楽しめばいいのだが、ハッピーエンドになっても見た後の気持ちが落ち着かない。そんな印象は今回の新人公演を見ても何も変わらなかった。というのは、芯のストーリーを進めるために、かなり強引な展開が随所にあり、それはないだろうと疑問が渦巻くあたりがこの脚本の最大の弱点。基本的には宝塚らしい面白くていい話なのでいっそのこと1本立ての大作にしてじっくり描けば、ここまで駆け足にはならなかっただろうと思うと悔やまれる。

 

それはさておきカイル王子に扮した鷹翔は、オープニングの登場場面から早くも貫録たっぷり。ウェーブがかかったブロンドの長髪に大きなマントがよく似合い、初主演とは思えない余裕の舞台さばき。最近のトップの新人公演を思い返してみれば珠城りょうの初主演もこんな感じだったなあと懐かしく思い出す。押し出しがあってうまくて文句のつけようがないのだが、半面、新人らしい危なっかしさが感じられない。もう出来上がっている感じがした。初体験というキスシーンも豪快で、男役と言うより実際の男性が力強く抱きしめているというパワーさえ感じさせた。もちろんそれは鷹翔の大きな武器だが、欲を言えば女性が演じる男役の微妙な柔らかいニュアンスもほしい、それが加味されれば鬼に金棒だろう。将来楽しみな逸材だ。

 

相手役のユーリは星組から組替えで宙組に編入されたばかりの天彩峰里(あまいろ・みねり)。本役の星風まどかと同期生で、雰囲気もよく似ていて、すぐにでも代役ができそう。現代の高校生がいきなり古代でここまで奔放に生きられるとは到底思えないが、そんな嘘を感じさせない天衣無縫さが天彩にあり、のびのびとした舞台姿がなんともかわいかった。

 

芹香斗亜が演じたエジプトの武将ラムセスを演じたのは優希しおん。登場シーンからその美貌が際立って客席からの視線を一身に集めた。アイメイクやブロンドのヘアスタイルがことのほかよく似合いビジュアルが洗練されているうえ、芹香直伝と思われるラムセスのやさぐれた不良っぽい雰囲気の王子役がとにかくかっこいい。歌唱が不安定なのがちょっぴりマイナス材料だったが今回の新人公演で一番のうれしい驚きだった。

 

愛月ひかるが演じた黒太子マッティワザは若翔(わかと)りつ。残忍非情な敵国の王子で黒づくめの衣装が何とも不気味。そんな濃い雰囲気をよくたたえた好演。役としては後半、味方になって戦うくだりが新人公演を見ても説明不足ではあるが、若翔の大きな動きは舞台映えがした。

 

すでに主演、ヒロイン経験のある瑠風輝はウルヒ(星条海斗)遥羽ららはネフェルティティ(澄輝さやと)にまわったが、一度センターを経験したあとで演じる脇のポジションというのは、役作りに余裕が生まれるのか、台詞にも情感がこもり、いずれも好演だった。前回の新人公演でヒロインを演じた夢白あやはユーリ付きの世話係リュイ(水音志保)を演じていた。

 

ザナンザ(桜木みなと)の真名瀬みらのさわやかな演技は想定内だが、ティト(愛海ひかる)に起用された研1の亜音有星(あのん・ゆうせい)の初々しい演技も特筆ものだった。本役で演じた愛海はカイルの部下カッシュ(和希そら)だったがその甘いマスクでひときわ目立っていた。

 

カイルの義母でヒッタイト王国の皇妃ナキア(純矢ちとせ)の華妃まいあの芝居ごころのある歌唱、カイルが地下牢で出会うハッティ族の族長タロス(風馬翔)の澄風なぎの達者な演技も公演自体のレベルを上げていたことを忘れてはならない。あと娘役トップ、星風まどかが冒頭、現代のシーンの詠美役(天瀬はつひ)でワンポイント出演、はつらつとしたところを見せていたことも付け加えておきたい。

 

©宝塚歌劇支局プラス4月4日記 薮下哲司

 

 

毎日文化センター「薮さんの宝塚歌劇講座」春季受講生募集中!

 

◎…「毎日文化センター(大阪)」では「薮さんの宝塚歌劇講座」(講師・薮下哲司)2018年春季講座(4月~9月)の受講生を随時募集中です。毎月第4水曜日の午後1時半から3時まで、大阪・西梅田の毎日新聞社3階の文化センターで、宝塚取材歴40年の薮下講師による最新の宝塚情報や公演評、時にはOGや演出家をゲストに招いてのトークなど、宝塚ファンなら聞き逃せないマル秘ネタ満載の楽しい講座です。4月は25日が開講日。お1人でもお気軽にご参加ください。コアな宝塚ファンのお仲間があなたをお待ちしています。受講料(6回分18150円)。詳細問い合わせは☎06(6346)8700同センターまで。

 

 

 

 

 

ヤン、オサ、アサ夢の競演!宝塚バウホール40周年記念公演開幕

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ヤン、オサ、アサ夢の競演!宝塚バウホール40周年記念公演開幕

 

宝塚バウホール開場40周年を記念、安寿ミラ、春野寿美礼、瀬奈じゅんとそれぞれ一時代を築いたとトップスター3人が勢ぞろいした夢のコンサート「Trois Violette(トロワ・バイオレット)」(中村一徳構成、演出)が、14日、宝塚バウホールで開幕した。今回はこの公演の初日前日に行われた舞台稽古の模様をお伝えしよう。

 

宝塚バウホールは1978年4月に、次世代を担う若手の登竜門としての実験的な作品やスターのリサイタルの開催などを目的として大劇場の入り口に建設された定員500人の中劇場。バウには船の帆先の意味がある。104年前、第一回公演が行われた宝塚パラダイス劇場の場所にあり、入り口右側に礎石が残っている。普段は素通りする人が多いが、たまには少し遠回りして宝塚の歴史を確認していただきたい。

