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夢のスペシャリスト、北翔海莉、大劇場お披露目公演 星組「ガイス&ドールズ」開幕

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ガイズ&ドールズちらし



夢のスペシャリスト、北翔海莉、大劇場お披露目公演 新生星組「ガイス&ドールズ」開幕

星組新トップコンビ、北翔海莉と妃海風の宝塚大劇場お披露目公演、ブロードウェイ・ミュージカル「ガイズ&ドールズ」(酒井澄夫脚色、演出)が、21日から開幕した。80年代の宝塚を代表する大地真央、黒木瞳コンビの代表作であり、2002年には紫吹淳、映美くららのコンビでも再演されたこのミュージカルに、北翔、妃海の実力派コンビがどんな新風を吹き込むか、興味津々の話題作。今回はこの模様を報告しよう。

カラフルなネオンサインが煌めくブロードウェーのタイムズスクエア、ソフト帽をかぶったギャンブラー、スカイ・マスターソン(北翔)が後ろ向きに登場、こちらを振り向いて思いきりキザなポーズから主題歌を歌い始める。宝塚の「ガイズ&ドールズ」の世界が、これで一気に甦った。懐かしいオープニングは健在だった。

スカイに続いて、ニューヨークの街のさまざまな人々が次から次へと現れ、1948年当時の町の日常風景がダンスナンバーで表現される。30年前、まだミュージカルの上演がそれほど多くなかったころに見た大地版はそれなりに斬新で楽しかったのだが、いま見ると懐かしいというよりなんだかクラシック。随分、古めかしい感じ。92年にニューヨークで見た「ガイズ&ドールズ」も、振付や装置がもっとシンプルで斬新、すごくおしゃれだったことを思うと、ここはもう少しモダンな感じに作り替えてもよかったかとも思うが、北翔×妃海の本格実力派コンビにはこの古めかしさが逆にぴったり、70年前のニューヨークに自然にタイムスリップした。

警察の目を逃れて賭場をはるやくざなギャンブラーが、救世軍の女士官を「一晩で落とす」ことを1000ドルで賭けるうちに、ミイラ取りがミイラになってという大人のファンタジー。デイモン・ラニヨン原作の「サラ・ブラウンのロマンス」という短編小説を原作に「ハンス」のフランク・レッサーが作詞、作曲したミュージカル・コメディだ。始まる前からラストが分かっているようなお話なので、いかに楽しく夢を見させてくれるかが身上。北翔、妃海そして紅ゆずる、礼真琴ら新生星組メンバーは、気持ちよく夢を見せてくれるスペシャリストたちだった。

北翔は、前回の「ガイズ&ドールズ」で、今回、麻央侑希が演じているラスティ役を本公演で演じ、新人公演では紅が演じたネイサン・デトロイトを演じたこともあって、専科時代から再演があれば出演を熱望していたという。それがトップ披露で、しかも主演のスカイ役で実現することになり、感慨もひとしおだろう。彼女の個性からいうとスカイよりネイサンのほうが似合うと思ったのだが、泣く子も黙るギャンブラーの中のギャンブラー、スカイを北翔ならではのかっこよさと達者さで演じ切った。ニューヨークのギャンブラーというよりは、どことなく江戸前のスカイだが、歌の実力は文句なく、安心して聴いていられた。スカイが、遊びのつもりで誘ったサラに本気になっていくあたりの、ハバナの場面から「はじめての恋」のソロにいたるあたりの微妙な心の動きが、生来の真面目さが先に出てしまって、意外性が感じられなかったのと、二幕の見せ場、クラップゲームのダンスナンバーが新たな振り(AYAKO振付)に変わったものの、クラップをしているように見えず、決めポーズが平凡でいまいちかっこよくない。いずれも一工夫ほしいところだ。とはいえ初演の大地真央の印象が強いこの役を、北翔ならでは新たな解釈で全く別物として甦らせたのは見事だった。

相手役サラの妃海は、真っ赤な制服がよく似合って、人形のような美しさ。よく伸びる歌声は、これまでのサラでは最高かも。ハバナで初めてお酒を飲んで酔っ払うシーンが一番の見せ場。可愛さでは黒木にかなわないが、なんともキュートで芝居心がこもっていた。

ネイサンの紅は、こういうやくざなギャンブラー役はいまやお手の物という感じ。「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」の勢いをそのまま踏襲した好演だった。格好をつけているけれども、どこか抜けていて人間味があるという役は、紅にぴったり。歌もずいぶん表現力がついてきた。そろそろ花組の望海風斗が「星逢一夜」で演じた源太のような役を紅でも見たいものだ。

ネイサンの14年来の婚約者でダンサーのアデレイド役の礼は、やや若すぎるきらいはあったがまたまた歌、ダンス、演技と器用なところをみせつけた。紅を相手に一歩もひけをとらない舞台度胸は見事だ。また、男役とは思えない自然な発声で、娘役演技も全く違和感がなかった。新人公演では主役経験を積んできているが、本公演ではまだ少年役から脱し切れていない。大人の男役が自然と演じられるようになれば、さらに大きく花開くだろう。

この4人以外の大きな役といえばギャンブラー3人組。ナイスリーが美城れん、ベニーが宙組から組替えになって初めての大劇場公演となった七海ひろき、ラスティが麻央という顔ぶれ。初演で未沙のえるが演じたナイスリー役の美城が味のある演技で好演。七海、麻央が両脇を明るく締めた。あとシカゴのボス、ビッグジュールは十輝いりす。とぼけた味がなんともいえず、客席からも大いに笑いを誘った。いつも小脇に抱えたテディベアがアクセントで、ブロマイドも早々に売り切れる人気とか。

ハリー役の壱城あずさ、救世軍チームの天寿光希、ジョーイの十碧れいやといった面々はやや手持ち無沙汰の感はあったが、ハバナの場面に登場したクバーナの歌手で夏樹れいが気を吐いたのが印象的だった。

フィナーレはラインダンスから始まる変形バージョン。まず紅と礼のデュエットダンスがあり、続いて北翔を中心にしたガイズの群舞、舞台上で衣装をチェンジした北翔が妃海とデュエットダンスへと続く。歌いながらのダンスはさすが北翔。パレードはエトワールが毬乃ゆい。十輝×七海、礼、紅、妃海そして北翔と続いた。大きな羽を軽々と背負った北翔の底抜けに明るい笑顔が印象的だった。

©宝塚歌劇支局プラス8月25日記 薮下哲司

壮一帆、自然体で再出発 退団後初コンサート「feel so good」大阪で千秋楽

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壮一帆、自然体で再出発 退団後初コンサート「feel so good」大阪で千秋楽

元雪組トップで昨年8月31日に退団した壮一帆が、退団後初コンサート「feel so good
」(荻田浩一作、演出)の千秋楽を28、29の両日、地元大阪のサンケイホールブリーゼで迎え、満員の観客の温かい声援のなか有終の美を飾った。今回はこの模様を報告しよう。

 退団後はしばらく休養をとり、今後を見据えたなかで、徐々に活動を再開してきた壮だが、ことし7月に所属事務所がキューブに決まり、本格的に再始動、その第一歩となったのが今回の初コンサートだ。

元宝塚の演出家、荻田氏の構成したコンサートは、男役のトップスターが退団後初めて登場するこれまでのステージの印象とは打って変わったバラエティーにとんだ内容。幕開けはグレイを基調にしたシックなドレスでスタイリッシュな雰囲気で「if we hold on together」など2曲を男役時代同様、低音はかっこよく、しかし高音までしっかりと歌い、歌い終えたあとは客席おりでまずはごあいさつ。と、ここまでは普通のコンサート。ここで、壮の父親という設定の村井国夫がジーンズの野良着姿で登場。ここからは父親が娘にあてて書く手紙で、娘の過去、現在、未来像を語っていくなかで、壮がそれぞれの時代の娘に扮して歌い踊る。おさげに麦わら帽子、ジーンズの格好の少女時代から始まって、引き抜きで水兵姿になり、まずは「南太平洋」から「魅惑の宵」そしてスカートを「エニシングゴーズ」とミュージカルメドレー。ミュージカルにあこがれていた少女時代というわけ。

「三文オペラ」から「マックザナイフ」。「ミーマイ」から懐かしい「愛が世界を回してる」などに続いてボブ・フォッシースタイルで歌い踊った「I Gotcha」(大澄賢也振付)と「キャバレー」がなかなかのものだった。

宝塚時代の曲は「若き日の唄は忘れじ」から「恋の笹舟」だけだったが、それがまた効果的。続く水原弘のヒット曲「黒い花びら」も意外な選曲だった。「女の中の男、男の中の女を人間として歌とダンスを芝居仕立てにしつつ、とにかくかっこよくてシュール」とは長年、壮を見続けてきたファンの感想だが、選曲も現在の壮の魅力をよくつかんでいた。

ゲストコーナーはこの日は葛山信吾だったが、ここはバー江梨子という設定で、粋に和服を着こなした壮が、ホステスとしてお相手を務め、大阪弁をまじえた応対で満員の客席を大いに笑わせた。この辺の肩の力の抜けた感じもいかにも壮らしくて楽しい。

そして最後はディナーショーでも歌ったテーマ曲「so in love」(ANJU振付)で締めくくった。背中の大きくあいた黒いドレスが印象的だったが、それがいかつくもなく、しかしかっこいい。男役から女にごく自然に戻っている感覚。カーテンコールにはジーンズとシャツというラフなスタイルで登場、どこまでも自然体の振る舞いが、壮の魅力をさらに輝かせていた。

次回はミュージカル「エドウィン・ドルードの謎」(来年4月、東京・シアタークリエ)に出演、本格的に女優に挑戦するがおおいに楽しみだ。

©宝塚歌劇支局プラス8月30日記 薮下哲司

月組のアイドル、朝美絢主演のワークショップ「A―EN」が開幕

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月組のアイドル、朝美絢主演のワークショップ「A―EN」が開幕

月組は現在、5班に分かれて公演を行っているが、朝美絢を中心とした若手18人によるバウ・ワークショップ「A―EN(エイエン)」(野口幸作作、演出)が、8月29日から宝塚バウホールで開幕した。今回はこの模様を報告しよう。

「A―EN」は、芝居とショーの二本立てのワークショップで、以前、月組トップの龍真咲らが若手時代にバウで公演した「young blood」シリーズの再現。朝美絢版と暁千星版の2バージョンがあり、芝居はアメリカの高校のプロムを題材にしているという共通点があるだけで中身は別物、ショーの方も題名は同じだが、内容は異なる。公演はまず朝美バージョンからスタートした。

「プロムレッスン」というタイトルの芝居の舞台は、卒業シーズンが間近に迫った、ニューヨークはブルックリンの高校。プロムキングナンバーワン候補のイケメン、アーサー(朝美)は、ひょんなことから彼女のリリィ(叶羽時)に振られ、眼鏡をかけたうだつのあがらない少女ヴァイオラ(紫乃小雪)を、「マイ・フェア・レディ」ばりに教育、美しく変身させて、一緒にプロムに参加してリリィを見返そうとするのだが。今時の高校生の流行語をふんだんにちりばめた台詞など、なんだか、テレビの青春ドラマみたいだが、約1時間ですっきりまとまっていた。

甘いマスクの朝美は、アイドル系イケメン男子という雰囲気にぴったりではまった。くわえて歌、ダンスとなんでもできるのが魅力だ。ヒロイン役の紫乃も、メガネ姿のさえない少女から、パーティーでは見事に可愛く美しく変身、芝居心のある演技が要注目だった。生徒役はミランダ役の叶羽のほか親友マイルズ役の輝月ゆうま、ライバル、ルーベルト役の夢奈瑠音、ダンスの振り付け担当でおかまっぽいアダム役の佳城葵が主要な役どころ。おちゃめな叶羽、安定感のある輝月、二枚目路線の夢奈に続いて佳城のいやみのない明るい個性が光った。

それ以外では学生食堂の従業員ハンナ役の晴音ユキが、大人の女性の魅力を発散、歌にダンスに達者なところをみせて舞台を締めたほか、保健室の先生ミランダの花陽みら、彼女目当てに保健室に通う社会科の教師ジョーの輝城みつるが面白かった。

一方、ショーは「A―EN MOONRISE」と題し、月のさまざまなタイトルをつけた8部構成。まずは朝美が、三日月のゴンドラに座り宙乗りで登場。主題歌を歌いながらゆっくりと下降したゴンドラから降りてくるというオープニング。朝美は全8場すべてにメーンで出演、とっかえひっかえ、これでもかとばかりに着替えて、汗だくの熱演。第5場のタンゴや6場の闘牛士の場面など、歌もダンスもいいものをもっていて、いい場面はたくさんあるのだが、どれもいっぱいいっぱいな感じがして、見るほうが疲れてしまった。タンゴの場面などもう少しじっくりと見たかった。二番手は輝月で、歌がうまく、聴かせられるので、朝美のいない場面で重用されていたが、二番手というにはやや地味。見せ方聴かせ方の工夫のほしいところ。

朝美の相手役には晴音以外は風間柚乃、天紫珠李、夢奈と若手男役が起用された。風間と天紫は、研2と研1で、ワークショップとはいえ大抜擢といっていいだろう。風間は天海祐希や大和悠河を思わせる月組伝統の美形男役で、上背もあり、大型男役候補として期待できそう。まだ動きに機敏さがないが、今後の精進次第では要注目の存在。ちなみに女優、夏目雅子さんの姪にあたる。天紫は、ラテンの場面で朝美の相手を務めたが、きりっとしたさわやかな顔立ちで動きもシャープ、こちらは正統派男役のタイプ。今年の音楽学校文化祭で主役を務めた実績もあり、芝居でもプロムの実行委員役で好演、今後大いに楽しみな存在だ。

芝居で相手役を務めた紫乃にはほとんど出番がなく、娘役は晴音がメーン格だったが、華やかな容姿に加えて歌のうまさと大人なダンスでやはり魅力的だった。本公演でももっと活躍してほしい。ショーの構成としては18人という少人数とは思えない展開。初めての振付家の参加もあり、舞台全体に新しい風も感じられた。

©宝塚歌劇支局プラス 9月1日記 薮下哲司


月組トップスター、龍真咲の初コンサート

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龍宮城の亀に扮する龍真咲 ©宝塚歌劇団
写真:竜宮城の亀に扮する龍真咲 ©宝塚歌劇団



