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優波慧、綺城ひか理、2人でビルに挑戦、花組公演「ME AND MY GIRL」贅沢な新人公演

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   ©宝塚歌劇団(新人公演パンフレットより)



優波慧、綺城ひか理、2人でビルに挑戦、花組公演「ME AND MY GIRL」贅沢な新人公演

花組公演、ミュージカル「ME AND MY GIRL」(小原弘稔脚色、三木章雄脚色、演出)の新人公演(原田諒担当)が17日、宝塚大劇場で上演された。今回はこの模様を報告しよう。

「ミーマイ」新人公演にはさまざまな伝説がある。剣幸がビルを演じた1987年月組初演の新人公演では涼風真世がビルを演じ、続演時には涼風がビルを、剣がジャッキーを演じた役替わり公演があり、その新人公演は当時研1だった天海祐希が抜擢され大きな話題に。その天海が8年後、本公演で主演した1995年時は一幕が水夏希、二幕を成瀬こうきがダブルキャストでビルを、そして瀬奈じゅんが主演した2008年版の新人公演は、現在の公演で主演している明日海りおがビルを演じている。それにしても天海の新人公演のビルは衝撃的で、まさに一夜にして「スター誕生」の伝説の公演で、現在の新人公演人気は、ここから始まったといっても過言ではない。

今回は2008年版に準じた新人公演で、ビル(明日海)を一幕が優波慧(研7)、二幕が綺城ひか理(研6)が分けて演じるダブルキャスト方式がとられた。あとサリー(花乃まりあ)が、城妃美伶(研6)と音くり寿(研3)、ジョン卿(芹香斗亜/瀬戸かずや)が、亜蓮冬馬(研4)と飛龍つかさ(研5)、マリア公爵夫人(桜咲彩花/仙名彩世)を春妃うらら(研6)と乙羽映見(研7)が一幕と二幕を交代で演じ、一気にツーパターンを見てもらおうという公演で、演じるほうは大変だっただろうが、それぞれのコンビが切磋琢磨、持ち味を発揮して、このうえない贅沢な公演となった。

 公演自体は、フィナーレ抜きで2時間15分程度ある芝居部分を細かくカットして、休憩なしで1時間50分に縮めた新人公演バージョン。ビルが両親は「くたばった」と説明する場面を「死んじまった」と軽くひとことですませたりする細かいカットから、二幕は冒頭のダンスシーンをカットして図書館の場面からスタートするなどの大幅なカットまでさまざま。それでも主要なナンバーはほぼそのままあって、ずいぶんテンポのいい舞台だった。

 一幕のビルに扮した優波は、このところ新人公演では二番手の役が続き、満を持しての主役登板。二枚目で、押し出しがあって、台詞回しや雰囲気が初演の剣になんとなく似ていて、なんとも懐かしかった。登場シーンの下町育ちのがらっぱちな感じもよくでており、歌もタップも安定感があった。ただ、この役は歌やダンスだけでなくオールマイティーな実力が必要とされる難役中の難役。歌いながら話しながらの帽子さばきなどの細かい芝居も要求され、これが重要なファクターとなっているのだが、優波はこの辺が実におおざっぱだった。この日の観客は非常に温かく、失敗しては笑い、うまくいくと拍手していたが、ビルとしては、うまくいって当たり前なので、下手にやるよりやらない方がすっきりすると思う。

その点、二幕でビルを演じた綺城は、図書館のマントさばきやランべスの街角でのリンゴさばきが何とも堂に入っていて、器用さがにじみでた上、クリアな台詞と歌声、そして幻想シーンのダンスに情感がこもっていて、なかなか見事なビルだった。音楽学校の文化祭で雪組の永久輝せあとともに演劇の主役の皇太子を演じたが、入団してからはこれといった役になかなか巡り合えず、一昨年のエリザベートではエーヤンのソロ歌唱の上手さで目を引き、昨年正月のドラマシティ公演「風の次郎吉」の医者役を好演、芝居心があるなあとは思っていたのだが、今回の堂々たる主役ぶりにはびっくりだった。ラストの思いのたけをぶちまける「このヤロー!いままでどこにいたんだ!」という台詞をそのまま今回の綺城に送りたい。すっきりした容姿と長身で舞台姿も映え、ワキよりセンターがよく似合う。残り1年半の新公期間で再び主演を見せて欲しいし、これを機会に男役としてのさらなるかっこいい見せ方を体得してほしい。

サリーの城妃と音は「アーネスト・イン・ラブ」でもセシリー役をダブルで分け合った二人だが、一幕の城妃は、さすがに場馴れしていて、安心して見ていられた。パブでのソロも情感がこもり、庶民的な雰囲気もよくでていて、いいサリーだった。しかし、二幕でサリーを引き継いだ音が、城妃とは違った意味でまた素晴らしいサリーだった。「ランべス・ウォーク」が終わったあと、休憩なしで展開する関係上、ここで音の銀橋ソロから始まるのだが、これがたった一人で下手から登場し、歌いながら銀橋を渡り、上手にはけるのだ。2550人余りの耳目全てを100期生が一人で引き受けたこと自体も驚きだが、可憐な雰囲気と下町娘らしい勝ち気なところを、絶妙のメリハリをつけて歌った「顎で受けなさい」がほぼ完璧。歌の人であることを一気に印象付けたのは立派だった。幻想シーンの赤いドレスのダンスも綺城との息がぴったり。ラストの変身も見違えるような品格を漂わせてこのうえなく美しかった。芝居心もあり末恐ろしい娘役だ。

ジョン卿は一幕が亜蓮、二幕が飛龍。大人の雰囲気をたたえた英国紳士役で、新人公演では、この役が一番の難役かもしれない。長身で彫りの深い顔立ちの亜蓮は、一人だけ本物のジェントルマンが混じっているような風貌のうえ、しっかりと落ち着いた台詞で好演、引き継いだ飛龍は、ランべスの街角とマリアへのプロポーズの場面しかないのだが、亜蓮のジョン卿を自然に引き継ぎ、違和感がなかったのがよかった。

ジャッキー(柚香光/鳳月杏)は帆純まひろ(研4)でジェラルド(芹香斗亜/水美舞斗)は聖乃あすか(研3)という配役。帆純は「新源氏物語」でも柚香が演じた役に入ったが、大柄で雰囲気が柚香にそっくり。華やかなジャッキーだった。ただ歌唱はまだまだ、冒頭などのソロ歌唱が不安定だった。ジェラルドの聖乃は、若々しくすっきりした青年ぶりが役にぴったりだった。東京公演では帆純と聖乃が役を入れ替わるという。いずれにしてもこの二人にはこれからも注目したい。ちなみにビル、サリー、ジョン卿、マリア侯爵夫人も東京公演は一幕と二幕が逆になる。

マリア公爵夫人は一幕が春妃、二幕が乙羽。色合いは多少違うがいずれも甲乙つけがたい好演。一幕の春妃はビルの教育シーンのところで独自の工夫を見せ、二幕の乙羽は身長もあり堂々とした品格が映えた。ソロが素晴らしく、ずいぶん得をした。


あと弁護士パーチェスター(鳳真由/柚香)は矢吹世奈(研6)、ヘザーセット(天真みちる)は澄月菜音(研5)。矢吹は自然なおかしみで絶妙のパーチェスターを演じ、澄月は本役の天真を手本にした、抑えた演技で見せた。あと娘役ではサリーの下宿屋の女将アナスタシア(芽吹幸奈)を演じた若草萌香(研4)がワンポイントながらいい味を出していた。彼女は新源氏物語の新公でも王命婦(芽吹幸奈)を演じ、歌の上手さを印象付けていたが、芝居心もなかなかのものを持っていると言うことだろう。

途中で主役が入れ替わる新人公演は「ミーマイ」以外にも「ウエストサイド物語」など一本立ての大作の時に時々行われるが、今回のように多くの役が入れ替わるのは珍しく、演じるほうも見るほうも大変だったが、役が少ないこういうミュージカルの場合は一人でも多くの生徒の可能性を探るという新人公演には合っているので、おおいに歓迎したい。それにしても全員が大健闘で、2本分みたような非常にぜいたくな新人公演だった。主要キャストが入れ替わる東京公演も、是非観てみたいものだ。

©宝塚歌劇支局プラス5月18日記 薮下哲司




鳳稀かなめ、夢咲ねね が熱演「1789」大阪公演   「 宝塚イズム33」発売のお知らせ

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鳳稀かなめ、夢咲ねね、元星組コンビが熱演「1789」大阪公演

ミュージカル「1789」~バスティーユの恋人たち~(小池修一郎潤色、演出)大阪公演が梅田芸術劇場メインホールで上演中。今回は、凰稀かなめがマリー・アントワネット、オランプに夢咲ねねが扮したバージョンについて報告しよう。

在団中に「銀河英雄伝説」のラインハルト「風と共に去りぬ」のレット・バトラー、そして「ベルサイユのばら」のオスカルと大役を次々に出演した凰稀。すっきりとした男役のイメージがあるだけに、マリー・アントワネットと聞いたときは、イメージがわかなかったのだが、ピンクのバラをイメージしたゴージャスな衣装で登場した凰稀のアントワネットは息をのむ美しさ。ロック調の歌も自然な発声でリズムにもうまく乗っていて、聞いていて心地よかった。芝居も、台詞が自然体でいながら押し出しがあって、いい意味で非常に大きく見えた。後半のクラシック調のソロがやや弱いように聞こえたが、これは演出だったのかもいしれない。

東宝版の「1789」は、アントワネットを天。農民の青年ロナンを地。その恋人オランプは両者をつなぐ存在で、この3人がメーン。今回見たロナンとオランプは加藤和樹と夢咲だった。小池徹平、神田沙也加バージョンに比べて二人とも大柄で、凰稀アントワネットとともに、ずいぶん見映えする舞台だった。

加藤のロナンが、背が高くて美丈夫で決してうまくはないのだが台詞に押し出しがあり、パリに出てきたときに広場で演説するデムーラン(渡辺大輔)やロベスピエール(古川雄大)らとすぐに打ち解けるあたりや、パレ・ロワイヤルでのオランプ(夢咲)との出会いで、オランプが一目ぼれするくだりに説得力があった。一方、夢咲も、さすが大劇場仕込みのスケールの大きい芝居で、感情の起伏を的確に表現、歌の巧拙を超えてこのミュージカルが、オランプが重要な存在であることを強烈に印象付けた。なにより舞台姿が華やかだ。

作品的には、花總、小池、神田バージョンを見たときに思った以上に、フランス革命の発端をそれぞれの立場からわかりやすく描いていることに感心させられたが、「ベルばら」ではないのにアントワネットをことさら肯定的に描いているのにはやはり多少の疑問が残った。

 とはいうもののロナンの妹ソレーヌ(ソニン)を歌う革命の女闘士に仕立てたり、群像劇としての人物描写が巧みで、最後まであきさせなかった。「レ・ミゼラブル」に続く東宝のヒットシリーズになる予感がする。

振付も宝塚版とは一新。二幕冒頭の球戯場のバトルダンスも新たな振付になった。男性が入って全体的には迫力が増しているのだが、ここのダンスだけは女性ばかりの宝塚の方がパワフルに感じたのはなぜだろう。

装置は、松井るみが担当しているが、宝塚版とは大きくことなり、大きな跳ね橋のような装置を上げたり下げたりして、宮殿になったり、牢獄になったりするアイデアはスケール感もあって、バックの映像とともに最近の舞台美術では一番すぐれたものといえるだろう。 

 大阪公演は6日まで。

©宝塚歌劇支局プラス5月30日記 薮下哲司


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各組公演評、OG公演評と共に半年分の「新人公演評」も新設。OGロングインタビューは「天使にラブソングを」でミュージカル初挑戦する元花組トップ、蘭寿とむの登場です。
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桜木みなと等が歌の成果を披露、宙組バウワークショップ開催

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桜木みなと等が歌の成果を披露、宙組バウワークショップ開催

将来を期待される各組スター候補生たちの歌唱力のさらなるレベルアップを狙った「Bow Singing Workshop」~宙~(中村一徳構成、演出)が、6月2日~4日まで宝塚バウホールでおこなわれた。今回はこの模様を報告しよう。

以前、各組の歌唱力に秀でたメンバーを選抜して行われた「エンカレッジコンサート」という催しがあったが、今回はそれとはちょっと趣旨が異なり、期待のスター候補生に、出演することによってさらに歌唱力をアップしてほしいと願いを込めたコンサート。各組のトップバッターを務めた宙組は研2から研9までの16人が選ばれた。

座長格は美月悠(研9)、桜木みなと(研8)、彩花まり(同)、伶美うらら(同)の4人。これに和希そら(研7)、留依蒔世(研6)、瑠風輝(研5)らの新人公演主役クラスが参加した。各人が次々に登々場、一幕と二幕で1曲ずつソロを披露するというシンプルなコンサートで、25分の休憩をはさんで2時間5分、公演期間も3日間5回だけ。しかし、宝塚の将来を担うスター候補生が大挙出演するとあって、会場は熱心なファンで満員の盛況だった。私が見た日には元星組トップの瀬戸内美八や元宙組の悠未ひろの姿もあった。

男役は黒燕尾、娘役は白のドレスという宝塚ならではの正装で出演者全員が勢ぞろい。ミュージカル「RENT」の名曲「シーズン・オブ・ラブ」を歌って華やかにスタート。曲が終わり、和希だけが残ってミュージカル「モーツァルト!」から「僕こそミュージック」を歌ってコンサートが始まった。

各人が歌いたい曲を何曲か提出、重ならないように調整を加えての選曲だというが、瀬戸花まり(研7)が「ミスサイゴン」から「命をあげよう」鷹翔千空(研2)が「レ・ミゼラブル」から「星よ」遥羽らら(研5)が「マイ・フェア・レディ」から「踊りあかそう」とミュージカルからの曲が続くのは、やはり最近の傾向。いずれも安定感ありよく声もでて、楷書のようなきっちりとした歌唱だった。なかでは瑠風が歌った「ファントム」からの「Where in  the World」が表現力豊かで聴かせた。

宝塚の曲も真名瀬みら(研2)と小春乃さよ(研5)が歌った「NEVER SAY GOODBYE」からの同名主題歌と「愛の真実」星風まどか(研3)と希峰かなた(研4)の歌った「薔薇の封印」からの「私のバンパイア」と「The Arbiter」とミュージカルからの曲が続いた。なかでは真名瀬と小春乃が曲のよさとともに印象に残った。「NEVER―」を役者がそろったときにもう一度見たいと思う。

華妃まいあ(研4)と澄風なぎ(研4)による宙組のテーマソングともいうべき「夢・アモール」(「シトラスの風」から)に続いて留依は「トゥーランドット」から「誰も寝てはならぬ」を絶唱。これも聴かせた。この曲は留依が音楽学校の文化祭でも歌った曲ではなかったかと思う。

一幕ラストは伶美の「瑠璃色の地球」彩花の「LET ME BE YOUR STAR」美月の「カサブランカの夜霧」そして桜木が「This is The Moment」を歌って締めくくった。彩花の実力が抜きんでているが、松田聖子のヒット曲を歌った伶美、ミュージカル「ジキルとハイド」の曲を歌った桜木も好唱。二人とも見せ方がうまい。

