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宙組公演「シェイクスピア」笑いと涙の珠玉の名作誕生、元日開幕

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 ©宝塚歌劇団



宝塚102周年、快調のスタート
宙組公演「シェイクスピア」笑いと涙の珠玉の名作誕生、元日開幕

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
宝塚歌劇の102周年のトップをかざって宙組によるミュージカル「シェイクスピア」~空に満つるは、尽きせぬ言の葉~(生田大和作、演出)とダイナミックショー「HOT EYES‼」(藤井大介作、演出)が元日から宝塚大劇場で開幕した。今回はこの模様を報告しよう。


まず「シェイクスピア」だが、誰がこんなに素晴らしい作品になると予想しただろうか!102周年の宝塚歌劇にいきなり、爽やかな涙と明るい笑いに包まれた珠玉の一篇の誕生だ。

ウィリアム・シェイクスピア。「ロミオとジュリエット」はじめ数々の名作で知られるイギリスの文豪である。しかし、その半生は謎に包まれている。作者の生田氏はそこを逆手にとって、彼が残したさまざまな作品を通して、シェイクスピアの半生を、豊かな想像をふくらませて創作、親子愛、夫婦愛、友愛そして権謀術数、加えて演劇への大きな愛を命題にした見事な作品に仕上げた。そして、その根底には一番大事な宝塚への愛もきっちりと浮かび上がらせた。「バンドネオン」から始まって「ラストタイクーン」「伯爵令嬢」と続いた生田氏だが、今回の「シェイクスピア」で宝塚の座付作者として大輪の花を咲かせたといっていいだろう。

緞帳が上がるとそこは16世紀末のロンドンの下町。二村周作氏の装置がよく雰囲気を伝えている。美風舞良はじめ市民たちが、ペストが流行して明日をも知れない世情を憂いながらもダイナミックに歌うなか、シェイクスピアの妻アン(実咲凛音)とその息子ハムネット(遥羽らら)が、シェイクスピア(朝夏まなと)の新作「ロミオとジュリエット」の初日の舞台を見るために、故郷からロンドンの劇場にやってくる場面から始まる。それは夫婦にとって6年ぶりの再会で、シェイクスピアが、アンと知り合ったきっかけをそのまま戯曲に仕立て上げた「ロミオとジュリエット」の舞台をみながら、アンはかつての出会いを回想する。当時のロンドンの時代的背景とストーリーの発端を要領よく見せ、一気に物語の世界にいざなう。

続く回想シーンがまた見事。シェイクスピアが父親(松風輝)と喧嘩して家を飛び出し、森の中で詩の創作に励んでいるところに、やはり意に沿わぬ結婚話に反発して森に逃げ込んでいたアンと運命的な出会いをする。詩の続きが出来ず、思わず大木を蹴ったところ、上にいたアンが落ちてくるというコミカルな設定にまず笑いが起きる。そんなユーモアが随所にちりばめられ、見る者の気をそらさない。アンに魅せられたシェイクスピアは、五月祭でアンに会えると聞いて、祭りに行くのだが、とんだ大騒動を引き起こす。再会したアンとも引き離され、彼女を追ううちにシェイクスピアはアンの家に。そこで「ロミオとジュリエット」のバルコニーの場面のもとになったシェイクスピアとアンのラブシーンが展開する。ところが、ここがまた洒落たパロディーになっていてなんともコミカル。

祭りで「芝居で女王陛下を膝まずかせる」と豪語したシェイクスピアにたまたま居合わせた貴族のジョージ(真風涼帆)が興味を持ち、シェイクスピアをロンドンに誘い、アンを残してロンドンへ単身赴任、劇作家としての運命が開けていく。そして冒頭、エリザベス女王(美穂圭子)も観劇する「ロミオとジュリエット」開幕前日につながる。ここまでで約30分。

人気絶頂の劇作家となったシェイクスピアは、ジョージが対立する貴族を蹴落とすための人心を扇動するため利用される。それが「真夏の夜の夢」「マクベス」「ジュリアス・シーザー」そして「ハムレット」というわけ。劇団の役者たちが演じるそれらの舞台のハイライトシーンをちりばめながら、シェイクスピアの作家としての苦悩を描いていく。看板役者リチャードには沙央くらまが扮して、様々な役を演じ分け、純矢ちとせも劇中劇でジュリエットなどを演じるが、当時は女性が役者にはなれないというしきたりがあり、男が女を演じているという設定で登場、純矢が久々に男役を楽しんでいる。

シェイクスピアは反逆罪で逮捕され、女王から「夫婦愛についての芝居を書けたら赦免する」と宣告される。多忙のあまり妻のアンを顧みる余裕がなく、彼女が去ったあと傷心にくれるシェイクスピアは、この話をいったんは断るのだがリチャードのひとことで奮起「冬物語」を女王の前で上演することになる。

ここから先のクライマックスは、夫婦愛さらには演劇への大きな愛が津波のように押し寄せる。そしてそれは宝塚への大きな愛にも通じて、深い感動を呼ぶ。誰もが知っているシェイクスピアという文豪を主人公にして、誰も知らない見事な人間ドラマそして宝塚賛歌を紡いだ生田氏に乾杯だ。

シェイクスピアを演じた朝夏は、冒頭、デスクで詩作に没頭する場面から、創作することが人生のすべてという天才肌の青年をさわやかに演じ切り、早くも代表作が誕生した。歌唱も安定して、主題歌「ウイル・イン・ザ・ワールド」(太田健作曲)が心地よく耳に響く。

アン役の実咲は青春時代の初々しさと人妻になってからの落ち着いた雰囲気の演じ分けが見事。持ち前のリリカルな歌唱力も健在で、ひとまわり大きくなった印象だ。

ジョージの真風は、ぎらぎらとした野望に燃える眼光を潜ませながらも、貴族らしい品格も持ち合わせた青年として存在感を見せつけた。立派な衣装にひげがことのほか似合った。

ジョージの妻べスには伶美うらら。ジョージを陰でたきつける冷徹な妻はマクベス夫人をだぶらせた設定だが、伶美のクールビューティーぶりが生かされて適役好演。

しかし、この舞台の大きなキーパーソンはエリザベス女王の美穂と座付役者リチャード役の沙央の二人の専科勢。エリザベス女王の美穂はその圧倒的な貫録と歌唱力で、もうこの人以外には考えられない見事な女王ぶり。また、沙央は、書けなくなったシェイクスピアに再びペンをとらせるきっかけを作るリチャード役を感動的に好演した。「この世界でお前は何の役を演じるのか」というリチャードの問いは、シェイクスピアにだけでなく観客一人ひとりにとっても胸に響く問いとなったに違いない。

かくして「冬物語」は上演されるのだが、まだまだ次々にハプニングが起こり笑いと涙の内に大団円を迎える。幕が下りたあと初日の満員の客席すべてに、いいものを見たという満足感が充満していた。

澄輝さやと、凛城きら、愛月ひかる、蒼羽りく、桜木みなとといったホープたちにもきっちり見せ場があり、期待の娘役星風まどかにも効果的なワンポイントがあり、宙組メンバーをフルに使い切った手腕も見事だった。




一方、「HOT EYES‼」は、1983年の花組公演「オペラ・トロピカル」(草野旦作、演出)以来33年ぶりに全場に大階段を使用するということで話題のショー。

大階段は、いまやレビューのフィナーレに欠かせない宝塚ならではの大道具。しかし、かつてはグランドレビュー以外の鴨川清作氏や草野旦氏が作る斬新なショーには大階段でのフィナーレのパレードがないのが普通だった。鴨川氏の「ノバ・ボサノバ」初演や草野氏の「ジュジュ」「ノン・ノン・ノン」などは実際フィナーレにパレードはなかった。しかし、当時の小林公平理事長が、宝塚歌劇を初めて見るファンのために、ショーにはラインダンスとトップスターが大きな羽を背負うフィナーレのパレードを必ず入れるように指示、それ以降のショーのフィナーレはすべて大階段のパレードがつくようになった。草野氏は約5分かかるパレードのためにショーの中身が短くなることに最後まで抵抗、大階段は使ってもパレードなしのショーを作ったりしていたが、それが理事長の不興を買い、それならばと全場大階段のショーを作ったのだった。使うからにはさすがにうまく使っていて感心した覚えがある。

今回の藤井氏の全場大階段使用の意図はよくわからないが、そんな抵抗の歴史とは全く関係のないところからのアイデアなので、全場に大階段があるというだけという印象で、階段を有機的に使って見せるという印象的な場面はどこにもなかった。全場に階段があるのにいちいち舞台転換で幕を下ろすという意味も不明。かえって前が狭くなり、窮屈に感じた。

とはいえ踊れるトップ、朝夏中心のショーということで、終盤にショパンの「ノクターン」をバックに裸足で踊るソロの素晴らしいナンバー(羽山紀代美振付)があり、ダンサーとしての朝夏の面目躍如だった。耳馴染みのあるJPOPのメドレーなど、音楽的には藤井の好みが横溢、全体的にはなんだかせかせかと忙しいショーだった。なかでは安寿ミラ振付による「dark EYES」が朝夏、真風、伶美の3人によるスタイリッシュかつムーディーな場面で印象に残った。ショーでも美穂、沙央の存在が大きかった。朝夏、真風に続く3番手に愛月をプッシュしてきたのが要注目。次いで澄輝、蒼羽、桜木、和希そら、瑠風輝と続いた。

©宝塚歌劇支局プラス1月3日記 薮下哲司


瑠風 輝(るかぜ・ひかる)堂々の初主演、宙組公演「シェイクスピア」新人公演

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瑠風 輝(るかぜ・ひかる)堂々の初主演、宙組公演「シェイクスピア」新人公演

宙組公演、ミュージカル「シェイクスピア」~空に満つるは、尽きせぬ言の葉~(生田大和作、演出)新人公演(同)が、19日、宝塚大劇場で行われ、研4のホープ、瑠風輝が初主演、好演した。今回はこの模様を報告しよう。

シェイクスピア没後400年を記念したミュージカル「シェイクスピア」新人公演は、生田氏自らが演出を担当、涙と笑いで感動的につづったシェイクスピアの半生が、本公演そのままそっくりに再現された。

プロローグのロンドン市街。雑踏のなか最初に歌う市民の女(本役・美風舞良)は真みや涼子。その力強い歌声が群舞となるうちに故郷からやってきたシェイクスピアの妻アン(実咲凛音)に扮した遥羽ららと息子ハムネット(遥羽)の華雪りらにスポットが当たり、その日が「ロミオとジュリエット」初演の初日当日であることがわかる。シェイクスピア(朝夏まなと)に扮した瑠風との再会から、初日の舞台面、そして7年前のシェイクスピアとアンの出会いへ。何度見ても見事な導入だ。

笑わせながら泣かせる、観客のツボを心得た脚本と演出の呼吸が巧みで、それは新人公演を見ていてもよく分かった。ただ、新人公演メンバーは、全員が本公演通りに演じてはいるのだが、本公演と同じように泣かせ、笑わせることはできなかった。出演者全員がまだまだ未熟で、緊張のあまり、やや委縮した感じになってしまったのが原因か。

とはいえ主演の瑠風は、長身でルックスもよく、研4 とは思えないしっかりとした歌唱力で全体をさわやかにまとめた。特に高音の美しさが際だった。ややキーが高くて、男役独特の低音の魅力に欠けるので、低音をだす工夫が今後の課題か。昨年の「NewWave宙」で見事な「闇に広がる」を披露、注目したのだが、あの頃から比べると、たった一年足らずでずいぶんあか抜けして、上り坂の魅力が身体全体からあふれているようだった。時々台詞が早口になって、語尾がはっきりせず、ずいぶん損をしているのでそれも気を付けてほしい。

アン役の遥羽は、今回が初ヒロイン。本役では子役をひたすらかわいく演じていたが、ドレス姿がことのほかよく似合い、田舎育ちではあるものの、きちんと自分自身を持っている芯のある女性アンを、一貫して清楚に嫌みなく演じ切ったのはなかなかだった。歌唱力もあり、クラシックから現代までいろんなヒロイン像に可能性を秘めていて、これからの活躍がおおいに期待できそうだ。

公演の長としてあいさつを務めた桜木みなとは、真風涼帆が演じたパトロンのジョージに回った。必ずしも桜木にぴったりという役柄ではないのだが、さすが、このメンバーのなかでは一日の長というか舞台の居場所が分かっているというか安心して見ていられた。端正なマスクにヒゲがよく似合い、台詞もスムーズだった。ただ、長身の瑠風と並ぶと、いかに豪華な衣装を着ていても、ずいぶん小さく見えた。自分をどういう風に大きく見せこむか、これがこの人のこれからの課題になりそうだ。

専科の美穂圭子が演じたエリザベス一世には、彩花まりが挑戦。美穂ゆずりの迫力と周囲を威圧する貫録で好演した。「メランコリックジゴロ」全国ツアーのときは感心しなかったのだが、今回はなかなかだった。美穂に比べると歌唱力もまだまだではあるが、研7でこの役をここまでこなせる人はなかなかいないだろう。

リチャード役(沙央くらま)は研6の和希そら。「ベルサイユのばら」新人公演でオスカルを演じた経験もあり、大舞台の経験は多いので、ひとりのびのびと楽しげに演じていて、この役は適役だった。後半のシェイクスピアを激励する場面も感動的に盛り上げた。

愛月ひかるが演じたヘンリーは希峰かなた、桜木が演じたロバートは優希しおん。二人ともまだ研2。桜木に通じる甘いマスクの優希に、新たな二枚目スターの登場を見た。

同じ研2の娘役ホープ、星風まどかは、本公演で伶美うららが演じたジョージの妻べスに挑戦した。本公演のエミリアとだぶるダーク系の女性。いかにも娘役タイプの星風には全く合わない役で、かわいそうなのだが、きちんとこなせてしまうところが星風のすごいところ。末恐ろしい逸材だ。伶美は市民の女などのアンサンブルで参加、後方にいても美貌ですぐわかるのがさすがだった。

公演全体としては、どこという大きな破たんはないが、なんとなく小さくまとまってしまったという印象。笑いが大きな要素となっていることから、出演者ひとりひとりのもっとのびのびとした演技が見たかった。本役をコピーすることは大事だが、そこから、自分のものにしていけばさらにいい舞台になるだろう。あと全体的にマイクの使い方がまだ不慣れで、ずいぶん損をしているところがあった。この辺は場数なので、今後の課題としておきたい。

©宝塚歌劇支局プラス1月20日記 薮下哲司

明日海りおが「新源氏物語」の光源氏の演技で芸術祭賞新人賞を受賞

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明日海りおが「新源氏物語」の光源氏の演技で芸術祭賞新人賞を受賞

平成27年度文化庁芸術祭賞・関西元気文化圏賞合同贈呈式が21日、大阪北区のリーガロイヤルホテルで行われ、宝塚歌劇団花組のトップスター、明日海りおが、芸術祭新人賞(関西参加公演の部)を受賞、明日海が出席した。

宝塚歌劇と芸術祭の歴史は古く、1960年に「華麗なる千拍子」が大賞を受賞して以来たびたび受賞しており、個人の受賞もたびたび受賞しており、新人賞は「愛と青春の旅立ち」(平成22年)で受賞した柚希礼音以来5年ぶりとなる。

今回の明日海の受賞は「新源氏物語」の光源氏の演技に対してで「匂い立つような美しさと凛とした気品で、多くの女性を虜にした貴公子・光源氏17歳から晩年までを情熱的に演じ、宝塚の「二枚目」の系譜に新たな一頁を付け加えた」として評価された。

