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花詩歌タカラヅカ、今年は「ノバ・ボサ・ノバ」に挑戦!「宝塚歌劇講座」に早乙女わかば登場!

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  2018年5月14日 天満天神繁昌亭にて  撮影:永岡俊哉

 

 

花詩歌タカラヅカ、今年は「ノバ・ボサ・ノバ」に挑戦!

 

宝塚を愛してやまない上方落語家たちが宝塚の演目を台本通りに忠実に再現する恒例の花詩歌(はなしか)タカラヅカが、今年も13、14日の二日間、大阪・天満天神繁昌亭で、超満員の観客の爆笑の中、賑やかに開かれた。今回はこの公演の千秋楽の模様をお伝えしよう。

 

「ベルサイユのばら」「エリザベート」「ロミオとジュリエット」「ME AND MY GIRL」「風と共に去りぬ」と続いて、今年の演目はなんと無謀にも「ノバ・ボサ・ノバ」!会場には元専科で本家の「ノバ・ボサ・ノバ」のルーア神父役で出演したこともある名バイプレイヤー、未沙のえるさんや「ANOTHER WORLD」公演を終えて駆け付けた星組メンバーをはじめタカラジェンヌ、演出家の原田諒氏らの姿も見えるなかまずは本業の落語4題から幕開け。月亭天使や桂三金がタカラヅカネタで笑わせてくれたあと、笑福亭生喬は「ANOTHER WORLD」のストーリーのもとになった江戸落語「朝友」を披露。この落語は速記録しか残っていない珍しい落語だが、これを生喬が上方風に初披露、冥土で出会った康次郎とお里が生き返って結ばれるという筋立てを、新内を織り交ぜながら、硬軟自在に展開、本家「ANOTHER WORLD」の世界に誘ってくれた。

 

中入りのあと、いよいよ噺家たちによる「ノバ・ボサ・ノバ」の本番。波の音ならぬ三味線の音色に乗ってまずは紋付きに緑の袴の阿倍野こぶしこと真山隼人が「ノバ・ボサ・ノバ」の内容を浪曲で説明。なにしろ、噺家の得意とする、台詞がほとんどなく、歌とダンスだけで進行するミュージカルへの挑戦だけに、とりあえず冒頭でだいたいの内容を浪曲で説明してしまおうという狙い。

 

出演者には噺家としての名前のほかに「花詩歌タカラヅカ」用の芸名=ジェンヌ名があり、主演のソールに扮する桂あやめには逢阪夕陽。エストレリータの笑福亭生寿には高原らなといった具合。いつもより倍以上の稽古をしたという舞台は、手作りの衣装もそれなりに、振り付けも歌も一応、宝塚オリジナルの台本通り。みようみまねの踊りが、上手下手を通り越して、一生懸命に演じれば演じるほど、笑いをさそい、爆笑の連続と相成った。

 

それにしても出演者たちのオリジナルに対する研究心は半端ではなく、各シーンでポーズが決まると、客席からはやんやの喝采。中詰めの「キャリオカ」の場面では、客席からも掛け声がかかるなどおおいに盛り上がった。歌詞やカツラを飛ばすなど日常茶飯事、お経のような歌があると思えば浪曲のようにこぶしを効かせたり、およそ「ノバ・ボサ・ノバ」とは縁遠いのだが、演じている方が真剣なのが微笑ましく、失敗をネタにギャグにするのは噺家ならではの舞台度胸で、笑い転げているうちにフィナーレに突入。あやめが「シナーマン」を高らかに歌い上げるなか、全員の激しくもゆるいダンスで幕が下り、約一時間があっという間だった。

 

終演後は、劇場前で出演者が観客と記念撮影、最後まで大盛り上がりの「花詩歌タカラヅカ」だった。好評?のため7月16日には神戸喜楽館でアンコール上演、9月には初の東京公演が決まったという。ちなみに来年は「PUCK」が候補に挙がっているという。

 

©宝塚歌劇支局プラス5月14日記 薮下哲司

 

 

5月23日の毎日文化センター「宝塚歌劇講座」に元月組、早乙女わかばさんが登場!

 

◎…毎日文化センター(大阪)の5月23日(水)1時半開講の「宝塚歌劇講座」(講師・薮下哲司)のゲストに元月組の娘役スター、早乙女わかばさんをお迎えすることになりました。5月6日「カンパニー」東京公演千秋楽で退団したばかりの早乙女さんに退団を決意したきっかけや宝塚への思いなどをじっくりとお聞きします。通常は6回受講が原則ですが、特別にこの回だけの特別受講生(受講費3500円+消費税)を募集することになりました。受講希望の方は毎日文化センター☎06(6346)8700(平日10時から18時まで)にお問い合わせください。

 

 


良くできていたとは思うが、物足りなさも感じた…。 星組新人公演「Another World」

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  新人公演プログラムより           ©宝塚歌劇団

 

 

良くできていたとは思うが、物足りなさも感じた…。

星組新人公演「Another World」開催

 

天華えまが3度目の主演を務めた星組のRAKUGO MUSICAL「Another World」新人公演(脚本、演出:谷正純、新人公演担当:指田珠子)が5月15日火曜日に宝塚大劇場で行われた。今回はこの模様を宝塚イズムでも新人公演評を担当している永岡俊哉がお伝えする。(薮下は博多座の花組観劇に出張。)

 

 

「Another World」は上方落語の大ネタ「地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)」や「崇徳院(すとくいん)」、「朝友(あさとも)」、「死ぬなら今」などの東西の古典落語をベースに“あの世”での大騒動を描くコメディー作品。本公演では紅ゆずるが熱演していて、大劇場を爆笑の渦に巻き込んでいる。まさに紅の大当たりの演目となった。

 

 そして、気がつけば新公の長の期になった星組の天華えまが3度目の主演を飾った今回の新公だが、紅に対する当て書きと言ってもいいぐらいのお笑い要素たっぷりで、しかも丁々発止のやり取りが随所にちりばめられた“しゃべくり”満載の作品だけあって、若い星組新公カンパニーがどのようなパフォーマンスを見せてくれるのか、楽しみ半分、不安半分で劇場に向かった。

 開演アナウンスの後で真っ暗になり、チョンパで始まるオープニングから総踊りは、本公演と人数が違うだけ(46人)で、豪華絢爛な日舞ショーは新公とは思えない素晴らしい出来だった。その後も人数が少ないこと以外は本公演とほぼ同じ内容で、違いと言えば冥途歌劇団の件で植田紳爾を持ち出したところを谷正純に変更して笑いを取っていたぐらいだろう。

 そして、実際の芝居は次の幽明境の花園から始まり、康次郎の天華(本役:紅ゆずる)が関西弁でまくしたて、回りとの丁々発止のやり取りをする、これが軸になって物語が進んでいく。天華は関西(滋賀県)出身だけあって、大阪弁は問題なし。ややハスキーな声で、最初はやや裏返ったような聴きづらいことろもあったが、しばらくしゃべるとそれも収まった。歌も合格レベルだろう。まずまずの滑り出しだった。その後も紅から全て教わったと本人が話す通り、本役を忠実に見習って役作りをしていた。ただ、紅に比べると、やや振り幅が小さいと言うか、まじめで面白さが欠けると言うか、頑張っているのだけれど物足りない印象を受けた。

 手伝の喜六は極美慎(本役:七海ひろき)で、康次郎とのコンビで物語を進めていく。極美は前回の新公で主演をやっていることもあってか余裕があり、とても伸び伸びと良い演技をしていた。もちろん、本役の七海と同じく関東出身で大阪弁には苦労したとは思うが、今回のMVPと言って良いと思う。しゃべりの間と緩急や、他の演者とのコンビネーションがピカイチだった。

 一方の米問屋の若旦那の徳三郎(本役:礼真琴)は研3、102期の天飛華音が抜擢されたのだが、これもなかなかのものだった。余裕も何もなかったとは思うのだが、道楽者の若旦那をステキな笑顔で演じていた。天飛は礼をしっかり研究して自分の中に取り込んでいたのがよくわかる徳三郎だった。歌もあれだけ歌えれば研3としては合格だろう。ただ、ふぐチームを引っ張っていくと言う意味ではまだ余裕が無く、場数を踏むことで成長してもらうしかないのだが、東京新公ではその辺も頑張って欲しいし、礼のコピーからさらに進んで自分のものとして演技できるかにも挑戦して欲しい。

 ヒロインのお澄(本役:綺咲愛里)は研4の星蘭ひとみで、前回に続き2度目の新公ヒロインだったが、美形の娘役だけあって、美人座の小野小町の代演として登場する場面から美しさが際立ち、特に立ち姿はなかなかのヒロインぶりだった。人形振りの「崇徳院心中」の日舞は天華と共にとても艶やかだった。ただ、芝居と歌唱はまだまだ改善してもらわないといけないと感じたが、正統派娘役として立っているだけで絵になる人なので、さらに個性も磨き、また様々な役に挑戦して実力を身に着けてもらいたい。

 他に目立った生徒についても書いておこう。船頭の杢兵衛(本役:天寿光希)は碧海さりお。派手さはないが、本役をしっかりと研究した役作りだった。めいど・かふぇの茶屋娘の初音(本役:有沙瞳)を演じた小桜ほのかは、くりっとした目の愛くるしい表情とセリフで冥土ツアーのガイド役をテンポよく演じた。新公ヒロイン経験者だけあって、ゆとりも感じられた。閻魔大王(本役:汝鳥伶)は星組新公メンバーきっての演技派で、スカーレットピン・パーネルの新公でショーブランが素晴らしかった遥斗勇帆。メイクがすごすぎてプログラムを観ないと遥斗だとわからなかったのだが、今回も専科のポジションの難役をしっかりとやり遂げた。冥途のスター(本役:美稀千種)は研3の咲城けいが演じ、一人で銀橋に立つ初体験を多分したと推察するのだが、歌も動きもなかなかのものだった。ただ、まだ遠慮があると言うか、演技も歌もトップスターとしてもっと男臭い、「俺だけを見ろ!」的な演出が欲しかったので、東京新公ではその辺にも挑戦して欲しい。ちなみに、咲城は桃太郎(本役:極美慎)も演じ、こちらは古典的ヒーローの桃太郎らしい素晴らしい笑顔を振りまき、熱演した。娘役でとても良かったのが、天女(本役:白妙なつ)の瑠璃夏花。研2だが非常に堂々としていて、また可憐な顔立ちで歌声も澄んで美しく、ヒロイン候補を発見したと感じた。あと、元は虞美人だった艶冶(本役:音波みのり)を演じた研4で雪組から組替えしてきたばかりの桜庭舞も、出番はわずかだったが芝居が上手く、表情や歌が印象に残った。この人の芝居はもっと長い時間見たいものだ。美人座の阿漕(あこぎ)(本役:夢妃杏瑠)は新公の長だった有沙瞳が演じ、激しい性格の芝居小屋の座頭を本役さながらにおもしろく演じていたのだが、やや一本調子だったと言うか、もっと間と緩急を大事にして欲しいと思った。彼女に関しては、かつて「伯爵令嬢」でセンセーショナルを巻き起こした救いようのない悪役「アンナ」の演技を超える芝居を観られる日を心待ちにしているのだが…。

 

 最後に新公トータルについて述べておこう。今作品はしゃべくりの落語がモチーフの作品だけに、出演者同士の演技やセリフのキャッチボール、コンビネーションが極めて重要だ。落語なら一人の演者が最初から最後まで全場面、全登場人物を演じるのだから、つながりもダイナミックさも抜群に良い。それを舞台でやるのだから大変なのだろうが、本公演ではそれが完ぺきとは言わないまでも、非常に高いレベルでちゃんとできていた。しかし、残念ながら、今回の新公ではそれがややできていなかった。もちろん、芝居全体に破綻は無く、なかなかの出来だったのだ。しかし、何か物足りない。それは、各演者が頑張っている姿は見えるのだが、自分だけがんばっても次にうまくパスできていない、そしてパスをうまく受け取っていないからなのだ。これでは作品としてつながりが悪いと言うか、ダイナミックさが削がれてしまうと言うか、とにかく面白さが半減してしまうのだ。大切なのは「全体の中で各シーンがどんな意味があるのか、どうつながっているのかを通しで理解しているか?」と言うことなのではないだろうか。新公メンバーとは言え、台本全てに目を通しているはずなので、必ずできると思う。東京の新公ではそこをクリアしてもらいたいものである。

(東京宝塚劇場での新人公演は7月5日)

 

  ©宝塚歌劇支局プラス 5月16日 永岡俊哉 記

明日海りおが中大兄皇子と大海人皇子を演じ分け「あかねさす紫の花」博多座公演

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  ©宝塚歌劇団

 

明日海りおが中大兄皇子と大海人皇子を演じ分け「あかねさす紫の花」博多座公演

 

花組トップスター、明日海りおが、かねてからの念願だったという万葉ロマン「あかねさす紫の花」(柴田侑宏作、大野拓史演出)の上演が実現、そのうえ大海人皇子と中大兄皇子の二役を演じ分けるというので話題になっていた花組博多座公演で16日、明日海が中大兄皇子を演じるBパターンが開幕した。今回はA、B両パターンの比較も含めたこの公演の模様をお伝えしよう。

 

