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望海風斗の魅了たっぷり!雪組DC「アルカポネ」好発進!

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 雪組の男役スター、望海風斗主演によるミュージカル「AL CAPONE アル・カポネ」―スカーフェイスに秘められた真実―(原田諒作、演出)が、9日、大阪、シアタードラマシティで開幕した。1920年代のアメリカで闇の一大帝国を築き上げた伝説のギャング、アル・カポネを実力派スター、望海×原田がどう料理するか、開幕前から前評判も高く、前売りチケットは発売と同時に完売という人気に沸く話題作の初日を報告しよう。

 1899年、イタリア移民の2世としてニューヨークで生まれたアル・カポネは、10代でマフィアの世界に入り、20代で暗黒街の帝王として君臨するが、その実像にはいろいろな説があり、まさに伝説の人物というにふさわしい。映画や小説などにもたびたび取り上られているが、舞台はそんな伝説の人物を描くにあたってちょっとひねった導入部分からスタートする。禁酒法時代に一世を風靡したギャングということで、舞台には巨大な酒樽が4個あり、その酒樽が回転すると部屋になったり、刑務所になったり、屋上になったりする。松井るみのユニークな装置だ。

 その樽のひとつがくるりと回転するとそこは1929年、アトランティック刑務所内のホテル並みの特別房。収監されているカポネ(望海)のもとに脚本家のベン・ヘクト(永久輝せあ)が連行されてくる。カポネが、自身をモデルに描いた映画「暗黒街の顔役(原題スカーフェイス)」の脚本を書いたヘクトに、事実と異なる点を指摘するためだった。そしてカポネが自身の過去を語る形で物語が進んでいく。

 著名人の伝記を書くために本人にインタビューしながらその内容が舞台になるという手法はよくあるが、書いた人物を呼び出して、自分の伝記を語り始めるというのは新手かも。顔の傷の真実、そして、育ての親トーリオ(夏美よう)とカポネを裏切ったシカゴ・ギャングのボス、ビッグ・ジム(朝風れい)射殺事件の真実、カポネが知られざる真実を次々と語っていく。

 カポネが一介のバーテンから暗黒街の帝王に君臨する前半生をこの形式で描き、二幕はカポネ逮捕に命をかける捜査官エリオット・ネス(月城かなと)との男同士の友情を前面に出し、最後はお抱え弁護士エドワード(久城あす)に裏切られる形で裁判に敗れてシカゴを追放されるまでを描いている。カポネの人間としてのさまざまな部分を描き出すことには成功しているが、やや好人物過ぎて悪の魅力に欠けるのが面白みのなさの原因か。展開も焦点が絞り切れておらず、一生の伴侶となるメアリー(大湖せしる)との出会いや、ネスとの男の友情がいずれも生煮えになり、後半にドラマとしての感動が湧きあがらなかったのが残念。ここは家族のドラマかネスとの緊張感あふれる友情関係に的を絞った方がより面白くなったのではないかと思う。一幕と二幕で登場人物ががらりと変わることから、同じ生徒が何役もすることになり、見ている方が混乱をきたしたことも減点材料。夏美が、前半でカポネのギャングとしての育ての親トーリオ、後半ではネスの上司である連邦政府の財務長官アンドリューとどちらも重要な役でキャストされているのが好例で、これはいくらなんでもちょっと苦しい。

 とはいえカポネに扮した望海は、貧困から抜け出そうと這い上がっていく野望に満ちた青年を生き生きとさわやかに演じていて、まばゆいほど魅力的。まずは若き日のカポネが「あの空の彼方に アイ ビリーブ アメリカ いつかきっと」と歌う冒頭の主題歌(玉麻尚一作曲)が印象的。ほかにも望海の歌唱力を十分に生かした佳曲が、カポネの人生の折々に次々に登場、ヘクト役の永久輝、ネス役の月城かなとが歌うソロも充実しており、雪組の実力派メンバーによる歌合戦的なミュージカルに仕上がった。これには全く異論がない。

 聴きごたえ十分ななかに、ローリングトゥエンティ風のチャールストンなどの華やかなダンスシーンやギャングたちのスタイリッシュな群舞などもふんだんに登場、ダンシングミュージカルとしても大いに楽しめた。(麻咲梨乃、AYAKO振付)ギャングたちの男ぶりがもうちょっとあがることに期待したい。

 月城のネスは、「アンタッチャブル」などでは主役になる捜査官役。今回は一幕でちらりと姿を見せる(ここが後半の伏線になっている)が本格的には二幕からの登場で、カポネとの親交は原田流のフィクションとなっている。カポネを基本的に好人物として描いているので、それを逮捕することに命をかけるという男に共感がわかないのが困ったもので、その辺が月城にとってもやりにくかったと思うが、もう少し表の顔の裏に見せる執念のようなものがでればさらに面白かったかも。

 永久輝は一幕でのカポネの聞き役としての登場。月城と後半を分けた形の大役を好演した。実際のヘクトはカポネより年上だが、舞台ではどう見ても年下の設定。ここはもう少し自分の書いた脚本に自信をもった男としてカポネに対応するという形で見たかった。映画のラストシーンをカポネ自身の意を受けて「こうして悪は滅びた」から「世界はお前のものに」と変更したことがネスの口から語られるのがこのドラマのミソ。人にはいろんな面があるということを象徴するとともに、来るべき望海のトップにかけた含蓄のあるフレーズになっている。

 しかし、なんといってもこの舞台での儲け役は真那春人が演じたジャックだろう。新聞売りの少年からカポネの右腕となるこの役は、メアリーとともに唯一、一幕と二幕の通し役で、強烈なインパクトとなった。真那は初々しい少年からドスを効かせた後半のギャングへとストーリーの中で成長を見事に浮かび上がらせる好演。登場場面でのソロを大切に歌ってほしい。

 メアリーの大湖はいわゆる娘役タイプではない新しい女性役としてこれまでの宝塚にはないヒロイン像を好演、望海との大人っぽいコンビぶりがよく似合っていた。

 あとはギャング役の男役陣がそれぞれ、工夫を凝らした役づくりでなり切っているのがおかしくもあり面白かった。なかではバグズ役の香綾しずるがさすが。なり切ってなり切れるものでもないがこれぞ宝塚の美学か。


©宝塚歌劇支局プラス5月10日 薮下哲司 記


ついにこの日が…。柚希ラストデーは笑顔でありがとう!

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 10年に一度の大物スターといわれた星組トップの柚希礼音のサヨナラ公演「黒豹の如く」「Dear DIAMOND」が5月10日、東京宝塚劇場で千秋楽を迎えた。この様子はさいたまスーパーアリーナ、宝塚バウホールほか全国45か所の映画館と台湾の映画館でもライブ中継され約26000人が柚希のラストデイを注視した。今回は大阪梅田の映画館での「柚希礼音ラストデイ」中継の模様を報告しよう。

 長年宝塚歌劇を取材し、多くのスターを見送ってきたが、これほどの大がかりな千秋楽は初めて。メディアが発達した現代と30年前とは様子が違い、一概に比較はできないが、ライブ中継があって東京宝塚劇場のお見送りのファンが12000人(主催者発表)という数字はこれまで聞いたことがない。気取らず庶民的な柚希の愛すべき人柄がこれだけの人気となったのだろうか。ファンとは一線を画し神々しさを売ることでカリスマ的人気を誇ったかつてのスターの時代は終わり、ファンと同じ視線に立つスターの時代になったようでもある。とりもなおさず、柚希のラストデイはこれからのトップスターの退団イベントにも大きな影響を与えそうだ。

 さて梅田のライブ中継はTOHOシネマズ梅田のなかでもかつて北野劇場だった一番大きいシアター1が会場。開演前のロビーはラストデイ限定のパンフレット(一部1000円)が発売され、ファンの長蛇の列でごったがえす騒ぎ。会場内も一席の空席もないフルキャパシティーだったが、上映中は終始静かで、比較的おとなしいファンばかりが集まったようだ。