二幕は桜木を中心にした7人による「GLORIOUS‼」から華やかにスタート。宝塚メドレーが続いたが小春乃の「レ・ミゼラブル」の「HOME」留依の「ロミオとジュリエット」の「僕は怖い」が抜きんでたうまさで耳に残った。最後は伶美が「モーツァルト!」から「ダンスはやめられない」桜木が「ガイズ&ドールズ」の「運命よ、今夜は女神らしく」彩花と美月が「THE  SCARLET PINPARNEL」から「あなたを見つめると」と「目の前の君」を歌って締めくくった。

真名瀬や鷹翔といった下級生には何物にも代えがたい貴重な経験となっただろうし、もともと歌の実力に定評のあった中堅どころの生徒たちにはさらなる自信になったことだろう。しかし一番のうれしい驚きは伶美の成長ぶりだろう。二曲ともよく声が伸びて、歌う表情には余裕さえうかがえた。あと、桜木に改めて豊かなスター性を感じた。二人の今後のさらなる活躍を期待したい。


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©宝塚歌劇支局プラス6月6日記 薮下哲司



月組トップ、龍真咲のサヨナラ公演、宝塚大劇場で始まる

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   ©宝塚歌劇団




月組トップ、龍真咲のサヨナラ公演、ロック・ミュージカル「NOBUNAGA信長」―下天の夢―(大野拓史作、演出)とシャイニング・ショー「Forever LOVE‼」(藤井大介作、演出)が10日、宝塚大劇場で開幕した。今回はこの模様を報告しよう。

 戦国武将のなかでもひときわ男らしく、豪快なイメージのある織田信長。孤高のトップというイメージのある龍にはぴったりで、ロック・ミュージカル仕立て(高橋恵作曲)というのがいかにも今風だ。

まず冒頭、白装束の龍信長が「敦盛」を舞う能がかりの場面が一転、一気に桶狭間の戦いをロックの群舞で展開する導入がダイナミックかつテンポがよく、物語の世界に一気に没入させた。ここで信長の妻・帰蝶(愛希れいか)や秀吉(美弥るりか)前田利家(輝月ゆうま)そしてのちの将軍・足利義昭こと覚慶(沙央くらま)その家臣、明智光秀(凪七瑠海)らが一堂に会して役者がそろい、これからの展開に心が弾む。

次の南蛮船の場面で時は10年経過、ここで物語のキーパーソン、ロルテス(珠城りょう)が登場する。宣教師の護衛として来日したローマ出身の騎士で、裏切り者の汚名を返上するため、日本征服の野望を抱くロルテスは、破竹の勢いだった信長に興味を持ち、彼を支える武将に興味を持つ。ロルテスは比叡山の僧兵に囲まれているところに、象に乗った龍信長と遭遇、知己を得る。向かうところ敵なし、信長の天下統一の道の前に、ロルテスはいかに立ちはだかったか。

暴君で一人突っ走る信長に対する武将たちの不満と鬱積を、ロルテスがうまく利用、日本を乗っ取ろうと画策していたという隠れテーマがこの舞台のミソで、これ自体あまり語られなかった新しい視点でなかなか興味深い。ただ、台詞を歌で展開するロック・ミュージカルの宿命で、歌詞が聞き取れず、ロルテスが武将たちをたきつけて信長暗殺に誘導していく過程がいまいちよくわからない。ここがもっとわかりやすければ、さらに面白く見られたのにと悔やまれる。企てが失敗したことを知り、信長に向けた銃を差し出す、ここ一番のくだりが、ぴんと来ないのだ。ロルテスを進行役にするのも一つの手だったかも。冒頭の能がかりや象の場面、豪華な衣装などはよかったが、せっかく宝塚なのだから安土城天守閣再現はぜひ見たかった。

これがサヨナラ公演となった龍は、その天衣無縫、いい意味で自分中心的なやんちゃなイメージが信長にぴったりで、サヨナラ公演にしてうまく代表作にはまったという印象。本来の豪快な信長のイメージから言うと龍にしても可愛すぎるきらいはなくもないが、龍ならではの信長だといえよう。妻はおろか弟にも心を開かなかった信長の孤高の存在感がいい意味で龍のイメージと重なった。「今から行こう」と一人で船出するラストシーンが龍らしく潔かった。

珠城ロルテスは、ウェーブのかかった長髪にひげを蓄え、いかにも騎士くずれといった佇まい。ほかが和装なのでとりわけかっこよく映る。骨太ではあるが、基本はさわやかな青年タイプなので、腹に一物あるというこの手の役は挑戦だが、大健闘している。周囲が秀吉や光秀などよく知られたキャラクターなので、それらに負けないキャラクターの濃さを今後さらに工夫してほしい。

信長を暗殺する明智光秀には、月組生としてはこの公演が最後となった凪七。その光秀を討ってのちに天下統一する秀吉に美弥。そして、信長の天下統一に利用される将軍、足利義昭が沙央。それぞれの立場を考えるとなんだか意味シンな配役となったが、そんなことは関係なくいずれも好演だった。凪七は、知的で頭脳明晰な光秀をクールに体現、美弥は、サルのあだ名で知られるにはやや端正な秀吉だったが、ひょうきんな明るさはさすが。沙央の義昭は、したたかな策士的雰囲気を巧みに表現して舞台を締めた。後半、3人が続けさまに銀橋を渡るソロがあり、ここはさすがに盛り上がった。

濃姫とも言われる信長の妻、帰蝶は愛希。武芸に秀でた男勝りな女性ということで長刀を持っての勇ましい場面ばかりで、信長とのラブシーンはほとんどないに等しかったが、いかにも愛希らしい役どころ。将軍家が信長を裏切ったという知らせが入った時、戦いをやめようと信長を諫める場面がみせ場。信長を心で支える帰蝶を凛として演じ切った。

帰蝶の家臣で光秀の妹、妻木に扮したのが朝美絢。ロルテスの陰謀の手先になる重要なワキ。朝美が龍を誘惑するセクシーな場面もあり、若手男役をこういう娘役で起用したのは大野氏の手腕か。朝美はこのあと信長の小姓、森蘭丸役でも登場する。もう一人の期待の若手、暁千星は、妻木の恋人、佐脇良之。岐阜城で信長に切りかかる大役だ。

娘役はお市の方が海乃美月、ねねが早乙女わかばで、それぞれ好演。信長の弟、信行役の蓮つかさが印象に残った。

ショー「Forever LOVE‼」は、幕が開くと、珠城ら赤とピンクの衣装をきたラブジェントルマンがずらりと登場、愛希らラブレディ―ズらも加わってリズミカルなダンスを披露したあと、全員が両サイドにはけると舞台中央からゴージャスな羽のガウンをまとったラブラバー龍が登場。「Love Love Love」と歌い始める。なんとも豪華で華やかなオープニング。藤井氏が愛をテーマに、サヨナラ公演の龍にささげたショーだ。プロローグの後、ラテンの場面では、まず龍が愛希とデュエット、続いて凪七とムーディーに、美弥とはセクシーに、そして沙央とはコミカルに、それぞれ女役で一曲ずつからむ。「カチート」を明るいテンポで踊った沙央とのコンビが楽しかった。

愛希と珠城のフレッシュコンビのダンスの後は、龍を中心とした黒燕尾を着崩してかっこよく踊る男役のナンバー。ここがなかなかの見もの。燕尾を脱ぎ捨てた龍が男役と入れ替わった娘役たちと踊るナンバーから、再び男役をまじえてパワフルに踊るロックナンバーに展開するあたりがなんともおしゃれだ。

続いては愛希のダンスナンバー。ダンサー愛希のための場面だ。このあとからは、龍惜別モードに突入。凪七と美弥が去りゆく仲間を思う歌からはじまって、龍が仲間に見守られながら光の中に去っていく。とはいえサヨナラ公演独特の湿っぽさは一切ない。龍と一緒に退団していくメンバーにも一小節ずつソロがある心遣いがうれしい。フィナーレは沙央がエトワールを務め、華やかなパレードでしめくくった。全体的にピンクで統一。最初から最後まで温かい雰囲気に包まれたショーだった。

©宝塚歌劇支局プラス6月12日記 薮下哲司


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早霧せいな×咲妃みゆコンビが名作に挑戦!雪組公演「ローマの休日」開幕(中日劇場)

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   ©宝塚歌劇団



早霧せいな×咲妃みゆコンビが名作に挑戦!雪組公演「ローマの休日」開幕

永遠のフェアリー、オードリー・ヘップバーンのハリウッドデビュー作で、アメリカ本国より日本で大ヒット、日本でのヘップバーン人気を決定づけた映画「ローマの休日」が早霧せいなを中心とした雪組でミュージカル化(田淵大輔脚本、演出)され、名古屋・中日劇場で14日から開幕した。今回はこの模様を報告しよう。

ヨーロッパ某国のプリンセス・アンが、海外視察旅行中のローマで、宿舎を抜け出し、偶然出会った新聞記者のジョーと生涯初めての一日だけの自由な休日を満喫する姿を描いたロマンティックコメディ。あまりにも有名な映画で、見ていない人はいないぐらいの名作だ。宝塚でも1962年の正月に当時研1だった初風諄を王女役に大抜擢、明石照子とのコンビで舞台をニューヨークに移して「絢爛たる休日」というタイトルで上演されたことがある。「ローマの休日」のタイトルでの舞台化も二度あって、最初は大地真央、山口祐一郎が主演した東宝版。最近では朝海ひかるが王女役を演じたバージョンがあった。どちらもなかなかの好舞台だったが、なかでも大地が演じたアン王女は、一日が終わって宿舎に帰ることを決意する場面の感情の起伏の表現が見事で、映画を何度も見て、知っている話なのに思わずほろりとさせた。

今回の宝塚版は、基本的に映画をベースに「スペイン広場のジェラート」や「真実の口」「祈りの壁」そしてラストの「記者会見」など有名な場面はすべて再現しながら、巧みにミュージカルナンバーを織り交ぜて構成、映画をそのまま追体験できる舞台化に仕上げている。早霧扮するジョーと咲妃みゆ扮するアン王女がベスパに乗ってローマ見物する場面は舞台でも第一幕のクライマックスになっていて、映像を駆使して楽しい見せ場に盛り上げた。

ただ基本、王女、記者、カメラマンの3人だけの芝居なので出演者の多い宝塚的には不向きな題材でもあり、脇をさまざまにふくらませて、涙ぐましい工夫を凝らしているのがなんとも微笑ましい。通信社のローマ支局が結構広いスペースで何人も記者がいるのには思わず笑ってしまった。その割にはスペイン広場の階段の装置がお粗末でがっかり。映画との大きな違いは、後半、王国の諜報員たちと大立ち回りを演じる船上パーティーを普通のナイトクラブにしたこと。装置の都合かどうか知らないがこれは改悪。川に飛び込んで脱出、服を乾かすためにジョーのアパートに立ち寄るという必然性がここで失われてしまい、感情の高まりがやや弱まったと思うのだがどうだろうか。大地版に比べてアン王女のオリジナル曲が弱いのも残念だった。

とはいうもののジョー役の早霧が、久々のスーツ物で好青年ぶりをいかんなく発揮、スクープ狙いの記者が、純真な王女の前で、徐々に人間味を取り戻していく様子を巧みに表現して、なんともさわやかだった。

王女役の咲妃は、冒頭の謁見シーンから初々しさはよく出ていてチャーミングなのだが、オードリーのイメージが強いからか、全体的には何か物足りない。「春の雪」はじめ「星逢一夜」や「るろうに剣心」など日本ものはあれだけ似合うのにプリンセス役は思いのほか映えない。姿勢のせいもあるが、王女としての品格のようなものが希薄。まだ手探り状態かもしれないが、客席の視線を跳ね返すような強烈な自信とパワーでもって臨んでほしい。

カメラマンのアーヴィング役は彩凪翔。無精ひげをはやして、だらしない雰囲気をうまく出して好演。王女の髪をカットする美容師役マリオは月城かなと。陽気なイタリア男をマンガチックに作りこんでの登場。予想通りのオーバーな役作りで、さほど面白くはないが楽しげに演じているのがいい。この二人は8月の梅芸公演前半のみ役替わりとなる。

ほかでは支局長役の鳳翔大。それからアーヴィングの恋人役フランチェスカ役の星乃あんりぐらいしか目立った役はなく、しかも、それほど重要な役でもないので、印象は薄い。王国の警視総監役が真那春人で二幕冒頭にソロがあったのと、クラブの歌手役で久城あすがムーディーな歌声をきかせてくれたのが収穫だったぐらい。

役が少ないという不満はあるものの、作品自体のロマンティックな雰囲気はうまく醸し出され、題材的には宝塚にぴったりの作品だとはいえるだろう。

©宝塚歌劇支局プラス6月15日記 薮下哲司

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月組「NOBUNAGA」新人公演&「バウ・シンギング・ワークショップ~星~」

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暁千星主演、月組「NOBUNAGA」新人公演&麻央侑希を中心とした「バウ・シンギング・ワークショップ~星~」開催

月組期待のホープ、暁千星(研5)が主演した「NOBUNAGA信長」―下天の夢―(大野拓史作、演出)の新人公演(同)が28日、宝塚大劇場で行われた。今回はこれと26日から28日まで宝塚バウホールで開催された麻央侑希を中心とした「バウ・シンギング・ワークショップ~星~」(中村一徳構成、演出)の模様をあわせて報告しよう。

「NOBUNAGA」はトップスター、龍真咲のサヨナラ公演のために作られた演目で、龍の個性に合わせて作られているので、新人公演の主演者は誰が演じてもかなりやりにくいのではないかと思ったが、作品自体にそれほど惜別モードはなく、暁も比較的自由にのびのびと演じて、暁ならではの若々しい信長像を浮き上がらせた。

ただ、それにしてもこのストーリー、改めて見ると史実も何もあったものではないむちゃくちゃな展開。唯一、帰蝶の信長への犠牲的な愛に心を動かされたのも束の間、信長が彼女を切り捨ててしまうのだから何とも救いようがない。信長を筆頭に登場人物の誰にも感情移入できる人物がいないというのがまずもって致命傷だ。本能寺の変のあと、ロルテスの手引きで大海原に脱出するエンディングは、義経がチンギス・ハーンになった「この恋は雲の涯まで」を思い出した。大野氏は前作の「前田慶次」が100周年最高の収穫で、期待しただけに大きな肩すかしだった。狙いどころはいいのだが、あれもこれも欲張りすぎて、収拾がつかなくなった典型か。

さてその新人公演だが、主演の暁は、少年っぽさが魅力の男役スター。長身で見映えがよく、冒頭、ザンバラ髪に長い刀を背にもってすっくと仁王立ちした姿はなんともかっこよく、さながら若き日の信長がそのまま舞台に登場したかのよう。「敦盛」の舞を省略したのは正解だった。歌は声がよく伸びて、公演ごとの成長がうかがえるが、台詞とともに男役としてはかなり高い声がネックで周囲から「おやかたさま」と呼ばれる信長の男らしい貫録がでない。この一点が暁の課題だろう。ただ後半の銀橋のソロは感情もよくでて聴かせた。

