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珠城りょう貫禄十分、プレお披露目公演「アーサー王伝説」大阪公演開幕

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        ©宝塚歌劇団

 

 

珠城りょう貫禄十分、プレお披露目公演「アーサー王伝説」大阪公演開幕

 

月組の新トップスター、珠城りょうのプレお披露目公演、ミュージカル「アーサー王伝説」(石田昌也潤色、演出)が東京公演を終えて28日、梅田芸術劇場シアタードラマシティで大阪公演が開幕した。今回は、この公演の模様をお伝えしよう。

 

岩に突き刺さった聖剣を引き抜いた少年がアーサー王となり、グィネビアと結婚するも、グィネビアは美貌の剣士ランスロットを愛してしまう。悲劇の英雄譚は、欧米では聖書の次に読まれているというほどの有名な物語。ディズニーの「美女と野獣」でベルが野獣に読み聞かせていたのもこれ。「円卓の騎士」や「キャメロット」など映画、舞台でも何度も取り上げられているが宝塚では宙組誕生の初公演「エクスカリバー」として上演、最近も真風涼帆主演で「ランスロット」が上演されている。

 

今回の舞台は「太陽王」や「1789」などを生み出したドーヴ・アチア作、演出によるフランスのプロダクションの新作。タイトル通りアーサー王伝説をもとに魔術師マーロンとモーガンの戦いを絡ませて自由に脚色したミュージカルだ。少年時代のアーサーから始まって、グィネビアとランスロットが去った後の王国で、王として気高く君臨するまでをフレンチミュージカルらしいロック調の音楽とパントマイムを多用した振付を駆使して描き、新王誕生と新トップ披露を重ね合わせた作品に仕上げている。しかし、ランスロットと発狂したグィネビアを国外追放して王として君臨するというのはあまり後味のいい話ではなく、おめでたいトップ披露というにはあまりふさわしくないような気もした。ただ宝塚は、物語が終ってから華やかなフィナーレがあり、すべてを吹き飛ばしてしまうのであまり気にしなくていいのかも。

 

珠城は、エクスカリバーを手に舞台中央に登場するオープニングから、貫録は十分。トップとしての存在感の確かさを証明した。上背もあり、立ち姿もきりっとして申し分なく、演技も堂々としていて安定感抜群。天海祐希以来のスピード出世というにふさわしい実力を如何なく発揮した。あまり完璧すぎて面白みがなく、逆にハラハラするような危なっかしさがほしいくらいだ。ただ、物語が物語だけにややもすると芝居が単調になるきらいがあり、緩急をつけるとか何らかの工夫がほしい。演技の振り幅が広くなるとさらに魅力がますこと請け合いだ。

 

グィネビアの愛希れいかは、金髪の巻き毛にわっかのドレスといった中世のプリンセスがよく似合い、魔術に翻弄されてのこととはいうものの、夫を敬愛しながらもランスロットに心を奪われる心情を巧みに表現した。珠城とのコンビも「激情」の時はいかにも姉さん女房という雰囲気だったが、今回はやさしく寄り添うシルエットがいい感じで、少しずつしっくりしてきた。

 

ランスロットは朝美絢。一幕後半からの出番で、野心に満ちた美貌の剣士というより、まだ少年っぽさの抜けきらない若い青年といった風情で登場。珠城に比べればずいぶん小柄に見えたがグィネビアが一目ぼれするだけのみずみずしい存在感をキープ、珠城とは対照的な個性でもあり、役のイメージキャストとしては大成功だった。こうして月組で新トップ、珠城のサポート要員としてうまく始動したばかりなのに、先日、雪組への組替えが発表された。演じるほうとしては複雑だろうが、新天地でもさらなる活躍を期待したい。

 

ほかに特筆したいのは魔女モーガンを演じた美弥るりかと魔術師マーリンを演じた千海華蘭。実はこの舞台、この二人の力がなければ、味もそっけもないものになっていた可能性大。それだけ出番も多く、すべてをリードした。千海は、独特の歌唱とダンスの実力が印象的な貴重な存在だが、今回は端正な風貌を白髪とヒゲで封印、舞台の進行役ともいえる老けの大役。ほぼでずっぱりで台詞も珠城より多いのではないかと思うほどで、これまで一番の役どころを熱演した。気になっていた声質の高さもうまく役にあっていた。フィナーレでは、金髪にタキシードで踊っていたが、まさか同一人物とはだれも思うまい。一方、マーリンと敵対する魔女モーガンを演じた美弥は、このメンバーのなかではその存在感と巧さは群を抜いており、この舞台のすべてを美弥が動かしているように見えた。アニメのキャラクターを思わせる凄みのあるメークと衣装で、これだけの豊かな表現力を見せつけられると降参するしかない。余裕しゃくしゃく楽しげに演じているのも好感が持てた。

 

円卓の騎士メンバーも含めて印象的な脇役が多く、書ききれないが、まずはアーサーの仇敵メリアグランス役の輝月ゆうまの凄み、相変わらずのうまさで目を引いた。パントマイムの妙技で会場を沸かせたアーサーの兄、佳城葵も、芝居心のある演技で印象に残った。娘役では少女の姿をした神アリアンロッドというそれこそアニメキャラクターのような紫乃小雪、モーガンの手下の小悪魔姉妹に扮した早乙女わかばと海乃美月ぐらいが目立つ役。レイア役の早乙女の美貌が際だったが、これまでの活躍を思うとこれではやはり何か物足りなかった。あと少年時代のアーサー、ケイ、メリアグランスを夏風季々、陽海ありさ、妃純凛といった娘役下級生たちが演じ、初々しかった。

 

フィナーレは愛希、早乙女、海乃の3人によるナンバーから始まって、かっこいい男役に戻った美弥を中心にしたガールズたちの群舞、続いて珠城が男役陣を引き連れてダンス、最後は珠城と愛希のデュエットで締めくくった。

 

©宝塚歌劇支局プラス10月29日記 薮下哲司

 

○…毎日文化センター(大阪)では「薮さんの宝塚歌劇講座」(講師・薮下哲司)の11月から来年4月までの秋季受講生のみなさんを募集中です。毎月第4水曜日、午後1時半から3時まで西梅田の毎日文化センターで開講します。最新の宝塚情報や公演をわかりやすく解説、時にはタカラジェンヌOGやスタッフなどゲストを交えてのトークもある宝塚ファンならわくわくの1時間半です。11月は30日開催で2016年度宝塚グランプリノミネートを発表、受講生のみなさんの投票で各部門年間ベストを決定します。ふるってご参加ください。受講料(6か月18150円)=別途入会金必要=など詳細は同センター☎06(6346)8700までお問い合わせください。

 

 

 

 


石丸幹二×安蘭けい「スカーレット・ピンパーネル」大阪公演開幕&月組シンギングワークショップ

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石丸幹二×安蘭けい「スカーレット・ピンパーネル」大阪公演開幕&月組シンギングワークショップ

 

安蘭けい主演で2008年に星組で初演されたミュージカル「スカーレット・ピンパーネル」のオリジナルブロードウェーバージョンによる公演が、石丸幹二のパーシーと安蘭のマルグリット、石井一孝のショーブランという興味津々の配役で実現、東京に続いて10月31日から梅田芸術劇場メインホールでの大阪公演が始まった。今回はこの模様と5組の最後となった月組若手による「バウ・シンギング・ワークショップ」をあわせてお伝えしよう。

 

「スカピン」のオリジナルブロードウェーバージョンは、1998年に開幕、約2年弱ロングランされた。このころは私も頻繁にニューヨークに行ってブロードウェー通いをしていたのだが「ライオンキング」や「プロデューサーズ」などの人気作の開幕と重なって、結局、見逃している。それだけ人気薄であまり評判作ではない印象だった。しかし、小池修一郎氏の宝塚バージョンは、ルイ・シャルル王太子救出劇というンブロードウェーにないプロットを編み出し「ひとかけらの勇気」という新曲を生み出すなど、新しい血を注入して見事な作品に作り替え、大ヒットさせた。そのオリジナル版の上演ということで、いったいどんな舞台になるのか、ちょっと不安だったのだが、新演出版は、「ひとかけらの勇気」のメロディーを使って新たな曲にするなどブロードウェーオリジナルとは全く違ったものに作り上げ、宝塚版ともまた色合いの違った魅力的なミュージカルに仕立て上げた。

 

序曲のあとのオープニングは、安蘭扮するマルグリットがパリの劇場での最後の公演で歌っているところから。客席下手には石丸扮するパーシー、上手には石井扮するショーブランがいる。宝塚版を見ている人には、三人の関係がわかっていて、次の展開が分かるだけに最初からいきなりクライマックスに放り込まれたような感覚になり、物語にぐいぐい引き込まれて行く。ただマルグリットが出演している舞台の衣装と装置が、時代を忠実に反映しているとはいうもののやや古臭くて、宝塚版のあの回り舞台を使った装置がいかに斬新で優れていたかがよく分かる。歌の途中でショーブランが乱入、舞台の中止を宣言するのは宝塚版と同じ。ここでパーシー、ショーブランとマルグリットの関係が要領よく説明される。

 

ストーリー展開はほぼ宝塚版と同じだが、ルイ・シャルル王太子救出劇ではなく、マルグリットの弟アルマンの救出劇がストーリーの芯になっており、マルグリットの召使いマリー(則松亜海)とアルマンの恋模様もない。ここが宝塚版との大きな違いだろうか。パーシー、マルグリット、ショーブランの三角関係も宝塚版のようにロマンティックではなく、ショーブランがマルグリットに一方的に迫ったような描きかただ。ショーブランの脅迫からマルグリットがどうやって逃れるのかがサスペンスにもなっている。熟知している話なのに微妙にスタンスが違うので、結末が分かっていても最後まで引っ張っられた。パーシーや軍団の変装などコメディーの要素も多く、客席は笑いがたえなかった。

 

ラストのミクロンの港町の巨大なギロチン台が生々しいが、そこで繰り広げられるパーシーとショーブランの決闘になんとマルグリットが加勢して二刀流のフェンシングで大活躍するのは安蘭ならでは。新演出版ならではのみどころだ。

 

宝塚版のオリジナル楽曲「ひとかけらの勇気」は別のタイトルで、パーシーとマルグリットによって意味あいや歌詞も違って曲と曲のブリッジのような形で歌われるが、曲の良さは群を抜いており、この曲がなかったオリジナルは何だったのだろうとさえ思わせた。

 

石丸のパーシーは、コミカルでドジな部分とシャキッとする部分の変わり身が見事で硬軟自在の活躍ぶり。歌唱のなめらかさは健在だった。安蘭は、ショーブランの脅迫をパーシーに言えず、苦悩するマルグリットをきめ細やかに演じ、安蘭ならではのリリカルな歌声も耳に心地よかった。ショーブランの石井も一方の正義を熱く演じたが、宝塚版ほど魅力的な人物ではないところが演じるほうも難しいところ。

 

あと「1789」でも重要な役割を果たした革命家ロベスピエールがショーブランの上司として登場。平方元基と横山隆紀のダブルキャストで、大阪初日は平方で、二幕冒頭のソロが印象的だった。則松のマリーは、舞台衣装のデザイナーという役がうまく物語に反映されていて面白い役になっていた。宝塚時代よりもずいぶん舞台姿があか抜けた感じがして、これからの活躍が楽しみだ。

 

ということで、宝塚版の「スカーレット・ピンパーネル」がいかにオリジナルを宝塚風にアレンジしているかということがよくわかる舞台でもあり、宝塚ファンは必見の舞台と言っていい。これを見れば来年の星組公演が見たくなること請け合いだ。

 

  ※  ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※  ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

さて、5組中最後となった「バウ・シンギング・ワークショップ~月~」(中村一徳構成、演出)が10月30日から11月1日まで宝塚バウホールで開かれた。

 

今回は煌海ルイセ(研9)を長に晴音アキ、春海ゆう、暁千星の4人をメーンにした16人が出演。各自とっておきの二曲ずつ披露した。

 

オープニングは月組公演「ウイズ・ア・ソング・イン・マイ・ハート」から同名主題歌を煌海ら全員が歌い継いでラインアップ。男役は黒の燕尾服、娘役は黄色いドレスというこれまでのパターンを踏襲した。全員の自己紹介の後、トップバッターは「情熱の罠」を歌った輝生かなで。かっこいいスパニッシュの振り付けを交えての歌唱に会場からは早くも手拍子が。つかみは抜群だった。

 

今回は期待のスターという意味では暁が一番で、一幕の終わりは「奇跡~大きな愛のように~」で堂々のトリ。少年っぽさが徐々に抜けてきて、このメンバーではやはり抜きんでた存在だった。二幕では「スカーレット・ピンパーネル」から「鷹のように」をたくましさものぞかせて歌い、思わずショーブランの姿を思い浮かべた。

 

歌のうまさでは男役では一幕で「EL VIENTO」二幕で「誰も寝てはならぬ」を熱唱した周旺真広、娘役では一幕でクラシック、二幕で「You Raise Me Up」を歌った麗泉里が際だった。

 

ほかに「心はいつも」を歌った晴音アキの柔軟さ「春の声」を歌った美園さくらの清涼感が印象的。下級生では二幕で「レント」から「One Song Glory」を歌った天紫珠李の情感のこもった歌声に惹かれた。風間柚乃は「闘牛士」礼華はるは「夕映えの飛鳥」を歌ったが、その美形ぶりが一段と映えていた。大トリは煌海が「愛の旅立ち」を好唱、ラストは「PUCK」から「ラバーズ・グリーン」を全員が歌って締めくくった。

 

全体を通して月組は新人公演主役クラスが暁一人だけというのが寂しく、他の組に比べてかなり地味な印象だったが、誰もが幸せそうな表情をして歌う姿は見ていて気持ちがよかった。

 

これで5組すべてのワークショップが終わったが、どの組も全員が晴れの舞台に真剣に取り組んでいるという姿勢がうかがえて好ましいコンサートだった。とはいえ、次代のスター候補生に歌だけで勝負させるという体験を持たせたことは、これからの舞台に計り知れないプラスになったことだろう。このコンサートを糧にした新たなスター誕生を心待ちにしたい。

 

©宝塚歌劇支局プラス11月2日記 薮下哲司

 

 

 

★雪組中日劇場公演鑑賞ツアーのお知らせ★

 

○…宝塚のマエストロ、薮下哲司と宝塚歌劇を楽しむ観劇会の第2弾「宝塚歌劇雪組公演イン中日劇場特別鑑賞バスツアー」(毎日新聞大阪開発主催)を、来年2月8日(水)に実施することになりました。

午前8時、西梅田から観光バスで出発、早霧せいな、咲妃みゆ、望海風斗主演の雪組公演「星逢一夜」「Greatest HITS‼」12時の回を名古屋・中日劇場のA席で観劇、幕間に昼食(弁当)をとり、終演後にはノリタケの森のレストランでアフタヌーンティー(軽食付き)を飲みながら薮下哲司が公演を解説、午後7時半ごろに大阪に帰着という日帰りツアーです。

 

参加費は22500円(消費税込み)。先着40名様限定(定員になり次第締め切ります)チケット難が予想される公演です。席が確保されているこのツアーのご予約をおすすめします。

詳細・問い合わせは毎日新聞旅行☎06(6346)8800まで。

 

 

 


 

速報!「エリザベート・スペシャル・ガラ・コンサート」制作発表会見

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宝塚初演20周年の掉尾を飾るビッグイベント「エリザベート・スペシャル・ガラ・コンサート」が12月9日、大阪・梅田芸術劇場メインホールを皮切りに、引き続き1月8日からは東京・渋谷のオーチャードホールで、一路真輝ら初演メンバーから退団したばかりの龍真咲、さらには現役の凪七瑠海ら豪華な顔ぶれで上演されることになり、4日、東京都内のホテルで賑やかに制作発表会見が行われた。今回はこの模様をお伝えしよう。

 

「エリザベート」のガラコンサートは初演後すぐの1998年に初めて行われ、以後2006年、2012年にもあり、今回が4度目。しかし初演20周年のアニバーサリーとあって、かつてない規模と豪華なメンバーが集結した。このため初演の雪組メンバーの思い出話と歌でつづる「モニュメントバージョン」各組メンバーが衣装をつけて舞台を再現する「フルコスチュームバージョン」そして各組各年代がシャッフルして出演する「アニバーサリーバージョン」の3パターンで構成、いずれもフルオーケストラの演奏によるコンサート形式での上演となる。

 

初演から演出を担当、いまや歌劇団理事の小池修一郎氏は「自分たちの青春を燃焼させてくれていたんだなあ改めて思っている。青春の情熱、さらに加えて厚みのあるエリザベートに、思いを込めて、さらに円熟した味、より新しい発見をもって歌ってくれる。楽しみにしている。それぞれの人生が重ねたエリザベートをご覧いただきたい。」と感慨深げに話し、共同演出を担当する中村一徳氏も「初演のころ助手をして、みなさんが格闘していた姿を肌で感じている、ここ10年は携わっていなかったので、改めてプレッシャーを感じているが、すでに始まっているアンサンブルの稽古がすごい熱気で、素晴らしいメンバーが集まっていると思うので、主演クラスだけでなく全員をみてほしい」と話した。

 

出演者のあいさつの口火を切ったのはもちろん初演でトートを演じた一路。「この席に座っていて思わず96年初演時の制作発表会見を思い出していました。私がトートのメークと衣装で登場したら、会場から“宝塚のトップスターが死に神”みたいな殺気をビンビン感じたんです。そんな記者会見から始まって、命がけで作ったことをしみじみと思い出しました。青い血をもつトート。それから20年たった今も再びさせて頂けることに本当に幸せを感じます。小池先生長生きしてください」と感慨を込めたユーモアたっぷりの抱負。

 

再演の麻路さきは「一路さんのあとでやるのは正直プレッシャーで、一度はお断りしたのですが、結局、させて頂くことになり、自分なりに歌と歌の隙間を埋める作業をしました。でも、それが10年後に再びガラで演じたとき、こんな素晴らしい役をさせて頂いていたんだと改めて実感。大好きになったトートを再び頑張りたい」