開演前に、事前に収録された柚希のライブ中継用のあいさつから始まり、いよいよ「黒豹―」が開幕。柚希ふんするアントニオが部下のラファエルにふんした真風涼帆を英真なおきふんするバンデラス侯爵を将校クラブに訪ねるくだりで、用があるからとすぐに帰ろうとする真風を英真が「きょうぐらいはいいだろう」とアドリブを入れるなど、千秋楽らしい笑いも。柚希と夢咲ねねのラブシーンはいつもよりさらに濃厚で、ラストの別れの場面では、夢咲の目に思わず涙がにじんだところをカメラはアップでとらえていた。ライブ中継ならではの臨場感が味わえた。

 ショーでも第15場のDolceVitaの場面で紅ゆずるがアドリブを連発。最後は柚希が「愛してるぜ!」で締めくくり、おおいに盛り上がった。

 サヨナラショーは宝塚大劇場と同じ構成。「ちえちゃん」一家の場面から自身が作詞した「for good」に続くクライマックスでは、ライブ会場の客席もハンカチで目頭をぬぐう人の姿もあり、感動の渦がじわじわと押し寄せた。
最後のあいさつは夢咲が「夢のような12年間でした。夢から覚めるのが怖い気もしますが、柚希さんはじめ多くの人の愛につつまれた宝物のような12年間でした」といえば緑の袴姿で登場した柚希も「私の宝塚生活はダイヤモンドタイム、ダイヤモンドロードでした」と語り「これからも(宝塚を)愛していきます」と、宝塚を応援する力強いメッセージを約束して、ラストステージを締めくくった。

 カーテンコールは4回、最後まで涙はなく明るい笑顔で「ありがとうございます」を連発。最後は「もう帰ります」といって笑いをとって総立ちのファンに見送られた。凛とした男役姿とは打って変わったオフの「ゆるさ」が何ともいえない柚希の魅力だが、最後までそれは変わらなかった。

 終了後の会見で退団後のことを聞かれて「これから考えます」と答えていたが、これだけの人気者を放っておく手はないので、すぐにでも何らかの動きはあるだろう。今後の活躍にも注目したい。

©宝塚歌劇支局プラス5月12日 薮下哲司 記


月組「1789」新人公演 暁千星が二度目の主演

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月組によるスペクタクル・ミュージカル「1789」―バスティーユの恋人たち―(小池修一郎潤色、演出)の新人公演(谷貴也担当)が12日、宝塚大劇場で上演された。今回は、期待の新星、暁千星の二度目の新人公演主演となったこの公演の模様を報告しよう。

一本立ての大作とあってプロローグやマリー・アントワネット登場シーン、さらに一幕ラストなどがカットされるなど縮小版だったが、ストーリーには影響はなく、逆にコンパクトな感じで引き締まった。龍真咲はじめ星条海斗、美弥るりから本公演が個性的なメンバーぞろいなので、新人公演はずいぶんあっさりした印象。しかし、農民の青年ロナンと王室付きの養育係オランプの切ないラブストーリーという本質は外さなかったことから、全体のバランスは非常によかった。アントワネットの場面がカットされていたこともあるが、アントワネットは彼らの対称としての彩りであることがよくわかった新人公演だった。

ロナンに扮した暁は研4で新人公演主演は二度目。いかに期待のスターであることがこれでもわかろうというもの。ダンスの実力があり、歌唱力もあるが、男役としての声の出し方や演技はまだまだ発展途上。しかし、磨かれていないダイヤモンドの原石のような可能性に包まれ、未知の魅力を感じさせる逸材だ。ここ1年のあいだにも徐々に成長が見られ、まず体が絞られ、何より男役の化粧があか抜けてきた。本公演ではフェルゼンを演じており、トップ娘役の愛希れいかの相手役を務めていることもあって、舞台度胸もついてきた。ロナンは目の前で父親を射殺され、義憤の念をもってパリにでてきた農民の青年。そんな彼にとって貴族はおろか革命家たちさえも縁遠い存在。暁が演じるとそのあたりが非常に納得できる。若さのゆえだろうか。まだまだ、未熟で幼いが、それが逆に役にぴったりだった。弱点を強みに見せる、それもスターの資質かもしれない。場数を踏んで、大きなスターに育ってほしい。

相手役のオランプは叶羽時。「メリー・ウィドウ」のアクロバティックなカンカンで一気に名前を覚えたダンスの逸材。娘役として可憐な雰囲気で、舞台映えするが、芝居がよくいえば自然体、悪く言えば舞台の演技になっていない。新鮮といえば新鮮なのだが、完成する前の稽古をみているようだった。ただ暁の相手として、若い恋人たちという実感が舞台から匂い立ったあたりはよかったのかもしれない。

アントワネットは研3の美園さくら。音楽学校時代から歌唱力の素晴らしさで注目されていた人だが、今回はその存在の大きさと歌唱力、くっきりとした目鼻立ちが際だって、素晴らしいアントワネットだった。まさに大物娘役スター誕生である。華やかな登場シーンがカットされたのが残念だったが、王太子崩御の葬儀の場面など数ある歌のソロの存在感は圧倒的。164センチと娘役としては背が高いので相手男役が難しいかもしれないが、まだまだ時間はあるので花總まりや夢咲ねねのような形でうまく大成していってほしい。

美弥が演じて好評のアルトワは朝美絢。前回「PUCK」新人公演でのパック役がはまり役で素晴らしかったので、大いに期待したが、今回はやや色が違う役で、メイクなど工夫を凝らしたがやや持て余し気味のように見えた。本役の美弥とは異なったかなりストレートな演技で挑戦、それはそれでよかったが、権謀術数にたけたこの役にはオーバーすぎるぐらいの押し出しの強さがちょうどいいので、やはりインパクトに欠けた印象。

それはほかの役にもいえることで輝月ゆうまが演じたペイロール伯爵も、本役の星条がかなりきつく演じているため、眼光鋭い演技派輝月にしてもずいぶん普通に見えた。

革命家グループのデムーラン(本役・凪七瑠海)は夢奈瑠音、ロベスピエール(珠城りょう)は蓮つかさ、ダントン(沙央くらま)は春海ゆうという配役。それぞれ見せ場があるが、ロベスピエールの蓮が、男役としての存在感が頭一つ抜けていたように思う。ナンバーとしては夢奈が中心となって歌う場面がひとつにまとまっていてよかった。

あと暁が本役で演じているフェルゼンに扮した輝生かなでが、品があってなかなかいいフェルゼンだった。美園とのデュエットも雰囲気がよくでていた。今後の活躍に注目したい。

そして忘れてはならないのが新人公演の長として出演した娘役トップの愛希れいか。逮捕された暁ロナンに焼きゴテをあてる兵士役や民衆の女などほぼでずっぱりのアンサンブルを楽しそうに演じた。なかでも久々の男役となった兵士役のかわいいこと!終演後には長としてのあいさつも務め、公演のすべてをさらったのは実は愛希だったかも。

©宝塚歌劇支局プラス5月13日 薮下哲司 記

新トップ高世麻央、松竹座で好発進!OSK「春のおどり」始まる

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OSK春のおどり





OSK日本歌劇団の新旧トップスターの公演が、ほぼ同時に大阪のキタとミナミで上演された。新トップ、高世麻央の披露公演「レビュー春のおどり」(6月1日~7日、大阪松竹座)と元トップ、桜花昇ぼる主演の「太鼓×歌劇 大阪城パラディオン(守護神)~将星☆真田幸村~」(5月30、31日、サンケイホールブリーゼ)がそれ。そのいずれもが宝塚がらみでしかも力作だった。今回はこの模様を報告しよう。