 

そのバウホール開場40周年記念公演が、現役生ではなくOG公演というのがなぜこうなったのか、ちょっと理解に苦しむが、安寿、春野、瀬奈と元花組トリオで実現したのは、なかなか粋な計らいだった。安寿は1980年から1995年まで在団、トップ在位期間は1991年から4年。春野は1991年から2007年まで在団、トップは2002年から5年、瀬奈は1992年から2009年まで在団、トップは2005年から4年。瀬奈は月組でトップになったが、もともと花組で、安寿がトップ時代に二人が花組に1年ずれて配属されている。ということで春野と瀬奈にとって安寿は雲の上の憧れの上級生。

 

安寿は退団後、振付家として宝塚にカムバックするが、その第1作が匠ひびきのトップ披露&サヨナラ公演の「Cocktail」だったが、その時の稽古で春野と瀬奈のあまりのぐだぐださに業を煮やした安寿が「殺すぞ!」と檄を飛ばしたのだが、二人が「ヤンさんに殺されるなら本望」といって安寿をあきれさせたという有名なエピソードがあるほど。

 

今回のコンサートはそんな仲のいい上級生と下級生それぞれがお互いを立てながらも各自の才能を発揮した宝塚ならではのコンサートで、なんとも気持ちのいいステージとなった。

 

幕が開くと白地にゴールドの飾りのついたジャケットに黒のパンタロンといえうお洒落なスタイルの3人が板付で登場。バックダンサーは舞城のどか、扇けい(在団時は扇◎)愛純もえり、月央和沙の4人。安寿の「キャント・ストップ・ミュージック」を皮切りに春野、瀬奈の宝塚時代の大劇場公演のショー作品の主題歌をメドレーで歌い継ぐ。安寿は「火の鳥」春野は「エンター・ザ・レビュー」瀬奈は「アパッショナード」と懐かしいメロディー満載だ。

 

ひとしきりメドレーの後、3人のMCはバウホールの思い出話に進みバウホール開場第1作の「ホフマン物語」の主題歌を3人で、続いてそれぞれのバウ主演作の中から思い出の曲を披露。安寿は「ディーン」春野は「冬物語」瀬奈は「マノン」といった具合。当時すべてリアルタイムで見ているので懐かしさもひとしおだった。若手だった当時より歌唱が格段に素晴らしく、違う曲を聞いているようだった。

 

引き続きレッド、ゴールド、ブルーのラメのドレスに身を包んだ3人が登場。華やかに「ドリームガール」を熱唱。「ロミオとジュリエット」の「世界の王」と続けてショーは否が応でも盛り上がった。

 

ここでダンサーズ4人が3人への思いをひとしきり語った後、コンサートの目玉企画である3人のセルフプロデュースコーナー。安寿、春野、瀬奈それぞれの思い出の作品の場面を後の二人が思いがけない役でお手伝いする趣向。誰が何の役するかは見てのお楽しみだが、春野は「アプローズタカラヅカ」からギャングのシーン。瀬奈は「ME&My Girl」の「街灯によりかかって」と「アパッショナード」の一場面、安寿は2年前にグルーシンスカヤ役で出演したミュージカル「グランドホテル」から一場面を再現した。「グランドホテル」では瀬奈がバロン、春野がラファエラ。何ともゴージャスだった。

 

エンディングは3人がとっておきの歌をじっくり披露、フィナーレは「タカラヅカフォーエバー」の大合唱で締めくくった。3人とも男役を卒業してかなりの時間がたち、男役ではなくベースは女性として出演だが、いったん男役の扮装をしてポーズを作ると、一気にタイムスリップ、見事な男役がそこに現れた。しかし、在団中とは一味違ったしなやかさがあふれ、男役というより男前なかっこいい女性が勢ぞろいした感覚。しかし、それがほかの劇場で見る3人とは違って何とも魅力的だった。

 

公演は19日まで。隣接の「宝塚歌劇の殿堂」ではこのあと4月27日から8月20日まで「宝塚バウホール40周年展」がある。

 

©宝塚歌劇支局プラス4月14日記 薮下哲司

 

順みつきさんを偲ぶ

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”ミッキー”順みつきさんを偲ぶ

 

「ミッキーが亡くなったって、詳しい話は?」19日の朝、こんなメッセージがパソコンに飛び込んできました。ここ10年以上、宝塚はおろか業界関係者とも音信不通で、時々どうされているんだろうと心配していた矢先だったのですが、午後になって後輩記者から「順みつきさんが亡くなりました。胃がんだったそうです」というメールが入り、それが現実のことであることがわかりました。

 

 ミッキーこと順みつきさんと、初めて親しく話をさせてもらったのは、彼女の宝塚生活もほぼラストスパートとなった宝塚バウホールのリサイタル「I LOVE MUSICⅡ」(草野旦作、演出)の時でした。私が雑誌「宝塚グラフ」のバウホール公演評を担当させて頂いていた1982年10月ごろだったと思います。ミッキーさんは、雪組→星組→月組→花組と全組を転々とし、星組では「ベルサイユのばらⅢ」のオスカル、月組では「バレンシアの熱い花」初演のラモン、「風と共に去りぬ」初演のスカーレットと、エネルギッシュで何でもできる実力派男役スターとして独自の地位を築き、花組では松あきらとダブルトップとして活躍していましたが、松の退団公演「夜明けの序曲」には出演せず、外部のミュージカル「キャバレー」初演に主演のサリー・ボウルズ役で出演、この公演が好評で約半年ぶり、久々に宝塚に帰ってきた最初の公演でした。

 

 公演の顔寄せが、旧大劇場の隣にあった食堂「千草」(新大劇場になってからも楽屋口の左側にありました)であり、私も取材で同席していました。記者は私だけだったことから、ミッキーさんはじめ出演者のみなさん全員から大歓迎していただき、ミッキーさんが「久々の宝塚、全力で頑張ります」と目を輝かせていたのをよく覚えています。