妻の帰蝶(本役・愛希れいか)は紫乃小雪。暁と同期(研5)で初ヒロイン。新人公演などで徐々に頭角を現してきたが、愛しながらも報われないという内面の表現や、長刀を持っての殺陣など、演技的にも所作的にも高度な技術を要求される難役を無難にこなして、高得点だった。重要な役のわりには出演場面があまり多くなく、真価を発揮できていないようだったので、次回の公演に期待したい。

日本征服を企むローマ出身の騎士ロルテス(珠城りょう)は輝生かなで(研4)。カールした金髪にブーツ姿の外見は見栄えがして存在感は際立った。しかし、本来はこの役がこの舞台を取り仕切らないといけないのだが、書き込み不足でずいぶん中途半端な役になってしまい、本役の珠城以上に新人公演の輝生にはどうしていいかよくわからない迷いが出ていたように見えた。信長の大きさに感服して、心酔していく後半部分が納得のできる演技になればさらによくなるだろう。

明智光秀(凪七瑠海)は夢奈瑠音(研7)。羽柴秀吉(美弥るりか)が春海ゆう(研7)。足利義昭(沙央くらま)が蓮つかさ(研6)という配役。春海は冒頭の群舞のセンターで鋭い目線とシャープな動きでひときわ目立ち、強烈なインパクト。夢奈は、本役の凪七を踏襲した誠実で丁寧な演技に好感が持てた。義昭に扮した蓮の芝居心のある演技もよく、この3人は、個性的にも役にふさわしくそれぞれが好演だった。

娘役は主なところでねね(早乙女わかば)が叶羽時(研7)、お市(海乃美月)が結愛かれん(研2)だったが、名前の大きさに比べてそれほどの役でもないがそれぞれ雰囲気をよくつかんでいた。

若手では信長の黒人の家臣、弥助に扮した風間柚乃(研3)が精悍な表情と長身ながらきびきびした動きで存在感を発揮した。象使いが娘役になり弥助が目立ったこともある。ちなみに風間は女優、故夏目雅子さんの姪にあたる。

★               ★             ★

一方、麻央侑希(研9)を座長にした星組若手メンバーの「Bow Singing Workshop~星~」は、前回の宙組同様、スター候補生16人によるコンサート形式のショー。各自が歌いたい曲2曲を披露、その合間に自己紹介のMCなどがある。

男役は黒燕尾、娘役は紺色のドレスというスタイルで、まずは「ノバ・ボサ・ノバ」から「ソル・エ・マル」を全員で歌ってオープニング。センターが麻央一人なので、麻央のためのショーのようなつくりでもある。その麻央は、長身にくっきりした小顔、9投身はあろうかと思われるプロポーション抜群で、これほどセンターが似合うスターもいない。歌は一幕で「王家に捧ぐ歌」から「エジプトは領地を広げている」二幕はトリで「オーシャンズ11」から「JACKPOT」を歌い、どちらも歌に聞き惚れるというより容姿に見惚れてしまう。歌の巧拙を超えてスターオーラをまき散らした。これぞ宝塚のスターだと思うのだが、いかがだろう。紅体制の星組でさらなる活躍を見せてほしい。

選曲は宙組同様、ミュージカルからの曲が多く、特に英語の曲が多かったのが特徴。華鳥礼良(研6)は「オペラ座の怪人」から「Wishing You Are Somehow Here Again」と「I Have Nothing」の二曲とも英語で披露。その圧倒的な表現力と歌唱力で魅了した。紫りら(研8)も「The 20th Century Fox Mambo」をマリリン・モンロー風の声色でセクシーかつチャーミングに歌って強烈な印象を残した。歌のうまさでは「NEVER SAY GOODBYE」から同名主題歌を歌った遥斗勇帆(研4)や「ブラックジャック」から「かわらぬ思い」を歌った颯香凛(研2)が聴かせ、表現力では「THE MERRY WIDOW」から「さあ、行こうマキシムへ」を歌った天路そら(研4)がうまかった。また「THE SCARLET PINPARNELL」から「君はどこに」を英語で「銀ちゃんの恋」から「主役は俺だ」を歌った桃堂純(研6)が選曲の個性では際立ち、どちらも柄にぴったりあって高得点だった。

ひろ香祐(研8)、音咲いつき(研8)、新人公演主役経験者の紫藤りゅう(研7)といったあたりは安心して聴いていられ、次期娘役トップが発表された綺咲愛里(研7)は「レ・ミゼラブル」から「夢やぶれて」と「オペラ座の怪人」から「Think of Me」を歌ったが、選曲が大曲すぎて、自分の個性を生かせなかったように思った。

あと綾凰華(研5)極美慎(研3)といった星組期待の美形ホープも健闘、娘役の天彩峰里(研3)と再下級生の夕陽真輝(研2)と天翔さくら(研2)は宝塚の主題歌を歌ったのに好感が持てたが、天彩の「ラムール・ア・パリ」からの「白い花がほほえむ」は、歌の解釈にやや疑問が残った。とはいえ全体的に歌唱のレベルは宙組に比べて段違いで、あっという間の二時間だった。

千秋楽はカーテンコールで全員が一言ずつ感想。それぞれがこのコンサートに出られたことに感謝の弁。麻央が「歌のコンサートで長をすることになって、自分自身が一番びっくり。みんなの歌への熱い思いに、歌に対する考え方が変わった。これからも星組をよろしくお願いします」とあいさつ、万雷の拍手を浴びていた。

©宝塚歌劇支局プラス7月2日記 薮下哲司



望海風斗、歌の巧さですべてをねじふせる!ミュージカル「ドン・ジュアン」大阪公演開幕

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©宝塚歌劇団


望海風斗、歌の巧さですべてをねじふせる!ミュージカル「ドン・ジュアン」大阪公演開幕

雪組の人気スター、望海風斗が世紀のプレイボーイを演じるミュージカル「ドン・ジュアン」(生田大和潤色、演出)の大阪公演が、2日から大阪・シアター・ドラマシティで始まった。今回はこの模様を報告しよう。

「ロミオとジュリエット」「太陽王」「1789」に次ぐ宝塚におけるフレンチ・ミュージカルの第4弾で、フェリックス・グレイ作詞、作曲による同名ミュージカルの翻案公演だ。2004年にカナダで初演、その後パリや韓国で上演され人気を博したという。オリジナルはこれまでの多くのフレンチ・ミュージカル同様、歌手とダンサーの役割がはっきり分かれている独特のスタイル。これを生田氏はほどよくバランスをとり、本来のミュージカルらしい体裁に整えて、見ごたえ&聴きごたえのある舞台に仕上げた。

婚約者がいながら夜ごと女性を愛し愛された稀代のプレイボーイ、ドン・ジュアンが、思いがけなく恋に落ち、人間性に目覚めるが、結局は「愛のために死す」という呪い通り、すべてがはかない夢に消えてしまうというストーリー。モーツァルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」を筆頭に、映画や舞台で何度も取り上げられているが、実はこのお話、個人的にはあまり好きではなかったのだが、フラメンコをベースにしたエネルギッシュなダンス、流麗かつスタイリッシュな音楽がことのほか素晴らしく、望海を筆頭にノリに乗る雪組メンバーのパワーも炸裂、どろどろした暗い話とは思えないほどドラマチックに盛り上がった。

望海は、登場シーンから眼光鋭く何かに憑かれたような雰囲気で、悪徳の限りを尽くすドン・ジュアンを体現、ひとしきり踊った後、しびれをきらしたファンをじらすかのようにソロが始まる。このタイミングが絶妙で、ファンは一気に引き込まれたのではないだろうか。決して誰もが感情移入できる役ではなく、難役だが、望海ならではの圧倒的な歌唱力はすべてをねじふせる力があり、多少のほころびは目をつむってしまおうという気にさせられるほどだった。

宝塚歌劇は、角和夫氏がグループのトップになって以来、角氏自ら宝塚音楽学校の入学式や卒業式などことあるごとに生徒に歌唱力の向上を説くなど、歌唱力の充実が最優先課題になっている。星組トップの北翔海莉や望海はまさに優等生タカラジェンヌといえるだろう。望海の今後のさらなる活躍を期待したい。

一方、ドン・ジュアンの親友役で舞台の進行役も兼ねるドン・カルロに扮した彩風咲奈も一皮むけたようなすばらしさ。プロローグの第一声のなめらかな発声は、一瞬、彩風とは思えなかったほど。もちろんそれだけではなく男役としての居住まいもずいぶん垢抜けて、ひとまわり大きくみえた。ドン・ジュアンの理解者であり親友だが、ドン・ジュアンの婚約者エルヴィラにひそかに恋をしているという設定。役的にはドン・ジュアンに対する無償の忠誠心には理解できないが、誠実な人間像はよくでていた。

相手役のマリアは彩みちる。婚約者ラファエルの出征後、依頼された彫刻を掘っているところでドン・ジュアンと運命的な出会いをする。タイトなパンツスタイルに黒のロングヘア、ぱっちりした目元がキュートでなんともセクシー。海千山千のドン・ジュアンを一目で射抜くだけのインパクトはあった。これまでにない宝塚の娘役ヒロイン像だ。「るろうの剣心」での少年役が印象的で、今回のヒロイン役となったよう。歌がやや不安定で大きな減点だったが、それをあまり感じさせないくらいの新鮮な風を吹き込んだ。

ラファエル役は永久輝せあ。マリアの婚約者だが出征、戦後、帰還したがマリアがドン・ジュアンに傾いたことを知り、ドン・ジュアンに決闘を申しこむ。背が高く、美形ホープであることを改めて再認識。やや自分中心的だがそれを自覚していない青年を、いかにもそれらしく演じて、大きく成長した。

ドン・ジュアンの婚約者エルヴィラは有沙瞳。演技派として定評のある有沙だが、今回も女性のあらゆる面を自然に浮かび上がらせた。あと印象に残ったのは何といっても騎士団長役とその亡霊に扮した香陵しずる。健闘をたたえて敢闘賞を贈りたい。これは見てもらったら誰もが納得するだろう。

ドン・ルイ・テノリオの英真なおき、イザベルの美穂圭子は専科生ならではの滋味深い演技と歌で舞台を引き締めた。専科勢の応援が舞台に大きな厚みをもたらしたが、雪組メンバーの歌のうまさに圧倒される公演でもあった。

©宝塚歌劇支局プラス7月5日記 薮下哲司


北翔海莉 退団前のファンサービス公演「One Voice」開幕

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    ©宝塚歌劇団



北翔海莉 退団前のファンサービス公演「One Voice」開幕

11月20日東京公演千秋楽をもって退団することになった星組トップの北翔海莉を中心としたコンサート、歌声をひとつに…「One Voice」(岡田敬二構成、演出)が3日から宝塚バウホールで開幕した。今回は、東京公演がなく公演回数も多くないことからプラチナ公演となったこの公演の様子をお伝えしよう。

「One Voice」は、歌唱力だけでなくタップや楽器演奏などなんでもござれのエンタテイナー、北翔の魅力のすべてを見てもらおうという趣旨のコンサートではあるのだが、北翔と共に退団する相手役の妃海風はもちろん専科から夏美よう、美城れんが特別出演、さらには礼真琴を筆頭に若手スターも大挙出演、彼らのための場面もしっかりと用意してあって、北翔はそれを見守りながら客席をも巻き込んで楽しいステージを進行していくといった最初から最後まで温かい雰囲気に包まれたコンサート。北翔のワンマンステージを期待すると肩すかしを食うかもしれないが自分を見せながら周囲にも気遣ったいかにも北翔らしいコンサートだった。

宝塚の曲は一切なく第一部はカーペンターズから始まってサイモンとガーファンクルなどの懐かしいポップス、第二部は「美女と野獣」や「サウンド・オブ・ミュージック」などのミュージカルからの曲を中心にした選曲、全体に60年代から90年代までの懐メロ31曲で構成されている。

幕が開くと誰もいない舞台にエレキギターの旋律が流れる。一瞬、観客に時空がタイムスリップしたかのような錯覚を覚えさせたあと舞台中央に赤い燕尾を着た北翔が登場。主題歌「One Voice」を歌い上げると、続いて男役が白燕尾、娘役が白いドレスと白で統一した衣装で全員がラインアップ。古き良き時代を再現するかのような華やかなオープニングに展開していく。

あいさつの後、北翔が残ってカーペンターズの「イエスタデイ・ワンス・モア」を軽快に歌い始め、コンサートが始まる。続いて妃海がカーペンターつながりで「トップ・オブ・ザ・ワールド」を歌ってつなぐ。一方、礼はサイモンとガーファンクルの「スカボロー・フェア」続いて美稀千種らで「ミセス・ロビンソン」そして北翔が「サウンド・オブ・サイレンス」と映画「卒業」のメドレー。こんな感じで北翔はほかに「ジョニー・ビー・グッド」や「ステインアライブ」サックス演奏で「ニューヨーク・シティ・セレナーデ」を披露、そしてボサノバの名曲「マシュケナダ」を全員で歌い踊って一幕の幕をとじた。美城のソロや夏美のダンス、礼と妃海の「この胸にときめきを」も印象的。

第二部はブギワンダーランドから華やかに幕開け。夏美のスペシャルパフォーマンスのあとはソウルトレインを思わせる北翔たちのアフロヘアーの場面など80年代ムードが横溢。続いて客席を巻き込んでの振付指導に発展。「肩こりフィーバー」では北翔が、客席に向かって隣同士、肩をもんだり、たたいたりする振りを指導、会場の雰囲気が一気にほぐれた。

場面変わって、北翔と妃海がディズニーの定番「美女と野獣」を披露。続いて「サウンド・オブ・ミュージック」の「もうすぐ17歳」をチロル風の衣装で礼と真彩希帆がデュエットしたのが何ともかわいかった。「アニーよ!銃をとれ」の名ナンバー「エニシング・ユー・キャン・ドゥー」には北翔と妃海が挑戦。息の合ったコンビぶりで笑わせ楽しませた。続いて「オクラホマ!」の大合唱へと展開。盛り上がったところで美城がドレス姿で登場、映画「タイタニック」の主題歌を熱唱。続いて北翔が「幸せを見つけられるように」をしっとりと歌ってコンサートを締めくくった。アンコールはゴスペルナンバー「ジョイフル、ジョイフル」で大いに盛り上がった。カーテンコールはもちろんオールスタンディング、北翔が「みなさん最高!千秋楽までもっと進化するように頑張ります」とあいさつ、タカラジェンヌ北翔の最後のひと時を堪能しようというファンの熱気むんむんのコンサートだった。

©宝塚歌劇支局プラス7月6日 薮下哲司記



朝夏まなと、クールなトート!宙組公演「エリザベート」開幕

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©宝塚歌劇団



朝夏まなと、クールなトート!宙組公演「エリザベート」開幕

宝塚初演から20周年という記念すべき年に、朝夏まなとが黄泉の帝王トートに挑戦した宙組公演、ミュージカル「エリザベート」(小池修一郎潤色、演出、小柳奈穂子演出)が、22日から宝塚大劇場で開幕した。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。