ベージュ色の明るい晴れ着に緑の袴姿で登壇した明日海は、少々緊張気味だったが青柳正規文化庁長官から賞状を授与され満面の笑み。大衆芸能部門で優秀賞を受賞した落語家の笑福亭仁智らとともに晴れやかに記念撮影に収まっていた。

明日海は授賞式のあとタカラヅカスカイステージの取材に応じ「光源氏は、悩みに悩み抜いた役だったので、それが評価されて本当にうれしい。今後も宝塚の男役として立派に精進していきたい」などと喜びを話していた。

翌22日に「ミー&マイガール」の東京での制作発表を控え、祝賀会は乾杯のみで中座したが青柳長官からは「新人賞を受賞した宝塚の男役さんはたくさんいらっしゃって、多くは女優としても成功されているので、あなたにも期待していますよ」と声をかけられ、大いに恐縮していた。昨年は台湾公演に参加、宝塚を代表するトップとしての活躍が多かっただけに、明日海にとってうれしいご褒美となったようだ。

なお芸術祭(関西)の大賞は「大阪松竹座」が、松竹新喜劇の「はるかなり道頓堀」の成果で受賞した。また昨年「宝塚歌劇団」が受賞した「関西元気文化圏賞」は、リニューアルなった「姫路城」が大賞を受賞、鳥取県の「すなば珈琲」などがニューパワー賞を受賞した。

©宝塚歌劇支局プラス 1月22日記 薮下哲司


北翔海莉ら星組メンバーがディズニーと宝塚のコラボに挑戦

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©宝塚歌劇団


北翔海莉ら星組メンバーがディズニーと宝塚のコラボに挑戦

北翔海莉を中心にした星組によるドラマティック・レビュー「Love & Dream」(斎藤吉正作、演出)大阪公演が23日、梅田芸術劇場メインホールで始まった。東京公演を終え、余裕たっぷりの北翔らメンバーのリラックスした雰囲気が楽しいステージとなった。

暗転した場内には七海ひろきら妖精たちが下りてきてごあいさつ。第一部の「ソングス ディズニー」はいきなり夢の世界からスタート。幕が開くとそこは12時5分前の夢の駅。夢先案内人の車掌に扮した北翔が「夢の街」行きの切符をという旅の少女、妃海風を、名曲「星に願いを」を歌いながらディズニーの愛と夢の世界に誘っていくという展開。その世界は七つの国に分かれていて、ディズニー・アニメの名曲の数々を7章に分けて歌い継いでいく。

最初は「イン・トゥー・ザ・ウッド」。森の世界というわけ。七海を中心にした「白雪姫」の7人の小人たちのテーマソング「ハイ・ホー」から始まって北翔が「ミッキーマウス・マーチ」そして「シンデレラ」から魔法使いのおまじない「ビビディバビデブー」などなど懐かしいディズニーのテーマソングメドレーを歌い継いでの華やかなプロローグ。歌やダンスで十輝いりすと七海ひろき、十碧れいやと麻央侑希がペアになり、場面をつないでいく。

二番目のコーナーは、プリンセスがまだ見ぬプリンスを夢見る、ディズニーならではの恋へのあこがれの歌の数々が登場。「魔法にかけられて」の「真実の愛のキス」から始まって妃海が「白雪姫」の「いつか王子様が」や「不思議の国のアリス」などを歌い継ぐ。

「ミラクル・オブ・ザ・シー」は海の世界。「リトル・マーメイド」の「アンダー・ザ・シー」が登場。「バイ・サンシャイン」では北翔が「ヘラクレス」などの陽気な主題歌を披露。次いで「マジック・オブ・ライト」コーナーでは客席での妖精たちのエレクトリカルパレードから始まって「メリーポピンズ」の「チムチムチェリ―」などが登場。「フレンド・ライク・ミー」で会場が最高潮に達したところで、北翔が「アラジン」の「ホール・ニュー・ワールド」。妃海が「ありのまま」で有名な「アナと雪の女王」の大ヒット曲「レット・イット・ゴー」を圧倒的歌唱力で披露。間髪を入れずに「塔の上のラプンツェル」の「自由への扉」を熱唱、大いに盛り上がったところでフィナーレの「ギャラクシー・ドリーム」につないだ。

ここでは「ピーターパン」から「右から2番目の星」フライングシーンに流れる「きみもとべるよ!」を北翔が。そしてラストはきらめく銀河の階段が大階段が登場。妃海扮するエンドレスヒロインが北翔扮するエンドレスヒーローからガラスの靴をはかせてもらってハッピーエンディング。曲は「シンデレラ」から「これが恋かしら」そして「夢はひそかに」で、最後は「星に願いを」をリフレインして、夢のディズニーを歌い締めた。

ディズニーのキャラクターは一切でず、楽曲だけのメドレーなので、曲を知らないとイメージがつかみにくく、せっかくのディズニーの名曲が宝の持ち腐れになった場面があったのが残念だったが、北翔と妃海の歌唱力と楽曲の素晴らしさがそれを補ってあまりあった。

休憩をはさんだ第二部は「シングス タカラヅカ」で、「すみれの花咲く頃」から「ノバ・ボサノバ」まで文字通りタカラヅカ名曲メドレー。各パートの合間には北翔を中心としたちょっとしたコントや北翔のこれまでの名場面再現などがあって、なんだか豪華なメモリアルショーといった感じ。なかでも「雨に唄えば」のリナ・ラモントの再現や、バウ公演「セカンドライフ」は懐かしかった。「華麗なるギャツビー」からの「朝日の昇る前に」や「セ・マニフィーク」さらには「ブラック・ジャック」の「かわらぬ思い」など北翔で聴きたかった名曲が次々に登場、堪能させられた。若手実力派も起用、ひろ香祐の「王家に捧ぐ歌」が印象的だった。フィナーレは「ノバ・ボサノバ」メドレー。夏樹れいと音咲いつきが「アマール・アマール」と「シナーマン」のソロで起用され、いずれも好唱したのが印象的。もちろんラストは北翔が圧倒的な歌唱で締めくくり、拍手が鳴りやまぬまま幕となった。そして、カーテンコールはプロローグに戻って全員がラフなスタイルで登場、若手たちもソロで歌いながらの賑やかなパレードとなった。

この作品のための新曲がない珍しいレビューで、特に凝った衣装や装置もなく、まさに中身で勝負といった感じのレビュー。北翔と妃海の歌唱力で約二時間半を持たせたのはさすがだった。カーテンコール後のあいさつで北翔は「当初、東京だけの予定でしたが、急きょ追加になり、大阪の皆さんにも見て頂くことができて本当にうれしい。皆さんのご声援のおかげです」と感謝の言葉。ファンも総立ちのスタンディングでこれに応えていた。


©宝塚歌劇支局プラス1月23日記 薮下哲司







「麗人REIJIN―Season2」発売を記念、壮一帆、榛名由梨、高汐巴が大阪でイベント

「麗人REIJIN―Season2」発売記念の握手&サイン会が23日、大阪・北区茶屋町のNUタワーレコードのイベント会場で行われ、榛名由梨、高汐巴、壮一帆の出席、ファン約100人が集まった。CD1枚購入すると握手が、2枚購入するとCDにサインをしてもらえるとあって、会場は熱気があふれかえっていた。
 15時ジャストに、黒のパンツ姿で登場した3人に、参加者は「わあー」「きゃー」と一斉に大歓声。33期の差があるのに、舞台にいますぐ立てるような男前ぶり、男役の立ち振る舞いに、ファンたちはうっとりしてトークを一期一句聞き漏らさないように聞き取っていた。
 それぞれが収録した曲は各人がチョイスして決定、石原裕次郎の「粋な別れ」を歌った榛名は「耳に残っている曲で今回のオファーがあって思い浮かんだ」。上田正樹の「悲しい色やね」を選んだ高汐は「若いころは大阪が素敵な街とは気づかなかったがこの年になって大阪の良さを琴線に触れるように歌いたいと思った」。スピッツの「ロビンソン」を歌った壮は「実は2曲(藤井フミヤの「ツルーラヴ」)選曲していたが、前回の「黒い花びら」から一転して少年ハートな感じで壮大な曲をと、情感が浮かんで曲の相性もあった」とそれぞれ選曲の理由。また3人ともが「自分なりの曲にして心を込めて歌った」ことや「舞台でトレーニングしてきた大きな声がレコーディングでは違う声の出し方があって難しかった」と苦労話を吐露していた。「歌謡曲と宝塚の曲は似ているところがあってどちらも素敵だが、選曲が難しい」との裏話も飛び出したが、このような企画は、元タカラジェンヌやそのファンには根強い支持があり、今後も継続を望む人が多いことが、この日の盛況ぶりでもよくわかった。
 トップを体験し退団した3人は「時代が違っていようが、退団してなおかつ自己研鑽し高みを目指す仲間は会ったことがなかろうが姉妹のようなもの」だと声をそろえてこの宝塚歌劇団の一員であったことに感謝。退団後に得た苦労や体験、喜びや悲しみなど、人生に厚みを増した今だからからこそ歌える声で謳歌した新しいCDづくりの体験を語る3人から、生きることの大切さが伝わってくるようだった。(レポート・友田尋子)


©宝塚歌劇支局プラス1月23日記 薮下哲司

礼真琴、久々の男役でハツラツ、星組バウ公演「鈴蘭(ル・ミュゲ)」開幕

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      ©宝塚歌劇団



礼真琴、久々の男役でハツラツ、星組バウ公演「鈴蘭(ル・ミュゲ)」開幕

星組期待のホープ、礼真琴主演のバウ・ミュージカル「鈴蘭(ル・ミュゲ)」―思い出の淵から見えるものは―(樫畑亜依子作、演出)が21日から宝塚バウホールで上演中。今回はこの模様を報告しよう。

「風と共に去りぬ」のスカーレットや「ガイズ&ドールズ」のアデレイドとこのところ女役が続いた礼本来の男役での久々の主演とあって、チケット完売の人気公演となったこの公演、はつらつとした若さが身上の礼の魅力が堪能できるさわやかなステージだった。

中世フランス。幼い頃から慕っていた初恋の女性シャルロット(音波みのり)が、夫殺害の容疑で処刑されたことを知った青年リュシアン(礼)が、ことの真相を探るために故郷アルノーに帰国、前王の弟ビクトル(瀬央ゆりあ)の陰謀を突き止めるとともに前王の娘エマ(真彩希帆)との愛を勝ち取るまでを描いたコスチュームプレイ。樫畑氏のデビュー作だ。

幕開けは礼を中心に出演者全員がラインアップしての華やかなプロローグ。ダンスと歌でこれから始まる物語を暗示しつつ、場面は13年前にタイムスリップ。領主クロード(輝咲玲央)の妹シャルロット(音波みのり)とガルニール公の嫡子エドゥアールの婚約披露パーティー場面へと続いていく。婚約者不在の不思議なパーティーで、少年リュシアン(天路そら)は、あこがれのシャルロットに、無邪気に「将来、必ずあなたを迎えに来る」と語りかけるのだった。

なんだかそれだけで、そのあとの展開がなんとなく読めてしまうようなところがあって、ストーリー的な興味はあまりないが、何の苦労もなく育ったプリンスが、あこがれの女性の死をめぐって謎を解明、青年として成長していく冒険譚は、礼にぴったり。そのまま今の礼にもあてはまるかのようだ。座付作者のデビュー作としてはまずは手堅い出来といっていいだろう。

歌、ダンスはもちろん、演技的にも自信のようなものがにじみでて、センターでの存在感がますます大きくなってきた。男役としては歌のキーがやや高いが、なめらかに歌い上げられるとそれも気にならなくなるから不思議だ。ラストの瀬央との殺陣も、かなり高度なテクニックで、礼ならではの身体能力のすごさを発揮した。

相手役の真彩は、その豊かな歌唱力は、こういう清楚なヒロイン役で、さらに本領を発揮。おもわず聞き惚れるほどの歌声は感動ものだった。芝居心もあり演技が丁寧で、礼の相手役としては理想的ではないかと思った。今後の活躍が楽しみだ。うまく育ってほしい。

ビクトル役の瀬央は、初めての黒い役だが、ひげを蓄えた苦み走った表情が、礼とは対照的で、存在自体に大きさが感じられて、実に儲け役だった。

「Love&Dream」に中堅どころが多く出演しているため、こちらは若手が中心となったが、娘役ではシャルロットに扮した音波が、リュシアンのあこがれの存在というだけある落ち着いた美貌と気品を漂わせた見事なプリンセスぶりで、一日の長的な存在感を示してくれたのがうれしかった。セシリアの白妙なつも好演。

バルトロメの漣レイラやエルネストの紫藤りゅうといったところにもしっかりと見せ場があったが、二コラ役の拓斗れいの肩の力のぬけた演技が印象的。さらにアデル役の華鳥礼良とエチエンヌ役の極美慎のとぼけたカップルも面白かった。

ルイ11世役の一樹千尋とエドゥアールの母に扮したマルティーヌの万里柚美がしっかりと脇をしめたのは言うまでもない。

©宝塚歌劇支局プラス1月26日記 薮下哲司

明日海りお、クラシックなコメディに本領発揮! 花組「アーネスト・イン・ラブ」大阪公演開幕

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  ©宝塚歌劇団


明日海りお、クラシックなコメディに本領発揮!
花組「アーネスト・イン・ラブ」大阪公演開幕

明日海りお率いる花組によるミュージカル「アーネスト・イン・ラブ」(木村信司脚本、演出)が、3日、梅田芸術劇場メインホールで開幕した。昨年1月の東京公演以来1年ぶりの再演となったこの公演の模様を報告しよう。

「アーネスト・イン・ラブ」は、「ドリアン・グレイの肖像」などで有名なオスカー・ワイルドの「まじめが肝心」をもとに、アン・クロズウェルが脚本、作詞、リー・ボクスリーが作曲したミュージカルコメディ。1960年にオフ・ブロードウェーで上演され、400回程度のロングランを記録、2002年には「英国王のスピーチ」のコリン・ファース主演で映画化され日本未公開だが「アーネスト式プロポーズ」のタイトルでDVDが発売されている。
宝塚では2005年に瀬奈じゅん、彩乃かなみのトップコンビの披露公演として上演され、その後、花組でも樹里咲穂、遠野あすかコンビで再演された。

19世紀末のロンドン。田舎に住む貴族の青年ジャック(明日海)はロンドンに住む貴族令嬢グウェンドリン(花乃まりあ)に夢中。彼女は親友アルジャノン(芹香斗亜)の従姉妹で、きょうもアルジャノンの家に彼女が母親のブラックネル夫人(悠真倫)とお茶に来ると知り、きょうこそプロポーズしようとやってくる。彼女もそれを待っているのだが、ジャックがもう一つの名前アーネストとしてプロポーズしたためとんだ騒動に発展。ジャックとグウェンドリンの恋の顛末はいかにというお話。本来は無為なるイギリスの貴族社会を痛烈に風刺したコメディなのだが、宝塚版からはそれがかなり薄まっていて、どこが面白いのか理解に苦しむような他愛ないお話にしか見えないのがつらいが、耳に優しい音楽と、宝塚ならではの豪華なセット、明日海はじめ出演者の芝居の世界に入り込んだなり切り演技が潔く、心地よく大人のファンタジーに浸れるのが救い。ひょんなことから貴族として育てられ、何不自由なく過ごしたジャックに扮した明日海の青年紳士ぶりもぴったりで彼女独特のなめらかだが芯のある歌声も健在、明日海にはこういうクラシックなコメディがなんともよく似合う。