 

 リサイタルは、さまざまなジャンルの音楽を駆使、宝塚のショーの枠を超えたプロのエンターテイメントになっていました。ところが、どういうわけか初日の客席はガラガラ、今のようにファンクラブの動員もないころで、半年間、宝塚を留守にしている間にファンはすっかりミッキーさんを忘れてしまったかのようでした。しかし、口コミで客席が徐々に埋まり、千秋楽の頃には満員御礼になったと聞き、やはりミッキーさんの実力のなせるわざだと思ったことでした。

 

 公演後、ミッキーさんが海外旅行に出かけている最中に「順みつき退団」というスクープ記事が某スポーツ紙に掲載されました。花組のトップ披露公演として「霧深くエルベのほとり」と「オペラ・トロピカル」が発表されるのと相前後してのことでした。旅行から帰って会見に応じたミッキーさんは自分の進退にかかわる記事が旅行中にでたことの無念さをにじませながら「最後まで私らしく頑張りたい」と歯を食いしばって話していた姿が忘れられません。結局披露公演がサヨナラ公演になる一公演だけの単独トップスターの先駆けとなってしまいました。

 

 「霧深く―」は、菊田一夫氏が宝塚のために書き下ろしたオリジナルで、港町ハンブルクを舞台に船乗りのカールと良家の令嬢の悲恋物語。内重のぼる、淀かほるで初演、以後再演もされた人気作で、ミッキーさんの念願の作品によるサヨナラ公演でした。熱のこもったミッキーさんのカールが印象的でした。「オペラ-」は、全場大階段を使った草野氏の伝説のレビュー。

 

 退団後、女優として再出発、その最初の公演は帝国劇場で上演された、鈴木忠志演出の前衛的な古典劇「悲劇」でした。上級生の鳳蘭との共演でしたが、鈴木メソッドによる独特のセリフを、身体全体から発するエネルギッシュな舞台はミッキーさんにぴったりで、女優デビューは強烈なインパクトを与えました。その後、在団中に出演して評判となった「キャバレー」の再演があり、映画でライザ・ミネリが演じたサリー・ボウルズは、日本ではミッキーさんの代表作となりました。

 

 代表作と言えばその後、1987年にNHK銀河テレビ小説で演じた「わが歌ブギウギ」の笠置シヅ子役も忘れられません。OSK出身で戦後退団して、ブギの女王として一大センセションを呼んだ歌姫の伝記ドラマです。「買物ブギ」などレビューシーンのダイナミックなステージングは笠置シヅ子が乗り移ったようでした。これはその後、道頓堀の中座で舞台化され、それも素晴らしいものでした。東京での上演がなかったのが不幸でした。その後、これは真琴つばさの主演で再演されています。

 

 しかし、そのころから舞台での活動は徐々に少なくなり、その後、消息が途絶えました。宝塚100周年の時に、久しぶりに会えるかなあと楽しみにしていたのですが、姿を見ることはありませんでした。同期生にも連絡を取らず、近況は不明のままでした。そんななかの突然の訃報でした。

 

 どちらかというと、在団中より退団後の方が、会う機会が多かったように思いますが、そのキラキラとした大きな瞳、いつも全身全霊、全力投球の舞台姿がいまでも目に浮かびます。

かくいう私もそんなミッキーさんに元気をもらったひとりです。ミッキーさんのダイナミックな舞台姿は永遠です。

 

©宝塚歌劇支局プラス4月21日記 薮下哲司 

紅ゆずるがGHOSTに、RAKUGO MUSICAL「ANOTHER WORLD」開幕

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紅ゆずるがGHOSTに、RAKUGO MUSICAL「ANOTHER WORLD」開幕

 

紅ゆずるを中心とした星組によるRAKUGO MUSICAL「ANOTHER WORLD」(谷正純作、演出)とタカラヅカ・ワンダーステージ「Killer Rouge(キラールージュ)」(斎藤吉正作、演出)が27日、宝塚大劇場で開幕した。今回はこの公演の初日の模様をお伝えしよう。

 

「ANOTHER―」は、桂米朝師匠がライフワークとして復元に心を砕いた古典落語の大作「地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)」はじめ「朝友(あさとも)」「死ぬなら、今」など死後の世界を舞台とした落語の設定を借りて相思相愛の恋人たちが“この世”と“あの世”を行き来しながら繰り広げる笑いに満ちた純愛騒動劇。

 

昨年、落語を原型にした映画「幕末太陽伝」の舞台化が評判を呼び、今度はいよいよ落語そのものを舞台化したRAKUGO MUSICALの登場となった。演出の谷氏はこれまでにも「くらわんか」など落語をモチーフにした作品を何作か発表しているが大劇場作品としては初めて。紅の肩の力を抜いた独特の個性が、フルに発揮できる作品で、そんな期待に応えた紅のアドリブも交えたコメディー演技が絶好調。

 

お互い恋患いで“あの世”にやってきた両替商「誉田(こんだ)屋」の若旦那、康次郎(紅)と菓子屋「松月堂」のいとさん、お澄(綺咲愛里)。せめて“あの世”結ばれようと愛しい人を探してやっとのことで出会ったものの、閻魔大王(汝鳥伶)がお澄に横恋慕、康次郎は地獄に落とされることに…。江戸落語の「朝友」の主人公を、上方落語の「地獄八景―」の世界に放り込んだ奇想天外なストーリーだ。他愛ないがそのなかに生と死などいろんな揶揄を笑いに包み、理屈抜きに楽しめる作品に仕上がった。

 