「あかね-」は、日本の夜明けの時代、中大兄皇子(のちの天智天皇)と大海人皇子(のちの天武天皇)という兄弟皇子が歌人、額田女王(ぬかたのおおきみ)をめぐって激しい葛藤をくりひろげる愛憎劇。柴田侑宏氏が、万葉集にある大海人皇子と額田女王の相聞歌などからインスピレーションを受けて作り上げたフィクションだ。1976年、榛名由梨、安奈淳の主演による中大兄皇子バージョンを花組で初演、その後、雪組で大海人皇子バージョンとして再演され、その後も再演のたびに改定が加えられてきた。今回はAパターンが大海人バージョン、Bパターンが中大兄バージョンとしての上演で明日海がその両方で主演した。大海人バージョンは2006年の月組全国ツアー以来12年ぶり、中大兄バージョンは2002年の博多座花組公演以来16年ぶりとなった。明日海は、2006年の全国ツアーに大友皇子役で出演していた。

 

まず大海人バージョンは、プロローグで仙名彩世扮する額田が「あかねさす…」と歌うと、舞台中央奥の大ゼリ上の明日海扮する大海人にスポットが当たり「紫の匂える妹を…」と返歌をうたいながら登場、蒲生野の狩りの場面の華やかなオープニングに展開して行く。中大兄バージョンは、額田の「あかねさす」の歌の後、すぐに狩りの場面へと展開、中大兄に扮した明日海が豪華な衣装で登場、天智天皇として即位した祝いの場であることが強調される展開。

 

しかし、蒲生野での大海人と額田の相聞歌のやりとりからその後の祝宴がメーンのこの舞台にあって、観客の感情移入は愛する女性を兄に奪われた大海人に傾きがちで、明日海もAパターンの大海人の演技がいつになく感情がこもり、とりわけ中大兄が額田を妃にすると宣言した後のどうにも抑えられない気持ちを歌うソロが素晴らしく、観客のハートを鷲掴みにした。

 

一方、Bパターンで中大兄に扮した明日海も、佇まいだけで他を射すくめんばかりの堂々たる威圧感で、その存在感を十二分に表現、クライマックスの「馬鹿者!」のセリフにすべてをかけたといわんばかりの迫力があった。弟の妃を自分のものにしてしまう強引さが、明日海なら許されてしまうあたりがさすがだった。とはいえ、続けてみるとBの中大兄バージョンは、ストーリー的にやや無理があるようにみえた。やはりこの話は大海人と額田の引き裂かれても思いをひきずる男女の切ないドラマが見る者の心をざわつかせる。明日海はどちらもさすがに巧くこなしたが、タイプ的にもどちらかというと大海人の方が似合っているように思えた。

 

舞台は蒲生野と最後の祝宴の場面が物語のメーンで、20年前の額田の郷での3人の出会いの場面(大化の改新直前)、中大兄が額田を見初める15年前の難波の宮の場面、10年ほど前の有馬温泉の場面と4つの時制にまたがっており、中大兄、大海人、額田の3人のほか額田を崇拝する若い仏師、天比古の切ない思いがサイドストーリーとして絡み、ドラマに深みを加えている。この天比古という役、初演当時はそれほど大きな役ではなかったのだが、95年の雪組再演で轟悠と高嶺ふぶきがダブルキャストで演じたあたりから出番も多くなり、重要な役に膨らんだ。今回も鳳月と柚香がダブルキャストで演じ、いずれも印象深い。

 

 明日海が大海人を演じたときのAパターンの中大兄を演じた鳳月が、その凛とした立ち姿と鋭い眼光が中大兄の直情的な雰囲気をうまく出して好演。明日海の大海人に対してぎりぎりの作り込みで肉薄していた。一方、Bパターンの明日海が中大兄の時の大海人は柚香。この人は私見では中大兄タイプだと思ったのだが大海人にまわった。柚香は少年時代の純な感じから兄想いの青年の真っ直ぐな作りが予想外に似合っていて、それはそれでよかったのだが、明日海に比べるとまだ深みが足りない。愛する女性を兄に奪われた悔しさの表現がなんだかすごくあっさりしているように見えるのだ。場数を踏んで感情がこもってくればまた変わってくるかも。

 

 肝心の額田女王の仙名は、「あかねさす…」の犬養節の朗誦の美声はさすがで、それを聞くだけでも、この人が額田でよかったと思わせられた。大海人の妃となり、十市皇女を生んで、中大兄に見初められる美貌の変身ぶりにも納得のしなやかさだったが、あまりに回りが美しい、美しいを連発するのはちょっとくどかった。

 

 中臣鎌足は瀬戸かずや。権謀術数にたけた策士的人物で、かなり重要な役どころなので、もう少し腹芸がほしいところ。男役としての色気のある人なので、中大兄の妃を妻に迎えるあたりには違和感はなかった。その中大兄の妃で額田の姉でもある鏡女王を演じた桜咲彩花は、男性優位社会の悲運の女王を決然と演じ切り、これはなかなか迫力があった。

 

 あと印象に残った演者は天比古の兄、銀麻呂を演じた天真みちる、天比古を慕う遊女、小月の乙羽映見の二人。宮中の登場人物とは対照的な庶民の目を代表する役どころでもありこの二人の存在が舞台の幅を広げていた。

 

あと歌で舞台を大きく底上げしたのが、白雉の賀の歌手、羽立光来の朗々たる歌唱。羽立はレビューの第4章、ビアンデ(肉料理)の場面で明日海、仙名のデュエットダンスの歌唱も素晴らしかった。

 

そのレビュー・ファンタスティーク「Sante‼~最高級ワインをあなたに~」(藤井大介作、演出)は、昨年「邪馬台国の風」の時に上演された作品を少人数で再構成したもの。ほぼ本公演を踏襲しているが、スタッフと出演者に体調不良者が多くでたために、客席降りが中止になり、客席と出演者が一体となって乾杯する、このレビューの呼び物の場面がなくなってしまい、観客にとっては気の抜けたシャンパンのようになってしまった感がなきにしもあらず。ただ、舞台上のメンバーはフル稼働、大車輪の活躍ぶり。そんななか明日海が肩の開いた純白のスパンコール輝く豪華なドレスのワインの女王として歌う「5月のパリが好き」の場面がゴージャスだった。ほかの変更点としてはフィナーレ近くの明日海と仙名のデュエットが柚香の歌う「男と女」のスキャットになったのと、水美舞斗が女役で瀬戸と踊った場面は帆純まひろに代わり和海しょうがソロを担当したこと。

 

ショーナンバーとしては、プロローグあとの華やかなシャンパンゴールドの次、ANJU振付の「オドゥール・アニマル」が、宝塚らしいジゴロの場面で今回も一番のみものだった。「ブルージーンと革ジャンパー」をバックに明日海を中心に柚香、瀬戸、鳳月、優波慧らのスタイリッシュなダンスが花組男役の美学を堪能させた。

 

今回の博多座公演は、「あかねさす-」の役替わり人気もあって、全期間完売の超人気公演。客席は東京や大阪からの遠征組も含めて、熱気でむせかえっていた。プログラムがA、B両パターンあり、表紙の写真が違うだけで中身は同じというのはちょっといただけないが、それでもファンは二種類とも買うのだから“お客様は神様”だ。15、16日の両日、毎日旅行が企画した鑑賞ツアーに同行しての観劇だったが、劇場近くのホテルに一泊しての観劇は贅沢極まりなく、参加した40人のみなさんとともに大満足の博多座ツアーだった。 

 

星組新人公演とツアー日程が重なったため、新人公演評は永岡俊哉氏が代わってアップしてくれた。また、16日には、早霧せいな主演、小池修一郎演出の「るろうに剣心」が梅芸製作、新橋演舞場と大阪松竹座で上演されるというビッグニュースも飛び込んできた。「るろう-」は作者の不祥事があり宝塚での再演はないだろうと噂されていただけに、この形での再登場は驚き。宝塚のトップスターが退団してから当たり役を外部で再演した例は、近くでは榛名由梨の「永遠物語」があるぐらい。汀夏子が「回転木馬」を退団後に主演したという例もあるが、これだけ大掛かりな公演は前代未聞ではないかと。ずば抜けた身体能力の持ち主、早霧の剣心、またひとつ新たな楽しみが増えたといえよう。

 

 

©宝塚歌劇支局プラス5月17日記 薮下哲司

早霧せいな、男前な魅力が爆発!退団後初ミュージカル「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」開幕

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早霧せいな、男前な魅力が爆発!退団後初ミュージカル「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」開幕

 

元雪組トップスター、早霧せいなの退団後初ミュージカル「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」(板垣恭一演出)が19日、大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで開幕した。早霧のキュートで男前な魅力が全開したこの公演の初日の模様をお伝えしよう。

 

「ウーマン-」は「キャバレー」「CHICAGO」などのジョン・カンダー作曲、フレッド・エブ作詞のコンビが、ハンフリー・ボガート夫人としても知られた個性派女優ローレン・バコールのためにキャサリン・ヘプバーン主演のコメディー映画「女性№1」をもとに1981年に書き下ろしたミュージカル。風刺漫画作家サムと再婚したバツイチの人気女性ニュースキャスター、テスが、いかに仕事と家庭の両立に成功するかを描いた都会派のミュージカルコメディ。1982年に鳳蘭、古谷一行の主演で日本でも初演されており、それ以来36年ぶりの再演となる。

 

 初演版は、鳳の圧倒的なスターオーラとミュージカルスターとしての稀有な魅力が横溢、その天性のエンターテナ-ぶりを心底楽しませてもらった記憶があるが、共演者の男性陣が今ほどミュージカルにふさわしい歌やダンスの素養にたけた俳優がおらず、鳳のワンマンショーのようなミュージカルだった。そんななかで鳳とテスの前夫の妻ジャンにふんした松金よね子とのかけあいのデュエットが心にしみる名シーンでいまだにしっかりと覚えているほどだ。

 

 今回、早霧がこの作品に挑戦すると聞いたとき、正直、鳳のおおらかで華やかな舞台姿が鮮明に浮かび、早霧がそれを超えられるか期待と不安が半々だったのだが、舞台に早霧が登場したとたんその不安は一気に消え去った。思い切りクールでキュートな男前な感覚が、鳳とはまた違った魅力にあふれて、久々にミュージカルの楽しさが満喫できる快作に仕上がった。

 

舞台は、ウーマン・オブ・ザ・イヤーの授賞式の場面から始まる。名前を呼ばれて黒とゴールドが半々になっているロングドレスで登場した早霧ふんするテスは喜びの場と言うのになにやら様子がおかしい。どうやら夫のサムが家を出て行ったらしい。そこでテスはサムとの出会いのころを回想、2人に過去にさかのぼっていく。授賞式のロングドレスがいまいち地味で舞台映えしないのが惜しいが、一転、スーツにタイトスカートというキャスタースタイルはなかなかかっこいい。ナンバーでは一幕なら「女だけど男」が、いまの早霧にぴったりの楽しい歌。男性ダンサーを従えてのダンスナンバーはスタイリッシュでありながら迫力満点。初演で鳳と松金が歌った二幕後半の「隣の芝生は青い」は、今回は早霧と樹里咲穂が歌ったが、どちらも芝居心があるので、間合いが抜群でなかなか面白いナンバーになった。装置はシンプルだがサムが描くネコの漫画をプロジェクションマップで自由自在に登場させ、全体がとにかくスマート。9人編成の生オーケストラも弾んでいた。

 

早霧以外の出演者では、相手役の相葉裕樹が、さすがの歌唱力で聞かせたほか、キャスターの相棒チップの原田優一が、笑いのツボを押さえた好演で、コメディーリリーフを一手に引き受けた。ロシアの亡命バレエダンサー役はKバレエの宮尾俊太郎が特別出演、華麗なバレエシーンだけでなく美声も披露した。

 

初演と同じく時代は1980年代初頭に設定してあり、早霧ふんするテスが取材するのもマザーテレサやシンディー・ローパー、カーター大統領などなど時代を反映した懐かしい大物ばかり。男性による女性へのセクハラやパワハラが問題になっている昨今、男性や女性などの性意識を通り越して堂々とキャリアを積み重ねるテスの言動は、まさに小さなことを吹き飛ばすほどのかっこよさ。ラストのテスの選択には異論もあるが、すべてテス本人の決断、自分にとって何が大事か、すべてはそこに回帰する。

 

まあ、そんな理屈はともかく、男役以上に魅力的な早霧のクールビューティーぶりをとくとごらんあれ。初日のカーテンコールは満員の観客がスタンディングで祝福。早霧は「お客様の笑い声や手拍子に後ろを押されて無事終えることが出来ました。何度でも見に来てください」と明るい笑顔で挨拶していた。大阪公演は27日まで。東京は6月1日から10日までTBS赤坂ACTシアターで。

 

初日直前に、早霧が再び剣心役に挑む「るろうに剣心」の再演が発表された。東京は10月、大阪は11月。早霧の新たな挑戦にも注目したい。

 

©宝塚歌劇支局プラス5月21日記 薮下哲司

 

◎…9月6日3時の回の「エリザベート」特別鑑賞会は完売しました。好評のため9月10日1時の回で追加開催することにしましたがこちらも完売。現在キャンセル待ちのみ受付中です。お問い合わせは毎日新聞大阪開発☎06(6346)8784まで。

 

 

 

愛希れいかのさよならを惜しむ!「宝塚イズム37」発売! 早乙女わかばさんが毎日文化センター登場!