 舞台面は初演とほぼ変わらないが、セット(太田創担当)が洒落ている。緞帳が上がると舞台上手後方のオーケストラが序曲を演奏し始める。50年代の匂いあふれる流麗なオーケストレーションに聞き惚れていると、オーケストラの上から巨大なケージが天井から降りてきてすっぽり覆ってしまう。このセットは度肝を抜くに十分の迫力。こじんまりした室内劇に壮大なスケール感を与え、これから始まる舞台への期待感を盛り上げた。同時に降りてきたお屋敷のセットが収まると執事役の鳳月杏が登場。時代背景と人物設定をしていく。鳳月の台詞の口跡と動きがシャープで目が離せない。

 明日海は、二階建てのセットの上手から登場して「どうしたらプロポーズできる」を歌い上げる冒頭のシーンから、このコメディに合わせたややオーバー気味の仕草がなんともキュート。昨年、一度演じているとはいうもののかなり練りこんだ様子がありあり。「新源氏物語」の光源氏とは打って変わった、明るくさわやかな青年像を、鮮やかに体現した。「ミー&マイガール」のビルにも通じる役なので、ビルの前哨戦としても、彼女にとってこの再演は肩慣らしとしても非常によかったと思う。ただ、ちょっと真面目すぎる感じもあり、もう少しくだけた方が見る側はさらに楽しめるだろう。これはビルを演じるときにもいえることなので、これだけが課題だ。

 グェンドリンの花乃も、彼女の個性にぴったりうえ、一年ぶりの再演ということもあって、余裕すらうかがえて、歌唱もよく伸び、これまでで最高の出来栄えではないかと思う。わがままで勝ち気な貴族の娘を、品を崩さずに演じ切った。

 親友アルジャノンの芹香も一度演じているという安心感のようなものが身体から滲んで、一回り大きくなった感ありあり。明日海との絡みもひるまず堂々と受けて立ち、なかなか素敵なコンビだった。

 そして今回の注目は執事レイン役の鳳月。冒頭から小気味いいくらいの切れのいいセリフと動きでひきつけたが、途中も緩急自在で存在感たっぷり。フィナーレの燕尾服のダンスもシャープで思わずひきつけられた。今回は役替わりでアルジャノンを演じるが、芹香とは一味違ったアルジャノンを見せてくれそうだ。

ジャックが後見人を務める少女セシリイは城妃美伶。背伸びしたおませな少女という雰囲気をよくつかんだ好演。花乃とのからみも息があって楽しかった。

そして舞台をぐっと締めたのはブラックネル夫人役を演じた専科の悠真倫。もともと男役だけに迫力のある台詞は彼女ならでは。初演の出雲綾とはまた違った存在感が見事だった。

ほかはアンサンブルであまり役はないのだが、「ハンドバッグは母親ではない」のナンバーで男役も全員が女役で登場したりする珍しい場面や、客席おりもあり、それなりに見せ場はあった。役替わりでセシリイを演じる音くり寿も村娘や召使いなどで初々しいところを見せていた。フィナーレの明日海×花乃、芹香×城妃のダブルデュエットで乙羽映見が関西では久々に美声を聴かせくれたのもうれしかった。

余談だが、これにそっくりの作品が、高嶺ふぶき時代の雪組で「アリスの招待状」というタイトルで上演されたことがある。太田哲則氏の脚本、演出で、不思議の国のアリスの世界にまぎれこんだアーネストという青年が恋のさやあてをするストーリーで、こちらはこちら楽しかった覚えがある。ビデオが出ていないのでいまとなっては見比べるすべがないのが残念だ。

©宝塚歌劇支局プラス2月4日記 薮下哲司

凰稀かなめ、1789の抱負と女性に戻る苦労を語る

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元宙組トップスター、凰稀かなめが、4日大阪市内で会見、退団後初舞台となるミュージカル「1789」(小池修一郎脚本、演出)のマリー・アントワネット役に対する抱負を語るとともに、退団後初めてスカート姿を披露した。

昨年2月に退団してちょうど1年、「男役から徐々に女に戻る訓練をしている最中」という凰稀、スカートをはくのは音楽学校の制服以来とか。「退団してさあ女に戻ろうと、スカートをいっぱい買ったのですが、結局、全然はかず、きょうが初めてです」と膝うえ10センチのミニスカートにちょっと照れくさそう。「何しろ人生の半分以上、男役として生きてきたので、その習慣を拭い去るのはなかなか大変です」と苦笑い。ヘアスタイルは男役当時と変わらずショートのまま。「一度は伸ばそうと思い、伸ばしかけたのですが、ストレスがたまって、また切ってしまいました」よほど男役人生が身に染み込んでいるらしい。そんな時に「1789」のマリー・アントワネット役が舞い込んだ。

「1789」は、昨年、龍真咲を中心にした宝塚月組で日本初演されたフランス革命を庶民の側から描いたフレンチ・ミュージカル。演出の小池修一郎氏が日本向けに翻案したバージョンを、東宝が男女版で上演する運びになり、宝塚では愛希れいかが演じたフランス王妃マリー・アントワネットを花總まりとダブルキャストで演じることになった。

「小池先生から直接電話がかかってきたのですが、びっくりしてすぐにはお受けしますとはお答えできませんでした。でもフランス版や宝塚版の映像を拝見したら、現代的なマリー・アントワネットで、これなら私にもできるかもしれないと思って、しばらく考えたうえでお受けすることにしました」と慎重に受けたことを明かし「『ベルサイユのばら』のマリー・アントワネットなら断っていたでしょうね」と笑った。

現在は女性らしい高い声を出すためのボイストレーニング中。「男役生活が長かったので、普通にしゃべる声も低くなっているので、いま高い声で話すように矯正しているところ。油断するとすぐに低くなるんです」男役から女優へ、多くのタカラジェンヌOGが通る道のりを今まさに追体験しているところだ。

退団して生活のリズムが一番変わったのは睡眠時間。「在団中は、3時間ぐらいでしたが、退団してゆっくり眠れるようになったことが一番の変化ですね」と在団中のハードさを告白。「私は役を私生活に引きずるタイプで、モンテ・クリストを演じたときは、公演中は部屋を真っ暗にして牢獄生活を疑似体験したり、毎日スープしか飲まなかったりするほどでした」と、役作りのために激ヤセすることもしょっちゅうだったという。

「この一年でようやく普通の生活に戻ってきたかなあという感じだったんですが、マリー・アントワネットを演じることになって、彼女のことを調べているうちにまた神経がとんがってきて、また寝られない日々が来そうです」と笑うが、そろそろまた舞台人魂がよみがえりエンジンがかかってきたよう。「ちょっとでも近づけるように初めてネグリジェを買いました。インターネットでですが」と笑わせた。ポスター撮影では初めてドレスを着たが「素顔メークに真っ赤な口紅をつけるのが恥ずかしくて」まだ台本も出来上がっておらず、いまはとにかく女性に戻ることが最優先課題のようだ。

マリー・アントワネットについては「14歳で嫁ぎ、何もわからないまま王妃になり、不幸な人だったんだなあと思う。そんなアントワネットの人間性が出せればと思う」と抱負。娘役の大先輩、花總とのダブルキャストについては「個性が全く違うので、全然違うアントワネットになると思う。ぜひ両バージョンともご覧ください」と如才なくPRにつとめていた。

東京公演は4月11日から5月15日まで帝国劇場、大阪公演は5月21日から6月5日まで梅田芸術劇場メインホール。

©宝塚歌劇支局プラス2月5日記 薮下哲司

早霧せいな、望海風斗またまた一騎打ち!「るろうに剣心」開幕!

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         ©宝塚歌劇団


早霧せいな、望海風斗またまた一騎打ち!「るろうに剣心」開幕!

和月伸宏の同名ヒット漫画を舞台化した浪漫活劇「るろうに剣心」(小池修一郎脚本、演出)が5日、宝塚大劇場で開幕した。1月9日チケット発売と同時に全期間完売、初日から連日、当日券を求めて長蛇の列ができるなど「ベルばら」なみの異常人気となっている。今回はこの話題の公演の模様を報告しよう。

幕末から明治維新の日本の一大転換期を舞台に、倒幕派の刺客として名をはせた「人斬り抜刀斎」こと緋村剣心を主人公に虚実さまざまな人間関係を描いた原作をもとに、宝塚のエース、小池氏は原作にない新たな人物も登場させ、一大エンターテイメントに仕立て上げた。たまたま現在放送中のNHK朝のテレビ小説「あさが来た」も同じ時代を舞台にしており、裏表の世界として重ね合わせてみるとさらに面白い。

冒頭は、洛西の竹林。長州藩の維新志士、桂小五郎(蓮城まこと)と山縣狂介(夏美よう)井上聞多(美城れん)の前に反幕府勢力の鎮圧を図る新撰組の隊士たちが立ちはだかり斬りかかろうとするところ、忽然と現れた一人の剣士、緋村剣心(早霧せいな)が隊士たちを瞬時になぎ倒す。マンガの世界から抜け出したような早霧のビジュアルと役に対する作り込みが見事だ。

劇団新感線なみの刀と刀が当たる音の効果と、立ち役が刀を振るうと相手が勝手にばたばたと倒れる歌舞伎の殺陣を、群舞の動きを取り入れながら巧みに処理した殺陣(殺陣・森大)が鮮やかに決まる。早霧が刀を振るうたびに後ろの竹林が次々と倒れるあたりもスケール感を感じさせた。まずは、幕末における剣心の立場をここでしっかりと見せつけて、場面は島原の遊郭へ。華やかな花魁道中に転換する。剣心の宿敵、新撰組隊士・加納惣三郎(望海風斗)がここで登場。小五郎の愛人、朱音(あかね)太夫(桃花ひな)に岡惚れした惣三郎が太夫をわがものにせんと辻斬り騒ぎを起こし、そこで剣心と相まみえることになる。ここらあたりの緩急自在の展開は息もつかせない。

そして場面は10数年後の明治11年。不殺(ころさず)の誓いを立て、流浪人となった剣心だが、刀を差していたことから、道場の師範代、薫(咲妃みゆ)に、偽抜刀斎に間違われ、呼び止められる。スリの少年、明神弥彦(彩みちる)や剣心に心酔する佐之助(鳳翔大)も登場、元新撰組隊士で現在は警部補の斎藤一(彩風咲奈)加納と組んで阿片で一攫千金を狙う武田観柳(彩凪翔)元隠密の四乃森蒼紫(月城かなと)さらに女医の高荷恵(大湖せしる)らも登場して主要人物がそろい、物語は急展開していく。倒幕派、幕府側などが入り乱れ登場人物が多く情報量は結構多いのだが、それぞれのキャラクター設定が際だっていて、非常に分かりやすい。特に左之助登場の歌舞伎まがいの「見得」はこれまで見たことがない鳳翔の大きな演技で魅せた。


幕末から明治へ、新しい時代に希望をもったものの、庶民にとっては上が変わっただけで何も変わらず、機を見るに敏な者たちが時代を背負っていくという図式は、昔も今も変わらず、フランス革命後の混沌とした時代を描いた小池氏の傑作「スカーレット・ピンパーネル」を思わせるところもある。特に後半は横浜のフランス商館でストーリーが展開することからよけいにだぶった。

作劇的にやや意外だったのは剣心と加納が恋敵ではなかったことだった。幕末からの因縁の関係であることについてはよく描かれているが、薫を軸にした三角関係とはならなかったところが宝塚的にはやや物足りなかったか。また加納が登場したことで、彩凪が演じた武田がずいぶん小悪党になってしまったのももったいなかったかも。それに対して月城が演じた四乃森のビジュアルがニヒルで抜きんでてかっこよかったのと、永久輝せあが演じた剣心の影の設定が、出番は多くないのだが、永久輝のクールな好演とともに強烈なインパクトを残したのが、宝塚版「るろ剣」の大きな特徴だった。

原作の冒頭の部分に新たな登場人物を加えての展開だが、変わりゆく時代の流れのなかに生きる人々の業がそれぞれに浮かび上がり、かといって暗くならず、誰もが楽しめる娯楽活劇に仕上がった。宝塚にまた新たなヒット作が誕生したと言えるだろう。

その一番の功績は剣心を演じた早霧であることはいうまでもない。マンガから抜け出てきたようなその美しいビジュアルと激しい殺陣の身体能力の軽さにはため息がでるほど。彼女の能力の限界を巧みに引き出した振付陣の仕事も鮮やかだった。普段のゆるさから一瞬にして人斬りの目つきになる剣心独特の変わり身を工夫すればさらにクールな剣心になるだろう。

望海の加納は、望海ならではの役どころで、ほかに考えられないほどの見事さ。ラストには「星逢一夜」に続いて再び早霧との死闘も用意され、これ以上ない二番手のおいしい役を楽しげに演じて見せた。フィナーレの歌手と群舞のセンターも堂々としてもはや貫禄さえ漂った。

薫の咲妃も彼女の個性にはこれが一番なのではないかと思うほどのはまり役。「星逢一夜」の泉のときは、それが一番と思わせるなど、何でもこなせる力量は並大抵ではない。

あと彩風、彩凪の彩彩コンビもどちらもそれぞれ個性にあった役に恵まれ好演。彩風は独特の剣の構え方がかっこよく、彩凪は本来は一番の大悪党なのだが、黒いが軽い小悪党に作り込み、それが似合っていた。どちらもソロがあり、彩凪のガトリング銃(マシンガン)を構えて歌う歌が面白かった。

そして前述した四乃森の月城と剣心の影の永久輝がどちらも際立って素晴らしく、上り調子の勢いを感じさせた。あと左之助の鳳翔もおいしい登場場面で一気に観客をわし掴みにした。そして忘れてはならないのが弥彦少年役の彩の好演。娘役とは思えない芯のあるクリアな台詞と少年らしい闊達さが素晴らしく、なにより可愛かった。

©宝塚歌劇支局プラス2月8日記 薮下哲司



君島さん、早くもスター性十分。宝塚音楽学校第102期生文化祭開催

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君島さん、早くもスター性十分。宝塚音楽学校第102期生文化祭開催

 宝塚音楽学校第102期生文化祭が13日から宝塚バウホールで始まった。今回はこの初日第1回の模様をレポートしよう。

 第1回とあって中川阪急電鉄社長はじめ会場は関係者や父兄で満席、長女、憂樹さんの晴れ姿を見ようと実業家の君島誉幸、十和子さん夫妻が会場に姿を見せたことから報道関係者も多数つめかけ、久々に華やかな雰囲気に包まれた。

 文化祭自体の中身はこれまで通り。第一部は「日舞、予科生コーラス、クラシック・ヴォーカル、ポピュラー・ヴォーカル」(三木章雄構成、演出)第二部が演劇(谷正純作、演出)、第三部がダンスコンサート(三木章雄演出)と続く。102期生40人は3月18日からの星組公演から初舞台を踏むことになっており、すでに口上の日程も決まり、芸名も発表されているが、入団前の音楽学校の文化祭では本名で出演、芸名との併記は規制されているので、以下本名のみで記す。

 日舞は恒例の「清く正しく美しく」から。ヴォーカルのソロは廣田祐奈さん。「凛として花一輪」(パンフレット掲載の好きな言葉)という言葉通り、凛とした表情と歌声で魅了、群舞も銀の扇子づかいがよくそろった。

続く103期生40人による予科生コーラスは、中島みゆき作詞、作曲の「糸」と民謡「八木節」の2曲。「八木節」が、手拍子や軽いステップを交えて、明るく軽快な歌声がホールにひびきわたった。

