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極美慎初主演、星蘭ひとみと“超絶美形コンビ”で魅了!「ベルリン、わが愛」新人公演

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  新人公演プログラムより

 

 

極美慎初主演、星蘭ひとみと“超絶美形コンビ”で魅了!「ベルリン、わが愛」新人公演

 

期待の男役ホープ、極美慎(きわみ・しん)が初主演した星組公演、ミュージカル「ベルリン、わが愛」(原田諒作、演出)新人公演が、24日、宝塚大劇場で行われた。今回はこの模様をお伝えしよう。

 

その際だった美形ぶりで早くから注目を浴びていた極美が、入団4年目で新人公演初主演に起用された。100期生で同期には優希しおん、星風まどか、風間柚乃、音くり寿、華優希ら期待のホープたちが目白押しだ。なかでも、長身で恵まれた容姿の極美はいかにも宝塚の男役にぴったり。待望の新人公演初主演とあって、この日の大劇場ロビーは、チケットの受け取りに長蛇の列ができるなど、開幕前から興奮状態。

 

「ベルリン―」は、1920年代後半のサイレントからトーキーに移り変わろうとするドイツ映画界を背景に、迫りくるナチスの統制を嫌って自由な映画作りの場を求めてハリウッドへ旅立つ青年監督の姿を描いた原田諒氏のオリジナルミュージカル。星組トップコンビ、紅ゆずると綺咲愛里のための書き下ろしだが、新人公演は極美と星蘭ひとみの未熟ながら限りない可能性を持った超絶美形コンビを中心に実力派が脇を固める、いわゆる新人公演らしい新人公演だった。

 

極美が扮したのはその青年監督テオ(本役・紅)。映画に情熱を燃やす青年テオを、爽やかに演じた。台詞の声がまだ高くて男役の声になっていないとか、スーツの着こなしがまだまだだとか、演技が不安定で地に足がついていないとか、すべてにまだまだ発展途上で今後の課題は多いが、長身で細身、水も滴る二枚目ぶりがすべてを吹き飛ばす。星蘭ひとみとのコンビは絵のような美しさで、楽屋の鏡の前でメーキャップの指導をする極美と星蘭のツーショットはまるで活人画のようだった。これぞ宝塚の二枚目というにふさわしい舞台姿だった。経験を重ねて大きく育ってほしい。

 

相手役のジル(綺咲)に扮した星蘭は、極美より一期下の研3。前回の「THE SCARLET PIMPARNEL」本公演でルイ・シャルル王太子役を可憐に演じて注目され、今回は一躍、新人公演のヒロイン抜擢となった。目鼻立ちがくっきりとした華やかな顔立ちに加えて、銀橋での極美とのデュエットやセリフにも安定感があり、劇中映画の花売り娘に扮した可愛い衣装やラストシーンの列車の極美とのツーショットも含めてどの場面もまさに眼福。この美男美女コンビの今後が楽しみだ。

 

テオの親友で絵本作家のケストナー(礼)は、天華えま。「桜華に舞え」と「THE SCARLET PIMPARNEL」とすでに2回新人公演で主演経験があり、今回は、主役のサポート役に回ったが、さすがに経験値は高くて余裕たっぷり、緩急自在の演技で自分なりの見せ場もきちんと押さえながら、初主演の極美を巧みに好サポートした。ケストナーの恋人役ルイーゼロッテ(有沙瞳)は天彩峰里(あまいろ・みねり)。この公演終了後に宙組への組替えが決まっていて、今公演ではレビューの初エトワールに起用されている期待の歌姫だ。歌がうまいだけではなく演技もしっかりしているのは今回の新人公演を見てもわかる通り。可憐な容姿も大きな強みで、宙組での活躍を期待したい。

 

この舞台に大きく分けて、テオの映画仲間、撮影所の経営陣、ナチス将校と3つのグループがあり、仲間グループは、天華と天彩を除くと飲んだくれの若手俳優ロルフ(瀬央ゆりあ)の天飛華音(あまと・かのん)ベテラン俳優、ヴィクトール(天寿光希)の颯香凛(さやか・りん)主演女優レーニ(音羽みのり)の小桜ほのかといったメンバーが主要人物。なかでは颯香と小桜の芝居心ある芸達者な演技が、それぞれ場をさらった。颯香はまだ研3だが、老け役としての作り込みではなく、自然な形で演じ込みながらベテランの落ち着きと貫録を表現、見事だった。小桜は、あくの強い役をいやみなく巧みに演じ切り、それがうまいものだから笑いと拍手を呼んだ。劇中映画のわざと高い声で歌い上げるソロも見事だった。

 

経営者グループは、クリッチュ社長(美稀千種)が、碧海(あおみ)さりお、プロデューサーのカウフマン(七海ひろき)が、天路そらといったメンバー。それぞれ安定感のある演技だった。重役室のメンバーの中で際立って美形だったのがシュナイダー(麻央侑希)を演じた湊瑠飛(みなと・りひ)。レビューシーンで“レ・ガールズ”のメンバーにもいてプロポーション抜群の容姿が印象的だった。

 

ナチスグループに登場するのはゲッペルス(凪七瑠海)の桃堂純と実業家フーゲンベルク(壱城あずさ)の遥斗勇帆。ゲッペルスはこの舞台では一番の巨悪。桃堂は前回に続いて長として最後の新人公演をこのゲッペルス役で締めくくった。冒頭の「メトロポリス」試写会の場面でちらっと登場するが、本格的な出番は誰よりも遅く30分以上たってから。しかし、ナチスの軍服に身を包み、銀橋にすっくと立つと、もうそれだけで威圧感があった。変に作らず丁寧な台詞回しが、かえってゲッペルスの怖さを引き立たせ、功を奏したことも付け加えたい。一方、遥斗も腹に一物ある実業家という雰囲気をよく伝えていた。

 

あとどちらのグループに属さない黒いビーナス、ジョセフィン・ベイカー(夏樹れい)に扮した華鳥礼良と本公演でルイーゼロッテを演じている有沙瞳が、万里柚美が演じた居酒屋の女将ゲルダでそれぞれいい味を見せていたことも書き添えておきたい。

 

 

◎…「毎日文化センター(大阪)」では「薮さんの宝塚歌劇講座」(講師・薮下哲司)2017年秋期講座(11月~3月)の受講生を随時募集中です。毎月第4水曜日の午後1時半から3時まで、大阪・西梅田の毎日新聞社3階の文化センターで、宝塚取材歴35年以上の薮下講師による最新の宝塚情報や公演評、時にはOGや演出家をゲストに招いてのトークなど、宝塚ファンなら聞き逃せないマル秘ネタ満載の楽しい講座です。11月は28日が開講日。12月には受講者の皆さんが宝塚の年間ベストテンを決める宝塚グランプリの選定会も行います。ふるってご参加ください。受講料(6回分18150円)。詳細問い合わせは☎06(6346)8700同センターまで。

 

 

◎…明日海りお主演、花組公演「ポーの一族」特別鑑賞会のお知らせ

 

  ©宝塚歌劇団

 

○…宝塚のマエストロ、薮下哲司さんと宝塚歌劇を楽しむ「花組公演“ポーの一族”特別鑑賞会」(毎日新聞大阪開発主催)が、1月18日(木)宝塚大劇場で開催されます。「桜華に舞え」「幕末太陽伝」「神々の土地」に続く第4回となる今回は、午後1時半からエスプリホールでの昼食会(松花堂弁当)のあと薮下さんが観劇のツボを伝授、3時の回の明日海りお主演、花組公演「ポーの一族」(小池修一郎脚本、演出)をS席(一階中部センター)で観劇します。参加費は13500円(消費税込み)。先着40名様限定(定員になり次第締め切ります。売り切れ必至の公演です。お早めにお申し込みください。)問い合わせは毎日大阪開発☎06(6346)8784まで。

 


望海風斗、真彩希帆、雪組新トップコンビ、圧倒的な歌唱力で魅了!大劇場公演開幕

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 ©宝塚歌劇団

 

望海風斗、真彩希帆、雪組新トップコンビ、圧倒的な歌唱力で魅了!「ひかりふる路」「SUPER VOYAGER!」開幕

 

雪組新トップコンビ、望海風斗、真彩希帆のお披露目公演、ミュージカル「ひかるふる路~革命家マクシミリアン・ロベスピエール~」(生田大和作、演出)とレビュー・スぺクタキュラー「SUPER VOYAGER!」(野口幸作作、演出)が、10日、宝塚大劇場で開幕した。今回はこの公演の初日の模様をお伝えしよう。

 

「ひかり―」は、フランス革命の中心人物の一人でありながら、頑なに理想を追い求め、のちに革命政府によって処刑されるという悲運の末路をたどった革命家ロベスピエールの波乱万丈の半生を描いたオリジナルミュージカル。歴史的事実をたどりながらロベスピエールと彼を殺そうとする貴族の娘マリー=アンヌという架空の人物との恋模様を絡めながら描いていく。宙組公演「NEVER SAY GOODBYE」以来11年ぶりに宝塚歌劇の為に全曲を書き下ろしたフランク・ワイルドホーン氏の音楽の素晴らしさと望海、真彩の比類なき歌唱力に圧倒される1時間35分だ。

 

一筋の閃光が印象的な劇幕が上がると舞台には、タレーラン役の夏美ようとマノン・ロラン夫人役の彩凪翔が登場。革命後の世相を二人の会話で説明した後、カーテンが開くとそこはルイ16世の処刑裁判の場面になる。望海ロベスピエールが歌う主題歌が素晴らしく、一気に物語の世界に没入できる。(ここからは核心にふれるので要注意)ルイ16世の処刑裁判から自身の処刑裁判で終わるという、因果応報的で悲劇的な作りの中、獄中でロベスピエールとマリー=アンヌがすべてを許し合い、精神的な愛で結ばれ、すべてが宝塚歌劇独特の世界観で昇華されるという大団円が訪れる。

 

生田氏らしい巧みな作劇だが、歴史的事実を深追いするあまり、理想に燃えてそれに突っ走った男の悲劇というおとしこみどころがやや弱くて、観客にカタルシスを与えるというところまではいかなかった。ロベスピエールをここまで突き動かす理想の原体験とその理想をこなごなに砕くさまざまな圧力の構図が、きちんと整理されず、いまいち分かりにくいのが要因か。とはいえ全曲を作曲したフランク・ワイルドホーン氏の音楽のパワーは圧倒的で、望海、真彩の完璧な歌唱とともに、作品を大きく底上げしていることは確実。この二人、歌うコンビとして長く語り伝えられるだろう。

 

初日の客席にはワイルドホーン、和央ようか夫妻の姿も見え、終演後はスタンディングオベーション。ワイルドホーン氏は「本当に素晴らしい歌唱力。私が想像していた役にぴったり合い、さらに現代的に表現してくれた」と新コンビを絶賛。和央も「感動しました。一幕ものではもったいない贅沢なお披露目。本当におめでとう」と後輩にエールを送っていたが、実際、その通りだと思った。

 

望海は、ただひたすら理想を追い求め、妥協を許さず清廉潔白であったがゆえに自らを追い込んでいくロベスピエールを好演、望海本来の個性と二重写しになるくらいの入魂の演技だった。オープニングから何度も繰り返し歌われる主題歌「ひかりふる路」は、これからもずっと望海を代表する曲になるだろう。

 

相手役の真彩も、その透き通った歌声がいかんなく発揮され、望海とのデュエットはまさに至福。歌の力が舞台をここまで支えるという経験は、長い宝塚観劇体験の中でもついぞなかったように思う。マリー=ロランという役柄も真彩にはぴったりで、演技的にも無理がなく、お披露目公演とは思えない安定感があった。

 

この二人以外の主な役どころは、彩風咲奈扮するダントン、この公演がサヨナラ公演となる専科の沙央くらま演じるデムーランの二人。理想に突っ走るロベスピエールを何とか懐柔しようと努力するものの失敗するダントン役を彩風が懐の深さをうかがわせる大きな演技で表現。一方、沙央もロベスピエールとダントンを繋ぐ立場のジャーナリスト役を生き生きと演じた。「1789」ではダントン役だっただけに何か感慨深いものもある。

 

雪組大劇場初登場となった朝美絢は、ロベスピエールの側近、サンジュスト。ルイ16世の処刑文書を読むなど、各場面にル・バ役の永久輝せあとともに登場する。朝月希和は病死する彩風の妻、ガブリエル役。綾凰華は、ロベスピエールの弟オーギュスタン役だった。

 

しかし、こう見てくると主演の望海、真彩の二人の印象があまりに強烈で、ほかのメンバーは全体的に影が薄い。役的にも印象的な役があまりなかった。彩凪のロラン夫人も意表を突いた配役で雰囲気はよくだしていたが、役としての面白みはなかった。

 

小さな役では新聞売り役の諏訪さき、マリー=アンヌの恋人役の眞ノ宮るいといったあたりが印象に残った。「1789」と同じ印刷所が登場、ロナンの恋人役と同じ名前のオランプを舞咲りんが演じている。

 

さて、この作品の主人公ロベスピエール。宝塚の「ベルサイユのばら」で登場したのは比較的最近で2008年「外伝ベルサイユのばら」から。以降、本編でも革命家ベルナールの横で必ず歌うようになった。その後「THE SCARLET PIMPARNEL」や「1789」とフランス革命についての作品が頻繁に上演されるようになり、いろんな時代のロベスピエールが登場するようになったが、作品によって印象が違い、ロベスピエールってどんな人という疑問が出始めた頃合いを見計らうかのように、満を持しての本格的登場。そういう意味ではこれまで脇役にすぎなかったロベスピエールという人物を主人公にもってきたのはグッドアイデアだった。「ベルばら」から始まった宝塚のフランス革命史シリーズ、ここに極まれりという感じだ。一本立ての大作で再構築すればさらに壮大な歴史ミュージカルになりそうだ。

 

一方「SUPER―」は、新トップ、望海の船出を祝した爽やかなレビュー。名前にまつわる「希望」「海」「風」「北斗七星」を中心に構成、各場面に野口氏の洒落たセンスがきらりと光る卓抜したステージングが楽しめる。オープニングは、望海が煌めく巨大な錨に乗って宙乗りで登場という仕掛け。ゴールドの制服に着替えた望海を中心に全員が白と紺色の水兵ルックで勢ぞろいしてのプロローグへと発展。50年代のハリウッド映画を彷彿させる群舞シーンで、最初からいきなり客席降りがあって大いに盛り上がる。続いて望海と真彩二人が残ってベートーベンの第九をアレンジした希望のデュエットから一気にロケットに。センターは綾鳳華が務めた。

 

「海」のオープニングは、夜景の海岸風景を遠景にしたロサンゼルスの小高い丘でのダンスシーンから。映画「ラ・ラ・ランド」でライアン・ゴズリングとエマ・ストーンが踊ったロマンティックなダンスシーンを群舞にした感じの場面で、イエローのジャケットを着た彩風咲奈のみずみずしい青年ぶりがなんともさわやか。彩風は、三井聡氏のノスタルジックでありながら現代的でシャープな振付によく応えていた。相手役は朝月希和。永久輝せあ、縣千が好サポート。

 

「風」は、南仏の港町サントロペが舞台。曲もフランシス・レイの名曲「風のささやき」をフィーチャー。マフィアの望海とかつての恋人、朝美、ジゴロ彩凪のトライアングルラブ。レビュー定番のストーリーダンスだが朝美のなまめかしい女役と一部始終を目撃するクラブ歌手に扮した沙央のけだるい歌声が大人のムードを醸す。続く「北斗七星」は、伝説の島アトランティスが舞台。ラテンモードでコール・ポーターの名曲メドレー。真彩の「ビギン・ザ・ビギン」で一気に手拍子、にぎやかに中詰めへとなだれ込んだ。