初舞台生40人の口上のあと場内が真っ暗になり、チョンパーで始まるオープニングは春らしく華やかそのもの、ひとしきり総踊りがあったあと、場面変わると、死に装束の紅扮する康次郎が蓮に乗って登場、なんでも恋患いで昇天したらしい。下界では自分の葬式が行われている。冥途では後からやってきた面々と意気投合、お澄も冥途にいると聞いて、みんなと一緒に探すことになる。最初からずいぶんと人を食った話で、次から次へと奇想天外な事件が。メイド(冥途)カフェや冥途歌劇団は傑作で、冥途歌劇団は「ベルサイユのばら」ならぬ「ベルサイユの蓮」を上演中。作、演出が植田紳爾というのがブラックユーモアで、これは「地獄八景―」のオチにもあるもののなかなか大胆。初日はご本人も観劇されていたらしく、舞台からのアドリブに客席は大爆笑だった。とにかく落語の舞台化なので、細かいことに目くじらを立てずに笑い飛ばせば楽しくみられる。ストーリーが単純なので今はちょっと長く感じられるが、これはこれから演じ込んでテンポ感が出てくれば解消するだろう。

 

 

紅はこういううわべはちゃらんぽらんに見えるが実は誠実で純情でという役どころを演じると天下一品。台詞回しのメリハリもかなりはっきりとして、聞きやすくなり、歌唱も各段に充実、人のいい誰からも愛される康次郎という人物像を魅力的に作り上げた。今後、臨機応変にアドリブが加わると、いつまでたっても終わらない芝居になる楽しい危険性も秘めているが、芯はしっかりしているので安心して見ていられるだろう。

 

相手役のお澄に扮した綺咲も、やわらかい大阪弁がことのほかよく似合い、冥途の「美人座」で踊る人形振りの「崇徳院心中」など艶やかな日舞もある。彼女の明るい個性がうまく生かされたといっていいだろう。

 

礼真琴は、フグにあたって冥途にやってきた江戸の米問屋「寿屋」の若主人、徳三郎。康次郎とは打って変わった遊び人で、話す言葉もべらんめえ。恋患いで死んだ康次郎と意気投合、一緒にお澄を探す旅に出る。礼はそんな粋な若旦那をかっこよく演じた。

 

七海ひろきは、「誉田屋」の手伝(てったい)喜六役。康次郎の死の責任をとらされ、やけ酒で5日目のサバを食って昇天、冥途で康次郎と再会するという設定。旅は道連れとばかり、康次郎と同行することに。康次郎以上にお人好しだが、そんな喜六を七海が心底楽しそうに演じた。

 

専科から出演した華形ひかるは、以前「くらわんか」で演じて評判となったビンちゃんこと貧乏神に14年ぶりに再挑戦。これがなんと「冥途観光案内所」の案内人という役どころ。なんともおかしくてまたまた場をさらった。かつての当たり役に別の作品で再挑戦するというのはあまり聞いたことがないが、華形の生き生きとした舞台姿が心地よかった。閻魔大王の汝鳥はいうまでもない適役好演、赤鬼、青鬼に扮した瀬央ゆりあと麻央侑希は隈取のようなメークでせっかくの美形が台無しなのがちょっぴり不満だが威風堂々の張り切りぶり。

 

ほかに印象に残ったのは三途の川の船頭、杢兵衛を演じた天寿光希、メイドカフェの茶屋娘、初音の有沙瞳、そして美人座の座頭、阿漕に扮した夢妃杏璃といったところ。なかでも夢妃の貫録ぶりはなかなかだった。

 

ショーの「Killer Rouge」は台湾公演の試演を見据えた新作で、とにかく衣装が絢爛豪華。真っ赤な照明のもと豪華なドレス姿の綺咲愛里を中心に赤のマントを翻すオープニングの男役たちの華やかなこと。とにかくスピーディーで、次から次へとメドレーのように休みなくハイテンションで展開、あっというまに初舞台生のラインダンスになる。このラインダンスがまた凝っていて「SAKURA ROUGE104」のタイトルのもと桜の花びらをイメージした衣装でラインアップ、最後には人文字で「104」を作るという徹底したもの。紅が「紅桜104」と名付けた104期生40人のはつらつとしたラインダンスがみものだ。

 

紅を頂点として綺咲、礼、七海、そして華形とそれぞれの見せ場や聞かせどころがあり、この公演で退団する十碧れいやにも銀橋ソロがあるなどいたれりつくせり。タカラヅカレビューならではの人海戦術が効果的だった。場面的には綺咲が紅頭巾、礼がオオカミに扮した三井聡振付の「Cutie Rouge紅頭巾CHANGとオオカミ」が面白かった。

カーテンコールの恒例初日挨拶は紅が「公演に何度も通っていただければ閻魔大王が閻魔帳につけて必ず天国に行けます」と話して客席から笑いを誘っていた。

 

宝塚大劇場では6月4日月曜日まで、東京宝塚劇場では6月22日金曜日から7月22日日曜日まで上演される。

 

©宝塚歌劇支局プラス4月28日記 薮下哲司

 

薮さんコラムが毎日新聞全国版で毎月第3土曜に連載決定!

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2018年4月21日(土) 毎日新聞朝刊より切り抜き、転載

 

 

管理人からお知らせです。

 

薮下さんのコラムが毎日新聞朝刊全国版で毎月第3土曜に連載されることになりました。タイトルは「銀橋のきらめき」(タカラヅカ余話)です。

 

第1回は4月21日土曜日の毎日新聞朝刊全国版に掲載されました。(情報が後手に回り、すみません。)

今月は初舞台にまつわるコラムです。宝塚の歴史から初舞台口上、ラインダンス、さらにかつて薮さんが取材した往年のスターの初舞台の時の話など、宝塚取材歴45年の薮さんだからこそ書ける「銀橋のきらめき」というタイトルそのままの、光り輝くタカラヅカの104年のエッセンスが散りばめられています。全国の皆様にお読みいただけます。是非、ご覧ください。

 

次回は5月19日土曜日の毎日新聞朝刊全国版に掲載されます。薮さんの「銀橋のきらめき」(タカラヅカ余話)をどうぞお楽しみに!