まず新トップ、高世の「―春のおどり」。2004年に旧OSKが解散、新生OSKの活動拠点となった大阪松竹座の恒例となった演目で、12回目の今回は大貴誠、桜花に続く新トップ高世のお披露目公演。日本物の「浪花今昔門出賑」は、宝塚100周年記念公演「宝塚をどり」の振付でもおなじみの山村友五郎構成、演出、振付。洋物の「Stormy Weather」は、2008年の宝塚退団後7年ぶりの本格的レビューとなる荻田浩一の作、演出。これはOSKファンはもちろん、宝塚ファンにとっても必見のステージとなった。

日本物の幕開けは「春のおどりはよーいやさー」から始まる定番のチョンパーから。
高世を入れて総勢39人、宝塚一組の半分のメンバーだが、桜満開の華やかな舞台はいつみても心が浮き立つ。まして新トップ披露である。センターの高世が好きとおった声で歌う主題歌に合わせての総踊りに客席からは思わず「タカセ!」のかけ声が。

今回の出し物は、松竹開業120年と道頓堀開削400年も合わせて記念しており、プロローグが終わると安井道頓に扮した特別専科の緋波亜紀が道頓堀の歴史をひとくさり。高世を中心に桐生麻耶と真麻里都らによる殺陣の場面へといざなう。獅子舞が大暴れする明るく派手な川祭りの場面に続いて、かつて商都大阪で栄えたミナミを代表するお茶屋・大和屋に伝わる「南地大和屋へらへら踊り」の再現が見もの。娘役トップの牧名ことりを中心にした9人の娘役が伝統のお座敷芸を熱演した。OSKならではの趣向を取り入れた日本物で、宝塚の日本物とは一味違った雰囲気がいい。

続く洋物は、久々に荻田Worldが堪能できる心地よい快適なレビュー。6月なのに「春のおどり」とは何事、とばかり「Stormy Weather」(荒れ模様)というタイトルにしたという荻田ならではのショーで、オープニングの「レイニーデイ」はブルーの傘に白の衣装の娘役が花道に勢ぞろい、かつての荻田作の雪組公演「パッサージュ」の幕開きを思い出させる雰囲気の中、舞台中央からベージュのトレンチコート姿の高世がせりあがってくる。バックの装置があまりにも安っぽいのが難だが、それは目をつぶってもあまりある粋さに息をのむ。

そして、この場面から野性的な「ハリケーン“カリブ”」に移っていく展開がお見事。これぞレビューのお手本。トレンチコートの高世が、金ぴかの派手な衣装の雷神(シャンゴ)となって再び花道からせりあがり激しいダンスのあと、ダイナミックにプロローグが締めくくられる。セクシーな極楽鳥はOSKきっての期待の二枚目男役スター、悠浦あやとと来た。悠浦はこのあとも、高世に続く、これからのOSKを担うスターとしての劇団の方針に応じて、ここぞという場面での大抜擢がありながら、ほかのスターの邪魔にはなっていないという見事な起用法で悠浦を全面的に押し出し、彼女もそれに良く応えたさわやかな好演ぶり。

トップお披露目の高世は「タイフーン上海」では楊貴妃に扮してあでやかな踊りを披露するなど美しい女役も披露。歌、ダンスとも実力派だけにセンターに立ってさらなる大きな魅力を発散した。前トップの桜花のような春爛漫の明るさではないどことなく影のあるクールな二枚目ぶりが、日本ものや現代ものの洋物にぴったりで今後の活躍が楽しみだ。

ベテラン桐生のサポート、牧名の歌唱力、真麻のダンスとスターにはそれぞれの長所を生かし、若手にも見せ場をきちんと作ったところはさすがで、装置がシンプルな分、回り舞台やせり、花道を有効に使い、約一時間があっというまだった。退団後、宝塚OGのレビューなどでも手腕を発揮している荻田だが、こうやって一本の本格的なレビューは本当に久しぶり。男女混合の舞台より、女性だけのレビューづくりが本来の荻田流だと再確認した次第。

さて、元トップの桜花の舞台「大阪城パラディオン」は、OSKでも「闇の貴公子」など数々の作品を手掛けた北林佐和子の作、演出。これは元OSKだけでなく元宝塚も出演、OSKと宝塚さらに太鼓集団「打打打団 天鼓」のメンバーも出演するというユニークな舞台。

主演の真田幸村の桜花に対して、淀君がこだま愛、後藤又兵衛に鳴海じゅん、木村重成に麻園みき、塙団右衛門に未央一(好演)という宝塚勢が出演。長宗我部盛親に元OSKトップの洋あおいといった顔合わせ。これが実力派ぞろいで見ごたえのある舞台だった。ストーリー自体はこれまで何度も語られた真田幸村ものとの差はなかったが、打打打団の歯切れのいい太鼓の音色をバックにテンポよく語られると大筋はわかっていてもひきつけられるのと、出演者のそれぞれの芝居の巧さが2時間をあきさせなかった。女性陣のなかに数人男性が混じって激しい殺陣を演じたのも効果的。男役と実際の男性の配分のバランスが見事だった。今後の新しいパフォーマンスの形態になるかもしれないと思わせられた。次回作にも期待したい。

©宝塚歌劇支局プラス 6月1日記 薮下哲司



朝夏まなと「王家に捧ぐ歌」でハツラツと大劇場トップお披露目

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宙組新トップスター、朝夏まなとのお披露目公演、グランド・ロマンス「王家に捧ぐ歌」―オペラ「アイーダ」より―(木村信司脚本、演出)が5日、宝塚大劇場で開幕した。初演以来12年ぶりの再演となったこの公演の模様を報告しよう。

「王家―」の2003年の星組初演は、新専科から星組トップに就任した湖月わたるのトップ披露公演だった。湖月はもちろんラダメス役、二番手の安蘭けいがアイーダ、湖月と同じく新専科から星組娘役トップに迎えられた檀れいがアムネリスという配役。オペラをリメークした作品を連発していた木村氏がヴェルディのオペラ「アイーダ」の設定を借りて、2001年の9・11を契機に始まったイラク戦争を隠れテーマにした渾身の作で、エジプトをアメリカ、エチオピアをイラクに置き換えるとわかりやすい構造の作品。「戦いは新たな戦いを生む」というアピールと共に平和を祈念するテーマ性をもった意欲作だが、宝塚的には三人の拮抗した関係が内容とリンクして木村氏が考えた以上の濃密な作品に仕上がり、初日の大劇場は満員の客席が当時は珍しかった総立ちのスタンディングになったことを覚えている。同年の芸術祭で優秀賞を受賞、同じ題材のディズニー・ミュージカル「アイーダ」の劇団四季による公演がまだ始まっていない時で「アイーダ」ブームの先鞭を切った作品にもなった。

100周年に「ベルばら」「風と共に去りぬ」「エリザベート」と宝塚史上の三大ヒット作を使い果たしたあと、101年の再演の目玉として「王家―」が選ばれたのはまずは自然ななりゆきだろう。時あたかも安保法案や憲法改正にゆれるいま、戦争と平和をテーマにしたこの作品の上演には意義があるかもしれない。ただ、力作ではあるがラダメス以外の男役に真風涼帆演じるアイーダの兄ウヴァルドぐらいしか役がないのが宝塚の作品としては大きな欠陥だが、宙組の団結力でパワフルな舞台仕上がった。

作品的には、初演の時にも思ったのだが、ラダメスがアイーダを見初める場面がないことがやはりドラマの基本として弱い。それがあるのとないのとでは展開が全然違ったと思う。その辺はさすがディズニー版がうまかった。一方、先日亡くなった世界的バレリーナ、マイヤ・プリセツカヤの振付だった勝利の凱旋の場面が一新され、そこだけ特別感があった初演と違って、作品に自然になじむような場面になっていたのはよかった。