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愛希れいかのさよならを惜しむ!「宝塚イズム37」発売!

 

宝塚歌劇の愛ある評論誌「宝塚イズム37」(青弓社刊、1600円+税)が、6月1日に全国大型書店で発売されます。

 

 最新号の巻頭特集は「愛希れいかのさよならを惜しむ」。トップ在任歴6年7カ月と長期にわたって月組を支え続けた娘役トップ愛希れいか。7月には娘役としては月影瞳以来となるバウ公演『愛聖女(サントダムール)』に主演、11月18日にヒット作『エリザベート』のタイトルロールで退団する。特集では、その美しさはもちろんのこと、しなやかなダンスや圧倒的な演技力でファンを魅了し続けた愛希に別れと感謝の言葉を贈ります。

 小特集では、誕生から20周年という記念すべき年を迎え、真風涼帆という新トップスターが誕生した宙組を寿ぎ、また、今春、退団した名バイプレーヤー・沙央くらま&宇月颯への思いや「ありがとう」を綴ります。

 

OGロングインタビューには、雪組時代、絶大な人気を誇り昨年7月に退団、5~6月にミュージカル「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」で女優として復帰した早霧せいなが登場、今後の女優としての抱負をじっくり聞いています。聞き手は薮下哲司の担当です。

 そのほかマンガ原作で話題の『ポーの一族』『天は赤い河のほとり』を含むレギュラー執筆陣による大劇場公演評に、薮下哲司と鶴岡英里子による好評の外箱公演対談や鶴岡と永岡俊哉による新人公演評、そして早霧せいなや柚希礼音など数々のOG舞台写真所収の薮下と鶴岡によるOG公演評と盛りだくさんの一冊です!

 

半年に一度の発行になりましたが、その分、内容も充実させています。是非、お買い求めください。

 

 

 

早乙女わかばさんが毎日文化センターで“わかば花火”を打ち上げ!

 

一方、5月23日、大阪の毎日文化センター「宝塚歌劇講座」には5月6日の月組東京公演千秋楽で退団したばかりの娘役スター、早乙女わかばさんが登場、退団後に二週間の近況はじめ退団にいたる経緯や宝塚への思い、今後の抱負などを、受講者のみなさんを前に約一時間たっぷりと話してくれた。

 

早乙女さんは2008年初舞台の94期生。初舞台の月組公演「ME AND MY GIRL」ではラインダンス以外にタップダンスの場面でも起用されるなど早くから注目され、星組に配属後、2年目の「ハプスブルクの宝剣」新人公演で早くも初ヒロインに大抜擢。「本公演で別の役でオーディションがあり、その時、植田景子先生のお目にとまったのかも。何が何だかわからないまま無我夢中でした」とまずは下級生時代の思い出話から振り返る。

 

その後もバウ公演や新人公演のヒロインなど柚希、夢咲時代の星組でのびのびと活躍、バウ公演「ジャン・ルイ・ファージョン」では念願のマリー・アントワネット役を演じた。「“ベルばら”以外の演目で、大好きなマリー・アントワネットを演じることができるなんて本当に幸せでした。これでいつでもやめてもいいと思いました」とも。

 

その後、咲妃みゆが、月組から雪組に組替えになるのと同時に月組へ。「研6で新たな環境に行くことがとても刺激的でした」と早乙女さん。月組の娘役トップ、愛希れいかは一期下にあたり、愛希をサポートする形の二番手娘役という立場で、ドラマシティ公演のヒロインやバウ公演のヒロイン、さらには「1789」や「グランドホテル」では実質ヒロイン役を海乃美月とダブルキャストで演じるなど、在団10年の間、常に重要なポジションを務めてきた。「多くの男役さんの相手役を務めましたが、やはり同期生が相手だとほっとします」とバウでの珠城りょうとの共演が一番思い出深いという。

 

「宝塚が大好きなので、自分を観客の立場で見てしまうんです。娘役10年ということはこれからは女役ですよね。でも私は娘役として辞めたかった。轟悠さんの舞台を見て宝塚に入りたいと思ったのですが、その轟さんと共演させて頂くことができ「長崎しぐれ坂」「カルーセル輪舞曲」では間近で羽を背負った轟さんと同じ舞台に立つことができ、これで思い残すことはないと思いました。「All for One」で辞めようと思ったのですが、ショーのある次の公演の方がいいと思ったとき“神家の7人”のお話を頂き、躊躇なく退団届を出しました」というのが退団の経緯の真相らしい。

 

退団後二週間。「毎日があっというま。15日には博多座に行ってきました」とまだ慌ただしい毎日を過ごしているという。「今後のことはこれからじっくり考えたい」とのことで「宝塚の早乙女わかばという名前を大事にして、いろんなことに挑戦していければ」と目標を話してくれた。充実した宝塚生活を終えて表情は晴れやかそのもの。退団あいさつで多くのファンから共感された「わかば花火」を退団後にもいつか大きく打ち上げてほしい。

 

毎日文化センター(大阪)「宝塚歌劇講座」では随時、受講生を募集しています。お問い合わせは☎06(6346)8700まで。

 

©宝塚歌劇支局プラス5月24日記 薮下哲司

OSKトップスター、高世麻央、涙のラストデーin大阪

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OSKトップスター、高世麻央、涙のラストデーin大阪

 

7月で退団するOSK日本歌劇団のトップスター、高世麻央のサヨナラ公演、レビュー「春のおどり」が、5月27日、大阪松竹座で千秋楽を迎えた。今回は高世の本拠地大阪での最後のステージの模様をお伝えしよう。

 

高世のサヨナラ公演となったレビュー「春のおどり」は第一部が和物の「桜ごよみ夢草紙」(西川箕之助構成、演出、振付)第二部が洋物の「One Step to Tomorrow!」(名倉加代子作、演出、振付)のOSKならではの和洋二部構成のレビュー。

 

1996年に初舞台、2004年の劇団解散、存続の激動の時代を過ごし、2015年に桜花昇ぼる退団を受けてトップスターに就任、その涼やかな歌声と、ダイナミックなダンス、きりっとした立ち姿はさらに磨きがかかり、本拠地の大阪だけでなく首都圏での人気もうなぎのぼりだった。それだけに退団は惜しまれるが、本人いわく「95周年という節目をまかせていただき、自分なりの手ごたえを感じたことと、来るべき100周年を次代に引き継ぐには、今が一番いいとき」と説明、「大好きなOSKをこれからも見守って行きたい」と話す。

 

そんな高世のために一部の和ものでは楊貴妃、光源氏など様々な役を演じ分ける七変化を見せ、二部でもオープニングからフィナーレまでほぼでずっぱりで、まさに高世麻央ワンマンショーとでもいうべきレビュー。とはいえ桐生麻耶や楊琳、高世と同時に退団する真麻里都といった主要スターたちの見せ場もたっぷりあってOSKらしいエネルギッシュなレビュー。アスリート並みのハードなステージを一人一人が底抜けに明るい笑顔で歌い踊る姿は感涙ものだ。これぞOSK!

 

千秋楽のこの日昼夜とも終演後に高世のサヨナラショーがあり、客席はピンクのミニパラソルとペンライトを持ったファンで超満員。本公演終了後、いったん降りた緞帳が再びあがると舞台中央に純白のタキシードを着た高世が登場。まず自身が作詞した「歩き続けて」を熱唱、二曲目も自身の作詞による「Bright Day輝く未来へ」。続いて解散の時の懐かしい曲「Endless Dream」を劇団員全員で歌い継いだ。その間に黒の燕尾服に着替えた高世は真っ赤なバラの花束を抱えて登場。全員に見守られながら「男役に憧れ、OSKの群舞に魅せられて入団、多くのことを学ばせてもらいました。解散の危機の時は、自分の力ではどうすることもできないところで夢をあきらめなければいけないのかと思ったときもありましたが、多くの人のおかげで再び舞台に立たせて頂くことができ、66年ぶりに復活した松竹座の“春のおどり”は今年で15年連続となりました。あきらめなくてよかった。本当に幸せです」とあいさつ。満場から割れんばかりの大きな拍手が沸き起こった。そして最後に「Thanks to all of You~そうさこれからも~」を熱唱、客席の七色のペンライトが揺れ、高世が途中で感極まって思わず涙声になると、客席からは励ましの拍手が起こるなど、感動のフィナーレとなった。歌い終わった高世は「泣くまいと思っていたのですがだめでした」と涙でくしゃくしゃになった表情感謝のあいさつ。サヨナラショーの幕を閉じた。拍手は鳴りやまず、三度目のカーテンコールにアカペラでOSKのテーマソング「桜咲く国」を歌ってようやく大阪でのラストステージの幕を下ろした。幕が下りる寸前、客席から「どうしてそんなにかっこいいの」という声が飛び「みなさんの応援のおかげです」と答えてまたまた大きな拍手に包まれ、最後までさわやかな高世のサヨナラショーだった。

 

東京は新橋演舞場で「夏のおどり」として7月5日から9日まで上演され、これが高世麻央の最後のステージとなる。

 

©宝塚歌劇支局プラス5月27日記 薮下哲司記

 

 

甲南女子大学宝塚歌劇講座特別編「エリザベートと宝塚」に一路真輝が登場!参加者大募集!

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甲南女子大学宝塚歌劇講座特別編「エリザベートと宝塚」に一路真輝が登場!

 

宝塚大劇場では8月24日から珠城りょう、愛希れいから月組によるミュージカル「エリザベート」(小池修一郎潤色、演出)が上演されますが、今年はエリザベート皇妃の没後120年にあたり、甲南女子大学(神戸市東灘区)では、これに併せて実際のエリザベート皇妃の足跡を振り返りながら、ミュージカル「エリザベート」の魅力と人気の秘密を探る「宝塚歌劇講座特別編」を9月2日午後3時から同大学755教室で開催することになりました。ゲスト講師には1996年の宝塚版「エリザベート」初演で死神トート、2000年からの東宝版ではエリザベート皇妃を演じた元雪組トップスター、一路真輝さんをお迎えして、ミュージカル「エリザベート」の魅力を語って頂きます。

 

講演は、午後3時から甲南女子大学の宝塚歌劇研究会エトワール所属の学生によるエリザベート皇妃の生涯についての発表のあと、元甲南女子大学非常勤講師で映画、演劇評論家の薮下哲司講師が宝塚とエリザベートの歴史を紹介、一路真輝さんにミュージカル「エリザベート」初演の苦労と作品の魅力についてお話を聞いた後、薮下講師の一路さんへのインタビューによるフリートーク(約1時間)で宝塚版、東宝版の「エリザベート」にまつわるさまざまなエピソードを伺います。司会は甲南女子大学「宝塚歌劇講座」担当の永岡俊哉羽衣国際大学准教授が担当します。

 

終了後には出席者からの質問コーナー(10分程度)も予定していますので、ふるってご参加ください。

 

◎甲南女子大学宝塚歌劇講座特別編「エリザベートと宝塚」

 

日時 9月2日(日)15時から17時

場所 甲南女子大学751教室(7号館5階)

受講無料/事前申込制

(受講申し込みは甲南女子大学ホームぺージ「イベント」からか往復はがき。

往復はがきの場合は往信面に入場希望者の人数、氏名、年齢と代表者氏名、郵便番号、住所、電話番号、この講座を知ったきっかけを明記、返信面に返信先の住所、宛名を記入の上、

〒658―0001兵庫県神戸市東灘区森北町6-2-23

甲南女子大学部文学部

日本語日本文化学科コモンルーム宝塚歌劇講座係まで。

受付期間は6月10日から8月19日まで。定員(480人)になり次第締め切ります。

(乳幼児未就学児の入場は不可)

 

出演 一路真輝(女優、元宝塚歌劇団雪組トップスター)

    薮下哲司(映画、演劇評論家、元甲南女子大学非常勤講師)

司会 永岡俊哉(甲南女子大学非常勤講師、羽衣国際大学准教授)

 

©宝塚歌劇支局プラス6月2日 薮下哲司記

 

 

 

 

 

 


 

18年ぶり再演!雪組公演、ミュージカル「凱旋門」開幕

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   ©宝塚歌劇団

 

 

18年ぶり再演!雪組公演、ミュージカル「凱旋門」開幕

 

専科の轟悠が雪組トップ時代に主演した作品に18年ぶりに再挑戦するミュージカル・プレイ「凱旋門」(柴田侑宏作、謝珠栄演出)とショー・パッショネイト「Gato Bonito‼」~ガート・ボニート ~美しい猫のような男~(藤井大介作、演出)が、6月8日、宝塚大劇場で初日の幕を開けた。今回はこの公演の初日の模様をお伝えしよう。

 

「凱旋門」は「西部戦線異状なし」でも知られるドイツの作家エリッヒ・マリア・レマルク原作による同名小説の舞台化。ドイツでナチスが台頭した1930年代後半、各国から亡命者が流入した騒然としたパリで、ドイツから亡命した外科医師ラヴィックとイタリア人女優ジョアンとの明日をも知れない極限状況下での切ない恋を描いたドラマチックなラブストーリー。日本ではイングリット・バーグマン主演の映画がヒットしたことで知られるが、宝塚では2000年7月に当時雪組のトップコンビだった轟悠、月影瞳の主演で初演され、轟が芸術祭で優秀女優賞を受賞して話題になった。轟はそれに値する好演だったが、芸術祭の選考委員は参加作品だけを見て判断、他の宝塚の作品は見ていないので年間を通じてその年のベストということではない。