 

中詰め後、望海船長が、航海日誌を見ながら、これまでの足跡を振り返りながら歌う場面のあと、第7章DIAMOND SHOW TIME「希望の海へ」がこのレビューの白眉。淡いブルーに浮かび上がった大階段に望海はじめ雪組メンバーが、男役は白燕尾と娘役は白いドレスで勢ぞろい。雪の白をイメージした場面で、大階段が淡いピンク、虹色に変化する中、計算されつくした華麗で洗練された群舞(麻咲梨乃振付)が展開する。まさに夢のような瞬間、宝塚ならではのゴージャスな場面だった。かつてのジーグフェルド・フォーリーズが再現されたと言っても過言ではないくらい。この場面を見るためだけでもこのレビューを見る価値ありだ。

 

幻想的な場面の余韻の残る中、続いて退団する沙央のためのコーナー。沙央が、雪と月を歌詞に入れ込んだ惜別の歌「SAILING DAY」をしっとりと歌いながら銀橋を渡る。感傷的なムードの後は彩凪を中心にした若手男役総出演によるワイルドなヒップホップナンバー。この辺の転調ぶりも鮮やか。続いて望海を中心にしたスパニッシュから望海、真彩のデュエットダンスに発展するとレビューの高揚感は最高潮。パレードのエトワールは沙央が務め、永久輝、朝美、彩凪の順で階段降り、彩風が堂々の二番手羽根を背負い、真彩、望海と続いた。望海は「多くの方々のお力と支えがあって今ここに立たせて頂いています。雪組生一丸となって千秋楽まで航海していきたい。何度でもご覧ください」と感謝を込めてあいさつして客席からは万雷の拍手。熱気こもるスタンディングオベーションで新トップの誕生を祝福していた。

 

©宝塚歌劇支局プラス11月11日 薮下哲司 記

 

◎「薮さんの宝塚歌劇講座」よりお知らせ

 

〇…「毎日文化センター(大阪)」では「薮さんの宝塚歌劇講座」(講師・薮下哲司)2017年秋期講座(11月~3月)の受講生を随時募集中です。毎月第4水曜日の午後1時半から3時まで、大阪・西梅田の毎日新聞社3階の文化センターで、宝塚取材歴35年以上の薮下講師による最新の宝塚情報や公演評、時にはOGや演出家をゲストに招いてのトークなど、宝塚ファンなら聞き逃せないマル秘ネタ満載の楽しい講座です。11月は28日が開講日。12月には受講者の皆さんが宝塚の年間ベストテンを決める宝塚グランプリの選定会も行います。ふるってご参加ください。受講料(6回分18150円)。詳細問い合わせは☎06(6346)8700同センターまで。

 

◎…明日海りお主演、花組公演「ポーの一族」特別鑑賞会のお知らせ

 

○…宝塚のマエストロ、薮下哲司さんと宝塚歌劇を楽しむ「花組公演“ポーの一族”特別鑑賞会」(毎日新聞大阪開発主催)が、1月18日(木)宝塚大劇場で開催されます。「桜華に舞え」「幕末太陽伝」「神々の土地」に続く第4回となる今回は、午後1時半からエスプリホールでの昼食会(松花堂弁当)のあと薮下さんが観劇のツボを伝授、3時の回の明日海りお主演、花組公演「ポーの一族」(小池修一郎脚本、演出)をS席(一階中部センター)で観劇します。参加費は13500円(消費税込み)。先着40名様限定(定員になり次第締め切ります。売り切れ必至の公演です。お早めにお申し込みください。)問い合わせは毎日大阪開発☎06(6346)8784まで。

 

 



 

轟悠主演、「神家(こうや)の七人」、石丸幹二、安蘭けい主演「スカーレット・ピンパーネル」開幕

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 ©宝塚歌劇団

 

轟悠主演、「神家(こうや)の七人」、石丸幹二、安蘭けい主演「スカーレット・ピンパーネル」開幕

 

“トップ・オブ・トップス”轟悠の「長崎しぐれ坂」に続く今年二度目の主演作、専科公演、ミュージカル「神家(こうや)の七人」(斎藤吉正作、演出)が、13日、宝塚バウホールで開幕、石丸幹二、安蘭けい主演によるミュージカル「スカーレット・ピンパーネル」(ガブリエル・アリー潤色、演出)も同日、梅田芸術劇場メインホールで初日を開けた。今回はこの模様をあわせてお伝えしよう。

 

「神家―」は、第二次大戦直後のアメリカ東部の町ボルチモアを舞台に、欧州戦線から帰還したマフィアの息子イヴァンの跡目騒動を描いた、斎藤氏が轟の為に書き下ろしたミュージカルコメディ。マフィアを継がず神父になるという心優しい純朴な息子の身体に、マフィアのボスだった亡き父親の幽霊(華形ひかる)が乗り移って大暴れ、ひと騒動が巻き起こる。轟が、純朴な青年と父親が乗り移った凶暴な青年の両方を演じ分けるのがミソという一篇。亡き父親を慕うファミリーの面々に汝鳥伶、一樹千尋、悠真倫といった芸達者に加え月組から春海ゆう、蒼瀬侑季、周旺真広が参加。戦場でイヴァンの命の恩人となる女優ロビンに早乙女わかばという配役。轟を含めて出演者は9人というこぢんまりとした舞台だ。

 

オープニングは欧州戦線の戦場。慰問にきた女優ロビンにプレゼントされ胸ポケットにいれておいたライターに敵弾が命中、命拾いをするエピソードから。ロビンの態度からイヴァンが年下であることがうかがえる。20代の青年を演じる轟が何とも初々しいが、この場面がこの舞台の一番の鍵になっていたことが、あとからわかってくる。そういうちょっとしたひねりも効かせながら、全体としては芸達者なメンバーの小芝居を理屈抜きに楽しんでもらおうという大人のファンタジーだ。「神家の七人」という西部劇の名作「荒野の七人」をもじったタイトルからして人を食っているが、「第二章」や「双頭の鷲」といった完成された作品を見た後では、やや物足りず小粒なイメージは拭えない。

 

とはいえ轟は、虫も殺さぬ心優しい青年と声高に怒鳴りまくるマフィアのドンを一瞬にして演じ分け、その振り幅の広さはさすが年季が入っている。この程度の表層的な変身など轟にとっては目をつぶってもできる業だろう。汝鳥や一樹、悠真らとのコンビネーションもいわずもがなの素晴らしさだった。来年は「ドクトルジバゴ」「凱旋門」と意欲的な新作と代表作の再演が続くこともあってちょっとした肩慣らし的な感覚か。

 

イヴァンの父親役ウィリアムを演じた華形は、白のソフト帽にストライプのスーツがよく似合い、マフィアのボスを楽しんで演じている。この感覚、どこかで見たなあと思ったら「ガイズ&ドールズ」の世界だった。二幕では25年前という設定で若き日もみられるのはサービス満点。

 

汝鳥は、メンバーの長的存在で、こわもてだが、それに似合わず猫に目がないというクライドを落差をつけて好演、笑いを一手に引き受けた。月組メンバーでは蒼瀬が演じたオカマのマフィア、ミックが漫画チックで熱演だった。ただし、この時代のアメリカでいまのように市民権を得ていたかどうかは大いなる疑問。描き方も類型的で、一昔前なら笑いですませただろうが、セクシャルマイノリティの描き方に厳しいいまどき、手放しでは笑えない。

 

紅一点の早乙女わかばは、ロビン役の他にもD.J.役など何役も演じ大活躍。ラストに明かされる秘密もあって、印象的な役まわり。星組時代に「第二章」で轟とはすでに共演済みとあってラブシーンも堂々としていたのが印象的だった。

 

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一方「スカーレット・ピンパーネル」は、宝塚版でおなじみの同名ミュージカルのブロードウェー版脚本の日本初演の再演。パーシーに石丸幹二、マルグリットに安蘭けい、ショーブランに石井一孝というメンバーは初演と変わらないが、ピンパーネル軍団が一新、フレッシュな風が吹いたのと、フランク・ワイルドホーン氏が、二幕冒頭のロベスピエールの歌やパーシーが歌う「ここから先へ」を新たに書き下ろし、宝塚版で印象的な主題歌「ひとかけらの勇気」も「悲惨な世界の為に」という別のタイトルでパーシーとマルグリットがそれぞれの心情の歌として歌うなどの改変がみられ、初演より完成度がより高まっていた。

 

宝塚版との大きな違いは、ルイ・シャルル王太子救出ではなく、マルグリットの弟アルマンを救出することになっていること。アルマンとマリーが恋仲ではないということなどだ。オープニングはマルグリットがパリ最後の舞台で歌っている場面から始まるなど、これはこれで面白くみられるが、ワイルドホーン氏の曲の良さがこの作品でも際立っている。初日にはワイルドホーン、和央ようか夫妻も客席で観劇。終演後にはカーテンコールでワイルドホーン氏が舞台に立ち「この素晴らしい出会いを大切にして、また次の機会に生かせたら」と挨拶、石丸ら出演者を感激させていた。

 

東京公演は11月20日からTBS赤坂ACTシアターで。

 

©宝塚歌劇支局プラス11月15日記 薮下哲司記

 

 

珠城りょう、愛希れいか主演、月組公演「鳳凰伝」全国ツアー開幕

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珠城りょう、愛希れいか主演、月組公演「鳳凰伝」全国ツアー開幕

 

月組トップコンビ、珠城りょう、愛希れいか主演によるグランド・ロマンス「鳳凰伝―カラフとトゥーランドット―」(木村信司脚本、演出)とショー・ファンタジー「CRYSTAL   TAKARAZUKA―イメージの結晶―」(中村暁作、演出)全国ツアーが17日、梅田芸術劇場メインホールから開幕した。今回はこの公演の初日の模様をお伝えしよう。

 

「鳳凰伝―」は、名曲「誰も寝てはならない」で有名なプッチーニの遺作オペラ「トゥーランドット」をベースにしたミュージカル。原作自体は宝塚でも1934年、白井鐡造氏が作品化、1952年には春日野八千代主演で再演され話題を呼んでいる。これを木村氏が21世紀版として新たに書き下ろし、2002年に和央ようか、花總まりの宙組で上演、2003年には博多座で再演する人気を呼び、以来14年ぶりの再演となった。大劇場公演では花總の衣装のすそが銀橋の端から端まで一杯にひろがり、その豪華さが強烈に記憶に残っているが、今回は全国ツアーとあって銀橋がなくその場面のインパクトがなく、人数が少なく初演時に評判となった群衆の大合唱や戦闘シーンも迫力に欠け、装置が簡略化されるなどスケールダウンは否めないが、珠城、愛希コンビが大健闘、見ごたえのある舞台となった。

 

緞帳前に盗賊のタン(紫門ゆりや)とトン(千海華蘭)が登場、2人で緞帳を上げて舞台が始まる。シェークスピア劇などではたまにある幕開き。幕が開くとカラフ(珠城)と小姓ゼリム(蓮つかさ)が登場。戦乱で行方不明になった父王(箙かおる)を探すために北京に向かっているところらしいことが分かる。そこへアデルマ姫(麗泉里)一行が先ほどの盗賊たちに襲われているところに遭遇、カラフは素手で彼らを倒し、名も名乗らず去っていく。その戦いぶりにアデルマ姫は名も知らずカラフに一目ぼれしてしまう。ここの殺陣(渥美博担当)がなかなか見事で珠城の剣さばきの鮮やかさが際だった。トップとして風格が出てきたのも頼もしい。

 

場面は北京。皇帝(輝月ゆうま)の一人娘トゥーランドット(愛希)は、求婚してくる異国の王子たちに三つの謎を出し、解けなければ処刑していた。カラフがやってきたのはペルシャの王子(彩音星凪)が処刑される前夜。騒然とした街でカラフを慕う奴隷の娘タマル(海乃美月)の世話になっている父王と再会する。そうこうするうちにペルシャ王子の処刑に現れたトゥーランドットを見たカラフはその壮絶な美しさに魂を奪われ、自分も謎ときに挑戦しようと決める。カラフをめぐってトゥーランドット、アデルマ、タマルの四角関係がこうやって展開していく。ストーリーはオペラとほぼ同じなので、カラフやトゥーランドットをいかに宝塚の舞台に息づかせるかが問題になるが、珠城、愛希が役にうまくはまったのと、役にうまく近づくことができたことで、これ以上ない理想的な舞台になった。

珠城のカラフは、この上なく力強く、愛希のトゥーランドットは、存在するだけで美しいうえに優雅にしかし凛とした動きで舞う姿はもう神々しいぐらいだ。「グランドホテル」「All for One」と好調なコンビらしい自信と余裕が見ていて心地よかった。

 

初演が水夏希、博多座再演では大和悠河が演じた盗賊の頭バラクは月城かなと。登場シーンからして、客席全員の視線を集めるほどのかっこよさ。カラフと自分の境遇が似ていることから共感を持ち、友情を感じていくあたりを巧みに表現、後半では壮絶な死にざまを見せる。おいしい役を月城が好演した。

 

アデルマ姫の麗は勝ち気な感じをよく出し、タマルの海乃はけなげで古風な耐える女を的確に演じていた。輝月の皇帝もよかったが、父王役の箙の渋い演技も印象的だった。

 

「CRYSTAL―」は、龍真咲時代の月組公演「PUCK」とともに上演されたショーの再演。

“イメージの結晶”をテーマにした中村氏のバラエティー豊かなステージで、同じ月組でたった3年前の作品にも関わらず愛希のほかは出演者が大幅に変わっていて、ほかの組でみるような不思議な感覚。そんななか珠城と愛希のデュエットダンスが3回も登場するのは眼福だった。なかでも「ドール・オペラ」の人形振りのダンスが愛希ならではの素晴らしさ。「Mrシンデレラ」の場面は月城が演じ、シンデレラは海乃が務めた。あと紫門ゆりやと蓮つかさがここという場面で重用され、歌にダンスに大活躍だった。

 

©宝塚歌劇支局プラス11月18日記 薮下哲司

 

 

元雪組トップ、早霧せいなの退団後初コンサート「SECRET SPLENDOUR」

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元雪組トップ、早霧せいなの退団後初コンサート「SECRET SPLENDOUR」(荻田浩一構成、演出)が、19日、梅田芸術劇場シアタードラマシティで千秋楽を迎えた。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。

 

7月に「幕末太陽伝」で退団したばかりの早霧の再出発は、様々なジャンルから集まったエキスパートたちが早霧の新たなスタートを祝いながら、早霧と共にパフォーマンスを披露するといった、これまでのトップの退団後初コンサートとはひと味違ったユニークなステージだった。

 

早霧を中心とした出演者は、東宝版「ロミオとジュリエット」の死役で注目を浴びたダンサー、大野幸人、ミュージカル女優として多彩な才能を発揮する小野妃香里、「アラジン」「ノートルダムの鐘」など劇団四季の大作ミュージカルに次々に主演している海宝直人、圧倒的な歌唱力を誇る歌姫JKim、サックスプレイヤーの一面も持つ丹澤誠二、ダンサーだけでなく振付家、女優としても活躍する原田薫というひとくせもふたくせもある面々。これに長崎県出身の同郷で宝塚の大先輩でもある安寿ミラが特別出演で参加するという豪華版だ。早霧は時にはかっこいい男役姿、時には背中をあらわにしたロングドレスと変幻自在、さまざまな表情を見せ、女優としてのスタートにあたってのショーケースのようなステージだった。