月組トップスター、龍真咲の初コンサート、ドラマティック・ドリーム「Dragon night‼」(藤井大介作、演出)が、1日、大阪・シアタードラマシティで開幕した。今回はこの初日の模様を報告しよう。

21世紀に入団したタカラジェンヌで初のトップスターになった龍も、トップ在位早くも3年目、いまや宝塚を代表するトップとなったのだから感慨もひとしお。その龍の初コンサートは、龍の魅力のすべてを見てもらおうと3部構成の欲張った内容。ドラゴンが旅に出るというコンセプトのもと第一部は「龍JIN」のタイトルでドラゴンが世界各地に羽ばたく様子をショー化。

美弥るりかと珠城りょうの二人が龍のエスコート役で、まずは2人が登場して龍を紹介、ゴンドラに乗った龍が舞台中央からゴールドのメタリックな衣装で現れると、満員の会場はそれだけで大興奮、旬のスターの勢いはさすがだ。

一部は龍扮するドラゴンがロシア、イタリア、インドそしてニューヨークと旅をしながら歌い踊る。クラシック、カンツォーネ、マサラ、ゴスペルと龍が歌いたい歌の集大成。相手役の愛希れいかが出ていないので、ロシアの歌姫が白雪さち花、黒衣の未亡人が楓ゆき、インドの妃が早乙女わかばとお相手がころころ変わるのも一興だった。なかで狂おしきドラゴンの場面でダンスの相手役の少女に抜てきされた麗泉里が可憐で要注目。ドラマチック仕立てのショーだが、初日はまだいまいちこなれていない感じがした。

休憩をはさんで始まった二部は思いがけない趣向があって、客席も一気に盛り上がった。「龍宮城」のタイトルの2部は海の中という設定で、龍はなんと亀で登場。シルバーの甲羅を背負った龍に、満員の客席からは歓声と笑い声が。浦島太郎などゲストを乗せて龍宮城に案内する亀という設定で、初日のゲストは美弥と早乙女。亀の龍と楽しいトークをくりひろげた。途中で2人が手伝って、龍が亀からかっこいい男役に早変わり「ハムレット」の主題歌につないだ。

3部は龍が愛してやまない宝塚コーナー。「バイブレーション」から始まって「ノバ・ボサノバ」メドレーへ。「アパッショナード」や「カリビアンナイト」など宝塚ラテンでおおいに盛り上がったあとはミュージカルメドレー。「ロシュフォールの恋人たち」「蜘蛛女のキス」「モーツァルト!」と龍が歌いたかったというナンバーを披露。選曲がなかなか通好みで楽しめた。クライマックスは全員がおそろいのバラ模様のTシャツで登場、「ベルサイユのばら」のテーマ曲をロックにアレンジした組曲にあわせてコンテンポラリー風のダンスを披露。そして最後は龍が「ラ・カージュ・オ・フォール」の主題歌「アイ・アム・ホワット・アイ・アム」を歌って締めくくった。この曲は、月組の大先輩である大地真央がバウのコンサートで初めて歌った曲、奇しき縁に感慨無量だった。

全体的には欲張りすぎて散漫な印象もなくもなかったが、ラストの一曲が、月組ファンにはツボだったのではないだろうか。

©宝塚歌劇支局プラス9月1日記 薮下哲司


霧矢大夢「ラ・マンチヤの男」大阪からスタート、真飛聖も「もとの黙阿弥」で好演!

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霧矢大夢、注目のアルドンザ初挑戦「ラ・マンチヤの男」大阪からスタート、真飛聖好演!「もとの黙阿弥」大阪公演も開幕

元月組トップスターの霧矢大夢が、松本幸四郎の相手役アルドンザ役に挑戦したミュージカル「ラ・マンチャの男」が、2日、大阪・シアターBRAVA!で、初日の幕を開けた。今回はこの模様と、元花組トップ、真飛聖が出演した井上ひさし原作の戯曲「もとの黙阿弥」(栗山民也演出)の大阪松竹座公演の模様をあわせて報告しよう。

「ラ・マンチャの男」のセルバンテス役は、1968年の初演以来ずっと松本幸四郎の持ち役となっており、周囲だけが入れ替わってきた。アルドンザも1968年の初演時は浜木綿子、その後、上月晃、鳳蘭とそうそうたるタカラジェンヌOGが演じてきた大役。鳳と霧矢のあいだは幸四郎の愛娘、松たか子が演じ、好評だった。ただこの役は親娘で演じる役ではなく、アルドンザが、霧矢に決まった時点でやっと本来の「ラ・マンチャの男」に戻ったという思いがしたが、初日の舞台を見て、その感をさらに強くした。霧矢のアルドンザは、粗野なあばずれ娘という芯の太さがありながらとにかくチャーミング、ピュアな心を取り戻していくあたりがすごく自然で、ラストの感動を盛り上げた。荒くれ男たちを相手にする場面はもっと色気と迫力があってもいいとは思ったが、それでも新たなアルドンザ像を生み出したといっていいと思う。

「ラ・マンチャの男」は、税吏士セルバンテスが、教会に課税したことをとがめられて宗教裁判にかけられることになり、拘留された牢獄で牢名主に自分の罪の申し開きを劇中劇の形で披露するという物語。「人生に折り合いをつけて、闘うことを放棄すること」を戒めるとともに「夢を決して捨ててはいけないこと」さらに「不毛の地で生きる勇気」を歌ったミュージカル。ただただ楽しいだけの能天気な作品がもてはやされる傾向のあるブロードウェーミュージカルのなかで、生き方そのものを正面から歌いあげた奇跡的な傑作だ。

日本では松本幸四郎がライフワークにしており、1968年の初演以来全公演に出演、今回の大阪公演初日で1208回目となった。初演から何度となく観劇、その都度、新たな発見がある稀有な作品だが、幸四郎のセルバンテスは、さらに渋みが加わり、名人芸の極み。どの場面も滋味豊かで円熟味を増しているが、今回はアルドンザに促されて夢を思い出し、絶命するラストシーンが特に素晴らしかった。

アルドンザ役初挑戦となった霧矢は、大柄な男性陣の中で、ずいぶん小柄に見えたが、オープニングから存在感はさすが。芯のある低音は言うに及ばず、高音もよく伸びて、歌も聴かせた。衝撃的なレイプシーンのダンスなど激しい場面も迫力満点、そんななかで、すさんだ人生のなかに一筋の光を見出すアルドンザのピュアな部分も鮮やかに描出した。

牢名主と宿屋の主人を演じた上條恒彦の手練れの演技も、舞台に安定感を加えた。カラスコ博士の宮川浩とアントニア役のラフルアー宮澤エマが初出演、それぞれ好演で舞台に新風を吹き込んでいた。大阪公演は21日まで。東京公演は10月帝国劇場で。

一方、真飛聖が出演する「もとの黙阿弥」も1日、大阪松竹座で大阪公演初日を迎えた。1983年に東京新橋演舞場で初演された井上ひさし原作の戯曲の再演だ。初演で片岡仁左衛門(当時孝夫)が演じた河辺隆次を片岡愛之助が演じ、水谷八重子(当時良重)が演じた船山お繁を真飛が演じた。ほかにも波乃久里子、大沢健、早乙女太一、床嶋佳子、貫地谷しおり、渡辺哲といった豪華メンバーの出演。

鹿鳴館華やかなりし明治20年ごろの東京浅草の芝居小屋、大和座を舞台に、男爵家の跡取り息子と豪商の一人娘の縁談にまつわる主従の「とりかえばや物語」の騒動劇をメーンに、草創期の新劇運動の胎動も交えて描いた井上ひさしならではの硬派の喜劇。井上流の長台詞のなかに楽隊の演奏、歌をふんだんに織り込んで音楽劇仕立てで展開する。

真飛が演じたお繁は、貫地谷扮する長崎屋お琴の女中。お琴が男爵家の跡取り、隆次と鹿鳴館の舞踏会でお見合いすることになり、相手を吟味するためにお繁がお琴になりすまし、西洋舞踏の稽古に行く。ところが、相手も書生の久松(早乙女)を身替りに稽古をさせたことから話がこんがらがって。星組公演「めぐりあいは再び」と同じ趣向だ。真飛は、最初は人懐っこい女中をコミカルに演じ、お琴に変身してからの当初はぎごちなさで笑わせるが、徐々にそれらしく変身していくさまがなかなかのもの。入れ替わったままで音楽劇を披露することになり、そこで早乙女と歌って踊る場面がハイライトだ。

宝塚時代から演技派だったが、退団後もその実力をいかんなく発揮、舞台では「マイ・フェア・レディ」のイライザ役や「オン・ザ・タウン」で活躍、映画「柘榴坂の仇討」でも好演、大阪シネマフェスティバル新人女優賞を受賞している。今回もそうそうたる共演者を向こうに回して、おいしい役どころを存在感たっぷりに華やかに演じた。

霧矢と真飛は、来春「マイ・フェア・レディ」のダブルキャストによる再演が決まっており、それぞれが別々に大役を演じたあと再び同じイライザ役に挑戦するのがみどころになりそうだ。

©宝塚歌劇支局プラス9月3日記 薮下哲司

瀬央ゆりあ初主演、星組「ガイズ&ドールズ」新人公演、アデレイド役の真彩希帆好演!

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星組新人公演プログラム写真

写真は公演プログラムより抜粋 ©宝塚歌劇団



瀬央ゆりあ初主演、星組「ガイズ&ドールズ」新人公演、アデレイド役の真彩希帆好演!

瀬央ゆりあの最初で最後の主演となった星組公演、ミュージカル「ガイズ&ドールズ」(酒井澄夫脚色、演出)新人公演(原田諒担当)が、8日、宝塚大劇場で行われた。今回はこの模様を報告しよう。

北翔海莉のトップお披露目公演「ガイズ―」は、夏休みも重なって連日満員の盛況で上演中。男と女のかけひきを軽妙なタッチで描いた小粋な大人のファンタジー、宝塚に向いているようで一番難しいミュージカル。北翔以下の新生星組本公演メンバーは巧さで手堅くまとめたが、新人公演はかなり難度の高い作品だ。今回の新人公演は、一幕第4場や二幕冒頭のホットボックスの場面などをカットするなど微妙に短くしてあったが、ほぼ本公演通りに進行。

主演のスカイ・マスターソン(本役・北翔)を演じた瀬央は、「眠れない男ナポレオン」と「The Lost groly」新人公演で紅ゆずるの役を演じて存在をアピールしていた。同期の礼真琴の活躍の影に隠れていた感があったが、今回は礼が本公演でアデレイドという大役を演じていることからアンサンブルに回り、瀬央にやっと主演が巡ってきた。研7ということで最初で最後の主演ということになったが、瀬央にとってはラストチャンスに格好の役に巡り合ったといえそうだ。すっきりした甘い容貌は、プレイボーイのなかのプレイボーイというギャンブラー役にぴったり。さぞや似合うだろうと思ったのだが、登場シーンから意外と小さくまとまった感じ。歌や芝居の立ち居振る舞いは素敵で、いつもの二枚目なら全然かまわないのだがスカイとなると話は別。全体的にさらっとしすぎていて物足りない。この役はもっとキザに、格好をつけた方がいい。自信たっぷりの男という余裕がみえなかった。台詞や歌がまだ身体になじんでいなかったのも減点材料。初主演のプレッシャーだったら、東京公演ではぜひリベンジしてほしい。

相手役のサラ(妃海風)は綺咲愛里。前トップ娘役、夢咲ねねのもと「The Lost―」と「黒豹の如く」の新人公演で立て続けにヒロインを演じ、今回で3度目となる。バウ公演などでもすでにヒロイン経験があるので、安心して見ていられた。今回も余裕たっぷりのステージングで、サラの勝ち気なところなど感じが出ていた。ただ、台詞や歌に独特の妙なアクセントがあり、今回はそれが気になった。それさえなければ、いつでも出番はOKだろう。

紅が演じたネイサンに抜てきされたのは紫藤りゅう。もともと実力派の男役だと思っていたが今回は賭場の仕切り屋ネイサンがことのほか似合っていた。やくざっぽい台詞が、身についていたほか、アデレイドとのかけあいの間合いが見事だった。ほれぼれするような男ぶりだった。本役の紅もよかったが、この役は初演の剣幸が硬軟自在で素晴らしかった。それらをお手本にしながら自分の味をだした紫藤はなかなかのもの。今後さらに楽しみな存在だ。

アデレイド(礼)は真彩希帆。このアデレイドが最高だった。歌の実力は花組時代から定評があったが、難しい大人の歌を無理なくなめらかに見事にうたいこなした。それだけでもすごいが、それがなんともチャーミングなのだ。真彩が演じると14年間、ずっとネイサンを愛し続けているというありえないカップルの関係が嘘にみえない。自然でキュートな感じがこの舞台全体の世界を心地よいファンタジーに昇華させていた。この天性のセンスは誰にもあるものではないだろう。普通の宝塚ヒロインも当然できるだろうから、今後役に恵まれることを期待したい。

ほかにはナイスリー(美城れん)のひろ香祐が、独自の黒塗りに工夫して、相変わらずの達者さで一歩リード。シカゴの大物ギャング、ビッグ・ジュール(十輝いりす)の桃堂純も長身を生かしたとぼけた演技が何とも味があって満員の会場をおおいに沸かせた。

ベニー(七海ひろき)の天華えま、ラスティ(麻央侑希)の綾鳳華、ハリー(壱城あずさ)の天希ほまれ、そしてブラニガン警部(美稀千種)の遥斗勇帆らもここぞとばかり弾んでいて星組パワー健在をみせつけた。NHKのスペシャルドラマ「小林一三」出演メンバーのなかで極美慎が救世軍のメンバーのクロスビー(紫藤)で出演、美貌がひときわ目立っていた。

なお、アンサンブルで出演した礼真琴は街の男やハバナの男などいろんな男役に挑戦。スカイを載せたタクシーの運転手で一言台詞があって客席を沸かせた。終演後の挨拶も長としてしっかり行った。

©宝塚歌劇支局プラス9月9日記 薮下哲司


ファンにとってはまさしく「SUPERGIFT!」開幕 剣幸とこだま愛のミーマイも再現!