 

坂東玉三郎、越路吹雪を歌う「愛の讃歌」コンサート大阪公演

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坂東玉三郎、越路吹雪を歌う「愛の讃歌」コンサート大阪公演

 

歌舞伎界が誇る当代一の名女形、五代目坂東玉三郎が、戦後のタカラジェンヌを代表する大スター、越路吹雪の37回忌にちなんで企画したスペシャルコンサート「越路吹雪を歌う」大阪公演が3日、フェスティバルホールに、タカラジェンヌOG、真琴つばさ、姿月あさと、凰稀かなめと劇団四季はじめミュージカル界で活躍する海宝直人がゲスト出演して華やかに行われた。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。

 

越路吹雪は、戦後、大劇場が再開直後、最初に大ブレイクした男役トップスターで、100周年の式典の時にゲスト出演した有馬稲子も「私にとっての憧れのスターはコ~ちゃんです」というほど絶大な人気を誇った。1947年から1950年の戦後復興期に宝塚で活躍して、退団後は東宝入り、女優として映画や舞台で幅広く活躍、初期のNHK紅白歌合戦の常連でもあった。70年代には劇団四季の浅利慶太氏とタッグを組み、日本のミュージカル草創期を牽引、ロングリサイタルは一番チケットが取れないコンサートと言われた。このあたりの経緯は大地真央が越路に扮し、1月から3月にかけて放送されたテレビドラマ「越路吹雪物語」でも詳しく描かれていた。

 

玉三郎は、15歳の時に越路が主演したミュージカル「王様と私」を見て越路の魅力とりこになり、その後はあらゆる舞台を見て、公私ともに親しい間柄だったという。玉三郎は越路の女優として真摯に舞台に取り組む姿勢に感銘を受け、常に範としてきたという。そんな越路がロングリサイタルで歌い続けたシャンソンを、自らが歌うとともに次の世代の歌い手たちにも受け継いでいってほしいと、越路と同じタカラジェンヌの後輩たちとのコンサートを思いついた。

 

コンサートは二部構成。このコンサートのために編成された「愛の讃歌オーケストラ」の前奏にあわせて中央から光り輝く黒ずくめの衣装で玉三郎が登場、「バラ色の人生」から華麗にオープニング。朗々とした豊かで低い歌声は、歌舞伎の女形の時の発声とは明らかに異なり、越路が乗り移ったかのよう。「群衆」まで一気に歌い込み、満員の観客は一気に越路独特のシャンソンの世界に呼び戻された。

 

真琴つばさ、姿月あさと、凰稀かなめ、海宝直人も、おそろいの黒にスパンコールのついた豪華なイタリア製の素材だが、すべてデザインが違うという凝った衣装で登場。

 

越路が出演したミュージカルの曲のメドレーからスタート。玉三郎が「屋根の上のヴァイオリン弾き」から「サンライズ・サンセット」を歌ったあと海宝が「南太平洋」の「魅惑の宵」真琴が「ワンダフル・ガイ」続いて姿月が「王様と私」から「シャル・ウイ・ダンス」海宝と凰稀が「ウイ・キス・イン・ア・シャドウ」をデュエット。真琴の「メイム」では客席から手拍子が起こるなど、すっかり和やかな雰囲気に。「サウンド・オブ・ミュージック」からは「私の好きなもの」「おやすみなさい」を全員で歌い、続いて玉三郎が「リトル・ナイト・ミュージック」から名曲「センド・イン・ザ・クラウン」をしっとりと歌い込んだ。

 

1部は玉三郎の「18歳の彼」海宝の「誰もいない海」凰稀の「サントワ・マミー」そして玉三郎、真琴、姿月が3人による「谷間に三つの鐘がなる」で締めくくった。玉三郎が相手とあって、真琴らがいつものOG公演よりずいぶんと控えめで緊張気味。それがなんとも微笑ましい。

 

2部は玉三郎の「枯葉」から始まり、本格的なシャンソンメドレー。「ろくでなし」(姿月)「巴里野郎」(凰稀)「パダンパダン」(真琴)と続いたあと越路さんの宝塚時代のヒット曲「ブギウギ・パリ」そして「華麗なる千拍子」のヒットナンバー「幸福を売る男」と宝塚でおなじみのシャンソンも登場した。クライマックスはもちろん玉三郎の「愛の讃歌」「水に流して」と越路さんが愛したエディット・ピアフの曲を2曲続けて熱唱。アンコールに「ラストワルツ」を披露した後、全員で「すみれの花咲くころ」を歌い継いでコンサートの幕を閉じた。

 

歌舞伎の女形の玉三郎がスーツ姿、宝塚でバリバリの男役トップだった3人が豪華なドレス姿、海宝が一番派手なスパンコールのついたスーツと、玉三郎が「ここには男と女が何人いるのか分からないね」と言って満場を笑わせる一幕もあったが、そんな和気藹々とした雰囲気の中、大先輩、越路吹雪さんに対する出演者たちの愛があふれた気持ちのいいコンサートだった。

 

東京から始まったこのコンサート、大阪のあと5月13日に神奈川・座間、7月28日に宮城・川内萩と各地で公演が予定されている。

 

©宝塚歌劇支局プラス5月3日記 薮下哲司

 


愛希れいかサヨナラ公演 月組公演「エリザベート」鑑賞会のお知らせ

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愛希れいかサヨナラ公演 月組公演「エリザベート」鑑賞会のお知らせ

 

月組娘役トップスター、愛希れいかのサヨナラ公演、ミュージカル「エリザベート」(小池修一郎潤色、演出)は、8月24日から宝塚大劇場で上演されますが、毎日新聞大阪開発では「第5回薮下哲司さんと宝塚歌劇を楽しむ」という恒例の特別鑑賞会を企画、9月6日(木曜日)の3時の回で実施することになりました。

 