 

姿月あさとは「雪、星組とみて作品の大ファンだった私がまさかさせて頂くとは思いもよならず、千秋楽の時はもう二度とこの役をしないだろうなという思いを込めて演じたことを思い出します。でもその後ガラコンサートで2度させて頂き、またできるということに大感激です。当時の衣装もすべてそろっていて改めて宝塚歌劇団のすごさも思い知りました。1公演一回一回を大切にしたい」

 

このあと彩輝なおが「新人公演とサヨナラ公演で演じたトート、最後まで試練でした」、春野寿美礼が「毎日必死だった」、水夏希が「無我夢中だった」、大鳥れいが「最高に楽しかった」、白羽ゆりの「宙組公演で初舞台を踏んだ私がエリザベートを演じるなんて夢のようでした」などと「エリザベート」への思いを話したあと、今回初めてエリザベートに挑戦する龍があいさつ。金髪のボブカット、白いレース地のミニワンピースにハイヒールという姿の龍は「トート役の麻路さんの包容力、彩輝なおさんの妖しい魅力に身をゆだねてエリザベートを演じたい」と抱負。すでに歌稽古が始まっており「ただ歌うだけではなく、台詞の延長の歌とかがあってキーの取り方が半端ではなく難しい」と目下苦戦中とか。東京公演で演じるルキーニについては「退団して性転換をしようと思っている矢先でまた男役ということで一歩前進一歩後退みたいな感じですが、楽曲のエネルギーに負けないように頑張りたい」と抱負を話していた。退団後最初の大きな仕事となったが、今後は「モデルとかいろんなことに挑戦してみたい」と女優としての抱負も。

 

一方、歌劇団生として唯一出席した専科の凪七は「再びエリザベートを演じる機会がくるとは思ってもみなかったので本当に幸せ。宙組の男役だった私が月組でエリザベートを演ずるということは私にとってもファンの方にとっても衝撃的なことで、女役としての立ち居振る舞いもわからず、プレッシャーとの闘いの中で公演が終わったような気がしています。精神的にもずいぶん鍛えられて、いまの私があると思うので、新たな気持ちで頑張りたい」と感慨深げに話し、今回の出演への期待感を膨らませていた。

 

小池氏は「エリザベート」が、初演以来現在まで20年もの人気作となった理由を問われ「エリザベートの人生を調べると暗い話ばかり、それを作者のクンツェさんが、それなら死に神を登場させてエリザベートと死に神のラブストーリーにしたらハッピーエンドになるという逆の発想を思いつかれた、これこそが宝塚と同じ発想、暗い話をハッピーに転換させたことが最大の要因でしょう。あとは「虞美人」「ベルサイユのばら」とこれまでの宝塚の大ヒット作と共通する日本人好みの亡国のプリンセスの話ということもあると思います」と分析していた。

 

なお公演の詳細は公式ホームページを参照してください。

@宝塚歌劇支局プラス11月4日記 薮下哲司

 

 

 

★雪組中日劇場公演鑑賞ツアー、好評受付中★

 

○…宝塚のマエストロ、薮下哲司と宝塚歌劇を楽しむ観劇会の第2弾「宝塚歌劇雪組公演イン中日劇場特別鑑賞バスツアー」(毎日新聞大阪開発主催)を、来年2月8日(水)に実施することになりました。

午前8時、西梅田から観光バスで出発、早霧せいな、咲妃みゆ、望海風斗主演の雪組ゴールデントリオによる秀作「星逢一夜」と「Greatest HITS‼」12時の回を名古屋・中日劇場のA席(8000円)で観劇、幕間に昼食(弁当)をとり、終演後にはノリタケの森のレストランでアフタヌーンティー(軽食付き)を飲みながら薮下哲司が公演を解説、午後7時半ごろに大阪に帰着という日帰りツアーです。

 

参加費は22500円(消費税込み)。先着40名様限定(定員になり次第締め切ります)チケット難が予想される公演です。今ならまだ間に合います。席が確保されているこのツアーのご予約をおすすめします。

 

詳細・問い合わせは毎日新聞旅行☎06(6346)8800まで。

 

要注意、ネタバレあり!花組大劇場公演「雪華抄」と「金色の砂漠」始まる

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   ©宝塚歌劇団

 

 

花組トップ、明日海りおの新作舞台、宝塚舞踊詩「雪華抄」(原田諒作、演出)とトラジディ・アラベスク「金色の砂漠」(上田久美子作、演出)が、11日、宝塚大劇場で開幕した。久々の日本物ショーと再演が続いた花組にあって「カリスタの海に抱かれて」以来の新作2本立て、加えて娘役トップ、花乃まりあのサヨナラ公演となった話題の公演、今回はこの公演の模様をお伝えしよう。

 

「雪華抄」は、「花の踊りはよーいやさー」のかけ声からチョンパーで華やかに始まる宝塚ならではの日本物レビュー。紅白の梅の花に彩られた舞台奥には前衛芸術のような白黒の雲海?が広がる。松井るみによる伝統を踏襲しながらも現代風な装置がいかにも若い演出家の舞台らしい感覚。そんななかで水も滴る若衆姿の明日海が「花の姿も艶やかに」と歌い始めるとそこはもう別世界だ。ソロを歌う花の美女、芽吹幸奈の美声に聞き惚れるうちにプロローグは終わり、宝塚の至宝、松本悠里がせり上がって一人舞う「花椿」へ。いつまでも変わらぬ若さと美しさ。

 

しっとりとした場面から一転、ごつごつした岩山での鷹(明日海)と鷲(柚香光)の荒々しい舞に。丸山敬太デザインによる羽のような衣装による明日海と柚香の存在の華やかさが際立つ場面だ。一気にテンポアップしたところで、続くは江戸庶民の七夕祭りをテーマにした「七夕幻想」へ。鳳月杏と桜咲彩花のカップルが銀橋で星に願いをかけると本舞台からは芹香斗亜と仙名彩世の彦星と織姫が登場、芹香、仙名ならではの優しい雰囲気がとけあう夢幻世界が現出。

 

幻想的な雰囲気を打ち破るのは民謡メドレー。波の男、瀬戸かずやの「大漁追い込み節」から始まって明日海の粋な「佐渡おけさ」など各地の海をテーマにした民謡を激しい踊りと共に披露、芹香が中心となっての「串本節」がいわば中詰めで、客席からは手拍子も巻き起こり、大いに盛り上がった。

 

続く「清姫綺譚」は明日海が安珍、花乃が清姫に扮して、宝塚伝統の安珍清姫伝説を情熱的かつドラマチックに展開。水と炎の表現がダイナミックで、ラストの雪がタイトルを象徴、余韻を残す。花乃が清姫の情念を一瞬の早変わりも含めて巧みに表現。雪の歌手、和海しょうのソロも聴きもの。

 

そしてフィナーレは、明日海安珍と花乃清姫が生まれ変わって春の若衆、春の舞姫で登場、満開の桜の花びらが舞い散る中、豪華絢爛の舞踊絵巻は幕を閉じる。50分弱の短いレビューで緩急自在、日本物にありがちな中だるみがなく、洋物感覚のテンポのよさであっというまのフィナーレだった。純京風の本格的な日本料理ではなく、素材は最高級の国産だが若いシェフによる創作和風会席といった感じの舞台だった。好みはそれぞれだ。かつて酒井澄夫氏が辻村ジュサブローを衣装担当に招いて作った日本物のレビューがあったが、ふとそれを思い出した。

 

「金色―」は、昨年の「星逢一夜」で一躍、期待のエースに駆けあがった上田久美子氏の待望の新作。今回もオリジナルで、とある古代の砂漠の王国を舞台にした愛憎劇だ。開巻早々に明日海扮する奴隷のギイが花乃扮する王妃が車から降りるときに自ら踏み台代わりになるなどファンなら目をそむけたくなるような刺激的な場面があり、どうなることかと思えば、奴隷、実は…と予想通りの?意外な成り行きになるなど、かなり強引な展開ではあるが、見ていて疑問を挟む余地を与えず、次から次へと汲めども尽きない新たな展開に持ち込んでいく手腕は、宝塚きっての新たなストーリーテラーの面目躍如といったところ。最後まで飽かせることはなかった。フィナーレも含めて満腹感たっぷり。高級バイキング料理を腹いっぱい食した感じだ。

 

明日海扮するギイは、幼い頃から花乃扮するイスファン王国の第一王女タルハーミネに仕える専属の奴隷。この国には王女には男の奴隷、王子には女の奴隷を幼少のころからつけて身の回りの世話をさせるのがしきたりだった。成人してもそのままという、王国でこんなしきたりがあることがそもそもありえないのだが、それを物語のベースとして納得させてしまい、そこから物語を紡いでいくのが上田流だ。すべては、そのしきたりがあるゆえに起きてしまった愛憎劇である。

 

詳しい物語は見てもらうのが一番。「星逢一夜」は主要な登場人物3人以外はほとんどチョイ役だったが、今回はその轍は踏まず、ざっと数えただけでも14人もの重要な人物がおり、それぞれが物語を有機的に運ぶ役割を担う。それぞれの色分けがしっかりしているので役名がややこしい割には、非常に分かりやすい。第二王女付きの奴隷ジャーに扮する芹香が、進行役を兼ねていて、そこここで簡単な説明を加えるのも親切な作りではあった。

 

ここからはネタバレになる怖れがあるので、未見の方はパスしていただきたい。

 

明日海は、奴隷としての無垢な少年時代、王女を愛した青年時代、そして出生の秘密を知って復讐に生きる屈折した成年時代と三つの時代を、明日海本来の内に秘めた熱さでそれぞれの時代に応じて変化させながら演じ分け、演技巧者ぶりを見せつけた。愛が憎しみに変化しながらもさらに強く結ばれる王女タルハーミネとの屈折した情熱的な演技に加えて、古代楽器の弾き語りや、派手な立ち回りもあり、まさに魅力全開といったところ。フィナーレではターバンを巻いた黒燕尾によるダンスのセンターを踊り、芝居での質素な衣装のイメージを一気に払しょくした。

 

これがサヨナラとなる花乃は、娘役冥利につきるこれ以上ないほどのいい役。何しろ明日海が自分の意のままに操れる奴隷で、柚香光が求婚者という贅沢さ!柚香扮する求婚者との挙式を承諾しながら、結婚前夜に奴隷のギイと結ばれてしまう。王女としての気位は高く、打算的なところもあるが、金色の砂漠に憧れ、その時々で純粋な心も見え隠れする。なかなかの難役を花乃は実に誠実に演じた。サヨナラ公演とあって吹っ切れたところもあるのだろうが、これまで以上に自由な感じで、王女としての品もあり実に美しい。

 

二番手の芹香は第二王女ビルマーヤ(桜咲彩花)の奴隷で、のちにギイの弟であることが分かる。直情的なギイとは対照的に心優しく、思いやりのある青年で、桜咲扮するビルマーヤを愛しながらも、献身的に仕える。芹香の個性にぴったりの役どころでさわやかな印象。

 

一方、柚香はガリア国の王子テオドロス。花乃扮する第一王女タルハーミネの求婚者で、自国の利益を第一に考えてタルハーミネと結婚する。しかし、王子としての風格もあり、その凛々しさで本心を隠す、複雑な心情を巧みに表現、まさに適役だ。三番手としてのおいしい役を好演した。

 

主要な4人以外にも面白い役が多く、まず瀬戸かずやは第三王女シャラデハ(音くり寿)

の奴隷プリー。王女の理不尽な言動に王宮を逃げ出す。シャラデハに扮した音のわがままぶりが面白い。第二王女ビルマーヤの桜咲も印象的な役だった。王女たちの父であるイスファン国の王シャハンギールは鳳月杏、その妻で王妃アムダリアが仙名彩世。鳳月のいかにも権謀術数にたけた感じの父王の存在感も素晴らしいが、前夫を殺害されて後妻となったアムダリアの屈辱に満ちた人生を仙名が熱演、明日海との絡みも見せた。英真なおきのピピ、高翔みず希のナルギスといったベテラン勢にも見せ場がある。

 

あと忘れてはならないのが砂漠の盗賊の女リーダー、ラクメに扮した花野じゅりあのかっこよさ。弟ザール役の水美舞斗らとともに盗賊団メンバーのはつらつぶりも見ものだった。豊富な花組メンバーを適材適所で使い分けた職人的手腕はなかなかだった。ただタイトルにもなっている「金色の砂漠」の意味をどうとらえていいのか、最後までよくわからなかった。

 

フィナーレは、瀬戸、柚香、鳳月、水美の4人が銀橋で歌った後本舞台から芹香が登場、娘役陣とのダンス、そして明日海、花乃のデュエットダンスへと続く。ここは物語の続きという解釈だ。そして仙名を中心にしたラインダンスになり、明日海を中心としたターバンを巻いた黒燕尾のダンスと続く。エトワールは金色のゴージャスなドレスを着た花乃が務めた。

 

©宝塚歌劇支局プラス11月13日記 薮下哲司

 

 

 

★雪組中日劇場公演鑑賞ツアー、好評受付中★

 

○…宝塚のマエストロ、薮下哲司と宝塚歌劇を楽しむ観劇会の第2弾「宝塚歌劇雪組公演イン中日劇場特別鑑賞バスツアー」(毎日新聞大阪開発主催)を、来年2月8日(水)に実施することになりました。

午前8時、西梅田から観光バスで出発、早霧せいな、咲妃みゆ、望海風斗主演の雪組ゴールデントリオによる秀作「星逢一夜」と「Greatest HITS‼」12時の回を名古屋・中日劇場のA席(8000円)で観劇、幕間に昼食(弁当)をとり、終演後にはノリタケの森のレストランでアフタヌーンティー(軽食付き)を飲みながら薮下哲司が公演を解説、午後7時半ごろに大阪に帰着という日帰りツアーです。

参加費は22500円(消費税込み)。先着40名様限定(定員になり次第締め切ります)チケット難が予想される公演です。今ならまだ間に合います。席が確保されているこのツアーのご予約をおすすめします。

 

詳細・問い合わせは毎日新聞旅行☎06(6346)8800まで。

 

ポスト実咲凜音は誰?宙組公演「バレンシアの熱い花」「HOT EYES‼」全国ツアー開幕

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    ©宝塚歌劇団

 

 

ポスト実咲凜音は誰?宙組公演「バレンシアの熱い花」全国ツアー開幕

 

娘役トップ、実咲凜音が来年4月末で退団を発表しているなか、実咲が出ない宙組全国ツアー公演、ミュージカル・ロマン「バレンシアの熱い花」(柴田侑宏作、中村暁演出)とダイナミック・ショー「HOT EYES‼」(藤井大介作、演出)が18日、大阪・梅田芸術劇場メインホールから始まった。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。

 

「バレンシア―」は、19世紀初頭のスペイン、バレンシア地方を舞台に、元領主の父を現領主に殺された青年フェルナンドが、ロドリーゴやラモンら仲間たちと復讐を果たすまでを、それぞれの恋模様とアクションを交えてダイナミックに描いた愛憎劇。第一次ベルばらブームの余韻がさめやらない1976年に榛名由梨、順みつき、瀬戸内美八の主演によって月組で初演、再演が待望されていたが2007年に大和悠河のトップ披露として31年ぶりに宙組で再演、同年の全国ツアーに次いで9年ぶりの再々演となった。初演以来40年の記念公演でもある。

 

宝塚のスペインものの代表的な作品のひとつで、柴田氏と作曲の寺田瀧雄氏のコンビにとっても「情熱のバルセロナ」「哀しみのコルドバ」と続くスパニッシュ三部作の最初の作品でもある。柴田氏ならではの濃いドラマ展開と寺田氏の一度聴いたら忘れられない演歌調のベタな主題歌、蘭このみ振付の本格的なスパニッシュとまさに定番中の定番である。初演は柴田氏が、榛名ら出演者に当て書きしたこともあってファンの熱気はものすごいものがあり、オープニングで榛名、順、瀬戸内がでてくるたびにファンからの拍手合戦があり、そのあまりのすごさに爆竹拍手が禁止になったきっかけになった作品でもある。

 

31年ぶりの再演は、それから比べるとずいぶん大人しい公演だったが、フェルナンドの大和とイサベラの陽月華のコンビの美しさにみとれたものだ。今回はそのフェルナンドに朝夏まなと、イサベラは伶美うららという大和、陽月に負けないくらいのゴージャスな配役。オープニングから朝夏の切れのいい動きと伶美の見事な脚線美によるスパニッシュデュエットに見惚れた。

 

「エリザベート」のトート役を終えたばかりの朝夏にとってスペインものは掌中の珠といった感じ、復讐に燃える貴族の青年という宝塚ならではの主人公を、凛々しさに加えて男役としての色気もにじませながら肩の力を抜いて余裕たっぷりに演じ、舞台姿がずいぶん大きくなった感じがした。

 

真風涼帆は、妹のローラ(華妃まいあ)を殺され、フェルナンドの仲間に入るラモン。酒場の歌手という設定で、かっこいいスパニッシュダンスの場面から登場。おとなしい役が続いた真風の久々の濃い役で、こちらも水を得た魚の如く生き生きとした舞台姿だった。

 

許嫁のシルビア(遥羽らら)を領主に奪われ、復讐の燃える貴族の青年ロドリーゴには澄輝さやと。澄輝の品のいい個性がこの役にぴったりあって、まるで澄輝のために書かれたような適役だった。酒場でのラモンとの決闘のくだりは、品のよさが邪魔をして熱っぽさが足りないようにも見えるので、ここはもう少し押し出しが強いほうがいいだろう。

 

娘役は、ラモンの思い人だが、フェルナンドと身分違いの恋に落ちるイサベラに扮した伶美が、黒塗りに美貌が映えてヒロインとしての存在感を示した。特に花の祭りの広場での再会からダンスシーンに発展していく幻想シーンは、朝夏と伶美の息の合った呼吸で宝塚ならではのロマンチックな場面となった。早くから抜擢されてきたが、ようやく大輪の花を咲かせたといっていい。歌はかなり向上しているが、やや不安定でまだ課題あり。