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剣幸、安寿ミラ、杜けあき、姿月あさと、湖月わたるという80年代から2000年代までの宝塚で一時代を築いたトップスターを中心にOGが一堂に集う梅田芸術劇場10周年記念イベント「SUPERGIFT!」(三木章雄構成、演出)が、12日、東京国際フォーラムで初日の幕を開けた。今回は11日に行われた、この公演の舞台稽古の模様を報告しよう。

劇場飛天としてオープンしたのが1992年、途中、旧名の梅田コマ劇場と名称を変えたのち梅田芸術劇場として再オープンして今年で10年目、宝塚の大阪での拠点劇場としてすっかり定着した感があるが、「SUPERGIFT!」はそれを支えてきたファンに対するスペシャルな贈り物。101周年を迎えた宝塚歌劇への応援歌でもある。

剣以下5人の男役トップとこだま愛、森奈みはる、星奈優里、彩乃かなみの4人の娘役トップの9人がメーンレギュラーで、退団したばかりの鶴美舞夕や音花ゆりら12人がアンサンブルで出演。ほかに日替わりでトップスターOGがゲスト出演する。舞台稽古は12、13日に出演する壮一帆が務め、客席で14日に出演する稔幸が見守った。

ステージは二部構成、一幕は湖月をトップバッターにレギュラートップが真っ赤なおそろいの衣装で勢ぞろい。各自が在団中の代表作の主題歌を歌いながら登場、早くも懐かしさでいっぱい。安寿が「哀しみのコルドバ」杜が「ヴァレンチノ」といった具合。全員が揃ったところで「コパカバーナ」の賑やかなメドレーでミュージカル特集へ。剣が「南太平洋」から「魅惑の宵」を歌えば、姿月は「CHICAGO」の主題歌、杜が「TOPHAT」と各自がおなじみの曲に挑戦。湖月の「スイート・チャリティ」からのダンスナンバーもみものだった。

そして第一幕の目玉は剣のビルとこだまのサリーという宝塚初演版「ミー&マイガール」(1986年)の再現へ。なんとジェラルドが姿月、ジャッキーが星奈、ジョン卿が杜、マリアが安寿という豪華版。主題歌を歌い継ぐダイジェスト版でラストはもちろん「ランべスウォーク」。全員が客席降りしてにぎやかに締めくくった。それにしても剣、こだまコンビの達者なこと。一気に初演当時にタイムスリップした。

二幕は日本物からスタート。剣、こだまが山本周五郎原作「柳橋物語」をもとにした「川霧の橋」の名場面の再現、杜、星奈のコンビで「深川マンボ」と続いた。いずれも宝塚史上に残る日本物の芝居とショーの一場面。剣、杜という二人の実力メンバーならではの見ごたえたっぷりの再現シーンだった

日本物のあとはがらりと変わってディズニーメドレー。安寿、森奈、彩乃が「リトルマーメイド」などの主題歌を歌い継いだ。続くコーナーは日替わり変わるジャズとラテンのコーナー。この日はジャズで「バードランドの子守歌」から始まって「ニューヨークの秋」などムーディーなジャズから始まって「シングシングシング」で総踊り、おおいに盛り上がった。

宝塚が生んだ不世出の大スター、大浦みずき追悼のコーナーもある。同期生の剣が大浦のトップ披露公演だった「キス・ミー・ケイト」の主題歌「ソー・イン・ラブ」を心こめて歌い、安寿がソロで踊った。大浦への愛があふれた場面となり「ミー&マイガール」再現と共に観客にとっても「SUPERGIFT!」ならではの感動的な贈り物となった。

ここでスペシャルゲストコーナー。壮が黒のタイトなパンツに白のブラウスというシンプルな衣装で「アンダー・マイ・スキン」そして「ベルサイユのばら」から「愛のかたち」「愛の面影」とフェルゼンの歌を現役時代そのままに披露。

そしてフィナーレは全員が勢ぞろい、トップがそれぞれの自信曲を披露、剣がドレスアップして「ショーチューン」からの主題歌を高らかに歌い上げた。カーテンコールはこだまのリードで「すみれの花咲く頃」を大合唱して記念イベントを締めくくった。3時間たっぷり、せっかく音花が出演しているのにソロがなかったのが残念だったが、トップでなければ歌えない、これもOG公演の宿命?とはいえ、ファンにとってはまさしく「SUPERGIFT!」なステージだった。

スペシャルゲストは壮のほかに紫苑ゆう、涼風真世、一路真輝ら9人が日替わりで出演。
10月3日からの大阪公演には専科の美穂圭子、華形ひかる、沙央くらまが特別出演することになっている。

©宝塚歌劇支局プラス9月12日記 薮下哲司

暁千星 最高のバースデー、バウ・ワークショップ「A―EN」アリバージョン開幕

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暁千星 最高のバースデー、バウ・ワークショップ「A―EN」アリバージョン開幕

月組期待の若手スター、暁千星が主演したバウ・ワークショップ「A―EN(エイエン)」(野口幸作作、演出)のアリバージョンが14日、宝塚バウホールで開幕した。今回はこの模様を報告しよう。

「A―EN」は、朝美絢と暁が主演する2バージョンがある月組若手による芝居とショーのワークショップ。朝美バージョンに続く暁を中心にしたアリバージョンも、朝美版と同じく、芝居はニューヨークのブルックリンにある高校が舞台の青春ドラマ。ショーもセットや衣装はよく似ていて、曲も同じ曲が使われたりするが、場割が微妙に違っている。出演者は全くかぶらない月組若手20人で、研1、2メンバーにも大きな役が付いてアーサーバージョンと同様、搾りたてのレモンそのままのフレッシュきわまりないステージとなった。

芝居は「プロムレッスン」とタイトルは朝美版と同じだが、朝美版が、イケメン男子がうだつのあがらない地味系の女子を「マイ・フェア・レディ」よろしく美しく変身させるというストーリーだったが、暁版はその逆で、男前のカッコイイ女子、マリッサ(海乃美月)が、転校生のアニメおたくの不思議系男子、アリエル(暁)をジュニアプロムのキングに仕立てるまでを描く。朝美版が卒業前のプロムだったのに対し、学年が少し下という設定だ。

海乃扮するマリッサを中心にした制服女子が勢ぞろいして歌って踊るシーンから始まる芝居はなんだかAKBミュージカルと勘違いしそうな幕開き。ブロンドのヘアをなびかせて歌う海乃が、ひときわ背が高くてなかなかかっこいい。そこへ転校生のアリエルことアリ(暁)が、メガネに耳当て帽子というさえない格好で登場。転校初日から遅刻はするわ、メガネは壊すわ、ドジりっぱなしで、クラスのメンバーからは笑いものに。担任の先生(颯希有翔)の配慮でマリッサの隣に座ることになり、マリッサが学校の案内をすることになったことが、2人の出会いのきっかけとなって…、というストーリー。

野口演出は、朝美版と同じく今どきの少年少女の学園物の雰囲気を濃厚に出しながら、快調なテンポで展開。保健室のセクシーな先生(玲美くれあ)と体育教師(有瀬そう)のちょっぴり大人な関係をコミカルにまじえながら、マリッサの元カレ、コリン(蓮つかさ)と新しい彼女サンドりーヌ(美園さくら)とのライバル関係、マリッサの親友カレン(舞雛かのん)と中国系アメリカ人ウー(英かおと)らを巧みに配して、アリとマリッサのピュアラブをお定まりだがさわやかに描いている。脇に至るまで個性的な役と配役が面白い。

暁は不思議系のさえない男子役がさまになっていて、おかしくもかわいい。ラストのイケメン男子での登場もすっきりしていて若々しさがあふれた。台詞が早口で、客席の笑いとかぶって聞き取りにくいところがあったので、その辺は改善の余地ありかも。ヒロインの海乃は「1789」でオランプ役を演じた経験値がやはり大きくて、舞台での存在感や演技の余裕などは一番。卒業したら、どこかの大企業でバリバリのキャリアになるだろうな、と思わせる雰囲気まで漂わせていた。

一方、ショーは、ダンサー暁を存分に楽しんでもらおうという狙い。暁もその期待にこたえて身体能力のすべてを出し切っている。しかし、難易度の高い振りもずいぶん楽々としていて余裕たっぷり。全場面にメーンとして登場、歌い踊りまくるが、汗やしんどさをまったく感じさせないのがすごい。柚希二世という呼び声もあながち過大評価ではないことが証明されたようだ。

純白の豪華なマント姿で三日月に乗って宙づりで登場、早変わりで真っ赤な衣装に変わるプロローグは朝美版と同じ。続いて英かおとのファムファタールを相手にセクシーに踊るジャズ、「Moon River」などの月の曲のメドレー、美脚をふんだんに披露する女役のラテン、純白の軍服姿で「ブーケダムール」などの宝塚クラシック、「黒い鷲」で登場するシャンソン、そしてかっこいいシルバーグレイの背広のダンスと考えられるあらゆるパターンが見られる。海乃とはムーンメドレーのデュエットでからむが、これがなんとも洒落たダンス。とにかく大きなファンキックもくるくる回るピルエットも楽々で、どの場面も眼福だ。ラテンの女役も、バックの男役ダンサーと同じ振りをダルマ姿で踊る。これには少々びっくり!ラテンの場面の相手役は研1の礼華はる。朝美版で天紫珠李が抜擢されたように、ここでも大抜擢。芝居でも実行委員役で身長と甘いマスクが目立っていたが、これで一気に名前を覚えた。ほかにも芝居で美容師志望の学生とトラヴィスを好演した新斗希矢がショーでも英、礼華とともにキュートボーイなどで客席おりに起用されるなど、若手の抜てきが目立った。

歌では、芝居の担任教師役でアリの応援歌を好唱した颯希が、ショーでもジャズやクラシック、シャンソンの場面のソロで美声を聴かせた。有瀬のパワフルな声、美園の透き通った声とともに歌の人を印象付けた。

公演終了後のカーテンコールでは、観劇していた美弥るりか、珠城りょうら「Dragon night」メンバーの紹介もあり、満員の観客は自然発生的に総立ちのスタンディング。予想していなかったハプニングに暁も大感激だった。初日の9月14日は「おとめ」を見て頂ければ分かるように、故意か偶然か、暁の誕生日。終了後には、幕内ではメンバーからのサプイズのお祝いがあったというが、暁にとっては、最高のハッピーバースデーになったに違いない。

©宝塚歌劇支局プラス9月15日記 薮下哲司


明日海源氏、りりしく美しく 「新源氏物語」開幕

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明日海源氏、りりしく美しく 「新源氏物語」開幕

花組トップ、明日海りおが、光源氏を演じる宝塚グランドロマン「新源氏物語」(柴田侑宏脚本、大野拓史演出)が2日、宝塚大劇場で開幕した。今回はこの模様を中心に報告しよう。

紫式部原作の「源氏物語」は、宝塚でも再三上演されており、日本文学の中でも一番数多く上演されている人気演目となっている。絢爛豪華な平安時代の王朝絵巻は宝塚にぴったりで、とりわけ春日野八千代が光源氏に扮した白井鐵造演出バージョンの評価が高い。今回の「新源氏」は、オスカルやレット・バトラーで人気となった榛名由梨のために、柴田侑宏氏が田辺聖子の現代語訳をもとに脚本化した作品。1981年の初演のあと1989年に剣幸で再演、今回はなんと26年ぶりの再々演となった。この間に大和和紀原作、草野旦演出による「源氏物語あさきゆめみし」(2000年、2008年)が上演されている。

草野版が、光源氏の後半生にスポットを当て、因果応報をテーマにモダンなミュージカル作品に仕立て上げていたのに対し、この柴田版は、光源氏17歳から後半生まで、膨大な原作をほぼ網羅したダイジェスト版。寺田瀧雄作曲の名曲「恋の曼陀羅」に乗せて「雨夜の品定め」や「車争い」など名場面をちりばめながらひたすら絵巻物のようにテンポよく展開していく。ただ、あまりにも登場人物が多く、複雑に入り込むので、ある程度原作を知っていても、見ながら思い出して人物関係を頭の中で整理していくだけでも並大抵のことではない。この際、途中で放棄、明日海源氏の美しさをただただ眺めているだけでいいのではないだろうか。光源氏が父親の後添えの藤壺(花乃まりあ)を慕うあまり、その姪にあたる紫の上(桜咲彩花)にその面影をみて恋人に仕立て上げるという基本を押さえておけば、あとはひっついただの別れただの大した話ではない。ただいくら明日海源氏が美しく眺めるだけでいいからと言って、登場人物の誰にも感情移入できないのはいかがなものか。そこが「新源氏」の一番の欠点だろう。「あさきゆめみし」が藤壺と紫の上をワンキャストにするという大胆な発想で、光源氏の思いを巧みに表現していたが、「新源氏」は、あくまで光源氏の視点で描かれているので、女性陣の描きかたがどれも中途半端だ。六条御息所(柚香光)も同じことならもっとおどろおどろしく作ってもよかったかと。けっこうあっさりした印象だった。とはいえ、大階段に真っ赤な毛氈を敷き詰めてのオープニングの王朝絵巻パレードの豪華さはじめ、久々に宝塚の王朝絵巻をみられただけでもよしとしよう。

さて、明日海源氏だが、情熱的な光源氏にという本人の意気込みにふさわしく、りりしく美しいなかにも、芯のある役作りで、いかにも明日海らしい光源氏だった。銀橋中央で後ろ向きから振り向きざまに登場するオープニングから匂い立つような美しさで魅了した。欲を言えば、前半と後半で10年以上がたっているのだが、その辺の時間経過があまり感じられなかったので、その辺の工夫があればさらに深まると思う。

芹香斗亜は、光源氏の随身、惟光役。原作ではそれほど大きな役ではないが、柴田版では二番手のおいしい役どころで、笑いを取るコメディリリーフ的な役割も担う。いまの芹香にはぴったりの役どころで、オープニングのソロの好唱とともに印象付けた。

とはいえ今回の若手男役で一番の話題は六条御息所と柏木の二役に起用された柚香光だろう。「あさきゆめみし」では水夏希が、明石の上に扮したが、嫉妬に狂う六条御息所はそれ以上に面白い配役だろう。柚香がどんな風に演じるのかとおおいに期待したが、凛としたたたずまいはよかったが、メイクが割とストレートで「あさきゆめみし」の貴柳みどりが演じたときよりずっとソフトに見えた。それはそれでいいが、それなら柚香が演じる意味がなかったのではないか。もっと強烈なインパクトがほしかった。幻想シーンもしかり。ただ、柏木役は、さすがに生き生きとしていて、女三ノ宮との濡れ場など水を得た魚のようだった。