 

それはさておき、以来18年ぶりの再演で、当時と同じ轟悠の主演というのが宝塚としてはこれまでにない画期的な舞台となった。スターの退団が前提の宝塚にあって18年ぶり再演となると主演者が一新するのが常、そんななかで同じ役に挑戦した轟は、男役としての渋みとかっこよさに磨きがかかったうえ、演技はよりソフトになり、復讐に燃える亡命外科医の悲哀をクールに体現、いまや“トップ・オブ・トップス”というよりは“ゴッド・オブ・トップス”の域。年齢差のある真彩希帆とのコンビにそれほど違和感がなかった。初演とは、細かいところでいろいろな変更があるが、ラヴィックとジョアンの部分は基本的に変わらず、ちょっとした行き違いから悲劇になだれ込んでいくクライマックスは轟と真彩の繊細な演技が巧くかみ合って切なく盛り上がった。テクニックでかわしたとはいうものの轟が声をつぶしていて歌唱がやや聞きづらかったのがちょっと心配だった。

 

ラヴィックの親友ボリス役の望海風斗は、舞台のナレーターのような役どころで、ボリス自身にドラマ性がないので、初演時より出番が多くなり、歌が増えても特に面白みのある役でないのが弱い。ただし、望海は轟を相手に一歩もひかない貫録と押し出しで、時にはラヴィックの兄貴分的な雰囲気まで漂わせる好演。ジョアンとの三角関係とかラヴィックに対してもう少しドラマチックな絡み方があれば役としてもう少しさまになっただろうと惜しまれる。

 

ラヴィックの相手役を演じた真彩は、化粧のしかた、衣装の着こなしといった基本的な部分で課題はあるものの、台詞の緩急などの演技的な部分は申し分がなく、ややもすればだらしない女性に見えるジョアンを、ぎりぎりの線で品格を保ち、観客にジョアンの寂しさを納得させたのは見事だった。歌唱力も申し分なし。

 

この3人のほかは群像的な描かれ方で特に大きな役というのはラヴィックが国外退去になっている3か月の間にジョアンの前に登場するアンリ役の彩風咲奈、「オテル・アンテルナショナル」に集う亡命者たちの中のスペインからの亡命者ハイメの朝美絢、画家の青年ローゼンフェルトの永久輝せあといったところ。彩凪翔、真那春人も適役だったが、彩風の水も滴る二枚目ぶりが際立った。女将の美穂圭子も持ち前のつややかな歌声で印象的。シャンソンの名曲が各シーンにちりばめられていて、美穂はじめいろんな役のメンバーが歌い継ぐのが効果的。コロスのダンスナンバーも謝氏らしいシャープなものが多く見ごたえがあった。娘役はゴールドベルク夫人の朝月希和くらいしか特筆するべき役はなかったが朝月が好演、朝月のジョアンも見たいと思わせた。

 

丁寧でしっかりした男女の心理劇ではあるが改めて再演するほどの作品かなあとやや疑問だったのだが、謝演出は二人のラブストーリーの背景を描くことに力を入れていて、戦時下の抑圧されたなかで自由の尊さを歌い上げる硬派の社会ドラマに仕上げたのは正解だった。ラストで収容所に連行されるラヴィックたちがその後どんな運命をたどるのか、わかっているだけに胸苦しい。音楽の寺田瀧雄氏の遺作で「雨の凱旋門」「たそがれのパリ」「金色の雨」そして「いのち」と名曲の数々をきいていると、いまさらながら寺田氏の音楽的才能を再認識させられた。寺田氏の音楽が再評価されればそれだけでも再演の意義はあったと思う。

 

「ガート・ボニート」は、猫をテーマにしたラテンショーで、出演者全員が猫という設定。犬派の藤井氏がなぜ猫がテーマのショーを作ったのか理解に苦しむが、望海はジャングルに現れた神秘的で野性的な猫なのだそう。梨花ますみ組長がカーテン前で「ガート・ボニート」を呼び出すソロを歌うと、銀橋からかっこいい猫が登場、一瞬、望海かとおもったら彩風咲奈。彩凪、朝美、永久輝らも合流してカーテンが上がると奥から望海が華やかに登場というプロローグ。猫らしく寝そべったりなんとも自由奔放。そんな感じで、いろんな猫がいろんな場所に神出鬼没、ロケットも黒猫と白猫に別れて、猫耳をつけた衣装でと徹底。朝美がセンターで踊る猫祭りの最初の場面では最後の決めポーズが「にゃお」!

 

中詰めの猫祭りでは望海を中心に彩風、彩凪、朝美、永久輝が女役でひとりひとりからむ場面があり、これが一番のビッグナンバー。体にフィットした色違いの同じ衣装で男役の黒塗りの化粧のままなので、なんだかニューハーフショーのようでもあるが情熱的でセクシーな場面となった。続く中塚皓平氏振付の「キャット・ヴィオレンタ」も新感覚の野性的な場面だった。久城あすのソロが聞かせた。若手の群舞メンバーでは縣千、綾凰希がはつらつと踊っていたのも目につき、フィナーレのエトワール、愛すみれの絶妙の歌声にも聞き惚れた。

 

終演後は望海が「脱皮した雪組を見てほしい」と挨拶。最後は猫にちなんで「にゃお」の大合唱で締めくくった。

 

©宝塚歌劇支局プラス6月9日記 薮下哲司 

 

 


 

愛希れいかのさよならを惜しむ!「宝塚イズム37」が発売になりました!

 

宝塚歌劇の愛ある評論誌「宝塚イズム37」(青弓社刊、1600円+税)が、6月1日に全国大型書店で発売されました。

 

 最新号の巻頭特集は「愛希れいかのさよならを惜しむ」。トップ在任歴6年7カ月と長期にわたって月組を支え続けた娘役トップ愛希れいか。7月には娘役としては月影瞳以来となるバウ公演『愛聖女(サントダムール)』に主演、11月18日にヒット作『エリザベート』のタイトルロールで退団する。特集では、その美しさはもちろんのこと、しなやかなダンスや圧倒的な演技力でファンを魅了し続けた愛希に別れと感謝の言葉を贈ります。

 小特集では、誕生から20周年という記念すべき年を迎え、真風涼帆という新トップスターが誕生した宙組を寿ぎ、また、今春、退団した名バイプレーヤー・沙央くらま&宇月颯への思いや「ありがとう」を綴ります。

 

OGロングインタビューには、雪組時代、絶大な人気を誇り昨年7月に退団、5~6月にミュージカル「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」で女優として復帰した早霧せいなが登場、今後の女優としての抱負をじっくり聞いています。聞き手は薮下哲司の担当です。

 そのほかマンガ原作で話題の『ポーの一族』『天は赤い河のほとり』を含むレギュラー執筆陣による大劇場公演評に、薮下哲司と鶴岡英里子による好評の外箱公演対談や鶴岡と永岡俊哉による新人公演評、そして早霧せいなや柚希礼音など数々のOG舞台写真所収の薮下と鶴岡によるOG公演評と盛りだくさんの一冊です!

 

半年に一度の発行になりましたが、その分、内容も充実させています。是非、お買い求めください。

 

よろしくお願いします。   薮下哲司  永岡俊哉


愛華みれら出演者一新して5年ぶりに「宝塚BOYS」再演決定

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愛華みれら出演者一新して5年ぶりに「宝塚BOYS」再演決定

 

宝塚歌劇団に戦後すぐにあった「男子部」にスポットを当てた舞台「宝塚BOYS」(鈴木裕美演出)が、8月4日から東京芸術劇場プレイハウスを皮切りに名古屋、久留米、そして大阪(8月31日~9月2日、サンケイホールブリーゼで5年ぶりに再演されることが決まり、6月18日、大阪市内で会見が行われ、寮母役で初参加する愛華みれらが出席した。この日は大阪北部を震源とする震度6強の地震が発生、ほかの会見や催事の中止が相次ぐ中、開始時間を一時間以上遅らせて催行、愛華らが熱い思いを語った。

 

「宝塚BOYS」は演劇ジャーナリストの辻則彦氏の「男たちの宝塚」を原案に、中島淳彦氏が脚本化した作品。宝塚歌劇団の「男子部」は、戦後すぐ、宝塚歌劇団は大劇場閉鎖や米軍の大劇場接収などで団員が激減、存続の危機を感じていた創始者の小林一三氏が、戦地から復員してきた青年の男性登用を訴える一通の手紙をきっかけに、かねてから考えていた男女混合の「国民劇」の実現を目指して、男子生徒を募集したことから始まる。

 

しかし、戦前からの質実剛健の気風がまだ色濃く残っていた戦後すぐのこと、歌って踊る男性を育てるというのは至難の技、異端も甚だしく、応募したのは歌とダンスが飯より好きというよりは、それで給料がもらえ腹いっぱい飯が食える、というただその一点で集まった青年たちが大半だったという。もちろん女の園へ潜入できるのではないかという淡い下心もあっただろう。しかし、次第に舞台の魅力に目覚め、真剣にレッスンを重ねて新芸劇場(現バウホールの前身)での公演などに出演するまでに成長するが、大劇場では馬の足やカゲコーラスだけで舞台デビューはないままに終わった。それは、1951年、大作「虞美人」が大成功をおさめ、劇団員が飛躍的に増加、歌劇団が女性だけでも十分成立することが自信を得たこと、内外からの男性加入反対の意見などから、その後、廃止された。

 

男子部は廃止されたもののその後70年代前半まで演出的に男性の声が必要なショーなどではカゲコーラスで男性がアルバイトで声の出演をしていた。今のようにカゲコーラスも完全に女性のみの公演になったのは「ベルサイユのばら」以降のことだ。そのあたりの裏事情を知っているとさらに面白くみられるはず。

 

さて舞台の「宝塚BOYS」はそんな「男子部」に集まったさまざまな経歴の青年たちの。叶えられなかった夢を描いた切ない青春ドラマ。叶えられかった夢という一点に絞った脚本が見事で、ラストの彼らが大劇場の舞台で繰り広げる幻想のレビューシーンは涙で曇るほどの清冽な感動が押し寄せる。時代的に彼らが幻想で見るようなレビューシーンはそのころまだなくて、ずっとあとの時代の衣装でありシーンなのだが、そんな細かいことはこの際不問にしておこう。

男子寮の寮母君原役はこれまで初風諄が持ち役にしていたが。今回から愛華みれに交代。愛華は「舞台は拝見したことがなかったのですが、DVDを見たり原作を読んだりして、改めて自分は恵まれていたんだなあと再認識。夢というものは願えばかなうものだと信じていたのですが、叶えられない夢があるということに衝撃を受けました」と出演の感想。初風には「決まった時にすぐに報告せさていただきました。初風さんのようにできるかどうか、すごいプレッシャー。私がやると温かく見守るというより厳しいおばさんになるかも」と笑わせていた。「宝塚を退団して、だいぶ時間がたつので、宝塚時代のことを忘れかけていたのですが、改めて宝塚の歴史を勉強する機会に恵まれて、宝塚のすばらしさを再確認しています」と、過日、小林一三氏の墓参もすませ、出演の報告をしたという。

 

男子部メンバーは良知真次ほかのseaチームと永田崇人ほかのskyチームに分かれ、どの役を演じるかはまだ決まっておらず、東京以外はskyチームのみが出演する。初出演となる永田は「テーマパークのアトラクションで声を出さない役をやっていたことがあり、その時の自分の気持ちを投影できれば」と抱負を話していた。

 

©宝塚歌劇支局プラス6月18日記 薮下哲司

 

タカラジェンヌOGとル ヴェルヴェッツが競演「SHOW STOPPERS‼」大阪公演開幕

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タカラジェンヌOGとル ヴェルヴェッツが競演「SHOW STOPPERS‼」大阪公演開幕

 

湖月わたる、彩輝なお、貴城けい、壮一帆らタカラジェンヌOGと男性ボーカルグループ、ベルベッツが競演する「SHOW STOPPERS‼」(三木章雄構成、演出)大阪公演が19日、シアタードラマシティで開幕した。

 

湖月、彩輝、貴城、壮のほかOGは元星組娘役トップの妃海風、元雪組の牧瀬海、元宙組の珠洲春希、元花組の舞城のどか、同じく桜一花がレギュラー出演、これに「ル ヴェルヴェッツ」の宮原浩暢、佐賀龍彦、日野真一郎、佐藤隆紀の4人が加わり、スペシャルゲストに姿月あさと、春野寿美礼、大和悠河が日替わりで出演するという新しい形のOG公演だ。

 