 

一方、フェルナンドの許嫁マルガリータに扮した星風まどかの好演も見逃せない。研3という若さにも関わらず、すでにバウ公演や新人公演のヒロインを経験、そのどれもが舌を巻くうまさで注目されているが、今回もフェルナンドの心が自分に向くのをひたすら待って耐えるという薄幸のヒロインをけなげに演じた。伶美とは対照的な清楚な雰囲気があり、何より歌がうまいのが高得点だ。

 

ショーでも伶美と星風は、前半が伶美、後半は星風とほぼ半々のウェートで登場、パレードでは二人並びという異例の階段降り。どちらも甲乙つけがたく、実咲退団後の朝夏の相手役選びは、至難の技になりそうだ。一人と決めずに、ダブルヒロインと言う形で、作品によって相手役を変えるというのもいいかもしれない。この作品は娘役に大きな役が多くほかにもロドリーゴの許嫁シルビアの遥羽やラモンの妹ローラの華妃などが印象的。なかでも研4の華妃は、朝夏と伶美が踊る幻想シーンで歌手の役を務め好唱したほか、ショーでもフィナーレのトリプルデュエットの一人に大抜擢、要注目の存在となりそうだ。

 

ほかには、フェルナンドの復讐に力を貸す盗賊カルデロに扮した瑠風輝が、長身を活かした柔軟な演技で目を引いた。ルーカス大佐の蒼羽りく、バルカの凛城きら、ホルヘの星吹彩翔らの中堅、ルカノール公爵の寿つかさ、セレスティーナ侯爵夫人の純矢ちとせ、レオン将軍の松風輝とベテラン勢もそれぞれの立ち位置できっちりと仕事をこなし充実した舞台に仕上がった。若手ではホルヘの部下ミゲルの留依蒔世のさわやかな演技も印象に残った。

 

「HOT EYES」は正月公演のショーを少人数で再構成した作品。瞳がテーマだが、オープニングのレディ・アイに扮した伶美を中心にしたダンスで伶美の美しさにノックアウト。

とはいうもののショーは、朝夏と真風が中心で二人の場面がメーン、それに娘役がからむといった感じだった。朝夏と星風はジャンピングアイズの場面でデュエット、伶美はダークアイズの場面で妖艶にからむ。星風はスタイリッシュアイズの場面で瑠風や留依らとJポップナンバーを歌い踊る場面がアイドル風でかわいい。

 

もちろん朝夏のソロのダンスジーンはそのままの形であり一番の見せ場だった。どの場面も宙組の若手、中堅が各場面全力で疾走して朝夏、真風をサポート、気持ちのいいショーだった。公演は12月11日鹿児島まで続く。ポスト実咲の発表はそのあとになりそうだ。

 

©宝塚歌劇支局プラス11月19日記 薮下哲司

 

 

★毎日文化センター(大阪)秋期受講生募集中

 

○…毎日文化センター(大阪)では「薮さんの宝塚歌劇講座」(講師・薮下哲司)の11月から来年4月までの秋季受講生のみなさんを募集中です。毎月第4水曜日、午後1時半から3時まで西梅田の毎日文化センターで開講します。最新の宝塚情報や公演をわかりやすく解説、時にはタカラジェンヌOGやスタッフなどゲストを交えてのトークもある宝塚ファンならわくわくの1時間半です。11月は30日開催で2016年度宝塚グランプリノミネートを発表、受講生のみなさんの投票で各部門年間ベストを決定します。ふるってご参加ください。受講料(6か月18,150円)=別途入会金必要=など詳細は同センター☎06(6346)8700までお問い合わせください。

 

★来年2月8日、雪組中日劇場公演鑑賞ツアー、好評受付中★

 

○…宝塚のマエストロ、薮下哲司と宝塚歌劇を楽しむ観劇会の第2弾「宝塚歌劇雪組公演イン中日劇場特別鑑賞バスツアー」(毎日新聞大阪開発主催)を、来年2月8日(水)に実施することになりました。

午前8時、西梅田から観光バスで出発、早霧せいな、咲妃みゆ、望海風斗主演の雪組ゴールデントリオによる秀作「星逢一夜」と「Greatest HITS‼」12時の回を名古屋・中日劇場のA席(8,000円)で観劇、幕間に昼食(特製弁当)をとり、終演後にはノリタケの森のレストランでアフタヌーンティー(サンドイッチやスコーンなどの軽食付き)を飲みながら薮下哲司が公演を解説、午後7時半ごろに大阪に帰着という日帰りツアーです。

参加費は22,500円(消費税込み)。先着40名様限定(定員になり次第締め切ります)チケット難が予想される公演です。まだ間に合います。席が確保されているこのツアーのご予約をおすすめします。

 

 

北翔海莉が、星組公演「桜花に舞え」「ロマンス‼」東京公演千秋楽で宝塚にサヨナラ

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星組トップ、北翔海莉が20日、東京宝塚劇場の星組公演「桜華に舞え」「ロマンス‼」千秋楽をもって20年間の宝塚生活に別れを告げた。相手役の妃海風、同期生の美城れんも同時に退団、サヨナラショーは全国各地の映画館でもライブ中継されたが、東京宝塚劇場で観劇した羽衣国際大学准教授でエンタテイメントジャーナリスト、宝塚イズム執筆者の永岡俊哉氏から千秋楽レポートが届いたのでさっそく紹介しよう。北翔退団の翌21日には、雪組トップコンビ、早霧せいなと咲妃みゆが退団を発表、まさに宝塚は旬のエンタテインメント、2017年の宝塚からも目が離せなくなりそうだ。

 

みっちゃん、華々しく卒業!そして新たな旅立ちにエール!

 

羽衣国際大学 放送メディア映像・学科 准教授 永岡俊哉

 

研18でやっとトップの座をつかんだ北翔海莉が1年半の在任で宝塚を去った。私は2016年11月20日にその最後の瞬間を東京宝塚劇場で見届ける幸せに恵まれた。フェアウエル感と言うよりも、舞台上の全ての生徒が北翔と演じられる最後の瞬間をいとおしむ様に忘れないように噛み締めるようにしていて、その時を大切にしながらも、皆キラキラと輝いていたことがとても印象的だった。12月に刊行される宝塚イズム34(青弓社発行)でも書いたのだが、こんな人が今後また宝塚に出てくることはあるのだろうか…という思いに、私は今、襲われている。

 

千秋楽公演は宝塚の時もそうだったのだが、これで最後…という惜別感や悲しみ、寂しさよりも、北翔の全てを何も見落とさないように噛み締めるぞと言った、プロフェッショナル舞台人北翔の全てを堪能するぞという意欲に満ち溢れた客席だったと私は感じた。

その感覚は舞台上の生徒も全く同じで、先述の通り皆が北翔と一緒の空間から吸収できるものは何でも吸収しようという意欲にあふれた姿を見せ、彼女たちの目はキラキラと輝いていた。北翔や妃海も舞台をしっかりと務め、この時に至ってもなお良い舞台を作りたい、さらに向上したいという意欲が感じられるような、浮ついたところが一つもない見事な舞台を作り上げていった。「地に足の着いた」と言う表現は昨日の星組のためにあるのではないかと思えたぐらいだ。

 

芝居やショーについては特に論じないが、ただ一つだけ、芝居の最後から2場目第14場「維新とは…」で大久保利通の夏美ようが見せてくれた慟哭があまりにも素晴らしく、思わず涙してしまったことだけは言っておきたい。夏美が北翔との最後の出番でみせた渾身の演技だった。

 

そして、ショーの幕が下り、サヨナラショーが始まる。北翔初舞台の「シトラスの風」から始まり、ドアボーイを務めた「ノバ・ボサ・ノバ」の「アマールアマール」と続いていく。「風の次郎吉」の主題歌演歌風もあり、「メリーウイドウ」や「こうもり」の歌も。梅芸のコンサートで評判となり、ディズニーの許可が特別に降りた「LOVE & DREAM」のシンデレラのシーンは幻想的でさえあり、またもや感激した。妃海の紫の衣装、大階段下り、2人のダンス、あの靴を履かせるシーンまでもが蘇ったのだ。

北翔の同期で同時に退団する元星組で専科の美城れんのソロは、コンサート「One Voice」で歌った「タイタニック」の「My Heart will go on」で静かに歌い納めた。個人的にはロミオとジュリエットの乳母の歌も聞きたかったのだが、この曲も心に染みた。妃海のソロは「南太平洋」から「A Wonderful Guy」で、懐かしのセーラー服姿も見られた。銀橋で楽しそうに踊り歌う妃海のあの頃を思い出し、懐かしさでいっぱいになった。

そして、ラストは宝塚と同様、客席のペンライトの光のスイングの中、ビルボードライブ「ミュージック・パレット」で歌った「Climb every mountain」で締めた。彼女が宝塚千秋楽の後で「ひとつ山を登ったからと言ってそこで安心してしまうのではなく、すべての山を登りなさい。それが芸の道なんだから!という星組生へのメッセージとして歌いました。」と話していたが、星組、いや、宝塚の全ての生徒への遺言とも言える歌でサヨナラショーの幕が閉じた。

 

最後の大階段を下りた直後の退団挨拶で、美城れんは「大好きな宝塚歌劇に入れて19年間、私は本当に幸せでした。」と前置きし、途中涙で詰まる場面もあったが、大好きな舞台で芝居、歌、ダンスをできた喜び、星組から専科に異動になったこと、仲間やお客さんに出会えたことに感謝の心を述べ、「私にとって同期の北翔海莉がこの星組でトップスターになれたことを、本当に幸せに思っています。みっちゃんのお陰で今の私があると言っても過言ではありません。」と綴った。おしまいは最後の役となった西郷隆盛の鹿児島弁で「みなさん!ありがとなあ!!!」と述べ、万雷の拍手を浴びた。

 

妃海は「今の素直な愛の気持ちを、素直な言葉で伝えたいと思います。」と前置きし、「今、私、どうやら幸せでいっぱいです。」と話し始めた。「感謝の気持ちでいっぱいなのです。好きなのです。」と続け、さらには北翔への思いもとつとつとつぶやくように述べた。そして、「本当に大好きな宝塚で、こんなにも幸せな気持ちで退団させていだだきますことを心から感謝しております。本当に、皆様、ありがとうございました。」と、最後は妃海らしく力強く元気に締めくくった。

 

そして、北翔の挨拶については全文をご紹介しておこう。

「予科生の時、初めて私に声をかけてくれたのは美城れんさんでした。文化祭で初めて舞台化粧を教えて下さったのは夏美ようさん。初舞台の作品は岡田先生。初めての新人公演の担当は斎藤先生でした。

今、思い返すと、この21年間のご縁は必然で、ひとつでも欠けていたら今の私は成立していなかったと思います。長い道のりの果てにたどり着いた星組には、北翔海莉をさらに磨き上げてくれる仲間がいて、やはり出会うべき人に出会ったんだなと、神様に心から感謝いたします。

今日の卒業の日まで応援して下さったファンの皆様。稽古中や公演中、暑い日、凍えるような寒い中、いつも笑顔で待っていて下さって、皆様の存在が私の心の支えでした。この立場になり決意、決断、覚悟、責任と、己の精神と戦わなければ行けないとき、私の周りにはいつも仲間がいて、スタッフの方々、そして一番の味方であるファンの方々が真心と勇気をもって支えて下さったからこそ、私は義を貫くことができたのだと思います。

最後に、この21年間、とてつもなく苦しい時もありましたが、それ以上に、とてつもなく面白かったです!!!北翔海莉を応援して下さったすべての皆様、加美乃素本舗様、今まで本当にありがとうございました!」

 

84期生は全て卒業してしまった。宝塚はこの偉大な最後の84期生が残したものを引き継ぎ、さらに大きくしていくことができるのだろうか?劇団も生徒も、そして我々ヅカファンも彼女の功績から大いに学んでいって欲しいと思った11月20日の日比谷だった。

 

 そして、その翌日、11月21日、北翔は新たな歩みを見せてくれた。彼女の公式サイトが立ち上がり、その中で次なるステップが明らかになった。

 

    https://hokushokairi.com/    北翔海莉Official Web Site

その中の彼女の挨拶を転載すると、以下のようにある。

「皆さまのお蔭をもちまして、21年間の宝塚での生活を無事に卒業させて頂きました。

 男役・北翔海莉を応援し支えて下さいましたファンの皆さま心より感謝しておりますと共に本当にありがとうございました。

2016年11月21日より新たなる北翔海莉として究極のエンターティナーを志し出航致します。

 応援して下さるファンの方々に喜び・感動・勇気そして少しの恩返しができますように一生懸命精進を重ねて参りたいと思っておりますので今後ともお支え下さいますようにお願い申し上げます。2016年11月21日」

 

ディナーショーに、コンサートに…と、エンターテイナーとしてさらに羽ばたいてくれるようである。今から楽しみでならない。

 

                     ©宝塚歌劇支局プラス2016年11月21日 永岡俊哉 記

 

 

★毎日文化センター(大阪)秋期受講生募集中

 

○…毎日文化センター(大阪)では「薮さんの宝塚歌劇講座」(講師・薮下哲司)の11月から来年4月までの秋季受講生のみなさんを募集中です。毎月第4水曜日、午後1時半から3時まで西梅田の毎日文化センターで開講します。最新の宝塚情報や公演をわかりやすく解説、時にはタカラジェンヌOGやスタッフなどゲストを交えてのトークもある宝塚ファンならわくわくの1時間半です。11月は30日開催で2016年度宝塚グランプリノミネートを発表、受講生のみなさんの投票で各部門年間ベストを決定します。ふるってご参加ください。受講料(6か月18150円)=別途入会金必要=など詳細は同センター☎06(6346)8700までお問い合わせください。

 

★来年2月8日、雪組トップコンビ早霧、咲妃プレサヨナラ公演(中日劇場)鑑賞ツアー、好評受付中★

 

○…宝塚のマエストロ、薮下哲司と宝塚歌劇を楽しむ観劇会の第2弾「宝塚歌劇雪組公演イン中日劇場特別鑑賞バスツアー」(毎日新聞大阪開発主催)を、来年2月8日(水)に実施することになり、好評受付中です。

午前8時、西梅田から観光バスで出発、7月末の退団を発表した雪組トップコンビ、早霧せいな、咲妃みゆが主演するプレサヨナラ公演「星逢一夜」と「Greatest HITS‼」12時の回を名古屋・中日劇場のA席(8000円)で観劇、幕間に昼食(特製弁当)をとり、終演後にはノリタケの森のレストランでアフタヌーンティー(サンドイッチやスコーンなどの軽食付き)を飲みながら薮下哲司が公演を解説、午後7時半ごろに大阪に帰着という日帰りツアーです。

参加費は22500円(消費税込み)。先着40名様限定(定員になり次第締め切ります)チケット難が予想される公演です。まだ間に合います。席が確保されているこのツアーのご予約をおすすめします。

轟悠×実咲凜音初共演、宙組バウ公演「双頭の鷲」開幕

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             ©宝塚歌劇団

 

 

轟悠×実咲凜音初共演、宙組バウ公演「双頭の鷲」開幕

 

 ジャン・コクトー原作の同名戯曲をミュージカル化、専科の轟悠と宙組娘役トップ、実咲凜音が初共演したミュージカル「双頭の鷲」(植田景子脚本、演出)が22日、宝塚バウホールで開幕した。雪組トップコンビ、早霧せいな、咲妃みゆが、」同時に退団会見をした同じ日の開幕となったが、話題作とあってチケットはすでに全期間完売、熱気の初日風景となった。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。

 

 とあるヨーロッパの王国、亡き王との思い出のクランツ城に滞在していた王妃(実咲)の寝室に、嵐の夜、傷ついた詩人でアナーキストのスタニスラス(轟)が逃げ込んでくる。王妃は、亡き王と瓜二つの彼を読書係に任命、2人の間に不思議な感情が芽生えていく。

 

コクトーが、オーストリアの皇妃エリザベートと暗殺者ルキーニからインスピレーションを受けて書いた戯曲で、大ヒットミュージカル「エリザベート」にも少なからず影響を与えた名作。ジャン・マレエ主演で映画化され、日本でも美輪明宏や麻実れいが王妃役に扮して舞台で演じたが、今回の舞台は、それらのイメージにとらわれず、和希そら扮するストーリーテラーが舞台を進行、良くも悪くも自由な脚色で宝塚的なミュージカルに仕上げている。暗殺するために侵入しながら王妃に心酔していくスタニスラスに扮した轟の地に足の着いた存在感、彼によって王妃の務めに目覚めていく実咲の凛とした演技、緊張感あふれる2人のラブシーンがことほか美しく、見ものだった。

 

舞台はクランツ城の王妃の寝室。中央の階段で轟と実咲が倒れている。ストーリーテラーの和希が登場、二人が死んでいることを説明する。そしてなぜこうなったか回想形式で振り返っていく。和希はコクトーの紹介から入り、当時のヨーロッパの情勢や、この国の政情なども説明、ずいぶん懇切丁寧なストーリーテラー。「エリザベート」との関連にも言及するなどわかりやすく展開していく。ビニールカーテンを使用した装置(松井るみ担当)だけが違和感があり、重厚さを欠くとともに作品のイメージから浮いているように見えた。作品の中身とは関係なく、装置が勝手に主張していてなんだか目障りなのだ。何より落ち着かない。

 

スタニスラスに扮した轟は、ショートカットの金髪が若々しく、登場シーンから存在感たっぷり。前回の「リンカーン」とは打って変わった、スタイリッシュな雰囲気で、クラシックな中にも現代的な知的感覚もあって、19世紀の若きアナーキストを見事に体現した。王妃との年齢差をあまり感じさせない作りこんだ演技にも感心させられた。

 