頭中将は瀬戸かずや。源氏の親友で、2人で舞う場面もあり、明日海をしっかりサポートしていた。柚香の柏木とともに後半で登場する夕霧は鳳月杏。明日海源氏の息子というにふさわしい若々しさを発散させていた。

一方、娘役陣にも役が多いのが「新源氏」の特徴。藤壺の花乃はしっとりとした大人の女性を、紫の上の桜咲は源氏の理想の女性を奥ゆかしくそれぞれ好演、それ以外の娘役陣で光源氏にからむのは葵の上が花野じゅりあ、朧月夜が仙名彩世、女三ノ宮が朝月希和といったところ、あと中将の君が華雅りりか、夕霧の恋人、雲井の雁が城妃美伶だがどれも花野以外はほとんどワンポイントで特に印象に残らず、藤壺に仕える王命婦に扮した芽吹幸奈の達者な演技が際だった。

あと桐壷帝の汝鳥伶、弘徽殿の女御の京三紗はいうまでもない名演。京は89年の「新源氏」でも同じ役で出演していた。

一方、グランドレビュー「Melodia-熱く美しき旋律―」(中村一徳作、演出)は、50分のコンパクトなショー。全体的にラテン色が強く、情熱的な明日海のさまざまな魅力がふんだんにみられるが、柚香の歌から始まって全員が真紅の衣装で総踊りに発展する中詰めのスぺインの場面が印象的。鳳月の女役がなんともいえず魅力的だった。芝居ではあまり見せ場のなかった水美舞斗がフィナーレで舞台中央からで踊りながら登場、銀橋でソロを歌い、ラインダンスにつなぐ役をになった。伝統的な二枚目の雰囲気と現代的な独特の個性があり、ますます楽しみな存在だ。明日海を中心とした黒燕尾のダンス、花乃とのデュエットダンスに続くパレードのエトワールは乙羽映見が病気休演のため仙名彩世がピンチヒッターで美声を聴かせ、柚香が三番手羽を背負って階段を下りた。

©宝塚歌劇支局プラス10月5日記 薮下哲司

◎…「毎日文化センター(大阪)」では「宝塚歌劇講座~花の道伝説~」(講師・薮下哲司)秋季講座(10月~来年3月)の受講生を募集中です。毎月第4水曜日の午後1時半から3時、大阪・西梅田の毎日新聞3階の文化センターで、宝塚取材歴35年の薮下講師による最新の宝塚情報や公演評、時にはゲストをまじえての楽しいトークなど、宝塚ファンなら聞き逃せない楽しい講座です。10月は28日が開講日。12月には受講者の投票による「宝塚グランプリ2015」も予定しています。ふるってご参加ください。受講料(6回分18150円)。詳細問い合わせは☎06(6346)8700同センターまで。

朝夏まなと×真風涼帆 絶妙コンビ誕生!「メランコリック・ジゴロ」開幕

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朝夏まなと×真風涼帆 絶妙コンビ誕生!「メランコリック・ジゴロ」開幕

朝夏まなとを中心とした宙組による全国ツアー、サスペンス・コメディ「メランコリック・ジゴロ」―あぶない相続人―(正塚晴彦作、演出)とロマンチック・レビュー「シトラスの風Ⅲ」(岡田敬二作、演出)が、10日、大阪・梅田芸術劇場メインホールから開幕した。今回はこの模様を報告しよう。

「メランコリック・ジゴロ」は、第一次世界大戦後のヨーロッパの某国が舞台。田舎娘アネット(瀬戸花まり)と浮気したことがばれてパトロンのレジーナ(綾瀬あきな)に三行半をつきつけられ、文無しになったジゴロ、ダニエル(朝夏)が、親友のスタン(真風涼帆)の誘いに乗って、詐欺まがいの金儲けに一役買うことになるが、儲かるどころかそれがもとで15年前に生き別れたという妹フェリシア(実咲凛音)が訪ねてきたり、チンピラのバロット(愛月ひかる)に命を狙われたりと、とんだ騒動に巻き込まれるというお話。

1993年に安寿ミラ、真矢みきによる花組で初演されて息の合った二人のコンビぶりが評判となり、2008年と2010年に真飛聖、壮一帆のコンビによる花組で再演された。真飛、壮も洒落た大人のテイストで楽しかったが、これはもう、初演の安寿、真矢コンビに勝るものはない。と、思っていたのだが今回の朝夏、真風が予想以上の大健闘。朝夏が、学費のために仕方なくジゴロをしているという本来は真面目な?苦学生という雰囲気にぴったりなのと、真風扮するちゃらんぽらんなスタンが初演の真矢をほうふつさせるやんちゃぶりを発揮して、2人の関係になんともいえないおかしみが漂った。上り調子の2人の勢いがいい感じで舞台にでた作品と言えよう。正塚演出も近来になく快調で、客席も随所で笑いが爆発、ラストはちょっぴりペーソスもまじえて宝塚ならではの、なんともいえない心地よい劇空間を作り上げた。

朝夏は、トップ披露公演「王家に捧ぐ歌」を大過なくやり終えた自信が身体全体にみちあふれ、得意のダンスの軽やかさに加えて歌も高音までよくのびて絶好調。台詞の口跡もずいぶん改善された。トップという重責を担うと、自ずからセンターオーラが漂い、気構えから変わってくるのだなあというお手本のようだ。遺産相続人アントワンになりすましたことから実咲扮する妹フェリシアが出現、戸惑いながらもほのかな愛に変わっていく様子を、包み込むように実にうまく自然に表現した。

一方、相棒役スタンの真風も、宙組に異動した最初が「王家―」のウヴァルド役が、二番手とはいうもののさして大きな役ではなかったことから、その余力をここに一気にぶつけたような弾みぶり。正塚演出特有の台詞の間の取り方も見事で、朝夏との絶妙のコンビぶりだった。カラーは違うが、硬軟のコンビという意味では安寿、真矢に似ているのではないかと思った。今後が楽しみなトップ、二番手コンビになりそうだ。

フェリシア役の実咲も、何をやらせてもぐずでのろまだが、何とかしてやりたいと思わせるピュアで可愛い田舎娘を実にうまく演じた。朝夏×真風コンビが引き立ったのも実は実咲の好演あったればこそという気もする。透き通った美しい歌声もいかにもフェリシアの純粋な心をそのまま表しているようだった。彼女も「王家に捧ぐ歌」のアイーダという大役を終え、今回は軽く流しているという感じなのだが、その余力感がいい。


共演者ではまずフォンダリに扮した寿つかさの好演をあげたい。睡眠口座の相続人アントワンとして名乗りをあげたダニエルに借金返済を迫る謎の男という設定。いかにもうさんくさい男だが物語のキーマンのフォンダリを寿がいかにも楽しそうに演じて、観客をけむに巻いた。息子のチンピラ、バロットの愛月ひかるも、腕っぷしは強いがちょっぴりおつむの弱い感じを嫌みなく演じて、なかなかの好演。思わず初演で演じた真琴つばさを思い出した。バロットの妻ルシルは伶美うらら。こういう亭主の尻をたたく姉さん女房的な役でもその美貌が一段と映えて魅力的だ。スタンの恋人ティーナは彩花まり。初めての大役に体当たりで挑戦したが、ぶっ飛び方がまだちょっと硬い感じ、真風が手を焼きながらもどうしようもできないという可愛さの表現が弱かった。あと刑事役が澄輝さやと、弁護士役が星吹彩翔そして謎の浮浪者の凛城きらといったところが主要な役どころ。

一方「シトラスの風Ⅲ」は、1998年の宙組誕生時に上演されたロマンチック・レビュー12作目の作品のリニューアル版。昨年、凰稀かなめを中心とした宙組中日劇場公演で「―Ⅱ」として再演したものをベースに、フィナーレだけを朝夏のためにリニューアルしてある。グリーン、ブルー、イエローといった寒色系の衣装を着たシトラスの男女たちが板付で登場するオープニングからなんとも洗練されている。昨年、久々に見たときの感触が一気に甦った。続くMGMミュージカルの世界、トロピカルなラテンの世界、そしてオペラの世界とどの場面もいつか見た懐かしい世界、しかし、朝夏、真風、実咲といった出演者の若さとパワフルな歌とダンスで、古さを感じさせないどころか新鮮だ。逆に、このショーの極め付けというべき「明日へのエナジー」のゴスペルが、力強くダイナミックなのだが、最近のショーでしょっちゅう見ている場面とあまり変わりばえせず、かえって古臭くみえたのがおかしかった。フィナーレはまず真風と実咲のデュエットダンスから始まり、朝夏が登場して「マイガール」「愛さずにはいられない」を歌いながら客席おり、引き続き男役メンバーと
燕尾服のダンスにつなぐといったスタイル。いずれにしても岡田テイストにあふれたロマンチックレビューだった。最近の忙しいだけのショーを見慣れているとなんだかほっとする。大劇場でもぜひ再現してほしい。

©宝塚歌劇支局プラス10月11日記 薮下哲司

◎…「毎日文化センター(大阪)」では「宝塚歌劇講座~花の道伝説~」(講師・薮下哲司)秋季講座(10月~来年3月)の受講生を募集中です。毎月第4水曜日の午後1時半から3時、大阪・西梅田の毎日新聞3階の文化センターで、宝塚取材歴35年の薮下講師による最新の宝塚情報や公演評、時にはゲストをまじえての楽しいトークなど、宝塚ファンなら聞き逃せない楽しい講座です。10月は28日が開講日。12月には受講者の投票による「宝塚グランプリ2015」も予定しています。ふるってご参加ください。受講料(6回分18150円)。詳細問い合わせは☎06(6346)8700同センターまで。


宙組ホープ、桜木みなと初主演、バウ公演「相続人の肖像」開幕

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宙組ホープ、桜木みなと初主演、バウ公演「相続人の肖像」開幕

宙組期待のホープ、桜木みなと主演のバウ・プレイ「相続人の肖像」(田淵大輔作、演出)が15日、宝塚バウホールで開幕した。今回はこの模様を報告しよう。

「相続人―」は、20世紀初頭のイングランド西部、貴族階級がまだまだ社会で幅を利かせていた時代のお話。伯爵家の跡取り息子チャーリー(桜木)が、父の訃報を受け、遺産相続のためロンドンからバーリントンハウスの居城に帰ってきたことから巻き起こるライトコメディ。遺言には父の後妻で義母のヴァネッサ(純矢ちとせ)と共に暮らすことが条件とあり、はなからヴァネッサを毛嫌いしているチャーリーは大憤慨。遺産はいらないと啖呵を切るのだが、それでは多くの使用人が失職することになり、仕方なく資産家の親友ハロルド(蒼羽りく)の姉ベアトリス(愛白もあ)と婚約するはめになる。ところが、ヴァネッサの連れ子のイザベル(星風まどか)が出現、チャーリーが憎からず思ったことから話がややこしくなって、というストーリー。「ミー&マイガール」や「アーネスト・イン・ラブ」と同じ、イギリスの貴族社会を舞台にした遺産相続にからむ恋のさやあて騒動だ。

幕が上がるとチャーリーの父親ジョージの葬儀のシーン。いきなり暗い墓場の前での陰鬱な雰囲気のダンスナンバーから始まる。そこへ遺産相続のためいやいや屋敷に帰ってきたチャーリーが登場する。桜木はいかにも貴族の御曹司といったノーブルな雰囲気をたたえてうってつけの適役。音月桂の端正さに樹里咲穂の闊達さをまぶしたような個性といえるだろうか。後妻をめとった父に反発して、放蕩三昧だったプレイボーイのチャーリーが、父のまごころに触れ、自らも愛に目覚めていく青年の成長過程を、さわやかに演じている。

ただ、チャーリーをふくめて主人公たちの考え方があまりにも自分中心で、結末も強引すぎてあまり後味のいいドラマではない。祖母のロザムンド(悠真倫)が最後に「これでダラム家はまた鼻つまみ者になるわね」と嘆息して終わるのだが、まさにその通りである。チャーリーとイザベルの二人に振り回されたアルンハイム子爵家のハロルドとベアトリスには本人たちが納得しているとはいうもののまったく救いがなく、思いやりに欠ける作劇だ。

ヒロインのイザベルに扮した星風は、いかにも宝塚のヒロインらしい清楚で可憐な中にも自己を主張する強さも垣間見せる好演。チャーリーには当初、生意気な妹と映っていたのに、少しずつ気になる存在になっていく様子を巧みに表現した。ただ、イザベルがチャーリーのどこに惹かれたのかあまりよく伝わらなかったのは問題で、そのことがドラマの後味をあまりいいものにしていない原因でもある。
 ハロルドの蒼羽とベアトリスの愛白は、それぞれとんでもない損な役どころなのだが、2人とも大健闘。蒼羽ハロルドは、イザベルに求婚しようとするのだが、はぐらかされてなかなかできないあたりをキザっぽく演じて笑わせ、しかし、その思いが決して半端なものではない純情さもうかがえて、ハロルドの人柄を巧みに表現、一方、ベアトリスの愛白も一途にチャーリーに想いを寄せながらもチャーリーの心に自分が占める位置がないことを知って潔くあきらめる健気な女性を好演。この二人が好演しているだけに、主人公2人がよけいに勝手な人間にみえてしまうのかも。

あとは女役を演じた専科の悠真の圧倒的な貫録。さしずめ今の映画界ならジュディ・デンチが演じそうな役どころを楽しそうに演じた。ヴァネッサ役の純矢ちとせも、もう彼女ならではの存在感で舞台に厚みと深みを出すことに貢献。この二人と執事長フィップス役の松風輝の巧演が、この舞台を支えたといっても過言ではない。なかでも歌に演技に純矢の存在は大きく、かつての条はるきのように、大劇場公演でももっと重用されてしかるべきだと思った。

春瀬央季、七生眞希ら若手男役陣の多くはダラム家の下僕。アンサンブル扱いだったがイケメン?ぞろい。ここは春瀬ら召使い同士の恋模様をもう少し突っ込んで描き、チャーリーたち貴族と対比して描ければさらに面白かったかも。留依蒔世がケガのため休演、代演の水香依千が立派に穴を埋めたのも好印象だった。

フィナーレは蒼羽を中心に電飾で彩られた額縁から登場する男役陣のスタイリッシュな群舞から始まり、スモークのなかの桜木、星風のデュエットダンスへと展開。いかにもロマンチックなムードが漂った。