1996年、一路真輝のサヨナラ公演として初演されて以来、今回で9回目の上演となる「エリザベート」いまや「ベルばら」以上の宝塚の看板作品となった感がある。今回の宙組公演は初日が通算900回目となり、初演以来20周年という話題もあって、大劇場は連日超満員、立ち見も売り切れという熱気で大いに盛り上がっている。

ただ「ベルばら」のように毎回どこか違うストーリーというわけにはいかず、多少演出が変わったところがあっても、基本的に流れは同じで、曲も歌詞も同じなので、何度も見ている通のファンは、出入りのきっかけや台詞、歌詞まで、熟知しているので、これはもう演じるほうにとってはやりにくいことこの上ない公演でもある。特に今回は20周年記念公演であり、前回の花組公演との間隔があまり空いてないので、よほどの覚悟が必要な公演でもある。

前置きが長くなったが、そんななかで始まったこの宙組公演、初演20周年とあって、流れは変わらないが、ウィーンの原点を見直すとともに、宝塚版のよさをさらに進化させようと、トートのビジュアル面はじめこれまでとはやや異なったコンセプトで作られており、長年、宝塚の「エリザベート」を見慣れた眼にはどことなく違和感があった。ただ「エリザベート」という作品の力が、ほかの作品に比べて抜きんでていることには変わりなく、出演者の技量のレベルも高く、それぞれが意欲的に取り組んでおり、初見の観客は十二分に満足できる。これがこれからの宝塚の「エリザベート」だという演出家の提示を真摯に受け止めたい。あとは見る者の好みの問題だろう。

黒のロングストレートヘアーをなびかせて登場したトートの朝夏は、クールでいながら内面はホット、ビジュアルはロックシンガーを思わせ、いかにも現代的なつくり。歌唱ものびやかで一点の曇りもない。ただ、やや明るめのメークと身体にはりつくようなレザーの衣装が妙に生々しく、下界に降臨した人間トートといった雰囲気。ウィーンオリジナルのトートの原点を見直した結果だというが、それとは違ったトートを作り上げたのが宝塚のトートではなかったか。これまでの妖しさを充満させた宝塚の黄泉の帝王という観点を一新したトート像は、賛否の分かれるところだろう。Newトート、計算かもしれないがなんだかすごくあっさりとした印象だった。

エリザベートの実咲凜音。「私だけに」はじめ「私が踊る時」など歌唱は申し分なく、登場シーンや見合いの場面などの少女時代は、自由ハツラツとした感じをよく伝えていた。しかし、一幕ラスト、自我に目覚めたエリザベート一番の見せ場でのインパクトが弱い。小柄なので損をしているのかもしれないが白い豪華なドレスを着ているのに凛とした大きな存在感が見えてこないのだ。現在の宝塚各組の娘役トップスターのなかで「エリザベート」を演じるのに名実ともに一番ふさわしいのが実咲であることは誰もが認めるところだが、東宝版での花總まりの圧倒的な存在感をみせられたあとでは分が悪いとしかいいようがない。特に後半での深みがほしい。ただトートと天上に向かうラストのすがすがしい表情は素晴らしかった。

一方、フランツ・ヨーゼフを演じた真風涼帆が、予想以上の出来で感心した。皇帝の品位もあり、青年時代の凛々しい風貌から、老境にさしかかってひげを蓄えてからの貫録など、皇帝の半生を見事に描き出した。ゆっくりと歌詞をかみしめながら歌う歌も、フランツのエリザベートに対する誠実さをよく表していた。真風には暗殺者ルキーニの方が似合うのでは、と思っていたのだが、このフランツは、男役真風としては大きなジャンプになったと思う。

そのルキーニは愛月ひかる。新人公演を卒業後、やや停滞していた感はあったが、「トップハット」の弾んだ演技以来、確実に地歩を固め、出世役のルキーニ役を射止めた。なにしろ「エリザベート」の要となる役で、ルキーニが作品の成否のカギを握るといっていい大役だ。愛月は、これを予想通りの手堅さでまとめた。「キッチュ」や、そこここでやや大人しく控えめな気はしたが、日にちが立って、もう少しこなれてくれば大化けする可能性を秘めたルキーニだった。

トリプルキャストのルドルフのトップを飾ったのは桜木みなと。期待のフェアリータイプだけあって、この皇太子役はまさにドンピシャ。朝夏との「闇が広がる」は、ダンスのポーズも美しく決まってまさに眼福だった。あとの2人、この日は蒼羽りくが革命家のシュテファン、澄輝さやとはエルマーで、どちらも軍服がよく似合った。

皇太后ゾフィーは宙組の誇る実力派、純矢ちとせ。申し分のない配役で大いに期待したのだが、ゾフィーとしてはよくできているが、一瞬、誰かわからなかったほど純矢としての存在感が薄かったのにはびっくり。あの剣幸や杜けあきでさえも東宝版のゾフィーで苦戦したぐらいだから容易な役ではなく、自分なりの作り込みの難しい役なのかも知れないが、純矢自身のよさが出ていないように思った。役のプレッシャーを跳ね返して長丁場を乗り切ってほしい。

女役ではエリザベートが精神病院を訪問するくだりで出てくるヴィンディッシュ嬢を演じた星吹彩翔の渾身のワンポイントと、マダム・ヴォルフ役の伶美うららの美貌が際だった。
誰よりもマダムが一番美しい娼館というのもおかしい。マデレーネは結乃かなり、脚線美が見事。ルドルフの少年時代は新人公演でエリザべートを演じる星風まどかが初々しく好演した。リヒテンシュタインの彩花まりも忘れてはいけない。このあたりのワキのメンバーがそれぞれになかなかで二幕が楽しめる。

フィナーレは宙組カラーの紫をメーンにしたショーで、真風の「愛と死の輪舞」のソロから始まってラインダンス、そして朝夏が娘役メンバーを従えての「最後のダンス」。朝夏はここの歌が本来のトートのねっとりとした妖しさをたたえて一番よかった。続いて「闇が広がる」をバックにした男役群舞から実咲とのデュエットへと展開していく。パレードのエトワールは瀬音リサが担当した。

©宝塚歌劇支局プラス7月26日記 薮下哲司


○…宝塚のマエストロ、薮下哲司と宝塚歌劇を楽しむ「星組トップコンビ・北翔海莉、妃海風サヨナラ公演特別鑑賞会」(毎日新聞大阪開発主催)が9月27日(火)宝塚大劇場で開催されます。午後1時半からエスプリホールでの昼食会のあと、薮下が観劇のツボを伝授、午後3時の回の星組公演「桜華に舞え」「ロマンス」をS席で観劇します。参加費は13500円(消費税込み)。先着30名様限定(定員になり次第締め切ります)問い合わせは毎日大阪開発☎06(6346)8784まで。


絶好調の雪組、感動モノの「ローマの休日」役替わり&バウワークショップ

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  ©宝塚歌劇団


  ©宝塚歌劇団


感動モノの「ローマの休日」役替わり&バウワークショップ


早霧せいなを中心とした雪組によるタカラヅカ・シネマティック「ローマの休日」(田淵大輔脚本、演出)の役替わり公演が30日、梅田芸術劇場メインホールで始まった。同時に宝塚バウホールでは煌羽(きらは)レオを中心とした「バウ・シンギング・ワークショップ」~雪~(中村一徳構成、演出)も28~30日まで開かれた。今回はこの二つの雪組公演の模様をお伝えしよう。

まず「ローマの休日」だが6月14日に名古屋・中日劇場で開幕、東京公演を終えての大阪公演。しかも、彩凪翔がカメラマン、アーヴィング役から美容師マリオ役に。月城かなとがマリオ役からアーヴィング役にスイッチした役替わり公演からスタートしたとあって、初日の梅田芸術劇場は三階席まで立錐の余地もない超満員、絶好調の雪組らしい熱気あふれる初日風景となった。

中日の初日以来の観劇となったが、役替わりの2人に言及する前にまず、特筆したいのはアン王女役の咲妃みゆのこの一か月半の見事な変身ぶり。中日初日はまだ役の大きさにやや手探り状態なところがあり、王女としての風格のようなものが形だけで身体全体に浸みわたっていなかったような感じがあったのだが、さすがに名古屋、東京と公演を重ねての大阪ではそれが見事に体現されていた。登場シーンの謁見の間での演出がかなりオーバーになってメリハリが効いたのと、そのあとの寝室でのドクター(真條まから)との何気ない会話が、逃避行のきっかけになっていることをきちんと分からせるなど、きめ細かい演技がパーフェクト。ジョーと束の間の休日を楽しむ間のお茶目な雰囲気もずいぶん自然。そして「祈りの壁」のあたりから後半、特に記者会見の場面の、それまでの雰囲気をがらりと変えた凛とした佇まいのすばらしさはまさに感動ものだった。なかにはまだどう見ても庶民の娘にしか見えないという人もいたが、どこを見ていたのだろうと思うほどだった。

早霧のジョー役は、新聞記者独特のいいかげんでありながら憎めないダンディーな男ぶりがさらに冴えわたり、咲妃を好リードしたことが舞台全体を弾ませたことも見逃せない。「祈りの壁」でのアン王女の無垢な祈りが、ジョーの中に変化をもたらす結果になるのだが、そのあたりの心の動きもウェットにならずにさらっと描き出し、真っ直ぐな歌とともにかえって心にしみた。

彩凪と月城の役替わりは、美容師マリオに扮した彩凪が、予想通りとはいえ思い切りのいい作り込みで、オーバーなアクションに加えてアドリブを連発、会場をおおいに沸かせた。
「るろうに剣心」の武田観柳役以来、どうしたのかと思うほどの変身ぶりで、アーヴィング役もどうしようもないやさぐれ感が半端じゃなかったが、こちらも本役以上に似合っていた。

月城のアーヴィングも、生来の整った表情をできるだけ封印したひげ面で登場。それがまただらしない雰囲気をよくだしていて、2人とも芝居の雪組生の面目躍如だった。どちらがどちらとも言いようがないほど、どちらも似合っていた。こんな役替わりも珍しいのではないか。

作劇的には船上パーティーをナイトクラブに改変したのは今回改めてみても解せなかったが、よく知られた映画を巧みに宝塚に移し替えた手腕は大いに買えた。クラブで思い出したがクラブの歌手を演じた久城あすの「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」がますます乗っていて感じがでていたので記しておきたい。

※  ※     ※ 

さて花、星組に続く雪組の「バウ・シンギング・ワークショップ」に移ろう。「Joyful‼」の主題歌から賑やかに開幕したコンサート、雪組は最上級生の研9の煌羽を筆頭に天月翼(研8)橘幸(研7)妃華ゆきの(同)が中心メンバー。これに永久輝せあ(研6)有沙瞳(研5)彩みちる(研4)といった赤丸上昇中の有望株が続き、最下級生の縣千(研2)と優美せりな(同)まで計16人が出演。全体としては総花的なスタイルのコンサートだった。

諏訪さき(研4)の「君の瞳に恋してる」からスタートしたが2曲目で彩が「ウィキッド」から「ポピュラー」という難曲に挑戦、マイクさばきに課題が残ったがこれはなかなかのもの。二幕では「レ・ミゼラブル」から「オン・マイ・オウン」を披露。これも絶唱だったがまるでミュージカルのオーディションのような選曲に彩の個性を見た思いがした。いつでも外の世界で通用しそうな歌唱だった。

最下の縣は「ロミオとジュリエット」から「僕は怖い」優美は「キス・ミー・ケイト」から「ソー・イン・ラブ」をいずれも丁寧に歌った。二幕の「若き日の唄は忘れじ」の「恋の笹舟」のデュエットもよかった。

挑戦だなあと思ったのは叶ゆうり(研6)の「レ・ミゼラブル」からの「独白」。英語で歌った。有沙が二幕で歌った「Amazing Grace」も大曲だったが一幕の「シェルブールの雨傘」の方が可憐でよかった。ほかに印象的だったのは研3の星加梨杏(せいか・りあん)眞ノ宮るいがデュエットした「オーシャンズ11」からの「JUMP!」がはつらつとして楽しかった。

期待のスター候補生、永久輝は一幕トリで「ラブ・ネバー・ダイ」から「Til I Hear You Sing」を歌った。登場しただけで一斉に客席から双眼鏡が動く気配が感じられるなどさすがのスターオーラ。幕を閉じるにふさわしい大曲を英語で熱唱したが、二幕で歌った「青い星の上で」のようないかにも宝塚の明るい曲想がよく似合っていた。


一方、今回センターを取った煌羽は、きりっとした顔立ちが印象的な二枚目で、2013年の「ベルサイユのばら・フェルゼン編」新人公演でオスカル役を演じ「初風緑を思わせる美しいオスカル」(宝塚歌劇支局)と評している。その後、特に際立った印象がなく、今回、久々の注目公演だ。煌羽は一幕では「黒い鷲」二幕では大トリで「ジキルとハイド」から「This is The Moment」を歌ったが、後者の渾身の歌唱が印象的だった。

©宝塚歌劇支局プラス7月31日記 薮下哲司



宙組「エリザベート」新人公演 & バウシンギングワークショップ~花~

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瑠風輝 比類なきトート!宙組「エリザベート」新人公演&
バウシンギングワークショップ~花~開催

朝夏まなとを中心とした宙組で上演中のミュージカル「エリザベート」―愛と死の輪舞―(小池修一郎潤色、演出、小柳奈穂子演出)新人公演(野口幸作担当)が、研5の瑠風輝(るかぜ・ひかる)の主演で9日、宝塚大劇場で行われた。今回はこの公演と和海しょうら16人が出演、11日から13日まで宝塚バウホールで上演された「バウ・シンギング・ワークショップ~花~」(中村一徳構成、演出)の模様をあわせてお伝えしよう。

宙組初日で通算900回を達成した人気ミュージカル、今回は、宝塚初演20周年ということで原点に戻り、演出を改めて見直し、細かいところまでフレッシュアップ。なかでも黄泉の帝王トートを、トップスター、朝夏の個性にあわせて、内面もビジュアルも現代的かつクールな雰囲気に新たに作り直したのが大きな特徴。しかし、新人公演は、プロローグを大幅に短縮、ハンガリー訪問の場面をカット。二幕も「私が踊る時」と病院の場面をカットするなど、ずいぶん大胆な展開となり、トートの作りなどは従来のオーソドックスな様式を踏襲、それが新人公演メンバーにぴったりはまって、見ごたえかつ聴きごたえ十分の新人公演とは思えないほどの見事な仕上がりとなった。