さて、新トップ、朝夏のラダメスは、なんといってもはつらつとした若々しさが魅力的。独特のクセがなくなり非常に素直な歌と演技、そして大きな動きで情熱的な若き将軍という雰囲気を身体全体で的確に表現した。湖月ラダメスとはまた違った新たなラダメス像を生み出したようだ。

アイーダの実咲は、芯のある歌声とともにエチオピアの王女としてラダメスと対等に接する存在感などをきっちりと表現していてなかなかの力演。初演が男役だった安蘭だっただけに、舞台姿が小さくみえたのは仕方がないが、それをはねのけるパワーが感じられた。

アムネリスの怜美は、エジプトの王女としての華やかな存在感が素晴らしく、初演の檀にひけをとらないゴージャスな美しさで圧倒された。台詞にも威圧感があり、歌も思ったよりずっとよかった。ただ、彼女にあったアルトの部分は安心して聴いていられたが、高音部になると流れてしまうのがどうしても弱い。

ウヴァルドの真風は、ついこの間まで星組におり、稽古途中からの参加ということで、今回は二番手とはいえ軽めの役だったが、非常に印象的な役でおおいに得をした。濃いめのメークが精悍さを際立たせていた。フィナーレのショーでは金髪のショートカットでイメチェン、朝夏とのデュエットもあるなど大活躍、新生宙組の大きな戦力であることを再確認させた。

愛月ひかる、桜木みなとがエジプト側、澄輝さやと、蒼羽りくがエチオピア側の兵士役。いずれも役はあるがほぼアンサンブルに近い役で、これといった見せ場もなく、若手男役陣にはやや持て余し気味の公演だが、その分フィナーレではいずれもはつらつと歌い踊っていたのが印象的。フィナーレは、劇中の歌のリフレインで朝夏、実咲の息の合ったデュエットダンスがみものだった。パレードのエトワールは純矢ちとせが美声を聴かせた。

©宝塚歌劇支局プラス6月7日記 薮下哲司

巨匠ハロルド・プリンスが柚希礼音の歌とダンスを絶賛、柚希復帰ステージ制作発表会見

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巨匠ハロルド・プリンスが柚希礼音の歌とダンスを絶賛、柚希復帰ステージ制作発表会見

先月退団したばかりの元星組トップ、柚希礼音の復帰第一作となるミュージカル「プリンス・オブ・ブロードウェイ」(10月23日~11月22日、東京・東急シアターオーブ、11月28日~12月10日、梅田芸術劇場メインホール)の制作発表が17日、東京都内のホテルで開かれた。今回はこの模様を報告しよう。

「プリンス―」は「ウエストサイド物語」「屋根の上のヴァイオリン弾き」のプロデュースを担当、「キャバレー」や「オペラ座の怪人」を手掛けたブロードウェイ最高の演出家、ハロルド・プリンスが、自らの.半生を数多くの自作をたどりながら振り返る自伝的ミュージカルで、ブロードウェイに先駆けて日本で初演される新作。現在、ブロードウェイの舞台に実際に立っている現役の実力派スターが数多く出演するなか、柚希はブロードウェイの舞台にあこがれる少女REON役を演じ、劇中では「蜘蛛女のキス」などプリンス作品のナンバーを披露する。

この日は、「オクラホマ!」再演でジャド役を演じてトニー賞を受賞したシュラー・ヘンズリーが「屋根の上のヴァイオリン弾き」と「スウィニー・トッド」、現在「オペラ座の怪人」のクリスティーヌ役を演じているケイリー・アン・ヴォービーズがソロを披露、その後プリンス、共同演出を担当するスーザン・ストローマン、そして柚希が登場、会見がスタートした。

金髪のショートヘアで白いブラウスに黒のパンツというスタイルは現役時代そのまま。プリンス氏やストローマン氏からは「素晴らしいダンサーであるとともにニューヨークで会ったとき歌も聞いたがとてもよかった。今回は日本語で歌う歌など彼女のための場面を作り、男役の場面も一場面考えている」と最大級の賛辞を浴びた柚希は「このような機会をいただけて大変光栄。高い壁ですが全身全霊で挑戦したい」と緊張気味に抱負。来月から三か月間、単身ニューヨークに向かい、現地出演者とリハーサルに参加するといい「お米がないとだめなので土鍋を持参して自炊、英語学校に通いながら頑張ります」と心はすでにニューヨークに飛んでいる様子だった。


会見後に単独会見に応じた柚希は「宝塚を退団することを決めて、どんなことをすれば自分自身、納得できてファンの方にも喜んでもらえるのかと、漠然とは考えていたのですが、この話をいただいたときに、これまでの自分に甘えるよりもより高い壁に挑戦をすることが、たとえ失敗しても自分にもファンの方にも納得してもらえると思い、挑戦することにしました」と復帰第一作にこの作品を選んだ理由を語り、昨年、武道館コンサートのあとの休みの期間にニューヨークを訪れたとき、プリンス氏に会い、英語で「くたばれ!ヤンキース」の主題歌を披露したことが、今回の出演につながったことも明らかにした。「私自身は全然できてないと思ったのですが、男役の低い声がかえって新鮮だったみたいです」と振り返った。「この公演のあとのことはまだ何も考えていない。宝塚時代もそうだったが目の前の山を越えることができれば次の山が見えると思う」とこの公演に賭ける並々ならぬ意欲を見せていた。

プリンス氏によれば、柚希はオープニングにブロードウェイにあこがれる少女役で舞台全体の導入役のような形で初期のプリンス作品を歌とダンスで紹介、「太平洋序曲」の場面では水兵役で男役姿も披露。歌は日本語で歌う「蜘蛛女にキス」ともう一曲英語の曲のソロも考えているという。この作品のニューヨークでの公演はまだ決まっておらず「日本初演の成果がそのカギを握るだろう」と日本公演の重要さを話していた。

またプリンス氏の声の役を市村正親が担当することもこの日同時に発表され、本人も出席。「オペラ座の怪人」日本初演の際、ラウル役でオーディションを受けた市村をプリンス氏の一存でファントム役に抜擢されたことを明かし、26年来の恩返しができることを喜んでいた。

一方、柚希は、この公演の準備のために宝塚のマンションをすでに整理して東京に引っ越したが、この12日には星組時代の後輩、真風涼帆が出演している宙組公演「王家に捧ぐ歌」を大劇場で観劇。「12年前に自分がでていたのに大感激、改めて宝塚の素晴らしさを再確認しました。でも終わってからスローで踊るダンス場面のダメ出しだけはきっちりしてきました」と宝塚愛が変わっていないことを笑顔で強調していた。

©宝塚歌劇支局プラス6月17日記 薮下哲司



桜木みなと、初々しくも堂々のラダメス役、宙組公演「王家に捧ぐ歌」新人公演

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桜木みなと、初々しくも堂々のラダメス役、宙組公演「王家に捧ぐ歌」新人公演


宙組期待のホープ、桜木みなとが主演したグランド・ロマンス「王家に捧ぐ歌」―オペラ「アイーダ」より―(木村信司脚本、演出)新人公演が23日、宝塚大劇場で行われた。今回はこの模様を報告しよう。

「王家―」は2003年に星組で初演、湖月わたるがトップ披露として主演のエジプトの将軍ラダメスを演じ、新人公演は当時研5だった柚希礼音が演じた。今回、桜木は本公演では初演で柚希が演じたメレルカを演じ、新人公演でラダメス役(本役・朝夏まなと)に起用された。いかに歌劇団が桜木に期待を込めているかこの配役でもわかろうというもの。新人公演は、一幕後半の勝利の凱旋シーンやアムネリスを中心とした娘役のナンバー、フィナーレがカットされた以外はほぼ本公演通りに進行、桜木はじめ主要な出演者の歌唱力のレベルが高く、聴きごたえのある新人公演だった。