©宝塚歌劇支局プラス10月16日記 薮下哲司

◎…「毎日文化センター(大阪)」では「宝塚歌劇講座~花の道伝説~」(講師・薮下哲司)秋季講座(10月~来年3月)の受講生を募集中です。毎月第4水曜日の午後1時半から3時、大阪・西梅田の毎日新聞3階の文化センターで、宝塚取材歴35年の薮下講師による最新の宝塚情報や公演評、時にはゲストをまじえての楽しいトークなど、宝塚ファンなら聞き逃せない楽しい講座です。10月は28日が開講日。12月には受講者の投票による「宝塚グランプリ2015」も予定しています。ふるってご参加ください。受講料(6回分18150円)。詳細問い合わせは☎06(6346)8700同センターまで。




柚香光、水も滴る光源氏で観客を魅了 花組「新源氏物語」新人公演

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柚香光、水も滴る光源氏で観客を魅了 花組「新源氏物語」新人公演
 
花組期待のホープ、柚香光が主演した宝塚グランドロマン「新源氏物語」(柴田侑宏脚本、大野拓史演出)新人公演が、20日、宝塚大劇場で行われた。今回はこの模様を報告しよう。

榛名由梨が演じた初演(1981年)のときは大地真央が代役公演で、剣幸が演じた再演(1989年)の新人公演は天海祐希が新人公演で演じ、それぞれその後のおおきなジャンピングボードになった光源氏。柚香の光源氏も、のちのちファンに語り継がれていく舞台になったのではないかと思う。本公演の明日海りおに比べれば、演技的にはまだまだ粗削りだが、たとえようもなく美しく雅やかで包容力のある光源氏だった。

公演中に一回しかない新人公演、最近とみに人気が高く、どの公演も早くからチケットは完売するが、今回の新人公演は本公演でもポジションが三番手格にあがり、人気急上昇中の柚香が光源氏を演じるという話題性と彼女にとって最後の新人公演ということが重なって、特に人気が高くチケットは仰天するようなプレミア価格で取引されるほど。客席の雰囲気も心なしかいつもより熱かった。

暗闇に灯りがともり、緋毛氈をバックに純白の衣装に身を包んだ柚香源氏が銀橋から後ろ向きに登場して正面を振り返ったとたん客席からは割れんばかりの拍手。黒い烏帽子が長身をさらに大きく見せたうえ、くっきりした目鼻だちに白塗りの化粧がよくはえて、まさに光源氏が現代に甦ったよう。どことなく現代的な風貌が、またプレイボーイとしての光源氏にぴったりだった。義母、藤壺(朝月希和)を慕うあまり、その面影をほかの女性に求めて女から女へとさすらう光源氏だが、その一番のベースとなる前半の藤壺とのラブシーンがなまめかしく、なかなか真に迫っていて、その後の展開がおおいに納得がいった。

男役スターの音域に合わせて曲作りをした寺田瀧雄氏の曲だけに、柚香の音域にもあったのか課題だった歌も、一、二か所を除いて見違えるよう。新人公演の締めくくりにふさわしい最高の出来だった。

男役では頭中将(本役・瀬戸かずや)に扮した水無舞斗が素晴らしかった。柚香と同期ということもあり源氏と腹心の親友という雰囲気が濃厚に出ていたのと、きりっとした表情が、白塗りの化粧によく映えて、柚香とは違った意味でとにかく美しい。雨夜の品定めの場面での色っぽい台詞もさまになっていたが、柚香と水無が二人並んで舞を披露する場面は、まさに眼福だった。

惟光(芹香斗亜)の優波慧は、緊張からかオープニングシーンのソロがやや弱くて減点材料。その後は源氏の随身、惟光として、コミカルな場面もそれなりにこなした。もともと実力派で、決して柚香、水無とそん色はないのだが、2人の圧倒的な存在感の前に、今回はちょっと影が薄かった。

本公演で柚香が二役で演じた六条御息所と柏木は、帆純まひろが抜擢された。柚香と水無を足して割ったようなすっきりとした美丈夫だが、台詞はまだできておらず、時代物の発声になっていないのが難点。しかし、大健闘でこの経験は、今後必ず役立つだろう。御息所と柏木では、やはり柏木が似合った。

女役陣は藤壺(花乃まりあ)の朝月希和が、気品をたたえ源氏を包み込むように好演。ほかに紫の上(桜咲彩花)が城妃美伶、朧月夜(仙名彩世)は雛リリカ、女三の宮(朝月)が茉玲さや那、雲井の雁(城妃)が春妃うらら、若紫(春妃)が音くり寿といったメンバー。

城妃が、現代的なつくりでそれはそれでいいがやや違和感があったかも。音の若紫は可愛いものはもちろん、オープニングのソロも聴かせた。歌といえば、源氏と藤壺のラブシーンのバックで歌った若草萌香の美声は素晴らしかった。役は王命婦(芽吹幸奈)だった。

弘徽殿の女御(京三紗)で出演したトップ娘役の花乃まりあは、もともとふり幅が広く、なんでもできる娘役スターらしく、楽しんで演じている感覚がみていて頼もしかった。

©宝塚歌劇支局プラス10月21日記 薮下哲司


龍真咲×愛希れいか主演 月組公演「舞音」開幕、二番手に珠城りょうが昇格!

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龍真咲×愛希れいか主演 月組公演「舞音」開幕、二番手に珠城りょうが昇格!

龍真咲を中心にした月組によるミュージカル「舞音」―MANON―(植田景子脚本、演出)とグランド・カーニバル「GOLDEN JAZZ」(稲葉大地作、演出)が13日、宝塚大劇場で開幕した。明日海りおが花組に組替えになって以来長らく明確な二番手が不在の月組だったが、今公演から珠城りょうが龍に次ぐ二番手に昇格、ショーのフィナーレには大きな二番手羽を背負って登場した。今回はこの公演の模様を報告しよう。

「舞音」はサブタイトルにもあるようにフランスの作家、アベ・プレヴォ原作の「マノン・レスコー」をもとに、舞台を1929年ごろのフランス領インドシナ時代のベトナムに移し替えた意欲作。貴族の青年が、奔放な女性マノンに恋して、人生の歯車を狂わせてしまうという原作は映画、オペラ、バレエなどの題材になり、宝塚でも戦後すぐの1947年、淡島千景と南悠子の月組で初演、続いて瑠璃豊美、越路吹雪の花組で続演、さらに2001年には花組時代の瀬奈じゅん、彩乃かなみ、蘭寿とむらの出演でバウホール公演として取り上げられている。原作は18世紀初頭、革命前のフランスと新大陸アメリカが舞台で、宝塚初演はそれを踏襲したが、2001年版は舞台をスペインに移し替え、スパニッシュをふんだんに盛り込んだ情熱的な舞台を繰り広げた。今回の舞台のベトナムは東洋と西洋の文化が入り混じった雰囲気が宝塚にぴったりで、それだけでかなりの得点をあげた。フランス統治時代のベトナムを背景にした映画といえばカトリーヌ・ドヌーブ、ヴァンサン・カッセル主演の大作「インドシナ」が思い浮かぶが、この舞台は多分にこれにインスパイアされた感じが濃厚だ。いずれにしても貴族出身のフランス士官とベトナム人女性の恋物語というのはそれだけでドラマチックだ。

前置きはさておき、冒頭はサイゴンの港。船員たちが行きかう仲、下手から純白の軍服に軍帽をかぶった青年がせり上がってくる。誰しも龍真咲だと思ったら、それは美弥るりか。サイゴンの街の喧騒のなか、美弥が銀橋に躍り出たところで、舞台中央奥の船首にたたずむ黒い影にスポットが当たり、美弥と同じ格好をした龍真咲扮するシャルルが登場する。ずいぶんひねった出だしだ。美弥はもう一人のシャルルという設定。その後も常に、美弥は龍シャルルより前に登場して、シャルルを物語に誘っていく存在となる。「風共」のスカーレットⅠとⅡのようでもあり「ロミジュリ」の愛と死のようでもある。

ドラマ自体は、原作をなぞっている。カロリーヌ(早乙女わかば)という婚約者がいながらシャルル(龍)は、サイゴンに赴任した夜、ダンスホールの踊り子でフランス人とベトナム人の混血のマノン(愛希れいか)に一目ぼれ、その日のうちに駆け落ちする。一夜を過ごす官能的なシーンが美しい。しかし、すぐにマノンのヒモ的存在の兄クオン(珠城りょう)に見つかり、引き離されてしまう。マノンが高級娼婦だったことが分かり、シャルルはいったんあきらめようとするのだが、サイゴンで偶然再会して、愛が再燃。あとはずるずるという展開。後半は、インドシナ独立運動が2人を巻き込み、悲劇的な結末に突っ走っていく。

話自体はドラマチックなのだが、初日の舞台を見た限りでは心のシャルルと実際のシャルルが有機的につながっておらず、ドラマとしての流れがぎくしゃくしてずいぶんまとまりのない出来栄え。マノンにおぼれていくシャルルの気持ちはわかるのだが、マノンがシャルルに対してどう思っているのか、束縛から逃れようとするマノンの心の変化がいまいちよくわからないままどんどん話が進むのも、後半への盛り上がりに欠ける原因か。マノンにこそもう一人の心が必要だったかも。スパイ容疑で逮捕されたマノンを救出、霧のハロン湾に2人で船出するクライマックスシーンは涙を誘う名シーンになっただけに、基本的な部分をきっちりとしておいてほしかった。

龍は、一人の女性への愛を貫くためには地位も捨てるという、これまでにはなかった熱い役どころ。しかし、どんなに落ちぶれても、かっこよさで魅せるいつもの龍らしさがあふれていて、崩れていく男の雰囲気は微塵もない。龍らしいと言えば、これほど龍らしい役作りもなく、それはそれで面白いが、ふとしたところで寂しさや陰のようなものが見え隠れするとさらに深みがでるだろう。

一方、マノンの愛希は、この役が決して適役とは思えなかったのだが、登場シーンのダンスシーンから何とも魅力的。愛希なりの解釈でマノンを演じ切った。いったん別れてからシャルルと再会、罵倒されたことがきっかけで愛が再燃するあたり、脚本がやや弱いのでわかりにくいが、誰からも愛される女性という雰囲気はよく出ていたと思う。

マノンの兄クオンの珠城は、妹を食い物にする打算的な青年で、かなりきわどい役だが、珠城が演じると、ずいぶん好青年に見えた。そういう風に描かれているとはいえ、もっと悪のほうが魅力的だ。

親友クリストフ役の凪七瑠海は、この作品オリジナルの役どころで、シャルルの合わせ鏡的な存在。ストーリー的にはなくてもいい役だが、凪七が地に足の着いたしっかりとした存在感で見せた。

シャルルの心の美弥は、最初から最後までずっと龍を見守るというおいしい役。衣装も常に龍と同じだが、終始無言でダンスが中心。台詞はラストの一言だけ。ずいぶんユニークな役だが、美弥は好演している。ただ、初日を見た限りでは役自体がドラマ的効果をあげているかといわれればやや疑問。シャルルの愛欲の象徴という形にすればもっと分かりやすかったと思うのだが、宝塚ではまさかそこまでは描けないのか、なんとなく中途半端で靴の下から足を掻くような存在だった。ラストの案山子のような船頭が突然立ち上がってこちらを向くシーンはちょっとびっくり。背後霊のようでおもわず笑いが。しかし、そこで初めて発する台詞がすべてを物語った。

専科からの出演となった星条海斗は、反政府運動を取り締まる警官ギヨーム役。やや一本調子の台詞が興をそいだ。一工夫ほしい。反政府運動グループはマダム・チャンの憧花ゆりのを筆頭にソンの宇月颯、カオの朝美絢、ホマの海乃美月、トゥアンの暁千星らのメンバー。後半に彼らの見せ場も用意してあり、なかでも海乃が印象的な役どころだった。

スタッフに外部からの招へいが多いのもこの作品の特徴。作曲のジョイ・ソン、装置の松井るみ、衣装の前田文子、振り付けの大石裕香といった顔ぶれ。エキゾチックな音楽とアオザイをメーンにした衣装は効果的だったが、白布と竹を基調とした装置は、イメージ的には面白いがなんだかスカスカで安っぽくて宝塚には似合わない。冒頭の酷暑のサイゴンという熱気もあまり感じられなかった。ただラストのハロン湾と蓮の花のイメージを幻想的にまとめたのはよかった。巨岩の絶景を布で表現したのはアイデアだった。ただ、植田氏は松井氏とコンビを組んでから、松井色が濃厚で植田氏独特の美学が薄れたように思う。ここは蓮の花を舞台いっぱいに咲かせるぐらいのゴージャスさがあってもよかったと思う。一方、振付は全場面を通して大石氏が担当。水の精のダンスが大石氏らしかったがそれ以外は特に新鮮味はなかった。全体として意欲作ではあるが、まだきちんと熟成していない感じが濃厚だった。

さて、「GOLDEN JAZZ」は、星組「パッショネイト宝塚!」花組「宝塚幻想曲」と目下絶好調の稲葉氏によるジャズをテーマにした電飾キラキラのショー。
上手に千海華蘭、朝美絢、暁千星の三人が登場、バケツをドラムに見立ててたたき出すとのっけから手拍子が起こり、なかなか快調なオープニング。曲はショーのテーマソングの「聖者の行進」となって賑やかなカーニバルに発展していく。舞台中央からキングマルディグラに扮した龍が登場して主題歌を歌う頃にはもうすっかりカーニバルは最高潮。タンバリンを打ち鳴らし、客席を巻き込んでのダンスなど参加型の楽しいショーだ。最初から客席おりもあって賑やかそのもの。

華やかなカーニバルが一段落するとチェロ弾きの青年、珠城の場面へ。シックな龍と美弥のミラージュの場面や、底抜けに明るいウエスタンルックの凪七の場面が続き、あっという間に「シングシングシング」をフィーチャーした中詰と「君住む街」をバックにしたラインダンスになる。全員すみれ色の羽を背負ったラインダンスがいつになくゴージャス。

続く「rhythm」が今回の最大のみどころ。昨年の星組公演のショーで「カポネイラ」の場面が大好評だった森陽子振付の新たな場面。今回は愛希をメーンにしたアフリカンテイストのダンスで、ビートの効いた千海のソロの歌から始まって、珠城、宇月、暁、憧花らオーディションで選抜されたダンサーたちが、木片を打ち鳴らしながら原始的なリズムで踊りながら、次第に激しいジャズダンスに発展していく。かつての名作「シャンゴ」の名場面をほうふつさせるようなホットな場面となった。男役陣にまじってメーンで踊る愛希の切れのいい大きなダンスが素晴らしかった。今年一番のダンスナンバーといっていい。この場面を見るためにだけでも公演をもう一度みても損はない。

続く龍を中心としたゴスペルナンバーもショーの締めくくりにふさわしいビッグナンバーだった。続くフィナーレは星条がエトワール。美弥、凪七に続いて珠城が二番手羽を背負ってパレードした。すでに来年5月の全国ツアー主演も発表されており、今後は珠城を龍に次ぐ月組の二番手スターとして押し出していく方針が明確となった。実力派の男役スターとして早くから脚光を浴びてきただけに、今後のさらなる活躍を期待しよう。一方、上級生の凪七と美弥の今後の処遇にも注目したい。

©宝塚歌劇支局プラス11月14日記 薮下哲司


雪組期待のホープ、月城かなとバウ初主演!浪華人情物語「銀二貫」開幕!