 

ACT1は、フランス、イタリア、スペインを漫遊する形式をとりながら「伯爵夫人」「ローマの休日」「哀しみのコルドバ」と早霧が宝塚時代に出演した作品の名場面や主題歌などをダンスナンバーなどでつづっていく。フランス編のミシェル・ルグランメドレーでは上演中の雪組公演のショーでも使われている「風のささやき」が登場するなど、偶然ではあるが不思議なつながりが面白い。イタリア編ではオードリー・ヘプバーン即興曲で早霧がアン王女に扮した映像が流れ、それがあまりに似合っていて、退団後はこちらで見たいと思うほどだった。スペイン編の「哀しみのコルドバ」では「エルアモール」などのメドレーのあと安寿と早霧が闘牛士と牛になって踊るダンスシーンもあって、これはなかなかのみものだった。続く帝都幻想は大正ロマンの世界。着流しで登場した早霧の殺陣がみどころで、「るろうに剣心」で見せた鮮やかな刀さばきを男性相手に再現した。

 

ACT2は、「ルパン3世」をフィーチャーしたダンスナンバーがオープニング。全員が真っ赤な衣装で登場、スタイリッシュに踊る。「先生と踊ってみよう」のコーナーは平沢智と桜木涼介が交代で出演。私が観劇した日は平沢の日で「私立探偵ケイレブ・ハント」から「シティ・ラプソディ」のデュエットを披露した。

 

ミュージカルなショータイムでは「ハウ・トゥー・サクシード」「ジキルとハイド」「スイート・チャリティ」などからゲストメンバーが歌い踊り、早霧は「ファニーガール」から「パレードに雨を降らさないで」をドレス姿でしっとりと歌い上げた。

 

男役の殻を脱いだ早霧は、生き生きそしてのびのびしていて、在団時よりさらに魅力的。スーツ姿、ドレス姿、そして着流し姿とどれも、よく似合ったが、ドレス姿で肩を出すとあまりにすらりとしていて、よくこれでハードな男役が務まったものだと改めて感心した。

 

すでに来年5~6月にはミュージカル「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」への出演が決まっている早霧。ブロードウェーではローレン・バコールが主演してヒットした舞台だが日本では「ミズ」のタイトルで1982年に鳳蘭が演じた都会的でスタイリッシュな作品。いまの早霧にはぴったりのミュージカルだ。

 

早霧の前雪組トップ、壮一帆が真琴つばさとダブル主演したミュージカル「アダムス・ファミリー」も東京公演が終わって、現在全国ツアー中。壮は、バンパイア一族の妻役を真琴とはまた違った新鮮な役作りで演じ、満員の観客を大いに沸かせていた。「ポーの一族」とも関連性にあるミュージカルとあって大阪公演の客席には稽古中の花組メンバーの姿もちらほらみえるなど、場内は華やかな雰囲気だった。

 

©宝塚歌劇支局プラス11月20日 薮下哲司 記

 

◎…「毎日文化センター(大阪)」では「薮さんの宝塚歌劇講座」(講師・薮下哲司)2017年秋期講座(11月~3月)の受講生を随時募集中です。毎月第4水曜日の午後1時半から3時まで、大阪・西梅田の毎日新聞社3階の文化センターで、宝塚取材歴35年以上の薮下講師による最新の宝塚情報や公演評、時にはOGや演出家をゲストに招いてのトークなど、宝塚ファンなら聞き逃せないマル秘ネタ満載の楽しい講座です。11月は29日が開講日。12月には受講者の皆さんが宝塚の年間ベストテンを決める宝塚グランプリの選定会も行います。ふるってご参加ください。受講料(6回分18150円)。詳細問い合わせは☎06(6346)8700同センターまで。

 

◎…明日海りお主演、花組公演「ポーの一族」特別鑑賞会のお知らせ

 

○…宝塚のマエストロ、薮下哲司さんと宝塚歌劇を楽しむ「花組公演“ポーの一族”特別鑑賞会」(毎日新聞大阪開発主催)が、1月18日(木)宝塚大劇場で開催されます。「桜華に舞え」「幕末太陽伝」「神々の土地」に続く第4回となる今回は、午後1時半からエスプリホールでの昼食会(松花堂弁当)のあと薮下さんが観劇のツボを伝授、3時の回の明日海りお主演、花組公演「ポーの一族」(小池修一郎脚本、演出)をS席(一階中部センター)で観劇します。参加費は13500円(消費税込み)。先着40名様限定(定員になり次第締め切ります。残数僅少。お早めにお申し込みください。)問い合わせは毎日大阪開発☎06(6346)8784まで。

 

 

「レビュー90周年に寄せて」甲南女子大学で宝塚歌劇講座特別編開催

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左から薮下哲司、出雲綾さん、三木章雄さん、永岡俊哉さん

薮下は宝塚の歴史を中心に語りました。

三木さんは入団した当時の思い出や学校制度について語られました。

出雲さんは元生徒ならではの裏話を楽しく話されました。

宙組千秋楽の日にもかかわらず、多くのお客様がお越しくださいました。

4人のトークは時間が足りませんでした。ごめんなさい!

 

 

「レビュー90周年に寄せて」甲南女子大学で宝塚歌劇講座特別編開催

 

宝塚初のレビュー「モン・パリ」上演から90周年と甲南女子大学の宝塚歌劇講座開設10年を記念した「宝塚歌劇講座特別編」が11月19日、神戸市内の同大学7号館501教室に演出家の三木章雄氏、元月組組長で女優の出雲綾さんを迎えて開催された。今回は「宝塚歌劇支局プラス特別編」としてこの模様をお伝えしよう。

 

私が甲南女子大学の信時哲郎教授の依頼を受けて、同大学の文学部日本語日本文化学科で「宝塚歌劇講座」を開講したのは2007年4月。以来丸10年、受講生数はゆうに2000人を越えます。講座の一回目に、宝塚歌劇を見たことがあるかどうかアンケート調査をしたところ、地元兵庫県の女子大であるにもかかわらず、95%の学生から見たことがないという回答が返ってきて驚かされました。俄然、闘志がわいてこの10年間、まさに宝塚伝道師として宝塚歌劇の魅力を伝えてきました。そのかいあって、受講するまで一回も宝塚歌劇を見たことがなかった学生も、映像や実際に観劇することによって、宝塚の魅力を発見、いまやすっかり宝塚ファンになった学生を数多く輩出しています。

 

地元の女子大とあってこの10年のあいだには、タカラジェンヌOGの娘さんや現役トップスターの従姉妹や現役生の中学、高校の同級生、さらには宝塚音楽学校を4回受験したけれど合格できず、普通の大学生として入学してこの講座に出会ったという学生までいろんな学生と出会いました。卒業後、OSKやバレエなどほかの舞台に立っている人や、運よく宝塚関連の仕事に就職でできた人などさまざまですが、大劇場などのロビーで「先生!タカラヅカ見てますよ」と声をかけられると、これほどうれしいことはありません。

 

さて、講座の特別編ですが、当日は宙組トップ、朝夏まなとサヨナラ公演の東京千秋楽ライブを筆頭に月組全ツ、早霧せいなの退団後初コンサートなどなどさまざまな宝塚関連のイベントと重なったにもかかわらず、遠方からの出席者も含めて多くの受講生が参加、盛況のうちに始まりました。

 

最初に、「レビュー90周年に寄せて」の題目に合わせて、私が宝塚での「レビュー誕生」のいきさつを講義。これは通常の宝塚歌劇講座でも行っているもので、それを簡単にしゃべるつもりが、予定を遥かに上回ってしまい、ゲストのみなさんからひんしゅくを買ってしまいましたが、受講生のみなさんは熱心に聞いてくださいました。私が強調したのは、岸田辰彌氏や白井鐡造氏が作った宝塚のレビューはパリやニューヨークのものとは全く違う女性のための宝塚オリジナルのものだということです。

 

続いて、三木さんが、まず1971年の入団当時、健在だったレビューの巨匠、白井氏と高木史朗氏の思い出話から宝塚の演出家の立場からレビューが宝塚で今でも上演され続けている理由について興味深い分析をしてくださいました。白井氏のパシリだったころの思い出話は笑わせられましたが、デビュー作を見た高木氏から呼び出され「宝塚でレビューを作る醍醐味は宝塚でしかできない多くの人数をうまく使うこと」と一時間半にわたって説教された話は興味深いものでした。このことはいまでもレビューを作るにあたって最初に頭に浮かぶことだそうです。そして、いまでも宝塚で毎月のようにレビューが上演できる理由については、多くの人数をいかに安定して使えるかという宝塚の経営的なことにまで触れる内容で、見ているだけでは分からないことだらけでした。

 

一方、出雲さんは出演者の立場から実践的なレビューのお話をしてくださいました。なかで一番興味深かったのはラインダンスの話。手をつないで踊っているように見えますが、実は隣で踊っている生徒とは一切手も身体も触れず、そのうえで同じ角度で足をあげる稽古から始まるのだそう。「筋肉痛で足腰が痛くて大変でした」と初舞台の思い出を話しながら「いまでも前を向いていても真横も見えます」と当時の訓練の成果が女優として活躍する今も役立っているという。

 

司会の宝塚ジャーナリストで羽衣国際大学、永岡俊哉准教授をまじえてのフリートークも話が弾み、あっというまの二時間でした。当日の模様は、小冊子にまとめられて来年の第二回特別編講座で配布されるそう。ということは第二回もあるということらしいです。次回は皆さんぜひご参加ください。

 

©宝塚歌劇支局プラス11月21日記 薮下哲司

 

 

 

◎…「毎日文化センター(大阪)」では「薮さんの宝塚歌劇講座」(講師・薮下哲司)2017年秋期講座(11月~3月)の受講生を随時募集中です。毎月第4水曜日の午後1時半から3時まで、大阪・西梅田の毎日新聞社3階の文化センターで、宝塚取材歴35年以上の薮下講師による最新の宝塚情報や公演評、時にはOGや演出家をゲストに招いてのトークなど、宝塚ファンなら聞き逃せないマル秘ネタ満載の楽しい講座です。11月は28日が開講日。12月には受講者の皆さんが宝塚の年間ベストテンを決める宝塚グランプリの選定会も行います。ふるってご参加ください。受講料(6回分18150円)。詳細問い合わせは☎06(6346)8700同センターまで。

 

◎…明日海りお主演、花組公演「ポーの一族」特別鑑賞会のお知らせ

 

○…宝塚のマエストロ、薮下哲司さんと宝塚歌劇を楽しむ「花組公演“ポーの一族”特別鑑賞会」(毎日新聞大阪開発主催)が、1月18日(木)宝塚大劇場で開催されます。「桜華に舞え」「幕末太陽伝」「神々の土地」に続く第4回となる今回は、午後1時半からエスプリホールでの昼食会(松花堂弁当)のあと薮下さんが観劇のツボを伝授、3時の回の明日海りお主演、花組公演「ポーの一族」(小池修一郎脚本、演出)をS席(一階中部センター)で観劇します。参加費は13500円(消費税込み)。先着40名様限定(定員になり次第締め切ります。残数僅少。お早めにお申し込みください。)問い合わせは毎日大阪開発☎06(6346)8784まで。

 

 

 

綾凰華と潤花が若さあふれる演技で好感の持てる出来栄え 雪組新人公演「ひかりふる路」

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 新人公演プログラムより

 

雪組の望海風斗、真彩希帆、新トップコンビ披露公演、ミュージカル「ひかりふる路~革命家、マクシミリアン・ロベスピエール~」(生田大和作、演出)の新人公演(指田珠子担当)が、11月28日、宝塚大劇場で行われた。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。

 

人気作曲家フランク・ワイルドホーンが、望海、真彩コンビのために全曲を書き下ろした難曲ぞろいの本格的ミュージカルに、星組から雪組に組替えになって最初の公演となった期待のホープ、綾凰華が挑戦、しかも新人公演の主演も初めて。極美慎が初主演した前回の星組公演同様、開演前のロビーは大変な混雑ぶり。綾と相手役に抜てきされた潤花がこの難曲ぞろいの作品にどう取り組むか、満員の観客も固唾をのんで見守った。

結果は、出だしこそ緊張感あふれ、ハラハラさせられたものの歌に芝居に全体的には非常に好感の持てる出来ばえで、本公演が主演二人の高度なレベルの歌声に聞き惚れるあまり、隠れてしまった作品本来のテーマが、若さあふれる凛々しさと真心のこもった丁寧な演技で皮肉にもくっきりと浮き上がった。まだまだ未熟だが綾、潤コンビの無欲の頑張りを称賛したい。

 

綾は、舞台映えする整った容貌と爽やかな個性で早くから大きな役に起用され、「THE LOST  GLORY」新人公演では早くも礼真琴のパット役を演じ、柚希礼音の武道館コンサートにも参加するなど星組のホープだった。北翔海莉時代になって「ガイズ&ドールズ」新人公演で麻央侑希が演じたラスティー役を軽快に演じたのが綾の存在を初めて大きく印象付け、最近では「阿弖流為」の母礼役の好演が記憶に新しい。新人公演も重要な役を占めるようになり、「桜華に舞え」の衣波(本役・紅ゆずる)の誠実な演技が目に浮かぶ。「スカーレット・ピンパーネル」新人公演では今回演じているロベスピエール(本役・七海ひろき)をすでに演じているのも何かの因縁か。雪組組替え後、最初の公演で新人公演主役を射止めたのも頷ける。

 

その綾のロベスピエール(本役・望海)は、ルイ16世の処刑裁判の法廷、せり上がっていきなりソロを歌いだすというオープニングはさすがに緊張が伝わり、見ている方も思わず力が入ったが、譜面通り素直に歌い込み、聞いている方も次第に肩の力が抜けていき、そのあとの展開に希望すら感じさせるソロだった。客席の万雷の拍手がそれを物語っていた。綾の強みはなんといってもその甘いマスクと清潔感。これが今回のロベスピエール役にも生かされ、理想を追求するあまり、周囲が見えなくなって突っ走ってしまう、そんな若さゆえの暴走感が、巧まずして自然ににじみでた。生田氏がロベスピエールに託したテーマが綾によってさらに美しく体現されたといっていいだろう。歌より芝居に重点を置いた演出が正解だった。それにしても綾の凛々しい男役ぶりは思わず見惚れた。

 

革命軍によって家族を惨殺され、ロベスピエールを殺害することで復讐を果たそうとする貴族の娘マリー=アンヌ(真彩)に扮した潤花(じゅん・はな)は、16年初舞台の研2生。今春の「New Wave」で月城かなと、永久輝せあの二人と短いデュエットダンスを踊って一気に注目された新進娘役だ。その時に見せた初々しい感じとは打って変わって大人びた雰囲気で登場。彼女も目鼻立ちがくっきりとした舞台映えがする容姿が宝塚の娘役としては大きな武器で、歌唱力はまだ不安定なところはあるが、芝居ごころがあり、伸びしろはまだまだありそうだ。主演カップルだけの場面と歌がことのほか多いこの作品にあって、ラスト近くの牢獄の場面で、綾ロベスピエールに愛を告白、罪を許す場面の演技は真に迫るものがあった。今後の活躍に大いに期待したい。

 