王妃役の実咲は、相手役が轟ということと王妃役ということで最初からかなりテンションの高い演技で臨んでおり、台詞をやや作りすぎていて、聞いていて疲れるところもあるが、轟を相手に一歩もひけをとらない堂々とした立ち居振る舞いと気品ある美しさで、エリザベートを演じた経験に大きくものを言わせたようだ。ラストの大芝居が初日を見た限りではまだ小芝居にしかなっていないのがやや残念。これは回数をこなし、肩の力が抜けていけばさらによくなること必至、素晴らしい王妃になりそうな予感がする。

 

王妃、スタニスラスのほか登場人物は4人、警察長官フェーン伯爵の愛月ひかる。侍女エディットの美風舞良、亡き王の旧友フェリックスの桜木みなと、王妃付きの黒人少年トニーの穂稀せりがその4人。愛月のサングラスに黒い革のコートという濃いスタイルがいかにもに雰囲気をよくだし、陰ながら王妃を慕うフェリックスを素直に演じた桜木も好印象だった。

 

他の出演者はパパラッチや臣下などのコロスで、常に舞台脇に待機、寝室で進行する物語の目撃者ともなる。全員がそれぞれの役に合った別々の黒の衣装で、王妃とスタニスラスの死を暗示しているようで不気味でもあり印象的だった。あと寝室の両サイドの壁面に亡き王の肖像画が2枚飾ってあった、これが轟をモデルにしたもので、なかなか良く描けていたのを付け加えたい。

 

©宝塚歌劇支局プラス11月22日記 薮下哲司

 

★雪組トップコンビ早霧、咲妃プレサヨナラ公演(中日劇場)鑑賞ツアー、好評受付中★

 

○…宝塚のマエストロ、薮下哲司と宝塚歌劇を楽しむ観劇会の第2弾「宝塚歌劇雪組公演イン中日劇場特別鑑賞バスツアー」(毎日新聞大阪開発主催)を、来年2月8日(水)に実施することになり、好評受付中です。

午前8時、西梅田から観光バスで出発、7月末の退団を発表した雪組トップコンビ、早霧せいな、咲妃みゆが主演するプレサヨナラ公演「星逢一夜」と「Greatest HITS‼」12時の回を名古屋・中日劇場のA席(8000円)で観劇、幕間に昼食(特製弁当)をとり、終演後にはノリタケの森のレストランでアフタヌーンティー(サンドイッチやスコーンなどの軽食付き)を飲みながら薮下哲司が公演を解説、午後7時半ごろに大阪に帰着という日帰りツアーです。

参加費は22500円(消費税込み)。先着40名様限定(定員になり次第締め切ります)チケット難が予想される公演です。まだ間に合います。席が確保されているこのツアーのご予約をおすすめします。

綺城ひか理、さわやか単独初主演、花組「金色の砂漠」新人公演

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    新人公演プログラム より

 

綺城ひか理、さわやか単独初主演、花組「金色の砂漠」新人公演

 

綺城ひか理(研6)の単独初主演となった花組公演、トラジェディ・アラベスク「金色の砂漠」(上田久美子作、演出)新人公演(町田菜花担当)が、29日、宝塚大劇場で行われた。今回はこの模様をお伝えしよう。

 

「金色―」は、砂漠の古代王国イスファンを舞台に、王女付きの奴隷ギイ(本役・明日海りお)と王女タルハーミネ(花乃まりあ)のドラマチックな悲恋物語。幼い頃からタルハーミネの奴隷として育ったギイは、タルハーミネがガリア国の王子テオドロス(柚香光)と結婚することになったことから、タルハーミネに積年の思いを告白する。奴隷としか思っていなかったギイからの告白にタルハーミネの心は揺れ、永遠の愛を誓う。二人は駆け落ちしようとするが失敗、王女はギイに力づくで犯されたと嘘の証言をして、テオドロスと結婚、ギイは牢に繋がれる。そこへ王妃アムダリヤ(仙名彩世)が現れ、ギイが自分と前王の子であることを打ち明け、牢から逃がす。現王ジャハンギール(鳳月杏)への復讐を誓ったギイは砂漠の盗賊に仲間入りして機会を狙う。やがて盗賊仲間とともに王宮に侵入したギイはジャハンギールと対決して復讐を果たす。テオドロスは混乱に乗じて帰国したため、ギイはタルハーミネを王妃にすると宣言するが、結婚前夜に砂漠へ逃亡、それを追ったギイとともに「金色の砂漠」で命果てる。因果応報、愛と憎しみの物語。

 

新人公演は、本公演そのままに進行、フィナーレのショーだけがカットされた。明日海が

扮したギイを演じたのは、「ME AND MY GIRL」新人公演で、優波慧と主演を分け合った綺城ひか理。王女タルハーミネには何度か新人公演のヒロインの経験があり、本公演も大きな役が続いている城妃美伶。この同期コンビの組み合わせが作品にぴったりはまったのと、主要なキャストが全員好演したことで、新人公演とは思えない破たんのないまとまりを見せた。

 

 ギイに扮した綺城は、見た目がすっきりとしていて、いかにもさわやかな印象。役に対しても誠実に取り組んでいる様子が、居住まいと演技からもうかがえた。素直なアプローチが、ギイという青年の純粋な心を浮かび上がらせて、前半は奴隷ながら王女に恋してしまった切なさ、後半は自らの出自を知って復讐に転じる激しい心情、この二つの相反する性格を巧まずして表現できたのは立派だった。歌は、最初の銀橋のソロがやや不安定でハラハラさせたが、後半は落ち着いて高音もよく伸び、心地よかった。

 

 王女タルハーミネの城妃は、星組時代「ロミオとジュリエット」花組移籍後も「カリスタの海に抱かれて」「ME AND MY GIRL」とすでに3回の新人公演でヒロインを演じており、同期ながら綺城に比べてずいぶん舞台経験も豊富なことと、元来が勝ち気なイメージがあり、王女と奴隷という役柄にもうまくあって、絶妙のコンビだった。城妃のキャリアの中でも「アーネスト・イン・ラブ」のセシリィ役と共にベストになったのではないかと思う。

 

 ギイの弟で奴隷のジャー(本役・芹香斗亜)に扮したのは亜蓮冬馬。このところめきめきと役付きもよくなってきた期待の男役だが、期待に十分応えた好演。心根の優しいジャーを繊細に体現、終始ぶれないその姿勢が、ギイと好対照で、語り手としての務めも立派に果たした。

 

 タルハーミネの求婚者、ガリアの王子テオドロス(柚香)は帆純まひろ。すっきりした立ち姿が本役の柚香と相通じるところもあり、見映えのする王子だった。台詞回しとかやや弱い部分もあるが、二枚目男役としてこれからが大いに楽しみな存在だ。

 

 同じ奴隷のプリー(瀬戸かずや)は聖乃あすか。この人も美形男役で花組の期待の星のひとりだが、外見に似合わずひょうきんな演技もしっかりとしていて、本来の実力を発揮した。

要注目の存在だ。

 

 イスファン国の王ジャハンギール(鳳月杏)は、飛龍つかさ。王妃アムダリア(仙名彩世)は春妃うらら。この二人も本役にひけをとらない地に足の着いた演技を見せ、この役が作品に大きなカギを握るだけに、作品の要としての重責をまっとうしたといっていいだろう。

 

 あと娘役は盗賊ラクメ(花野じゅりあ)に扮した.乙羽映見の一段とあか抜けた美貌と気風のいいセリフ、第二王女ビルマーヤ(桜咲彩花)の朝月希和の華やかな存在感が印象的だった。

 

脇を締めるピピ(英真なおき)の優波、ナルギス(高翔みず希)の矢吹世奈は、優波が前回の「ME AND MY GIRL」のビルの時とは打って変わって活き活きとしていたのに対し、矢吹は逆に芝居に迷いが出たように見えた。

 

あと特筆しておきたかったのがカゲソロ。オープニングとラストで主題歌のカゲソロを歌った咲乃深音、後半のラブシーンでの若草萌香。どちらも場面を大いに盛り上げたが特に咲乃のなめらかな歌声が、本役の音くり寿にも匹敵するすばらしさだった。

 

©宝塚歌劇支局プラス11月30日記 薮下哲司

 

北翔海莉×妃海風サヨナラ特集!「宝塚イズム34」12月1日発売

 

○…宝塚歌劇の評論誌「宝塚イズム34」(薮下哲司、鶴岡英理子編、青弓社刊、1600円税抜き)が12月1日全国の書店で発売されます。

 

最新号の巻頭特集は、11月20日に退団した星組トップコンビ、北翔海莉と妃海風のサヨナラ特集で、2人の魅力をオフの人柄はじめ、舞台での演技論などさまざまな観点から魅力を分析、サヨナラを惜しみつつこれからの活躍に期待をはせます。

さらに月組新トップ、珠城りょうに対する期待の声、また「ドン・ジュアン」で好演した雪組2番手、望海風斗を中心にした各組の2番手論も特集しました。

 

また、特別寄稿として、今夏、大きな話題となったタカラジェンヌOGたちによる「CHICAGO」ニューヨーク公演の詳細レポート、今年没後36年になる、宝塚の至宝、天津乙女さんの思い出も掲載、どちらも必読です。

 

好評のOGロングインタビューは、「PUCK」や「グランドホテル」の再演でいまさらながら再び脚光を帯びている永遠の妖精、涼風真世さんの登場。新作舞台「貴婦人の訪問」の抱負から宝塚への思いなどを聞きます。

 

その他、大劇場公演や新人公演はじめOG公演評なども網羅、宝塚ファン必読の評論誌です。ぜひ書店でお買い求めください。

 

 


井上芳雄主演「ナイスガイinニューヨーク」開幕!真琴つばさ、カバーアルバム発売、京都顔見世開幕

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井上芳雄主演「ナイスガイinニューヨーク」大阪から開幕!真琴つばさ、カバーアルバム発売、京都顔見世開幕

 

 ミュージカル界のプリンス、井上芳雄が、ニール・サイモンのコメディーに挑戦した「ナイスガイinニューヨーク」(福田雄一上演台本、演出)が2日、大阪・サンケイホールブリーゼから開幕した。元雪組娘役トップの愛原実花がフラッパーな役で共演するこの新作舞台の模様と、元月組のトップスター、真琴つばさの6年ぶりCDリリースの話題、加えて耐震工事で休館中の南座に代わって先斗町歌舞練場で始まった京都の師走恒例「吉例顔見世興行~東西合同大歌舞伎~」の模様をお伝えしよう。

 

 「ナイスガイ―」は、「おかしな二人」などで有名なコメディーの天才ニール・サイモンのデビュー作「カム・ブロウ・ユア・ホーン」を福井雄一が新たに日本版の上演台本を書いたリニューアル版。フランク・シナトラ主演で映画化されていて、そのタイトルが「ナイスガイ・ニューヨーク」だったことから今回もその伝で、井上がシナトラの持ち歌4曲を歌い、さしずめミュージカル・コメディーといった趣。冒頭から井上と愛原のテンションの高い笑いのやりとりが連続、客席はいきなり爆笑に次ぐ爆笑。全編この調子で、台本なのかアドリブなのか判然としない登場人物のチグハグな台詞の応酬がとにかくおかしい。

 

 1960年代のニューヨーク。自由気ままな独身生活を送っていたアラン(井上)のアパートに12歳年下の真面目な弟バディ(間宮翔太朗)が転がり込んでくる。厳格な父親(高橋克実)から逃げてきたのだが、アパートには、アランの恋人で売れない歌手のコニー(吉岡里帆)や上の階に住む女優の卵ペギー(愛原)、それに父親や母親(石野真子)までが入れ代わり立ち代わり出入りしてとんでもない大騒動が展開する。

 

 デビュー作らしい勢いのある展開で、フランク・シナトラに合わせた映画版よりも、ずっと面白く、井上の個性に合わせて歌をふんだんに入れ込んだ福田脚本は、現代風に弾んでいてとにかく笑わせる。父親役の高橋がトランプそっくりのヘアスタイルとネクタイで登場するあたりから笑いは最高潮に達し、出演者のテンションの高い演技に、見ている方が唖然ボー然、空いた口が塞がらないまま舞台は疾走、石野のスローなしゃべり口調で一幕はついに噴火する。最初は笑うまいと思っていたのだが最近これだけ笑った舞台はない。井上がここまで緩急自在のコメディー演技ができるようになったことに感服した。

 

 愛原は、映画ではジル・セント・ジョンが演じていたマリリン・モンローを思わせるフラッパーな女優志願の女の子の役で、超ミニのギンギラドレスでバディに迫るくだりをKY感覚で大熱演。これまでにない新境地かも。弟役の間宮も、晩生で真面目な青年が、がらりと変わってプレイボーイに変身、兄貴のお株を奪うくだりを実にさらっと見せた。あとは高橋の怪演に拍手だ。

 

 歌は「カム・ブロウ・ユア・ホーン」のほか「パル・ジョーイ」から「レディ・イズ・ア・トランプ」。映画「パパは王様」の主題歌でS・マックイーンの映画「マンハッタン物語」でも使われた「コール・ミー・イレスポンシブル」。「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」で耳馴染みの「カム・フライ・ウィズ・ミー」の4曲。いずれもシナトラが歌った名曲で、もちろん井上が美声を聴かせてくれるが、全員が歌って踊るナンバーもあり、それが実に楽しい。ミュージカルではないが、下手なミュージカルよりずっとミュージカルらしい間合いのよさとテンポ、落としどころをわきまえた洗練された感覚に乾杯。東京公演は7日からシアタークリエで。

 

 一方、元月組トップでタレントとしても大活躍の真琴つばさが6年ぶりにビクターからCDをリリース、精力的にキャンペーンで飛び回っている。アルバムタイトルは「眠れない夜にあなたのそばにいたい」。なんだか意味深だが、新曲のタイトルが「眠れない夜に」(高橋まさひと作詞、三枝伸太郎作曲)でそれにちなんだもの。カバー曲が中心で故河島英五さんの「酒と泪と男と女」や井上陽水の「いっそセレナーデ」さだまさしの「案山子」など真琴の声質にあった大人な感覚の歌が絶妙に選曲されている。新納慎也作詞、作曲の新曲「Desert Rose」も含め「自分の声質にあった歌をようやく見つけられるようになった」と真琴。独特のビロードのようなベルベットボイスの魅力を十分に発揮したアルバムとなっている。来年2月13日には東京・銀座ヤマハホールで記念コンサートを開くが、この12月10日には大阪北区茶屋町のヌー茶屋町のタワーレコードで初のサイン会(午後5時予定)も開催する。「ぜひ会いに来てください」とファンに呼び掛けている。

 

 「吉例顔見世興行」は、5代目中村雀右衛門襲名披露の最後を飾る大歌舞伎で、客席数が南座の半分の530席というコンパクトな会場であることから顔見世史上初の3部制。一部が片岡愛之助初役による「実盛物語」と坂田藤十郎、新雀右衛門による「仮名手本忠臣蔵」から「道行旅路の嫁入」。「実盛―」は、愛之助が子役時代に初舞台を踏んだ演目。「まさか主役を演じられるようになるとは」と感無量の初役。平家に仕えながらも旧恩を忘れず源氏に肩入れする実盛をすがすがしく演じている。最後に登場する馬は、宝塚雪組公演「前田慶次」で登場した「松風」と同じ馬。久々の再会だった。玄関ロビーには大勢の舞妓さんが休憩していたり、愛之助夫人の女優、藤原紀香が和服姿でひいき筋に挨拶する姿もみられ、顔見世ならではの華やかな雰囲気。

 

 二部は愛之助(松王丸)鴈治郎(梅王丸)孝太郎(桜丸)による「車引」から始まって片岡仁左衛門(伊左衛門)、新雀右衛門(夕霧)による「廓文章~吉田屋~」。遊郭に通い詰めた挙句、感動された伊左衛門がみすぼらしい紙子姿で吉田屋に現れ、夕霧に会わせてほしいと懇願するのだが…。上方和事のエッセンスが詰まった名舞台。仁左衛門が当たり役を手練れの演技で見せる。まさに名人芸である。夕霧の雀右衛門はちょっとした仕草に女性としてのかわいらしさがのぞく。後半で2人と太鼓持ち(廣太郎)とのからみがあるのは「松嶋屋」独特の型。廣太郎がいい味を出した。大詰めで出演者全員が勢ぞろい、襲名口上があるのも華やかだった。二部のトリは海老蔵による「三升曲輪傘売(みますくるわのかさうり)」。石川五右衛門が傘売りに変装しているという体の、手品師まがいの楽しい舞で、粋な色男風の傘売りが、着物の袖から次々にいろんな傘をだして怪しむ男どもをけむに巻くという寸法。海老蔵の鮮やかな手さばきに会場はやんやの喝采だった。

 

 3部は、仁左衛門、孝太郎、彌十郎、吉弥らによる「引窓」。「双蝶々曲輪日記」の八段目で、男山八幡宮に近い八幡の里の田舎家を舞台に、実と義理の親子が繰り広げる人情劇。仁左衛門ふんする与兵衛の情の深さに感動する一幕。そして新雀右衛門が日舞の大曲「京鹿子娘道成寺」を踊り、押し戻しでは海老蔵が佐馬五郎で登場、圧倒的な迫力で幕となる。

 

役者がそろい演目も派手な二部にお得感があるが、一部の「実盛―」三部の「―娘道成寺」も見ごたえは十分。なにより会場がコンパクトで舞台が近く、演者と客席の一体感がこれまでになく厚く、鳴り物や清元も迫力満点、歌舞伎の世界に没入できるのが一番だ。

公演は25日まで。

 

©宝塚歌劇支局プラス12月3日記 薮下哲司

 

北翔海莉×妃海風サヨナラ特集!「宝塚イズム34」好評発売中

 

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最新号の巻頭特集は、11月20日に退団した星組トップコンビ、北翔海莉と妃海風のサヨナラ特集で、2人の魅力をオフの人柄はじめ、舞台での演技論などさまざまな観点から分析、サヨナラを惜しみつつこれからの活躍に期待をはせます。