トートに扮した瑠風は「シェークスピア」に続いて二度目の新人公演主演となったが、開幕アナウンスの思いきり低音の声からはやくもムードたっぷり。プロローグのトート降臨シーンがカットされたため、最初の出番は、木登りから転落したエリザベートを死の世界に誘う場面から。ささやくように歌う「エリ~ザベート!」の第一声からぞくぞくするようななめらかな低音、そのしっとりと濡れた歌声に一気に物語の世界に引き込まれた。白いメッシュを入れたロングヘアにひときわ舞台映えする長身、そしてこのなんともいえないセクシーボイスは、いかにも黄泉の帝王トートにぴったり。歴代新人公演トートのなかでも比類がない。最初のこの歌声で瑠風トートの魅力にはまった人が続出したのではないかと思う。決して似ているというわけではないが姿形は湖月わたるの繊細だが豪快な男役の雰囲気に、歌声は姿月あさとをもっとエモーショナルにした感じといえば、わかりやすいかも。とにかく歌唱は100点といっていいだろう。
演技的にはすべてを支配するというにはまだまだ幼くて危なっかしいところもあるが、そのあたりのアンバランスさが逆に新鮮でたまらない魅力だ。「最後のダンス」「闇に広がる」など聞かせどころのツボはきちんと押さえて安心して聴いていられた。研5でここまでできれば上出来だろう。あとはカリスマ性だが、これはこれから場数を踏むことで自ずとつかんでいくことだろう。昨年、バウの「New Wave」での「闇が広がる」の素晴らしい歌声で瞠目したが、どうやら本物だったようだ。今後の活躍をさらに期待したい。

エリザベート(本役・実咲凜音)の星風まどか(研3)も、可憐な少女時代から、大人の女性に成長していく過程を場面ごとに鮮やかに表現、芝居心のある演技を見せた。本公演ではルドルフの少年時代(通称・子ルドルフ)を演じており、それが何とも似合っているので、新人公演でエリザベートと聞いた時も“子エリザ”になるのではとやや不安だったのだが、小柄なはずなのにそれを感じさせず堂々としており「私だけに」のソロのあたりから、舞台姿がずいぶん大きく見えたのには感心させられた。「夜のボート」での留依蒔世とのデュエットも、控えめながらも感情がこもりじっくり聴かせた。研1から抜擢が続き、それだけ期待も大きいが、毎回きちんと答えをだしていくあたり、さすが優等生だ。

フランツ・ヨーゼフ(真風涼帆)は留依蒔世(研6)。歌唱力は瑠風にひけをとらず、甲乙つけがたい逸材。前述の「New Wave」での瑠風との「闇に広がる」のデュエットはもはや伝説となっているぐらいだ。その後、体調を崩して休演したため、やや失速した感は拭えないが、今回のフランツは留依の個性にうまく合い、落ち着きと品格を漂わせた憂い顔の皇帝を巧みに体現していた。

暗殺者ルキーニ(愛月ひかる)は和希そら(研7)。公演の長で全体のまとめ役的な存在だが、主演経験がある強みを如何なく発揮、大きな舞台の使い方を心得たスムーズな動きが物語を支配するルキーニにふさわしかった。登場人物の誰ともからまず、しかし、そう感じさせてはいけないところがルキーニの難しいところだが、和希のルキーニはその辺の呼吸が見事だった。「キッチュ」の余裕たっぷりのアドリブなどそれだけで場をなごませた。プロローグの登場シーンのセリフがやや流れ気味だったが、すぐに持ち直し、本公演にない台詞がふんだんにある新人公演ならではのルキーニを楽しげに演じていた。

皇太子ルドルフ(桜木みなと/蒼羽りく/澄輝さやと)は研2の鷹翔千空(たかと・ちあき)が抜擢された。貴公子というより好青年という感じの皇太子だったが、約15分間たっぷりルドルフの半生をみずみずしく演じた。カット場面の多い新人公演のなかでここだけはノーカットだっただけに余計に印象に残った。少年時代(星風)は娘役の湖々さくらが初々しく演じた。


あと予想以上に健闘したのが皇太后ゾフィー(純矢ちとせ)を演じた瀬戸花まり(研7)だった。高低差のある難曲をクリアしたばかりか、皇太后としての貫禄と激しい気性を巧みに表現して絶品だった。ほかも全体的にレベルの高さが印象的。全員が役が決まる前からどの役が来ても自分なりに用意ができているという感じがうかがえ、それだけ「エリザベート」が下級生に至るまで生徒たちの憧れの作品であることが改めて再認識できた新人公演でもあった。

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雪組に続いて行われた花組の「バウ・シンギング・ワークショップ」は、研9の和海しょうと羽立光来を筆頭に研8の水美舞斗、柚香光の4人が中心メンバー。続いて研7の歌姫、乙羽映見、朝月希和、更紗那知といった歌に定評のあるメンバーから研2の咲乃深音、愛乃一真まで16人の出演。

男役は黒の燕尾、娘役は花組カラーのピンクのドレスで勢ぞろい、和海のリードで出演者全員が「Jupiter」を歌い継ぐプロローグからスタート。各自2曲ずつ、これまで通り自分の歌いたい曲を歌うというコンサート形式のステージでトップバッターは飛龍つかさ(研5)の「ル・ポァゾン 愛の媚薬」。いきなり客席からは手拍子が沸き起こるなどつかみは抜群。この飛龍の選曲に代表されるように花組は宝塚の曲が多いのが特徴。2曲目の泉まいら(研3)も「シークレット・ハンター」から「Eres mi amor~大切な人~」だった。一幕はほかにも峰果とわ(研5)が「花吹雪 恋吹雪」。綺城ひか理(研6)が「愛と革命の詩」から「永遠の詩」。極めつけは水美舞斗(研8)の「風と共に去りぬ」からの「君はマグノリアの花の如く」そして柚香光(研8)が花組のカリスマ、大浦みずきがトップ時代に歌った「ジタン・デ・ジタン-夢狩人―」の主題歌といった具合。ミュージカルからの曲もいいが、こうして先輩たちへのリスペクトが肌で感じられるのもなんとも好ましい。水美が二枚目然として無難にこなしたあと、柚香は一幕のトリで登場、歌そのものよりも見せ方が抜群、そのカッコよさはさすがだった。二幕の「オーシャンズ11」からの「夢を売る男」も柚香らしい選曲で、ツボにはまっていた。

歌のうまさでは一幕で「オペラ座の怪人」から「The Music of the Night」二幕で「モーツァルト!」から「影を逃れて」を歌った羽立が群を抜き、どちらも丁寧かつ表現力豊かに歌いこんで聴かせた。娘役では乙羽がずいぶん大人っぽく成熟、美貌のプリマとしても貫録たっぷりで一幕で「慕情」をイントロから英語で、二幕では「ファントム」から「My True Love」を情感たっぷりに歌いこんだ。朝月も一幕を「ジキルとハイド」から「Someone Like You」二幕で「眠らない男ナポレオン」から「女王になる」を歌ったが、とりわけ後者がヘアスタイルを工夫して感じを出し、夢咲ねねと比べても遜色のない素晴らしい出来だった。

若手では亜蓮冬馬(研4)と若草萌香(同)が歌った「Endless Love」のさわやかなカップル感がフレッシュだった。若草は二幕で歌った「皇帝と魔女」の「愛の歌」もよかった。亜蓮は二幕最初でマイケル・ジャクソンの「Billie Jean」に挑戦、よくリズムに乗っていたが燕尾には似合わなかった。

公演の長的存在となった和海は一幕で「THE SCARLET PINPARNEL」からショーブランの「君はどこに」二幕は大トリで「LUNA」から「ANOTHER LIFE」を歌ったがいずれも心のこもった好唱。なかでも後者は宝塚が好きになったきっかけの曲といい、その歌を歌う和海の幸福感があふれ、聴いていて気持ちがよかった。フィナーレも花組の幻の名作「テンダーグリーン」から「心の翼」を全員が歌い継いでコンサートを締めくくり、最後まで宝塚そして花組愛にみちたコンサートだった。

©宝塚歌劇支局プラス8月11日記 薮下哲司


北翔海莉、鹿児島弁で熱演、サヨナラ公演「桜華に舞え」「ロマンス‼」開幕

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北翔海莉、鹿児島弁で熱演、サヨナラ公演「桜華に舞え」「ロマンス‼」開幕

星組トップコンビ、北翔海莉と妃海風のサヨナラ公演、グランステージ「桜華に舞えSAMURAI The FINAL」(斎藤吉正作、演出)とロマンチック・レビュー「ロマンス‼」(岡田敬二作、演出)が、26日、宝塚大劇場で開幕した。今回はこの公演の初日の模様をお伝えしよう。

「桜華―」は、幕末から明治初期の激動の時代に生きた薩摩藩士、中村半次郎(のちの桐野利秋)の波乱の半生を描いたドラマティックなミュージカル。西郷隆盛に心酔、西郷と共に新政府の要職に就きながら、西郷が新政府と袂を分かった時点で一緒に下野、西郷率いる薩摩が新政府軍と戦った西南戦争の際、西郷の右腕として活躍、ともに戦死した。人斬り半次郎という通称があるくらいの剣客で、激しい気性だったといわれるが、半面、友情や義に厚く、多くの人に慕われたともいわれている。斎藤氏は、この桐野という人物を、北翔のサヨナラ公演のために、紅ゆずる扮する幼馴染の親友、隼(しゅん)太郎や妃海ふんする会津藩士の娘、大谷吹優(ふゆ)といった架空の人物を配することで、実在の人物として伝えられる豪快な性格とともに繊細な心の部分を巧みに浮かび上がらせて、男役北翔にぴったりの魅力的な人物像を生み出した。「大海賊」「ガイズ&ドールズ」「こうもり」と続いた北翔にとって最後に当たり役に恵まれたといえそうだ。

あまりにもネイティブな鹿児島弁の台詞が慣れるまで聞き取りにくいのと、やや性急な展開で、ストーリーについていくのが精いっぱいのようなところもなきにしもあらずで、もう少し整理して緩急をつけた方がいいとも思うが、それら前半のいろんな枝葉がラストの城山の場面で一気に収れん、大クライマックスとなって、客席号泣シーンになだれ込む力技はなかなかのものだった。

冒頭は、昭和7年5月15日。時の首相、犬養毅(麻央侑希)が暗殺される場面から始まる。青年将校が叫んだ「維新」という言葉から、犬養はかつていた一人の男を思い浮かべる。舞台は、死に際の犬養の回想という形で展開していく。新聞記者時代の犬養が西南戦争を取材した経験があるというところからインスパイアしたらしい意表を突いたプロローグ。暗殺シーンから一転「SAMURAI The FINAL」の字幕の前、半次郎こと北翔が野太刀自顕流の長刀を持ってかっこよくせりあがり、一気に明治元年の薩摩vs会津の戊辰戦争へと展開していく。

半次郎こと桐野に扮する北翔は、剣を持てば豪快に、普段は直情的な熱血漢、しかし、家族や友人、愛する人には人一倍真心のこもった優しい心の持ち主といった、典型的な薩摩隼人像を、北翔ならではのクリアな台詞と、明快な歌声、さらにはダイナミックな殺陣で見事に表現している。鹿児島弁も出身者が聞いても何ら違和感がないというほど。

親友・隼太郎役の紅は、幼馴染で一緒に剣を競った仲間で、半次郎と一緒に上京、ともに新政府の要職に就くが、下野した半次郎と西南戦争では敵味方になって剣をまみえることになる。芝居心のある紅の演技が、後半、薩摩に帰郷する場面あたりから際だって印象的で、北翔に対する紅の受けがしっかりしていたからこその盛り上がりといえよう。

妃海ふんする吹優は、戊辰戦争の時、父の仇である半次郎に命を助けられたのだが、戦火の衝撃で記憶を失っているという設定。その時、半次郎も手に傷を負っていた。戦後、2人は再会、因縁浅からぬ仲となる。妃海は、前半は薙刀を持っての勇ましい武家娘、後半は傷病兵を看護する健気な看護婦として、こちらも女性の強さと優しさを両方にじませての好演だった。涼やかな美声は健在。

異色の配役は礼真琴。戊辰戦争で薩摩に敗れた会津藩士、八木永輝。会津藩の愛奈姫(真彩希帆)を慕っていたが、東京で変わり果てた愛奈姫と出会い、衝撃を受けて、仇敵半次郎暗殺を決意する。鋭い眼光で半次郎をつけねらう刺客を、礼が終始黒い雰囲気で演じこみ、作品にサスペンスフルなアクセントをつけた。明るい青年役が多かった礼にとって新たな役どころの開拓となったようだ。

ほかにも印象的な役が多かったが、薩摩の故郷の村で半次郎を待つ妻ヒサを演じたのが綺咲愛里。もともとは隼太郎の思い人だったが、家同士の縁談で半次郎と結婚するという設定。半次郎が上京した後は、ほとんど出番はないのだが、この設定も後半で効いてくる。夫の不在を一人でしっかりと守る気丈な妻という古風な女性を凛と演じていた。

西郷隆盛はこれが退団公演となる専科の美城れん。汝鳥伶を思わせる恰幅と堂々たる台詞回し。北翔相手に一歩もひけをとらない存在感、退団は本当に惜しまれる。

全体の構成としてはナレーションをうまく使って背景を説明、鹿児島弁とびかう舞台をわかりやすく補足していく。そんななかで麻央演じる犬養だが、記者時代にも犬養と桐野にそれほど強いつながりはなく、ラストに「維新とはなんだったのか」と全体を振り返るシーンで登場、印象的な役に仕立ててあるが、物語自体にはあまり関係がないので、いっそのことないほうがよかったかも。演じる麻央は、若々しい記者時代と老境にさしかかった首相時代をがらりと雰囲気を変えて演じ分けた。

ロマンチック・レビュー「ロマンス‼」は、柔らかいグリーン、ブルー、ベージュといった中間色のドレスを着たレディ―ズのなかから紫色の北翔が登場して歌うプロローグから、ロマンチック・レビューならではのなんともいえないクラシカルなムード。ただ、いくらなんでも前半の展開がややスローにすぎ、選曲もリストの「ため息」からプレスリーやコニー・フランシスの60年代ポップスと続くとああまたかの感じ。「ル・ポワゾン」や「シトラスの風」などの旧作の再演は当時の勢いと懐かしさで見せるが、新作なのだからクラシックにしてもポップスにしてももう少し斬新さとおしゃれ感覚がほしかった。「裸足の伯爵夫人のボレロ」も久々の室町あかねの振り付けということで期待したのだが、夫人役の七海ひろきと礼真琴に息をのむようなあでやかさが足りず不発。盛り上がりに欠く中詰めだった。
そのあとの謝珠栄振付による「友情」が、北翔と星組メンバーの惜別憾を激しいダンスで表現、装置も新鮮で、北翔以下のダンスも切れ味鋭く、見ごたえがあった。このショー唯一のみどころといっていいだろう。ロケットのあとの「イル・モンド」が、北翔と妃海コンビへの最後のプレゼントの場面。二人のきっちりとしたデュエットダンスがなかったのは寂しかったが、スケール感のあるフィナーレとなった。