トップ披露公演とあって主演コンビ以外は特に大きな役がないのが特徴のこの作品にあって主役に次ぐダントン(彩風咲奈)役は叶ゆうりが演じた。暴走するロベスピエールを諫めようとするのだが、逆効果となってロベスピエールに処刑されてしまう。叶は、大きな懐を持つ男として豪快に演じ、強い印象を残した。沙央くらまが演じたデムーランは永久輝せあ。すでに何度も新人公演で主演を演じており、今回は脇に回ったが、主演経験があるというだけで、その存在感は大きかった。舞台の大きさを知るのと知らないのではこうも違うかと思わせる。

 

朝美絢が演じているロベスピエールの側近サンジュストは諏訪さきが演じ好演した。本公演では望海の存在感が大きすぎて、朝美サンジュストは陰に隠れている感があるのだが、新人公演を見ると結構大きな役であることがよくわかる。それを諏訪が終始ぶれずに的確に演じ強い印象を残した。

 

あと元司教タレーラン(夏美よう)に扮した陽向春輝が、本役の夏美とは違った形でアプローチ、後ろで糸を引く黒幕を美しく演じ、クリアな台詞と共に舞台をきっちり締めたのは特筆もの。逆に彩凪翔が演じたマノン・ロラン夫人の星南のぞみはやや貫録不足、位負けしていた。

 

ほかにル・パ(永久輝)の縣千やクートン(久城あす)の眞ノ宮るいもはつらつと演じていたがいかんせん役が小さく、次回に期待したい。トップ娘役の真彩希帆も物売りから衛兵までアンサンブルで何役も出演。花を添えていた。

 

©宝塚歌劇支局プラス11月29日記 薮下哲司

 

 

 

「宝塚イズム36」発売のお知らせ

 

◎…宝塚歌劇の愛ある批評誌「宝塚イズム36」(薮下哲司、鶴岡英理子編、青弓社刊、定価1600円税抜き)が12月1日に全国の大型書店で発売されます。

 

最新号の巻頭特集は11月19日東京宝塚劇場千秋楽で退団した宙組トップスター、朝夏まなとを惜別する「さよなら朝夏まなと」。名前の通り夏の朝のようなさわやかな個性の朝夏にふさわしい潔い退団に温かい言葉が送られました。

 

小特集のトップは「祝!望海風斗・真風涼帆」と雪、宙新トップへの期待。続いて「はいからさんが通る」「ポーの一族」「天は赤い河のほとり」と少女マンガの舞台化が続く宝塚を見据えて「待望コラボ続々!少女マンガと宝塚」を特集しました。

 

OGロングインタビューは朝夏より一足先に退団、12月からミュージカル「屋根の上のヴァイオリン弾き」の長女ツァイテル役で女優デビューする実咲凜音の登場です。

 

ほかに公演評、新人公演評、OG公演評など読み応えたっぷり。宝塚ファン必読の一冊に仕上がりました。ぜひお手元に一冊お求めください。

 


 ©宝塚歌劇団

 

◎…明日海りお主演、花組公演「ポーの一族」特別鑑賞会増席のお知らせ

 

○…宝塚のマエストロ、薮下哲司さんと宝塚歌劇を楽しむ「花組公演“ポーの一族”特別鑑賞会」(毎日新聞大阪開発主催)が、1月18日(木)宝塚大劇場で開催されます。「桜華に舞え」「幕末太陽伝」「神々の土地」に続く第4回となる今回は、午後1時半からエスプリホールでの昼食会(松花堂弁当)のあと薮下さんが観劇のツボを伝授、3時の回の明日海りお主演、花組公演「ポーの一族」(小池修一郎脚本、演出)をS席(一階中部センター)で観劇します。参加費は13500円(消費税込み)。好評につき増席しましたが残数僅少。お早めにお申し込みください。)問い合わせは毎日大阪開発☎06(6346)8784まで。

暁千星、歌にダンスに魅力全開、月組バウ公演「Arcadia―アルカディア―」開幕

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                              ©宝塚歌劇団

 

 

暁千星、歌にダンスに魅力全開、月組バウ公演「Arcadia―アルカディア―」開幕

 

月組の男役ホープ、暁千星が主演した「Arcadia―アルカディア―」(樫畑亜依子作、演出)が、1日、宝塚バウホールで開幕した。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。

 

「Arcadia―」は、1970年ごろのフランスのリヨン近郊を舞台に、ダンサーだった父親が舞台で事故死したことから家庭が崩壊、家を出て他人の家を泊まり歩いていた少年が、ある雨の夜、空腹のため行き倒れたところ、たまたま通りがかったクラブの花形ダンサーに救われ、彼女との出会いを通じて再び踊ることに生きがいを見出していくという少年の成長物語。青年ではなく少年というところがいかにも暁らしいが、とにもかくにも暁のダンサーとしての資質を存分に見てもらおうという狙いのストーリー。暁もそれによくこたえ、はつらつとしたダンスをふんだんに見せる。ストーリーはかなり無理があるが暁ファンにとってはたまらないダンシングミュージカルだ。

 

風間柚乃扮する探偵カミーユが依頼主から頼まれた行方不明のある高級娼婦の消息を探っていくことからストーリーが展開していく。プロローグはそのあたりの経緯をパペットダンスで見せていく。風間は、眼鏡をかけて地味なスーツでの登場なのだが、存在だけですでにスターオーラが立ち上る。しかもセリフ回しが絶妙ですんなりと物語の世界に誘っていく。このあたりのうまさは研4生とは思えない。

 

暁は、プロローグからシャープなダンスを披露、役的には15歳前後の少年という設定だが、逆にそれぐらいの設定だとそれより上に見え、ダンスにも男役としての色気がにじみ出て、スターダンサーとしての着実な成長が頼もしかった。歌唱も著しい向上ぶりで、なめらかな歌声が耳に心地よかった。名前は後半まで明かされず、ミミット(子猫ちゃん)と呼ばれるという設定だが、いかにもそんな雰囲気のキュートな感じをうまく出していた。後半、クラブのダンサーになってからはふんだんにダンスシーンがあり、そのカッコよさはほれぼれする。その切れ味鋭い動きは思わず若い頃の柚希礼音をほうふつとさせた。

 

相手役の花形ダンサー、ダリアは美園さくら。ダリアは行き倒れていた少年を自宅のアパートに連れ帰って泊めてやり、ミミットというニックネームをつけて、面倒を見ることにするのだが、ダンサー仲間はそれを誤解して、という展開。ダリアはミミットより年上という設定で、美園はクラブの花形ダンサーという表の華やかな表情と年下の少年を見捨てておけないという裏の優しさの両方を観客に納得させないといけない難役。下手に演じるとだらしない女性にみえてしまうところを美園はぎりぎりの線で好演した。彼女もスターダンサー役として幕開きから華やかなダンスシーンがある。

 

ダリアの幼馴染で彼女をひそかに思うダンサー、フェリクス役の輝生かなでが、ダリアとミミットの関係にやきもき、ついにはミミットと大喧嘩するという、二番手的な役どころで好演している。暁同様、シャープな動きが際だつダンサーとして早くから注目されていたが、その資質を存分に発揮、精悍な顔立ちとともに男役としての魅力を存分に見せつけた。暁との喧嘩シーンやダリア送別のためのショー、そしてフィナーレとダンスシーンで大活躍する。

 

「グランドホテル」新人公演のオットー、「All for One」のルイ十四世役で一躍注目された風間は、進行役の探偵カミーユとして随所に登場、舞台を軽快に転がしていった。天性の芝居心があるようだ。歌がなかったのが残念だったがフィナーレでは切れのいいダンスも披露した。

 

カミーユの助手になるジョスに扮した礼華はるは、おっちょこちょいなところをいつもカミーユに諭されるという感じの軽い役。台詞がいまいち弾まないのが課題だが、その身長の高さでひときわ目立っていた。

 

光月るう、夏月都、白雪さち花、貴澄隼人、晴音アキといった大人組もそれぞれその立場をきっちり表現、芝居の月組の伝統はさすがだった。なかでも光月のヴァローに安定感があった。スカイステージのナビゲーターをしていた下級生の頃とは打って変わった貫録で感慨深い。

 

ただ、親子の確執や出生の秘密などのストーリーはあってもなくてもいいようなもので、暁のダンサーとしての資質を存分に引き出すという本来の目的を十分に果たしただけで大成功のダンスミュージカルだった。

 

©12月3日宝塚歌劇支局プラス 薮下哲司

 

 

 

 

「宝塚イズム36」発売のお知らせ

 

◎…宝塚歌劇の愛ある批評誌「宝塚イズム36」(薮下哲司、鶴岡英理子編、青弓社刊、定価1600円税抜き)が12月1日から全国の大型書店で好評発売中です。

 

最新号の巻頭特集は11月19日東京宝塚劇場千秋楽で退団した宙組トップスター、朝夏まなとを惜別する「さよなら朝夏まなと」。名前の通り夏の朝のようなさわやかな個性の朝夏にふさわしい潔い退団に温かい言葉が送られました。

 

小特集のトップは「祝!望海風斗・真風涼帆」で雪、宙新トップへの期待。続いて「はいからさんが通る」「ポーの一族」「天は赤い河のほとり」と少女マンガの舞台化が続く宝塚を見据えて「待望コラボ続々!少女マンガと宝塚」を特集しました。

 

OGロングインタビューは朝夏より一足先に退団、12月からミュージカル「屋根の上のヴァイオリン弾き」の長女ツァイテル役で女優デビューする実咲凜音の登場です。

 

ほかに公演評、新人公演評、OG公演評など読み応えたっぷり。宝塚ファン必読の一冊に仕上がりました。ぜひお手元に一冊お求めください。

 

 


                              ©宝塚歌劇団

 

◎…明日海りお主演、花組公演「ポーの一族」特別鑑賞会増席のお知らせ

 

○…宝塚のマエストロ、薮下哲司さんと宝塚歌劇を楽しむ「花組公演“ポーの一族”特別鑑賞会」(毎日新聞大阪開発主催)が、1月18日(木)宝塚大劇場で開催されます。「桜華に舞え」「幕末太陽伝」「神々の土地」に続く第4回となる今回は、午後1時半からエスプリホールでの昼食会(松花堂弁当)のあと薮下さんが観劇のツボを伝授、3時の回の明日海りお主演、花組公演「ポーの一族」(小池修一郎脚本、演出)をS席(一階中部センター)で観劇します。参加費は13500円(消費税込み)。好評につき増席しましたが残数僅少。本公演は全期間完売しています。お早めにお申し込みください。問い合わせは毎日大阪開発☎06(6346)8784まで。

 

 


和央ようか、3年ぶりディナーショーでワイルドホーンの新曲を披露

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和央ようか、3年ぶりディナーショーでワイルドホーンの新曲を披露

 

元宙組トップスター、和央ようかが12月14日、大阪・ホテルニューオータニで「和央ようかクリスマスディナーショー2017」を開いた。今回はこの模様をお伝えしよう。

 

退団後、毎年開いていたディナーショーだが、2015年にフランク・ワイルドホーン氏と結婚、ニューヨークに居を移したこともあって、今回が3年ぶりの開催。客席には和央が在団当時宙組組長だった出雲綾や和央の同期生たち、現役生では月組の紫門ゆりやの姿も見え、会場は華やかな雰囲気。

 

そんななか和央は、ストレートなロングヘアをなびかせて白のパンタロンスーツや背中が大きく空いた真っ赤なドレスなどさまざまな衣装に着替えながらのゴージャスなステージング。一曲目は「007シリーズ」最新作の「スカイフォール」の主題歌から。いきなり「This is the end」の歌詞から始まる意表をついた選曲だったが「英語の歌なので途中で歌うより最初に歌いたかった」と説明。二曲目は在団時のコンサート「Wing」の主題歌を歌い、客席は一気に盛り上がった。

 

3、4曲目のクリスマスソングメドレーですっかりクリスマスモードに入ったところで「ひとかけらの勇気」「ひかりふる路」と宝塚でのワイルドホーン氏の代表曲を続けて披露。新曲「ひかりふる路」はニューヨークの自宅でワイルドホーン氏が作曲していた時から聞いていて、「自然に口ずさんでいる自分がいた」ということでの選曲。望海風斗とは全く違った和央らしいムーディーな歌い方で、違う曲を聞いているようだった。

 

「虹の彼方に」をはさんで、再び夫君ワイルドホーンのメドレー。「ドラキュラ」から始まってサヨナラ公演だった「NEVER SAY GOODBYE」から数曲をメドレー、最後は同作から「One Heart」で締めくくった。この作品は、2006年の初演以来、再演されていないが小池修一郎氏のオリジナルミュージカルの集大成的な作品で、機会があればぜひ再演を望みたい作品のひとつだ。ワイルドホーン氏の珠玉の名曲ぞろいであることがよくわかる。

 

カーテンコールも「ジキルとハイド」から「This is the Moment」そして、今回のディナーショーの最大の目玉であるワイルドホーン氏が愛妻のために作曲したクリスマスソングの新曲「My Favorite Time of year」を本邦初公開。「一年中で一番好きな季節」という和央のためにワイルドホーン氏が心を込めて作曲したバラード風の新曲で一回聞いただけで口ずさめるメロディーラインはさすがだった。結婚してすっかり女らしくなった和央のしなやかな美貌が際だち、目に耳になんとも贅沢なディナーショーだった。

 

東京は18、19日にリッツカールトン東京で。和央はこのあとニューヨークに帰り2月に宙組20周年記念イベントに出演するため、再び帰国するという。

 

©宝塚歌劇支局プラス12月15日記 薮下哲司

 

 

タカラヅカスペシャル2017、今年も華々しく開催!