 

さらに月組新トップ、珠城りょうに対する期待の声、また「ドン・ファン」で好演した雪組2番手、望海風斗を中心にした各組の2番手論も特集しました。

 

また、特別寄稿として、今夏、大きな話題となったタカラジェンヌOGたちによる「CHICAGO」ニューヨーク公演の詳細レポート、今年没後36年になる、宝塚の至宝、天津乙女さんの思い出も掲載、どちらも必読です。

 

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初演20周年!一路トート降臨「エリザベート」スペシャル・ガラ・コンサート開幕

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   撮影:岸隆子

 

 

初演20周年!一路トート降臨「エリザベート」スペシャル・ガラ・コンサート開幕

 

「ベルばら」とともに宝塚歌劇の代名詞的ヒット作となったミュージカル「エリザベート」(小池修一郎潤色、演出)の初演から20周年を記念「エリザベートTAKARAZUKA20周年スペシャル・ガラ・コンサート」(小池修一郎構成、演出、訳詩、中村一徳演出)が9日、梅田芸術劇場メインホールから開幕した。さまざまなバージョンがあるが初演の雪組出演メンバーを中心にしたモニュメントバージョンから始まった。今回はこの模様をお伝えしよう。

 

「エリザベート」初演は1996年2月。一路真輝のサヨナラ公演だった。ウィーンでは1992年に開幕。評判は早くから伝わっており、宝塚では小池氏が、涼風真世主演のバウホール公演「Lost Angel」(92年)ですでに「闇が広がる」や「キッチュ」といった楽曲を使用したぐらいだ(当時市販されたビデオからは著作権の関係で削除されている)。知る人ぞ知るミュージカルだったわけだが、その「エリザベート」を一路のサヨナラ公演として白羽の矢を立てたのは当時の雪組プロデューサーだった古沢真氏(現宝塚クリエイティブアーツ社長)だった。初日朝の舞台稽古が終わった時、前方中央でご覧になっていた作曲家のリーバイさんに印象を聞くと「オーケストラがよくやってくれた、君もそう思うだろう」と興奮した表情で話されたことを昨日のように思い出す。出演者に対するコメントを期待していたのでやや肩すかしだったが、日本語歌詞が分からないので、難しい楽曲をよくここまで演奏してくれたという賛辞だったのだと思う。楽屋袖で不安そうに「どうでしたか」と聞いてくれた一路には「ちょっと難しい作品なので万人向けではないけれど、最後に代表作が出来てよかったね」と答えたことを覚えている。このあとのことはさまざまなところでさまざまな話が伝えられているので省略するが、エリザベート20周年スペシャル・ガラ・コンサートの舞台は、そんなことを思い出しながら見ていた。

 

モニュメントバージョンは、開演アナウンス、指揮者のあいさつ、轟悠扮するルキーニが登場する初演のプロローグが映像で映し出されたあと、ルドヴィカ役の京三紗、グリュンネ役の飛鳥裕、黒天使役の五峰亜季、マダム・ヴォルフ役の美穂圭子の雪組初演の出演者で現在も宝塚歌劇団に在籍している4人と退団したマックス役の古代みず希とゾフィー役の朱未知留の6人が司会の久路あかりとともに登場。あいさつとともに思い出話を披露。二十年前と全く変わらない古代と今まさにゾフィーにふさわしい年齢になった朱のあでやかな美しさが印象的。

 

そのあとルドルフ(少年時代)役の安蘭けい、ルドルフ役の香寿たつき、ビデオ出演のルキーニ役の轟悠と続き、フランツ役の高嶺ふぶき、エリザベート役の花總まり、そしてトート役の一路が一人ずつ登場して輪に入り、それぞれの思い出話に花を咲かせた。安蘭が、新人公演でトートを演じたことから、毎公演、舞台袖から一路の舞台を見ていたエピソードや、ただでさえ大変な稽古に、代役稽古や新人公演の稽古が重なって大変だったこと、香寿が、組替えで東京公演には出ないことが分かっていたので代役がなく、出番が一幕の冒頭以外は二幕までないことから、みんなが忙しそうにしているなか、酸欠で倒れた生徒の介護係りをしていたことなどを明かすと、高嶺は20代から60代までのヒゲの早変わりで、肌が荒れ、口元にほくろが出来たことを明かすなど知られざる裏話が続出。しかし全員一様に、音どりと歌稽古が大変だったけれど充実していたと、その緊張した稽古風景を懐かしく思いだしていた。あまりの稽古の大変さに、稽古場の時計を1時間進めたが、演出の小池氏にばれた話も暴露、ついでに小池氏の結婚披露宴で雪組メンバーが「不幸のはじまり」を歌ったことも披露。「でも、あれを歌うと夫婦円満」と言われて、一路が「私の時にも歌ってもらえばよかった」と思わずもらして大爆笑。

 

一路は、とにかく必死で何も覚えていないというなか、ある日、銀橋からの出番で、待ち時間にオケのメンバーと雑談をしていて出遅れ、歌詞を間違えて、出演者全員に大迷惑をかけたことを20年ぶりに改めて謝罪。雪組メンバー全員が、間違えた一路の歌詞をとっさに歌い継ぎ、観客には間違いを悟られなかったのだという。カゲコーラスをしていた安蘭も「一路さんと同じ歌詞を歌いました」と話して笑いをさそっていた。一幕は久路の絶妙の司会で1時間余りそんなトークが続いた。

 

休憩をはさんで二部は、ソングナンバーを中心にしたコンサートで、まずは一路の「愛と死の輪舞」から。「パパみたいに」は20年前と全く変わらない花總と古代がデュエット。「双頭の鷲」出演中のため出られなかった轟のルキーニ部分は安蘭と香寿が交代で務めたが、この二人のルキーニが新鮮。特に香寿の「キッチュ」が楽しかった。

 

主要ナンバーの抜粋で、一路は「最後のダンス」 花總は「私だけに」 一路、香寿で「闇が広がる」 高嶺、花總の「夜のボート」などなど極め付けはもちろん、安蘭の「ママ、どこにいるの」 美穂の「マダム・ヴォルフのコレクション」など懐かしいシーンも再現、カーテンコールは全員がVサイン、まるで20年前にタイムスリップしたかのような同窓会コンサートだった。

 

一方、モニュメントバージョン上演に先立って、水夏希トートと姿月あさとトートのフルコスチュームバージョンの舞台稽古が公開された。姿月バージョンは、トートの姿月の歌唱力がさらに円熟味を増し、余裕たっぷりのトートに後光が差した。エリザベートは大鳥れい、フランツは樹里咲穂、ルキーニは湖月わたる、ルドルフは涼紫央、ゾフィーが出雲綾といった配役。いずれも在団中よりも肩の力が抜けて、舞台を楽しんでいる感じが見ていても心地いい。アンサンブルメンバーは全バージョン同じで全日程に出演するが、元宙組娘役トップの紫城るいがリヒテンシュタイン、「エリザベート」には縁がなかった歌姫、音花ゆりがヘレネ役、退団したばかりの蓮城まことがジュラ役など、興味深い配役で脇まで目が離せなかった。このほか龍真咲がエリザベートに初挑戦するバージョンや、各組メンバーが勢ぞろいするアニバーサリーバージョンなどがあり、ファンは忙しい週間になりそうだ。

 

会場は超満員、いずれにしても「エリザベート」が宝塚の珠玉の財産として存在しているという事実を強烈に印象付けたコンサートだった。今後もことあるごとに再演し続け、新たなスターを育てて行ってほしい。

 

コンサートは、大阪が18日まで。東京は来年1月8日から20日までオーチャードホールで。

 

©宝塚歌劇支局プラス12月3日記 薮下哲司

 

 

 

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劇団四季のディズニー・ミュージカル第6弾「ノートルダムの鐘」開幕

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劇団四季のディズニー・ミュージカル第6弾「ノートルダムの鐘」開幕

 

劇団四季のディズニー・ミュージカル最新作「ノートルダムの鐘」が、11日、東京・四季劇場秋で初日を迎えた。四季とディズニーのコラボは「美女と野獣」から数えてこれで6作目。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。

 

「ノートルダムの鐘」は、「レ・ミゼラブル」と同じヴィクトル・ユゴー原作の「ノートル=ダム・ド・パリ」のミュージカル化。ノートルダム寺院の鐘つき男カジモド、大助祭フロロー、警備隊長フィーバスの3人の男が、同時にロマの美女エスメラルダに恋したことから起こる悲劇を激動の中世パリを舞台に描いた人間ドラマ。サイレント時代から何度も映画化されているが我々世代はジーナ・ロロブリジーダがエスメラルダ、アンソニー・クインがカジモドを演じた「ノートルダムのせむし男」(1956年)を真っ先に思い出す。ディズニーは1996年にこれをアニメ化、今回の舞台はこれをもとにしている。

 

初演は1999年のベルリン。この公演は2000年に宝塚歌劇がベルリンで公演を行ったときにもロングラン上演中で、私も宝塚公演初日取材の後に観劇している。カジモドが住むノートルダム寺院頂上の鐘楼と地上の高低差をめまぐるしいセリのアップダウンで見せた驚異的なスペクタクルだった。劇場ロビーで当時まだ演出助手だった小柳奈穂子さんに遭遇したことも懐かしい思い出だ。四季が上演すると発表した時、そのことを小柳さんにメールしたところ「休憩時間に(劇場の売店で)買ったアイスがおいしかった」という返信がきて懐かしさがこみ上げたものだ。それはさておき、ベルリンでの公演は結局、再演されることはなく、今回の公演は全く新たなバージョン。2014年のサンディエゴでの公演をベースに、ブロードウェーよりも先に日本で上演された。ディズニー・ミュージカルとしては「アイーダ」以来の大人向けのミュージカルで、原作を大胆に改変しながらも、香気を失わず格調の高い作品に仕上げている。

 

舞台は1482年パリ。ノートルダム寺院のフロロー大助祭(芝清道)が、厳かに新年のミサを執り行う場面から始まる。バックの聖歌隊の圧倒的な合唱の厚みにまず飲み込まれ、これはいつものディズニーではないぞと身構える。そして大助祭と弟の過去の話が手短にフラッシュバックされる。遊び人の弟はロマの女性との間に生まれた長男を、死に際に兄のフロローに託す。フロローはあまりに醜いその子供を「カジモド(出来損ないの意味)」と名付け、ノートルダム寺院の鐘楼に幽閉、鐘つき男として育てる。カジモドがフロローの甥という設定は原作にもなくこのミュージカルのオリジナル。思い切った改変だが、これがユゴーの描こうとした宗教的な不寛容や三人三様の愛の形などを非常に分かりやすく浮き上がらせ、このあとのストーリー展開をさらにドラマチックなものにしている。

 

ロマの美女、エスメラルダ(岡本美南)をめぐってカジモド(海宝直人)フロロー(芝)警備隊長のフィーバス(清水大星)の四角関係は、それぞれの愛の形が現代にも通じるもので、切なく悲しい。また、大助祭がロマを排斥するくだりなどは、期せずして2016年の世界情勢をそのままあぶりだした。製作サイドの意図とは関係なく、物語の普遍性が、時代にフィットしたというべきものだ。「美女と野獣」「リトルマーメイド」「アラジン」に続くアラン・メンケン作曲の主題歌の数々もメロディアスでありながら重厚。二幕後半のクライマックスで歌われる感動的な「サムデイ」を筆頭に佳曲が多く、「アラジン」に続いて高橋知伽江氏の訳詩も効いている。ベルリン公演にあったガーゴイルたちのコメディリリーフ的な軽い場面もなく、ディズニー・ミュージカルとは思えないタイト感が特徴的。それが作品よく似合っていた。鐘楼の鐘が一斉に鳴りだす場面も圧巻だった。

 

6月までのロングランということで、主要キャストはすべてダブルかトリプルキャストが組まれているが、初日のキャストはいずれも実力派、特に歌唱はだれもが文句なしのうまさ。ベテラン芝が、単なる悪ではない人間味たっぷりのフロローを演じ切り、作品を支えた。四季のメンバーとは別に男女約10人の聖歌隊メンバーが参加、見事なコーラスを随所で聴かせるのも作品に大きな厚みがでた要因だろう。

 

6月までの東京公演はほぼ完売、このあと7月から京都劇場で公演、さらに来年4月からKAAT神奈川芸術劇場でのリターン公演が早くも決定した。

 

©宝塚歌劇支局プラス12月12日記 薮下哲司

 

 

北翔海莉×妃海風サヨナラ特集!「宝塚イズム34」好評発売中

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龍真咲 華麗なるエリザベート!「エリザベート」ガラ・コンサート 月組バージョン

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 撮影:岸隆子

 

龍真咲 華麗なるエリザベート!「エリザベート」ガラ・コンサート 月組バージョン

 

初演以来20周年を記念した「エリザベートTAKARAZUKA20周年スペシャル・ガラ・コンサート」が大阪・梅田芸術劇場メインホールで開催中だが、15日、彩輝なおトートと龍真咲エリザベートという、貴重な公演が1回だけの限定で上演された。今回はこの模様をお伝えしよう。

 

今回の「エリザベート」ガラ・コンサートは20周年とあって初演の雪組メンバーを中心としたモニュメントバージョンから始まって、星、月、雪、宙組の各組出演者をメーンにしたフルコスチュームバージョン、そして花組はじめ各組の選抜メンバーが出演するアニバーサリーバージョンがあり、さまざまな組み合わせが楽しめる。20周年ならではの豪華なコンサートだ。

 

そのなかでも一番の話題は退団したばかりの元月組トップスター、龍真咲が大阪公演の3回だけエリザベート役に挑戦したこと。13、14日の麻路さきを中心とした星組バージョンと15日の彩輝を中心とした月組バージョン。麻路トートも捨てがたかったが、今回は龍の古巣ということもあって彩輝トートバージョンを観劇することにしたのだが、1回だけという緊張感がステージの隅々に張りつめ、これが素晴らしい出来栄えだった。

 

彩輝のトートは、2005年の在団当時に見たときから、独特のハスキーな声がビブラートするところになんともいえない妖しい雰囲気があり、黄泉の帝王というにふさわしいと思っていたのだが、11年たった今、さらにその妖しさが増した感じ。星組時代に麻路のトートを見て勉強、新人公演でもトートを演じているので、麻路トートをお手本にしたバリエーションであることは確かなのだが、麻路とはまた違った色気があり「最後のダンス」はクールでありながらもホットで思わず鳥肌が立つようなオーラがあった。女優で活躍しているときには、こういう雰囲気は出ないので、これはもう宝塚マジックとしかいいようがない。

 

一方、眼目の龍エリザベートも、やや大柄ではあるが、少女時代を非常に丁寧にソフトに歌い、かわいらしさも満点。「私だけに」のソロの高音もよく伸びて予想以上の高得点だった。一幕ラストの最大の見せ場での表情の作り方と押し出し方が、やや物足りなかったが、後半の「私が踊る時」や「夜のボート」は聴かせた。男役から転身した最初の舞台としては大成功だろう。近い将来、東宝版でのエリザベート役も夢ではないかもしれない。

 

他の配役はフランツが初風緑、ルキーニが湖月わたる、ルドルフが涼紫央、ゾフィーが未来優希、マックスが立ともみ、少年ルドルフが月影瞳、グリュンネが磯野千尋、ルドヴィカが久路あかりで、端正な初風と涼に対して、硬軟自在な湖月が好対照で彩輝、龍をサポート、未来のゾフィーがさすがの実力で聴かせた。少年ルドルフの月影が、子役というより女の子っぽかったが在団当時そのまんまの初々しさだったのにも大感激。いずれにしても、一期一会の貴重なコンサートだった。

 

終演後のカーテンコールでは、まず湖月があいさつ、彩輝は「フルコスチュームバージョンの最後、それに一回だけということで、緊張したけれど、無事終わってホッとしました。新人公演を思い出した」と話し、このコンサートにかかわったすべての人々への感謝の気持ちを表していた。また、エリザベート役の龍を「2005年の時は黒天使だったよね。この間まで月組トップだった龍です」と紹介、突然のことに龍は思わず涙、しかし、すぐに立ち直り「今日でエリザベートは三回目だったけれど、今日が一番緊張して、本番前から楽屋でもずっと彩輝さんにべったりくっついていました。何か話さないとどうしようもないくらいに緊張した」と笑わせていた。客席はもちろんオールスタンディング、大きな拍手で二人はじめオーケストラと出演者全員を称えていた。

 

©宝塚歌劇支局プラス12月15日記 薮下哲司

 

 

星組新トップコンビ、紅ゆずる、綺咲愛里が初お目見得、「タカラヅカスペシャル2016」華やかに開催

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星組新トップコンビ、紅ゆずる、綺咲愛里が初お目見得、「タカラヅカスペシャル2016」華やかに開催

 

年に一度のタカラジェンヌの祭典、タカラヅカスペシャル2016「Music Succession to Next」(石田昌也監修、構成、演出、中村一徳、藤井大介構成、演出)が22、23の両日、大阪・梅田芸術劇場メインホールで開かれた。全国50カ所と台湾、香港でも生中継されたが今回はこの模様をお伝えしよう。

 

梅芸から目と鼻の先、TOHOシネマズ梅田でのライブ中継をのぞいたが、昨年は定員800のスクリーン1だったが、今年は二番目に大きいスクリーン2での上映。約500席は満席の盛況だった。今回は、雪組が東京公演中で欠場、花、月、星、宙と専科の選抜メンバー52人と宙組からは6人がコーラスで参加した。

 

内容的には、今年は小林公平元理事長の7回忌、宝塚のモーツァルトと言われた作曲家寺田瀧雄氏の17回忌、それに「エリザベート」初演20周年、くわえて来年がレビュー第一作「モン・パリ」初演90周年とメモリアルが重なって、恒例の各組コントはお休み。ひたすら歌でつづる2時間。顔ぶれ的には星組の紅ゆずる、綺咲愛里が新トップコンビとして初めて登場したのが話題で、それにともなって礼真琴が二番手に昇格、次いで七海ひろき。また月組も珠城りょうがトップとしてタカスぺ初登場、二番手、美弥るりか、次いで暁千星という現状のラインが示された。