パレードはエトワールを歌姫、華鳥礼良が務め、礼が三番手羽根を背負って大階段を下り、北翔後の星組を背負う存在であることを強く印象付けた。

北翔は「舞台は打ち上げ花火みたいに一瞬で消えてしまうけれど、私たちのために一生懸命に作ってくださったたくさんの先生方のためにも千秋楽までまだまだ精進してしっかりと務めあげたい。私事ですが、この公演で卒業させていただきますが、桐野ならこういうと思います。「これが終わりじゃない。ここから新しい時代が始まるんだ」と。星組の次の世代にうまくバトンタッチできるよう、最後まで(責任を)まっとうしたい」とあいさつ。満員の客席はスタンディングで北翔ラストステージ初日を盛り上げていた。

©宝塚歌劇支局プラス8月27日記 薮下哲司





明日海りおと花乃まりあが、大人の恋のかけひき!「仮面のロマネスク」全国ツアー開幕

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明日海りおと花乃まりあが、大人の恋のかけひき!「仮面のロマネスク」全国ツアー開幕

明日海りおら花組による、ミュージカル「仮面のロマネスク」(柴田侑宏脚色、中村暁演出)とグランドレビュー「Melodia」―熱く美しき旋律―(中村一徳作、演出)全国ツアー公演が、2日、大阪・梅田芸術劇場メインホールから始まった。今回はこの公演の初日の模様をお伝えしよう。

「仮面―」は、そのあまりにも不道徳な内容から長らく発禁本だったラクロ原作の「危険な関係」のミュージカル化。映画、舞台で何度も取り上げられているが、宝塚では1997年に高嶺ふぶき、花總まり、轟悠らの出演によって雪組で初演、その後2012年に大空祐飛、野々すみ花、北翔海莉の出演で15年ぶりに宙組によって中日劇場で再演され、以来今回4年ぶりの再々演となった。

稀代のプレイボーイ、ヴァルモン子爵と若き未亡人メルトゥイユ侯爵夫人の恋の駆け引きを軸に2人の大人な関係を描いている。最も宝塚らしくない内容の作品だが、退廃的な生活のなかでピュアなものを求める人の純粋な心を浮き彫りにした柴田氏の脚本はさすがの力技。まさかと思った原作が宝塚で生き生きと舞台化、今回も見応えある舞台に仕上がっている。再演は植田景子氏が演出を担当したが今回は中村氏にバトンタッチ、せりや盆回しをなくした全国ツアーならではのシンプルな演出で、濃厚な舞台を再現した。

 幕が開くと純白の軍服姿のヴァルモン役の明日海が後ろ向きに登場。振り向きざまカーテン前上手へ。下手にメルトゥイユ役の花乃が登場、意味深な愛のデュエットを歌ったあと芹香斗亜扮するダンスニーがことのあらましを説明、メルトゥイユ邸のサロンでの夜会へと展開していく。1830年のパリ。といえばフランス革命から40年後。再び王政が復活、貴族は夜ごと夜会を開き、庶民の不満は爆発寸前、革命前のような不穏な時代だ。

女遊びは誰にも負けないというプレイボーイの青年貴族ヴァルモンは、明日海にとっては最もイメージにそぐわないタイプの役どころ。しかし、冒頭からやや臭めの男役演技でオーバーに見せ込む。少し前の明日海ならちょっと無理をしているなあという感じが見えて、見るほうが赤面するという幼さがあったのだが、この舞台では無理感が全くなく、さらりと自然に流す演技を体得したよう。こうなると、女性を誘惑する仕草も堂に入ったもの。低音のなめらかな台詞とともに演技に幅があり、ますます魅力的な男役になってきた。

 一方、メルトゥイユの花乃は、豪華なドレスにも助けられたが、したたかながら心の奥に寂しさをたたえるメルトゥイユという女性をスケール感豊かに演じ、明日海と対等に存在した。退団発表後最初の舞台となったが、堂々とした舞台姿に何か吹っ切れたものを感じたのは私だけだろうか。歌唱にも情感がこもった。

 芹香斗亜は、初演で轟、再演で北翔が演じたダンスニー男爵。恋を知らないういういしい22歳の青年という役どころで、これはこれまでのどのダンスニーより一番似合っていた。どことなくユーモラスで恋するセシル(音くり寿)がヴァルモンと一夜を過ごしたことを知って落胆、メルトゥイユの誘惑に乗ってしまうという宝塚的にはとんでもない展開も、ユーモアいっぱいコミカルに見せたのはなかなかだった。

 ヴァルモンとメルトゥイユの賭けの対象になるトゥールベル夫人役は仙名彩世。思いがけないヴァルモンの誘いに心が揺れながら必死で抗う女心を品格を失わず見事に表現。さすが演技巧者。この舞台の大きなポイントとなった。

これら主要な登場人物4人のバランスが、この花組公演は実にぴったりで、これまでの宝塚版のなかでも一番しっくりときた。ただ、いくら豪華な衣装でオブラートに包み、宝塚ならではの純愛ムードで盛り上げても、中身の不道徳さは変わらず、明日海はじめ出演者の好演に支えられてはいるものの、全国ツアーの内容かどうかについては疑問が残った。ドラマシティなどの特別公演ならいざ知らず、予備知識なしに見る全国の家族連れの観客にとっては酷な舞台かも。これを見て宝塚もずいぶん進んでいるなあと思う初めての観客がいればしめたものだが。

さてほかの出演者は、セシルの婚約者ジェルクールが鳳月杏。ヴァルモンとは違った嫌みなタイプのプレイボーイを、さらりとかっこよく演じて印象的。メルトゥイユ家の執事ロベールの夕霧らいとメイド頭のヴィクトワールの芽吹幸奈。ヴァルモンの従者アゾランを演じた優波慧といった脇も好演。さらにジル(華雅りりか)ルイ(帆純まひろ)ジャン(聖乃あすか)の泥棒トリオがいいアクセントになっていた。

「Melodia」は、「新源氏物語」と二本立てだったレビューを全国ツアーバージョンに再構成したもの。中身は本公演とほぼ同じで、柚香光ら全国ツアーに出演していないスターの出番に鳳月が入ったりしてカバーしている。ジャズありスパニッシュありのダイナミックでパワフルなステージ。明日海と花乃のデュエットダンスなど、息の合った2人のコンビぶりが十分に楽しめる。本公演で柚香に対して鳳月が女役で絡んだスペインの場面は男に鳳月が入り、相手役には聖乃あすかが抜擢された。聖乃のきりっとした美貌と男役らしいシャープなダンスに注目。
公演は22日の北海道まで続く。

©宝塚歌劇支局プラス9月3日記 薮下哲司


OG公演が続々上演!一路真輝の「ガラスの仮面」ほか

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  「ガラスの仮面」より



12~1月の「エリザベート」ガラコンサートに出演が決定、再び初代トートとして歌声を披露することになった元雪組トップスター、一路真輝が、大阪松竹座で開幕した「ガラスの仮面」で、伝説の大女優、月影千草役を演じ、その圧倒的な存在感で舞台を締めている、今回はこの模様を中心に最近のタカラジェンヌOGの活躍ぶりをお伝えしよう。

坂東玉三郎、蜷川幸雄ら錚々たるメンバーが舞台化してきた美内すずえ原作「ガラスの仮面」のG2演出による新バージョンが初演されたのは2年前、東京の青山劇場だった。同劇場の舞台機構をフルに使い、原作のさまざまな場面を再現して好評だったが、今回の再演は大阪が松竹座、東京が新橋演舞場ということで舞台装置を一新して回り舞台を駆使した新演出となり、脚本も大幅に書き換えての再演となった。

美内の原作は1976年から連載がスタート、少女漫画ファンに熱狂的なファンを生みながら現在も連載中という長大なもの。平凡な少女、北島マヤが、演劇の才能を見出され、ライバルの姫川亜弓と切磋琢磨しながら女優として成長していく様子を描いたいわばバックステージもの。彼女たちが演じる劇中劇が、作品の重要なファクターになっており、数多くの演目が登場する。今回の舞台ではマヤと亜弓がそれぞれのイメージとは全く逆のキャラクターの役を与えられた「ふたりの王女」の劇中劇を後半のクライマックスにドラマチックに展開する。

一幕は長大な原作を要領よくまとめたダイジェスト版。北島マヤには貫地谷しほり、姫川亜弓には先ごろ俳優、妻夫木聡と結婚したばかりのマイコ。マヤを陰ながら応援する速水には小西遼生、マヤを思う芝居仲間の桜小路には浜中文一といったキャスト。

マヤに扮した貫地谷は、初々しい雰囲気を醸しながらも芝居心のあるしっかりした演技のバランスがよく、マヤのイメージにぴったりの好演。亜弓役のマイコも華やかで存在感があり、良家の子女という雰囲気がうまくはまった。

そんななかで彼女たちがあこがれる伝説の大女優、月影役の一路は、一幕後半の見せ場で、少女時代から現在まで早変わりで見せ、圧倒的な存在感を示した。二幕では幻の舞台「紅天女」の舞を披露、クライマックスを華やかに彩った。大劇場でトップをはった経験が生き、台詞の声にも他を圧倒する張りがあり、伝説の大女優にふさわしいパワーがみなぎった。出番はそれほど多くないが、きわめて印象的で当たり役になりそうだ。

作品的には少々展開が早すぎて、原作を知るファンには細部が物足りず、芸能界のバックステージものとしてもやや甘いところがあるが、長大な原作を正味二時間強にまとめ、そつなく少女漫画エンタテイメントに仕上げている。

G2といえば霧矢大夢と真飛聖がダブルキャストでヒロインのイライザを演じたミュージカル「マイ・フェア・レディ」も演出、この夏、東西で上演された。これも再演で、ヒギンズ教授の寺脇康文、ピッカリング大佐の田山涼成、ドゥーリトルの松尾貴史、ピアス夫人の寿ひずるらが初演と同じ。ヒギンズの母の高橋恵子とフレディの水田航生が新しく加入した。舞台はほぼ前回と同じ演―出だが、寺脇と田山のかけあいがあうんの呼吸、ドゥーリトルに扮した松尾も絶好調で全体的にもコミカルなタッチが増えた印象。ただしちょっと軽すぎるような感じもなきにしもあらず。

ヒロインはスケジュールの関係で霧矢バージョンしか見られなかったが、退団直後の前回より「ラ・マンチヤの男」のアルドンサ役を経験してきたとあって女優度はさすがにあがっていた。アスコット競馬場での失態の場面のおかしさが最高で、舞踏会の場面以降、ヒギンズ邸に帰ってからが、いまいち演出が平凡で霧矢も精彩を欠いたのが残念。ミュージカル初体験という高橋は、英国貴婦人を品格十分に表現。舞台にいるだけですでに大きな存在感、いい女優になった。

一方、この夏、宝塚OG公演で外せなかったのはミュージカル「CHICAGO」。神奈川からスタート、ニューヨーク、東京を経て8月下旬に大阪公演があった。

3年前の「CHICAGO」OG公演を観劇したリンカーンセンター関係者が、宝塚本体よりこちらを選んだといういわくつきの公演で、ニューヨーク公演も好評理に終え、最後の地、大阪は凱旋公演といった形になった。とはいえ、梅田芸術劇場メインホールでの公演は、各回満席とはいかず、やや苦戦した感じ。ニューヨーク公演の模様はマスコミでも取り上げられ周知徹底していたはずなのだが、これには意外だった。前回の公演を見た観客がリピートしなかったのが原因らしい。大阪のファンはたとえ中身がよくても宝塚は華やかでないと満足できないのだ。早い話、装置の転換がなく、下着姿だけのタカラジェンヌは見たくなかったのだろうか。実はそれがたまらない魅力なのだが。凱旋公演もニューヨーク公演同様、全出演者が勢ぞろいしての約20分の「宝塚アンコール」(三木章雄構成、演出)をつければ満員御礼になったと思うのだが、さまざまな理由でつけられなかったのが残念だった。

私が見たのはビリーが姿月あさと、ロキシーが朝海ひかる、ヴェルマが水夏希、ママモートンが初風諄というキャストと、それぞれが峰さを理、大和悠河、湖月わたる、杜けあきの2パターン。いずれも甲乙つけがたい出来栄えだったが、歌、ダンスとバランスがよかったのが前者、役柄の個性が際だったのが後者という印象。


退団して何年もたっているのに峰、姿月の男役演技は、現役時代と変わらないばかりかいまだからこその円熟味が増して見事。朝海、水のコンビはつき雪組のトップ、二番手であり自ずと生まれる呼吸のよさが見ていて気持ちよかった。あと初風のママモートンがさすがの貫録で舞台を締めたが今回初出演となった杜ものびやかな歌声が絶好調、台詞の切れも良くて小気味がよかった。ニューヨークでは、殺しや賄賂など何でもありの内容ながら実はアメリカ讃歌のミュージカルを日本人が女性だけで真摯に演じていることが好感を持って迎えられたそうで、芝居そのものよりもカーテンコールの燕尾服のダンスが好評だったという。

 あと元花組の愛華みれが井上ひさし原作の傑作戯曲「頭痛肩こり樋口一葉」の稲葉鑛役で出演、8月の東京公演を終わって9月下旬まで全国公演中だが、永作博美、三田和代、熊谷真美、深谷美歩といった錚々たる女優にまじって堂々と好演していることも特筆したい。

©宝塚歌劇支局プラス9月7日記 薮下哲司

天華えま、初々しくもさわやかに初主演、星組公演「桜華に舞え」新人公演

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天華えま、初々しくもさわやかに初主演、星組公演「桜華に舞え」新人公演

北翔海莉のサヨナラ公演となった星組公演「桜華に舞えSAMURAI The FINAL」(斎藤吉正作、演出)新人公演(同担当)が、研5の天華(あまはな)えまの初主演によって13日、宝塚大劇場で開かれた。今回はこの模様をお伝えしよう。

「桜華に舞え-」は、幕末から明治初期の激動期の日本で活躍、西郷隆盛とともに西南戦争で散った最後の武士の一人、桐野利秋の半生を描いた作品。北翔の宝塚最後の作品として斎藤氏が温めてきた題材という。フィクションをからめてダイナミックに展開したが、やや盛り込みすぎで、当時の背景と鹿児島弁に堪能でないと、おいてきぼりになる可能性大。ただ、新人公演は本公演と違って、出演者の序列にとらわれずに冷静に見ることができるので、作者の意図がより明確に伝わる強みがある。今回は本公演と同じ斎藤氏が演出を担当しているので、その辺が特に顕著で、「義と真心」というテーマがはっきりと浮かび上がり、ずいぶんわかりやすい公演となった。

その大きな功績は、桐野を演じた天華のさわやかで素直な演技だ。ダイナミックな北翔の演技を手本に、変に小細工せずストレートに演じ、それがうまく作用した。これまで特にこれといった印象はなかったのだが「黒豹のごとく」新人公演で真風涼帆が演じたラファエルを演じたとき「非常に素直な演技で凛々しいたたずまい。今後の活躍を大いに期待したい」と絶賛した覚えがあるが、今回もその素直さが特に吹優とのからみで生き、見事にその期待に応えてくれた。歌唱もくせがなく、なにより瞳がきらきら輝いていて、見る側の心を浮き立たせるような不思議な魅力があった。このままうまく育ってほしいものだ。