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©宝塚歌劇団


雪組期待のホープ、月城かなとバウ初主演!浪華人情物語「銀二貫」開幕!
英真、華形の専科勢が好サポート!


雪組期待のホープ、月城かなとの初主演となった浪華人情物語「銀二貫」―梅が枝の花かんざし―(谷正純脚本、演出)が、19日、宝塚バウホールで開幕した。今回はこの模様を報告しよう。

「銀二貫」はNHKでドラマ化もされた高田郁原作の時代小説の舞台化。雪組らしく若手スターのバウ初主演作も日本物で勝負と来た。それが月城とそれをサポートした英真なおき、華形ひかるの専科勢の好演とともになかなか感動的な作品に仕上がった。脚本、演出の谷氏にとっても得意の日本物で久々のクリーンヒットとなった。上田久美子氏の「星逢一夜」に刺激を受けたベテランの巻き返しといってもいいかもしれない。こういう形はおおいに歓迎だ。


幕開きは、大阪天満の寒天問屋「井川屋」の主人、和助(華形)が、大火のために焼失した天満宮再建のための寄進用の「銀二貫」をもって伏見街道を大阪方面に向かって帰る途中、子連れの武士(香稜しずる)が、仇討の武士(叶ゆうり)に切りつけられるところに出くわす場面から。瀕死の父をかばう、いたいけな少年の姿に、和助が飛び出し、思わず持っていた「銀二貫」を差し出して、子供の命乞いをする。和助に助けられた少年は彦坂鶴之輔(彩みちる)といった。

場面は数年後、成長した月城扮する鶴之輔が登場。なんとも爽やかな美丈夫ぶり。歌い方が先輩の壮一帆にそっくりなのがなんとも微笑ましい。華やかなプロローグが終わり、鶴之輔は、井川屋の丁稚、松吉として働くことになる。商人の子として、周囲の温かい人情に支えられて精進、取引先の真帆家のいとはん、真帆(有沙瞳)とのほのかな愛もはぐくむなど順風満帆の鶴之輔だったが、大阪の街が再び大火に見舞われる。

誰一人悪人は出てこないのだが、さまざまな事情で、さまざまな事件が起こり、どうしようもない切ない物語が涙を誘う。原作をかなりカットしてあり、井川屋の丁稚仲間、梅吉(久城あす)と山城屋のお市(彩ひかる二役)のくだりがやや唐突だが、大事なところはきっちりあり、ストーリーとしてつじつまの合わないところはなく実に簡潔にうまくまとめてあった。紆余曲折の上、ラストがハッピーエンディングなのもなんともさわやかだった。
月城は、天涯孤独で何事もおぼつかない丁稚からりりしい一人前の商売人に成長していく鶴之輔を、安定感たっぷりにさわやかに表現。真帆とのほのかな愛情の描写も若手スターらしく一途な感じをよく出して、歌に演技に危なげなく、安心して見ていられた。この時期に実にいい作品に出合えたと思う。

相手役の有沙瞳は「伯爵令嬢」の小悪魔的な役が印象的だったが、今回は典型的な宝塚の時代物の薄幸のヒロイン、真帆役をけなげに演じ、芝居心が本物であることを証明した。今後の活躍を期待したい。

主人公の二人を大きく支えたのが華形と英真なおきの専科勢。華形が井川屋の主人、和助。英真が、井川屋の番頭、善次郎。物語の折折のさまざまな事件や危機に、常に心優しく適切な判断をくだす和助に扮した華形が、これまでのどんな役に生きた華形よりも魅力的、老け役だがそれを忘れさせるほど人間味のある素晴らしい人物を造形した。英真はこれまでの延長線上とはいうものの、厳しくも根はやさしい番頭を巧みに演じ、客席の笑いと涙を一手に引き受けた。この二人の見事なサポートが、この作品に真の命を吹き込んだといっていい。

丁稚仲間、梅吉の久城も心優しい心情を巧みに表現した好演。劇中劇「曽根崎心中」の人形振りで徳兵衛役の月城とともにお初を踊った桃花ひなも見事で、後半のお広役とともにしっかり記憶にとどめたい。とりもなおさず、今年最後のバウ公演が、さわやかな締めくくりとなったことを喜びたい。公演は29日まで。

©宝塚歌劇支局プラス11月21日記 薮下哲司

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絶好調の雪組が全国に発進 早霧せいな主演「哀しみのコルドバ」全国ツアー開幕

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早霧せいな主演「哀しみのコルドバ」全国ツアー開幕

早霧せいな率いる雪組による全国ツアー公演、ミュージカル・ロマン「哀しみのコルドバ」(柴田郁宏作、中村暁演出)とバイレ・ロマンティコ「ラ・エスメラルダ」(斎藤吉正作、演出)が21日、大阪・梅田芸術劇場メインホールからスタートした。今回はこの模様を報告しよう。

「哀しみ―」は、19世紀末のスペイン、人気絶頂の闘牛士エリオが8年ぶりに初恋の女性エバと再会したことから起こるドラマチックなラブストーリー。1985年に峰さを理時代の星組で初演、1995年に花組の安寿ミラのサヨナラ公演として再演された。その後も2009年、花組の真飛聖が全国ツアーで演じている。ラストで明かされる運命的なストーリーもさながら、寺田瀧雄氏による主題歌が、哀切甘美しかも明快で耳に心地よい。まさに宝塚の名曲中の名曲だ。

もともと峰がトップ時代の豊富な星組男役陣に合わせて当て書きされたストーリーだが、まるでこの雪組全国ツアーのために書き下ろされたかのように各人ぴったりとはまった。一方、望海風斗のためにロメロの出番を増やすなど、かなり手直ししたことも奏功している。先の宙組公演「メランコリック・ジゴロ」に続いて全国ツアー作品選択のクリーンヒットといえよう。

「ルパン三世」「星影の人」「星逢一夜」と日本物が続いた早霧にとって久々の洋物でしかも極めつけのスパニッシュ。安寿ミラが早霧のために新たに振り付けたオープニングの闘牛士スタイルのソロのダンスが見もので、マントさばきがとにかくかっこいい。中身も早霧独特の硬質の男役演技が、エリオにうまくはまった。何度も再演されているので、ストーリーは省くが、愛を成就するには多くの人を傷つけることがわかっているのに、愛に突き進むことを決意するあたりの心情描写がホットだった。ヒット作連発で、演技にも自信のようなものがついたようだ。

咲妃みゆが演じたエバは、かなり大人の役で彼女には冒険だと思ったのだが、化粧や衣装の着こなしを工夫、台詞も落ち着いた発声で「星逢―」とは別人のよう。月組の下級生時代から天性の資質があったが、なかなか見事な変わり身だった。

エバのパトロンで早霧エリオと決闘することになるロメロに扮した望海は、ひげをたくわえた外見からすでに貫録たっぷり。早霧と並ぶと望海の方が上級生のような風情。ダンスは早霧、歌は望海と、きっちり分担を分けているのも心地よく、非常にバランスのいいトップトリオだ。

三番手の彩風咲奈はエリオの闘牛士仲間ビセント。司法長官(鳳翔大)の夫人メリッサ(大湖せしる)との恋をまっとうして闘牛士をやめるため、前半しか出番がないが、エリオの心にかぶさる重要な役。長身に闘牛士スタイルがよく似合い、濃い化粧も精悍さが漂い、なかなかインパクトがあった。

続く彩凪翔も闘牛士仲間のアルバロ。エリオやビセントの周りに常にいるが、特に見せ場はなくストーリーにもからまない。それより永久輝せあが演じたロメロの甥フェリーぺのほうが儲け役。エリオと婚約していたアンフェリータ(星乃あんり)をひそかに慕い、告白するシーンがあるうえ、一人だけ軍服姿で、それがまたりりしく際だった。

そのアンフェリータに扮した星乃が、薄幸のヒロインというはかない風情がよく似合った。ソロの歌があり、頑張っているがここはもうひと押しほしい。エリオの妹ソニアは星南のぞみだったが、こちらも清純な雰囲気をよく出していて目をひきつけた。

芝居的にはエリオの母親マリア役の梨花ますみとエバの母親パウラ役の千風カレンに見せ場があり、梨花の存在の大きさを印象づけた。

ショーの「ラ・エスメラルダ」は、つい先日まで東京公演していたばかりの新作で、を本公演の半分以下のメンバーで再現するというなかなかハードなショー。幕開きはヒスイの洞窟から二羽の蝶(望海風斗、咲妃みゆ)が登場、続いて海賊船にのった海賊(早霧せいな)が登場して華やかな総踊りになる。海賊の旅がコンセプトで、あとはスペイン、パリとノンストップで走りぬけ、中詰は賑やかなサンホセの火祭り。とにかくハイテンポで次から次へとめまぐるしい。全国ツアーらしく曲の決めポーズには必ずご当地弁での合いの手が入るうらいで仕掛けになっており、初日の大阪ではふんだんに大阪弁が飛び交った。じっくり歌を聞かせるとかダンスを見せるという場面がなく、あっという間にフィナーレになる。場割はほぼ本公演と同じで、出演メンバーも変わらないが、本公演で月城かなとが受け持っていたところを永久輝と天月翼、真那春人が担当、いずれにしても永久輝のポジションが大きくジャンプしたのが印象深かった。

早霧は初日カーテンコールで「私が宝塚に出会ったのも全国ツアー、端っこの席で食い入るように見たのを昨日ように覚えています。大劇場まで見に来られない人のために、宝塚の魅力を伝えたい」とあいさつ。宝塚伝道師に専念することを宣言していた。公演は12月13日の神奈川県相模原市文化会館まで続く。

©宝塚歌劇支局プラス11月22日記 薮下哲司


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柚希礼音、退団後初ステージ、地元大阪公演スタート

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柚希礼音、退団後初ステージ、地元大阪公演スタート
そうそうたる本場メンバーにひけとらぬ大健闘!

5月に退団した元星組トップ、柚希礼音の退団後初ステージとなったミュージカル「PRINCE OF BROADWAY」(ハロルド・プリンス演出)の東京公演に続く大阪公演が、28日、梅田芸術劇場メインホールで始まった。今回はこの模様を報告しよう。

10月23日から11月22日まで約一カ月にわたった東京公演を盛況裏に終えていよいよ地元大阪へ。初日は柚希の退団後初ステージの雄姿を目に焼き付けようと高額の入場料にもかかわらず場内は満員の盛況となった。東京公演の評判は、すでに口コミやネットで伝わり「柚希はよくやっているが出番が少ない」とか「出演者は圧倒的にうまいけれど名作ダイジェストは単調で退屈」とか手厳しい意見がいろいろ。しかし、これだけの一流どころが一堂に会するステージは、本場でもなかなか見られない。まさに居ながらにして味わえる至福のミュージカルだ。そこで、登場する作品解説も含めてこの舞台のみどころ簡単に解説しよう。

場内が暗転すると真っ赤な緞帳がスクリーンに早変わり。「パジャマゲーム」から始まったハロルド・プリンスが手掛けた数々のミュージカルのタイトルが次々と映し出されるなか「屋根の上のヴァイオリン弾き」の「トラディション」を皮切りに数々の主題歌がメドレーで流れる。ミュージカル・ファンならこの序曲から早くもわくわくすることうけあい。作曲家ではなく演出家なのでいろんな作曲家の作品があり、そのレパートリーは広く、しかも常に時代を先取りした新しさがある。これこそがハロルド・プリンスの真骨頂。そんなプリンスの世界が序曲に集約されている。

舞台も、ハロルド・プリンスのバイオグラフィーをプリンス自身に扮した市村正親がナレーションで振り返っていくという構成で、現在、ブロードウェーでロングラン中の「オペラ座の怪人」などに出演中の現役バリバリの実力派スターたち11人と柚希が名場面を再現する。贅沢きわまりないミュージカルだ。

幕が開くと「フローラ、赤の脅威」の主題歌に合わせてカンパニー全員が勢ぞろい。最後に柚希が登場する。柚希は最初から破格の扱い。市村のMCでまずは初期の代表作「くたばれ!ヤンキース」(1956年)の1シーンから。大の野球ファンの主人公が、悪魔に魂を売って若さを取り戻し、ひいきのチームの主力選手になって大活躍するという痛快ミュージカルで、悪魔のローラに扮した柚希がトニー・ヤズベック扮する主人公ジョーイを更衣室で誘惑するダンスが最初のみどころ。このミュージカル、グエン・バードン主演の映画版が目に焼き付いているが、日本でも2度上演されており最近では湖月わたるがこのダンスを踊った。ユニフォームから一瞬でハイレグの黒のランジェリー姿に早変わり、ボブ・フォッシー振付(オリジナル)のセクシーなダンスを披露する。柚希のしなやかなダンスと健康的なお色気が堪能できる場面だ。笑顔がなんともかわいい。

続いて「ウエストサイド物語」から「サムシングカミング」「トウナイト」をトニーをラミン・カリムルー、マリアにケイリー・アン・ヴォーヒーズで。「シー・ラブズ・ミー」「スーパーマン」のあとの「フォーリーズ」ではまず柚希が華やかなショーガールで登場。