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年に一度のタカラジェンヌの祭典「タカラヅカスペシャル2017」(石田昌也監修、中村一徳、藤井大介、斎藤吉正構成、演出)が21、22の両日、梅田芸術劇場メインホールで開かれた。今年は「モン・パリ誕生90周年」を記念「ジュテーム・レビュー」のタイトルで、パリやレビューにちなんだ曲で構成した2時間半のスペシャル。今回はこの公演の22日4時の回の模様をお伝えしよう。

 

2017年の各組の舞台をコラージュした映像が映し出される中、スクリーンが振り落とされるとステージがパッと明るくなり、東京公演中の星組を除く各組トップスターたちが勢ぞろい。「ボンジュール宝塚」大合唱の中、スペシャルなステージが開幕した。「モン・パリ90周年」ということで、今年はパリとフランスにちなんだ曲の大特集。轟悠の「PERFUME DE PARIS」から始まって真風涼帆の「シャンソン・ド・パリ」望海風斗の「パリの太陽」珠城りょうの「メモアール・ド・パリ」明日海りおの「楽しいわがパリ」轟を中心にした極め付け「幸福を売る人」とまさにパリづくし。立て続けにシャンソンでオープニング。最初から客席降りもあって大いに盛り上がった。

 

轟を中心にトップ4人が残ってのオープニング・トークは真風と望海が覚えたての中国語で台湾と香港の映画館でライブ中継を見ているファンに向けてのご挨拶。4回目とあってふたりともずいぶん流暢。タカラヅカスペシャルもずいぶんグローバルになったものだ。とはいえ轟を中心に周囲が次々と変わっていくタカラヅカスペシャルはこれで何年続いているのだろうか。轟と今のトップたちとはかなりの学年差があるはずなのだが、一緒に並んでいてもそれをあまり感じさせない若々しさは驚異的だ。パリをネタにしたトークでもおおいに盛り上がる。

 

次いで花、月、雪、宙組のコーナー。花は明日海が「邪馬台国の風」月は珠城が「長崎しぐれ坂」雪は望海が「琥珀色の雨にぬれて」を歌い、各組が今年上演したさまざまな舞台の主題歌で1年を振り返った。宙組の真風はまだトップ披露公演前ということでシャンソンの名曲「愛の讃歌」を披露した。昨年に引き続き今年もパロディーコーナーはなく、歌のみでつづる趣向。組コーナーのあとは専科の華形ひかる、星条海斗、沙央くらまによる「シャンパーニュ」と続き、1幕ラストは、トップコンビが相手を入れ替えてのデュエット。真風と愛希れいかで「ファントム」望海と仙名彩世で「仮面のロマネスク」珠城と真彩希帆で「パリの空よりも高く」明日海と星風まどかで「Adieu Marseilles」という具合。このシャッフルなかなか新鮮だった。最後は「ジュテーム」を4組が歌い踊り、最後は元のさやに納まるという憎い演出。とはいうものの、退団したトップが歌った曲がないばかりか、著作権の関係からか「グランドホテル」など肝心の舞台からの主題歌がなかったりして、一部は全体的にやや単調。

 

休憩をはさんで第2幕は「レビュー」コーナーから。轟の「夢の花すみれ」から始まって「ブギウギ巴里」瀬戸かずや、鳳月杏らによる「ボン・ビアン・パリ」再び轟の「ビギン・ザ・ビギン」と続いて、轟が歌う「水に流して」をバックに黒燕尾服の男役メンバーの群舞が繰り広げられた。藍エリナ振付のスタイリッシュなダンスが見ものだった。

 

轟のミニワンマンショーのあとはぐっと若返って2、3番手のコーナー。宝塚のレビュー作家たちの代表的な主題歌を歌い継ぐ趣向で、まずは彩風咲奈の「ラ・ベル・タカラヅカ」から。白井鐡造の遺作レビューを彩風が好唱。鳳月、彩凪翔、愛月ひかるで「タカラジェンヌに栄光あれ」柚香光と美弥るりかによる「パレード・タカラヅカ」瀬戸、月城かなと、桜木みなとの「ハロー・タカラヅカ」そして芹香斗亜、暁千星、朝美絢で「タカラジェンヌに乾杯!」といった具合。最後はトップコンビと専科以外全員が勢ぞろいして「タカラヅカフォーエバー」で締めくくった。

 

この後のコーナーが今回の目玉。トップスターと客席のファンが、宝塚の名作の一場面のセリフを掛け合いで共演するという企画。この日は「エリザベート」の一場面で望海がトート、客席のファンがエリザベートに扮して、ファンが「どうすればいいの、私、生きていけない」というと望海が「死ねばいい」と答えるもので、かつてのラジオの人気番組「宝塚ファンコンテスト」を客席と舞台で再現したものだ。客席には彩風がレポーターとして待機、ファンと舞台をつないだ。トップ全員が何らかの形で「エリザベート」にかかわっていて、知られざる裏話も飛び出し「エリザベート」がいかに宝塚で大きな演目かが証明された形。このMCコーナーには轟が不在で、4人がのびのびとトークしていたのが印象的。

 

引き続き各組トップがレビューの主題歌を歌い継ぎ、最後は轟を中心に「モン・パリ」の大合唱、続いて「スミレの花咲く頃」を歌い上げて祭典を締めくくった。今年は過去を振り返るというテーマで、新しい展望はなく、明日海以外は今年入れ替わったばかりの新トップが揃い、退団を発表している大物スターもなく、全体的に非常にリラックスした安定感が満ち溢れた。会場もファン参加のコーナーで一気に盛り上がり、夢の祭典というにふさわしいスペシャルだった。

 

©宝塚歌劇支局プラス12月22日記 薮下哲司

最優秀作品賞は「幕末太陽伝」2017宝塚グランプリ決定

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 ©宝塚歌劇団 幕末太陽傳PR写真より

 

 

最優秀作品賞は「幕末太陽伝」2017宝塚グランプリ決定

 

毎日文化センター(大阪)の「宝塚歌劇講座」受講者のみなさんの投票で2017年の宝塚歌劇のベストワンを選定する恒例の「宝塚グランプリ」が、27日決まった。最優秀作品賞は雪組公演「幕末太陽伝」。主演男役、娘役賞はこの公演で退団した早霧せいな、咲妃みゆが昨年に引き続いて連続受賞した。今回はその結果の詳細をお伝えしよう。

 

2017宝塚グランプリ受賞作および受賞者

 

最優秀作品賞

ミュージカル 雪組公演 ミュージカル・コメディ「幕末太陽伝」(小柳奈穂子脚本、演出)

レビュー   宙組公演 スーパー・レビュー「VIVA!FESTA!」(中村暁作、演出)

 

最優秀主演男役賞 早霧 せいな(「幕末太陽伝」「星逢一夜」の演技に対して)

最優秀主演娘役賞 咲妃 みゆ(「幕末太陽伝」「星逢一夜」の演技に対して)

最優秀助演男役賞 美弥 るりか(「グランドホテル」の演技に対して)

最優秀助演娘役賞 白雪 さち花(「瑠璃色の刻」の演技に対して)

最優秀歌唱賞   望海 風斗(「ひかりふる路」の歌唱に対して)

最優秀ダンス賞  愛希 れいか(「グランドホテル」「AllforOne」ほかのダンスに対して)

最優秀新人賞   風間 柚乃(「グランドホテル」新人公演、「AllforOne」の演技に対して)

最優秀再演賞   月組公演「グランドホテル」(岡田敬二、生田大和演出)

最優秀演出賞   生田大和(「グランドホテル」「ひかりふる路」の演出に対して)

最優秀主題歌賞 「ひかりふる路」(雪組公演「ひかりふる路」から)

            生田大和作詞、フランク・ワイルドホーン作曲

最優秀振付賞   御織 ゆみ乃(「VIVA!FESTA!」第5章「YOSAKOIソーラン」の振付に対して)

最優秀衣装デザイン賞 有村 淳(月組公演「AllforOne」の衣装に対して)

最優秀美術賞   大橋泰弘(「グランドホテル」の装置に対して)

特別賞      鳳翔 大(「幕末太陽伝」の貸本屋金造役の演技に対して)

           伶美 うらら(「神々の土地」のイリナ役の演技に対して)

           沙央 くらま(「AllforOne」「ひかりふる路」の演技、長年の宝塚愛に対して)

 

「宝塚グランプリ」 2017年は以上のような結果になった。

 

作品賞ミュージカル部門は、幕末の品川宿を舞台に江戸落語の世界を描いた「幕末太陽伝」

がぶっちぎりのトップ。もとになった川島雄三監督の同名映画の世界観はそのまま、小柳

奈穂子氏が、ほどよくアクを除いて品よく舞台化、宝塚に新たなジャンルを切り開いた画

期的な作品だが、主人公は居残り佐平次というこれまでの宝塚には考えられなかった役

どころ。宝塚の舞台とは相反した世界観を描いていただけに、ここまで受け入れらるとは

実際のところ予想外だった。当初は、三銃士を宝塚らしいユニークな視点で描いた

「All for One」やロマノフ王朝の終末期をスケール感豊かに描いた「神々の土地」の一騎

打ちではないかと予想していたのだが、受講生のみなさんの眼力はさすがだった。ちなみ

に次点は「神々の土地」だった。

 

一方、作品賞レビュー部門は、宙組公演「VIVA!FESTA!」が雪組公演「SUPER

 VOYAGER」を2票差で押さえてトップに。「VIVA!―」は、中村暁氏による世界の祭

りをテーマにした賑やかなレビュー。朝夏まなとがダンサーとして本領を発揮したレビ

ューで、振付賞に輝いた宙組生全員による「YOSAKOIソーラン」の圧倒的な迫力が忘れ

難く、点数を稼いだようだ。

 

 主演男役賞、娘役賞は「幕末太陽伝」で退団した雪組のトップコンビ、早霧せいなと咲

妃みゆの二人が2年連続栄冠に輝いた。二人は居残り佐平次と女郎おそめの演技が高く

評価された結果だが、2月中日劇場での「星逢一夜」の高いレベルの再演も評価の対象に

なった。次点は男役が2票差で朝夏まなと、娘役は「AllforOne」などの愛希れいかとデ

ッドヒートの末、わずか1票差で咲妃に決まった。

 

助演男役賞は、「グランドホテル」のオットー・クリンゲライン役を入魂の演技で魅了し

た美弥るりかが断トツ。次点は「神々の土地」で二枚目をかなぐりすてて怪僧ラスプーチ

ンを演じた愛月ひかるが続いた。同娘役は「瑠璃色の刻」でマリー・アントワネットを圧

倒的な迫力で演じた実力派の白雪さち花に輝いた。「幕末太陽伝」で相模屋のやり手おく

まを達者な演技で見せた舞咲りんが一票差で続いた。

 

歌唱賞とダンス賞は昨年に引き続き、望海風斗と愛希れいかが受賞。なかでも望海の歌唱

賞は「宝塚グランプリ」の初回から4年連続。誰をもよせつけない強みを発揮している。

 

新人賞は「グランドホテル」新人公演でオットー役を好演、「AllforOne」本公演で愛希れ

いか扮するルイ14世の双子の弟役を演じ鮮烈なデビューを飾った風間柚乃が断トツでト

ップ。続いて「ベルリン、わが愛」新人公演が印象的だった極美慎。蓮つかさ、飛龍つかさにも票が入った。

演出賞は「グランドホテル」と「ひかりふる路」の2作で、期待のホープ、生田大和氏が

昨年に続いての受賞。昨年は小池修一郎氏とのダブル受賞だったが、今年は初の単独受

賞。次点は2票差で「神々の土地」の上田久美子氏だった。上田氏は「宇月颯ディナーシ

ョー」の演出も評価が高かった。再演賞は「グランドホテル」「星逢一夜」「スカーレット

・ピンパーネル」と3作品で票が割れたが、最終的に「グランドホテル」が、伯爵を中心

にしたい生田氏のスタイリッシュな演出で受賞が決まった。主題歌賞も生田氏とフラン

ク・ワイルドホーン氏のコンビによる「ひかりふる路」が強さを発揮した。

 

衣装はデニム地の衣装が新鮮だった「All for One」の有村淳氏、美術はロシアの雪原を大

劇場に見事に再現した「神々の土地」の大橋泰弘氏が選ばれた。

 

最後に特別賞は「幕末太陽伝」の貸本屋金造役で、二枚目を棄ててコメディー演技に徹し

有終の美を飾った鳳翔大がぶっちぎりの1位だったが、「神々の土地」のイリナ役で退団

した伶美うらら、「ひかりふる路」を最後に退団する沙央くらまの二人もぜひとの声が多

く3人が選ばれた。

 

2017年の宝塚歌劇は、103年を迎え、新たな取り組みに果敢に挑戦、さらなる成長をと

げた1年だった。作家もベテランと若手がうまくかみあって、バラエティーに富んだ充

実した作品群で楽しませてくれた。一方、トップスターの世代交代もスムースに進み、暮

れのタカラヅカスペシャルはフレッシュでいながら安定感があった。2018年は宝塚にと

ってどんな年になるか、変わらず見守っていきたい。

 

 

©宝塚歌劇支局プラス12月28日記 薮下哲司

 

花組公演「ポーの一族」開幕

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  ©宝塚歌劇団

 

花組公演「ポーの一族」開幕

 

花組トップスター、明日海りおが永遠に年をとらないバンパネラの美少年を演じた話題作、ミュージカル・ゴシック「ポーの一族」(小池修一郎脚本、演出)が1月1日、宝塚大劇場で開幕した。新年最初はこの公演の初日の模様からお伝えしよう。

 

「ポーの一族」は、萩尾望都氏が1972年から76年にかけて「別冊少女コミック」に連載した吸血鬼伝説をもとにした漫画シリーズ。永遠の時を生きることを運命づけられた吸血鬼(バンパネラ)となった少年エドガーの愛と苦悩を描いた作品で、その斬新な構成と耽美的な作画の魅力で多くのファンの心をつかんだ少女漫画史上に残る伝説的作品。演出の小池氏が40年来舞台化を温め、ようやく実現にこぎつけたことや、漫画のイメージにぴったりのフェアリー系の男役スター、明日海の主演とあって、漫画ファン、宝塚ファン双方から熱い期待がかかる新作だったが、小池氏の熱い思いがすみずみまで感じられる渾身の舞台が現出した。

 

舞台は1964年の西ドイツ、フランクフルト空港。ドン・マーシャル(和海しょう)マルグリット・ヘッセン(華雅りりか)バイク・ブラウン4世(水美舞斗)の3人のバンパネラ研究家が、発見されたグレン・スミスの日記から「ポーの一族」について語り始めるところから物語は始まる。この3人が語り部となってストーリーが進行する仕掛けで、時空を飛び越えて自由に行き来する原作を、時系列を整理して進んでいく。

 

時は1865年にさかのぼり、狩りの途中で森に迷い込み、誤って少女メリーベル(華優希)を撃ってしまったグレン・スミス(優波慧)が、連行された館で衝撃的な出来事に遭遇する。エドガーに扮した明日海が、タイトな黒のスラックス、白いシャツに赤いバラを手にもって登場すると、舞台全体が一気に妖しいムードに。その美しさは漫画の100%の再現率。明日海のブルーに光る瞳がなまめかしい。

 

舞台はさらに100年前にさかのぼり、幼いエドガー(鈴美椰なつ紀)と赤ん坊の妹メリーベルが乳母に置き去りにされ、途方にくれていたところを老ハンナ(高翔みず希)に助けられるエピソードが綴られ、エドガーがバンパネラ一族に加わらざるを得なかった理由が説明される。

 

メリーベルをバンパネラから救うために別れるくだりや、恩人のポーツネル男爵(瀬戸かずや)の新妻シーラ(仙名彩世)へのあこがれに似た思いなどを描きながら、時代は1879年の港町ブラックプールへ。ここで、エドガーは町一番の実力者の息子アラン(柚香光)と運命的な出会いを果たす。一幕はアラン登場がクライマックスとなり、二幕へと展開していく。

 

明日海は、ビジュアル的にこれ以上あるとは思えないほどの再現率でエドガーを体現。少年でありながら精神的には大人な雰囲気のあるエドガーの内面をも的確に表現した。トート、光源氏、ビルなどを演じてきた明日海が初めて出会ったぴったりのオリジナルのキャラクターで、ようやく宝塚での代表作に巡り合ったといって誰も異論はないだろう。

 

エドガーをめぐる人々の主要人物は登場順に、まずポーツネル男爵の瀬戸かずや。バンパネラであることに誇りを持ち、血統を残そうとするさまを、存在感たっぷりに演じ抜き、強烈な印象を残した。男爵の妻になるシーラを演じたのは仙名彩世。エドガーのあこがれの存在でありながら、決して清廉潔白ではない難役を、さすがの演技力で表現。ロマネスクな衣装の着こなしも見事だった。

 

シーラに言い寄り、バンパネラであることを見破ってしまう医師クリフォードを演じた鳳月杏も、これまでにない濃い役どころを巧みに演じ印象的。妹のメリーベルは「はいからさんが通る」のはいからさんを演じた華優希が抜擢されたが、さすが期待の娘役とあって存在感抜群。演技のうまさで見せた。

 

エドガーがともに永遠に生きるパートナーと決めるアランを演じた柚香光は、明日海とともに漫画の再現率100%のビジュアルで登場シーンからインパクト十分の適役好演。原作に比べて二人の関係の描写が淡白なのがやや肩すかしだったが、ラストの二人がクレーンに乗って時空を飛ぶシーンはそれを補ってあまりあった。