 クラシック・ヴォーカルは板垣日向子さんが歌劇「トゥーランドット」から「誰も寝てはならぬ」甲藤晶子さんが「微笑みの国」から「君はわが心のすべて」を披露。いずれも日頃の成果をきちんと歌いこなしたが、甲藤さんの男役ならではの低音の発声が際だった。ポピュラー・ヴォーカルは、昨年亡くなった宝塚歌劇の大作曲家、入江薫さんを追善しての名曲メドレー。「嵐が丘」の板垣さん、「霧深きエルベのほとり」から「うたかたの恋」を平野彩華さん「鴎の歌」を甲藤さんが歌い、力強い歌声を披露した。話題の君島さんは廣田さんと「白いライラックの花は好き」ので登場。アイドル的要素十分の甘い顔立ちで、一見しただけでスター性は十分だ。なめらかな低音の歌声も魅力的。
「花のオランダ坂」の名曲「私は桃の花が好き」を歌ったのは斎藤沙也さんと矢島彩音さん。斎藤さんの堂々たる歌声が印象に残った。「ジャワの踊り子」から「雨の街角」をデュエットした久田侑女さんと利倉久美子さんのコンビは、歌唱はもうひと押しが足りずやや物足りなかったが、初々しさは一番だった。

「エスカイヤ・ガールズ」でメーンをとった娘役の名子ひとみさんと山本さくらさんの華やかな雰囲気はすぐにでも本公演で通用しそう。舞台に花が咲いたような明るさだった。

「ベルサイユのばら」の「バラが咲く」や「風と共に去りぬ」の「新しき南部」「水色の愛」そして「ノバ・ボサノバ」冒頭に流れる「ソル・エ・マル」など、これも入江さんの作曲だったのかという新しい発見もある意義のある選曲だった。なかでも「ソル・エ・マル」を歌った濱平亜美さんがフィーリングのある好唱だった。

第二部の演劇「オーロラの歌声」は、18世紀後半、スウェーデンを舞台に、皇太子のクリストフが、農民から近衛兵を選抜するために2年間、田舎で候補生の若者たちとともに訓練に精を出すうちにめばえた身分を超えた友情と愛を描いた心温まる青春群像ドラマ。

 A組は主演の皇太子クリストフが君島さん。宿舎の娘エルヴィラが名子さん。候補生の班長ヤンが三川綾花さん。エルヴィラの姉フェリシアが山本さんといった配役。

冒頭、厳しい訓練から抜け出そうとしたエリック(西脇恵子さん)とその恋人レーナ(東堂瑠伽さん)が登場、追いかけてきた候補生たちにつかまってしまう。長身で甘いマスクの西脇さんの軍服姿がなかなか決まっていて立ち姿は抜群だが、台詞がやや甘いのが惜しい。候補生班長ヤン役の三川さんの、すっきりした二枚目ぶりがさわやかだ。自己中心でみんなから浮いているルーカス役の丸山ひかりさんは真風涼帆に似た容姿と長身でひときわ目立った。役柄的にもおいしい存在。主演の君島さんは、そこにいるだけで周囲が明るくなる天性のスターとしての資質のようなものを持ち合わせ、皇太子という役柄にまさにぴったり。それにふさわしい品格もあり、スターの素質十分。魅力的な歌唱とともにこれからの活躍に期待したい。

エルヴィラ役の名子さんとフェリシア役の山本さんの二人も大型娘役の資質十分。華やかなヒロインが似合う名子さん、勝ち気な雰囲気がかっこいい山本さん、それぞれ華やかで品があるのがいい。役を変えても二人とも十分通用するだろう。豪華な姉妹だった。



B組はクリストフが板垣さんに代わり、エルヴィラが今宮花乃さん、ヤンが福元果音さん、フェリシアが服部瑠莉紅さんという配役。

ダンスコンサートはバレエ、ジャズダンス、モダンとさまざまなダンスを交代で踊り継いだ。群舞が多いなか、タップでの板垣さん、名子さんの華やかなコンビがやはり目に飛び込んだ。どれも極めて難度が高く、それをテンポよくパワフルに踊り切った102期生40人のダンスのレベルはかなり高いといってよさそうだ。君島さんを筆頭に男役、娘役ともにスター性豊かな生徒も多く、なかなか楽しみな102期生といってよさそうだ。

一方、上演中の宝塚大劇場公演「るろうの剣心」の雪組メンバーにインフルエンザが猛威を振るい、6人が休演するという異例の事態となっている。

武田観柳役の彩凪翔もその一人で、急きょ真那春人がピンチヒッターに立っている。ところがその真那が火事場の底力を発揮、見事な代役ぶりで急場をしのいでいる。台詞にパワーがあり、いつ稽古したのかと思うほど役が身についているのだ。実力派の面目躍如だ。演出の小池修一郎氏は「フルパワーでお見せできないのは残念だが、サッカーのゲームでけが人が出たときに出場したピンチヒッターが活躍する例もあり、宝塚もそういったチームプレーに似た部分もあります」とサッカーにたとえて、雪組の団結力をたたえている。休演中の彩凪は、さぞ無念だろうが、1日も早く治して完全復帰を目指してほしい。


©宝塚歌劇支局プラス2月13日記 薮下哲司


轟悠が主演 ミュージカル「For the people―リンカーン 自由を求めた男―」開幕

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©宝塚歌劇団




轟悠がリンカーン大統領に!
ミュージカル「For the people―リンカーン 自由を求めた男―」開幕

専科のスター、轟悠が花組メンバーとともに奴隷解放宣言で有名なアメリカの第16代大統領リンカーンの半生に挑んだミュージカル「For the people―リンカーン 自由を求めた男―」(原田諒作、演出)が13日、大阪・シアタードラマシティで初日の幕を開けた。今回はこの模様を報告しよう。

リンカーンといえば奴隷解放、南北戦争、そして暗殺。アメリカ史上で最も偉大な大統領として尊敬され、ゲティスバーグでの演説は今回のタイトルにもなっている。ギリシャ悲劇「オイディプス王」に続いて、トップ・オブ・トップス、轟が演じるにふさわしいビッグネームだ。

作、演出は「ジュ・シャント」でバウ・デビュー。「ニジンスキー」を経て「華やかなりし日々」で大劇場デビュー。「ロバート・キャパ」「南太平洋」「春雷」「ノクターン」そして「白夜の誓い」次いで「アル・カポネ」と力作を連発している若手実力派の原田諒。今回は、ひねらずストレートに堂々たるリンカーンの伝記ドラマに仕立てあげた。

国を二分にするほどの大きな問題に、戦争をも辞さず、ゆるぎない信念で敢然と取り組んだリンカーンの半生記を、現在の日本、しかも宝塚で舞台化することに、どんな意味合いがあるのか、思わず深読みしてしまうが、それは別として、これまでの伝記映画の集大成的な側面もあり、政敵との確執はもちろん夫婦愛や親子の絆など人間的な部分も巧みに取り込んで、アメリカ人なら誰でも知っているリンカーンの足跡をわかりやすくたどっている。ただし「シェイクスピア」と違って史実がはっきりしているだけに、あまりに生真面目すぎて、まるで教科書を舞台化したよう。立派すぎて面白みに欠くともいえる。

幕が開くと、上手と下手に13段の木組みの階段(松井るみ装置)が現れ、その前で大勢の黒人奴隷が奴隷商人にこき使われている様子が暗い照明の中、ダイナミックなダンス(AYAKO振付)で表現される。奴隷商人(高翔みず希)のムチがフレデリック(柚香光)アンナ(桜咲彩花)夫妻にも容赦なくふりおろされ、2人はその場から逃げだしてしまう。客席に降りてきた黒人の男女2人が柚香、桜咲とわかるのはその時。真っ黒に塗ったリアルなメイクで最初は誰かまったくわからない。リンカーンが奴隷解放を心に刻み付けるアメリカ南部の奴隷市場の惨状を再現したハードなプロローグにこれがやわな作品ではないことを強烈に印象付ける。

上手から轟が登場、場面は一転、弁護士時代のリンカーンが殺人罪に問われた黒人少年(千幸あき)を弁護する法廷へスライドする。白人殺害容疑で逮捕された黒人が裁判で無実になることなど有り得なかった時代に、無罪を勝ち取とったリンカーンは、その夜、パーティーに出席、そこでトッド家の令嬢メアリー(仙名彩世)と出会う。

ここで華やかな舞踏会が展開、ようやく宝塚らしい場面となる。メアリーは若き政治家スティーブン(瀬戸かずや)からプロポーズされているが、黒人メイドを気遣うリンカーンに他の男性にない優しさを感じ、次第に惹かれていく。スティーブンはこのあと政敵としてリンカーンの前に立ちはだかる重要な存在となる。第一幕は、弁護士から政界に進出、一度は挫折するが、スティーブンが掲げる、奴隷解放は州の自主性にまかせるという玉虫色の法案が通ったことに憤ったリンカーンが共和党を結成、大統領選挙に出馬、見事当選するまで。

続く第二幕は、華やかな大統領就任祝賀パーティーから。作家として成功したフレデリックも出席するなど順風満帆に見えたが、リンカーンの政策に反対する南部諸州が合衆国を離脱したことから暗雲が。やがて南北戦争が勃発、大統領として絶体絶命のピンチに立たされるなか、弁護士時代からの盟友エルマー(水美舞斗)の戦死、長男ボビー(亜蓮冬馬)が北軍に志願するなど難題山積。それでも奴隷解放の信念を貫き通し、憲法を改正して法案を可決、南北戦争終結に導きながら、終戦の6日後、凶弾に倒れるまでを描いていく。

見終わって一番の思いは、信念を貫くことの大切さと辛さ。リンカーンの死後も1960年代まで南部諸州では人種隔離政策が続いていたことを考えたとき、いまリンカーンの足跡を改めて振り返ることは意義のあることに違いない。ラスト、星条旗に変わった階段の中央で高らかに歌う轟にさまざまな思いがよぎった。

轟リンカーンは、冒頭の登場から法廷での弁護の場面、スティーブンとの公開討論会のディベート、ゲティスバーグの演説と、膨大な台詞を鮮やかにあやつり、どの場面もリンカーンその人になり切ったかのような熱演。有名な演説のフレーズを歌詞に取り込んだ主題歌も豊かな表現力で心に響いた。一作品ごと入魂の演技、二幕からリンカーンのトレードマークであるあごヒゲも轟らしく果敢に挑戦、その真摯な取り組みに感銘を受ける舞台だった。

轟のリンカーン以外では瀬戸が演じた政敵であり恋敵でもあるスティーブン役が一番の大役だろう。リンカーンとは信条が異なり、ディベートでも敗北するものの、大統領となったリンカーンの窮地を救って憲法改正に協力する男気を見せる。感情移入しやすい普通の感覚を持つ人物を、瀬戸が凛とした品位を保って演じ、悲劇的なラストには思わず感涙、拍手だ。

柚香は黒人活動家フレデリック。のちのキング牧師を思わせる人物で、リンカーンの半生になくてはならないアクセントになる人物。その黒塗りメイクはそれだけで強烈なインパクト。集会の場面とリンカーン死後にソロがあり、特にラストのソロが感動的で歌唱力の成長をうかがわせた。

メアリー役の仙名は、親の決めた相手を拒否して、リンカーンに人としての優しさを見抜き惹かれていく、しっかりとした自分を持つ女性を、嫌みなくさわやかに演じ、実力派ヒロインぶりを発揮した。轟とのコンビも相性がよかったと思う。

リンカーンの助手エルマー役の水美もそのきりっとした二枚目ぶりが最大限に生かされた好演。二幕で最初に悲劇的な死をとげるが、それも逆に大きなポイントとなった。

長男ボビーは少年時代が聖乃木あすか、青年時代が亜蓮に代わったが、どちらもいかにもまっすぐな感じでよかった。

あと弁護士仲間ウィリアムの鳳真由も好印象、ポーク大統領の和海しょうはワンポイントだったが貫録ある台詞で場を圧倒した。貫録といえばリー将軍の英真なおきは、いうまでもない。故郷を敵に戦うことはできないと、リンカーンから離れていく場面に説得力を持たせた。

公演は23日までドラマシティ。3月4日から10日まで神奈川芸術劇場。




永久輝せあが好演!「るろうに剣心」新人公演と、3人が歌唱力を発揮「花組マグノリアコンサート」

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永久輝せあ、キャラクター再現率100%の好演!「るろうに剣心」新人公演

当日券を求めて連日長蛇の列ができるほどの大ヒットとなっている雪組公演、浪漫活劇「るろうに剣心」(小池修一郎脚本、演出)の新人公演(田淵大輔担当)が23日、宝塚大劇場で開かれた。主演の永久輝以下キャラクターの再現率は本公演のメンバーにもひけをとらない達成率、若々しくもエネルギッシュな舞台を繰り広げた。今回はこの模様を報告しよう。

新人公演の主な配役は緋村剣心(本役・早霧せいな)が永久輝せあ。神谷薫(咲妃みゆ)が彩みちる。加納惣三郎(望海風斗)が諏訪さき。斎藤一(彩風咲奈)が陽向春輝、武田観柳(彩凪翔)が橘幸、四乃森蒼紫(月城かなと)が縣千。高荷恵(大湖せしる)有沙瞳、相楽佐之助(鳳翔大)が真地佑果。明神弥彦(彩)が希良々うみ。そして剣心の影(永久輝)が鳳華はるなといった面々。

新人公演は時間の関係で、オープニング洛西、竹林のシーンと島原の花魁道中の場面をカット。島原で剣心(永久輝)と加納(諏訪)が出会う場面から開幕。あとは少しずつ削ってフィナーレを全面カットした約1時間45分の短縮バージョン。それでも主要キャストのソロはほぼそのままあり、本公演の雰囲気をよく伝えた要領のいい舞台となった。

マンガが原作の舞台で、登場人物のキャラクター設定がはっきりしており、各人そのキャラクターを形で再現することでほぼ出来上がり、難しい心理的描写などはあまり関係のない作品なので、新人公演の若いメンバーにとってもやりやすい作品だったのかもしれないが、新人公演とは思えない充実した仕上がりで、どの役もそのまま本公演の代役に即使えそうな出来栄えだった。

なかでも剣心の永久輝は、アイメイクに工夫のあとがあり、原作の漫画から抜け出てきたような漫画の剣心そっくりの美剣士ぶり。本公演の早霧をお手本にした所作やキャラクターづくりもうまくはまった。「ルパン三世」以来二度目の新人公演主演だが、前回も漫画のキャラクターを好演、新人公演でこういう形から入る役に連続的に恵まれたのはラッキーだ。大劇場はやはり形を見せられることが一番大事だからだ。もちろん歌唱力もなめらかな歌声で高音までよくのびて安心して聴くことができた。この一年で「アル・カポネ」のベン・ヘクトや「星逢一夜」新人公演の源太(本役・望海風斗)といった役を経験、特に源太の経験が生きたのか、形だけでなく薫を気遣う剣心のちょっとした心の動きも巧みに表現できていた。今後の活躍に期待したい。

相手役、薫の彩は、本公演で明神弥彦を好演しており、新人公演もなんとなくその少年役をひきずったような感じ。剣道少女なので元気なのはいいが、少年がそのまま少女になった感じだった。弥彦少年役がうまかっただけに見ているこちらもやや複雑だった。

加納惣三郎の諏訪は、唯一原作にないオリジナルキャラクターということで、お手本は本役の望海だけ。島原の太夫に入れあげるあまり辻斬り事件を起こして新撰組を追放され欧州に逃亡、維新後に帰国して明治新政府を相手に暴利をむさぼる悪徳貿易商になっているという設定。剣心とは因縁の仲でラストには対決する大きな役だ。望海は、そんな惣三郎をフランス語も交えて余裕たっぷり、緩急自在に演じた。諏訪は、望海よりも長身で見た目が派手で、決して器用ではないのだが、存在の大きさで役の雰囲気をよくつかんだ好演。元花組の男役スターで大地真央や平みちと同期生の諏訪アイの長女という。