第一幕が10年前にOG公演で初演された「SHOWTUNE」の再演。「ラ・カージュ・オ・フォール」や「ハロー!ドーリー」で知られるブロードウェーの作曲家ジェリー・ハーマンの名曲を集めたカタログミュージカルで、もうひとつのヒットミュージカル「メイム」のなかからの曲も含めて、名場面の再現などが綴られていく。我々には結構懐かしい曲や市村正親、鹿賀丈史コンビでつい最近見たばかりの「ラ・カージュ」の曲もふんだんにあって、結構楽しめた。ル ヴェルヴェッツのメンバーの圧倒的な歌唱力が聞きもので、元男役のトップスターたちが女性パートを受け持つという形になり、男役から女優への性転換の成果を各自競うといった感じ。見せ方などタカラジェンヌはさすがにうまいが、男役メンバーが女を競うというのは何か複雑なものがあった。曲も少々古臭い感じは否めず、若い観客にとってはやや盛り上がりに欠いたようだった。そんななか退団後間もないの壮があでやかな女っぷりでひときわ輝いていた。また、妃海のなめらかな歌声が男女バージョンのショーの中では心地よく聞けた。

 

第二幕は、ル ヴェルヴェッツのメンバーによる「ボラーレ」を皮切りにミュージカル、シャンソン、カンツォーネ、宝塚となんでもありのバラエティーショー。まずはスペシャルゲストスターのコーナーで、私が見た日は大和悠河が黒いマントを翻して颯爽と登場。初舞台が大和のサヨナラ公演だったという妃海が水のボトルをもってかけつけ、すっかりファン目線でインタビューする場面が楽しかった。大和はアルセーヌ・ルパンのあとはル ヴェルヴェッツの4人を従えて「闇に広がる」を初披露。在団中に「エリザベート」には縁がなかった大和の美貌のトートはなかなかのみものだった。

 

湖月らレギュラーメンバーによるミュージカルメドレーは「エリザベート」はじめ「レ・ミゼラブル」「オペラ座の怪人」「ファントム」「スカーレット・ピンパーネル」などおなじみの曲ばかり。一部と合わせて全57曲約2時間45分のぜいたくなショーだった。初日は湖月、大和らによるアフタートークがあり湖月が「ル ヴェルヴェッツのメンバーの背が高いのですごくやりやすかった」と言えば大和も「わたるさんは男から女まで幅広く歌われてすごいですね」感心しきりだった。大阪公演は24日まで。

 

©宝塚歌劇支局プラス6月20日記 薮下哲司

 

 

 

 

雪組期待のホープ、縣千が堂々の初主演!「凱旋門」新人公演

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   雪組新人公演プログラムより

 

雪組期待のホープ、縣千が堂々の初主演!「凱旋門」新人公演

 

18年ぶりの再演となった雪組公演、ミュージカル・プレイ「凱旋門」(柴田侑宏作、謝珠栄振付、演出)新人公演(上田久美子担当)が、6月25日、宝塚大劇場で行われた。今回はこの模様をお伝えしよう。

 

轟悠が雪組トップ時代の2000年に初演された「凱旋門」は、第二次世界大戦前夜の不穏な空気漂うパリを舞台に、ナチスドイツの脅威から逃れてきた医師ラヴィックとイタリア人の女優ジョアンの明日をも知れない極限状況下の恋を描いた作品。本公演は轟の円熟した演技で、ラヴィックとジョアンの刹那的な恋の切なさが、見る側にある程度届いたが、若い新人公演メンバーで改めて見直すと、ラヴィックにもジョアンにも感情移入のできない作品であることが浮き彫りにされた。恋の始まりの描写があっさりしすぎていて、観客にうまく伝わっていないのも要因。また、彼らを取り巻く亡命者たちにはひとりひとりそれぞれのドラマがあり、彼らを主人公にして別の物語が語れるほどなのだが、それぞれが点描のようにしか扱われず、彼らの哀しみが伝わらないもどかしさも感じられた。謝演出は、暗い世情のパリを人々の群舞で表現、それも功罪相半ばで、兵士が踊る場面は背筋がぞっとするような雰囲気を漂わせるが、まるで戦後のパリかと思わせるような明るい街頭のダンスシーンもあり違和感があった。そんななかで寺田瀧雄氏作曲の主題歌が、パリの戦前の雰囲気をよく伝えていることが再確認できた。

 

新人公演で初主演したのは101期生のホープ、縣千(あがた・せん)。ヘアスタイルをバックにしてスーツを着るとどことなく凰稀かなめに似た雰囲気があり、しかも舞台姿は堂々としていて一見、新人公演時代の珠城りょうを彷彿させる落ち着きがあった。轟には比べるべくもないが、全く別の役を見ているような新鮮さがあった。歌唱力に関しても、過大評価はできないが高低差のある難曲を無難に歌いこなし、まずは及第点と言っていいだろう。

 

一方、本公演で望海風斗が演じた親友のボリス役には、新人公演の長となった綾凰華が起用された。前回の新人公演で主役を演じた経験からか、舞台では一番安心して見ていられた。一度主演経験すると自ずから広い舞台を縦横無尽に動けるようになり、その典型のような感じだった。舞台姿が非常に華やかに見えた。

 

ジョアン(真彩希帆)を演じたのは雪組期待の娘役ホープ、潤花(じゅん・はな)。「New Wave雪」では月城かなとと永久輝せあのダンスのお相手を別々に務めるという破格の起用で、一気に注目され、本公演ではオットーという少年役を印象的に演じており、新人公演ヒロインは「ひかりふる路」以来二度目だが、この若さではちょっと難しすぎる大役だった。しかし、悪びれることなく無心に体当たり、予想以上の熱演だった。明日何が起こるか分からない異国で一人ぼっちになる、そんな寂寥感からくる焦りのようなものを出すまでにはまだ至っていないので、役への理解を深めて東京公演に臨んでほしい。歌唱と共にまだまだ伸びしろはある。メイクやヘアスタイルが似合ってなくてせっかくの美貌が台無しだったのは残念だった。

 

彩風咲奈が演じたアンリは眞ノ宮るい。キュートな笑顔が印象的で、ジョアンの心の隙間にスーッと入ってくる男性としては申し分のない佇まいをみせ、この起用も大成功だった。

 

亡命者メンバーもハイメ(朝美絢)に彩海せら、ローゼンフェルト(永久輝せあ)に陽向春輝と適材適所。彩海の素直な演技に甘いマスクが加わって注目度抜群。ラヴィックの友人の医師ヴェーベル(彩凪翔)の星加梨杏の誠実で堅実な演技にも好感が持てた。

 

一方、芝居の重要なカギを握るシュナイダー(奏乃はると)は諏訪さきが好演、また美穂圭子が演じた女将フランソワーズには男役のゆめ真音が起用され、姉御肌のいい雰囲気を出したほか、美穂のような深みはないもののなめらかな歌声も非常に心地よく、適材適所のキャスティングの中でも一番のヒットだった。

 

カーテンコールでは長の綾が縣を紹介。縣は憶えてきた挨拶のセリフを何度もかみ、ファンから思わず失笑がもれるなか、悪びれることなくきちんと言い直して大きな拍手をあびていた。縣の素直な性格がそのまま表れたような好感度いっぱいの挨拶だった。

 

©宝塚歌劇支局プラス6月27日記 薮下哲司

 

 

★「宝塚歌劇講座」受付終了のお知らせ★

 

甲南女子大学の宝塚歌劇講座特別編「エリザベートと宝塚」(9月2日)は、申し込みが定員に達したため受付は終了しました。皆さんからの多くのご応募ありがとうございました。

 

 

月城かなと、フィッツジェラルド最後の日を熱演「THE LAST PARTY」大阪公演開幕

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月城かなと、フィッツジェラルド最後の日を熱演「THE LAST PARTY」大阪公演開幕

 

「華麗なるギャツビー」などアメリカを代表する作家スコット・フィッツジェラルドの最後の一日を描いた月組公演、Musical「THE LAST PARTY~フィッツジェラルド最後の一日」(植田景子作、演出)の大阪公演が、6月30日、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで幕を開けた。今回はこの公演の初日の模様をお伝えしよう。

 

「THE LAST-」は、2004年宙組、大和悠河、月組、大空祐飛の主演で初演、その後2006年の東京再演を経て、初演から14年ぶりに再び日の目をみることになった。フィッツジェラルド最後の一日の約2時間を、舞台で役者がフィッツジェラルドを演じるという形をとり、虚構であることを強調することによって逆にフィッツジェラルドという人物の真実に迫った植田景子氏らしい細やかな神経の行き届いた知性あふれる作品。舞台劇ならではの転換による時間的飛躍、人物配置などが非常にスムーズでフィッツジェラルドの人物像を分かりやすくしかも巧みに浮きあがらせている。植田氏の数ある作品群のなかでも上位の部類だろう。

 

舞台は1940年12月21日、フィッツジェラルドが亡くなる二時間前、ハリウッドのシーラ(憧花ゆりの)のアパートの一室から始まる。死を二時間後に控えたスコット・フィッツジェラルドを演じる役者(月城かなと)が、スコットの半生を振り返っていくという構成。場面は、1920年の華やかなパーティーのシーンにタイムスリップ、スコットとゼルダ(海乃美月)の運命の出会いのシーンにさかのぼる。スコットは「楽園のこちら側」で文壇にデビュー、一躍、時代の寵児ともてはやされるが、後からデビューしたヘミングウェイ(暁千星)にとってかわられる。二幕はそんなスコットが立ち直ろうともがきながらもすべてが裏目にでて、愛するゼルダも精神疾患で入院、再起を果たせぬまま死んでいく。アメリカの夢と現実を描きながら、結局、それに飲み込まれてしまった男の悲劇、そんなスコットをいとおしむように描いている。

 

スコットを演じた月城が、これまでの月城のベストではないかと思うぐらいの素晴らしさ。黒髪の似合う月城には、明るい金髪は決して似合うとは思えず、最初はやや違和感があったのだが、舞台が進んでいくうちに、その立ち姿の堂々たる存在感と、地に足の着いた男役演技で、違和感はなくなり、スコットその人になり切ったかのような自然体の演技だった。なかでも黒のタキシードにトレンチコートをひっかけるという20年代の上流社会ならではのハイファッションが鮮やかに決まった。どことなく陰のある雰囲気もうまくにじませていた。

 

相手役のゼルダに扮した海乃は、これまで大役を多く演じてきただけに、悪女の典型と言われるゼルダという難役も芝居心のある懐の深い演技で巧みに表現、感心させられた。ただ、一つ残念だったのは上流階級の女性に必要な華やかさが感じられなかったこと。衣装は豪華なのになんとなく受ける印象が地味なのだ。このあたりの見せ方を克服すればさらに一回り大きなヒロインになれそうな気がする。

 

この二人以外の役としては編集者マックスの悠真倫とシーラに扮した憧花ゆりの。いずれもベテランらしい味わいのある演技で舞台を締めた。悠真が演じたマックスは「ベストセラー」という映画で主人公になっているぐらいの名編集者。スコットやヘミングウェーを育てたマックスを悠真が貫録たっぷりに演じた。一方、憧花が演じたシーラも「悲愁」という映画ではヒロイン。ハリウッドのコラムニストらしい雰囲気を憧花があでやかに体現していた。

 

ヘミングウェーは暁千星。ヘミングウェー独特の野性的でがさつな感じではなく、頭の切れる青年という感じだったが、幻想の戦闘シーンでの切れのいいダンスなど見せ場もあって、暁らしいヘミングウェーになっていてなかなかの好演だった。

 

あとは全員がコロス的な存在で、場面ごとに役が変わるが、なかでそれぞれワンポイントの見せ場があり、順にいうとリビエラでのゼルダの恋人エドゥアールが英かおと。純白の海軍士官の制服が決まり、「僕…」という台詞がいかにも似合っていた。二幕ではスコットの秘書ローラに扮した夏月都が面白かった。ここの月城との演技の呼吸が抜群で、暗くなりがちな舞台で一陣の清涼剤的存在だった。スコットの娘スコッティに扮した菜々野ありも月城と「TOPHAT」からの「チーク・トゥ・チーク」を踊るくだりが泣かせた。そして、スコットの小説に忌憚のない意見をはき、スコットに創作意欲をかき立てさせる重要な「公園の学生」には風間柚乃。その自然体でありながら気持ちのこもった台詞が印象的で観客の涙腺を一気にゆるめた。あと「華麗なるギャツビー」の幻想シーンでトムの影に扮した響れおなの目を見張るダンスも目に焼き付いた。

 

初演にはなかったフィナーレがついているのが今回の特徴で、暁を中心に風間、英らの男役群舞から始まって月城、海乃のデュエットダンスに発展していくのだが、この曲が「チーク・トゥ・チーク」だったのが舞台の感動を引き継いだ形で非常に効果的だった。

 

月城は「この舞台から何かを感じて頂ければうれしいです」と初日の挨拶。感動の余韻さめやらない客席のファンはとっさに立ち上がることもできず、拍手をするのが精いっぱいといった感じだった。公演は7月8日まで。

©宝塚歌劇支局プラス6月30日記 薮下哲司

 

 

愛希れいか、キュートにプレサヨナラ!月組バウ公演「愛聖女(サントダムール)」開幕

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     ©宝塚歌劇団

 

愛希れいか、キュートにプレサヨナラ!月組バウ公演「愛聖女(サントダムール)」開幕

 

11月退団が決まっている月組の娘役トップスター、愛希れいかのサヨナラを前にした主演公演、キューティーステージ「愛聖女(サントダムール)-Sainte d‘Amour-」(斎藤吉正作、演出)が7月1日、宝塚バウホールで開幕した。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。

 