当日13時半に宝塚大劇場チケットカウンター前に集合、エスプリホールで松花堂弁当の昼食をとってもらったあと、私が今回の「エリザベート」のみどころを簡単に解説、3時の回をS席(一階中部センター)で観劇というコースです。参加費は消費税込みで一人13500円。お申し込みは先着順で80人限定となります。

 

今年はエリザベート皇妃の没後120年にあたりエリザベートに扮する愛希のサヨナラ公演とも重なって、いつになく前評判も高く貸し切りはじめ団体の申し込みが順調で、7月の一般発売は即完売となるのは必至の公演です。今回の募集はこれまでの倍の人数に設定してありますので、この機会にお誘いあわせの上お早めに申し込んで頂くことをおすすめします。

 

配役はトートが珠城りょう、エリザベートが愛希れいか、フランツが美弥るりか、ルキーニが月城かなと、そしてこの日のルドルフは注目の若手スター、風間柚乃です。

 

お問い合わせ、お申し込みは毎日新聞大阪開発☎06(6346)8784(平日10時から18時)まで。

 

凱旋門前夜祭が華々しく開かれる

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   ©宝塚歌劇団

 

専科のスター、轟悠が雪組トップ時代に主演、文化庁芸術祭演劇部門優秀賞の栄誉に輝いたミュージカル「凱旋門」(柴田侑宏脚本、謝珠栄演出)が6月8日から18年ぶりに同じ轟の主演で再演されることになり、7日、宝塚大劇場に初演メンバーも駆けつけて盛大に前夜祭が開催された。今回はその模様をお伝えしよう。

 

「凱旋門」は「西部戦線異常なし」で知られるエリッヒ・マリア・レマルク原作による第二次世界大戦前のパリを舞台にした亡命ドイツ人外科医ラヴィックとイタリア人女性ジョアンとの激しくも切ないラブストーリー。シャルル・ボワイエ、イングリット・バーグマン主演の映画でも知られるが、宝塚では柴田氏の脚本を謝氏が演出、2000年7月に雪組で初演された。耳馴染みのシャンソンがふんだんに使われているが主題歌は「ベルサイユのばら」などで宝塚のモーツァルトと言われた天才作曲家、寺田瀧雄氏の遺作でもある。

 

前夜祭は梨花ますみ組長の司会進行で始まり、まずは「凱旋門」の幕開け、ラヴィックの親友ボリス(望海風斗)の登場シーンやラヴィック(轟悠)とジョアン(真彩希帆)のラブシーンなどダイジェストで紹介。寺田氏の懐かしい主題歌が大劇場いっぱいに響き渡った。

 

観客をすっかり「凱旋門」の世界に誘い込んだところで、スクリーンと椅子が登場、副組長の奏乃はるとも加わってトークコーナーへ。轟、望海、真彩のあと初演でボリス役を演じた香寿たつきとジョアン役の月影瞳が久々に大劇場の舞台に帰ってきた。

 

香寿が「久々の大劇場に興奮しています」と上気した表情で話すと月影も「きょうはよろしくお願いします」とホームカミングが嬉しくてたまらないといった様子。

 

まずは初演のビデオが映し出され、轟と香寿、月影だけが分かる思い出話で盛り上がった。続いて奏乃が脚本の柴田侑宏氏のメッセージを読み上げ、演出の謝珠栄のビデオメッセージと続き、初演に出演した朝海ひかると安蘭けいからもビデオメッセージが届いた。朝海が「役替わり公演があって私にとって思い出が尽きない公演」といえば安蘭は「18年ぶりの再演、轟さんが同じ役で出演されるなら見たいけれど、それより私も出たい」と話して満場の笑いを誘っていた。また「主題歌の「いのち」が大好きで今聞いても涙が出る」とも。ご両人とも「必ず見に行きます」と観劇を確約していた。

 

一方、舞台では香寿が「公演中に組替えの発表があって、東京公演に出られないことが分かり、ラストの別れのシーンでいしちゃん(轟)を思いきり抱き締めた思い出がある」と当時を懐かしむと月影も「すべて難しかったけれど、特にラブシーンが難しかった」と振り返り「吸い寄せられるようにキスをする」と注文が付いたシーンでは轟の「手で隠さずにキスをしよう」という提案で何度も稽古、勢い余って実際にキスをしてしまったというエピソードを披露。轟は「そんなことあった」ととぼけていたが月影は「覚えています。忘れられません」と言って客席大爆笑、轟が思わず照れ笑いする一幕もあった。

 

新「凱旋門」は望海ボリスのための新曲が新たに加わるほか、シャンソンの曲数も増えるなどかなりの改変があるそうで、轟も「18年ぶりということで、ついつい力みがちになるけれど自分は出来るだけ抑えて、望海や真彩についていくつもりで演じ、そんななかで新たなラヴィックが生まれれば」といつになく控えめな抱負。望海は「稽古場では分からなかった感覚がつかめたような気がしたので、この感覚を大事に演じたい」真彩も「謝先生の理想にはまだほど遠いですが、少しでも近づけるように頑張りたい」と来るべき本番に向けての決意を話していた。

 

最後は、初演で矢代鴻が演じた役を演じる専科の美穂圭子が「私を抱いて」をしっとりと歌った後、彩風咲奈と彩凪翔が明るく軽快に「巴里の屋根の下」を。バックでは永久輝せあ、朝美絢らが踊る豪華版。続いて轟の「たそがれのパリ」そして望海を中心とした「いのち」の大合唱で、華やかに前夜祭の幕を閉じた。

 

轟は昨年、自身が主演した「長崎しぐれ坂」の再演に主演したが、今回は18年ぶりの再演を自身が主演するという前代未聞の公演に挑むことになった。香寿が「あのころと全然変わってない」と驚嘆する轟がどんなラヴィックを見せてくれるか6月8日の宝塚大劇場初日を期待を込めて待ちたい。

 

©宝塚歌劇支局プラス5月7日記 薮下哲司

 

 