紅ゆずるが演じた隼太郎役は綾凰華(研5)。綾も芝居心があるうえに天華に劣らずスター性十分の資質を持っており、今回のこの役もいい味を出し、天華とも息ぴったりでいいコンビだった。後半、明治新政府側であることから、故郷の人々から冷たくあしらわれるくだりは、紅とはまた違ったペーソスが漂った。

吹優(本役・妃海風)は小桜ほのか(研4)。オープニングから薙刀を持って銀橋を渡るシーンがあるなど、なかなか一筋縄ではいかない難役を、精いっぱい務め上げた。歌、芝居はなかなかしっかりしているので、日本物の化粧をもう一工夫すれば、さらに見栄えがするだろう。桐野を父親の仇であることと、自分の命の恩人であることを同時に知る場面が吹優としての一番の見せ場だが、ここはうまかった。

あと印象的だったのは大久保利通役の桃堂純(研6)。貫録たっぷりに見せながら小芝居もきかせて、彼女らしい面白い役作りだった。礼真琴が扮した八木永輝には紫藤りゅう(研7)が回った。すでに新人公演主演を経験していて、今回はいわゆるおいしい役への挑戦。鬼気迫る執念のような気がほしかったが、あっさりとまとめていた。もっと自由にできるはずなので次回の課題にしてほしい。それに比べ、ヒサ役(綺咲愛里)を演じた真彩希帆(研5)は、登場シーンからヒサになり切っていてそのうまさには舌を巻いた。後半の薩摩で、吹優の小桜とからむ場面も、観客の感情移入は完全にヒサに向くほどだった。吹優とヒサという桐野をめぐる二人の女性の描きかたが、やや中途半端なのが、新人公演で浮かび上がったともいえる。本公演でヒサを演じた綺咲(研7)は万里柚美が演じた大給夫人役を演じた。

あと西郷隆盛(美城れん)の音咲いつき(研7)が、さすが上級生の貫録で舞台を締めた。また母の仇として山縣有朋をつけ狙う太郎少年(小桜)を演じた二條華(研3)の健気さが印象的だった。

©宝塚歌劇支局プラス9月15日記 薮下哲司




瀬戸かずや、バウ初主演!花組公演「アイラブアインシュタイン」開幕

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©宝塚歌劇団



瀬戸かずや、バウ初主演!花組公演「アイラブアインシュタイン」開幕

花組の人気スター、瀬戸かずや主演のサイエンス・フィクションラブ・ストーリー「アイラブアインシュタイン」(谷貴矢作、演出)が15日、宝塚バウホールで開幕した。今回はこの模様をお伝えしよう。

「-アインシュタイン」は、20世紀中盤のとあるヨーロッパの国を背景にしたSFファンタジー。60年ほど前の話だが、アンドロイド(人造人間)が開発されていて、人々の生活になくてはならない時代という設定だ。過去を舞台にしたSFとなる。メアリー・シェリー原作の「フランケンシュタイン」の世界をベースにカズオ・イシグロ原作の「わたしを離さないで」やスピルバーグ監督の映画「A・I・」などを連想させる内容。宝塚的には手塚治虫のブラックジャックとピノコの関係も思い出させる。若い作家のデビューらしい現実離れした破天荒でマンガチックな舞台だ。

アルバート教授(瀬戸)が、アンドロイドを開発して数年たち、世はアンドロイドがなくては生活が成立しなくなった時代。仕事を奪われ、アンドロイド撲滅を叫ぶ集団の勢いが増す中、すでに引退しているアルバート教授のもとに、エルザというアンドロイド(城妃美伶)が人間の感情を与えてほしいと訪ねてくる。亡き妻ミレーヴァ(桜咲彩花)の面影を見たアルバートは、仲間のトーマス(水美舞斗)とともに奮闘するのだが…。ストーリーは二転三転、一幕ラストで驚愕の事実が明かされ、二幕からはさらに過去にさかのぼってアルバートの若き日が回想形式で展開、再び元に戻る。果たしてアルバートはエルザに感情を与えることができるのか。

この手の話が好きな人にはこたえられないだろうが、あまり興味のない人にとっては苦痛だろう。かくいう私も一幕前半はどうなることかと心配したが、水美扮するトーマスがミレーヴァの弟であるとわかったあたりから物語が急展開、ほっと一息ついた。二転三転するのでストーリーを明かせないのがつらいが、ラストはきちんと宝塚ならではの愛の大団円で締めくくり、まずは合格点のデビュー作となった。

主人公のアルバートに扮した瀬戸は、「ロミオとジュリエット」や「オーシャンズ11」の涼紫央を思わせる明るい金髪で登場。あまりにそっくりなのにはびっくり。ややくぐもった独特の歌声で主題歌を歌うオープニングから、センターの存在感をきっちり示した。観客はおろかアルバート自身も知らない自分を演じる前半は、さぞ役作りが難しいだろうと同情するが、あとで思い返しても納得がいく演技で、これまで蓄えた実力をさらりと見せたあたりさすがだった。

2人のヒロイン、まずエルザの城妃は、アンドロイドなので、なんとなく「ブラックジャック」のピノコを思わせたが、徐々に感情を知っていく感じを実にうまく出していた。ミレーヴァの桜咲は、当初はアルバートの幻としての登場、二幕から本格的な出番となるが、城妃とは対照的な大人っぽい雰囲気の女性像を品よく表現、「ME AND MY GIRL」でのマリア公爵夫人の時と同様に自分の世界を作りだした。

この舞台の二番手男役はトーマス役の水美。プログラムには「アルバートの親友である科学者」としか書かれていないトーマス役だが、実はミレーヴァの弟で、それ以外にもこのドラマの根幹にかかわるキーマンなのだった。冒頭でエルザをアルバートのもとに連れてくるのもトーマスなので、何かありそうだとは思ったのだが案の定だった。水美はそんな物語の重要な鍵を握る青年を、主役の瀬戸とのバランスを崩さずに、絶妙の立ち位置で表現。二枚目ぶりもすっかり板について、どことなく陰のある雰囲気がたまらない。ますます目が離せなくなった。

ほかに印象的だったのは、反アンドロイド政党の若き党首ヴォルフに扮した亜蓮冬馬。この役も実はどんでん返しがあり、ここまでくればもう何でもありではあるのだが、期待の若手にふさわしい面白い役に仕立ててあった。亜蓮もそれにこたえて精いっぱいの好演。党の幹部ヘルマンに和海しょう、ルドルフに綺城ひか理が配役され、それぞれ目立つ役どころ。こわもて風の和海に甘いマスクが映える綺城と対照的な個性だがどちらも好演。
同じ幹部で別格のヨーゼフは英真なおき。この役も実は…があって、後半にそれが明かされる。英真ならではの腹芸を楽しみたい。

アンドロイドではアルバートの執事でハンス役の天真みちるとアンネ役の梅咲衣舞がコンビで活躍。もう少し面白い役になるはずだが、演出がやや中途半端なような気がした。ほかに朝月希和が珍しく少年ヨハン役を楽しげに演じていた。

フィナーレは水美を中心に和海、綺城、亜蓮の4人の歌とダンスから始まって、燕尾服の瀬戸が登場してひとしきり踊った後、水美らも燕尾に着替えての群舞。そして、瀬戸と城妃、桜咲のトリオダンスという珍しいパターンで締めくくった。

©宝塚歌劇支局プラス9月17日記 薮下哲司


凰稀かなめ、退団後二度目のコンサート「THE Beginning2」大阪で千秋楽

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凰稀かなめ、退団後二度目のコンサート「THE Beginning2」大阪で千秋楽


元宙組トップスター、凰稀かなめの退団後2回目のコンサート「THE Beginning2」が9月30日、大阪。森ノ宮ピロティホールで千秋楽を迎えた。今回はこの模様と10月1日にOBP円形ホールで開幕したOSK日本歌劇団の新作レビュー「レジェンド愛の神話」の模様などをお伝えしよう。

凰稀のコンサートは退団後2度目だが、前回は見られなかったので今回が初見。退団して早くも1年半、すでに「1789」で悲劇の女王マリー・アントワネットをスケール感豊かに好演、女優としても順調なスタートを切った凰稀のコンサートは、自分らしさ全開のプライベートライブだった。

構成、演出は前回と同じくTETSU。関ジャニやsmapなど人気グループのコンサートの振付を担当する人気ダンサーだ。二時間ノンストップのショーで、凰稀が赤と黒のパンツスーツで登場するオープニングから場内は早くも総立ち。
続くロングヘアにサングラス、ゴールドメタリックのミニワンピースにパンツというスタイルで黒いスーツの男性ダンサーを従えての「シネマイタリアーノ」が、なんともゴージャスかつ男前なダンスでかっこいいことこのうえない。
このあとはゴールドのロングドレスと少しずつ女っぽくなっていくところがなかなか憎い計算。すっかり女に戻ったとおもったら、今度は客席から男役のスーツ姿で登場。歌は「風と共に去りぬ」から「愛のフェニックス」を歌いながら登場。そのまま舞台上の「バーフェニックス」のバーテンダーとなって、出演者とコントを繰り広げるという趣向。元宝塚のトップスター凰稀かなめがバーテンをしているという設定で、客の男性の人生相談に「死ねばいい」とアドバイスしてそのまま「最後のダンス」を歌うというにくい演出にファンは大喜び。出演者の一人で凰稀との共演作も多い元星組の娘役スター、白華れみが相談に訪れるという場面もあり、ここで二人のデュエットダンスが見られたのは何とも懐かしかった。千秋楽はここでおまけがあって凰稀が「ロミオとジュリエット」からティボルトの歌をサービス。満員のファンの興奮は最高潮だった。

ほかにもメガネにグリーンのジャージー姿の凰稀が、ウェデイングプランナー会社の新入りのダメ社員を演じる爆笑コントもあるなどバラエティーに富んだ構成。客席を巻き込んでのカラオケコーナーなど楽しい場面も盛り込みながら、最後は、オリジナル曲の「明日」でしっとりと締めくくった。

客席は宝塚時代からのコアな凰稀ファンでほぼ埋め尽くされ、一般のファンの姿はほとんど見られなかったが、凰稀の自然体の雰囲気が巧みに伝わってくるコンサートで、いましかできないゴージャスなコンサートだった。新人時代から知っているだけに、宝塚を卒業してようやくここまで来たかという感慨深いものもあった。

OSKのトップスター、高世麻央を中心とした「レジェンド愛の神話」は、福井県のたけふ菊人形で上演される恒例のレビューの大阪先行公演。今回はベテラン、北林佐和子の演出で高世含めて17人、約一時間のコンパクトな作品だが、なかなかうまくまとまった見やすいレビューだった。ゼウスを中心にしたプロローグから、天使の涙、ルパン三世、ヤマトタケルの白鳥伝説と続き、OSK名物ラインダンスへとつないでいく。武生での公演が大ホールになることから円形ホールもきちんとステージを組んでの公演で、少人数とは思えないなかなか本格的なレビューだった。高世のなめらかな歌唱も絶好調、相手役の折原有佐の清楚な美しさも際立った。また二番手スター、桐生麻耶のルパン三世もよく似合っていた。6日から11月6日まで越前市文化センター大ホールで公演する。

©宝塚歌劇支局プラス10月2日記 薮下哲司




雪組大劇場公演「私立探偵ケイレブ・ハント」と「Greatest HITS!」始まる

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©宝塚歌劇団



メンバーの良さが光る!雪組大劇場公演「私立探偵ケイレブ・ハント」と「Greatest HITS!」始まる

「るろうに剣心」「ローマの休日」に続く雪組トップ、早霧せいな主演による新作舞台、ミュージカル・ロマン「私立探偵ケイレブ・ハント」(正塚晴彦作、演出)とショーグルーブ「Greatest HITS!」(稲葉太地作、演出)が、7日、宝塚大劇場で開幕した。今回はこの舞台の模様をお伝えしよう。

正塚氏久々のオリジナルによる「私立探偵―」は、1950年代のロサンゼルスを舞台にしたハードボイルド風のミュージカル。初期の正塚氏の作品にはこの手のものが多く、なかでも大浦みずきがバウホールで主演した花組公演「アンダーライン」(1983年)は、私立探偵に扮した大浦のトレンチコート姿にやるせないジャズの歌声がかぶって目と耳に強烈に焼き付いている。今回の作品はこの「アンダーライン」をベースに大劇場用にスケールを大きくしてリニューアルしたように見える。主人公が女性の失踪事件を追っていくうちに巨悪の存在が明らかになっていくという展開もよく似ている。「アンダーライン」とは限らず、なんだかどこかで聞いたような話で新味はないが、早霧、咲妃、望海の雪組が誇るゴールデントリオの勢いでみせてしまう。旬のスターの魅力が作品に大きな弾みをつけた好例だ。

オープニングはハリウッドの撮影所。当時流行していた犯罪映画の撮影の真っ最中。黒いスーツ、帽子、白い手袋といったいでたちの男役ダンサーたちの群舞の中央にシルバーメタリックのスーツ姿の早霧がさっそうと登場、ひとしきりダンスシーンが繰り広げられたあと、監督の「カット」の声で撮影が中断する。なかなか洒落た出だしだ。探偵事務所の所長ケイレブ(早霧)が、依頼人の映画監督(奏乃はると)を訪ねてきているという設定だが、ケイレブの目の前でエキストラの女性の死亡事故が発生する。現場にいたスタイリストで恋人のイヴォンヌ(咲妃みゆ)に事情を聴くがはっきりしない。事務所に帰り、共同出資者のジム(望海風斗)とカズノ(彩風咲奈)と定例会を開き、情報交換をしたところ、彼らが取り組んでいる事件と女優の死亡事件のどちらにも「マックス・アクターズ・プロモーション」がからんでいることが分かる。そこに、行方不明の娘を探してほしいとメキシコ人夫婦が訪ねてくる。

探偵サイド、警察サイド、捜索サイドと雪組の豊富な演技陣をうまくバランスをとって配置、それぞれ見せ場を作ってストーリーが展開していく。とはいえ、本筋はケイレブとイヴォンヌの大人の恋の行方。事件が、思いがけなく二人のラブストーリーに降りかかってくるという筋立てで、危機に陥った二人が再び信頼を取り戻すことができるのか、2人の緊迫したラブシーンが演技巧者のコンビならではの息の合ったムードで盛り上げる。ラブサスペンスとしてなかなかよくできている。

早霧はレザースーツにタイトなパンツといったファッショナブルなスタイルがことのほかよく似合い、セレブ相手に企業のトラブルの解決も請け負ったりする、結構、羽振りがいい感じのスマートな私立探偵役を、都会的センスでかっこよく演じ切った。

対するイヴォンヌ役の咲妃は、これまでの彼女の役柄にはなかった、自立した女性役で、ケイレブに対しても対等に意見をいえる強い性格の持ち主。とはいうものの、ケイレブを心から愛していて、危険な仕事に没頭するケイレブのことを人一倍心配している。誕生日に待ちぼうけをくらい、遅れてやってきたケイレブと、サンタモニカの夜の海岸でデートするあたりは、この二人ならではの親密な雰囲気が出た。