フェアリー的な雰囲気で早くから注目されてきた桜木だが、歌の実力もなかなかで、一瞬、下級生時代の明日海りおを思い出させる雰囲気の持ち主。ラダメスは、湖月→柚希ラインが培った豪快な男役のイメージがあったが、今回の宙組公演の朝夏→桜木ラインはそんな先入感を覆し、エジプトの将軍ではあるが平和を愛する優しさが強調された。貴公子然とした容貌に加えて歌もしっかり歌える桜木は、役の力もあって思いのほか凛々しい力強さもあり、加えてナイーブさもよく表現して好演。宝塚の王道を伝統的な男役が出来そうで、今後の活躍を期待したい。

相手役のアイーダ(実咲凛音)は星風まどか。凰稀かなめのサヨナラ公演だった「白夜の誓い」で、凰稀扮するグスタフⅢ世の少年時代を好演して一躍注目された娘役ホープだ。可憐な容姿に似合わずパワフルな歌声の持ち主で、まさにこの役にはぴったりだった。「戦いは新たな戦いを生むだけ」と歌う声に説得力があった。

一方、ファラオの娘アムネリス(伶美うらら)は遥羽ららが演じた。豪華な衣装に助けられてプリンセスという雰囲気はよくでていたが、台詞や歌がまだ舞台の発声になっておらず上滑りしてやや気品に欠け、なんだか舞台稽古を見ているようだった。歌自体は高音低音ともによく伸びていただけにその辺が課題だった。一方、本役の伶美もエジプトの戦士役で出演。同じ衣装の戦士たちの中でもひときわ美形で、どこにいてもすぐに分かった。もともと音域が低いので少年役がよく似合いそうだ。

アイーダの兄ウバルド(真風涼帆)は瑠風輝。バウ公演「NewWave宙」で、留依蒔世とともに「闇に広がる」を歌って強烈なインパクトを与えた歌の人。身長がありどちらかというと豪快なタイプなので、二枚目は難しいかもしれないが、今回は実力を遺憾なく発揮して大器ぶりを示した。楽しみな存在になりそうだ。

ファラオ(箙かおる)は留依。重そうな冠と豪華な衣装をまといながら、圧倒的な歌唱力を披露して舞台全体を引き締めた。まさに申し分なし。アイーダの父親アモナスロ(一樹千尋)は、穂稀せり。台詞回しが本役の一樹そっくりだったのには思わず笑ってしまったが、それだけ忠実に役に向き合ったということで、それはそれで誠実さがうかがえて好感がもてた。

若手男役の役では、エジプト戦士のケペル(愛月ひかる)の和希そらが、さすがに場数を踏んでいるだけあって、舞台の居場所がわかった演技で、存在感があった。メレルカ(桜木)は秋音光。桜木同様、すがすがしい雰囲気でさわやかな印象。

エチオピアの囚人カマンテ(澄輝さやと)は七生眞希、サウフェ(蒼羽りく)は潤奈すばるだった。いずれも黒塗り、しかも暗い場面ばかり、そんななかの熱演だった。この二人に限らず、アンサンブルのレベルが高く、出演者が本公演の半分という少なさにも関わらず、コーラスの厚みも遜色なく、宙組若手の底力がいかんなく発揮されたステージだった。

©宝塚歌劇支局プラス6月25日記 薮下哲司

蘭乃はな熱演、東宝版「エリザベート」と劇団四季のディズニーミュージカル新作「アラジン」

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蘭乃はな熱演、東宝版「エリザベート」と劇団四季のディズニーミュージカル新作「アラジン」

ミュージカル「エリザベート」(小池修一郎潤色、演出)の新演出による東宝版が東京・帝国劇場で上演中。エリザベートは花總まりと蘭乃はなのダブルキャストで、全期間完売の人気公演だが、まず蘭乃バージョンから報告しよう。また劇団四季の新作ミュージカル「アラジン」そして来日ミュージカル「ジャージーボーイズ」と今話題のミュージカルもあわせて報告しよう。

「エリザベート」東宝版は、ウィーンオリジナルを潤色した小池修一郎演出の宝塚バージョンの男女版。ただ東宝版は宝塚版とは微妙に違っていて、歌詞は同じなのに演出が違ったり、ある場面とない場面があったりするので、東宝版がウィーンオリジナルの翻訳公演だと思われがちだ。しかし、宝塚版よりはオリジナルに近いものの東宝版もオリジナルのテイストとは全く異なったいわば小池版。オリジナルはエリザベートの半生にハプスブルク家の崩壊と旧体制から新体制に変わりつつある時代の胎動を重ね合わせた硬派のミュージカルで、ラブロマンスの甘さは全くない。しかもオリジナルのトートはエリザベートのエロスの象徴として登場する。宝塚版のピュアラブの対象とはえらい違いだ。東宝版のトートはとりあえずエリザベートのエロスの象徴で、トートダンサー(宝塚版では黒天使)を裸にしてそのあたりを強調してはいるが、トート自体はヘアスタイルや衣装が中性的で演じ手が男役から男優に変わっただけでずいぶんあいまいな印象。今回は新演出ということでそのあたりの大幅な改変を期待したのだが、巨大な棺の前ですべてが展開、装置が新しくなっただけだった。

例にもれずこの公演もダブルキャストシフトでエリザベートの花總、蘭乃以外に、主なところでトートが井上芳雄と城田優、フランツ・ヨーゼフが田代万里生と佐藤隆紀、ルキーニが山崎育三郎と尾上松也、ゾフィーが剣幸と香寿たつきが交互に出演する。

私が見た日は、エリザベートは蘭乃。蘭乃は、昨年、宝塚版でエリザベートを演じたばかり。退団後初仕事に東宝版エリザベートのタイトルロールに抜擢という、破格の再出発となった。もともと歌唱力には不安があったが、退団時には克服して、見事なエリザベートを演じ切って有終の美をかざった。今回も少女時代から老境までを凛とした演技と気品あるたたずまいで演じ切り、予想をはるかに上回る好演。宝塚版より歌のキーが低く、地声から裏声の高音に移るところがやや不安定で聴いていてハラハラさせた。ところどころ花總にそっくりなところもあって、大先輩の影響もみてとれた。それにしてもこの舞台度胸のよさはどうだ。今後の活躍が大いに期待できそうだ。

トートは井上芳雄。トートというにはちょっと弱々しいイメージがあったのだが、メークを研究、特に目つきがこれまでの井上とは別人のよう。歌もパワフルでひ弱な感じは全く感じられなかった。あふれるような男性的魅力という点には欠けるかもしれないが、井上的には新境地開拓といったところか。「最後のダンス」や「闇は広がる」は聴かせた。

ルキーニは山崎育三郎。これまで東宝版はずっと高嶋政宏が当たり役にしてきたが、今回から降板。新キャストになった。「レディべス」や「ロミオとジュリエット」など端正な若者役が似合う山崎だが、ひげを蓄えたルキーニの扮装が思いのほかよく似合い、黒っぽい男くささもあって、なかなかの好演だった。物語の進行役もかねる陰の主役でもあるので、歌詞が流れないように気を付けてほしい。

フランツ・ヨーゼフは田代万里生。ついこの間までルドルフだったのにと思うとなんだか感慨深い。歌唱力は問題がなく、台詞もいいが、ひげを蓄えてもなにをしてもまだルドルフが抜けきらず、少年のように見えてしまう。特に後半、田代なりによくやっているのだが、皇帝であり父親であるというにはちょっと無理があった。この配役はやや挑戦ではあったと思う。