 

オープニングは轟悠をセンターに全員がラインアップして「サ・セ・パリ」の大合唱から。次いで明日海りおはじめ4組トップが中心となっての「セ・シ・ボン」と続く。轟が「パダン・パダン」を歌い継ぐと、芹香斗亜はじめ各組2番手4人が「パリ・カナイユ」を軽快に。最後に客席降りで「New Century、Next Dream」を全員で歌って華やかにプロローグを締めくくった。轟を中心にトップ4人が残ってカーテン前でのMCとなったが、轟以外は一気に若返った感じ。朝夏まなとと紅が同期で、昨年の龍真咲と早霧せいなの同期トーク同様、大いに盛り上がったが、轟が寺田氏の17回忌を紹介して「寺田先生にお稽古をしてもらった人」といっても誰もいないことが分かり、これは隔世の感があった。

 

その寺田トリビュートコーナーは、専科勢の歌に合わせて各組若手男役がシャッフルして男女カップルで競演するという今回のタカスぺ最大の見せ場。専科の凪七瑠海の「セ・マニフィーク」から始まり、ダンスで絡む柚香光のお相手は朝美絢。沙央くらまの「アマール・アマール」は暁千星と瀬央ゆりあ、星条海斗の「そして、今」は愛月ひかると水美舞斗、華形ひかるの「DANCE WITH ME」は七海ひろきと桜木みなと、といった具合。凪七や沙央の歌がなかなか聴かせたが、ダンサーを追わないといけないし、これはなかなか酷な場面だった。朝美の女役は似合っていたがちょっとびっくりな女役さんもいて、これはご愛嬌。「愛の宝石」「TAKARAZUKA・オーレ」では客席降りもあり、近くで見たらぎょっとしたかも。最後は轟の「雨の凱旋門」そして全員で「いのち」でしめくくったが、改めて寺田メロディーの多彩さに感服。その前の今年を振り返る各組コーナーにも「仮面のロマネスク」や「バレンシアの熱い花」などの寺田メロディーがふくまれており、いまさらながら宝塚になくてはならない存在であることが強く印象付けられた。

 

第二部は、極め付け轟ルキーニの「キッチュ」から始まる「エリザベート」コーナーから。芹香、真風涼帆トートの「愛と死の輪舞」。娘役トップ4人が歌い継ぐ「私だけに」。紅、珠城トート×美弥、礼ルドルフによる「闇に広がる」。そして明日海、朝夏トートによる「最後のダンス」。これはもうそれぞれがバトルのような歌合戦だった。轟「キッチュ」は別格にして明日海、朝夏の「最後のダンス」はさすがに聴きごたえがあった。

 

あとは各組若手も参加、シャッフルして歌い継ぐスタンダード&ポップスメドレー、そして来るべき「モン・パリ」90周年に向けた「モン・パリ」メドレーでフィナーレとなった。ラストはもちろん「TAKARAZUKA FOREVER」を全員で。

 

スター勢ぞろいで華やか極まりないが、さすがに歌だけというのは単調で、特に後半がやや散漫だったが、凪七と仙名彩世や柚香と星風まどかの組み合わせなど、えっと思うコンビが見られたりして、タカスぺならではの楽しさにあふれた舞台だった。

 

本年も宝塚歌劇支局プラスをご愛読いただき、ありがとうございました。

来年もよろしくお願いします。

 

それでは、皆様、良いお年をお迎えください。

 

©宝塚歌劇支局プラス12月23日記 薮下哲司

 

作品賞は「るろうに剣心」主演男役賞は二年連続で早霧せいな! 「2016宝塚グランプリ」決定

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  ©宝塚歌劇団

 

作品賞は「るろうに剣心」主演男役賞は二年連続で早霧せいな!

「2016宝塚グランプリ」決定

 

毎日文化センター「宝塚歌劇講座」受講者のみなさんの投票による「2016宝塚グランプリ」が28日決まった。「宝塚グランプリ」もことしで3回目。お楽しみイベントとしてすっかり定着してきた感がある。今回から衣装デザイン賞や美術賞など裏方の賞も増設、さらに充実した賞に。今回は番外編としてこの結果をお伝えしよう。

 

 

2016宝塚グランプリ

 

最優秀作品賞

ミュージカル 雪組公演 浪漫活劇「るろうに剣心」(小池修一郎脚本、演出)

レビュー   雪組公演 ショーグルーブ「Greatest HITS!」(稲葉太地作、演出)

 

主演男役賞  早霧せいな(「るろうに剣心」「ローマの休日」「私立探偵ケイレブ・ハント」の演技に対して)

主演娘役賞  咲妃 みゆ(「ローマの休日」の演技に対して)

助演男役賞  真風 涼帆(「エリザベート」の演技に対して)

助演娘(女)役賞 美弥るりか(「アーサー王伝説」の演技に対して)

最優秀歌唱賞  望海 風斗(「ドン・ジュアン」の歌唱に対して)

最優秀ダンス賞 愛希れいか(「Forever LOVE‼」のダンスに対して)

最優秀新人賞  永久輝せあ(「るろうに剣心」「私立探偵ケイレブ・ハント」新人公演の演技に対して)

 

最優秀再演賞  花組公演「ME AND MY GIRL」(三木章雄脚本、演出)

        宙組公演「エリザベート」(小池修一郎潤色、演出、小柳奈穂子演出)

演出賞     小池修一郎(雪組公演「るろうに剣心」宙組公演「エリザベート」の演出に対して)

生田大和(宙組公演「シェイクスピア」雪組公演「ドン・ジュアン」の演出に対して)

主題歌賞   「不殺(ころさず)の誓い」(雪組公演「るろうに剣心」から)

        小池修一郎作詞、太田 健作曲

振付賞     謝 珠栄(星組公演「ロマンス‼」第6章「友情」の振付に対して)

衣装デザイン賞 有村 淳(月組公演「アーサー王伝説」の衣装に対して)

美術賞     大橋泰弘(雪組公演「るろうに剣心」の装置に対して

特別賞    香綾しずる(雪組公演「ドン・ジュアン」の亡霊役に対して)

 

選考経過

 

第三回目を迎えた「宝塚グランプリ」。今年は、雪組公演 浪漫活劇「るろうに剣心」が圧倒的な票数で断トツの1位となった。早霧せいなはじめ雪組メンバーの熱演もさながら和月伸宏氏の原作を見事に宝塚の舞台に乗せた小池修一郎氏の演出力が評価の対象になったようだ。次点は文豪の半生をみずみずしく描いた「シェイクスピア」僅差で稀代のプレーボーイの半生を描いたフレンチミュージカル「ドン・ジュアン」が続いた。名作映画の宝塚版「ローマの休日」星組・北翔海莉のサヨナラ公演となった「桜華に舞え」が2票ずつ、轟悠主演「リンカーン」月組・珠城りょうのトップ披露公演「アーサー王伝説」期待の作家、上田久美子氏の新作「金色の砂漠」が1票ずつを獲得した。

 

主演男役賞は昨年「ルパン三世」「星逢一夜」の好演で選ばれた早霧が、星組の北翔海莉と接戦の末、「るろう―」「ローマの休日」と作品に恵まれ2票差で二年連続の受賞。男役として絶好調の今、来年7月末退団を発表したが、これもタカラジェンヌの宿命。残された時間、最後の男役を存分に楽しんでほしい。続いて娘役賞も宙組の実咲凛音とバトルの末、雪組の咲妃みゆの二年連続受賞となった。エリザベート皇妃vsアン王女の対決だったが架空のプリンセスに軍配というところ。星組の妃海風がこの二人に肉薄、花組の花乃まりあ、月組の愛希れいかが同票で続いた。

 

助演賞は男役が宙組公演「エリザベート」でフランツ・ヨーゼフの半生を見事に演じ切った真風涼帆が他を引き離して文句なしの受賞、「桜華に舞え」の西郷隆盛役を熱演した専科の美城れんがこれに続き、「こうもり」「桜華に舞え」の紅ゆずる、「るろうに剣心」の月城かなとなどに票が集まった。娘(女)役は、「アーサー王伝説」で男役ながら魔女モーガンを妖しくも美しく鮮やかに見せた美弥るりかが確実に票を集めてトップ。「ME AND MY GIRL」のマリア侯爵夫人をダブルキャストで好演した仙名彩世、桜咲彩花を引き離した。「ME―」からはジャッキーを好演した鳳月杏にも票が入った。

 

歌唱賞は「ドン・ジュアン」の望海風斗が圧倒的高得票で断トツ。「こうもり」「桜華に舞え」で実力的には決して引けを取らない北翔にも票が集まったが、残念ながら届かなかった。娘役では「シェイクスピア」の専科、美穂圭子が最高得票だった。一方、ダンス賞は月組の愛希れいかが二年連続受賞。「Forever LOVE」での切れのある大きなダンスが魅了した。次点は「HOT EYES」のソロのダンスが印象的だった朝夏まなと。

 

注目の新人賞は「るろうに剣心」「私立探偵ケイレブ・ハント」と2回の新人公演で好演した雪組の美形男役ホープ、永久輝せあが、まんべんなく票を集めて受賞した。「ルパン三世」が新人公演初主演だったが、今年は本公演でも大きな役がつき、男役としてますます磨きがかかってきた。さらなる活躍を期待したい。次点は「るろうに剣心」の弥彦少年、「ドン・ジュアン」で個性的なヒロインを好演した彩みちる。これに星組の天華えま、花組の綺城ひか理の2人が同点で続いた。ついで宙組の瑠風輝。娘役では宙組の星風まどかにも票が集まった。

再演賞は、初演20周年を迎えて再演された宙組の「エリザベート」と9年ぶりに大劇場に登場した花組「ME AND MY GIRL」が同点で並んだ。この賞は「エリザ」のぶっちぎりになるかと思ったのだが棄権が多く、そうならなかったのが意外だった。「エリザ」の成果への物足りなさか、王道ミュージカルとしての「ME―」の良さが見直されたのか、なかなか興味深い結果となった。

 

演出賞も「るろうに剣心」「エリザベート」の巨匠小池修一郎氏と「シェイクスピア」「ドン・ジュアン」の若手ホープ、生田大和氏が同点で分け合った。ここは素直に若い生田氏の健闘を称えたい。来年は「グランド・ホテル」の演出も担当、今後の活躍が楽しみだ。星組「The entertainer」で大劇場デビューした野口幸作氏も高得点。「金色の砂漠」の上田久美子、「ローマの休日」の田渕大輔、「ヴァンパイア・サクセション」「アーサー王伝説」のベテラン・石田昌也と続いた。

 

主題歌賞は「シェイクスピア」「金色の砂漠」「The entertainer」を抑えて「るろうに剣心」の「不殺の誓い」が選ばれた。この曲は涼風真世がカバー、CDを発売している。振付は謝珠栄氏が振り付けた「ロマンス‼」の「友情」が圧倒的な支持で受賞した、北翔の退団を惜しみ、組のメンバーとの友情と別れを、ネオンサインの照明とともにスタイリッシュに振り付けた場面で、さよならにありがちな湿っぽい雰囲気ではなく、非常に心地よい場面だった。これは納得の選定だった。

 

衣装デザインは「アーサー王伝説」の魔女モーガンのドレスに代表される個性的な衣装をデザインした有村淳氏に。有村氏はほかにも「るろうに剣心」など多くの作品があるが「アーサー王」での受賞。装置などの美術は「るろうに剣心」の大橋泰弘氏に輝いた。冒頭の早霧剣心の剣さばきで竹林がばさばさと美しく倒れる装置は特に印象的だった。

 

そして、特別賞には雪組公演「ドン・ジュアン」で終始、銀色のメイクで亡霊役に挑戦した雪組の香綾しずるの果敢な挑戦に惜しみない称賛が。今年の最高得点での受賞となった。ほかに北翔海莉の組の統率力に対して、またバウシンギングワークショップの企画に対して特別賞をという声があったことも付け加えたい。

 

結局、終わってみれば今年も絶好調雪組のパワーが全面にあらわれた結果となった。2017年は何組が、どんな作品が登場、そして誰が活躍してくれるのだろうか。次々にスターが現れる宝塚ならではの新たな魅力を存分に楽しみたい。では、皆さん今度こそ本当に良いお年を。来年は「グランド・ホテル」の公演評からスタートします。お楽しみに。

 

©宝塚歌劇支局プラス12月29日記 薮下哲司

 

 

 

★参考記録★ 

2015宝塚グランプリ

最優秀作品賞
ミュージカル 雪組公演「星逢一夜」(上田久美子作、演出)
レビュー   花組公演「宝塚幻想曲」(稲葉太地作、演出)
主演男役賞  早霧せいな(「ルパン三世」「星逢一夜」の演技に対して)
主演娘役賞  咲妃みゆ(「星逢一夜」の演技に対して)
助演男役賞  望海風斗(「星逢一夜」の演技に対して)
助演娘(女)役賞 純矢ちとせ(「TOPHAT」「相続人の肖像」の演技に対して)
最優秀歌唱賞 望海風斗(「アル・カポネ」ほかの歌唱に対して)
最優秀ダンス賞 愛希れいか(「GOLDENJAZZ」のダンスに対して)
最優秀新人賞  水美舞斗(「カリスタの海に抱かれて」「新源氏物語」新人公演の演技に対して) 
最優秀再演賞 該当なし
最優秀演出賞 上田久美子(「星逢一夜」の成果に対して)
       稲葉太地(「宝塚幻想曲」の成果に対して)
最優秀主題歌賞 「ルパン三世のテーマ」(大野雄二作曲、青木朝子編曲)
最優秀振付賞 KAORIalive(「1789」二幕冒頭の群舞の成果に対して)
特別功労賞 柚希礼音(6年間のトップとしての多大な貢献度に対して)

月組新トップ、珠城りょう大劇場お披露目公演「グランドホテル」開幕

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      ©宝塚歌劇団

 

月組新トップ、珠城りょう大劇場お披露目公演「グランドホテル」開幕

 

月組の新トップスター、珠城りょうのお披露目公演、ザ・ミュージカル「グランドホテル」(トミー・チューン特別監修、岡田敬二演出、生田大和演出)とモン・パリ誕生90周年レヴュー・ロマン「カル―セル輪舞曲(ロンド)」(稲葉太地作、演出)が、元日から宝塚大劇場で開幕した。トミー・チューン氏はじめ涼風真世、麻乃佳世ら「グランドホテル」初演メンバーも客席で見守った初日の模様をお伝えしよう。

 

「グランドホテル」は、1932年、グレタ・ガルボはじめ当時のMGM専属スターのオールスターキャストで製作された大作映画。 さまざまな登場人物を同時進行で描くスタイルをとっており、この映画の成功以来、空港や駅などを背景にこの手の作品が数多く作られ「グランドホテル」形式と呼ばれるきっかけになった。舞台化もされたが、これを1989年、トミー・チューンがミュージカル化、トニー賞を受賞するヒット作になった。日本でも松竹によって新橋演舞場と京都南座でツアー版が上演されたが、1993年に宝塚が、トミー・チューン氏を演出に迎えて涼風を中心にした翻訳版を月組で初演、以来24年ぶりの再演となった。

 

宝塚版は2時間10分あるオリジナル版を30分短縮するため、初演はトップスターの涼風が演じた簿記係のオットー・クリンゲラインを中心にしたバージョンが上演されたが、今回は珠城りょうを貴族とは名ばかりで文無しの泥棒、フェリックス・フォン・ガイゲルン男爵に配し、愛希れいか扮する往年のプリマバレリーナ、グルーシンスカヤとの一日だけの恋を中心にした新バージョンとなった。トミー・チューン氏と生田氏の細かい打ち合わせで、オリジナルにはない二人の場面が新たに作られ、新トップコンビ披露にふさわしい華やかさと共に、もともとこの作品が持っている密度の濃い演劇性がうまくブレンドされ、新年早々、非常にクオリティーの高い公演となった。バレリーナ役に扮した愛希が素晴らしくて、彼女に助けられたとはいえ、珠城は男爵としての凛としたかっこよさを陰のある雰囲気をにじませて好演、トップとして幸先のいいスタートを切った。

 

舞台は「グランドホテルにようこそ」という案内嬢のアナウンスから始まり、電話交換手やベルボーイの声が交錯する中、中央の回転扉から帽子を目深にかぶった紳士が舞台前方に歩みより、帽子をさっととるとそれが珠城扮するフェリックス。主題歌を歌いだし、登場人物が全員登場する「グランドパレード」に展開していく。涼風から珠城に代わっただけで初演と同じプロローグ、懐かしさがこみあげる。

 

1928年のベルリン。第二次世界大戦の火種がふつふつと起こり始めていたころの激動の時代の冬のある一日。超一流のグランドホテルには、公演中のグルーシンスカヤ(愛希)はじめ付き人のラファエル(暁千星)、億万長者の実業家プライジング(華形ひかる)、タイピストのフラムシェン(早乙女わかば)、老医師オッテルンシュラーグ(夏美よう)らが宿泊していた。「今夜は踊れない」というグルーシンスカヤを興行主サンダー(綾月せり)とマネージャーのウィット(光月るう)がなだめていると、そこにフェリックス(珠城)が通りがかり、グルーシンスカヤの美しさに圧倒される。この二人の出会いの場面を印象的に演出、そのあとの展開の伏線になっている。

 

一方、余命数カ月と宣告された簿記係のクリンゲライン(美弥るりか)が一生の思い出に宿泊するためフロントにやってくる。しかし、そのあまりにみすぼらしい風体にホテルの支配人(輝月ゆうま)から断られてしまう。倒れかかったクリンゲラインにガイゲルンが助け舟をだし、無事、宿泊することができる。

 