 

ビルとハロルドの二役を演じた天真みちる、バイク役の水美舞斗、アランを追いかけるマーゴット役の城妃美伶、クリフォードの婚約者ジェインを演じた桜咲彩花、ホテルの支配人アボットを二役で演じた和海しょう、エドガーに血を吸われる花売りの少女ディリーを演じた音くり寿と脇役もきっちりとした見せ場があり、それぞれがしっかりとこなしていて見ごたえがあった。

 

原作を理解している人にとってはどの場面も再現率が高くこたえられないだろうが、全く知らない人にとっては突っ込みどころ満載でやや置いてきぼりの感のある作品ではあるものの、その世界観に一度はまると抜け出せない魅力があるのも確か。描かれているのは永遠の命だが、それを表現できるのは今だけという切なさが充満していて、宝塚でしかできない、まさに宝塚にぴったりの作品だった。

そういう意味でフィナーレに明日海と仙名のデュエットダンスの前に少しでいいので明日海と柚香の妖しいデュエットダンスがなかったのはちょっと残念だった。それがあって初めて完結するのが宝塚だと思う。

初日には原作者の萩尾さんも客席で観劇、終演後に高翔組長が紹介すると笑顔で出演者に大きな拍手、明日海は「小池先生と萩尾先生の出会いに感謝、この奇跡を大事にして、原作ファンの方も、読んでおられない方も、どちらもご満足いただけるよう千秋楽まで精進してまいりますのでよろしくお願いいたします」と挨拶、客席からの拍手はいつまでも鳴りやまなかった。

 

©宝塚歌劇支局プラス1月2日記 薮下哲司

 

◎…暮れに発表した「宝塚グランプリ2017」はこれまでにない予想以上の反響を呼びました。受賞者の何人かからはお礼のコメントも頂きました。また特別賞の鳳翔大さんには京都で行われた能「紅天女」公演時に報告、大変喜んで頂きました。受賞結果に花組と星組がなく、それぞれのファンの方からは偏っているとのクレームがありましたが「邪馬台国の風」「はいからさんが通る」「ベルリン、わが愛」にももちろん投票がありましたが首位には届きませんでした。ちなみにこれまでのグランプリ作品は「前田慶次」「星逢一夜」「るろうに剣心」で雪組が独占。となると偏っているといわれても不思議ではありませんが、それだけ雪組が充実していたという証でもあります。レビュー部門では2015年に花組の「宝塚幻想曲」がグランプリを取っていますが、それにしても全部日本物ということに改めて驚きます。2018年はどんな結果になるかいまから楽しみです。

 

愛月ひかるも永遠の命を持つ青年に、宙組公演「不滅の棘」開幕

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愛月ひかるも永遠の命を持つ青年に、宙組公演「不滅の棘」開幕

 

宙組の人気スター、愛月ひかるが主演したロマンス「不滅の棘」(木村信司脚本、演出)が7日、大阪・シアタードラマシティで開幕した。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。

 

大劇場では永遠に年をとらないバンパネラの少年を主人公にした「ポーの一族」を上演中だが、「不滅の棘」も、偶然かどうか医師の父親に不老不死の薬を飲ませられ永遠の命を持ってしまった青年が、350年もの間、生き長らえて数奇な体験をする物語。オペラにもなっているチェコの作家カレル・チャペック原作の戯曲「マクロプロス事件」がベースで、永遠の命を与えられたのがバンパイアではなく人間であることが「ポーの一族」との違いだ。不老不死は人間だれしものあこがれだが、実際それを手に入れると不幸極まりなく、やはり自然が一番という教訓の物語でもある。

 

木村氏は主人公を女性から男性に変えて2003年に春野寿美礼を中心とした花組で初演、白で統一された衣装や舞台装置が斬新な舞台だった。前年に「エリザベート」でトップ披露、相手役の大鳥れいを送り出したあとコンビを組んだふづき美世との新コンビ披露作品で、瀬奈じゅん、彩吹真央、遠野あすかと今振り返ると豪華メンバーが出演。ユニークな衣装や舞台装置は印象的だったが時制が変わっても衣装の色が変わらないので内容がつかみにくく春野の豊かな歌唱力だけが耳に残った公演だった。

 

今回改めて再見すると、あらかじめストーリーが分かっていることもあって、細部のこだわりがよく理解でき、男役としてひとまわり大きくなった愛月の成熟した演技がこの作品にぴったりはまった。何度もリフレインする主題歌も耳に心地よく響いた。愛月が登場するたびに出現する4人のガールズたちが不可思議な存在だったが、舞台に華やかさをもたらしていて効果をあげていた。

 

1933年のプラハ。有名歌手として当地で公演している青年エロール・マックスウェル(愛月)は1585年生まれの348歳だった。エロールは、1816年のプラハで知り合った女性の子孫フリーダ(遥羽らら)が100年越しの裁判をしていることを知り、フリーダを救うために一肌脱ぐことを決意する。舞台は1603年のギリシャのクレタ島から始まり、1816年のプラハ、1933年のプラハと次々に移り、青年の長く悲しい人生をあぶりだしていく。

 

愛月はエリィ・マクロプロス、エリィ・マック・グレゴル、エロール・マックスウェルと登場するたびに名前が変わるが、実はすべて同じ人間。「ポーの一族」のエドガーと同じく望んで求めた永遠の命ではなく、そのことで厭世的になっているのもなんとなく似ている。1933年のエロールはすっかり生き疲れたカリスマスターとして登場するのだが、愛月はそんな雰囲気を嫌みなく実にうまく出して好演。新人公演主演4回と当初から期待株だったが、卒業後は「エリザベート」のルキーニあたりからようやくエンジンがかかりだし「王妃の館」の金沢貫一、「神々の土地」のラスプーチンとこのところ絶好調、この作品もうまく波に乗った感じがする。初演のときにはあまり感じられなかった主人公の過去への苦い思いのようなものがよく伝わった。課題は歌唱か。特に低音部分が弱かった。

 

相手役のフリーダを演じた遥羽は、宙組新トップ娘役の星風まどかより2期上級生にあたり「王家に捧ぐ歌」新人公演がアムネリス、「Shakespeare」「王妃の館」新人公演で二度ヒロインを演じており、満を持しての大役挑戦。1816年と1933年のフリーダを巧みに演じ分け、なかでも1933年のショートカットにサングラスという現代的な作りがなかなかよく似合っていた。愛月との相性もよく、今後のさらなる活躍が楽しみだ。

 

初演で瀬奈が演じた弁護士アルベルトは澄輝さやと、後半の弁舌部分が聞かせどころ。彩吹が演じたハンスは留依蒔世。アルコール依存症でエキセントリックな演技が必要な役どころを熱演、遠野が演じたその妹クリスティーナは華妃まいあ、きれいなソプラノのソロを好唱、思わず聴き入った。ほかにカメリアの美風舞良、タチアナの純矢ちとせがこの2人ならではの難役を適役好演して脇を締めた。若手ではショーシーンはじめ様々な役で登場した朝央れんと七生眞希がはつらつとした動きでさわやかな印象を残した。

 

 

©宝塚歌劇支局プラス1月7日記 薮下哲司

 

元専科・箙かおるさんが毎日文化センター宝塚歌劇講座のゲストに登場!

 

◎…「毎日文化センター」(大阪)の「薮さんの宝塚歌劇講座」では、今年最初の1月24日の講座に、昨年12月14日付で退団されたばかりの元専科のスター、箙かおるさんを特別ゲストにお迎えすることになりました。汀夏子、麻実れい、平みち、杜けあき時代の雪組で活躍、轟悠時代には組長も務め、専科入り後も渋い脇役で舞台を締め、最近では「王家に捧ぐ歌」「鳳凰伝」の好演が記憶に新しいところです。退団後初めて箙さんの宝塚愛に満ちたお話を聞ける機会です。この機会にぜひ講座にご参加ください。特別に一回限りの特別会員(3500円税抜き)を先着20人に限り受け付けます。参加ご希望の方は1月10日午前10時以降に毎日文化センター☎06(6346)8700までお問い合わせください。

 

真風涼帆と星風まどかの披露公演、ミュージカル「WEST SIDE STORY」

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宙組新トップコンビ、真風涼帆と星風まどかの披露公演、ミュージカル「WEST SIDE STORY」(ジョシュア・ベルガッセ演出、振付、稲葉太地演出補)が、東京国際フォーラムホールCで上演された。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。

 

「WEST SIDE―」のブロードウェーでの初演は1957年。60年以上も前のこと。1961年の映画版は日本のミュージカル界の草創期に大きな刺激を与え、宝塚では1968年にどこよりも先に日本初演、これは当時大きな話題になった。その後も1998、1999年に再演、今回が4度目の上演となる。これまでは大劇場での上演だったが、初演から50周年の今回は出演者40人による公演。初めて作品に見合う規模の公演となったが、劇団四季や来日公演など本来の男女による公演を何度も見ていると、全員女性という宝塚ならではの華やかさはあるもののジーンズにTシャツだけのリアル感あふれる質素な衣装や、レナード・バーンスタインのテノール用の歌を極端にキーを下げて歌う男役や、ジェローム・ロビンスのオリジナルの振付を女性用にアレンジしたダンスを見ていると、それがうまい下手の問題ではなく、この作品を改めて宝塚で上演する意味はどこにあるのだろうと、ちょっと考えてしまう公演でもあった。

 

ただ、作品自体は全く古びておらず、トランプ政権になってから、これまで理性で抑えられていたかにみえていたヘイトスピーチが全土で噴き出した感のある現在のアメリカを見ていると、現実は60年前と何ら変わっていないことを改めて実感、それだけでも今の時期の再演は意義があったと言えよう。二幕の「サムウェア」はとりわけインパクトがあり、宝塚が最も得意とする場面でもあり、宝塚でしかできないたとえようもなく美しい幻想シーンが現出されていた。

 

作品は今更説明するまでもなく「ロミオとジュリエット」を1950年代のニューヨークに移し替え、縄張りをめぐって対立する二つのチンピラグループ、ポーランド系移民のジェット団とプエルトリコ系移民のシャーク団のトニーとマリアが恋をしたことから起こる悲劇を描いたミュージカル。

 

ロミオにあたるトニーを真風、ジュリエットにあたるマリアを星風という配役。真風の声質がテノールではないので「マリア」や「トウナイト」は苦労のあとがうかがえるが、トニーの役作り自体は、少年から大人に脱皮しようとする微妙な年ごろの雰囲気を巧みに表現、一途な思いがうまく伝わった。星風も恋を夢見る少女のわくわく感とあくまで暴力を拒むやさしい心根をみずみずしく体現、ラストシーンの毅然とした態度に少女から大人への成長を見せつけた。デュエットは二人の声質が違いすぎて、うまくハモってなかったように聞こえたが、立ち姿の美しさは抜群。なかなかいいコンビだ。

 

 ティボルトにあたるベルナルドは宙組初登場の芹香斗亜。これまでにない黒塗りで精悍な役作りで臨み、マリアの兄として男役としての新たな領域を開拓した。オリジナルにはベルナルドにはソロがないがクインテットの場面で少しだけソロをつけるなど宝塚的配慮もあったが、基本はダンスがメーン。体育館での大きく華やかなダンスが印象的。

 

「WESTSIDE」オリジナルのベルナルドの恋人役アニータには人気男役の和希そらが起用されたが、これが見事にはまった。宝塚版では1998年の樹里咲穂の印象が強烈だったが、和希アニータはそれに優るとも劣らない出来ばえ。「体育館のダンス」「アメリカ」の鮮やかなダンスといい、二幕のマリアとのデュエットと歌にダンスに本領を発揮、「ドラッグストア」の場面のダンスも含めて見せ場も多く、今回の「WESTSIDE」の白眉だった。男役が女役になって男役のパワーが一番生かせる役で、しかもアニータの個性が和希にぴったり。ちょっとおおげさだが和希のアニータが見られただけで今回の「WESTSIDE」の上演の意味があったかもしれない。

 

ベンヴォ―リオとマキューシオにあたるリフが桜木みなと。「ジェットソング」と「クール」というビッグナンバーのセンターを務める大役。この作品で一番実力が必要な役だが、桜木も大健闘。甘いビジュアルに似合わず、ハードな部分も見せつけ、なかでも「クール」の難度の高いダンスに見ごたえがあった。

 

シャークスではチノの蒼羽りくが、シャープなダンスとともに好演。マリアが「ピンとこない」というのが不思議なくらいのかっこよさだった。

 

ジェットではアクションの瑠風輝が「クラプキ巡査」のナンバーでソロがあり、長身がはえ、歌唱も安定感があった。男勝りの少女エニボディーズの夢白あやも初々しい感じがなんともかわいくて印象に残った。

 

英真なおきのドク、寿つかさのシュランク警部補、クラプキ巡査の松風輝の大人組も達者な演技で脇を締め、若手を支えていた。

 

©宝塚歌劇支局プラス1月20日記 薮下哲司

 

 

 

元専科・箙かおるさんが毎日文化センター宝塚歌劇講座のゲストに登場!

 

◎…「毎日文化センター」(大阪)の「薮さんの宝塚歌劇講座」では、今年最初の1月24日の講座に、昨年12月14日付で退団されたばかりの元専科のスター、箙かおるさんを特別ゲストにお迎えします。汀夏子、麻実れい、平みち、杜けあき時代の雪組で活躍、轟悠時代には組長も務め、専科入り後も渋い脇役で舞台を締め、最近では「王家に捧ぐ歌」「鳳凰伝」の好演が記憶に新しいところです。退団後初めて箙さんの宝塚愛に満ちたお話を聞ける機会です。この機会にぜひ講座にご参加ください。特別に一回限りの特別会員(3500円税抜き)を受付中です。参加ご希望の方は毎日文化センター☎06(6346)8700までお問い合わせください。

 

聖乃あすか、美少年エドガーで初主演「ポーの一族」新人公演、 毎日文化センターで箙かおる大いに語る

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   新人公演プログラムより

 

 

聖乃あすか、美少年エドガーで初主演「ポーの一族」新人公演

 

花組期待の男役スター、聖乃あすかが初主演したミュージカル・ゴシック「ポーの一族」(小池修一郎脚本、演出)新人公演(田淵大輔担当)が23日、宝塚大劇場で行われた。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。

 

永遠に生きることを運命づけられたバンパネラの美少年エドガーの愛と苦悩を描いた「ポーの一族」。花組トップ、明日海りおのためにあったような原作を、小池氏が渾身の舞台化、独特の世界観を宝塚に現出させた。明日海しかできないと思われた当たり役エドガーを新人公演で演じたのは、研4の美形スター、聖乃あすか。どんなエドガーを見せてくれるか満員の観客が見守る中、そのさわやかな演技とすっきりとした美貌で明日海とはまた違った初々しいエドガーを見せ、初主演というプレッシャーをはねのけて大健闘した。周囲を固めたメンバーも聖乃をしっかりと盛り立てて、なんとも気持ちのいい新人公演だった。

 

1本立て公演の新人公演の例に習って、今回も大幅なカットがあり、一幕プロローグのあとは一気に港町ブラックプールのホテルの場面まで飛び、その後はほぼ本公演通りに進行、一幕と二幕のつなぎの部分で聖乃エドガーの「哀しみのヴァンパイア」のソロをはさみ、フィナーレをカットして約1時間40分に収めた。ということはエドガーとメリーベルの幼少時代、さらにエドガーがバンパネラになるいきさつの部分をばっさりとカット、なかなか潔い大胆な展開。プロローグでそれまでの展開をダイジェスト的に見せていることやバンパネラ研究家たちの説明台詞を追加しているので、ストーリーとしてはそれでも十分。いっそすっきりとしてずいぶん見やすかった。