人気、実力とも№1。“ちゃぴ”の愛称で多くのファンを持つ愛希の退団前に用意されたバウヒロイン公演は、中世フランスで侵攻するイングランドから母国フランスを守ったジャンヌ・ダルクが21世紀にタイムスリップ、自由な現代を謳歌するというハチャメチャ(新感覚?)なドタバタミュージカル。愛希が扮するのはもちろん現代にタイムスリップしたジャンヌ・ダルクだ。

 

舞台は現代フランスのオルレアン。ご当地の英雄ジャンヌ・ダルクフリークのパメラ(天紫珠李)はオルレアン工科大学の女子大生。大学ではドクター・ジャンヌ(白雪さち花)のもと学生たちとタイムマシンの研究に余念がない。ある日、大きな衝撃と共にドクターが姿を消し、入れ替わりに中世の衣装に身を包んだジャンヌ・ダルク(愛希れいか)が現れる。愛希登場のここまで約10分。舞台中央の巨大なプロジェクターに笑顔の愛希の表情がアップになり、タイトルがインサート、ここからやっと愛希をメーンにしたプロローグとなる。随分人を食った出だしだが、最後までこの調子。

 

現代のヒロイン、パメラに扮する天紫にまずソロがあって、パメラが進行役となってストーリーが展開していく仕掛け。男役から娘役に転向した天紫が芝居で初めての大役に起用され、明るく天然な女の子をはつらつと演じていてインパクト抜群。作品のトーンは白雪ドクターのオーバーアクトに象徴されるように、全体的には漫画チックでドタバタ感満載。太陽爆発(フレア)のたびにタイムスリップがあって中世と現代がつながるのだが、なんだか安易なご都合主義丸出しで後半はストーリーを追うのもだんだんばかばかしくなってくるが、それはそれ、愛希を中心とした月組若手メンバーの一生懸命のハチャメチャな活躍ぶりを見ているだけで楽しめる。

 

何をやらせても愛希がとにかく魅力的で、愛希が舞台にいるだけで幸せな気分に浸れる。こんな欠点のない娘役スターはこれまであまり見たことがない。決してパーフェクトな美人ということはないのだが、その凛とした立ち姿の美しさは並外れていて、動きにエッジがきいていてしかもしなやか。歌唱力も低音から高音までぶれずに安定感があって、芝居はコメディから泣きの芝居までなんでもOKというすばらしさ。今回も現代にタイムスリップしたジャンヌ・ダルクというとんでもない役どころを、愛希ならではのふり幅の大きさで難なく楽しげに演じ切った。月組の若手メンバーに対する気遣いも愛希ならでは。なかでも同じ男役から娘役に転向した下級生、天紫とのコンビがなんとも微笑ましく二人のデュエットに娘役愛が感じられた。

 

愛希の実質相手役といっていい天紫。いきなり台詞やソロがあったりして出だしこそやや緊張気味だったが、男役経験があるだけに押し出しがあって、愛希とは違ったキュートさが魅力的。中盤からは底抜けに明るい天然の女子大生をはつらつと演じた。小顔なのでいろんな男役のタイプにも相性は良さそうで、これからの娘役地図の大きな戦力になりそうだ。

 

男役ではジル・ド・レの紫門ゆりやとファン・ド・ファンの千海華蘭が15世紀メンバー。シドニーの夢奈瑠音とパメラの彼氏でエルヴェの輝生かなでが現代の青年。娘役はドクターの白雪のほかミス・オルレアンコンテストに出場する晴音アキのクララ、結愛(ゆい)かれんのアマンド、その母親のマリーに扮した楓ゆきといったところが役づき。さすがにここでは紫門の男役の見せ方が抜きんでていて、夢奈は陰のある青年を好演、輝生の達者な演技が楽しかった。夢奈、結愛そして楓の母子対面のサイドストーリーは不要だと思ったが、結愛の素敵な歌を聞かせるためだとわかるとそれも許せた。それ以外ではシャルルなど多くの役を演じていた彩音星凪(あやおと・せな)が印象に残った。

 

何も考えずにみられ、理屈抜きで楽しめる公演だったが、退団を前にした娘役トップスターのバウヒロイン公演は元雪組の月影瞳以来のことなので、本音で言うと、もう少しグレードの高い愛希を見たかった。まあしかし、それはサヨナラ公演の「エリザベート」まで待つことにしよう。

 

なお、この公演はバウホールでは初めての千秋楽ライブ中継が行われる。7月7日土曜日14時30分から全国のTOHOシネマズなどで行われ、料金は全席指定で4300円。超チケット難と言われたこの公演を是非観たいというファンには朗報である。詳しくは、下記のホームページで。

 

http://liveviewing.jp/contents/saintedamour/

 

©宝塚歌劇支局プラス7月4日記 薮下哲司

 

明日海りお、天草四郎を熱演!花組公演「MESSIAH」開幕

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  ©宝塚歌劇団

 

明日海りお、天草四郎を熱演!花組公演「MESSIAH」開幕

 

トップスターとして充実期を迎える花組の明日海りおが、隠れキリシタンの救世主といわれた天草四郎時貞に扮したミュージカル「MESSIAH(メサイア)」―異聞・天草四郎-(原田諒作、演出)とショー・スぺクタキュラー「BEAUTIFUL GARDEN」―百花繚乱-(野口幸作作、演出)が、13日、宝塚大劇場で開幕した。今回はこの公演の初日の模様をお伝えしよう。

 

天草四郎時貞は、江戸時代初期、九州・天草に流れ着き、キリシタンの教えを知ることによって、島原藩主のキリシタン弾圧と過酷な年貢の取り立てに苦しむ人々のために立ち上がり救世主(メサイア)と呼ばれたほどのカリスマ的存在の美少年。宝塚でもこれまでに1972年の花組公演「炎の天草灘」(阿古健作、演出)で甲にしきが、1983年の月組公演「春の踊り-南蛮花更紗-」(酒井澄夫作、演出)の一場面で大地真央が演じている。14歳とも16歳ともいわれているが実際は年齢不詳、今回の明日海バージョンは倭寇の頭目、夜叉王丸が天草に漂着、四郎と名乗ったという設定で20歳前後。タイトルに「異聞」とあるように人物関係などは自由な発想で創作している。しかし、その割には結構、史実を踏まえたところもあり、とりわけ無神論者の四郎がなぜ一揆を立ち上げる決意をするに至ったかというあたりにポイントを置いた作劇は見ごたえがあった。原田氏らしく土台をしっかりと組んだうえで宝塚的な味つけをほどこした感じ。

 

阿古版は天草四郎が一揆を立ち上げるところまでを描いたのに対し、原田版は落城シーンのあとのエピローグまである完全版。1時間35分でここまでまとめたのは功績だが、ストーリーを急ぐあまり四郎が養子として迎えられるエピソードやリノ(柚香光)の身代わりになって踏み絵をする場面(一人だけの踏み絵で役人が帰るわけがない)などややご都合主義で甘いところも散見、せっかく四郎が一揆を立ち上げる決意をする経緯や幕府側の思惑などを丁寧に描いているのに、観客の思いが一揆に向かってひとつに繋がっていかないはがゆさがあった。ただラストの原城陥落シーンは宝塚ならではの人海戦術を駆使したなかなかの迫力で、感極まって号泣者が続出するほどだった。

 

南蛮屏風の幕が上がると銀橋に後姿の明日海のシルエットが浮かび、振り向きざまにスポットライトが当たって倭寇の頭目、夜叉王丸に扮した明日海が颯爽と登場する。なかなかかっこいいプロローグだ。仲間と共に日本に向かう途中で嵐に見舞われ、場面変わって20年後の江戸城。南蛮絵師、山田祐庵(柚香光)が将軍・家綱(聖乃あすか)に呼ばれ、島原の乱唯一の生き残りである祐庵が、乱の一部始終を家綱に語るという形で、天草四郎と島原の乱の真実をひもといていく。四郎を元海賊の頭目と設定したところがミソだろう。

 

明日海もただの祭り上げられた美少年ではなく、荒々しい面を持つ青年という造形ではつらつと演じており、島民の心がひとつになるナンバーは、トップスター明日海の求心力の発露とも重なって感動的な場面となった。

 

相手役の仙名彩世は、前の藩主、有馬晴信の遺臣、松嶋源之丞(和海しょう)の妹、流雨。夜叉王丸を引き取った甚兵衛たちとこの流雨たちとの関係が最初よくわからないのがやや混乱するところだが、元武家娘の品格を保ち、「仮面のロマネスク」から始まった明日海とのコンビでは今回が一番しっくりときた。台詞の涼しげな声と透き通った明瞭な歌声は健在。

 

南蛮絵師、リノこと山田右衛門作(のちの祐庵)の柚香は、実在の人物ではあるが、四郎以上に謎の多い人物。敬虔なキリシタンでマリア像に流雨を重ね合わせ、四郎と敵対しながらも最終的には心を許し、一人生き残ることを選択する。柚香は、彼らの代弁者として生きたリノを誠実に演じ好感が持てた。

 

ほかに印象に残ったのは鳳月杏が扮した島原藩主、松倉勝家。一揆の原因となるキリシタン弾圧と過酷な年貢の取り立てを敢行した大名で、その憎々し気な演技はこの舞台最大のヒール役。鳳月の容赦ない表情に凄みがあった。幕府の老中、松平信綱の水美舞斗もうまかった。冷徹で計算高い官僚的な雰囲気を出しながら人間味を漂わせたのは立派。

 

あと、徳川家綱の聖乃、小西行長の遺臣、渡辺小左衛門の瀬戸かずやそして四郎の名付け親、益田甚兵衛に扮した専科の一樹千尋といったところが主要な役どころ。聖乃に風格が出てきたのに感心させられた。

 

ショーは花組を花園にたとえて、いろんな花が咲き競う世界の庭めぐりをしようというコンセプトのショー。花組全員がひとつの大きな花束になってしまう絢爛豪華なプロローグから雨のパリ、スペインの闘牛場、ローマの剣闘士、夏の浜辺、ニューヨークと次から次へとバラエティー豊かに展開、気が付いたら華やかなフィナーレという段取り。ひとつひとつの場面は素敵だが、関連性がないので終わってみればちょっぴり印象が散漫というショーでもあった。でもそれはそれで楽しい。

 

明日海はプロローグでの舞台上での早変わりから、ピアソラの「乾杯」をバックにしての伝説の闘牛士マノレテに扮してのスパニッシュ。仙名との激しいダンスに死の影的な存在で水美がからんだ印象的なナンバー(振付ANJU)。中詰めはトロピカルなtubeメドレーで「夏を抱きしめて」(振付三井聡)次が荒々しくローマの剣闘士スタイル。ここの相手役は妖艶な柚香。そして、ニューヨークではトップハットにケインの燕尾服スタイルでのガーシュインメドレーと続く。今売れっ子の振付家を総動員、まさに明日海の魅力のすべてを見てもらおうといわんばかりの早変わりの連続だった。

 

前回のショー「SANTE!」と花組はメンバー的にはあまり変わっていないはずだが、水美の出番が圧倒的に増えたのが印象的。プロローグの後のラインダイスでは蜂美男子としてメーンを務め、アンダルシアでの闘牛士の死の影、ヒップホップ風の花美男子でも柚香とのコンビがひときわ目立った。バウでの単独公演の成果が一気に噴き出た感じ。柚香はパリの場面で「雨にぬれても」をバックに傘を片手に踊るナンバー(振付Oguri)が洒落ていた。相手役の舞空瞳がかわいかった。

 

パレードのエトワールはこの公演で退団する天真みちると若草萌香。天真の朗々たる歌声が響き渡った。恒例の初日挨拶で明日海は、先日来の地震と大雨の被災地のみなさんへのお見舞いの言葉をかけることを忘れず「花組の公演をご覧になってハライソ(天国)の思いを抱いて頂ければ」と天草四郎に思いを重ね合わせていた。

 

©宝塚歌劇支局プラス7月14日記 薮下哲司

 

浅利慶太さんとの思い出

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浅利慶太さんとの思い出

 

元劇団四季の代表で演出家の浅利慶太さんが13日、悪性リンパ腫で亡くなったと18日、劇団四季から発表がありました。劇団四季を離れられてからの最近の活動にはご縁がなく、久しくお目にかかる機会はなかったのですが、1985年の「キャッツ」大阪公演初演の前から大阪四季劇場の開場前後まで約30年にわたって演出家と取材記者という立場で親しくおつきあいをさせて頂きました。最近の動向からある程度の覚悟はできていたのですが、心の中の大きな支柱を失ってぽっかりと穴が開いたような寂しさを感じます。

 

私が初めて劇団四季の舞台を見たのは加賀まりこ、北大路欣也が主演した「オンディーヌ」(1966年)でした。当時、時代の先端を行くアイドルだった加賀さんの生の舞台を見たいがために行ったのですが、その舞台で影万里江という素敵な女優さんを知り、次に見た「ひばり」での浅利さんの洗練された演出にすっかりのめり込み、私が仏文科を目指すようになったきっかけの一つとなったといっても過言ではありません。

 

そんな浅利さんと初めてお会いしたのは、1984年、劇団四季がミュージカル「キャッツ」大阪公演を決め、その制作発表記者会見が大阪市内のホテルで開かれた時でした。すでに大演出家でしたが、公演の主催が同じ系列の毎日放送だったことから、その後、番記者として何度も取材で接する機会があり、以来、演出家と記者として親しくお付き合いさせて頂ける光栄に浴したのです。