フェリックスとグルーシンスカヤ、そしてクリンゲラインとフラムシェン、この4人に展開をしぼり、凝縮したストーリーにしたことで、たった一日の話のなかで、それぞれのはかない人生が浮き彫りにされ、感動的な舞台となった。

 

フェリックスがグルーシンスカヤの部屋にネックレスを奪うために忍び込み、公演をキャンセルしたグルーシンスカヤと鉢合わせして恋に落ちる場面の珠城と愛希の演技の間合いが見事で、初演にはなかった愛希グルーシンスカヤのソロも感情がこもり素晴らしかった。一方、フェリックスが、プライジングの部屋に忍び込み、犯されそうになったフラムシェンを助けたことからもみあいになって撃たれてしまう場面も、幻想シーンを新たに挿入、フェリックスの切ない心情が滲みでたいい場面だった。ラストもひとひねりしてあって、なかなかしゃれたエンディングだった。そしていったん幕がおりたあと、再びあがって全員勢ぞろいしてのカーテンコールがあるのも、なんだかほのぼのとして後味がよかった。

 

珠城は、文無しだが人のいい男爵を、素直な演技でストレートに演じた。もう少しやさぐれた感じが出ればさらに大人な感じが出るのだが、誠実で人の好さをかなり前面に出していてプレイボーイという感覚を抑え気味だったのがやや物足りなかったが、立ち姿の美しさと安定感のある歌唱で全体的には好印象だった。

 

相手役の愛希は、最盛期を過ぎたプリマバレリーナで、フェリックスに年齢を聞かれて「39歳と39カ月」と答える場面があるなどかなりの難役だが、バレリーナらしい背筋をピンと張った立ち姿と、凛とした表情がとにかく素晴らしかった。

 

クリンゲラインの美弥も役が乗り移ったかのような力演。初演を何度も見ていて、憧れの役だったというだけあって、渾身の演技と歌、それにバーのダンスは見事というほかなく、ラストはあまりにそっくりで初演の涼風を思わず思い出してしまったほどだった。

 

フラムシェンは海乃美月とダブルキャストで初日は早乙女わかばが演じたが、女優志願のタイピストという夢々しい雰囲気を巧みに表現、一方、彼女を雇うことにしたプライジングにふんした華形も品を崩さずに男のいやらしさを体現、久々の大劇場公演を楽しんでいる感じ。

 

グルーシンスカヤの付き人ラファエルに扮した暁は、ボブカットの髪型で女役に挑戦したが、大人の女性のちょっと妖しい雰囲気を出すのにはまだ少々無理があったよう。しかし、歌の成長ぶりには目を見張った。

 

その暁とダブルキャストの朝美絢は、妻がお産で入院しているのに仕事のために立ち会ってやれないフロント係のエリック役。制服に眼鏡をかけてのさわやかな熱演だった。ほかにフェリックスを脅迫する運転手役の宇月颯や興行主サンダーの綾月などが印象的。アンサンブルメンバーが踊る「チャールストン」などのスタイリッシュな群舞も宝塚ならではの大人数で、しかもピタッと決まっていて心地よかった。小道具として重要な椅子の出し入れもすべてアンサンブルメンバーの仕事になっていて、一糸乱れず要領よく片付けていくのもみどころのひとつだった。

 

一方「カルーセル―」はモン・パリ誕生90周年と銘打った絢爛豪華なレヴューで、プロローグは星空のなかに宙に浮いた4頭の回転木馬が舞台に淡い照明にたたずんでおり、その幻想的な雰囲気に客席からは思わず歓声があがったほど。水先案内人の華形の誘いによって、「モン・パリ」のふるさと「パリ」を皮切りにその白馬たちが世界一周の旅に出発するという設定でレヴューが始まる。オープニングはその白馬の王子に扮した珠城が登場、白馬の紳士たちとともに華やかに歌とダンスを繰り広げる。パリのあとはニューヨーク。暁を中心とした汽車のラインダンスのあとはメキシコへ。黒のスーツに縫い付けた赤いスカーフで踊る激しいダンスが印象的。続く中詰はブラジル。「ノバ・ボサ・ノバ」を思わせるカーニバルの狂騒が展開、色の洪水というべきカラフルな祝祭へと発展していく。ここは森陽子氏の振付場面。あのカポエイラも登場して熱気むんむんの場面となった。

 

続いて美弥を中心としたシルクロードの場面、珠城、愛希を中心としたインド洋の場面と続き、はつらつとしたラインダンス、そして終着駅は宝塚。黒燕尾の紳士たちと白いドレスの淑女たちが「モン・パリ」に乗せて踊り、珠城、愛希のデュエットダンスへと展開していく。大階段から始まる黒燕尾の男役の群舞が娘役を交えての優雅なナンバーに発展していくのは久しく見たことがなかったので新鮮だった。水先案内人に扮した専科の華形の出番も多かったが、白馬の王子に扮した珠城がシルクロードとラインダンス以外の全場面に登場、愛希との息の合ったデュエットダンスはじめお披露目らしい大車輪の活躍で、歌にダンスに魅力全開。新トップ珠城を印象付けた。

 

終演後、舞台から憧花ゆりのが、客席のトミー・チューン氏と涼風、麻乃を紹介、涼風が立ち上がって「ブラボー!」と声援を送っていた。涼風はこのあと「すごくよかった。感動した」と後輩の「グランドホテル」をほめちぎっていた。満員の客席のファンも総立ちで新トップの船出を祝福。珠城も「初日なのに千秋楽みたい」と大感激だった。

 

©宝塚歌劇支局プラス1月3日 薮下哲司記

 


七海ひろき、軍師竹中半兵衛を熱演、星組バウ公演「燃ゆる風」開幕

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 ©宝塚歌劇団

 

 

七海ひろき、軍師竹中半兵衛を熱演、星組バウ公演「燃ゆる風」開幕

 

星組の人気男役スター、七海ひろき単独初主演によるバウ・戦国ロマン「燃ゆる風」―軍師・竹中半兵衛―(鈴木圭作、演出)が12日から宝塚バウホールで開幕した。今回はこの模様をお伝えしよう。

 

甘いマスクで宙組時代から注目を浴び、星組に組替えしてからは演技派として着実に地歩を固めてきた七海の入団14年目にして待望の単独初主演作は、類まれな智略を持ち秀吉を陰で支え、若くして病で亡くなった戦国武将、竹中半兵衛の半生を描いた時代ロマン。「戦国BASARA」以来久々の登板となった鈴木氏が戦乱の世を背景に、単なるアクション時代劇に終わらせず七海にぴったりな人情味豊かなヒューマンドラマに仕立て上げた。

 

幕開きは、尾張(現愛知県)の城で織田信長(麻央侑希)が思わしくない戦況にいら立っている場面から始まる。登場から麻央が直情的な信長の雰囲気をよく出していて一気に戦国の世にタイムスリップする。信長は、美濃(現岐阜県)の稲葉城攻略に手を焼いていたのだ。が、そんな信長のもとに稲葉城主、斎藤龍興の家臣が謀反を起こし、城を乗っ取ったという知らせが入る。その男、竹中半兵衛(七海)に興味をもった信長は、さっそく木下藤吉郎(悠真倫)を竹中のもとに向かわせる。ここまでが序幕。場面変わって真っ赤な衣装を着た戦火のコロスたちの中央から甲冑姿の七海がかっこよくさっそうと登場。主題歌を歌うと出演者勢ぞろいしての華やかなプロローグとなる。

 

織田方についてくれと頼む藤吉郎の誘いをかたくなに拒んでいた半兵衛だったが「民百姓が平和に暮らせる世を作ることこそ武士の務め」という藤吉郎の言葉に、半兵衛は藤吉郎の下で働くことを条件に織田方につく決意を固め、さっそくさまざまな攻略の知恵を進言する。信長や藤吉郎といった個性のきつい人物のなかで、時代の先を読むことができる聡明な半兵衛を七海が、巧まずして自然体で演じ、ストーリーを進めていく。カリスマ性たっぷりの麻央の信長、絶妙な巧さの悠真の藤吉郎(秀吉)の個性があまりにも際立ち、時にはこの二人の話かと思わせる部分もあるが、前半に半兵衛を慕う部下、三郎太(天華えま)との戦場での涙の別れ、後半には盟友、黒田官兵衛(天寿光希)とその長男、松寿(天彩峰里)との心温まるエピソードをからませ、「命の使い道」をテーマに半兵衛の人間味をたっぷり描き、感動的なドラマを展開させる。

 

半兵衛は、志半ばで病に倒れ、戦場でなくなってしまうのだが、その遺志を継いだ妻のいね(真彩希帆)が信長の妻、濃姫(音波みのり)に進言するくだりも、濃姫といねの関係をドラマチックに浮かび上がらせるなど次々に泣かせ場を用意して、最後まで客席を涙の洪水で満たした。

 

七海は、歌や台詞のトーンがやや高すぎて武将というには軽い感じがするが、立ち姿は凛々しく、甲冑もよく似合ってなかなかかっこよかった。知略にたけ、先読みができるというと普通は寄り付きがたいイメージがつきまとうが、七海半兵衛は、誰からも好かれるタイプという造形で終始さわやか。信長や秀吉に一目置かれていた独特の雰囲気を巧みにかもしだしていた。

 

相手役のいねを演じた真彩はこれが星組最後の公演。日本物の所作がきちんとできているほか、歌唱が抜きんでてうまくて、安心して見ていられた。前半は半兵衛の影に隠れてあまり出番がなかったのだが、半兵衛が亡くなってから濃姫との対面シーンで本領を発揮。これからの新天地での活躍が大いに楽しみだ。

 

藤吉郎(秀吉)役の悠真は、さすが演技派としかいいようのない見事な秀吉。天真爛漫で人が良く、それでいて何か大きなものを予感させる雰囲気を鮮やかに体現、早くも今年の助演男役賞最右翼的存在になったといって過言ではない。

 

信長役の麻央も、すべての武将をひきつけ、震え上がらせるカリスマ性を、その恵まれた長身と押し出しで巧みに表現。このドラマの要ともいうべき信長をそのパワーと迫力でみせつけた。つい先ごろ龍真咲の信長を見たばかりだが遜色ないできばえ。なかでも悠真秀吉とのからみでの腹芸がなかなか、役だけでなくスターとしてのスケール感さえ感じさせた。

 

信長をめぐる武将たちは黒田官兵衛が天寿光希、丹羽長秀が大輝真琴、柴田勝家が輝咲玲央、織田信忠が紫藤りゅう、明智光秀が音咲いつき、荒木村重が桃堂純といった面々。

役としてはやはり天寿が演じた黒田がいろんな意味でドラマに絡む重要な役。実力派の天寿が役どころをきっちりとこなして印象的だった。石山本願寺との交渉に失敗、信長の不興を買う荒木に扮した桃堂も無念さがにじみでた好演。

 

儲け役は天華が演じた、半兵衛を慕って一緒に藤吉郎の部下になる三郎太役。少年時代からのエピソードもあり、半兵衛の身代わりとなって戦場の露となるくだりは前半の大きな見せ場。天華は台詞の口跡がよく、青年のピュアな心情をよく出した。本来は娘役だが黒田官兵衛の長男、松寿を演じた天彩峰里の純真な演技も心に残った。

 

 

女性陣は秀吉の妻、ねねが万里柚美。信長の正室、濃姫に音波。官兵衛の正室、光に紫月音寧。それぞれ見せ場があって好演だが、後半に見せ場のある濃姫の音波の品格のある凛とした演技がやはり最も印象が強かった。

 

吉田優子作曲による主題歌が単純なメロディーだが耳に心地よく、何度も繰り返されるので、帰り道にはすっかり覚えて口ずさめるほど。最近こういう主題歌がなかったので逆に新鮮だった。七海半兵衛の凛々しさはもちろん悠真秀吉の絶妙の演技とともに記憶される公演となりそうだ。

 

©宝塚歌劇支局プラス1月14日記 薮下哲司

 

 

 

夢奈瑠音、風間柚乃 鮮烈デビュー!月組公演「グランドホテル」新人公演

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夢奈瑠音、風間柚乃 鮮烈デビュー!月組公演「グランドホテル」新人公演

 

24年ぶりの再演となった月組公演、ザ・ミュージカル「グランドホテル」(岡田敬二、生田大和演出)の新人公演(竹田悠一郎担当)が17日、宝塚大劇場で行われた。今回はこの模様をお伝えしよう。

 

本公演は月組の誇る若き新トップ、珠城りょうの大劇場お披露目公演とあって、初演では久世星佳が演じた貴族とは名ばかりの文無しの男爵フェリックスを、大きくふくらませてトップにふさわしい役に作り替え、それが宝塚の舞台に見事にフィットして、素晴らしい舞台に甦った。初演は「エリザベート」初演の3年前、ブロードウェーミュージカルを宝塚風に作り替えることなど恐れ多くて言いだせなかった時代だ。「エリザベート」が大ヒットしたことで、そのあたりの常識を覆し、いまや宝塚風に作り替えることを条件に版権を取得するという宝塚主導型になってきているのだから、時代も変わったものだ。それがいいことか悪いことかは別にして、宝塚の特徴をさらに際立たせる結果になったことだけは確実で、いまの繁栄につながっているのだと思う。

 

それはともかく今回、男爵とグルーシンスカヤをメーンにした宝塚化によって、たとえば、クリンゲラインが予約は取れているのに追い出されようとしたのは身なりではなくユダヤ人差別であることとか、翌年には大恐慌が起きてプライジング社長以下株に投資した人々すべてが無一文になることなどが分かっていて、いずれ起こる世界大戦を前にしたはかなき群像劇というこの作品が持つ時代性が、華やかに脚色したことによって逆に遠くではあるがより明確に浮かび上がったのは見事だった。

 

それは新人公演を見ても明らかだった。研7にして初主演となった夢奈瑠音は、前回の「信長」で明智光秀役を好演、男役としては非常にいい資質をもっており、さらなる活躍が期待されていた矢先の大抜擢。その期待に十分に応えたのは見事だった。登場シーンの真っ白いマント姿で舞台中央に進み、目深にかぶったソフト帽をさっと脱いだ時の目力の強烈なインパクト。まさに星が飛ぶという伝説通り、これぞ宝塚の男役の美学の真髄だろう。貴族の品とちょっぴりだらしない弱さの中に根っからの優しさがのぞく、若さと老獪さが同居するこの難しい役を、やや若さが勝っているように見えたものの本役の珠城りょうからうまく受け継ぎ、自分のものにしていたのはなかなかだった。真っ赤なバラをもって歌うソロの場面からボレロへと続く最大の見せ場も破たんなく立派に見せきったのは大金星だった。

 

相手役のグルーシンスカヤを演じたのは、本公演で秘書フラムシェンを演じている海乃美月。すでに何度かヒロイン役も演じており、初主演の夢奈とこの役をコンビで組むのが必然とも思える絶妙のバランス。本役の愛希れいかをなぞりながら、グルーシンスカヤのエキセントリックな感情を丁寧な演技で見せ、演技派らしい本領を発揮した。

 

しかし、この公演での一番の衝撃は、二番手の役であるオットー(美弥るりか)を演じた風間柚乃だろう。研3という若さで新人公演デビュー、しかもこの難役である。しかし、この見事さはどうだろう。大和悠河を思わせる端正なマスクを眼鏡とぼさぼさの髪型で隠し、そんなに低くないはずの背丈を思いきり小さく見せながら、その確実なダンス力と演技力で鮮烈な印象を残した。歌唱も難曲をクリア、末恐ろしい大器の登場だ。故夏目雅子さんの姪ということなどどこかに飛んでしまうほどの素晴らしさだった。そういえば初演の新人公演のオットーは汐風幸だったなあ、彼女もよかったなあと思いだしてしまった。

 

フラムシェン(海乃/早乙女わかば)は結愛(ゆい)かれん。キュートな雰囲気はとてもよくつかんでいて、メイクも自然で演技もとてもよかったが、このメンバーのなかでは歌が不安定でやや弱い印象。

 

それ以外で特筆したいのはグルーシンスカヤの付き人ラファエラ役(本公演は暁千星と朝美絢)の蓮つかさだった。ボブスタイルの髪型がよく似合い、外見的にも妖しい雰囲気があってそれだけでも高得点だったのだが、歌、芝居がさらにしっかりしていて感服した。

次回は主役の舞台を期待したい。

 

 あと主要な役どころとしてはプライジング社長(華形ひかる)が春海ゆう。ドクター(夏美よう)が颯希有翔。フロント係のエリック(朝美絢・暁千星)が礼華はる。男爵を脅迫する運転手(宇月颯)が輝生かなで。春海、颯希の芝居心のある演技が舞台を支え、礼華はその長身の立ち姿が美しく、制服姿でもひときわ見惚れた。輝生の威圧的で押し出しのある演技もインパクトがあった。本公演でエリックとラファエラを演じた暁千星はドアマンに回り真っ赤なコート姿で印象的。ほかにホテルの掃除担当マダム・ピーピー(夏月都)を演じた桃歌雪が個性的な演技でひときわ目立っていたのも特筆したい。アンサンブルのダンスもよくそろっており、かなりレベルの高い公演だった。

 

©宝塚歌劇支局プラス1月19日記 薮下哲司

 

紅ゆずる、綺咲愛里、新トップコンビ披露「オーム・シャンティ・オーム」前トップ北翔海莉も応援!