 

エドガーの聖乃あすかは、「はいからさんが通る」の蘭丸役が記憶に新しいが、早くからその美形ぶりが目立っていて、今回のエドガー役は、万人納得の起用。さびしげな瞳とすらりとしたプロポーションは、本役の明日海に優るとも劣らない原作漫画の再現率。台詞や身のこなしがぎごちなくても少年という設定なのであまり気にならなかった。とにかくビジュアルが美しく、男役としては非常にいい資質を持っている。課題は歌唱だが、これは今後の課題として、これからもしっかり見守りたい。

 

エドガーの義母にあたり、エドガーの憧れの存在であるシーラ(本役・仙名彩世)は、城妃美伶。早くから本公演でも大きな役に起用され、新人公演のヒロインも星組時代を含めて4度、「はいからさん―」ではヒロインの親友役を好演するなど着実に成長、新人公演ヒロイン5度目となる今回は主人公の憧れの女性という大役であり難役を、初主演の聖乃をしっかりとサポートしながら華やかに演じた。歌の表現力の充実も著しい。本公演では、この作品唯一のコメディリリーフ的存在であるマーゴット役をハツラツと演じており、いままさに輝いている。

 

アラン役(柚香光)は前回の新人公演で主演を演じた飛龍つかさ。原作漫画のイメージとは違うが、飛龍独特の丁寧な台詞と芝居が生きて、繊細なアラン像を巧みに引き出した。本公演の柚香が原作漫画から抜け出たようなビジュアルだけにややハンデはあるが、中身で勝負といったところ。

 

エドガーを引き取るポーツネル男爵(瀬戸かずや)に扮した綺城ひか理も、すっきりとした佇まいと落ち着いた雰囲気で大人の雰囲気をうまく出し適役好演。舞台全体をリードした。シーラに言い寄り、バンパネラであることを見破って、消滅させてしまう医師クリフォード(鳳月杏)は亜蓮冬馬。進行役を担うバイク・ブラウンには帆純まひろ(水美舞斗)が入り、いずれも好演。なかでも帆純の凛とした二枚目ぶりがうまく引き出されていた。

 

エドガーの妹メリーベル(華優希)は舞空瞳が起用された。それこそ原作漫画の再現率100%の可愛さだったが、前半部分がカットされたことから後半、バンパネラになって貧血気味で倒れる芝居ばかりで何やらかわいそうだった。

 

一方、本公演でメリーベルを演じた華は、バンパネラ研究家マルグリット(華雅りりか)にまわったが、理知的な科学者役を器用にこなし印象的だった。娘役はほかに音くり寿がマーゴット役、春妃うららがクリフォードの婚約者ジェイン(桜咲彩花)を演じたが、春妃の上品な美貌がさえた。男役ではホテル支配人アボット(和海しょう)の龍季澪の堂々とした突き抜けたソロが心地よかった。台詞が歌になっている曲が多く、全体的には歌の実力をさらに磨いてほしいとは思ったが、初主演の聖乃を全員で盛り立てている、そんな花組の温かい雰囲気が舞台の隅々から感じられる公演だった。

 

©宝塚歌劇支局プラス1月25日記 薮下哲司

 

 

 

 元専科の箙かおるさんと薮下(1月24日、毎日文化センターにて)

 

◎…昨年12月14日付で退団した元専科の箙かおるさんが、24日、毎日文化センター(大阪)の「宝塚歌劇講座」のゲスト参加、退団にいたる経緯や退団後の近況、ご自身の宝塚愛をたっぷり語ってくださいました。退団発表が、退団の三日前という急な発表になったことについては「退団は早くから決まっていましたが、周囲がいろいろ気遣っていただくのがいやでぎりぎりにしました」と箙さん。当日に行った宝塚ホテルのサロンコンサート「夢の扉」で「これまでの思いをすべて出し切ったので悔いはありません」とも。コンサートでは質素な黒燕尾、袴、そしてドレスで歌い「45年間の宝塚生活に別れを告げました」とさばさば。

長年の宝塚生活の中での思い出深い役は「鶯歌春」の少年役はじめ数多いが「ショウボート」で「オールマン・リバー」を歌えたこと(この歌を女性が歌ったのは箙さんだけ)と「グランドホテル」初演のヘルマン社長役、そして「王家に捧ぐ歌」のファラオが特に印象に残っているとのこと。最後の公演となった「鳳凰伝」のテムール王も「初めての役どころだったので勉強になった」といつまでも謙虚だった。退団して「なんとなくすっきりした感じ」

といい、今後も師範の免状を持つ日舞はじめ何らかの活動をしていきたいとのことで、とりあえず4月5日に東京ヤマハホールで開かれるシャンソンコンサートへの出演が決まっている。

 

 

 


柚希礼音主演、ミュージカル「マタ・ハリ」大阪から開幕

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柚希礼音主演、ミュージカル「マタ・ハリ」大阪から開幕

 

元星組トップ、柚希礼音が、第一次世界大戦でフランスとドイツのダブルスパイとして暗躍した歌姫マタ・ハリに扮したミュージカル「マタ・ハリ」(石丸さち子演出)が21日、大阪・梅田芸術劇場メインホールから日本初演の幕を開けた。今回は公演の模様をお伝えしよう。

 

グレタ・ガルボ、マレーネ・ディートリッヒ、ジャンヌ・モローとそうそうたる女優が演じてきたマタ・ハリ。カリスマ的存在の魅惑のダンサーで、並み居る男性を手玉に取って国際的に暗躍した女スパイという実像と、それを演じた強烈な個性の女優たちの強烈な個性のおかげで、マタ・ハリというと妖艶でファムファタール(悪女)的なイメージがつきまとうが、柚希礼音が演じたマタ・ハリは、激動の時代に自立を求めて懸命に生きた女性として描かれ、このミュージカルでマタ・ハリ自体のイメージががらりと変わるのではないか、それほど柚希のマタ・ハリは魅力的、これまでのマタ・ハリのイメージを完全に覆した。彼女にとっても退団後初めて巡り合った当たり役と言っていいだろう。

 

親から虐待を受け、娘を亡くすという過酷な過去を持つマタ・ハリが、ジャワのダンスを踊ることで生きる意味を見つけ出し、そのセクシーさから東洋の宝石ともてはやされヨーロッパ全土でカリスマ的人気を獲得していくのとほぼ同時に、第一次世界大戦が勃発、各地を自由に行き来して公演するマタ・ハリがフランスの諜報局からスパイとして利用されることになる。結局、フランスとドイツ双方から利用され、二重スパイの嫌疑をかけられてしまう。彼女がスパイの仕事を受ける原因となる戦闘機パイロットの青年アルマンとの激しい恋、そして裏切り、波乱万丈のストーリーがフランク・ワイルドホーンのパワフルな音楽とともに展開する。石丸氏の演出はストレートに押しまくるタイプで、見る者をぐいぐい引き付けるパワーがあった。

 

退団後、柚希は「PRINCE of BROADWAY」「バイオハザード」「ビリー・エリオット」と着実にキャリアを重ねてきたが、次のミュージカルが「マタ・ハリ」と聞いたときは、正直、柚希の個性とはあまりにも違いすぎ、期待と不安が半々だった。しかし、演出の石上と柚希の真摯な取り組みが功を奏し、マタ・ハリを柚希に寄せ付けた。オープニングのジャワダンス風のソロダンスが素晴らしくて、最初から舞台に吸い寄せられる。スターとしてのカリスマ性があり、マタ・ハリにフランスやドイツの高官が群がってくるという説得力は十分あり、男性を手玉に取るというあたりの妖艶さには欠けるが、女性としてのコケティッシュな雰囲気が身につき、なんとも魅力的。ダンスは持ち前のシャープな切れ味に、しなやかな動きにセクシーさが増した。一方、歌も低音から高音までよく伸び、どの曲も朗々と歌い上げるワイルドホーンの難曲ぞろいの主題歌を圧倒的な迫力で歌い込んだ。柚希のこの役に賭ける並はずれた意気込みを見た感じだ。

 

その他のキャストはダブルやトリプルキャストだが、私が見た日は、フランス諜報局のラドゥー大佐が佐藤隆紀、戦闘機パイロットのアルマンが加藤和樹だったが、いずれも迫真の歌と演技。演者の個性としては双方ともこちらがあっているような気がした。ほかにピエールが西川大貴、パンルヴェ首相が栗原英雄、付き人アンナが和音美桜、ヴォン・ビッシングが福井晶一といった配役。レベルの高い歌唱力の持ち主ばかりでいずれも聴きごたえがあった。なかでも元宙組の和音が情感たっぷりの歌声で際立っていた。

 

大阪公演は28日まで。東京公演は2月3日から18日まで東京国際フォーラムホールCで。

 

©宝塚歌劇支局プラス1月25日記 薮下哲司

 

轟悠主演、ミュージカル「ドクトル・ジバゴ」開幕

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轟悠主演、ミュージカル「ドクトル・ジバゴ」開幕

 

専科の轟悠が、星組の選抜メンバー24人とともに共演したミュージカル「ドクトル・ジバゴ」(原田諒脚本、演出)が4日、大阪・シアタードラマシティから開幕した。今回はこの模様をお伝えしよう。

 

「ドクトル・ジバゴ」は、ロシア革命後、社会主義政権下のソ連で、愛と自由を求めた医師で詩人ユーリの人生を通して生きることの尊さを謳い上げたドラマティックなミュージカル。1957年に作家ボリス・パステルナークが発表した原作は、当時のソ連では発禁となり、1965年に「アラビアのロレンス」のデビッド・リーン監督によって映画化(日本公開は翌年)。「ラーラのテーマ」の甘美なメロディーが印象的で「サウンド・オブ・ミュージック」とアカデミー賞を分けあった。とはいえ50年以上前のこと。すでに伝説の名画となりつつある。映画ファンならずとも誰もが一度は見る映画と思っていたが、いまや誰も知らない映画になりつつあることが、今回の舞台化によってよくわかった。周囲の若い人はもはや誰もこの映画版を知らず、見ていなかったのである。怪奇ホラーの名作「ドクトル・マブゼ」と混同していた人がいたのにはちょっとした衝撃だった。

 

世が世なら昨年は革命100周年を祝っていたソ連もとうに崩壊、世界情勢はがらりと変わってしまった。発表当時とは作品自体の環境が変化し、忘れられて当然ではあるが、現代の日本にあって、この題材はあまりにも現実と遊離していて、宝塚歌劇の観客にはかなりハードルの高いドラマとはいえるだろう。客席もいつになく年齢層が高く、私が見た日は珍しく後方に空席が目立った。とはいえ、大長編を約2時間半に要領よくまとめた原田氏の脚本の手腕は買え、感動的で歯ごたえのある舞台に仕上がった。

 

舞台は1910年、ロシア軍が民衆に発砲、革命の火種となったとされる“血の日曜日事件”に端を発したモスクワでの民衆のデモ場面から始まる。活動家のパーシャ(瀬央ゆりあ)その恋人ラーラ(有沙瞳)らを中心とした「民衆にパンを」「農奴に土地を」と歌う民衆たちの力強いシュプレヒコールを打ち破るように客席から登場した軍隊が発砲、広場は修羅場と化す。宝塚歌劇とは思えないかなりハードなオープニングだ。

 

その同じ日、モスクワの邸宅街にあるグロメコ家では、当主(輝咲玲央)の甥にあたるユーリ(轟悠)と娘のトーニャ(小桜ほのか)の結婚が決まり、婚約披露パーティーの相談が行われていた。邸外ではなにやら騒がしい銃声が聞こえ、ユーリの表情が曇る。昨年宙組で上演された「神々の土地」とほぼ同じころの物語で、革命に人生を翻弄された貴族の話と言えば分かりやすい。

 

1914年、第一次世界大戦が勃発、結婚したばかりのユーリも軍医として出征、夫のパーシャの行方を捜すために従軍看護婦に志願していたラーラと野戦病院で運命的な再会を果たす。モスクワに残した妻トーニャに想いを馳せながらもラーラに運命的なものを感じるユーリ、2人の女性への思いに揺れるユーリの心情を轟ならではの絶妙の演技で見せる。ロシアに革命が勃発、ユーリとラーラの許されない恋は、革命の渦に飲み込まれ、思いがけない方向に流されていく。ユーリとラーラの関係を知ったトーニャの心情やユーリとラーラそれぞれにとって黒い存在である弁護士コマロフスキー(天寿光希)の最後の変心など、やや説明不足な点があるものの、轟はじめ達者な出演者の的確な演技と、極限状況下の人間関係の面白さで最後まで舞台にひきつけられた。

 

轟は、医師として詩人として理想に燃えながら、時代の波に飲み込まれていき、しかし、人間として生きるうえでの信念と尊厳を失わなかったユーリを、轟ならではの包容力ある大きな演技で表現。雨の日に往診に行った隣町で、偶然出会ったラーラと恋に落ちてしまう、大事な場面を納得させた。「長崎しぐれ坂」「神家の七人」そして、このあとは「凱旋門」と主演公演が立て続けに上演される轟、長い宝塚の歴史の中でも別格的存在になりつつあるようだ。箙かおる、飛鳥裕と専科メンバーの退団が相次ぎ、共演者がどんどん若くなっていくにもかかわらず、それほど違和感がないのが轟のすごいところだ。

 

轟をめぐる共演者で相手役を務めたのがラーラの有沙。雪組時代からその実力は際立っていたが、その力を最大限に発揮できる大役であり難役だった。なにしろ革命派の学生パーシャを恋人に持ち、母親の情夫である弁護士コマロフスキーにも関係を迫られ、結婚したばかりのユーリと恋に落ちる。運命に翻弄される女性を、地に足の着いた演技で表現したのは見事だった。時代背景と階級もあって看護婦姿など華やかな衣装は一切着ないが品格が内からにじみでた。

 

有沙に優るとも劣らない好演だったのがトーニャ役の小桜。遠目の客席から見ていると衣装もよく似ているので、一瞬、見間違えることもあったほどだが、ユーリを心から愛しているというピュアな心情を全身で表していて、気持ちのいい演技だった。映画版ではジェラルディン・チャップリンが演じていた。

 

男役はラーラの恋人役パーシャ役の瀬央とコマロフスキー役の天寿が、ドラマに大きく関係してくる重要な役どころ。瀬央は、二枚目だがそれだけではない屈折した青年像のパーシャをスケール感豊かにパワフルに演じ、天寿も、時代をうまく生き抜き、この作品では一番の黒い存在のコマロフスキーを人間味豊かに演じ切った。とりわけ天寿の巧さが際だった。

 

ほかにお針子から革命の闘士となるオーリャ役の紫りらの闊達さ、ユーリの伯父グロメコ役に扮した輝咲が、轟を相手に十分な貫録ぶりで見事だった。ミーシャの天華えま、ワーシャの天希ほまれのさわやかさが暗い場面を救い、ガリューリン少尉の麻央侑希は将校の軍服がよく似合い、ワンポイントだが撤退の無念さがよくにじみ出た。戦闘場面の群舞も見ごたえがあった。松井るみの装置は、こういう中劇場の芝居にはぴったりで、二幕冒頭の列車の場面に類まれな力量を見た。

 