ジムの望海とカズノの彩風は、ケイレブの探偵事務所の仲間という役どころで、事件の解決に協力するという立場。ジムにはレイラ(星南のぞみ)という恋人、カズノも歌手ポーリーン(有沙瞳)との関係がほのめかされるが、どちらもケイレブのサポート的な軽い役。しかし、兄貴的な望海と弟分的な咲奈のコンビは、なくてはならない絶妙の雰囲気を醸す。ジムやカズトを主人公にして別の事件の物語がスピンアウトで作れるといったそんな感じだ。経理係ダドリーの真那春人、事務員コートニーの早花まこ、雑用係トレバーの縣千、元秘書グレースの桃花ひなの事務所メンバーにもコーヒーメーカーの件など細かいディテイルが用意されていて、チームワーク抜群、みんなが楽しげに役作りをしており、その辺が作品がいきいきしている一因だ。

一方、彼らに協力するロサンゼルス警察は彩凪翔扮するホレイショーと永久輝せあ扮する部下のライアンの2人。当初はケイレブたちと対立するが、事件解決に徐々に協力体制をとるようになる。正義感あふれる一途な警官をさわやかに演じた。

そして、ケイレブたちの捜査の対象となる「マックス・アクターズ・プロモーション」の社長、マクシミリアンに扮するのが月城かなと。先ごろ月組への組替えが発表されたばかりだが、「オーシャンズ11」でいえば紅ゆずるや望海風斗が演じたテリー・ベネディクトに似たおいしいヒール役。出番は後半からだが、この月城がなかなかの存在感で、期待の大器にふさわしいスケール感で見せた。少し前なら、望海が演じていた役どころだろうが、これを月城が演じるという面白さ。これこそ宝塚だ。

ほかに事件解決に大きなカギを握るケイレブの戦友ナイジェルに扮した香綾しずるの何気ない演技にも注目。娘役では失踪した女性アデル(沙月愛奈)の友人ハリエットに扮した星乃あんりも事件にからむ役で印象に残る。

マクシミリアンの屋敷でのパーティーシーンからロサンゼルス空港へと後半の畳みかけるような緩急自在の展開も正塚氏らしいテンポで最後まであかせなかった。

ショーグルーブ「―HIT!」は、早霧をセンターに、男役は白のタキシード、娘役は濃いピンクのドレスで登場する華やかなプロローグから、タイトル通り、おなじみのヒット曲をバックに次々に展開するショー。ジュークボックスから流れる耳馴染みある曲が連続するが、全然、古臭くなくそれが、稲葉氏独特の色彩感覚と洒落た衣装、音楽的センスが横溢していて、逆に新鮮に映る楽しいショーだった。

これまでプログラムにショーに使用される楽曲は細かく掲載されなかったが、全曲が明記されたのも非常に親切だった。以前、某氏のショーで、既成曲が出てきたので、原曲のタイトルを聞くと「オリジナル曲だ」と答えられて唖然としたことがあったので、これは快挙だと思う。

咲妃が歌ったマドンナの「マテリアルガール」が絶品だったが、中詰めの早霧サンタクロースとトナカイたちが綴るクリスマスソングメドレー、そしてベートーベンの「運命」をフィーチャーした望海と彩風を中心にした真紅の大群舞(KAZUMI-BOY振付)から早霧、咲妃の「オーバー・ザ・レインボー」のブルーのデュエットダンス(これがすごい!)に続いていく展開も見ごたえ十分。久々にショーを堪能した。

フィナーレは早霧、咲妃、望海のトリプルダンスというのが珍しく、パレードは月城がエトワールを務めた。

©宝塚歌劇支局プラス10月9日記  薮下哲司

星条海斗、満を持してバウ初主演!「フォルスタッフ」開幕

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©宝塚歌劇団



星条海斗、満を持してバウ初主演!「フォルスタッフ」開幕

専科の星条海斗が初主演した月組公演、バウ・ミュージカル「FALSTAFF~ロミオとジュリエットの物語に飛び込んだフォルスタッフ~」(谷正純作、演出)が10日、宝塚バウホールで開幕した。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。

今回、バウ初主演となった星条は2000年初舞台。真琴つばさ時代の月組に配属され、173センチの長身とエキゾチックな風貌、ダイナミックな演技で注目され、2006年「暁のローマ」新人公演で初主演した。以来10年ぶりのセンターだ。

「FAL―」は、シェイクスピアが生み出した架空の騎士フォルスタッフを主人公にしたミュージカルコメディ。大酒飲みで、好色、盗人、卑怯者といいところはまるでないのだがどこか憎めない性格で、シェイクスピア作品の登場人物のなかでも人間味豊かで人気があり、ベルディがオペラで取り上げ、怪優オーソン・ウェルズも自ら主演、映画化している。そのフォルスタッフに星条が挑戦した話題作だ。

15世紀初頭のロンドン。放蕩三昧の毎日を送っていたフォルスタッフ(星条)と皇太子ハリー(暁千星)だが、王子の父、ヘンリー4世が崩御したことで、王子は過去を清算。フォルスタッフに国外追放を命じる。フォルスタッフは、従妹を頼ってイタリアのベローナにやってくる。到着したその日は偶然、キャピュレット家で仮面舞踏会が開かれる日だった。フォルスタッフは一夜の晩餐にありつこうとその舞踏会に潜り込むのだが…。サブタイトルにもあるように「ロミオとジュリエット」の世界に侵入したフォルスタッフが2人のラブストーリーに飛び入りして、なんだかへんてこりんなことになる、という奇想天外なコメディーだ。

星条のフォルスタッフは、本来のイメージの太鼓腹の老人という外見ではなく、紫のカツラに華やかな白のコスチュームという宝塚らしい派手ないでたち。うぶな王子を利用して夜な夜な遊びまくっている風情は、シェイクスピアの作品に登場するフォルスタッフの若い頃を彷彿させる。そのあたりの華やかさは十分で、何かにつけて強引なところもよくでていて、王子がずるずる引っ張られていく雰囲気をよくだしていた。他人のことを考えない迷惑な上司という感じだ。

そんなフォルスタッフが追放されて行き着いた場所がベローナ。仮面舞踏会に忍び込んだフォルスタッフが、ロミオ(暁2役)同様、ジュリエット(美園さくら)に一目ぼれしてしまうという展開。バルコニーに忍び込んで、ジュリエットのロミオへの告白を自分へのものと勘違いするあたりまではなかなか面白い。ただそのあとが…。フォルスタッフがロミオとジュリエットの世界に飛び入りするという着想は抜群だったのだがなんとなくアイデア倒れの感じ。フォルスタッフが二人の恋をぶちこわすのではなく応援する側にたってしまうからだ。ここはもっとはちゃめちゃな大騒動に展開してほしかった。

とはいえ、星条は久々のセンターを思う存分楽しんでいる感じが伝わり、見る者の心も温かくしてくれる。ただ、フォルスタッフにぴったりかというとそうでもなかったのが意外だった。星条の演技の質は、やや硬質で「ベルサイユのばら」のアランのような直情的な男を演じさせると、右に出るものがいないのだが、こういう懐の深い役になるとやや単調な感じは否めない。それがベローナに行ってから、思いのほか弾まない原因なのかもしれない。宝塚だからと言って綺麗なフォルスタッフにする必要もなかったのかもしれない。これは星条が悪いのではなく演出の問題だろう。

月組期待の若手、暁はハリー皇太子とロミオの二役。少年っぽいかわいい男役のイメージ通りの役をそのまま体現、フォルスタッフに対する態度を急変させる皇太子役の方が面白かったが、どちらもぴったりはまった。ジュリエットの美園とは「1789」新人公演以来のコンビ。「ロミオとジュリエット」は、フランス版とは違って、有名なシーンはほぼ原作に忠実に登場、美園は古風でういういしい清楚な雰囲気を巧みに作り込みながらも現代的な雰囲気もかいまみせたジュリエットだった。暁とのコンビもよく似合っていた。

ほかではティボルト役の宇月颯、マキューシオ役の蓮つかさがさすがの実力を発揮した。
風間柚乃、天紫珠李、蘭世恵翔といった話題の下級生も勢ぞろいしたが、これといった目立つ役ではなかった。

一方、専科の汝鳥伶がレイトン卿、大公、ロレンス神父、薬屋と場面ごとに別の役で登場、星条を強力にサポート、4役それ自体をギャグにしているのが一番おかしかった。

©宝塚歌劇支局プラス10月13日記 薮下哲司



雪組新公「ケイレブ・ハント」公演評 と 雪組中日劇場観劇ツアー募集のお知らせ

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©宝塚歌劇団

 

永久輝せあ、早くもスターオーラ満点!雪組公演「私立探偵ケイレブ・ハント」新人公演

 

雪組公演、ミュージカルプレイ「私立探偵ケイレブ・ハント」(正塚晴彦作、演出)新人公演(樫畑亜依子担当)が25日、宝塚大劇場で行われた。今回はこの模様をお伝えしよう。

 

早霧せいな、咲妃みゆの息の合った好演と望海風斗はじめ雪組メンバーの見事なアンサンブルで、大劇場につめかけた満員のファンを魅了している正塚氏久々のヒット作「私立探偵―」の新人公演は、研6のホープ、永久輝せあと研5の星南のぞみが中心。永久輝の清新で的確な演技で、早霧とはまたちがった魅力的なケイレブ像が浮かび上がったが、雪組新人公演メンバーが小さい役まで全員が生き生きとしていて、勢いのある組のパワーをまざまざとみせつけた。

 

「ケイレブ―」は1950年代中盤のロサンゼルスを舞台にした私立探偵もの。レイモンド・チャンドラーやロス・マクドナルドといった当時流行のハードボイルド小説の雰囲気をたたえながら巧みに宝塚風にアレンジしたラブサスペンスだ。主人公ケイレブがたまたま女優の殺人現場に居合わせたことから、事件にかかわることになるが、基本はケイレブと長年交際している恋人イヴォンヌとの恋の行方。その辺のバランスがうまくて、新人公演は、人をみなければいけないのだが、永久輝の好演もあってついつい話の面白さに没入してしまったほど。まさしく正塚氏の手練れの技か。

 

正塚氏ならではの自然体の台詞が全体に横溢していて、演技者の資質を問うにも格好の舞台。「ルパン三世」「るろうに剣心」以来3度目の主演となった永久輝は終演後の会見では「やり残したことがいっぱいあって」と本人評価は「60点」と辛口だったが、オープニングのダンスからかっこいいことこの上なく、自然体の台詞を、きちんと自分のものとして咀嚼して演じていて感心させられた。なにより、整った容姿と立ち姿のすっきり感は際立っており、センターがこれほど似合うスターも珍しい。歌や台詞の口跡がはっきりしているのも心地よい。本役の早霧の絶妙の軽さと独特の都会的センスにはまだまだ及ばないが、未熟ながらも今できる最大限の力は十分出し切っていた。まだまだ可能性を秘めており、今後楽しみな逸材だ。

 

一方、相手役イヴォンヌ(本役・咲妃)の星南のぞみは、新人公演ヒロインは「ルパン三世」のマリー・アントワネット以来2度目。可愛さは抜群で、現代的な洗練された感覚も滲み出て、雰囲気作りはよかったが、演技をやや取り違えているふしがあって、みていて少々じれったかった。永久輝との息がうまく合ってないところがあり、歌も不安定ではらはらさせられた。自然体の台詞は、普通に演じればいいというのではなく、芝居として作りこんだうえで、自然体に見せなければ舞台では通用しない。このあたりの作り込みがまだ浅い。後半、アパートの部屋で、ケイレブにパーティーの招待状を渡すくだりは、芝居がかった場面なので、感情がこもって非常によかったので、前半の自然体の演技をさらに磨いてほしい。

 

探偵事務所仲間のジム・クリード(望海)は、研7の実力派、真地佑果、カズノ(彩風咲奈)には研2の縣千が抜擢された。真地は、最近では「ルパン三世」新人公演の次元(本役・彩風)が印象的だったが、個性的な役で光る逸材。今回はそんな蓄積を一気に花開かせたかのように生き生きとジムを演じ、後半のソロなど本役の望海が、そこにいるような錯覚に陥るほどうまかった。縣は、物おじしない自由奔放な物腰とはっきりした台詞で研2とは思えない大物ぶり、すっきりした立ち姿も好印象で、これからの活躍が大いに期待できそうだ。

 

警察グループのホレイショー(彩凪翔)は諏訪さき(研4)。ライアン(永久輝)は星加梨杏(研3)。いずれも期待の若手が起用され、いずれも役の雰囲気をよくつかんで好演。いずれも芝居心があり、かけあいの妙もうまくはまった。

 

ヒール役のマクシミリアン(月城かなと)は橘幸(研7)。今回の新人公演の長で、納得の起用、物語のもう一方の要でもある大役を堂々と演じ切った。東京公演では延長線上でさらにスケールの大きな悪を見せてほしい。ケイレブの戦友ナイジェル(香綾しずる)は叶ゆうり。本役の香稜にならって、不敵な存在感をうまく出していた。

 

探偵事務所メンバーもチームワーク抜群だったが、トレバー(縣)の彩海せら(研1)のぶっ飛び感に注目。

 

娘役ではジムの恋人レイラ(星南)に彩みちる(研4)。殺される女優アデル(沙月愛奈)が、星組への組替えが発表されたばかりの有沙瞳(研5)。その親友ハリエット(星乃あんり)に妃華ゆきの(研7)歌手のポーリーン(有沙)が羽織夕夏(研3)といった配役。

どの役も出番は似たようなものだが、役としては回想シーンがあるアデルがしどころのある面白い役。有沙がクセのある女優役を印象的に演じてポイントをあげた。羽織は「紳士は金髪がお好き」など2曲を歌うが、演出だろうが歌がべたついていまいち印象はよくなかった。

 

とはいえ全体的にはセンターの永久輝の輝くスターオーラですべてはうまくまとまった感のある新人公演。アパートの管理人(沙羅アンナ)や空港職員(蒼井美樹)など脇に至るまで生き生きとした感じが好ましかった。

©宝塚歌劇支局プラス10月26日記 薮下哲司

 

○…星組公演「桜華に舞え」「ロマンス」のご好評に応え、宝塚のマエストロ、薮下哲司と宝塚歌劇を楽しむ観劇会の第2弾「宝塚歌劇雪組公演イン中日劇場特別鑑賞バスツアー」(毎日新聞大阪開発主催)を、来年2月8日(水)に実施します。

今回は午前8時、西梅田から観光バスで出発、早霧せいな、咲妃みゆ、望海風斗主演の雪組公演「星逢一夜」「Greatest HITS‼」12時の回を名古屋・中日劇場のA席で観劇、幕間に昼食(弁当)をとり、終演後にはノリタケの森のレストランでアフタヌーンティー(軽食付き)を飲みながら薮下哲司が公演を解説、午後7時半ごろに大阪に帰着という日帰りツアーです。

参加費は22500円(消費税込み)。先着40名様限定(定員になり次第締め切ります)チケット難が予想される公演です。早めのご予約をおすすめします。

詳細・問い合わせは毎日新聞旅行☎06(6346)8800まで。

 

 

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