ゾフィーは剣幸。「ハロー・ドーリー!」や「ショーボート」とこのところミュージカル女優として絶好調。「エリザベート」には縁がなく、小池作品へは彼の大劇場デビュー作「天使の微笑、悪魔の涙」以来26年ぶりの出演。しかし剣のゾフィーはさすがだった。声の出し方のバランスがうまく、低音から高音まで音域が広い歌も見事にパワフルに歌い切った。皇太后としての品と貫録も見応え十分だった。

ルドルフは古川雄大。前回からの続投だが、はかなげな美少年ぶりは今回もぴったりだった。井上との「闇は広がる」はぞくぞくする色気があった。

あと宝塚の「エリザベート」初演に出演していた未来優希が、エリザベートの母親ルドヴィカと娼館の女主人マダム・ヴォルフの一人2役で出演。いずれも彼女特有のクリアでパワフルな歌声が際だち、舞台全体を締める見事な出来栄えだった。

宝塚版との大きな違いの一つにトートの台詞の「死は逃げ場ではない」が東宝版にはないこと。宝塚版での決めぜりふだけになんだか肩すかしのような気もするのだった。花總版はまた改めて報告することにしよう。公演は8月26日まで。

一方、クリント・イーストウッドが監督した映画版が昨年公開され、昨年度の洋画ベストワンなどの栄誉を勝ち取った「ジャージーボーイズ」のワールドツアー公演が、東急シアターオーブで開幕した。

「シェリー」や「君の瞳に恋してる」で60~70年代に活躍したアメリカのポップグループ、フォーシーズンズの結成から解散、さらに再結成コンサートまでの紆余曲折の約30年を4人のメンバーがそれぞれの立場から回想、春夏秋冬の4章にわけてつづっていく。トニー賞で作品賞ほか4部門を受賞した話題作の日本初演だ。

シンプルなセットだが、照明や転換が洒落ていてプロの仕事。この辺がやはり本物、一味違う。そして、舞台を見ると映画が舞台を忠実に映画化していたこともよくわかる。グループとして成功するまでの前半は映画を見ていた方が理解しやすいかも。成功したグループにありがちなさまざまな葛藤をフランキー・ヴァリ役にふんしたヘイデン・ミラネーズが出ずっぱりの歌いまくりで魅せる。出演者の圧倒的な歌唱力と存在感にブロードウェーの底力を感じさせた。公演は7月5日まで。

また、劇団四季の新作ミュージカル「アラジン」のロングランが、5月24日から東京、四季劇場「海」でスタートした。すでに来年6月までチケットが完売という超人気公演だ。「美女と野獣」「ライオンキング」「アイーダ」「リトルマーメイド」に続く四季とディズニーのコラボ第5作目。昨年ブロードウェーで開幕したばかりの新作の最速日本公演でもある。

92年製作の同名ヒットアニメの舞台版で、魔法のランプから登場するランプの精ジーニーの活躍、主人公のアラジンとプリンセスジャスミンが乗る魔法のじゅうたんのスペクタクルなど楽しい見せ場がいっぱい。まさにディズニーマジックが堪能できるミュージカルだ。

アラジン役の島村幸大、ジャスミン役の岡本瑞恵、ジーニー役の瀧山久志といずれもオーディションだそうだが、それぞれ歌にダンスに実力は第一人者。とりわけ瀧山の自由奔放な硬軟自在な演技が素晴らしく、新たなミュージカルスターの誕生といっても大げさではないだろう。一幕後半のジーニー登場のナンバーは「美女と野獣」の「ビーアワーゲスト」以上のビッグナンバーで目も覚める楽しさだった。

「ホールニューワールド」の肝を「自由」と訳した高橋知伽江の訳詩もさえていて、ラストが分かってはいても心地よく盛り上がるのがいかにもディズニーミュージカル。四季は「ライオンキング」に続く新たな鉱脈をまた見つけたようだ。

©宝塚歌劇支局プラス6月27日記 薮下哲司



紅×七海×小柳 絶好調のミュージカルコメディ「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」

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紅ゆずる×七海ひろき×小柳奈穂子 絶好調のミュージカルコメディ

好評裏に東京公演を終えた紅ゆずる主演の星組公演、ミュージカル「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」(小柳奈穂子脚本、演出)大阪公演がシアター・ドラマシティで始まった。今回はこの模様を報告しよう。

「キャッチ-」は、1960年代のアメリカに登場した若き天才詐欺師、フランク・アバネイル(紅)の奇想天外な生き様を、彼を追い続けるFBI捜査官カール・ハンラティ(七海ひろき)との駆け引きを中心に、当時のポップミュージック風に仕立てた音楽をちりばめ、洒落た歌とダンスシーンでつづったミュージカルコメディ。アバネイル自身の自伝をもとにしたレオナルド・ディカプリオ主演の同名映画(2002年)を舞台化したブロードウェーミュージカルの翻訳公演だ。実はこの作品、松岡充、今井清隆の主演、荻田浩一の演出で2014年に日本でも上演されているが、今回の星組公演は、紅はじめ出演者の好演もあって日本初演バージョンをはるかに上回る出来の良さ。「ルパン三世」で好調の波に乗る小柳氏がまたまた新たなヒットを飛ばしたといえそうだ。

マイアミ空港のロビー、ベンチに座り新聞で顔を隠していた青年が新聞から顔を出すとそれがフランクこと紅。拍手が起こると同時に、七海扮するFBI捜査官のカールが客席から登場、銃をつきつけていきなり逮捕劇が始まる。と思ったら、紅が客席に向かって「なぜ僕が逮捕されるのか、みなさん知りたいでしょう」と歌いだし、テレビのバラエティショー仕立てでフランクの回想が展開していく。なんとも洒落た出だしで、見るものを一気に舞台に引き込んでいく。

紅はここから約25分間、歌いっぱなししゃべりっぱなし。父親の仕事の関係でニューロシェルの高校に転校したフランクは、前に通っていた高校の制服を着ていたことから生徒たちにフランス語の代用教師と間違えられ、教師の振りをするのだが、それが詐欺師としての第一歩となる。両親が離婚、どちらかを選択できなかったフランクは家出。人は身なりで相手が信じ込むことを知ったフランクはパイロットの制服を注文、IDカードを偽造、偽パイロットとして世界中を駆け回り、偽造小切手を乱発して世界各国で換金、一気に億万長者に。FBIのカールは必死にフランクを追いかけ、やっと追い詰めたロサンゼルスでまんまと逃げられてしまう。クリスマスの夜、フランクは公衆電話からカールに電話をかけ謝罪するが、カールはそんなフランクに少年の純粋な心を見て、徐々に親近感を覚えていく。

60年代だから出来た詐欺ではあるが、人間の盲点を突いた鮮やかな手口は、開いた口がふさがらない。その鮮やかさに笑っているうちに、破天荒な明るさの裏にひそむフランクの孤独感が浮き上がり、フランクと父親フランク・シニア(夏美よう)の親子の情愛、フランクとカールの人間としての温かいつながり、そしてフランクとブレンダ(綺咲愛里)の純愛と、随所にちりばめられた情感こもるエピソードに思わずほろりとさせられる。まさに小柳マジックの真髄だ。フランク、カール、フランク・シニア、ブレンダそれぞれのソロの歌詞がストーリーとうまくマッチして感動を盛り上げる。その手際はフランクの詐欺以上の鮮やかさだ。シニアがジュニアに話して聞かせる「ねずみとチーズ」のエピソードの伏線も効いている。

紅はパイロット、ドクターとさまざまに変身、最大限にかっこよさを披露しながら、少年の純粋な心根もたくみに表現して好演。歌唱にも豊かな表現力がつき男役としての魅力も増した、宝塚での代表作の一つになるだろう。

七海は、宙組から星組に組替えして一作目だが、真面目で人情味あふれる捜査官カール役を、絶妙の間合いでユーモアをたたえて演じ、宙組の最後だった「TOPHAT」のプロデューサー、ホレス役に続いていい仕事をした。星組での今後の活躍に期待したい。