「フォーリーズ」は、長年親しまれた劇場が閉鎖されることになり、お別れパーティーに集まってきたかつてのスターたちの過去現在を甘酸っぱく描いた傑作。彼らの若き日の回想シーンは若手スターが演じ、ブロードウェーの層の厚さを見せつけたミュージカルだった。日本では上演されていないが2001年にブロードウェーで見た舞台には「ウエストサイド物語」のナタリー・ウッドや「マイ・フェア・レディ」のオードリー・へプバーンなど映画版の吹き替えを担当したマーニ・ニクソンが出演、衰えぬ美貌で美声を聴かせてくれた。今回は「ライトガール」でヤズベックが圧巻の洗練されたタップを披露。この場面を見られただけで入場料の元は取れる。ほかにもサワリの場面が再現されたが、初見の観客には回想部分がややわかりにくくて、作品の真価が伝わらず残念だった。

「リトル・ナイト・ミュージック」の名曲「センド・イン・ザ・クラウン」はエミリー・スキナーが絶唱。1998年に一路真輝がニューヨークのカーネギーホールで歌ったのを思い出した。ここからは「屋根の上のヴァイオリン弾き」「キャバレー」「オペラ座の怪人」と一気におなじみの名作が登場。「キャバレー」のMCはジョシュ・グリセッティ、サリーはブリヨーナ・マリー・バーハムが、「オペラ座―」は、ファントムのカリムルー、クリスティーヌのヴォーヒーズの「wss」コンビがそれぞれ圧倒的歌唱力で歌いこんだ。柚希は「キャバレー」でアンサンブルのピアニストを務めた。

休憩後は、山口祐一郎、鳳蘭らの出演で日本でも上演されたスティーブン・ソンドハイムの異色作「カンパニー」から。ここでもヤズベックの「ビーイング・アライブ」が見事。「ローマで起こった奇妙な出来事」「エビータ」と続いてオリジナルパフォーマンスの「タイムズ・スクエア・バレエ」が二幕の柚希の見せ場。ブロードウェーの舞台に憬れるダンサー役で、スーザン・ストローマンの振り付けは、宝塚では封印していた柚希のバレエの才能を存分に生かした本格的なもので、柚希ならではのダイナミックなナンバーだった。二幕にはもうひとつ柚希の見せ場があった。「蜘蛛女のキス」のオーロラ役で、こちらは蜘蛛の巣のセットの前、妖しい雰囲気で同名主題歌を日本語で歌った。高音まで透き通るようなソプラノが多い中、彼女の低音が際だったが、実力派のなかではやや声量が足りない。今後の課題だろう。

舞台は「スゥイニー・トッド」とリバイバルの「ショーボート」とプリンス円熟期の代表作を最後に締めくくり、出演者全員がラインアップしてのフィナーレとなった。名作「ショーボート」は平みち、神奈美帆のコンビで宝塚でも上演されており、その主題歌が最後をしめくくったのが何とも懐かしかった。

数々の名場面集をみていると改めてプリンスのミュージカル界における存在の大きさを再認識。「くたばれ!ヤンキース」から「ショーボート」まで、それぞれのミュージカルにまつわるいろんな思い出が走馬灯のように駆け巡ってあっという間の2時間40分だった。

1998年にニューヨークのビビアン・ボーモント劇場で見た「パレード」も登場、アメリカ南部のユダヤ人差別を描いた野心作で、興行的には不発だったが、本人的にはこだわりがある作品であることがよく理解できた。それぞれの場面はレベルの高い出演者の技量がフルに生かされていて見ごたえ聴きごたえ十分だったが、ほぼ時系列に並べられた構成は、単調といえば単調で、もう少し改善の余地がありそうだ。プリンス本人を演じた市村のナレーションが音楽とかぶって聞き取れない箇所が再三あったこともマイナス材料だった。あと割愛された「パジャマゲーム」の名ナンバー「スチームヒート」もぜひ加えてほしかった。

柚希は、ブロードウェーの第一線のメンバーと並んでもその堂々たる体格は遜色なく、かえって大きくみえたくらい。宝塚時代は娘役を軽々とリフトしていたそんな大柄な柚希が、ヤズベックに豪快にリフトされる場面はなかなか迫力があった。東京公演千秋楽に来年3月に退団後初となるコンサート「REON JACK」が発表され、なんと星組時代にコンビを組んでいた陽月華とのコンビが復活するという。バウ公演「ハレルヤGO!GO!」の名コンビ復活は、いまだからこそ魅力的なものになるだろう。演出は「ハレルヤ―」の稲葉太一というからさらに楽しみだ。

ブロードウェーのメンバーはいまさら言うまでもなく、11人すべてが最高のプロフェッショナル。なかでも柚希の相手を務めたヤズベックは歌にダンスに第一級のパフォーマンスを見せてくれた。ミュージカルを見るならやはり本場だなあ、という思いが改めて募った舞台だった。

©宝塚歌劇支局プラス11月29日記 薮下哲司


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巻頭は「PRINCE OF BROADWAY」で再スタートした生まれ変わった柚希礼音を特集。インタビューや今後の期待を。そして「ベルばら」から「るろ剣」に続く「マンガと宝塚の幸せな関係」を様々な角度から大特集します。ほかに話題作「星逢一夜」の魅力解剖、台湾公演レポート、各組公演の公演評、OG公演評。そして「CHICAGO」アメリカ・カンパニーに出演する湖月わたるのロングインタビューと宝塚ファン必読の一冊です。ぜひお近くの書店でお買い求めください。



月組ホープ朝美絢 最後の新公「舞音」

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月組ホープ、朝美絢主演「舞音」新人公演

月組のホープ、朝美絢最後の新人公演主演となったミュージカル「舞音」(植田景子脚本、演出)の新人公演(同)が、1日、宝塚大劇場で行われた。今回はこの模様を報告しよう。

アベ・プレヴォ原作の「マノン・レスコー」をもとに舞台を1920年代のフランス領インドシナ(現在のベトナム)に移し変えて舞台化した「舞音」の新人公演は、ほぼ本公演通りに進行、朝美以下、懸命にこの難しい作品に挑み、いかにも新人公演らしい、未熟だがいずれは成熟する青い果実のような甘酸っぱい公演だった。

新人公演を見ると、初見のときにはわからなかったこの作品の長所や欠点など作品の全体像が改めてうかびあがってきた。未見の方はこの先を飛ばしてもらいたいが、一番の欠点はシャルルとマノンの結びつきの関係性が弱いということだろうか。シャルルがマノンに一目ぼれして、一方的におぼれていくのはわかるとして、マノンが、最初、多くのパトロンたちの一人にすぎないと思っていたシャルルが特別な存在になる、そのきっかけの描写がどうみても薄い。後半は、マノンが独立運動派のスパイの嫌疑をかけられて投獄され、そこから救出しようと奔走するシャルルの話が中心になり、シャルルのマノンへの愛の強さは納得できるが、マノンのシャルルへの愛は?のままで、そのままハロン湾での道行になだれこんでも、マノンへの感情移入は難しかった。ただ、ラストシーンの幻想的な雰囲気は、それだけでかなりの得点は稼いでいた。原作によりかかりすぎて、人物描写が雑になってしまったことが原因か。後半がやや性急すぎて時間が足りないようにも思う。装置や音楽、振付に外部の精鋭を起用した冒険心は大いに買えるが、その効果は半々。様々な事情はあったにせよ、宝塚の優秀なスタッフをもっと信頼してほしいと思ったのは私だけだろうか。

さて、主演の朝美は、昨年の「PUCK」以来の新人公演主演で、これが最後の新人公演。「PUCK」が、朝美の個性にぴったりとはまり、純粋な心があふれた見事なパックで、その後、バウでのワークショップ主演など、順調にスター候補生の道を歩みだした。今回のシャルル(本役・龍真咲)は、婚約者がいながら自由奔放なマノンにおぼれていくというパックとは正反対の難役。きりっとした現代的な風貌に、クラシカルな純白の軍服がよく似合い、かっこいいフランスの士官だったが、演者が自分で肉付けしないといけない役を生きるというにはやや未熟。歌唱も不安定で、課題を残した。役にうまくはまればいい資質を持っているので今後の活躍に期待したい。

相手役のマノン(愛希れいか)は叶羽時。「メリー・ウィドウ」のカンカンの場面でのアクロバティックなダンスで一躍、名前を覚えた人で、新人公演のヒロインと聞いたときは、そんな地道な努力が認められたのだろうと思い、素直にうれしかった。ただ今回のマノンは、素晴らしい踊り手である以上に、シャルルはじめ、男たちを一瞬で、射止めなければいけないセックスアピールが必要。それも上品なセクシーさである。宝塚の娘役には一番難しいところだ。登場シーンはよく頑張っていたので、その線で全体を作りこめばいいと思う。ただ奔放な部分と純真な部分の兼ね合いが難しいのでそのあたりの配分を間違わなければさらにいいものになるだろう。

マノンの兄クオン(珠城りょう)は暁千星。闇の世界に生き、マノンを食い物にしているダークな役。本役の珠城がそれほどダークには作っていないとはいうものの、暁となるとまるで好青年に見えた。いくらなんでももう少し陰影がほしい。

シャルルの親友クリストフ(凪七瑠海)は蓮つかさ。このドラマでは結局一番よく書かれている役。実力派の蓮だけに、巧みに心情を作り、印象的な役に仕上げていた。もう一人のシャルル(美弥るりか)は研3のダンサー、英かおとが抜擢された。抜擢に応えてよく踊っているが、大柄で朝美とは雰囲気も異なり、かなり違和感があった。そして、この役がやはりドラマに何の意味も感じられないことが、新人公演を見て改めてよくわかった。

ほかに警察署長ギヨーム(星条海斗)が朝霧真。謎の中国人女性オーナー、チャン(憧花ゆりの)に海乃美月。支配人ソン(宇月颯)に輝月ゆうま。シャルルの婚約者カロリーヌ(早乙女わかば)に美園さくら。独立運動に身を捧げるカオ(朝美)に夢奈瑠音とホマ(海乃)に紫乃小雪といったキャスト。なかではチャンの海乃とソンの輝月がさすがのうまさで目を引いた。独立運動家たちにはほかにトゥアン(暁)が輝生かなで、タン(蓮)に風間柚乃が配された。2人とも美形で台詞もあって要注目だった。研1にいたるまで幅広く役が付き、そういう意味では100年後の新体制の息吹が細部まで感じられる新人公演だった。

©宝塚歌劇支局プラス12月3日記 薮下哲司



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柚希礼音「今の私みて!」退団後初コンサート「REON JACK」会見で抱負語る

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柚希礼音「今の私みて!」退団後初コンサート「REON JACK」会見で抱負語る

退団後の初舞台「PRINCE OF BROADWAY」を無事に終えた元星組トップ、柚希礼音が、11日、大阪市内で会見、3月11日、梅田芸術劇場メインホールからスタートする退団後初コンサート「REON JACK」(稲葉太地作、演出)の抱負を語った。今回はこの模様を報告しよう。

真っ白なパンツスーツ姿で現れた柚希は、宝塚時代よりちょっとふっくらした感じがしたものの、マニッシュな独特の雰囲気は在団当時そのまま。退団後最初の大仕事を終えたあとの充実した笑顔は、存在そのものをさらに大きく見せた。

「REON JACK」は退団後初コンサートとあって、いまの柚希の魅力をふんだんに見てもらおうというコンセプト。「男役でもないし女っぽくもない、いまの私のありのままを見て頂ければ」と柚希。退団してから現在までの心境を自ら綴った新曲をすでに作詞、本格的なタンゴに挑戦、かつての名コンビ、陽月華や星組時代の「盟友」(本人の弁)音花ゆり、鶴美舞夕らとの楽しいコントなどもある「REON」シリーズの退団後編のような内容になりそう。なかでも陽月とのコンビ復活は「彼女が退団してからもずっと応援してくれていたのですが、まさか共演できるなんて夢にも思わなかった」と柚希自身も楽しみにしている。

「在団中に3回コンサートをやらせていただきましたが、男役ではなくなったけれど、柚希礼音のファンであるお客さまとの絆を大事にしながら新しい挑戦もし、退団した自分と等身大のコラボレーションをしたい」と柚希。演出は、武道館コンサートで演出助手を務めた稲葉氏。「私のいろんな部分を熟知してくださっているので、きっと楽しいものになると思います」


退団後のニューヨークでの一人暮らしは彼女自身を、ひとまわり成長させたようで、話す言葉もひとつひとつ地に足がついた感じ。「アメリカでは、女性はこうしないといけないという枠がなくて、私みたいなボーイッシュな感じでも、きちんと女性扱いして頂けて(笑)枠にとらわれることなく何でもしたいことをしたらいいと思えたんです。このタイミングでアメリカに行って本当によかった。がらりと変えずに等身大の自分をお見せしたい」と自分の現在の位置もきっちり見えていた。

とはいえ、最初はかなり戸惑ったよう。「努力してもどうにもならないこともあり、落ち込んだこともありましたが、自分ができることを楽しもうと思ったところから新しい第一歩が始まりました」と開き直ったのがよかったという。

「REON JACK」では宝塚での曲も何曲か予定しているという。「だって持ち歌って、宝塚の曲しかありませんから(笑)」そして「REON」シリーズで好評だった客席参加のコーナーや日替わりコーナーも設けるという。「“PRINCE OF BROADWAY”ではキャッチボールが出来なかったので、存分にやりたいですね」というからファンには楽しみ倍増だ。

将来的には「何が自分に向いているかまだ分からないので、自分に向くと思うものには何でも勇気をもってチャレンジしたい」と意欲的だが、とりあえず目の前のコンサートに全力を注ぐ構え。「私的には日々挑戦しながらものびのびと、舞台でも必死にやりながらもそれを感じさせず、やるときはきちんとやるみたいな感じでやっていければ」柚希らしい言葉でしめくくった。本場ブロードウェーの波にもまれた柚希の本格的再出発がここからスタートする。公演は3月11日から17日まで梅田芸術劇場メインホール、同26日から4月11日まで東京国際フォーラムホールC。

©宝塚歌劇支局プラス12月12日記 薮下哲司

「宝塚イズム32」好評発売中!