大阪公演は13日まで。東京は20日から26日まで赤坂ACTシアターで。

 

©宝塚歌劇支局プラス2月6日記 薮下哲司

 

 

珠城りょうがサラリーマンに、月組公演、ミュージカル・プレイ「カンパニー」開幕

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珠城りょうがサラリーマンに、月組公演、ミュージカル・プレイ「カンパニー」開幕

 

珠城りょうを中心とした月組による異色の2本立て公演、伊吹有喜氏の同名原作を舞台化したミュージカル・プレイ「カンパニー~努力(レッスン)、情熱(パッション)、そして仲間たち(カンパニー)~」(石田昌也脚本、演出)とショー・テント・タカラヅカ「BADDY(バッディ)~悪党(ヤツ)は月からやってくる~」(上田久美子作、演出)が9日、宝塚大劇場で開幕した。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。

 

昨年のこの時期にも宙組が浅田次郎原作の「王妃の館」を上演、かなり異色の舞台だったが、「カンパニー」も現代の日本を舞台に、トップスターがサラリーマンに扮するという近来にない等身大ミュージカル。ポスターが地味でなんとなく夢がなく、正直なもので客席も初日から2階は後方にちらほら空席が目立った。ところが舞台は、予想をはるかに上回る面白さ。客席は随所で笑い声に満ち溢れ、珠城はじめ出演者はいずれも適役好演、「ヴァンパイア・サクセション」「アーサー王伝説」と好調の石田氏の熟練の手腕が冴えた。

 

 チャイコフスキーの「白鳥の湖」の曲が流れるなか、幕が開くとダンサーたちが勢ぞろい。真ん中の扇がさっと開かれると奥から王子に扮したダンサー、美弥るりかによる「白鳥の湖」のワンシーンが再現される。美弥の鮮やかなステップに見惚れるうちに場面はラッシュアワーの満員電車に。スリ騒動の中、鮮やかな空手と柔道で犯人を捕まえたのは主人公の青柳誠二こと珠城りょう。さっそうの登場だ。

 

「カンパニー」は、昨年5月に出版されたばかりの新作小説。愛妻を亡くしたばかりの製薬会社のサラリーマン、青柳が、同僚の左遷に異議を申し立てたことから社長の娘(早乙女わかば)がプリマを務めるバレエ団に出向させられることになり、世界的プリンシパル、高野悠(美弥るりか)を招いての新解釈版「白鳥の湖」を成功に導く為に、ダンサーや業界人に翻弄されながらも、彼を慕うバレエ団のバレリーナ、高崎美波(愛希れいか)や団員の友情に支えられながら孤軍奮闘する物語。サラリーマン社会の世知辛い現実や、経営の苦しいバレエ団の内情が描かれ、「リストラ」「残業」「有休」「チケットノルマ」などのセリフがポンポン、とうてい夢を売る宝塚の出し物とは思えないが、劇中に「白鳥の湖」のバレエシーンをふんだんに取り入れ、お定まりの主役が降板、代役騒動なども盛り込み、2020年の東京オリンピックムードまで取り入れて今風のバックステージミュージカルとしてうまくまとめている。

 

「一生懸命努力しても報われない現実とそれを知った後の新たな希望を描いた、これまでの宝塚歌劇にはなかったちょっと辛口のエンタテインメント」とは演出の石田氏の弁だが、宝塚らしくない夢も希望もない話のなかから、さわやかな後味の大団円にもちこんだあたりはさすが熟練の腕。思わず笑える楽屋落ちネタや身につまされる身近な会話が頻発する中、ご覧になれば納得してもらえると思うが「今夜はいい月夜ですね」が宝塚での新しい流行語になればうれしい。

 

珠城は、体育会系でバレエのことは何も知らないが、根っから真面目で正義感あふれる青年を、スーツ姿から空手着、浴衣姿まで着こなして、等身大の青年像をさわやかに体現した。

 

11月退団を発表した相手役の愛希は、昼間はコンビニでアルバイトしながら、夜はバレエのレッスンをしている踊ることが大好きなバレリーナ役。出向してきた珠城ふんする誠二にひそかに思いを寄せている。ラストの晴れ舞台のシーンがなかったのは残念だったが、愛希らしいキュートさが最大限に活かされた。

 

美弥がふんした高野は国際的に活躍するプリンシパルという設定で、バレエの特技が最大限に生かされ、しかも大スターらしいカリスマ性も十分。外国のバレエ団で体を酷使するあまり表には出さないが実は故障がちという裏事情もいかにも真実味があった。

 

月城かなと演じる水上は、製薬会社がCM契約している人気グループ、バーバリアンのメンバー。リーダーの宇月颯らとクラシックバレエとはうってかわったヒップホップなど今風のダンスと歌で対照的に登場。バレエをかじったことがあるという設定で、王子役に抜てきされるが…。一見、突っ張りタイプだが実は真面目で気骨のある青年という感じを巧く出していた。

 

あと大きな役としては、有明製薬の社長(綾月せり)の娘でバレエ団のプリマバレリーナ、紗良役の早乙女わかばと高崎と一緒に出向させられる瀬川由衣役の海乃美月。今回が退団公演となった早乙女は華やかな個性がうまく生きたいいはなむけになっているし、海乃も高崎の相棒的な役どころから、美弥の付き人兼トレーナーをするうちに…。となかなかおいしい役を安定感のある演技で好演した。ほかにも美波の後輩、長谷川役の暁千星ら脇に至るまで面白い役がいっぱいあって目が離せない。

                                          

 

一方、宝塚歌劇の新たな物語の紡ぎ手として、いまや絶大な信頼を浴びている上田久美子氏初のショー作品となった「BADDY」は、上田氏らしいストーリー仕立てのショー。ラインダンスやフィナーレのデュエットダンス、さらにはパレードまでが、ストーリーの一環になっていて、それらが新鮮で楽しく、しかも斬新で、これは画期的なショーだった。かつて鴨川清作氏や草野旦氏が試行錯誤していたショーの精神を、宝塚で初めての女性のショー作家となった上田氏が受け継いだといっていいだろう。鴨川氏の「ポップニュース」や草野氏の「Non、Non、Non」「ハッピーエンド物語」といった意欲的なショーを思い出した。上田氏のこのショーは定番のラインダンスやパレードを盛り込んだ宝塚レビューの形式に乗っ取って作られていることが画期的だ。

 

舞台は、一つの国家になり平和化された未来の地球の首都TAKARAZUKACITYが舞台。息苦しくなって月に脱出していたバッディ(珠城)が久々に地球に帰ってきたところから始まる。もこもこの宇宙服を脱ぎ捨てると、真っ黒なスーツに黒いサングラス、手にはタバコというワルなスタイル。グッディに扮した愛希が支配する地球にことごとく反抗、悪をまん延させようというのがバッディの狙い。銀行強盗や偽造パスポート、無銭飲食などあらゆる悪事を地球人に教えていく……。珠城VS愛希という構図で展開していく。

 

案内役的に登場するムームーの夏月都、スース―の白雪さち花、プリンの天紫珠李はじめ出演者はすべて通し役で、衣装も基本は変わらない。美弥は男でも女でもない両性具有的なスイートハート。濃い赤が美弥のテーマカラーで、珠城とのキスシーンもあるなど魅力的。月城はグッディに片想いの相棒ポッキー巡査役、メガネにブルーの制服でややとっぽい感じだがなんともかわいい、といった感じ。

 

なかでもバッディ率いるえんじ色のバッドボーイズたちのクールなダンスがかっこいい。この公演で退団する宇月と早乙女にはフィナーレの珠城と愛希のデュエットダンスのあとに魂の役でふたりの短いデュエットダンスがあるという粋なはからいもうれしかった。宇月は珠城と愛希のダンスの時にはカゲソロも歌った。

 

珠城、愛希、美弥の活躍で基本的には快調だが、中盤ややだれるところが課題。しかし、これなら初見の観客にも親切だし、どれも同じような最近のレビューを見ている眼にはずいぶん新鮮に映った。

 

©宝塚歌劇支局プラス2月10日記 薮下哲司

 

中日劇場ファイナル 星組公演「うたかたの恋」「ブーケ ド タカラヅカ」始まる (永岡俊哉 評)

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 こんにちは。羽衣国際大学准教授の永岡俊哉です。薮下さんが編集者を務める宝塚イズムの執筆者の一人で、このブログ「宝塚歌劇支局プラス」の管理人をしております。今回は私が2月2日から25日まで上演される星組中日劇場公演ミュージカル・ロマン「うたかたの恋」とタカラヅカレビュー「ブーケ ド タカラヅカ」の模様をお伝えしましょう。

 

   ©宝塚歌劇団

 

 毎年、早春の名古屋をすみれ色に染めてきた宝塚歌劇中日劇場公演。その中日劇場がこの3月に閉館することになり、宝塚としては最後の公演を紅ゆずる率いる星組が計40名で担当することになった。星組は秋に台湾公演も控えており、劇団の期待が感じられる。芝居は1983年の初演以来、大劇場や全国ツアーでも再演が繰り返されている「うたかたの恋」で、ご存じハプスブルク王朝の皇太子ルドルフ(紅)とマリー(綺咲愛里)の悲恋の物語である。最近では2013年に凰稀かなめと実咲凜音の宙組が全国ツアー公演で上演している。

 

 まず冒頭に階段の上と下で登場するルドルフとマリー。階段を慎重に降り、白い軍服がキリっと映える紅と純粋にルドルフを思う健気なマリーが中日劇場のスポットライトを浴びる。私は観劇前に紅と綺咲のトップコンビがこの演目に合うかやや不安に感じていたのが、それを払拭するプロローグだと安心した。そして、冒頭は紅の緊張が見て取れたものの、始まってみればルドルフとマリーの死に向かう切ない会話が客席をその世界に引き込んだ。特筆すべきは綺咲演じるマリーの可愛さ、一途さ、健気さで、歌唱も安定した素晴らしいトップ娘役として成長著しく、紅のルドルフに完璧に寄り添っていた。

 そして、今回はフリードリヒ公爵を演じる専科の凪七瑠海も含め、ルドルフの母エリザベートの万里柚美、ジャン・サルヴァドル大公の七海ひろき、ジャンの恋人ミリーの音波みのり、ヨゼフ皇帝の十碧れいや、ブラッドフィッシュの如月蓮、ボヘミアの歌姫マリンカの夢妃杏瑠など組の上級生が脇をしっかり固めて紅を支えるカンパニーとなっていて、これまでの柚希礼音や北翔海莉の時代のトップが引っ張る体育会系と言われた星組とは少し違うテイストを醸し出していた。

 また、実力派の中堅である大輝真琴、紫月音寧、漣レイラ、ひろ香祐、紫藤りゅうも紅と綺咲を盛りたてた。若手では桃堂純、華鳥礼良、前回新人公演主演を務めた極美慎、宙組から組替えとなった華雪りら、前回新人公演ヒロインの星蘭ひとみが存在感をアピールする頼もしさだった。

 芝居としては政略結婚した妻と冷え切った関係のルドルフがマリーと出会い、深く結ばれる。それを許さないヨゼフ皇帝と権謀術数を巡らし権力を手にしようとするフリードリヒ公爵が二人を引き離そうとするが、むしろ二人の仲はさらに深まり、死に向かうことで永遠の幸せを得ると言うご存じの結末。「はかなくも美しく…」と名付けられたラストシーンをひろ香と夢妃のカゲソロで、文字通り美しく切なく飾ってくれた。

 

 一方、ショーの「ブーケ ド タカラヅカ」はタカラヅカレビュー90周年と銘打った前回の大劇場公演のショーを人数半分のバージョンとして名古屋に持ってきたもの。しかし、構成や曲目はほぼ同じとあって、タカラヅカの華やかなショーが名古屋のファンを魅了した。特に、「モン・パリ」、「パリの屋根の下」、「オーシャンゼリゼ」となじみの曲が続くと観客のテンションも上がり、「セ・マニフィーク」の中詰めで最高潮に。そしてスパニッシュダンス、ロケット、燕尾服とドレスのダンスと続き、フィナーレは凪七の歌に乗せてトップコンビ、七海と音波、十碧と夢妃の3組のデュエットダンスの「花夢幻」で美しく締めた。エトワールは97期の歌姫である華鳥礼良が良く伸びる高音を聞かせてくれた。

 

 私が観劇した時は2月9日金曜日12時公演と平日にもかかわらず1階、2階とも満席で、中日劇場の閉館を惜しむ名古屋のファンが多いことを物語っていた。演目として「うたかたの恋」が必ずしも紅に合っているとは思えないが、回りがトップを支えることで芝居を成立させるという新しい星組のパターンが出来上がってきたことは喜ばしいことである。この調子で次回大劇場公演や台湾公演も乗り切って欲しいものである。

 

  ©宝塚歌劇支局プラス 2018年2月12日 永岡俊哉 記

「あかねさす紫の花」博多座役替わり公演両パターンを一泊二日で観劇旅行募集のお知らせ

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  ©宝塚歌劇団

 

毎日新聞旅行からのお知らせ

 

明日海りお主演「あかねさす紫の花」博多座役替わり公演両パターンを一泊二日で観劇!

 

花組トップスター、明日海りおが、中大兄皇子と大海人皇子を上演期間半ばでチェンジするという万葉ロマン「あかねさす紫の花」(柴田侑宏作、大野拓史演出)の珍しい役替わり公演が、レビュー・ファンタシーク「Sante‼」~最高級のワインをあなたに~(藤井大介作、演出)との豪華二本立てで、5月5日から26日まで博多座で上演される。

 

毎日新聞旅行では、この機会にその両パターンを5月15、16日の一泊二日の日程で観劇するツアー(大阪発)を実施することになり、13日から募集を開始した。

 

往復とも新幹線のぞみの利用で、出発は15日朝8時ごろ新大阪発、15日12時の回(Aパターン)を観劇、翌日、11時の回(Bパターン)を観劇、帰着は16日19時半ごろ新大阪着の予定。宿泊は博多座から徒歩5分圏内にある展望風呂付きのおしゃれなリゾートホテル、ホテルリソル博多。15日の開演前と終演後のティータイムに同行する演劇評論家、薮下哲司による作品解説、15日の昼食、16日の朝食、昼食が付いて旅行代金は一人67000円(二人一室)1人部屋ご希望の方は69000円。

 

少々贅沢ですが役替わり公演を一度に見られ、2回往復することや、入手困難なチケットを良席で見られることを考えると、またとないチャンス。申し込み締め切りは3月6日ですが参加人数には限りがあり、観劇ご予定の方はお早めにご一考ください。

 

お問い合わせは毎日新聞旅行☎06(6346)8800まで。

 

「あかねさす紫の花」は、飛鳥時代、中大兄皇子と大海人皇子の兄弟皇子の歌人、額田女王をめぐる葛藤を描いた名作。1976年に中大兄、榛名由梨、大海人、安奈淳で初演、翌年、大海人、汀夏子、中大兄、麻実れいで再演された。以降何度も再演され、最近では2006年に瀬奈じゅんによる大海人皇子バージョンが全国ツアーで上演され、明日海が大友皇子役で出演している。以来12年ぶりの再演となる。

 

博多座公演の役替わりは次の通り。

Aパターン(5~15日)は大海人皇子が明日海りお、中大兄皇子が鳳月杏、天比古が柚香光。

Bパターン(16~26日)は中大兄皇子が明日海りお、大海人皇子が柚香光、天比古が鳳月杏。

両パターンとも額田女王は仙名彩世、藤原鎌足は瀬戸かずや。

 

 

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