ヒロイン役の綺咲は、プロローグでちらりと顔を出すが、本格的には2幕からの登場で、出番が少ないのが難だが、フランクが詐欺師だとわかってからも愛を貫き「本当のあなたが好き」と切々と歌うソロに説得力があった。

父親役の夏美、ブレンダの父親役の悠真倫と専科勢はさすがの達者さで脇をしめた。なかでも夏美はストーリー上からも重要な役どころを好演した。

若手では七海の部下の3人、如月蓮、瀬稀ゆりと、瀬央ゆりあのコンビネーションが絶妙。星組男役陣の呼吸の良さをうかがわせた。芝居もそうだがダンスも「ドント・ブレイク・ザ・ルール」のラストで一直線にピタッと決まるところはまさに男役芸の極地だ。ほかにも医者役などアンサンブルで活躍した拓斗れいのすっきりした男役ぶりが印象的だった。公演は7月6日まで梅田芸術劇場シアタードラマシティで。

©宝塚歌劇支局プラス6月30日  薮下哲司 記


北翔海莉×妃海風 新生星組プレお披露目公演「大海賊」熱狂の千秋楽

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北翔海莉×妃海風 新生星組プレお披露目公演「大海賊」熱狂の千秋楽

ついこの間、柚希礼音×夢咲ねねが退団したばかりの星組で、一か月後の6月12日には新トップコンビ、北翔海莉×妃海風が誕生、プレお披露目公演、ミュージカル・ロマン「大海賊」―復讐のカリブ海―(中村暁作、演出)とロマンチック・レビュー「Amourそれは…」(岡田敬二作、演出)の全国ツアーがスタート。その公演が5日、大阪・梅田芸術劇場メインホールで千秋楽を迎えた。今回はこの模様を報告しよう。

横浜から始まったこの全国ツアー公演。初日の神奈川県民ホールは、北翔の開演アナウンスから歓声と拍手に包まれ、北翔のトップを待ち望んだファンの思いがひとつになった感動の公演になった。終着地となった大阪公演も4、5日の2日4回公演のチケットは発売と同時に完売、新コンビに対する期待の大きさがうかがえる熱い公演となった。この日の12時公演は、元花組トップの蘭寿とむを始め、鈴奈沙也、蓮水ゆうやら北翔が宙組時代に一緒に舞台に立ったメンバーが大挙応援にかけつけ、応援する彼女らに客席からは拍手が巻き起こるなど、新トップ誕生にふさわしいおめでたムードが充満した。

そんな中、始まった「大海賊」は、17世紀のカリブ海を舞台に、イギリスの手先となった海賊エドガー(十輝いりす)に襲撃され、両親を殺害されたサンタ・カタリーナ島のスペイン総督の息子エミリオ(北翔)が、エドガーに敵意を持つ海賊に助けられ、海賊となってエドガーに復讐するというお話。2001年、月組の紫吹淳のトップ披露公演として東京宝塚劇場と全国ツアーで上演された作品。当時月組だった、北翔は本公演でエドガーの手下デイヴィッド、新人公演でエドガー、全国ツアーでは「聞き耳」の3役を演じており、北翔本人の思い入れもひとしおで、今回のプレお披露目公演に選ばれた。

初演は見ているが、ほとんど記憶になく忘れていた作品だったが、実力派の北翔と妃海の好演で、今回初めて見るような錯覚をもつほど新鮮な舞台だった。プロローグで北翔が圧倒的な歌唱力で主題歌を披露、あっという間に舞台に引き込まれていった。金髪のロングヘアが華やかで、ひとまわり大きく見え、これまでの地味なイメージはどこへやら。まばゆいばかりのセンターオーラと存在感で、終始舞台をリード。復讐に燃えるエミリオの揺れる気持ちが痛いように伝わり、作品自体が生き返ったような気がした。

なかでも北翔扮するエミリオと妃海扮するエレーヌが初めて出会い、一目で恋に落ちるシーンの説得力はこの二人だからこそ。舌を巻く巧さとはまさにこのことだろう。結構、つじつまのあわないところもある大ざっぱなストーリーだが、この二人のこの場面があることで全体が引き締まった。この二人が「大海賊」自体を底上げしたといっても過言ではないだろう。

北翔は冒頭の初々しい少年時代(意外と似合った)から、若くして海賊のリーダーになる後半と、側転を交えた激しい殺陣など大車輪の活躍ぶり。クリアな台詞と充実した歌唱で申し分のない出来栄えだった。

相手役の妃海も出番はそう多くないが、歌える強みを最大限に発揮、貴族のプリンセスらしい品格も的確に表現して、実力を発揮した。このコンビ、歌にダンスに芝居にと三拍子そろったまさに本来の意味での黄金コンビ。これなら何が来ても安心して見ていられそうだ。

初演で湖月わたるが演じたエドガーに扮した十輝は、救いようのない残虐非道な悪党で、楽しんで演じているが、人柄かそれほど悪い人間に見えないのがおかしい。それでも、宙組時代の彼女を思うと、ずいぶん成長したなあと感慨深いものがあった。

エミリオの海賊仲間では礼真琴扮するキッドが一番のウェートを占めており、礼の弾んだ演技と歌のうまさでひときわ印象的。男役としての粗削りな雰囲気もでてきて、上り調子の勢いが感じられた。「拝み屋」の夏樹れいの歌と芝居にも注目

あとエドガーの部下フレデリックの十碧れいやが、珍しく憎々しい悪役を好演。ロックウェルの麻央侑希も柄でみせた。ただ、このところ同じような役ばかりが続いており、次なるジャンプに期待したい。娘役ではアン役の音波みのりの清楚な表情とはうらはらな男前な演技がかっこよかった。

「Amour」は、2009年の宙組公演の再演。大和悠河のサヨナラ公演であり、今回からトップ娘役になった妃海の初舞台公演でもある。そしてもちろん北翔も出演していた。そんなゆかりの公演だが、北翔のトップ披露ということで、中盤に彼女のための英語による懐メロメドレーが新たに加えられた。「ルート66」や「Mrロンリー」を客席おりして会場を後方までくまなく回り、握手のサービスをしながらきっちり歌いあげ、エンターテナーぶりを発揮。ここで客席の蘭寿を紹介。会場は大いに沸いた。これは昨年のディナーショーの一場面の再現。このように大劇場のソロで長時間持たせることができるスターの登場はショー作家にとっては百万の味方になるだろう。

「ル・ポワゾン」「シトラスの風」に続いての岡田氏のロマンチック・レビュー再演となるが、白井レビューの伝統を今に受け継ぐゴージャス&ソフトタッチが見る者の心をいやす。まだまだ現役で頑張ってほしい。
フィナーレは北翔、妃海のトップコンビをはさんで十輝と礼が二番手格で小さめの羽を背負ってパレード。新生星組を強烈に印象付けた。「キャッチ」組と合流しての次回の大劇場公演「ガイズ&ドールズ」がますます楽しみになってきた。

©宝塚歌劇支局プラス7月5日 薮下哲司 記

中国語の「ごらんなさい」でオープニング!花組公演「ベルサイユのばら」開幕

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中国語の「ごらんなさい」でオープニング!花組公演「ベルサイユのばら」開幕

来月8日からの台湾公演に先駆けての花組公演、宝塚グランド・ロマン「ベルサイユのばら」-フェルゼンとアントワネット編―(植田紳爾脚本、演出、谷正純演出)とレヴュー・ロマン「宝塚幻想曲」タカラヅカファンタジア(稲葉太地作、演出)が、10日、梅田芸術劇場メインホールで開幕した。大阪だけの公演とあって東京からも大挙ファンが駆けつけ、初日から満員御礼の大盛況となったこの公演の模様を報告しよう。