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紅ゆずる、綺咲愛里、新トップコンビ披露「オーム・シャンティ・オーム」前トップ、北翔海莉も応援にかけつけ熱い千秋楽

 

星組の新トップコンビ、紅ゆずる、綺咲愛里の披露公演、マサラ・ミュージカル「オーム・シャンティ・オーム」~恋する輪廻~(小柳奈穂子脚本、演出)が、18日、東京国際フォーラムホールCで前トップ、北翔海莉が見守る中、千秋楽を迎えた。今回はこの模様をお伝えしよう。

 

千秋楽の直前に7月22日から梅田芸術劇場メインホールでの再演が発表され、出演者のノリも最高潮となった千秋楽。連日、さまざまなOGやジェンヌが駆けつける中、この日昼の部についに前トップ、北翔が応援にやってきた。しかも2階後方での観劇、いかにも北翔らしい気遣いだが、カーテンコールで紅が「北翔さん!」と呼びかけると「おめでとう!」と大声で祝福。紅は「北翔さんは二階上手にいらっしゃいます」と手を振り「北翔さんに教たことを大切にしてこれからの公演を務めていきます」と挨拶して、満員のファンから大きな拍手を浴びていた。

 

さて、披露公演となった「オーム―」は、2007年の同名インド映画の舞台版。人気女優シャンティ(綺咲)に憧れるエキストラ俳優のオーム(紅)は何とか共演のチャンスをつかもうと必死だったが、ある日、プロデューサー、ムケーシュ(礼真琴)が、シャンティを殺害するために放った火災の現場に居合わせ、彼女を助けようとして大スター、カプール(壱城あずさ)の運転する車にはねられて絶命する。30年後、火災の日に生まれたカプールの息子、オーム(紅2役)は大スターになっていたが、なんとそれは死んだオームの生まれ変わりだった。インド映画らしい輪廻転生のストーリーで、まあいえば何でもありだが、インド映画らしい華やかな群舞シーンをふんだんに挿入しながら、年月を超えたラブストーリーが展開する。何しろ衣装が脇に至るまで超カラフルで「グランドホテル」を見た後では、これが同じ劇団の作品かと見まごうばかりだ。

 

インドは階級社会で、生まれによって人生すべて決まってしまうような国だが、映画界も同じらしい。紅は、前半は代々エキストラしかできない庶民的な家庭に育ったオーム、後半は代々主役を演じるスターの家庭に育ったオームを、振り幅大きくオーバーに演じ分け、シリアスな役柄よりもこういう役柄の方が断然似合うこともあって、披露公演とは思えないほどのびのびとしていて、見ていても思わず頬がほころぶ。

 

相手役の綺咲も前半は人気女優、後半はオームに憧れる女優志願の少女をいかにもインド人女性という感じの濃いメイクで楽しそうに演じ分けた。後半の女優志願のシャンティが、芝居の稽古をするくだりで全然できないところなど大いに笑わせてくれた。歌唱は紅ともども音程が不安定で、本来なら聞いていてフラストレーションがたまるところだが、あまり気にならなかったのは芝居の明るさにもよるようだ。

 

オームとシャンティの運命を狂わす存在、ムケーシュに扮した礼は、この作品で唯一の濃い悪役。黒いサングラスで格好をつけ、出てきただけで黒い雰囲気が漂う。思わず笑ってしまうほどの作りだが、歌の巧さは一番で、聴かせて見せる。礼にとっても新境地開拓になったようだ。

 

あと、星組期待の若手、瀬央ゆりあは、オームの親友で何かとオームの世話を焼くパップー役。特にこれといって見せ場はないのだが、常にオームのそばにいる相棒的な役どころで、いかにもこれからの人といった若々しさが清新だった。脇役ではオームの母親役を演じた美稀千種の達者さが舞台を締めた。

 

なお夏の梅芸再演では、礼が出演しないのでムケーシュ役が役替わりになることが決まっており、この役に誰が入るか注目となりそうだ。

 

©宝塚歌劇支局プラス1月19日記 薮下哲司

実咲凜音ラストステージ、宙組公演「王妃の館」「VIVA!FESTA」開幕! 大爆笑の嵐!

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 ©宝塚歌劇団
 
 

実咲凜音ラストステージ、宙組公演「王妃の館」「VIVA!FESTA」開幕!

愛月のベタな大阪弁、蒼羽の女装おかま役に場内大爆笑

 

宙組の娘役トップスター、実咲凜音のサヨナラ公演となったミュージカル・コメディ「王妃の館」(田淵大輔脚本、演出)とスーパー・レビュー「VIVA!FESTA!」(中村暁作、演出)が3日、宝塚大劇場で開幕した。今回はこの模様をお伝えしよう。

 

プロローグから客席からドカンドカンと笑い声が炸裂した。「王妃の館」は久々の爆笑コメディーだった。お話は、朝夏まなと扮する流行作家、北白川右京が、経営難の弱小旅行会社が企画したパリの高級ホテル「王妃の館」に宿泊する高額の光ツアーに参加、成田から出発するところから始まる。ところがこのツアー、なんと光ツアーと格安の影ツアーと二組のツアーを同時に同じホテルに宿泊させるというとんでもないダブルブッキングツアーであることがわかりてんやわんやの大騒動が繰り広げられる。浅田次郎氏の原作と同じ設定だが、この有り得ない設定がまず何とも滑稽、だがそれで笑わせるのではなくどちらかというと出演者それぞれのとんでもないキャラクターで笑わせる。宝塚歌劇というよりは吉本新喜劇のノリだ。

 

いくら何でもとこれはだめだろうと思っていたら、「王妃の館」を建立した太陽王ことルイ14世の亡霊が登場、ルイ14世と愛人ディアナの悲劇が浮き上がってくる。もちろんこれが原作でも肝なのだが、このあたりから、ようやく宝塚歌劇らしくなってくる。しかし、これも最初はあくまでコメディリリーフ的な登場で大いに笑わせ、ラストにそれまで別々に進行していた話がシンクロして心温まる大団円に到達する。最初はあきれながら見ていたが、着地はまずまずだった。最初にこの原作の舞台化を聞いた時、水谷豊主演の映画版がとんでもない駄作だったのでちょっとびっくりしたのだが、ルイ14世のくだりをうまく絡めれば宝塚なら意外と面白くなるかもとも思ったのも事実。これが大劇場デビューとなった田渕大輔氏の脚本は、ホテルでのダブルブッキングのドタバタはさらりと流し、ルイ14世のくだりで意外な展開を見せ、終わってみたらまさに喜劇の王道になっていたのはお手柄だった。シックでおしゃれな「グランドホテル」の後だから、何とも軽いのは否めないが、客席は大いに沸いていた。ただ、初日は満席ではなかったところに、観客の演目への期待度が現れているようで選択のシビアさをうかがわせた。好みは人それぞれだが口コミで面白さが拡散していくことを望みたい。

 

トップの朝夏の北白川右京は、新作「ベルサイユの百合」の構想を練るためにこのツアーに参加したが、わがままで高飛車な鼻持ちならない青年という設定。派手なスーツを着込み、インスピレーションがわくと急に体をくねらせる仕草が、おかしくて客席は大爆笑の連続。朝夏としても、これまであまり見たことがない役どころだが、結構楽しげにオーバーに演じ、それでいて男役としてのかっこよさも失わず、そのバランス感覚が絶妙だった。

 

サヨナラ公演となった実咲は、ツアー会社の社長で光ツアーを自ら引率する桜井玲子役。清楚でおとなしい役のイメージがあって、そんな役ばかりが続いていた感があったが、この実咲を見てドラマシティ公演「カナリア」を思い出した。こんな一面もあったんだという感覚。自然体でしかしきっちりとした演技はさすが実力派。普通のヒロイン役ではないので、作りにくかっただろうと思うが、彼女のラストステージを気遣ってラストはきちんとハッピーエンドを予感させてあり、かなり強引ではあるが気持ちよくみられた。

 

光グループは朝夏以外に、北白川の編集者、早見に純矢ちとせ。電気部品工場の社長夫妻に寿つかさと美風舞良、不動産王の金沢に愛月ひかる、その愛人ミチルに星風まどか。それぞれ一物ある人物たちだが、ガラの悪い大阪弁丸出しの愛月がその一言ずつに笑いを取り、宝塚を吉本化した張本人!星風のいつものおすまし顔を払しょくしたはっちゃけたギャル演技にも仰天。

 

影グループは元夜間高校の教師夫妻に一樹千尋と花音舞。うさんくさい詐欺師夫婦に凜城きらと彩花まり、一人で参加した警官の金沢に澄輝さやと。金沢と同室になる女装おかまの青年、クレヨンに蒼羽りくというめんめん。こちらもそれぞれにきちんと見せ場があって面白いが、ここで際立ったのはやはり蒼羽の女装。男性が女装しているという設定なので、なんともおかしくて、場内は一挙手一投足に笑いが起きた。澄輝とのすみれコードぎりぎりの珍妙なやりとりは、宝塚の舞台とは思えないが、まあ時代も変わったなあという印象。ラストのハッピーエンド?に観客大拍手だった。その蒼羽だが、プロポーション抜群で女装もキュートで思いのほか美しく、吹っ切れた演技で楽しげに演じて場をさらった。

 

この影ツアーを引率する戸川役は桜木みなと。ダブルブッキングをさとられないように影ツアーの面々をけむに巻こうとするのだがすぐにばれてしまう。原作では玲子とただならぬ関係だったと記憶しているが、舞台版は頼りない部下という設定。眼鏡をかけて小心者らしい感じをさわやかに表現。ほかにパリの現地ガイド、ピエール役の和希そら、キャバレーの歌手の風間翔と役が多いのも特徴だ。

 

一方、ルイ14世の亡霊を演じたのは真風涼帆。自分の館で、見知らぬ日本人が大騒動するさまを見るに見かねて肖像画から現代に飛び出し、ひょんなことから彼らにベルサイユ宮殿のツアーガイドを買って出るというとんでもない展開になる。真風がこのとんでもない設定のルイ14世を豪華な衣装をまとって堂々と演じ、それがまたなんともちぐはぐで笑いを誘う。愛人ディアナ役は伶美うらら。ぴったりの役どころで美貌が映えた。新人公演でヒロインを演じる遥羽ららが、2人の子供、プチ・ルイをかわいく演じた。

 

弾けた芝居のあとの「VIVA!-」はスーパー・レビューのサブタイトル通り、最初から最後まで人海戦術を駆使した華やかなレビュー。月組公演「CRYSTAL TAKRAZUKA」以来3年ぶりの登板となった中村暁の新作だが、これが伝統的というか、オーソドックスでありながら、ベテランならではの手練れのレビューで、超豪華な定食といった感じでなかなか見ごたえがあった。祭りがテーマとあってオープニングから極彩色のカーニバル。いきなり二階席までの客席おりがあり大いに盛り上がる。朝夏を中心とした華やかな総踊りのあと桜木みなと、華妃まいあ、星風まどかの3人の銀橋の歌と続くあたりもまさにツボを押さえた展開。そしてサヨナラの実咲を中心に真風との場面へとつないでいく。

 

そのあとの牛追いの祭りのシーンが見事。闘牛士たちと牛たちの激しい群舞が朝夏の闘牛士と蒼羽の牛との一騎打ちに発展していくのだが、朝夏のマントさばきに蒼羽がダイナミックなダンスで応じ、久々のダンスの名場面となった。振り付けはAYAKO。続くYOSAKOIソーランがまた壮大なスケールで、客席からの手拍子も加わって「ソーラン、ソーラン」の大合唱、拍手もひときわ高鳴る。

 

大いに盛り上がったあとは朝夏、実咲、真風を中心とした静かだがスケールの大きいダンスシーンで余韻たっぷりに締めくくり、澄輝と桜木が華やかなフィナーレに誘っていく。実咲が若手男役陣を従えて歌う場面から始まって、ダルマ姿の伶美をフィーチャーしたラインダンスと続き、燕尾服のダンスへ。これがまた大階段に崩したMの字で整列するという心遣いとユニークさ。ダンス自体の振付も斬新だった。振り付けは羽山紀代美。そして朝夏と実咲のラストデュエットは「TOPHAT」を思わせる、優雅で超絶技巧の鮮やかなダンス。実咲の純白のドレスが目に浸みた。歌にダンスに改めて実力を再認識させた実咲のラストステージだった。

 

実咲のサヨナラというイベント性をのぞけば、朝夏にトップとしての存在感が増したのが頼もしく、若手では芝居、ショーとも桜木が印象的に起用され、劇団の期待度が透けて見え、蒼羽の際だった個性が強烈なインパクトを与えた公演だった。

 

©宝塚歌劇支局プラス2月4日記 薮下哲司


 

完成度が上がった「星逢一夜」早霧咲妃コンビが名古屋でセミファイナル舞台を飾る!

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雪組・早霧せいな、咲妃みゆコンビのプレサヨナラとなったミュージカル・ノスタルジー「星逢一夜」(上田久美子作、演出)とショーグルーヴ「Greatest HITS!」(稲葉太地作、演出)の名古屋・中日劇場公演が4日から開幕した。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。

 

「星逢―」は上田久美子氏の大劇場デビュー作として一昨年夏に初演、主人公たちの心の揺れ動きを濃密に描いてファンだけでなく評論家諸氏の心も鷲づかみにして同年の読売演劇大賞優秀演出賞を受賞した。再演が待望されていたが、早霧、咲妃の退団を前に中日劇場公演という形で実現した。出演人数は大劇場の約半分の40人だが、この作品のサイズとしてはこの方がぴったりで、台本を練り直し、細かい台詞の追加や、場面の変更などがさりげなくちりばめられ、さらに完成度が高くなっていた。

 

江戸時代中期、九州山間の架空の藩、三日月藩。藩主の次男坊紀之介(早霧)は夜ごと城を抜け出しては星の観測に夢中の少年だった。ある夏の星逢(七夕)の夜、紀之介は、蛍

村の少女、泉(咲妃)とその幼馴染の源太(望海風斗)に手伝ってもらって星観(ほしみ)の櫓をくみ上げる。以来三人は、身分を超えて友情をはぐくんでいく。しかし、藩主の長男が急逝したことから紀之介が跡取りとして、江戸の将軍家に出仕することになり、三人の立場は劇的に変化していく。

 

 初見したとき、紀之介が将軍吉宗の右腕となり、税法の改革を押しすすめるなか、三日月藩の窮状が分からないわけではなく、立場が変わればずいぶん非情な男だなあという気持ちが起こらないわけではなかったのだが、今回改めてみて、その辺が非常に納得のいくような形に書き換えられていて、さらに切ないストーリーになっていた。わかっていながら自分の故郷の藩だけに特例措置をとることができず、幕府と藩の板挟みで苦悩する紀之介の心情を丁寧に表現、源太との一騎打ちも最初は木刀で始まり、打っても打っても立ち上がる源太に、晴興(紀之介)が仕方なく刀に持ち替えてしまう、そのあたりの心の動きも見事だった。紀之介、泉、源太の究極のトライアングルラブは、身分の差という抗うことのできない現実の前でなんともはかなく切ない。ラストシーンの少年時代の無垢な三人の笑顔が深く心に焼き付く。改めて宝塚史上に残る名作といっていいだろう。ただし、誰が演じてもいいという作品でもないというのも微妙な事実、早霧、咲妃、望海という三人のバランスでこその感動でもある。その辺が宝塚の奥深いところだ。

 

 早霧の紀之介は、自由奔放な少年時代から、武士として成長した青年時代の凛とした風情への変わり身が鮮やか。「見惚れる」という言葉は大げさではなく早霧のためにあるようだ。

終盤近く、星観櫓での泉との別れのくだりで、「冗談だ」と軽くいなしながら目にいっぱい涙をためての芝居は、見ているこちらも思わず胸が締め付けられた。

 

 泉の咲妃も、父の仇であり、最後は夫の仇となった、紀之介をそれでも、受け入れてしまう、その熱い心情を、控えめながら体全体で表現、子供たちの声で、はっと我に返る、その変わり身の芝居心の巧みさ、舌を巻くうまさだった。「ロミオとジュリエット」新人公演のジュリエット役から5年弱、これほど、成長著しい娘役スターも稀有だろう。「幕末太陽伝」でどんな花魁姿を見せてくれるか、また退団後の活躍がいまから楽しみだ。

 

 望海の源太は、初演と変わらず、一貫して、心優しく実直で明るい源太.をそのまま体現していて、7年ぶりに故郷に帰ってきた紀之介に、自分との祝言直前の泉を差し出そうとする場面のけなげさも健在だった。望海の宝塚での代表作のひとつとして長く語られていくだろう。

 

 3人以外は主要キャストに役替わりがあり、それがすべて素晴らしく、作品のレベルを保ち、雪組の層の厚さを見せつけた。専科の英真なおきが演じた将軍軍吉宗は香綾しずる。退団した大湖せしるが演じた吉宗の姪で紀之介(春興)の妻となる貴姫に桃花ひな。香綾が演じた紀之介の養育係、鈴虫に真那春人といったところが主要なところ。なかでも香綾が、押し出しのあるくせのない台詞で貫録たっぷり、桃花も女役としてのあでやかさと押し出しで、大湖とは違った姫の大きさを表現、いずれも見事だった。永久輝せあの汐太はゆめ真音が起用された。

 

 ちょび康の彩風咲奈、側近の猪飼秋定の彩凪翔、氷太の鳳翔大は、そのままだった。月城かなとが演じた細川慶勝は煌羽レオが凛々しく演じた。

 

「Greatest―」は。前回のヒット曲をテーマにした雪組公演のショーを少人数用にアレンジしたもので、ゴーストバスターズが節分の豆まきの鬼退治になったのはアイデアだったが、トナカイのクリスマスソングメドレーはラテンメドレーになり、鳳翔大がマンボジャンボに扮して大活躍だった。みどころは咲妃が男役陣を従えて歌う「マテリアルガール」とロケット前にゆめが歌う「虹の彼方に」のカゲソロに乗せて早霧、咲妃が踊る息の合ったデュエットダンスだった。望海は「運命」の場面が見せ場、彩風が男役としてずいぶん存在感が増したのも特筆したい。

 

 8日昼の部に「宝塚歌劇イン中日劇場」鑑賞ツアーの面々と観劇したのだが、客席には専科の凪七瑠海、華形ひかる、月組の美弥るりか、朝美絢、光月るう、宇月颯、さらに東京公演が終わったばかりの瀬戸かずやら花組メンバーの姿も見え、舞台そこのけの華やかな客席だった。

 

©宝塚歌劇支局プラス2月9日記 薮下哲司

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