斉藤の陽向、武田の橘、四乃森の縣は、キャラクターの造形は本役をなぞった形で熱演。それぞれソロもあったが、陽向の銀橋のソロが聴かせた。橘のコミカルな造形は本役の彩凪翔より代役の真那春人を意識したところがあり、細かいギャグを飛ばして客席をわかせるなど、ここぞとばかり場をさらったのはなかなかだった。その点、縣は長身で見映えはいいのだが、動きにもっとシャープさがほしかった。ソロも不安定で課題ありだった。

鳳翔大が演じた左之助の真地は、さすが実力派、完璧なキャラクターづくりで臨み、登場シーンの歌舞伎調の口上はよく声も通り、永久輝と呼吸もぴったりだった。この場面で下手で拍子木をうつのは明神弥彦役の希良々。本役の彩が絶妙に演じているだけに、やや分が悪いが大健闘といっていいだろう。いかにもやんちゃな少年という感じがよくでていた。

娘役では高荷恵役の有沙を忘れてはならない。物語の鍵を握る人物の一人でもあり、剣心をめぐる重要なキャラクターでヒロインの薫とは対照的な役どころだが、有沙は、本役の大湖と比べてもひけをとらない大人っぽさで魅力的に演じ、演技派ぶりを見せつけた。

あと瓦版売り(真那)の叶海世奈、新聞売り(久城あす)のゆめ真音、セバスチャン(香陵しずる)の星加梨杏といったワンポイントがある脇もはつらつと演じて、体の底上げに貢献していた。雪組メンバーの層の厚さが頼もしく感じられる新人公演だった。

©宝塚歌劇支局プラス2月24日記 薮下哲司



○…花組の華雅りりか、羽立光来(はりゅう・みつき)、朝月希和の3人が、26、27の両日、池田市の逸翁美術館マグノリアホールで「第7回マグノリアコンサート・ドゥ・タカラヅカ」(三木章雄構成、演出)に出演、素晴らしい歌声を披露した。幸いなことに追加公演を見ることができたので、この模様も報告しておこう。

歌には定評のあるこの3人、ほかの花組メンバーが「アーネスト・イン・ラブ」と「リンカーン」に分かれている中、このコンサート組に選ばれ、約二か月間、みっちり稽古を積んで、満を持しての本番だ。

ピアノ一台のシンプルなコンサートで、3人の歌を堪能してもらおうという趣向。会場にちなんで「マグノリアの花の如く」の三重唱から開幕したコンサートは、朝月の「素直になれなくて」羽立のオペラ「トゥーランドット」から「誰も寝てはならぬ」華雅のオペラ「リナルド」から「私を泣かせてください」といきなり英語やイタリア語の歌からスタート。どれも自分の歌にこなしていて、3人のこのコンサートに賭ける意気込みがひしひしとうかがえる。このあともミュージカルメドレーや映画音楽コーナーと自分たちの好きな歌を楽しみながら歌い、本来の歌唱力をふんだんに発揮した。

なかでも羽立が歌った「モーツァルト!」の名曲「星から降る金」は本来女性が歌う歌で男役の歌う歌ではないのだが、低音から高音まで見事な使い分けで、これは鳥肌ものだった。朝月は「ファントム」からの「私は真実の愛」華雅は「スカーレット・ピンパーネル」の「あなたを見つめると」と、娘役それぞれの選曲も、微妙に色分けがあって、しかもどちらにもぴったり合っていた。かと思うと二人で「ロシュフォールの恋人たち」の「双子姉妹の歌」をデュエット、これは華やかだった。もちろん次回花組公演の「ミー&マイガール」のメドレーもあり「ランべス・ウォーク」では大いに盛り上がるなど一時間強ではもったいない充実したコンサートだった。

次回は月組メンバーでの公演が予定されているが、大劇場ではなかなか聞けない実力派のスターたちの活躍の場として、もう少し回数を増やしてほしいと切に思った。

©宝塚歌劇支局プラス2月27日記 薮下哲司


柚希礼音、退団後初コンサート「REON JACK」開幕

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柚希礼音、退団後初コンサート「REON JACK」開幕
9年ぶり!陽月華との名コンビ復活!

昨年5月退団した元星組トップ、柚希礼音の退団後初コンサート「REON JACK」(稲葉太一作、演出)が、11日、大阪・梅田芸術劇場メインホールからスタートした。今回はこの模様を報告しよう。

場内が暗くなると巨大なスクリーンが出現。怪盗REONが、アフリカの星と名付けられたダイヤをまんまと盗み出す様子が映し出される。影絵を使ったダンスや後姿など柚希なのだがなかなかこちらを向かない、満員の場内のじりじりが最高潮に達した時に、アップの柚希が登場、ウィンクすると場内は大歓声。そこへゴンドラに乗った本物の柚希がシルバーのマントを翻して降りてくると、興奮は早くも最高潮となった。いきなり客席おりもあり、なかなか心憎いオープニングだ。

ペンライトを使ったお遊びや、振付指導など在団中のコンサート「REON」のテイストを残したまま、男性ダンサーも加えた、退団後ならではのコンサート。なかでも星組の下級生時代に新人公演などでコンビを組んでいた元宙組トップ娘役の陽月華との9年ぶりとなるコンビ復活が今回の大きな目玉。かつての名コンビぶりを知るものとしては、最後のコンビ作、バウ公演「ハレルヤGO!GO!」からもう9年にもなるのかと感慨にふけりながらも、まさかと思っていた復活がかない、楽しみも倍増といったところ。しかも演出は「ハレルヤ―」の稲葉氏だ。

その陽月、こういうショーに出演するのがなんと退団後初めて。しかし、もともとダンサーとして切れのいいダンスで柚希と踊っていたこともあり、ブランクを感じさせないダイナミックな動きは健在。トークコーナーでも鶴美舞夕、音花ゆりとともに柚希をがっちりささえた。退団後ならではの顔合わせが実現、しかも柚希の男役テイスト満載で、限りなく宝塚テイストにあふれたショー。退団後にしかできない場面もあり、これはもう柚希ならではのコンサートだった。

白眉はなんといっても「REON TANGO」。アルゼンチンのタンゴダンサー、クリスティアン・ロペスとのデュエットは、なんと柚希が男性に扮しての男2人のタンゴ。男性と少年が踊っているような錯覚を覚えるほどで、クリスティアンの豪快なリフトにあわせて踊る柚希のしなやかな動きは思わず見惚れるほどだった。続いて、陽月が登場して男性ダンサーとのセクシーなタンゴ、陽月の見事なプロポーションが際だった。鶴美も絡んで、音花がソロを聞かせるツボを押さえた配置もいい。そして、柚希がスリットの入った黒のドレスに着替え、今度は女性としてクリスティアンと踊るタンゴも素晴らしかった。アクロバティックなリフトで柚希が宙に舞う。見たことのないタンゴだった。柚希が「見よう見まねで踊っていた宝塚時代のタンゴとは違い、踊りながら作っていく本当のタンゴの楽しさを味わいました」と話していた通りの見事なタンゴだった。

宝塚の主題歌メドレーもA、B両バージョンあり、初日はAで「太王四神記」「オーシャンズ11」と続いた。柚希が2階客席まで上がって盛り上がる場面もあって客席はおおいに盛り上がるが、陽月らとの毎回変わるトークも聴きもの。初日は新人公演時代のキスシーンの裏話で大爆笑だった。

フィナーレは柚希自身が作詞、いまの自分を歌った「希望の空」を歌い上げ、裸足でのソロのダンスを披露、緩急自在、女性役という枠が広がっただけで、基本的には何も変わらない、まさに最初から最後まで柚希にしかできないコンサートだった。

©宝塚歌劇支局プラス3月11日記 薮下哲司



北翔海莉、圧倒的なパフォーマンス!「こうもり」と「THE ENTERTAINER」開幕。

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北翔海莉、圧倒的な歌唱力とパフォーマンスで魅了!ミュージカル「こうもり」ショー「THE ENTERTAINER」開幕

ヨハン・シュトラウス作曲の同名オペレッタを宝塚版にアレンジした北翔海莉主演の星組公演、ミュージカル「こうもり」―こうもり博士の愉快な復讐劇―(谷正純脚本。演出)とショー・スぺクタキュラー「THE ENTERTAINER」(野口幸作作、演出)が18日、宝塚大劇場で開幕した。今回はこの模様をあわせて報告しよう。

「こうもり」は、19世紀末のウィーンで初演されたヨハン・シュトラウス作曲のオペレッタ。レハールの「メリー・ウィドウ」とともにオペレッタの代表的な演目だ。日本でもたびたび上演されており、男装の女性が登場する仕掛けがあって元花組の三矢直生や元雪組の平みちが出演した舞台もある。大みそかの舞踏会を背景に、倦怠期のアイゼンシュタイン伯爵とその妻の大人のかけひきに、親友のこうもり博士ことファルケ博士の愉快な復讐がからんで大騒動が繰り広げられる喜歌劇で、舞踏会は華やかだが、ダブル不倫という大人向けの内容なので「清く正しく美しく」の宝塚には無理かなあと思っていたのだが、谷氏はそのへんを大幅に書き換え、ファルケ博士を主人公にしてアイゼンシュタイン侯爵への復讐劇を主軸に展開させた。このオペレッタが本来持つ毒気のある洒落たエスプリはどこかに消えたが、豪華絢爛な舞踏会とシュトラウスの名曲はそのままなので、明るく健康的な宝塚版「こうもり」に生まれ変わった。オリジナルに比べてやや物足りないが、北翔やアデール役の妃海風がうまくて、2人の心地よい歌声を聴いているだけでおつりがくるほど十分楽しめた。

幕開きは礼真琴、妃白ゆあを中心に若手男女のペアが燕尾服とドレスで優雅に踊るワルツの場面から。実はこれが3年前の仮面舞踏会という設定。虹色のこうもりのマントを身に着けたファルケ博士(北翔)が登場して華やかに歌う(吉崎憲治作曲)など宝塚レビューそのもののオープニング。博士と親友のアイゼンシュタイン侯爵(紅ゆずる)はしこたま酔っ払い、侯爵は博士を公園のニケの胸像に縛り付けて先に帰ってしまう。翌日、それがウィーン中の話題になり、ファルケ博士はこうもり博士と町中の笑いものになる。収まらない博士は、侯爵に復讐の機会を狙っていたが、3年後、大みそかに舞踏会が開かれることになり、機会到来と、周到に準備をして侯爵に愉快な復讐を企てる…というのが大筋。

主人公をファルケ博士に設定したことから、アイゼンシュタイン侯爵家の小間使いアデール(妃海)との恋模様を加え、侯爵はダブル不倫ではなく、侯爵が奥方ロザリンデ(夢妃杏瑠)に隠れて夜遊びを画策するも奥方も舞踏会に忍び込んで…という歌舞伎の「身替座禅」風の軽いドタバタに脚色された。3年前の部分もオペレッタでは台詞で説明されるだけなので宝塚オリジナルだ。ストーリーのほぼ半分くらいが舞踏会を中心に展開するため、舞台は華やかそのもの。嘘が嘘を呼び、それを取り繕うおかしみが、このコミック劇の身上。台詞が聞き取れない箇所や、ややオーバーすぎて笑えないところもあるが、これは間合いの問題で、場数を踏めば解決するだろう。舞台が明るいのがなによりで、出演者が揃えばオペレッタは宝塚の舞台によく似合うことを再認識した。

北翔は、その豊かな歌唱力で本領を発揮、大劇場に朗々と響き渡る歌声を聴いているだけで幸せになる。北翔あってこその企画で、まんまと成功させてしまうのも改めてすごい。相手役の妃海も高音域をフルに生かした見事なソプラノを披露、満員の客席からも自然に拍手が起こる。毎日、これを歌うのは至難の業だと思うが、それができることに感嘆。二回公演が多いので、こんな役こそ役替わりが必要だと思った。

紅は、歌よりお笑い担当といった感じだが、演技も歌唱も本人比で格段の成長ぶり。冒頭の酔っ払いシーンから北翔と対等に渡り合い、息の合ったコメディー演技も自然で、その存在感はずいぶん大きくなってきた。「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」で一皮むけたような気がしている。今回は役柄的にも紅にぴったりだった。

ほかに大きな役は専科・星条のオルロフスキー公爵と十輝いりすのフランク刑務所長、弁護士の七海ひろき、アイゼンシュタイン侯爵家の執事アルフレードの礼、娘役ではロザリンデの夢妃とアデーレの妹イーダの綺咲愛里といったところ。このオペレッタで一番有名な「シャンパンの歌」は星条が歌う。星条はエキセントリックなコミカル演技はお手の物だが、楽しんで演じている感覚になればさらによくなるだろう。その点、十輝の朴訥としたユーモアの間合いはなかなかで、最初の勘違いはじめ、舞踏会での紅とのちぐはぐなフランス語の会話は大いに笑わせてくれた。七海も軽い役だが、達者なところを見せた。礼はそれほどしどころのある役ではないが声ですぐにわかるのはさすが。夢妃は聞かせどころがなかったのが残念だったが好演、綺咲は役柄にあわせて可愛く演じた。あと専科の汝鳥伶が、ファルケ博士の恩師ラート教授役で、物語を締めくくる見事なソロを聴かせた。それにしてもみんな達者だ。


一方、ショー・スぺクタキュラーと銘打った「THE ENTERTAINER!」は、期待のレビュー作家、野口幸作氏の大劇場デビュー作。クライマックスの102人の燕尾服のラインダンスはじめ、処女作とあってやりたいことをすべて出し切った感はあるが、かつて宝塚でも故小原弘稔氏が得意としたバズビー・バークレイ調のハリウッド・ミュージカル的レビューの見事な現代的再現になっていて、色使いが洗練されていてスマート、緩急自在のテンポも心地よく、もちろん北翔のエンタテーナーぶりもフルに生かし、久々に溜飲のさがるレビューだった。

オープニングから実にいい。濃いブルーの極楽鳥スタイルの8人の「ブルーローズ」が袖から登場、そこへ星型のゴンドラに乗った北翔が舞い降り、一瞬にして衣装をチェンジすると全員が白の燕尾にドレスというゴージャスなプロローグへと展開する。濃いブルーから白に展開する色使いが実にスタイリッシュだ。ショー自体、スターを夢見る青年(北翔)が、さまざまな経験をしながらエンターテイナーに成長していくというストーリー形式になっていて、プロローグが終わった後にすぐに102期生のラインダンスが登場する。大階段に102の人文字、桜色の衣装がなんとも華やかでかわいい。

かつてトミー・チューンが月組のために書き下ろした「BROADWAY BOYS」と雰囲気が似ているが、あちらは初舞台生のロケットをクライマックスに持ってくるように作られていたのに対して、今回はそれを逆手に取った展開。スターにあこがれる北翔は、オーディションの場面ではタップダンス、ジャズ、スパニッシュを披露、あっというまに新作の主役に抜てきされ、舞台は情熱的なラテンショーに、ショーが最高潮に達したところで男役は燕尾、娘役は燕尾ダルマを着た102人のラインダンスへと展開する。ホリゾントに大きなミラーをしつらえ、客席からは倍の200人が踊っているように見せるのも、決して新しい手法ではないのだが、最近とんとなかったので新鮮に映る。ダンスのフォーメーションも鮮やかで宝塚ならではの人海戦術の魅力が堪能できた。

音楽は終始、耳になじみのあるミュージカルの曲をふんだんに使っているのも心地よい。ラインダンスが終わったあと北翔一人が残り、せり上がってきたガラス張りのピアノに座って弾き語りという趣向も。まさにエンターテイナー・北翔のワンマンショーといった感じ。弾き語りの歌がそのまま妃海や紅に歌い継がれ、次の飛翔の場面に展開していくのも心憎い。若手男役勢ぞろいのアイドルユニットの場面はおまけだが、そのあとの紅の場面から北翔、妃海の「Jupiter」をバックのデュエットへとつないでいくあたりも定番だが見ごたえがあった。

星条、十輝の巨女コンビという笑える場面もあるが、とにかく最初から最後まで北翔のエンターテイナーぶりを堪能するショーで、デビューながらそれを見事にやり遂げた野口氏のみずみずしい手腕に新たなショー作家の誕生を見た思いだ。

©宝塚歌劇支局プラス3月20日記 薮下哲司


月組次期トップ、珠城りょうのプレお披露目全国ツアー公演が大阪からスタート

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月組次期トップ、珠城りょうのプレお披露目全国ツアー公演「激情」―ホセとカルメン―
「Apasionado‼Ⅲ」が19日、大阪から開幕!