北翔海莉が男装の剣客に扮して大暴れ!「蘭 RAN」松竹座から開幕

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北翔海莉が男装の剣客に扮して大暴れ!「蘭 RAN 緒方洪庵浪華の事件帳」 松竹座から開幕

 

元星組トップスター、北翔海莉が、松竹新喜劇の藤山扇治郎と初共演した「蘭~緒方洪庵 浪華の事件帳~」(錦織一清演出)が、6日から大阪松竹座で開幕した。16日からの東京・新橋演舞場での公演を前に、この公演の模様をお伝えしよう。

 

「蘭-」は江戸後期の大坂を舞台に、蘭学を学び天然痘治療の礎を築いた日本近代医学の祖、緒方章(のちの緒方洪庵)の若き日を描いた築山桂原作の「禁書売り」と「北前船始末」をもとに舞台化したもので、「少年隊」の錦織一清が演出、歌手の岸田聡志が音楽を担当、歌に踊りに大立ち回りをふんだんに盛り込んだ「痛快娯楽青春時代劇」。

 

緞帳が上がると真紅の豪華な雅楽の装束に身をまとった北翔がピンスポットで登場、朗々たる歌声で主題歌を披露、まるで宝塚をみているような華やかなプロローグ。とはいえミュージカルというわけではない。医学生の緒方章(扇治郎)が、師の蘭学医、天游の使いで「禁書」の受け取りに行った寺の境内で、殺人事件に遭遇したうえ、肝心の「禁書」もすり替えられてしまう。章は居合わせた謎の若侍(北翔)の協力を得て真犯人探しに奔走するのだが、事件は意外な方向に発展していくといったストーリー。北翔扮する若侍は、宮廷の舞楽を担う「在天楽所(ざいてんがくそ)」の楽人、東儀左近というのが表の顔。日頃は浪速の名所案内を仕事にするかたわら、闇の組織「在天別流」の一員という別の顔も持っている。歌も踊りも大立ち回りもできるというおいしい役どころだ。

 

禁書をめぐる殺人事件による推理劇という点では、それほど意外性のあるストーリーではないが、北翔は、雅楽師、町娘、剣客姿と男女早変わりで歌、踊り、立ち回りに加えて得意の横笛の披露もあってファンにとってはこれ以上ない文句なしの活躍ぶり。

 

北翔にとっても、念願の松竹新喜劇のホームグラウンド、松竹座と新橋演舞場の舞台での公演で、新喜劇の御曹司、藤山扇治郎との共演とあって、力の入り方もいつもとは違い、楽屋裏でも「毎日が楽しい」と笑顔満面だった。扇治郎のメークも北翔がアドバイスしたそうで、扇治郎が北翔の弟のように見えるのが微笑ましかった。

 

©宝塚歌劇支局プラス5月9日記 薮下哲司

 

 

花組、水美舞斗、10年目でバウ初主演!「Senhor CRUZEIRO!」開幕

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  ©宝塚歌劇団

 

花組、水美舞斗、10年目でバウ初主演!「Senhor CRUZEIRO!」開幕

 

花組の人気男役スター、水美舞斗の初主演によるバウ・ラテングルーヴ「Senhor CRUZEIRO!(セニョール クルゼイロ)-南十字に愛された男-」(稲葉太地作、演出)が10日、宝塚バウホールで開幕した。今回はこの公演の初日の模様をお伝えしよう。

 

「セニョール-」は、花組きってのダンサーである水美のバウ初主演にふさわしく久々の二部構成によるショー仕立てのステージ。水美を含めて花組選抜メンバー26人の出演で、

一部は、ポルトガル語で南十字星を意味するクルゼイロと言う名を持ち、ダンスと歌をこよなく愛する青年の刹那的な生き様を綴るストーリー仕立てのショー、二部は、南十字星輝く南半球の熱帯夜をテーマにした熱いラテングルーヴ。これが一部、二部とも水美がはつらつとしたステージングで、男役水美の魅力が見事に発揮され、くわえて水美ファンならずとも、こんなショーが見たかったという宝塚ファンの思いがすべてつまったホットなショーで、ファンにとっては水美の初主演に対する感激と、ショー自体の感動が重なって、初日のカーテンコールは満員のファンが一気にスタンディング、歓声と感涙で大変な興奮ぶりとなった。

 

 幕が上がると、舞台中央奥の水美にピンスポットがあたり、振り向きざまに歌いだすというかっこいいオープニング。飛龍つかさ、聖乃あすか、一之瀬航季、翼杏寿も加わって激しいパフォーマンス、これがアーティストグループ「セニョール クルゼイロ」のライブシーンであることがわかり、いきなり客席おりもあって否が応でも盛り上がる。舞台は記者たちやグルーピーたちも加わっての総踊りに展開、客席からは早くも手拍子が巻き起こるなどプロローグから熱気むんむん。ダンスもいつもとは違うなんとも複雑で高度なテクニックで、この振り付けは誰と思わずプログラムを見たらカポエイラで度肝を抜いた森陽子だった。このプロローグから早くも客席はノリノリとなった。

  

 クルゼイロは、ブラジルのグループ「セニョール クルゼイロ」を代表する人気ボーカリストだが、スキャンダルまみれで他のメンバーからは浮いた存在。実は、心臓に爆弾を抱えていた。ライブの途中で倒れたクルゼイロは、グループから去り、一人、ブエノスアイレスへ。限りある命をタンゴダンサーとして過ごすが…。水美が、濃い化粧がことのほかよく似合い、陰のある寡黙でしかし熱い青年をこのうえなくかっこよく演じきった。

 

 飛龍らグループメンバーのほか綺城ひか理が記者グループのリーダーアントニオ役、故郷に残してきた恋人ビアンカに城妃美伶、ブエノスアイレスでタンゴの相手役となるのが舞空瞳、クルゼイロの死神的な存在フロールプレータに白姫あかり、天使的な存在ルアブランカには華雅りりかというところが主要な役どころ。誰がどうというより、とにかく、花組の誰もがそれぞれ生き生きとしていて、水美の初主演を全力でサポートしているという気持ちのいいステージだった。