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巻頭は「PRINCE OF BROADWAY」で再スタートした生まれ変わった柚希礼音を特集。インタビューや今後の期待を。そして「ベルばら」から「るろ剣」に続く「マンガと宝塚の幸せな関係」を様々な角度から大特集します。ほかに話題作「星逢一夜」の魅力解剖、台湾公演レポート、各組公演の公演評、OG公演評。そして「CHICAGO」アメリカ・カンパニーに出演する湖月わたるのロングインタビューと宝塚ファン必読の一冊です。ぜひお近くの書店でお買い求めください。

http://www.seikyusha.co.jp/wp/books/isbn978-4-7872-7384-0




龍真咲×早霧せいな、同期生TOP最初で最後の共演!「タカラヅカスペシャル」華やかに開催

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龍真咲×早霧せいな、同期生TOP最初で最後の共演!「タカラヅカスペシャル」華やかに開催。今年の宝塚グランプリ最優秀作品賞は雪組「星逢一夜」!2年連続雪組勢が総ナメ。


101年目の掉尾を飾るタカラジェンヌの祭典「タカラヅカスペシャル2015~New Century New Dream」を(石田昌也監修、構成、演出、中村和徳、稲葉太地構成、演出)が19、20の二日間、大阪・梅田芸術劇場メインホールで華やかに開かれた。今回はこの模様と、毎日文化センター「宝塚歌劇講座」受講者(24人)が選んだ「第2回宝塚グランプリ2015」受賞作品、受賞者を発表しよう。

「―スペシャル」は、昨年の大劇場から再び会場を梅芸に戻しての開催。サブタイトル通り宝塚の未来をみすえての新しい夢がテーマ。2015年に上演された作品の数々がスライド映し出される中、緞帳があがると轟悠を中心にした各組トップスターが燕尾服姿で勢ぞろい。開幕から華やかそのもの。

吉田優子作曲によるこのスペシャルのための新曲を朝夏まなと、北翔海莉、早霧せいな、龍真咲そして轟が歌いつぎながら出演者全員がラインアップ。下手の北翔が上着の内側につけた若葉マークを披露してトップとしての初参加を喜ぶと、退団を発表したばかりの龍は、ファンの前で改めて退団を報告、「早霧を置いていきますが、みなさんよろしくお願いいします」と同期の早霧を紹介、息のいいところをみせていた。

恒例のパロディコーナーはトップバッターが星組。「大海賊の博徒たち」のタイトルで「大海賊」と「ガイズ&ドールズ」のパロディーを着流し姿の博徒S(北翔)と森の石松(紅ゆずる)らで繰り広げた。なんだかマジでやくざ物を見ているみたい。続く宙組は「王家に捧ぐ校歌」と題してエジプト高校とエチオピア高校の抗争を古代の学生服姿?のラダメス(朝夏)とウバルド(真風涼帆)らでつづるなんともかわいい爆笑学園物。二部に入って雪組は「いちご白書の三日月藩」。「星逢一夜」と「アル・カポネ」さらに「ルパン三世」まで絡ませ天野晴男警部に扮した早霧と学生カポネ(望海)が繰り広げる何が何だかわけわからん!しっちゃかめっちゃかパロディー。そして月組が「Dragon night」で大評判?だった龍扮する龍宮城の亀が大活躍する「2015-龍宮城の恋人たち」。「舞音」のパロディーで美弥るりか扮するもう一人のしょぼい亀が登場、龍とのかけあいがアドリブを交えておおいに笑わせた。ロベス・ピエイルカ(凪七瑠海)らほかの出演者もすべて龍宮城の魚という設定がユニークで、パロディー合戦、今年は月組が一番だった。専科の轟、華形ひかる、沙央くらま、星条海斗も「琵琶法師のオイディプス王」で参戦。轟が「オイディプス王」の超短縮バージョンを披露、水戸黄門に扮した華形らも「ベルばら」や「風共」をどう短縮できるかに挑戦した。

一幕の歌は愛がテーマ。宝塚のさまざまな愛の歌をメドレーで歌い継いだ。最後は、先ごろなくなった作曲家、入江薫氏をしのんで轟が「霧深きエルベのほとり」から「鴎の歌」。轟はじめトップ四人が勢ぞろいして「ハロー!タカラヅカ」を歌って大作曲家の冥福を祈った。

二幕は珠城りょう、望海、紅、真風がそろっての「Dream」からスタート。夢をテーマに宝塚の名曲をメドレーした。そしてクライマックスは主題歌「New Century Next Dream」をバックにした呼び物の客席参加のコーナー。出演者が二階、三階客席まであがって振りを指導、舞台、客席が一体となっての賑やかな場面となった。そしてラストは定番「タカラヅカフォーエバー」で全員がパレード、約3時間のスペシャルを華やかに締めくくった。

今年も全国40か所以上の映画館でもライブ中継され、今年、花組が公演した台湾でも同時中継されたが、明日海以下花組が東京公演中で出演できなかったのが残念。台湾公演した明日海の台湾のファンに向けたビデオメッセージくらいはあった方がよかったのにと思った。とはいえ一年に一回のスペシャル、積極的な若手登用の傾向がここにも如実に表れ、今回も大盛況に終わったのは喜ばしい。


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さて、昨年に引き続き2回目となった毎日文化センター(大阪)の「宝塚歌劇講座」受講者(23人)の投票による「宝塚グランプリ」が23日決まった。

結果は次の通り。

2015宝塚グランプリ

最優秀作品賞
ミュージカル 雪組公演「星逢一夜」(上田久美子作、演出)
レビュー   花組公演「宝塚幻想曲」(稲葉太地作、演出)

主演男役賞  早霧せいな(「ルパン三世」「星逢一夜」の演技に対して)
主演娘役賞  咲妃みゆ(「星逢一夜」の演技に対して)
助演男役賞  望海風斗(「星逢一夜」の演技に対して)
助演娘(女)役賞 純矢ちとせ(「TOPHAT」「相続人の肖像」の演技に対して)
最優秀歌唱賞 望海風斗(「アル・カポネ」ほかの歌唱に対して)
最優秀ダンス賞 愛希れいか(「GOLDENJAZZ」のダンスに対して)
最優秀新人賞  水美舞斗(「カリスタの海に抱かれて」「新源氏物語」新人公演の演技に対して) 
最優秀再演賞 該当なし

最優秀演出賞 上田久美子(「星逢一夜」の成果に対して)
       稲葉太地(「宝塚幻想曲」の成果に対して)
最優秀主題歌賞 「ルパン三世のテーマ」(大野雄二作曲、青木朝子編曲)
最優秀振付賞 KAORIalive(「1789」二幕冒頭の群舞の成果に対して)

特別功労賞 柚希礼音(6年間のトップとしての多大な貢献度に対して)

★選考経過★

最優秀作品は「星逢一夜」に。「ルパン三世」「TOPHAT」「銀二貫」「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」の評価も高かったが「星逢―」が圧倒的支持で栄冠を勝ち取った。主演男役賞も「ルパン三世」「星逢一夜」など作品に恵まれた早霧せいながぶっちぎり。主演娘役も「星逢―」で好演した咲妃みゆが「1789」「舞音」などの愛希れいかを2票差で抑えた。
助演男役賞も「ルパン―」「星逢―」で好演した望海風斗。「ルパン―」で銭形警部を熱演した夢乃聖夏も健闘したが届かなかった。助演娘(女)役賞は「TOPHAT」などで実力を如何なくなく発揮した純矢ちとせが二年連続の栄冠に輝いた。「黒豹の如く」の妃海風、「星逢―」などの大湖せしる、「アーネスト・イン・ラブ」などの悠真倫も健闘した。

最優秀歌唱賞は「アル・カポネ」ほかで望海風斗が「1789」などの龍真咲「王家に捧ぐ歌」の朝夏まなと、「カリスタの海に抱かれて」の美穂圭子らを押さえた。最優秀ダンス賞は「GOLDENJAZZ」の愛希が圧倒的支持を集めた。新人賞は「カリスタの海に抱かれて」「新源氏物語」新人公演での清新な演技が好感を持って迎えられた水美舞斗が「ルパン三世」の永久輝せあが「相続人の肖像」の桜木みなとを押さえて受賞。娘役の真彩希帆、星風まどか、彩みちるの名前も挙がった。

再演賞は「王家に捧ぐ歌」「ガイス&ドールズ」「新源氏物語」そして「哀しみのコルドバ」が同点で競り合った結果、突出するものがなく、該当作なしという結果となった。演出賞は「星逢―」の上田久美子が「ルパン三世」「キャッチ・ミー―」「オイディプス王」の先輩・小柳奈穂子を3票差で抑え、大劇場デビュー作で受賞という快挙を達成した。レビュー部門は「宝塚幻想曲」の稲葉太地で文句なし。あと主題歌賞は、既成曲だが宝塚版「ルパン三世のテーマ」に。また振付賞は「1789」二幕冒頭のあの力強い群舞を振り付けたKAORIaliveが「GOLDENJAZZ」の森陽子を1票差で制した。

特別功労賞として6年間トップを務め、前代未聞の大フィーバーの中、退団していった柚希礼音を顕彰することもあわせて決まった。

最終的に「星逢一夜」が作品賞はじめ4部門で受賞、昨年の「前田慶次」に引き続き雪組が2年連続栄冠を獲得、日本物が連続受賞したのは偶然とはいえ、今後の宝塚を占ううえで象徴的な結果となった。

100周年を盛況裏に終え、101年目の今年は、スターの退団だけでなく、理事長が交代するなど宝塚にとっても大きな転換の年になりましたが、来年もさらに楽しませてくれる作品、スターの登場を期待したいものです。ではよいお年を。新年は宙組公演「シェイクスピア」「HOT EYES!」の報告からスタートします。お楽しみに。

©宝塚歌劇支局プラス12月24日記 薮下哲司


湖月わたる、和央ようか 大活躍

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湖月わたる「CHICAGO」アメトリカ・カンパニーと共演
和央ようかも夫君のコンサートで熱唱

ミュージカル「CHICAGO」のアメリカ・カンパニー来日公演が26、27日の大阪・梅田芸術劇場メインホールで千秋楽を迎え、元星組トップ、湖月わたるが、アメリカ人キャストとともにヴェルマ役で出演、有終の美を飾った。一方、その直前の23日には同ホールで、元宙組トップの和央ようかも今夏結婚した作曲家フランク・ワイルドホーンのコンサートに外国人歌手と共に共演、熱唱した。二人とも予想以上の好演、好唱で、今回は予定を追加してこの模様を報告しよう。

「CHICAGO」は、1924年にシカゴで起きた実際の事件をもとにした舞台劇のミュージカル化。愛人を殺した罪で投獄されたロキシーが、弁護士ビリー・フリンを買収して無実を勝ち取り、刑務所で知り合った女囚ヴェルマとコンビを組んで歌手デビューするまでを描いている。2001年にレニー・ゼルヴィガー、キャサリン・ゼタ・ジョーンズの主演で映画化されて一躍ポピュラーとなった。ブロードウェーで最初にミュージカル化されたのは1975年。このバージョンは上月昇、草笛光子、次いで鳳蘭、麻実れいの主演で日本でも2回上演されている。1996年、ブロードウェーでは演出をがらりと変えて大幅にリニューアルして再演。これが現在もロングラン中の大ヒットとなった。このニューバージョンのアメリカ・カンパニーによる来日公演は、今回が7回目だが、ロキシー役にNHK朝のテレビ小説「マッサン」のヒロイン、シャーロット・ケイト・フォックスが起用されたこと、ヴェルマ役のマチネーに湖月が抜擢されたことで話題を呼んでいた。

シャーロットのロキシーは、ドラマの金髪のイメージを捨ててダークブラウンの髪で登場。一瞬、誰かわからなかったくらい。しかし、ドラマとは違った小悪魔的な雰囲気で魅了した。歌、ダンスの実力もなかなかだった。中盤のソロナンバー「ロキシー」「では、日本語の台詞もサービス、会場を沸かせた。

一方、ヴェルマ役の湖月は、オープニングナンバーの「all that jazz」から、長身が映えてとにかくカッコいい。英語の歌詞が完全に身についていて、すでに宝塚OGバージョンの「CHICAGO」でヴェルマ役を演じているとはいうものの、余裕すら感じられてアメリカ人キャストにまじっても何の違和感もなかった。ロキシーを前に激しいダンスアクトを交えて歌う「I CANT DO IT ALONE」も迫力満点。女看守ママ・モートン役のロズ・ライアンとのかけあいの間も見事で、すぐにでもブロードウェーの舞台に立てるのではないかと思わせた。

一方、「スカーレット・ピンパーネル」や「ジキルとハイド」でおなじみの作曲家フランク・ワイルドホーンのコンサート「フランク・ワイルドホーン&フレンズ」は、ワイルドホーン自身がピアニスト兼指揮者として登場。自らMCも務めながら、トーマス・ボルヒャート(ドイツ)ジャッキー・バーンズ(アメリカ)アダム・パスカル(アメリカ)、サブリナ・ヴェッカリン(ドイツ)そして和央の出演者全員がラインアップして「アリス・イン・ワンダーランド」の「鏡の国へ」を皮切りに和やかなムードで進められた。

「レント」オリジナルキャストのアダムや「エリザベート」のトート役を演じたボルヒャート、「ウィキッド」のエルファバ役を演じたジャッキー、サブリナといったブロードウェーとヨーロッパの第一線のミュージカルスターが集結。欧米をまたにかけて活躍するワイルドホーンらしいグローバルなコンサートだ。

それぞれが持ち歌を見事な歌唱力で歌うなか、和央はワイルドホーンが作曲した「Never Say good-by」の主題歌メドレーやを日本語で熱唱。懐かしさと共に、それが彼女のためのオリジナル曲であることに不思議な感動を覚える。自分の曲であることから無理な音程もなく、しかも歌いこんでいることから、情感がこもって、第一線のスターたちの混じってもそん色がないのだ。ほかにも「CHICAGO」から「all that jazz」を英語で披露、これも宝塚OGバージョンのときに日本語で歌っていた時より数段感じが出ていた。「ドラキュラ」の主題歌もボルヒャートとデュエットで歌ったが、何より、滑らかなロングヘアにロングドレスがよく似合い、ずいぶん女らしくなった和央がそこにいた。ワイルドホーンとのかけあいも照れることなく、なんとも幸せムード、見ているこちらまでが、おもわず頬がゆるむ、そんな幸せムードが漂った。和央は現在、夫君と共にニューヨーク中心の生活。「仕事のときだけ日本に帰る生活。英会話もかなり上達しましたよ」と笑顔で話していた。

「PRINCE OF BROADWAY」で柚希礼音がブロードウェーのメンバーと共演、おおいに気を吐いたが、湖月わたる、和央ようかも大健闘。2016年はタカラジェンヌOGのブロードウェー・デビューもまんざら夢ではなくなってきたようだ。

©宝塚歌劇支局プラス12月29日記  薮下哲司

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