9月4日付で龍真咲が退団するのにともなう月組次期トップスターが珠城りょうと発表されたが、その珠城が主演する全国ツアー公演、ミュージカル・プレイ「激情」―ホセとカルメン―(柴田侑宏脚本、謝珠栄演出、振付)とファナティック・ショー「Apasionado‼Ⅲ」(藤井大介作、演出)が、19日、梅田芸術劇場メインホールからスタートした。今回はこの模様を報告しよう。

前回の月組公演で珠城の二番手が確定、その後龍の退団発表があり、珠城の次期トップ就任も時間の問題と思われていたが、公演直前の発表となり、超満員となった初日の会場は、お祝いムードであふれ、開幕前の珠城の公演アナウンスには大きな拍手が沸き起こった。

珠城は2008年初舞台の94期生。同期生には月組の早乙女わかば、星組の麻央侑希らがいる。当初から長身の凛とした佇まいに堅実な歌唱力と演技力が買われ、研3のときに「SCARLET PINPARNEL」新人公演で主役に大抜擢。その後も「エドワード8世」「ロミオとジュリエット」「ルパン」と新人公演の主演に断続的に起用され、バウ公演も「月雲の皇子」「Bandito」と二度主演を演じるなど順調にスター街道を歩んできた。入団9年目とは思えない地に足のついた安定感がこの人の身上。研9でのトップ就任は、最近では研7でトップとなった天海祐希以来のスピード出世となる。

その珠城がトップ就任前に全国ツアーで主演する、プレお披露目公演は芝居、ショーとも再演もの。「激情」は、ビゼー作曲のオペラで有名な「カルメン」のミュージカル版で、原作者メリメの視点からドン・ホセを中心にしたストーリー。1999年に姿月あさと、花總まり時代の宙組で初演、2010年に柚希礼音、夢咲ねねの星組で全国ツアー作品として再演され今回が3度目。

実直な青年が自由奔放な女性と激しい恋に落ちるというストーリーは、月組としては前回の「舞音」で見たばかり。ヒロインが同じ愛希れいかということもあり、またかという感じがなきにしもあらずだったが、カルメン役の愛希が「舞音」のマノン以上に素晴らしく、歴代の二人をしのぐほどのうまさで、若い珠城を見事にサポートした。

珠城は、ホセの純粋な部分を素直な演技でストレートに表現、前半はみていても安定感があり安心して見ていられた。雰囲気的にバウ公演「Bandito」のサルバトーレ・ジュリアーノも思いださせた。ただ中半から山賊の仲間に入り、カルメンと許嫁のミカエラ(早乙女わかば)とのあいだで葛藤する部分あたりの心理描写がやや浅く、カルメンを刺殺してしまうラストのクライマックスがいまいち感情移入できなかった。魔性の女性の魅力にどんどんおぼれていくというこの手のストーリーを宝塚的な純愛でまとめるのは至難の技。姿月、柚希でさえも難役だった、珠城もそのあたりの微妙な感覚はまだまだだったが、珠城の若さは一番の武器でもあり、これからまだまだ進化していく予感がした。

一方、カルメン役の愛希は、相手役が上級生の龍ではないということもあるのかもしれないが、のびのびと演じていてそれがまさしくカルメンそのもの。フラメンコを踊る場面など、その卓越したダンステクニックで目が釘づけになるほどだった。作品ごとにどんどん魅力的な娘役になっていく、まさに今が旬だ。次回の大劇場がおおいに楽しみだ。

メリメ役は凪七瑠海。若手の珠城をサポートする側にまわったが、メリメ役と山賊のリーダー、ガルシアも演じているのだが、この二役がどちらもこれまでの凪七のベストともいうべきグッドパフォーマンス。原作者としてホセの魅力を語るメリメの一言一言に説得力があり、主役を立てながらも凛とした佇まいで自身も強烈にアピールした。ガルシアの男くさい演技も、珠城と対照的な大人の魅力と貫録で見せた。こんな凪七をもっと早く見たかったが、いまからでも決して遅くはない。今後も若い珠城を支えていいサポートをしてほしい。

あとはミカエラの早乙女わかばとエスカミリオの暁千星が大きな役。早乙女は「風と共に去りぬ」でいえばメラニー的な役どころのミカエラを心込めて印象的に演じ好演。暁は歌やダンスの切れはいいが、男役としてはまだ少年っぽいところが抜けきれず、カリスマ的な闘牛士エスカミリオというにはちょっと幼すぎる感じ。宝塚の二枚目男役としての資質はあるのでこれからに期待したい。

ジプシーのダンカイレを演じた輝月ゆうまのうまさが際だったのと、ジプシーたちと対立する実業家を演じた蓮つかさがワンポイントだが印象的だった。

一方、ショーも2008年、瀬奈じゅん時代の月組で初演、2009年に宙組の大空祐飛のトップ披露として博多座で再演、2012年に中日劇場でも上演された人気作。氷の女王レイナに扮した愛希のダンスがイントロとなって幕が開くと巨大なマントに包まれた珠城が登場、マントが引き抜かれ、かっこいい男役に変身するおなじみのプロローグから、男役スターが全員女に扮して歌い踊る熱帯夜など懐かしいシーンが連続。珠城を中心に凪七、宇月颯、暁らが大車輪で活躍のショー。ここでも愛希の活躍が際だち、百獣の王ライオンに扮した珠城とメスシマウマに扮した愛希のダンスが一番のみどころ。芝居といいショーといいトップ娘役愛希がメーンの公演といってもいいぐらいだった。

©宝塚歌劇支局プラス3月21日記 薮下哲司


星組若手メンバーの達者さに乾杯!「こうもり」新人公演

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紫藤りゅうを中心に星組若手メンバーの達者さに乾杯!「こうもり」新人公演


期待のホープ、紫藤(しどう)りゅうが初主演した星組公演、ミュージカル「こうもり」―こうもり博士の愉快な復讐劇―(谷正純脚本、演出)(新人公演担当演出、町田菜花)、5日、宝塚大劇場で行われた。今回はこの模様を報告しよう。

ヨハン・シュトラウス二世作曲によるオペレッタ「こうもり」をもとに、谷氏が宝塚バージョンに脚色した星組公演、本公演は北翔海莉、妃海風はじめ実力派ぞろいの星組メンバーの好演で、連日、充実した舞台を展開しているが、新人公演も星組若手の芝居心あふれる達者な歌と演技で大いに楽しめる舞台となった。

今回主演に起用されたのは紫藤りゅう。前回の「ガイズ&ドールズ」新人公演で紅ゆずるが演じたネイサン・デトロイト役を手堅く演じて注目され、今回初主演となった。キュートな笑顔が印象的な紫藤、初詣ポスターに起用された時から注目してきたが、やっと本領発揮の大舞台がやってきた。ファルケ博士役は本役の北翔が、圧倒的な歌唱力で魅了しているだけに、ここは若さで勝負するしかない。紫藤は、まさにその通り、はつらつとした若さを武器に初々しい博士役を作り上げた。大学生がコンパの帰りに悪さをして、その仕返しを仲間みんなやってやろうみたいな感覚だ。いかにも新人公演らしい「こうもり」だった。北翔が楽々と歌っているので簡単そうに聞こえる歌が実は難曲であることが紫藤の歌を聞くとよくわかる。しかし紫藤も低音から高音までをうまく歌い分けて大健闘だった。なにより舞台をいかにも楽しんでいる感じが客席まで伝わってきたのが何よりだった。

アデール役の真彩希帆(本役・妃海)は、「ガイズ&ドールズ」新人公演のアデレイド役が素晴らしく、いつでも出番OKの実力を示したが、今回もその見事な歌唱力と演技力で実力をフルに発揮、安心して見ていられた。アデレイドのような大人の女性も今回のような初々しい娘役もどちらも娘役としての品位を失わずに表現できるのはたいしたものだ。

紅が演じたアイゼンシュタイン侯爵は綾凰華が起用された。目鼻立ちのくっきりした二枚目タイプで、前回の「ガイズ&ドールズ」新人公演では本公演で麻央侑希が演じた役、その前は礼真琴が演じた役を2回連続で演じており、今回の起用は妥当という感じ。紅のようなコミックな笑いの間合いはまだまだだが、いい雰囲気をもっており、これからの舞台を注目したい。後半の留置場の場面で手錠が壊れるというハプニングがあり、それをうまく笑いでカバーしたのも高得点だった。

今回の大きな収穫はオルロフスキー伯爵(星条海斗)役を演じた遥斗勇帆とフランク(十輝いりす)役の桃堂純の2人。遥斗は、元星組トップだった実力派、香寿たつきをさらにスケールを大きくした感じの雰囲気を持っており、達者な星条の役を、星条からアクを抜いて素直に演じながらも自然の笑いを取るなかなかの好演。一方、桃堂は、十輝の思い出しただけでも笑えるおかしみの間をただコピーするだけでなく、とぼけた味を自分独自のものとして演じて達者なところを見せた。綾とのフランス語での会話の場面で「ベルサイユのばら」を出してきたのには大笑いだった。

ほかに歌ではロザリンデ役(夢妃杏瑠)の華鳥礼良がさすがの実力を見せ、ラート教授(汝鳥伶)の音咲いつきのソロも聴かせた。笑わせたのは例の手錠の場面での看守フロッシュ役(美稀千種)を演じた天路そら。若手メンバーでは麻央侑希が演じたポロニウムに入った蒼舞咲歩が凛とした表情とシャープな動きで印象的だった。イーダ(綺咲愛里)の小桜ほのかは、雰囲気はよくでていたがメイクに工夫を。本公演でイーダを好演している綺咲はレブロフ伯爵夫人(万里柚美)にまわったが、こういう大人の女性はまだ似合わない。綺咲はまだまだ娘役でいてほしい。


©宝塚歌劇支局プラス4月6日記 薮下哲司



◎…「毎日文化センター(大阪)」では「宝塚歌劇講座~花の道伝説~」(講師・薮下哲司)春季講座(4月~9月)の受講生を募集中です。毎月第4水曜日の午後1時半から3時、大阪・西梅田の毎日新聞3階の毎日文化センターで、宝塚取材歴35年の薮下講師による最新の宝塚情報や公演評、時にはゲストをまじえての楽しいトークなど、宝塚ファンなら聞き逃せないマル秘密情報満載です。4月は25日が開講日。7月には受講者とともに宙組公演「エリザベート」観劇ツアーも予定しています(別料金)。ふるってご参加ください。受講料(6回分18150円)。詳細問い合わせは☎06(6346)8700同センターまで。



龍真咲 プレサヨナラ公演、コンサート「VOICE」大阪公演開幕

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     ©宝塚歌劇団



龍真咲 プレサヨナラ公演、コンサート「VOICE」大阪公演開幕

9月4日付退団を発表している月組トップスター、龍真咲の大劇場サヨナラ公演を前にしたコンサート「VOICE」(小柳奈穂子作、演出)大阪公演が、8日、シアタードラマシティで開幕した。今回はこの模様を報告しよう。

龍のコンサートは、昨年の「DRAGON NIGHT!」の記憶がまだ新しく、まだそれほど日にちも立っておらず、最初、聞いたときは思わず「またか」と思ったのだが、「ルパン三世」「オイディプス王」「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」とこのところ絶好調、愛希れいかのディナーショーも好評だった小柳氏の初のショー演出ということで、龍の新たな魅力がうまく引き出されるのではとおおいに期待したが、「VOICE」のタイトルで龍独特の声をテーマに、龍の個性をストレートにだした濃いコンサートだった。


コンサートは二幕構成。一幕は「WE ARE VOICE」というタイトルのミュージカル構成。遠い未来、ルリ(美弥るりか)とミツキ(海乃美月)のカップルが劇場通路から登場。真っ暗な舞台に向かって懐中電灯をもって探索にやってくる。何かの廃工場(二村周作装置)らしいが、そこには何体もの人間の形をしたロボットが眠っていた。二人が声をかけると起き上がったROBOTたちは、ここは劇場で、自分たちは未来に声を届けるために作られた「VOICE ROBOT」だといい、リーダーのMASA-O(龍)を呼び出す。中央から光り輝く照明に照らされて現れたMASA-Oは妖精パックの扮装で「PUCK」の主題歌「ミッドサマー・ラブ」を歌いながら登場。歌を知らない2人を教育するために一夜限りのステージを展開する。

「ロミオとジュリエット」はじめ「明日への指針」「1789」「舞音」にショーなど龍が大劇場で主演した作品の主題歌を歌い継ぎながらのステージ。歌うこと、踊ることを学んだルリとミツキは最後に「ロミオとジュリエット」の「いつか」をデュエットする。使命を果たしたMASA―Oは「PUCK」の「ラバーズグリーン」を歌いながら去っていく。龍の宝塚生活の集大成にもなっていて、プレサヨナラにふさわしい選曲。そして、歌うことは自由の表現だというテーマも短い中に鮮明に表現されていて、見終わった後、さわやかな気持ちになれるショーに仕上がっていた。


二部は5部に分かれていて、古い劇場からカラフルでモダンなステージに変身した舞台で展開する最初の「VIVID」は、紫のジャケットを着た龍を中心にした華やかなプロローグ。続いて、メンバー紹介があって各自が特技を披露するという趣向が面白い。千海華蘭の一輪車、光月るうの縄跳び、海乃のバク天、白雪さち花の男役連を飛び越えて走るアスリートぶり、紫門ゆりやのクラリネットなどなど。時々失敗するのがご愛嬌。それを、龍が鋭く指摘「何やってんのん。そんなん特技ちゃうやん」と大阪弁でチャチャを入れるのも楽しい。
このあと龍が全員を並ばせて採点、一人だけ「えこひいき」する場面があって、毎回そのメンバーが変わり、龍がアドリブでほめ殺しする楽しみもある。

続く「VOYAGE」は「80日間世界一周」のテーマ曲に乗って、龍がオスカルからはじまってビル、仁、スカーレットとさまざまな国のヒーロー、ヒロインを演じる七変化。舞台上でドタバタと早変わりするコミックな場面だ。最後は、龍がいま一番行きたい場所というコンセプトで「大阪」をテーマに、阪神タイガースファンやヒョウ柄のおばちゃんたちをバックにべたな大阪ソングで盛り上がった。この辺はまさに龍ならではノリだ。

続く「VARIETY」は、「キャッツ」のラムタムタガーよろしく純白の百獣の王ライオンに扮した龍が、ロックに編曲した「鏡獅子」の音楽にあわせて毛ぶりよろしくしっぽ回し?に挑戦するというユニークな場面。相手役の海乃のほかに美弥、紫門、千海、朝美の4人が女役でからむ。