 

 第二幕はマントを脱ぎ捨て真っ赤なラテンの衣装で登場した水美の華やかなナンバーから早くも客席の興奮は最高潮。もちろん客席おりもあって熱帯夜はのっけから盛り上がる。

綺城、飛龍、聖乃、芹尚英がバケツなどを楽器がわりにもって歌い踊る楽しいナンバーのあと、ここでも森陽子振付の「イエマンジャ」と「オグン」の場面が白眉だった。水美は、イエマンジャとして真っ白なドレス姿で踊った後、後半はオグンとして剣を手にダイナミックなダンスソロから水の精や戦士との群舞に発展、大劇場のショーでも十分通用する見事なナンバーだった。

 

「ララバイ・オブ・ブロードウェー」をメーンにした洒落たジャズクルゼイロの場面のあと、名曲「いそしぎ」をフィーチャーしたアレーニャの場面は、水美が女役の聖乃とデュエット、綺城がバックで歌うという豪華なナンバーで思わず鳥肌が立つほどのセクシーさ。このトリオのこの場面は、数年後に振り返ると伝説のシーンになるかも。ツボを押さえた場面の連続で、これこそが宝塚のショーの醍醐味だ。

 

続く「約束の場所」も「マシュケナダ」や「ディサフィナード」などボサノバの名曲をふんだんに織り込んだ軽快でホットな場面、そのままフィナーレに突入していった。

 

10年目で初のバウ主演となった水美、まさに満を持してのステージで、稲葉氏の抜群のセンスで、ここにきてようやく見事に大輪の花を咲かせた。歌唱にやや押し出しがないのと音程が不安定なのが惜しいが、自信をもって歌い込めば問題はないだろう。とはいえセクシーでシャープなダンスをみているとそんな細かいことは吹き飛んでしまう。

 

歌と言えば綺城のクリアな口跡は格別で耳に心地よく見事なサポートぶり。クルゼイロメンバーのひとり一之瀬の歌とダンスも注目。聖乃も成長著しく、美形ぶりがこのステージでも際立った。娘役では総合的に城妃のうまさが群を抜き、舞空のダンス力にも感心させられた。歌では舞月なぎさと咲乃深音が一場面をもらう大抜擢、2人がこれによく応えていた。

 

カーテンコールで水美は「南十字星の高みを目指して千秋楽まで突っ走ります」と挨拶。満員のファンから盛大な拍手を浴びていた。久々の二部構成によるショー形式のバウ公演、演じるほうはこのうえもなく体力を消耗するが、見る側としては最高のプレゼント、怪我に細心の注意をして千秋楽まで頑張ってほしい。公演は21日まで。

 

 

◎「エリザベート」特別鑑賞会増席決定のお知らせ

 

毎日新聞大阪開発主催による9月6日(木)3時の回の宝塚大劇場月組公演「エリザベート」特別鑑賞会「第5回薮下哲司さんと宝塚歌劇を楽しむ」(S席、昼食付=参加費13500円)は、5月7日から受付を開始しましたが、北は北海道、南は熊本のファンの方から申し込みが殺到、好評のため若干枚数の増席が決まりました。引き続き毎日新聞大阪開発☎06(6346)8784(平日10時~18時)で受け付けています。お早目のお申し込みをお待ちしております。

 

一路真輝2018ライブツアー大阪からスタート

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一路真輝2018ライブツアー大阪からスタート

 

元雪組トップで女優の一路真輝の2018年ライブツアーが5月11日、ビルボード大阪からスタートした。ミュージカルからシャンソンまで多彩な楽曲を緩急自在に披露、liveならではのトークも絶好調、そんな一路のliveの模様をお伝えしよう。

 

毎年行っている一路のライブツアー、今年は初めて大阪からのスタートで、背中が大きく開いたブルーのドレス姿で登場した一路は、まず「糸」を情感たっぷりに歌ってオープニング。震災で亡くなった人への手紙から生まれた曲だ。続く「雨上がりの星空」で明るい雰囲気になったところで、ファンにご挨拶。

 

「来年5月に東京の明治座で“細雪”に出演がきまりました」とまずは仕事の報告。一路は次女で、長女が黒木瞳、三女が瀬奈じゅん、四女が水夏希という初めてオールタカラジェンヌOGによる公演で「今のところ東京公演だけなのでみなさんいまから準備しておいてください」と笑わせながら「全員卒業生の公演は初めてなのでわくわくしますね」と自身も楽しみな様子だった。

 

ライブは「いい日旅立ち」から「もっと年を重ねてから歌うものだと思っていて、ライブで歌うのは初めて」というシャンソンコーナーへ。「サントワマミー」などを客席におりてメドレーで披露、極め付け「愛の讃歌」を一路ならではの豊かな表現力で歌い上げた。初めてとは意外だったがシャンソンがよく似合った。

 

ここでシルバーグレイのドレスにチェンジしてミュージカルメドレー。今回は「エリザベート」は封印、まず夏に再演が決まっている「キス・ミー・ケイト」から「ソー・イン・ラブ」など3曲を続けて披露。「ガイズ&ドールズ」や「レ・ミゼラブル」からは男性の歌にも挑戦、会場全体を包み込むような歌声は圧巻だった。そして、自身が演じたいミュージカルのひとつ「サンセット大通り」から大曲「With One Look」を絶唱。これがなかなかのききもので、会場のファンからも盛大な拍手が沸き、真っ赤なドレスに着替えてアンコールに応え「心の瞳」を歌ってライブを締めくくった。

 

素敵な選曲となめらかなトークで、約一時間のライブはあっというまだった。東京は18、19日にコットンクラブで。

 

©宝塚歌劇支局プラス5月12日記 薮下哲司

 

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