 

それまで劇団四季の大阪公演は全国ツアーの一環として短期間の公演しかなかったのですが、「キャッツ」は専用劇場を建設しての東京以外では初めての大掛かりなロングラン公演でした。スポーツ新聞の文化部記者としてそんな大きな演劇のイベントに立ち会うのは初めてだったこともあり、どんな小さなことでも記事にする意気込みで取り組んだことが、浅利さんには熱心な記者と映ったのか、過分なほど丁寧に接してくださいました。

 

 初めてあざみ野の稽古場へインタビュー取材に行ったとき、取材が終って帰ろうとする私に「君、“ヤマトタケル”は見たかい。面白いよ」と言われ、「まだです」と答えると、「ぜひ、見たまえ」とすぐに電話をかけて席を確保してくださったのです。あまりのことに一瞬耳を疑いました。市川猿之助(現猿翁)主演のスーパー歌舞伎の初演の時で、超人気公演だったのですが、鶴の一声で観劇することができたのでした。しかも、その回は貸し切りで普通は見ることができない公演だったのです。四季の公演でもない舞台を「ぜひ見ろ」と言われ、強引に席を確保してくださったのでした。その後“ヤマトタケル” を見るたびに思い出す忘れられない思い出です。「キャッツ」大阪公演が始まる前の1985年2月のことでした。

 

 こんな感じで浅利さんとの思い出を綴っていくと、いろんなことが走馬灯のようにめぐります。越路吹雪さんとのつながりもあって宝塚歌劇とも浅からぬ縁があり、私が初めて「宝塚伝説」(青弓社刊)という単行本を上辞したときも「宝塚が関西で文化として根付いていることがよくわかった」と感想を述べてくださいました。ポスト越路さんとして鳳蘭さんを高く買われていて森光子さんとの共演舞台を画策されていたのもこのころでした。結局実現はしませんでしたが、実現すれば森さんのブロードウェー・ミュージカル初挑戦という事で大きな話題になったことでしょう。

 

時は前後しますが1987年5月、ミラノのスカラ座で「蝶々夫人」を演出された時、大阪から担当記者が大挙してかけつけ、浅利さんを大感激させたことも忘れられない思い出です。この時は、浅利さんが舞台稽古を自ら案内してくださり、土産物のショッピングにまでつきあってくださいました。公演後には打ち上げのホームパーティーにも招待していただき、私が撮影した「蝶々夫人」のヒロイン、林康子さんと成功を祝って抱擁されたワンショットは、あざみ野の劇団四季の浅利さんの部屋に長く飾ってありました。

 

大阪でのロングラン公演が常態化し、名古屋、福岡、札幌と全国各地でも同じような展開が成功するうちに劇団四季は公演数も格段に増え、徐々に大阪に来られる回数も減りましたが、たまに来られたときには、いつも笑顔で挨拶をかわしたものです。近年、劇団四季を離れられてからは、結局、一度もお姿を見ることなく、訃報に接するということになってしまいました。それだけが一番の心残りです。

 

浅利さんが日本の演劇界に残された功績は計り知れないものがあります。劇団四季は今年65周年。浅利さんが20歳の時に結成された劇団です。政財界とも太いパイプがあり、急激に成長したことや、強烈なワンマン体制もあって、さまざまな声も聞こえますが、浅利さんの演劇大好き青年であるという根っこは変わりません。劇団四季としては、浅利さんのそんなスピリットと残された数々の財産をしっかり受け継いでいってくれることを切に望みたいと思います。かつて在籍した俳優たちが一堂に会しての浅利さんを偲ぶ夢の舞台の実現、これはぜひとも期待したいですね。

 

©宝塚歌劇支局プラス7月18日記 薮下哲司

 

 

 


大和悠河、オペラデビュー!二期会「魔弾の射手」開幕

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 大和悠河、オペラデビュー!二期会「魔弾の射手」開幕

 

元宙組トップスター、大和悠河が、オペラデビューするというので話題となった東京二期会公演「魔弾の射手」(ペーター・コンヴィチュニー演出)が18日から22日まで東京文化会館大ホールで上演された。

 

大和のオペラ好きは有名で、まとまった休みが取れると必ず海外のオペラハウスでオペラを観劇、夏はヴェローナの野外オペラ、冬はミラノのスカラ座というのが恒例になっているという。そんな大和がオペラデビューした「魔弾の射手」は、1821年にベルリンで初演された“真の意味で最初のドイツオペラ”と言われるウェーバー作曲のオペラファンタジー。

 

オペラの背景は17世紀のボヘミアだが、上演された時期は、フランス革命後25年後の混沌とした時代。ギロチンによって貴族階級が一掃され、市民による時代が始まったかに見えたものの神(貴族)の代わりに悪魔(金)が生き延び、世界を支配し始めたころ。そんな殺伐とした時代を昔話風にたとえてファンタジックにつづった風刺オペラで、大和が扮したのは悪魔ザビエル。これまでは男性が演じてきたが、数々のクラシックオペラをリニューアル演出して、今、世界的に高い評価を浴びているコンヴィチュニーが日本での演出にあたって、日本ならではの特色を出したいという意向を示し、元宝塚歌劇団の男役トップスターだったという大和に白羽の矢を立てたという。

 

オペラというからには歌うと思われがちだが、実はこの悪魔ザビエルは「エリザベート」でいえば死神のトートのように、常に主人公のオットカール侯爵につきまとう影の存在で、歌はない。歌の代わりに朗読のようなセリフがあるだけ。しかし、オープニングからラストまでほぼ全場面で男女を問わずさまざまな役で登場、大和の早変わりが楽しめるという寸法。肩すかしのような半面ホッとする面もあり複雑な感じだが、坊主頭に僧衣という見たことのない奇抜なスタイルや妖艶なドレス姿、はたまた燕尾服にシルクハットといったかっこいい男役などの七変化はなかなか魅力的だった。

 

射撃大会で優勝すれば、恋仲のアガーテと結婚できることになっている若者マックスは、どうしても優勝したいために友人がマックスの魂と引き換えに悪魔ザビエルから譲り受けた魔法の弾で勝負するのだが、その代償は計り知れないものだった…というストーリー。オペラ自体は、コンヴィチュニー氏が1999年にハンブルクで初演した新演出版を、アレホ・ペレス指揮による読売日本交響楽団の演奏、二期会の実力派メンバーが熱唱、レベルの高い舞台だった。舞台を客観的に見る隠者を客席に配し、オペラのパトロンとした解釈が面白く、この役を歌い上げた小鉄和広の朗々たるバスがひときわ印象的だった。シンプルだが大掛かりな装置も見ごたえがあった。

 

©宝塚歌劇支局プラス7月22日 薮下哲司 記

愛月ひかる、桜木みなとら宙組公演「WEST SIDE STORY」役替わり公演開幕

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©宝塚歌劇団

©宝塚歌劇団

 

 

愛月ひかる、桜木みなとら宙組公演「WEST SIDE STORY」役替わり公演開幕

 

今年1月、真風涼帆、星風まどかの宙組新トップ披露公演として上演されたミュージカル「WEST SIDE STORY」(ジョシュア・ベルガッセ演出、振付、稲葉太地訳詞、演出補)の役替わり公演が7月24日から大阪・梅田芸術劇場メインホールで開幕した。

 

「WEST SIDE STORY」は、1957年にブロードウェーで初演、1961年に映画化され大ヒット。日本のミュージカル・ブームの火付け役となった作品。ミュージカルの上演がほとんどなかった1968年、他に先駆けて宝塚歌劇団が日本初演して大きな話題となった。今回の公演は以来50周年であること、作曲家のレナード・バーンスタインの生誕100年、さらには宙組20周年といったアニバーサリーづくめの上演。歌、ダンス、芝居と三拍子そろわないとできないミュージカルの上演が難しかった当時から思うと今のミュージカル全盛時代はまさに昔日の感がある。

 

50年たった今、宝塚歌劇団が「WEST SIDE STORY」を上演しても何の違和感のない時代になった。ただ1960年代にこの作品を見たときには、アメリカの恥部を赤裸々に描いてはいるが、こんな差別主義は、いつかはなくなって平和な時代がくるだろうという未来への希望のようなものがかすかにあったのだが、21世紀もかなりたった今、アメリカも日本も50年前の現実よりさらに厳しい末期的状況になってしまった。こんな未来をあの時、誰が想像しただろうか。真風涼帆ら宙組メンバーの熱演をみていてふとそんなことが頭をかすめてしまった。

 

1961年12月23日、「ウエストサイド物語」日本公開初日に今はない大阪のなんば大劇場(現スイスホテル)の大スクリーンで見て、その迫力にうちのめされて以来57年!映画、舞台を含めて一体、どれだけの回数、この作品を見たか分からない。振付のきっかけやセリフもふくめて、すべてを覚えているほど。歌詞もおもわず原語が頭に浮かぶほどだ。というわけで、この作品に関してはどうしても辛口になってしまうが、この宙組公演を改めて見て、宝塚の歌やダンスのレベルが高くなったなあというのも正直な印象だ。

 

ただし、いまや宝塚だけではなく他の劇団や来日公演がひっきりなしにこの演目を取りあげ、上演している中、今、宝塚で上演する意味というのがあまり感じられないのも、正月に見たときと同じ印象だった。座付作者の演者への当て書きの作品ではなく、すでにある役への挑戦という意味では、出演者たちには勉強になるし、見る側にも思いがけない発見があるとはいえるのだが、ジーンズにTシャツの芝居を宝塚の観客が欲しているとはとうてい思い難い。もっと宝塚らしい演目があるのではと思ってしまった。いっそのこと全キャストをオーディションでやるぐらいの気構えがあればそれはそれで面白いと思う。

 

とはいえ半年ぶりの再演で、真風のトニーは、不良少年グループの一員とは思えないノーブルさをたたえながらも初めての恋に一途に突っ走り、良かれと思ったことがすべて裏目に出てしまう不器用な青年をピュアに演じ切って好演。声質に合わないソロも、音程を工夫して無難に歌い切ったのは立派だった。

 

マリアの星風まどかも「アイ・フィール・プリティ」「トゥナイト」「あんな男に」などを高音まで見事に歌いこなし、恋に恋する可憐な雰囲気も巧みに体現して、半年前とは格段の成長ぶり。

 

芹香斗亜からバトンタッチしたベルナルドの愛月ひかる、桜木みなとから代わったリフの澄輝さやと、その桜木は和希そらが演じたアニータを演じたのが大きな役替わり。ベルナルドは宝塚では二番手役なのだが、冒頭のプロローグと体育館でのダンスシーンに見せ場があるいわゆるダンサーのおいしい役。愛月は、黒塗りに赤いシャツで精悍な感じを出していたが、少ない出番で一気にひきつける色っぽさのようなものがもう少し欲しい。澄輝も本来の持ち味ではない役なので本人的には大きな挑戦。「ジェットソング」や「クール」でのダイナミックなダンスは大いに買え、新境地開拓となった。優しい顔立ちが邪魔をしている感じ。一方、桜木のアニータは、男役の時のフェアリー的な雰囲気をかなぐりすて、姉御肌のアニータを豪快に演じた。さすが男役の迫力「アメリカ」でのダンスの切れ味も素晴らしかった。

 

あとジェット団のアクションが瑠風輝から留依蒔世にかわるなど両軍団ともメンバーチェンジがあり、なかで潤奈すばるから代わったエイラブの七生眞希の端正な顔立ちがひときわ目立ち、スノーボーイの春瀬央季やエニボディーズの夢白あやの何とも言えない可愛さとともにジェット団がなんだか上品なチンピラグループに見えた。

 

ダンスから歌までオリジナルの細かい指定があり、男役の振付以外は宝塚的改変はほぼないといっていい舞台なので、どうこう言える筋合いはないが、ラストのチノ(蒼羽りく)の発砲でトニーが倒れ、マリアが支えるあたりの「間」の「ため」がなく、すぐに歌に入るのがちょっと性急すぎるような感じがしたのだがどうだろうか。初めて見た方の感想をお聞きしたい。

 

初日終演後、カーテンコールで真風が「この作品が伝えたいことをきちんと伝えられるよう千秋楽まで頑張りたい」と挨拶。いつになく男性客の多い客席から総立ちの大きな拍手が送られた。公演は8月9日まで。

 

©宝塚歌劇支局プラス7月24日記 薮下哲司

 

 

聖乃あすか、天草四郎を熱演!花組「MESSIAH」新人公演

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  花組新人公演プログラムより

 

 

聖乃あすか、天草四郎を熱演!花組「MESSIAH」新人公演

 

「ポーの一族」に続いて新人公演二度目の主演となった花組期待のホープ、聖乃あすかが天草四郎時貞に挑戦したミュージカル「MESSIAH-異聞・天草四郎」(原田諒作、演出)の新人公演(竹田悠一郎担当)が31日、宝塚大劇場で上演された。

 