ショーが最高潮になった後、ここから客席のファンもダンスパフォーマンスに参加する「VIBRATION」へ。紫門らが客席に向かって振りの指導をしたあと龍が登場、客席に向かって突っ込みをいれながらの楽しいコーナー。おおいに盛り上がった後は、いよいよフィナーレ。出演者全員がラインアップするなか龍がこのコンサートの主題歌「VOICE」を歌い上げて幕となる。

龍は「えこひいきと説教が9月までの私のテーマ。好き放題、言いたい放題、やりたい放題。最後まで私らしく元気にやっていきたい」と宣言、天衣無縫な龍を前面に押し出したコンサートだった。

一方、この日、宝塚大劇場では4月29日から開幕する花組公演「ME AND MY GIRL」の前夜祭が行われ、花組の明日海りお、花乃まりあらのパフォーマンスのあと、初演の剣幸、こだま愛、再演の麻乃佳世、再々演の瀬奈じゅん、彩乃かなみが弁護士パーチェスター役を当たり役とした未沙のえるの司会で登場、思い出話に花を咲かせた。剣とこだまは主題歌も披露、当時と変わらぬ素晴らしい歌声で満員のファンを魅了した。フィナーレはもちろん「ランべス・ウォーク」を全員で合唱、初日を前に、花組公演をおおいに盛り上げた。
今回の花組公演はビルとサリー以外の主要配役がダブルキャストでAB両パターンあるが、前夜祭では両パターンそれぞれの主要配役がその衣装で勢ぞろい、ジャッキーを演じる柚香光と鳳月杏はピンクのドレス姿で登場、柚香がすらりとしたプロポーションで魅了すれば、鳳月はなんともいえない女っぽさで対抗と、いずれ劣らぬ美しさを競い合っていた。どちらのバージョンも必見だ。

©宝塚歌劇支局プラス4月9日記 薮下哲司

◎…「毎日文化センター(大阪)」では「宝塚歌劇講座~花の道伝説~」(講師・薮下哲司)春季講座(4月~9月)の受講生を募集中です。毎月第4水曜日の午後1時半から3時、大阪・西梅田の毎日新聞3階の毎日文化センターで、「宝塚歌劇支局」でおなじみの宝塚取材歴35年の薮下講師による最新の宝塚情報や公演評、時にはゲストをまじえての楽しいトークなど、宝塚ファンなら聞き逃せないマル秘情報満載の講座です。4月は25日が開講日。7月には受講者のみなさんとともに宙組公演「エリザベート」観劇ツアーも予定しています(別料金)。ふるってご参加ください。受講料(6回分18150円)。詳細問い合わせは☎06(6346)8700同センターまで。




東宝版「1789」 と 「グランドホテル」 開幕

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花總まり、貫録のマリー・アントワネット!東宝版「1789」開幕
「グランドホテル」も23年ぶりにリニューアルして登場

昨年、月組が日本初演したフレンチ・ミュージカル「1789」の東宝版(小池修一郎潤色、演出)が、9日、東京・帝国劇場で開幕した。アントワネットが花總まりと凰稀かなめ、オランプが夢咲ねねと神田沙也加のダブルキャストという話題の公演だ。一方、1993年に涼風真世のサヨナラ公演として月組で上演されたミュージカル「グランドホテル」も新演出(トム・サザーランド演出)で23年ぶりに登場、こちらはレッド、グリーンの2バージョンがありグリーンに安寿ミラ、樹里咲穂が出演、両バージョン通して湖月わたるがダンサーとして出演している。今回はこの2つの公演の模様を報告しよう。

まず「1789」は、革命前夜のフランスを舞台に、農民の青年ロナンが、貴族の将校に家族を目の前で殺されたことからパリに出奔、ロベスピエールら革命家と知り合い、バスティーユ監獄陥落に大きな功績を残し、自由と平等のために自ら犠牲になるまでを描いたミュージカルで、大筋は宝塚版と同じ。宝塚版が、クライマックスのバスティーユ監獄襲撃の場面から回想に入ったが、東宝版は、時系列通りに展開。上演時間は3時間で宝塚版と同じだが、フィナーレがないのでロナンの妹ソレーヌのナンバーなどかなり新たな場面が増えた。ロナンと王妃付き養育係オランプのラブストーリーが主軸となり、2人を中心として革命家や王室側のさまざまな人物が絡む群像劇という構成で、龍真咲が演じたロナンと愛希れいかが演じたアントワネットを対比させたことで軸がぶれてしまった宝塚版より軸がしっかりしている分ずいぶん座りのいいつくりとなった。

私が見た公演は、アントワネット・花總、ロナン・小池徹平、オランプ・神田という配役。

アントワネット役の花總は圧倒的な貫録で、豪華なドレスをとっかえひっかえ着替えて、存在感は華やかそのもの。冒頭の変調の多いロックは花總の声質には似合わなかったが、後半の歌い上げるソロは情感がこもってさすがだった。「レディ・べス」「エリザベート」そしてこれと、いまや王妃女優として右に出る者はいないのではないか。

この作品でのアントワネットは、取り巻きに利用され、自分自身を見失っていたという風に描かれている。実際、そうであっただろうと推測されるが、亡命を勧めるフェルゼンの提言を断り、フランスに残る決心をする場面は、思わず「ベルサイユのばら」を彷彿させた。実際は亡命に失敗しており、それが民衆の怒りに火を注ぐことになる。この事件はフランス人なら誰でも知っていることで、貴族側から描いた「ベルばら」ならまだしも、この作品でその事件をなかったことにするのは感心しない。このくだりはフランス版にはなかったのではないかと推察する。ただ主軸がロナンとオランプなので、それほど気にならないことも確か。アントワネットとロナンとの直接のかかわりはパレロワイヤルの密会シーンだけ。宝塚版と同じなのだが、もっと徹底していて顔を見合わせることも、言葉を交わすわけでもなかった。

ロナンは小池徹平と加藤和樹のダブルキャスト。小池のロナンは、若さのバイタリティーを身体全体から発散、大柄の出演者が多い中かなり小柄に見えるが、力づよい台詞と歌、切れのある動きで大舞台のセンターを十分埋める存在感があった。相手役オランプの神田は、高音までよく伸びるなめらかな歌唱が心地よく、演技も緩急自在で、花總とは違ったオーラと実力で魅せた。

宝塚版で珠城りょうが演じたロベスピエールは古川雄大。今年の「エリザベート」でルドルフが決まっているミュージカル界のホープだ。長い金髪のカツラがよく似合い「街はわれらのもの」のソロパートが聴かせた。凪七瑠海が演じたデムーランは渡辺大輔。彼も「ロミオとジュリエット」や「バイオハザード」で柚希礼音の相手役に決まっている期待株。黒髪の長身が印象的。沙央くらまが演じたダントンは上原理生。宝塚版では三人がソロを一つずつ歌ったが、こちらではすべてのナンバーを3人が分け合って歌う。

美弥るりかが演じたアルトワ伯は吉野圭吾。宝塚版よりさらに権謀術数にたけた黒幕として象徴的に描かれており、吉野も思いきりオーバーに演じているがやや臭すぎた。もう少し自然な方がいい。その点、星条海斗が演じたペイロール伯に扮した岡幸二郎の方が、岡と思えないほど控えめに演じ、かえって凄みをだしていた。

女優陣ではロナンの妹ソレーヌに扮したソニンが、達者な演技とパワフルな歌で強烈なインパクト。デムーランの恋人役リュシルには元雪組の則松亜海が入り、歌にダンスにのびのびとしたところを見せた。

 音楽監督や振付など宝塚版と同じスタッフだが、装置は松井るみで宝塚版とは一新。舞台中央の巨大なパネルが上がり下がりして、宮廷や監獄に変わる。帝劇の舞台によくあった豪華な装置だった。音楽は生演奏ではなく珍しくすべてテープ。ロックミュージカルらしい措置だがところどころノイズが入ったりするのは一考の余地あり。

オランプを夢咲ねねが演じたバージョンについては後日報告しよう。

一方「グランドホテル」は1932年のアカデミー作品賞を受賞したアメリカ映画の舞台化で、ベルリンのグランドホテルを舞台に、一夜の泊り客のさまざまな人生模様を描いた群像劇。1989年にブロードウェーで初演。1993年にトミーチューン氏を演出に招いて月組で公演した作品のトム・サザーランドによる新演出バージョンだが、設定も登場人物も音楽(モーリー・イェストン作曲)も同じ。装置とそれにともなう人の出入りが変わったぐらいで中身もほぼ同じだった。ただレッドバージョンとグリーンバージョンがあり、出演者ががらりと変わるのとともに結末も異なるというのが新趣向。月組公演は希望の光が見えるラストになっていたが、どんな結末かは見てのお楽しみにしておこう。

グリーンは、月組公演で涼風真世が演じた会計士クリンゲラインが中川晃教。映画でグレタ・ガルボ、月組では羽根知里が演じた伝説のバレエダンサー、グルシンスカヤに安寿、天海祐希が演じたその秘書ラファエラが樹里、久世星佳が演じたガイゲルン男爵には宮原浩暢、麻乃佳世が演じた若きタイピスト、フレムシェンには昆夏美という配役。

序曲が始まるとともに懐かしい月組公演の舞台が脳裏に甦る。死の宣告を受け、長年勤めていた会社を退職、ホテルにやってきたという設定のクリンゲラインは中川が演じるには、やや若すぎるような気がしたが、歌唱の表現力は相変わらず見事で、人間味あるクリンゲラインを創造した。

グルシンスカヤの安寿は、コートさばきなど立ち居振る舞いからすでに大スターの貫録と品格を漂わせ、ぴんと張った力強い台詞と歌で、周囲の空気を一瞬にして自分のものにした。芝居で観るのは久しぶりだったが、見事なグルシンスカヤだった。秘書のラファエラに扮した樹里は、彼女の明るい個性から言うと少し違う陰のある役だが、それを逆手にとって、意外な役作りで臨み、樹里らしいラファエルだった。

「ロミオとジュリエット」でいえばさしずめ「死」のようなダンサーが湖月。日本公演オリジナルの役だ。オープニングから妖しい雰囲気で登場。劇中ではガイゲルン男爵の宮原と「愛と死のボレロ」を官能的に踊る。「CHICAGO」アメリカカンパニーへの出演以降、自身のようなものが身体全体にあふれ、ますます大きくなった感じの湖月だ。

レッドバージョンはクリンゲラインが成河、グルシンスカヤが草刈民代、ラファエラが土居裕子、ガイゲルン男爵が伊礼彼方、フレムシェンが真野恵里菜という配役。第一次大戦と第二次大戦の間の揺れ動く世情を垣間見せながら展開する、大人のミュージカルだった。

©宝塚歌劇支局プラス4月16日記 薮下哲司

◎…「毎日文化センター(大阪)」では「宝塚歌劇講座~花の道伝説~」(講師・薮下哲司)春季講座(4月~9月)の受講生を募集中です。毎月第4水曜日の午後1時半から3時、大阪・西梅田の毎日新聞3階の毎日文化センターで、「宝塚歌劇支局」でおなじみの宝塚取材歴35年の薮下講師による最新の宝塚情報や公演評、時にはゲストをまじえての楽しいトークなど、宝塚ファンなら聞き逃せないマル秘情報満載の講座です。4月は27日が開講日。7月には受講者のみなさんとともに宙組公演「エリザベート」観劇ツアーも予定しています(別料金)。ふるってご参加ください。受講料(6回分18150円)。詳細問い合わせは☎06(6346)8700同センターまで。


明日海りお、ビルに新しい風「ME AND MY GIRL」8年ぶり大劇場で再演

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©宝塚歌劇団



明日海りお、ビルに新しい風「ME AND MY GIRL」8年ぶり大劇場で再演

明日海りおを中心とした花組によるミュージカル「ME AND MY GIRL」(小原弘稔脚本、三木章雄演出)が、29日、宝塚大劇場で開幕した。今回はこの公演の初日の模様を報告しよう。

剣幸による月組初演から29年、再演につぐ再演ですっかり宝塚の代表作のひとつとなった「ミーマイ」こと「ME AND MY GIRL」だが、大劇場では瀬奈じゅんの月組再演から8年ぶり。久々に大劇場でみると、生オケの臨場感、群舞の華やかさ、コーラスの厚みがこのミュージカルの楽しさに輪をかけて、宝塚ならではのハッピーミュージカルであることを再認識させてくれた。明日海りおのビルは、下町育ちのがらっぱちなところが、品のよさで邪魔をするのではと懸念したのだが、予想以上のはじけっぷり。花組全体を引っ張った。

オリジナルの1985年ロンドン再演版は、人気コメディアン、ロバート・リンゼイのための作品で、もっと小人数のこぢんまりとしたミュージカルコメディ。ブロードウェーで幻想シーンのダンスが加わってショーアップされたが、宝塚版はさらに華やかにゴージャスな味つけが施された。ただもともとのテーマである階級社会への風刺はかなり薄め、ビルとサリーのラブストーリーに焦点があててあるのは宝塚ならでは。

下町育ちのビルは、貴族の落とし胤であることがわかり、遺産相続のために紳士教育を受けることになる。彼にはサリーという将来を約束した恋人がいるのだが、結婚相手は家柄にふさわしい女性でないと遺産が受け取れないことがわかり、ビルは遺産よりも恋を選ぼうとするのだが…。もうすっかりおなじみとなったストーリーがテンポよく展開する。

登場人物が少なく、大人数の宝塚には向かないはずなのだが、これだけの人気ミュージカルになりえたのはやはりノエル・ゲイによる音楽のすばらしさに負うところが大きい。一度聴いたら口ずさまずにはいられない名曲の数々がてんこもり。1937年初演、もとは80年も前のものなのだが、この時代の曲は宝塚に実に似合う、まさに王道ミュージカルである。

剣幸、天海祐希、久世星佳、瀬奈じゅん、霧矢大夢、真飛聖、龍真咲とそうそうたるメンバーが演じてきたビルに挑戦した明日海は、もともと品のいい青年が似合うきゃしゃなタイプで、ガラの悪い下町育ちの青年を演じるのは無理があるかなあと思っていたのだが、満座の上流階級の人々をけむに巻く登場シーンから、しっかりと作り込んで臨み、違和感がないどころか、楽しんで演じている感じがよく伝わり、時々アドリブも加えるなど余裕たっぷり。見ているこちらまで気持ちが和んだ。

初日の舞台では、ヘアフォード邸に一緒に連れてきた恋人サリー(花乃まりあ)を呼びに行くくだりで、屋敷の扉が開かないというハプニング、ジェラルド役の水美舞斗が手伝うがまだあかず、たまりかねた?ジャッキー役の柚香光が飛んできて豪快にドアをたたいてやっと開き、満員の客席からはやんやの拍手と大爆笑、これで緊張感が一気にほぐれたのも確かだった。とにかく細かい演技が丁寧で、二幕の図書館の場面のマントさばきで明日海流の工夫を加えるなど、役への取り組み方が半端ではない。なめらかな独特の歌唱はいまさらいうまでもない。聞かせどころの「街灯によりかかって」は特によかった。

相手役サリーを演じた花乃は、下町娘らしい庶民的な雰囲気をうまくつくりあげて、まさにぴったり。誰かに似ていると思ったらプログラムの広告の綾瀬はるかだった。「一度ハートを失くしたら」のソロも心を込めて無難に歌い上げた。

役が少なく、この公演も例によってこの二人以外の主要人物はダブルキャスト。初日はAパターンでジョン卿が芹香斗亜、ジャッキーが柚香、ジェラルドが水美、マリア公爵夫人が桜咲彩花、弁護士パーチェスターが鳳真由という配役。

芹香のジョン卿はひげをたくわえて貫録たっぷり。「アーネスト・イン・ラブ」で明日海と互角に渡り合ったあとなので、明日海とのかけあいも呼吸ぴったりだった。ジャッキーの柚香は、最初のナンバーの音程が不安定で思わずハラハラしたが、その圧倒的な存在感は見事。「新源氏物語」などで大役の場数を踏み、自分の立ち位置がわかってきたようだ。ジェラルドの水美も、名前の通り、水も滴る美青年とはこの人のことかと思わせるほどの美しさ。演技的にも歌唱にも押し出しが出てきた。今回の大きな収穫の一つはマリア公爵夫人の桜咲。この役はうまくやれば作品全体を支配できる大きな役で、宝塚ではさすがにそこまではできないが、明日海との絡みも凛として立派にこなし、公爵夫人らしい品の良さも醸し出していた。儲け役パーチェスターはこれが退団公演となる鳳。彼女も予想をはるかに上回る出来で、これまでうまく使われなかったのがもったいなかったと残念に思った。

あとはBパターンでジョン卿を演じる瀬戸かずやがランべスキング、ジャッキーの鳳月杏がランべスクイーン。天真みちるがヘザーセット(渋めの押さえた演技で好演)。パーティーで登場するソフィアに華雅りりか、メイに城妃美伶といったところがメインキャスト。コアなところでランべスの街角で電報配達の男に優波慧、ガス灯係が綺城ひか理と新人公演のビル役2人が演じている。この二つの役はかつてから期待の新星が演じることで有名だ。

ところで、この作品、誰一人悪人が出ないのも特徴で宝塚にぴったりの演目だが、私個人としては、ラストはあまり気に入っていない。ビルとサリーは堅苦しい貴族の生活から逃れて下町で自由に暮らすという結末の方がハッピーエンディングだと思うからだ。ビルとサリーは結ばれるが、遺産と同時に貴族という階級も選択する。このあと本当の幸せはつかめたのかどうか。それこそ後日談が見たいものだ。

フィナーレは、まずロケットから。センターに位置する亜蓮冬馬がひときわ目立った。ついで瀬戸と桜咲が銀橋で主題歌を歌い、続いて大階段中央に芹香、鳳月、柚香の3人が黒燕尾でかっこよく登場、それぞれポーズをとったあと舞台前面で水美ら男役ダンサーが加わって華やかに群舞、明日海と花乃のデュエットダンスにつないだ。ゴールドの豪華な衣装がまぶしい。エトワールは芽吹幸奈、あとはそれぞれ役にもどってのパレードとなる。

明日海は「前夜祭でこの作品を作り上げてこられた上級生のお話を伺って、素敵な作品を演じられることの嬉しさと共に大変なプレッシャーも感じましたが、演出の三木先生の納得できないことを納得できないままやるのはやめようという一言が追い風となりました。きょうはいろいろハプニングもありましたが、無事終えることができました。花組一丸となって進化していきますので、何度でもご覧ください」とあいさつ。客席は総立ちで大きな拍手を送っていた。

©宝塚歌劇支局プラス4月30日記 薮下哲司


真風涼帆主演の宙組ミュージカル・プレイ「ヴァンパイア・サクセション」開幕

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    ©宝塚歌劇団



真風涼帆が、現代に甦ったヴァンパイアに!
ミュージカル・プレイ「ヴァンパイア・サクセション」開幕

宙組のホープ、真風涼帆主演によるミュージカル・プレイ「ヴァンパイア・サクセション」(石田昌也作、演出)が、3日、大阪・梅田芸術劇場シアタードラマシティで開幕した。今回はこの模様を報告しよう。

タイトル通りの吸血鬼もの。宝塚では小池修一郎作による「蒼いくちづけ」あたりからヴァンパイアものがジャンルとして登場、思いついただけでも「薔薇の封印」(同)と「シルバー・ローズ・クロニクル」(小柳奈穂子)などがある。ヴァンパイアではないが狼男を題材にした「ローンウルフ」(小池)というのもあった。今回の作品も、永遠の命を持つヴァンパイアの青年が現代のニューヨークに甦るという設定。長年のヴァンパイア生活に疲れ、生血を吸うことを忘れた「退化したヴァンパイア」という設定が笑わせるが、真風のクールなヴァンパイアはひたすらかっこよく、一方、ヴァンパイアを通して人間の生と死についての根源的な部分に迫った石田氏の脚本が奥深く、笑いながらも考えさせられるなかなかシビアなミュージカルだった。

現代に甦ったヴァンパイアの青年アルカード(真風)は、2001年の9.11事件でがれきの下敷きになった少女を救いだしたことがあるのだが、それから十数年後、大学生に成長したその少女ルーシー(星風まどか)とパーティーで偶然再会、彼女の恋人を装うことになったことがきっかけで恋に落ち、人間になりたいと願うようになる…。基本は二人のラブロマンスが軸だが、かつての敵でいまは親友のヘルシング(愛月ひかる)との友情やヴァンパイアであるアルカードを軍事利用しようとする陰謀などがからんで物語が展開する。

幕開きは、すでに老境を迎えたアルカードとルーシーのカップルが、大きく成長したレモンツリーの前で昔を思い出している場面から。やがて姿を消したアルカードをルーシーが犬笛で呼び出すと中央から若々しく変身した真風が登場、同じく若返った星風とともに華やかなプロローグとなる。この場面は、さらっと見逃しがちだが、見終わった後に振り返るときちんと意味があったことがわかる。なかなか凝ったオープニングだ。

場面変わって、ES細胞研究家サザーランド(華形ひかる)大統領補佐官のグレンダ(美風舞良)民間軍事会社の重鎮ハワード(美月悠)らが会議の席で、歴史上の有名な写真の数々に同一人物らしい青年(真風)が映っていると報告を受けている。リンカーンやヒットラーの横に真風がいるのがおかしい。続いて、9.11事件の際、アルカードが少女ルーシーを助け出す場面が舞台上で再現される。ここまでがいわゆる前振り。

本筋は、チンピラとのいざこざに巻き込まれて逮捕されたアルカードが親友のヘルシングのおかげで釈放される場面から。アルカードが699歳であることや退化したヴァンパイアであることなど現在の状況やヘルシングとの関係がここで説明される。ヘルシングが去った後には、アルカードにしか見えない「死に神の派遣社員」というカーミラ(伶美うらら)が登場、さらに偶然通りがかった老女マーサ(京三紗)の一言が、アルカードのその後に大きな影響を与える。その一言とは「人は永遠に生きることよりも、愛に包まれて死ぬことを願う」というもの。この作品のテーマともなっていて、京が切々と歌うソロが聴きものだ。

真風ヴァンパイアを取り巻く人間界の描写に、いつもの石田流の毒気のあるギャグがちりばめられていておおいに笑えるが、それが真風ヴァンパイアのピュアさを増幅して、さわやかなラストにつながった。

真風は、前髪を垂らして、ちょっとくたびれたヴァンパイアを陰のあるクールな雰囲気で演じて際だった存在感、特に難しい役ではないと思うが、とにかくかっこよかった。星組時代に一度経験しているが宙組移籍後初めてのドラマシティ公演。「王家に捧ぐ歌」「シェイクスピア」に次いでの舞台だが、ずいぶん大きくなった印象を受けた。

ヘルシング役の愛月も、真風の親友役というほぼ対等の役どころを、余裕たっぷりに演じて真風を巧みにサポート。男同士のカップルに間違えられる場面は、石田流のきわどいギャグだが、いやらしくなくさらりとかわしたところもなかなかだった。「エリザベート」のルキーニ役が楽しみだ。

ヒロイン役のルーシーを演じた星風は「相続人の肖像」に次いでのまたまた大抜擢。天真爛漫な少女を星風らしい初々しさで演じて抜擢に応えた。真風と並ぶとやや小柄すぎるような気がするが、はちきれんばかりの笑顔が印象的。

もう一人のヒロイン格はカーミラの伶美。「死に神の派遣社員」というちょっと変わった役どころだが、ケバイ衣装も伶美ならではの着こなしで、台詞にも説得力があって、何よりその美貌が映える。後半でその正体が明かされて、ドラマの大きなカギを握る。楽しんで演じている伶美に乾杯だ。フィナーレの最初に真風との短いデュエットダンスがあるが、見栄えのするコンビぶりで切れのあるダンスも魅力的だった。

あとルーシーの元彼ランディ役で和希そらが起用された。星風との相性は真風より、和希の方がぴったり。金髪のヘアスタイルにも工夫の跡が見られなんとも若々しい。

専科から出演した華形ひかると京三紗は二人とも大きな役で舞台を締めた。華形は、ヴァンパイア研究の学者役。華やかさを保ちながらの渋い演技が光る。大劇場での出番がないのが寂しい限り。京は真風ヴァンパイアに人間になりたいとの思いを強く植え付ける心優しい老女役。舞台にいるだけで心和むその存在感は貴重だ。ハーマン役の美月、クリストファー役の松風輝も芸達者なところを見せた。ケガで休演していた留依蒔世が元気に復帰、得意の歌(ラップ)でワンポイントあげたことも付け加えたい。

©宝塚歌劇支局プラス5月4日記 薮下哲司

鳳月杏のジャッキーに乾杯!花組公演「ME&MY GIRL」役替わり公演 と…落語家もミーマイ!

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   ©宝塚歌劇団






    はなしか宝塚ファン倶楽部より @天満天神繁昌亭


鳳月杏のジャッキーに乾杯!花組公演「ME&MY GIRL」役替わり公演

明日海りおを中心にした花組によるミュージカル「ME&MY GIRL」(小原弘稔脚色、三木章雄脚色、演出)の役替わり公演が10日から始まった。今回はこれとタカラヅカ好きがこうじた上方落語家たちが天満天神繁昌亭で上演したはなしかミュージカル「ME&MY GIRL」の模様をあわせて報告しよう。

初日が開いて約二週間、Aパターンの出演者がそれぞれの役になじんできたところでの役替わり。再び緊張感あふれる舞台が繰り広げられた。Bパターンはビルの明日海りお、サリーの花乃まりあはそのままで、ジョン卿が瀬戸かずや、ジェラルドが芹香斗亜、ジャッキーが鳳月杏、弁護士パーチェスターが柚香光、マリア公爵夫人が仙名彩世という顔ぶれ。Aパターンでパーチェスターを演じた鳳真由とジェラルドを演じた水美舞斗は一幕終わりのパーティーの場面に登場するランべスキングとランべスクィーンに入った。

明日海のビルと花乃のサリーは、作品の波に乗っていて、見ていても無理な感じがなくなんとも心地いい。登場シーンから非常にスムースだ。明日海ビルが、貴族になっていく過程がなんとなく早すぎるような気がしたのだが、逆に、花乃サリーがそれにじりじりする感じをよくだしていて、いいコンビになってきたようだ。

そんななか新たに入ったジョン卿の瀬戸は、主人公の2人を温かく見守る大人な雰囲気をうまくだし、そのうえで自身も輝いていて、本来の実力を発揮した。バウ公演「ノクターン」で柚香光の父親役を演じ、その渋い二枚目ぶりが印象的だったが、今回もその延長線上で演じ、自然な大人のジェントルマンだった。

ジョン卿の相手役となるとマリア公爵夫人。こちらは実力派の仙名だが、歌のうまさもさることながら、演技的にももう予想通りで申し分のない出来栄え。凛とした雰囲気と品の良さ、マリアそのもの。明日海とのかけあいも歯切れがよくテンポ抜群。台詞のトーンが高いのがやや気になったのでもう少し抑え気味の方がさらによくなると思う。

一方、ジェラルドの芹香はAパターンのジョン卿の時とはうってかわったはつらつとした若々しさを前面にだしてこちらも好演。何不自由なく暮らしてきた貴族のボンボンぶりも変にコミカルに作らず自然なのがよかった。

男勝りのジャッキーは鳳月が演じたが、この役替わり一番のヒットといっていい素晴らしい出来。登場シーンの「自分のことだけ考えて」で「トップへ登るわ」と歌う声が男役とは思えない自然な高音で、しかも力強くなんともチャーミング。ビルを誘惑するシーンでも明日海とのコンビネーション抜群で、なんともいえない色気がありながら品は保ち、宝塚バージョンでなくとも十分通用するのではないかと思わせた。フィナーレでは燕尾服姿でかっこいい男役のダンスも披露、男女両方で振り幅の広さをみせつけた。

Aパターンでジャッキーを演じた柚香は弁護士パーチェスターに入ったが、これがまたもともと芝居心のある柚香のこと、柚香ならではの面白いパーチェスターを作り込み、しかも、メガネをかけたりひげをつけたりしながらもスターオーラは抜群なので、なんとも華やかなパーチェスターとなった。柚香がやれば役自体がスターに見えてくるから不思議だ。

ということでAパターンがこのうえもなく華やかなイメージとすれば、こちらはそれぞれが役にあって実力で見せるパターンといったところだろうか。花組の層の厚さを見せつけた役替わりだった。AともどもBパターンもぜひおすすめしたい。



宝塚の「ミーマイ」上演中のさなか、上方落語界の「はなしか宝塚ファン倶楽部」による今年で5年目となるはなしかミュージカル「ME AND MY GIRL」が8、9の両日、大阪・天満天神繁昌亭で上演された。歌、ダンス、芝居とも見よう見まねで宝塚そのままに上演するもので3回公演だが新人公演、本公演、役替わり公演と3回ともキャストが違うという凝ったもの。

最終日の役替わり公演を見たが、会場は超満員の大盛況。まず笑福亭松五、笑福亭生喬、桂春雨による宝塚ネタのミニ落語の披露があり、そこから爆笑の連続。みなさん相当の宝塚ファンであることがわかりうれしくも楽しい。

中入り休憩のあと緞帳があがると宝塚と同じ「ME AND MY GIRL」のロゴがでると、早くも場内大歓声。舞台は狭く、装置も笑えるほど粗末なワンセットだが、雰囲気はそれなり。プロローグの「ヘアフォードの週末」から人数は少ないが本家そのままに進行。この日、ビルが桂あやめ、サリーが笑福亭生寿、ジョン卿が桂春雨、ジャッキーが林家染雀、マリア公爵夫人が笑福亭生喬、パーチェスターが月亭天使といったメンバー。男女混合で、なにやらニューハーフショーのようなまがまがしさもあったが、そこは噺家連中、もともと芝居心があるので歌は下手でも、舞台度胸は満点。失敗もギャグでカバーできる強みがあり、楽屋落ちやパロディーもあって終始笑いの絶えない舞台だった。やや大柄だがサリーの生寿の歌がなかなか。聞けば昨年はルキーニ役を演じたとか。「ランべス・ウォーク」では、かけつけた落語家仲間も飛び入り参加して客席おりもあるなど賑やかこの上ない。とはいえ、基本は真面目そのもので本家宝塚への愛があふれているのが見ていて心地よかった。

フィナーレには3段の電飾階段が登場、フィナーレまであっておおいに盛り上がった。男女版ということもあって、なんとなく、ロンドンで見た「ME AND MY GIRL」の下町ならではのがさつな雰囲気も思い出すなど、3時間十分に楽しめた。

会場には宝塚ファンも多くみられ、爆笑に次ぐ爆笑。この日の客席には元星組の娘役スター、青山雪菜の姿もあった。前日には元花組の桜一花も観に来ていたとのことで、本家のタカラジェンヌの間でも人気になりつつあると言う。すでに「ロミオとジュリエット」「エリザベート」を上演。来年は「風と共に去りぬ」か「ノバ・ボサ・ノバ」の上演を目指すと発表された。

©宝塚歌劇支局プラス4月11日記 薮下哲司


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