「MESSIAH」は、江戸時代初期、島原の乱の指導者として多くの伝説を残し、今なお謎多き人物として異彩の魅力を放つ天草四郎時貞を、嵐で天草に漂着した倭寇の頭目・夜叉王丸と設定、無神論者の青年が、隠れキリシタンの生き様を通して、人が生きることの根源的な権利に目覚め、彼らを救うために立ち上がる姿をドラマチックに描いた原田氏のオリジナルミュージカル。本公演は明日海りおが、天草四郎をりりしく演じているが、新人公演はそれを踏襲しながら聖乃あすかが熱演した。巧い下手は別にして、全員が真摯に作品に取り組む姿がストレートに客席に届いたさわやかな新人公演だった。

 

「ポーの一族」以来二度目の主演となった天草四郎役(本役・明日海りお)の聖乃は、男役としてずいぶんとたくましくひとまわり大きく成長した印象。整った目鼻立ちからフェアリー的な雰囲気の優しい男役が似合うと思われ、「ポーの一族」新人公演のエドガーなどはうってつけのキャスティングだった。しかし、今回、後姿のシルエットで銀橋に登場、スポットが当たって振り向きざまにポーズをとったときの瞳のきらめきは美しさの中に威圧感のようなものまであって強烈なインパクト。本公演の徳川家綱の貫録たっぷりの好演とくわえて、これまでの聖乃のイメージからかけはなれた豪快な男役演技に目を見張った。ただ、押し出しはあるものの台詞や歌は、感情が高ぶると不安定になったり、語尾が流れたり、聞き取りにくいところがあり、これはこれからの課題だろう。いずれにしてもその体当たり感にはすこぶる好感が持てた。これからの活躍がおおいに期待できそうだ。

 

相手役の流雨役(仙名彩世)の舞空瞳。「ハンナのお花屋さん」での大抜擢で印象深いが、新人公演ヒロインは初めてのこの人が今回の最高の収穫だった。本公演でも芝居、ショーでひときわ輝いているが、新人公演でも、冒頭、浜辺の復活祭の祈りの場面、白いヴェールを被って祈りを捧げる流雨は、まだヒロインであるとも何の説明もない場面だが、誰が見てもそこにドラマのヒロインがいるという圧倒的な輝きがあり、これこそが宝塚のヒロインと言っても過言ではない存在感があった。歌、ダンスそして芝居もなんら遜色がないのが強み。実際は背が高いのに、小顔で小さく見えるのも娘役としては理想的だ。流雨は、天草四郎とひかれあうヒロインではあるものの、あまり掘り下げて書かれておらず、演じるにあたってはかなり難しい役だと思うのだが、舞空が演じると妙に納得させられた。

 

一揆のただ一人の生き残りである南蛮絵師、リノ(柚香光)に扮したのは一之瀬航季。先だってのバウ公演での活躍で一躍注目したが、新人公演では今回初めての大役への挑戦。リノは、幕府側でも農民側でもない微妙な立場で、流雨をめぐって四郎とも対峙する難役。一之瀬は、すっきりした佇まいとさわやかな演技で柚香とはまた違った存在感があった。本公演でも休演中の亜蓮冬馬の代役を演じており、このチャンスをぜひ自分のものにしてほしい逸材だ。

 

主要3人以外では、松倉勝家(鳳月杏)の帆純まひろ、松平信綱(水美舞斗)の飛龍つかさの二人に注目したい。帆純は、ナイーブな個性が魅力で、新人公演では柚香光の役を演じることが多く、「新源氏物語」新人公演の六条御息所と柏木などが印象的だった。しかし今回は、非情な藩主役、これまでとは全く違ったキャラクターに、体当たりで取り組み、その憎々しげな感じはなかなかだった。一方、信綱を演じた飛龍は、「邪馬台国の嵐」で新人公演主演経験があり、経験に裏打ちされた余裕の演技には安定感があった。幕府側の一番の要の役を好演した。将軍・家綱(聖乃)を演じた希波らいとも若々しく風格のある演技で見せた。幕府側の良心ともいうべき鈴木(綺城ひか理)は、涼葉まれが演じたが、儲け役を凛々しく演じて印象的だった。

 

 

娘役では、子左衛門(瀬戸かずや)を演じた泉まいらの妻・福(桜咲彩花)の華優希。その妹・咲(城妃美伶)の音くり寿の二人に注目。二人とも農民の娘という事で衣装が地味なのが残念だったが、華、音とも落ち着いた役が似合うようになったのが頼もしかった。

 

本公演初見はスターのバランスなどに気を取られて、細部までなかなかしっかり見られなかったが、新人公演はその点、しっかり内容を吟味しながら見ることができ、この作品が、ストーリー展開がやや強引ではあるものの、内容的には自由をテーマに芯が通っていることが浮き彫りになった。ただし、天草四郎を20歳前後に設定をあげたのは功罪相半ば。一揆を立ち上げた理由はうまく伝わったが、半面、そのためのほころびが随所に見えた。せっかく崇高なテーマを提示しているのにずいぶん損をしている印象がぬぐえなかった。新人公演からさまざまなことが見えてくるのが面白いところだ。

 

©宝塚歌劇支局プラス8月1日記 薮下哲司

 

元専科・星条海斗さんが8月の毎日文化センターに登場!

 

◎…8月の大阪・毎日文化センター「薮さんの宝塚歌劇講座」に、宙組公演「天(そら)は赤い河のほとり」東京公演千秋楽(6月17日)で宝塚を退団したばかりの元専科・星条海斗さんがゲストとして参加してくださることになりました。星条さんは在団中にもこの講座に参加してくださったことがあり二度目の登場となりますが、退団を決意した経緯や宝塚への思い、さらには9月のコンサート出演など今後の活動についてなど近況が聞ける貴重な機会になりそうです。講座は会員制ですが、この回だけの特別会員(3500円+税)を若干名募集します。受講ご希望の方は毎日文化センター☎06(6346)8700までお申し込みください。

 

和希そらバウ初主演「ハッスルメイツ!」開幕

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  ©宝塚歌劇団

 

 

宙組の若手人気実力派スター、和希そらを中心にしたバウ・Song&DanceEntertainment「ハッスルメイツ!」(石田昌也作、演出)が2日、宝塚バウホールで開幕した。

 

タイトルやチラシの雰囲気から学園物ものミュージカルとばかり早とちりしていたら、これがなんと宙組20周年のトリビュートショー。和希ら16人が宙組の20年の軌跡を振り返りながら、宙組の未来に繋いでいこうというライブパフォーマンスで、歌、ダンス、演技と三拍子そろった和希の“そら”と“宙”をかけるなど、将来の和希への期待も込めての遊び心満載の楽しいステージだった。

 

「ハッスル!ハッスル!」と連呼する元気はつらつのプロローグ、センターで切れのいい動きで歌い踊る和希の明るい笑顔がなんとも爽やかだ。相手役の天彩峰里の愛らしさもショーのヒロインとしてはうってつけ。1998年3月、宙組の第一回作品「エクスカリバー」の主題歌「未来へ」を全員で歌ったところで和希があいさつ。このショーが宙組の20周年を祝うもので、宙組の歴史を名場面でつづっていくことを説明するのだが、「宙組は20年ですが、私はそのころは知りません」など、このあいさつが肩の力の抜けた素敵なトークで、見ている側もおもわずほっこり。「宝塚ファミリーランドがなくなって15年、ここにいる人は知っている人ばかりだと思いますが(笑)知らない人いますか?」との客席への問いに「はい!」と手を挙げたのが、観劇していた現宙組トップの真風涼帆。これには満員の場内も大爆笑。「宙組の歴史を知っている人も知らない人も楽しんでください」とフォローした和希が「ハッスルメイツ」のもうひとつの主題歌「君のSORA」を歌ってショーがスタートした。ここで「そら」と「宙」がかかっていることが分かる仕掛けで、これはなかなか憎いアイデアだった。

 

続いて瑠風輝と娘役陣で「コパカバーナ」。鷹翔千空、なつ颯都、亜音有里の3人による「ファントム」。松風輝、美風舞良で「TOPHAT」と宙組の名場面を再現。「ファントム」を3人で再現したように主題歌を数人で分けて歌うのがこのショーの特色で、これがなかなか粋な計らいだった。「エリザベート」も「最後のダンス」を松風ら男役出演者全員が歌い継いだ後に和希が登場して最後を決め、「私だけに」も美風以下娘役のメンバー全員がワンフレーズずつ歌い継いだ。そして新人公演でルキーニを演じた和希が「キッチュ」をノリノリで歌い、客席おりもあっておおいに盛り上がる。

 

ルキーニが監獄で申し開きをするという「エリザベート」の設定を借りて、ここからは歴代宙組作品の主人公たちが監獄で申し開きをするという爆笑コント。アントワネット(美風)やレット・バトラー(穂稀せり)カルメン(天彩)ラダメス(鷹翔)らが次々登場して女看守(瀬戸花まり)の前で人生を懺悔、看守たちがハリセンするという「タカスぺ風」お笑いの一幕。

 

これがホセ(瑠風)カルメン(天彩)による情熱的なスパニッシュダンス「テンプテーション」へと発展、「シトラスの風」に使われた名曲「アマポーラ」を穂稀、澄風なぎ、鷹翔、なつ、華妃まいあ、湖々さくらの6人がアカペラコーラスで披露と、ただ再現するだけでなく、こんないろんな工夫が面白い。

 

ここからはファン投票上位のメドレーで「ミレニアムチャレンジャー」や「ファンキーサンシャイン」「ホットアイズ」といったショーの主題歌が続き、一部の最後は宙組のテーマソングとなった「明日へのエナジー」。和希を中心にメンバー全員が客席におりて熱唱、会場全体で盛り上がった。

 

2部は、和希が着流しで登場、宙組の日本物メドレーから。プロローグはもちろん「宙組大漁ソーラン」。大劇場の壮大なスケールから比べるとかなりこぢんまりとしたソーランだが全員の熱気で一気に盛り上がり「維新回天・竜馬伝!」などのメドレーにつないだ。続く雨のコーナーの和希と天彩のほのぼのとしたプチ芝居のあとは大作「NEVER SAY GOODBYE」の大合唱から和希のダンスソロへ。そして新たな挑戦として全員が英語の歌に挑戦した「ボヘミアン・ラプソディー」へ戦場の悲劇を歌ったシリアスな場面から和希が名曲「愛」を熱唱、男役メンバーとともに燕尾服のダンスで再生、一転、明るく軽快なフィナーレに突入した。

 

歌にダンスにプチ芝居そして進行役のナレーションと緩急自在にこのショーを仕切った和希の余裕たっぷりのステージングがなんともさわやか。歴代宙組のトップスターたちが演じたり歌ったりしてきたナンバーを和希がいとも軽々と歌い踊る姿に、宙組の明るい未来をみたようだった。「ベルサイユのばら」新人公演のオスカル、「エリザベート」新人公演のルキーニ、そして今年正月の「WEST SIDE STORY」のアニータ。そのどの役にも染まることのできるマルチプレイヤー・和希が本領発揮したショーだった。

 

私が見た回は真風はじめ寿つかさ組長ら「WEST SIDE STORY」組が総見、客席はおおいに沸いていた。公演は13日まで。

 

©宝塚歌劇支局プラス8月4日記 薮下哲司記

 

雪組公演、ミュージカル「ファントム」特別鑑賞会のお知らせ(於、宝塚大劇場 昼食、解説付き)

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 ©宝塚歌劇団

 

雪組公演、ミュージカル「ファントム」特別鑑賞会のお知らせ

 

宝塚きってのミューズコンビ、望海風斗、真彩希帆主演による、ミュージカル「ファントム」(中村一徳潤色、演出)は、11月9日から宝塚大劇場で上演されますが、毎日新聞大阪開発では「第6回薮下哲司と宝塚歌劇を楽しむ」という恒例の特別鑑賞会を企画、11月15日(木曜日)の3時の回で実施することになりました。

 

当日13時半に宝塚大劇場チケットカウンター前に集合、エスプリホールで特製松花堂弁当の昼食をとってもらったあと、私が今回の「ファントム」のみどころを簡単に解説、3時の回をS席(一階中部センター)で観劇というコースです。参加費は消費税込みで一人13500円。お申し込みは先着順で40人限定となります。

 

「ファントム」は、「オペラ座の怪人」として知られるガストン・ルルーのゴシックロマンを新たに解釈で舞台化したモーリー・イェストン作曲によるミュージカルで、宝塚歌劇では2004年に宙組で初演、和央ようか、花總まりのゴールデンコンビで大評判を呼び、引き続き2006年に春野寿美礼、桜乃彩音のコンビの花組で再演、2011年には蘭寿とむ、蘭乃はなコンビの花組でも再演され、今回が4度目となります。歌唱力に定評のある望海、真彩の雪組コンビによる再演は、これまでの公演とは一味違った聴きごたえのある公演になることは必定。チケットの一般発売は10月ですが、シャンドン伯爵とアラン・ショレを彩凪翔と朝美絢が役替わりするという話題もあって前評判も上々、今夏の「エリザベート」同様、相当なチケット難が予想されます。この機会にお誘いあわせのうえお早めに申し込んで頂くことをおすすめします。

 

配役はファントム(エリック)が望海風斗、クリスティーヌが真彩希帆、キャリエールが彩風咲奈、そしてこの日のシャンドン伯爵は彩凪翔、アラン・ショレは朝美絢です。

 

お問い合わせ、お申し込みは毎日新聞大阪開発☎06(6346)8784(平日10時から18時)まで。

 

 

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