「ベルばら」は一昨年から始まった100周年再演シリーズの掉尾を飾る公演。昨年の花組中日劇場バージョンをもとにしているが、一本立ての大作を二本立ての前ものに再構成したことからかなりのダイジェスト版で、ひとつひとつの場面が短く、どんどん話が進んでいく。オープニングカーテンには「凡爾賽…」とタイトルの中国語の電飾が輝き、小公子(飛龍つかさ)らが歌う「ごらんなさい」もなんと中国語!いつもとは一味違う。
カーテンが開くと中央にアントワネット、上手にフェルゼン、下手にオスカルの漫画の絵が現れ、明日海フェルゼンの歌声が聞こえ、漫画の後ろから明日海りお。つづいてオスカルの絵の後ろから柚香光、そしてアントワネットの絵が飛ぶともちろん花乃まりあが登場。仮面舞踏会でのそれぞれの運命的な初対面の様子を再現するという段取り。三人の関係をここで要領よく説明したあと華やかなプロローグが展開、アンドレ役の芹香斗亜がラインアップしたところでいよいよ物語がスタートする。ここまでで約10分。あとの駆け足がわかろうというもの。

ルイ16世(高翔みず希)が「革命」と絶句してオルゴールを落とすカーテン前からフェルゼンとアントワネットの王宮の運河でのラブシーン、そしてメルシー伯爵(汝鳥伶)がフェルゼンに帰国を懇願する場面と、とんとんと進み、歌はどれも一番だけ、気が付いたらフェルゼンは早くもスウェーデンに帰国しているといった具合。まさに「アン・ドウ・トロワ」だ。
その間、オスカルは訪ねてきたベルナール(瀬戸かずや)とロザリー(城妃美伶)にパリの街の惨状を聞き、近衛隊から衛兵隊に転属を決意、一方、アンドレはフェルゼンに帰国前にオスカルに会ってやってくれと頼みながらも、自分はオスカルを慕って歌う場面などが手短に展開する。
帰国したフェルゼンのもとにジェローデル(鳳真由)が現れ、ジェローデルの回想でバスティーユの場面が展開されるのは最近のフェルゼン編と同じ。ここでオスカル、アンドレの見せ場となる。ただ「今宵一夜」の場面がないため観客にはオスカルのアンドレに対する心情が分からず、なんとなく盛り上がらない。メルシー伯爵とフェルゼンの場面をオスカルとフェルゼンの場面に置き換えた方がよかったかも。

あとはチュイルリー宮に幽閉されたアントワネットを救出しようとフェルゼンがフランスに向かい、ラストの牢獄のシーンとなる。公安委員に殴る蹴るの乱暴を働かれたあとの花乃アントワネットのソロが聴かせた。これは中日劇場版で蘭乃はなが初めて歌った曲だ。公安委員に扮した羽立光来の迫力もみものだった。牢獄の場面はじっくりあり、明日海フェルゼンの熱い思いをきっぱりと断る花乃アントワネットの凛とした佇まいが際だった。花乃は、歌はやや安定感に欠けるきらいがあるが、こういう芯のある芝居の表現力はなかなかいい。

明日海フェルゼンは、滑らかな歌唱力を武器に、分別ある青年貴族を終始抑え気味に演じながら、終盤の牢獄での感情の発露にもっていく計算が見事だった。柔和な表情の中のどこにそんなエネルギーがあるのかと思わされる。

柚香のオスカルは、長身でとにかくプロポーションが素晴らしく、ブロンドの巻き毛と真っ赤な軍服がことのほかよく似合った。今回は女性としての見せ場がなく、演技はやや硬かったのが課題。プロローグ以外歌がなかったのにはびっくり。

一方、アンドレの芹香はあまりにも出番がなく、短いソロはあるものの、見せ場はバスティーユの橋の上の場面だけ。あまりにもあっけなく死んでしまうという印象だった。今回は特にオスカルの「アンドレ、見えていないのか。なぜついてきた」の台詞がなく、アンドレの目が見えにくくなっている話がカットされているためだとは思うが、よけい余韻がなかった。とはいえ芹香は黒髪のアンドレがよく似合っていた。

ほかベルナールの瀬戸、ジェロ―デルの鳳、ロザリーの城妃以外では、アランが真輝いずみ、ソフィアが華雅りりかといったところが主要キャスト。汝鳥と美穂圭子が脇で存在感を示していた。

とまあそんな具合で、この公演「ベルばら」入門編というところだ。初演以来、あちこちいじって基本的なストーリーは変わらないものの、見せ方はずいぶん変わった。次回の再演では原点に返って、原作通りアントワネットをヒロインにした初演を中心にオスカル、アンドレもきっちり描いた「ベルばら」昼夜通し上演、6時間ぐらいかかってもいいから完全版を見たいものだ。

「―ファンタジア」は、大劇場バージョンを39人という少人数で再現するという至難の業に挑戦したメンバーに脱帽のショー。ただでさえダンスナンバーが多く、どれも激しいものばかり。明日海を中心によくこれをクリアした。

明日海が花魁姿から一瞬にして男役に早変わりする場面などほぼ大劇場と変わらないが、中盤では芹香、柚香、瀬戸、鳳の4人が台湾の人気アイドルユニット、五月天のヒット曲「OAOA」を、明日海が、同じく台湾のヒット曲で日本では一青窈がカバーしている「望春風」を中国語で歌うという台湾公演ならではの趣向も。

しかし、なんといっても「さくら」を三味線ロックに編曲、男役陣が燕尾服で縦横無尽に激しく踊る群舞シーンから、間髪を入れずに東日本大震災の復興ソング「花が咲く」をバックに明日海と花乃がデュエットダンスへと展開するフィナーレが圧巻だった。全体のテンポもよく、音楽の使い方も新旧とりまぜてセンス抜群、稲葉氏の代表作になると思う。台湾でも圧倒的支持は確実だ。「ベルばら」には注文もあるが、まずは贅沢な二本立てといっておこう。大阪公演は16日まで。

©宝塚歌劇支局プラス7月10日記 薮下哲司


花總まり、圧倒的な美しさと貫録、東宝版「エリザベート」

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花總まり、圧倒的な美しさと貫録、東宝版「エリザベート」

ミュージカル「エリザベート」(小池修一郎潤色、演出)の新演出による東宝版が東京・帝国劇場で上演中。エリザベートは、新旧の元宝塚の娘役、花總まりと蘭乃はなのダブルキャストだが、ようやく花總バージョンを見ることができたので、今回はこの模様を報告しよう。

「エリザベート」の東宝版は、小池氏が、宝塚版を男女バージョンとして脚色したもので皇妃エリザベートと黄泉の帝王トートの愛を中心に展開、旧体制の崩壊をエリザベートの半生とだぶらせた骨太なオリジナルとは似て非なる作品。2000年の初演以来、繰り返し上演されているが、今回は出演者が大幅に若返り、衣装や装置もリニューアルした新バージョン。

なかで一番の話題が、1996年の宝塚初演の「エリザベート」でタイトルロールを演じた花總が、1998年の宙組公演以来17年ぶりに三たびエリザベートに挑戦することだった。花總エリザベートは、冒頭、ルキーニの裁判所での申し開きのあと、舞台中央の巨大な棺の上から登場。この時の少女時代の初々しさは、初演当時と全く変わらない。まさに驚異的。さらに歌声の滑らかさ、表現力の豊かさで、一気にエリザベートの世界に引き込んだ。

一幕、一番の聞かせどころである「私だけに」は言うに及ばず、初めて歌う二幕冒頭の「私と踊る時」、宝塚版にはないソロの歌、そしてフランツとのデュエット「夜のボート」と、年輪を重ねていく様子を鮮やかに表現、東宝版初演の一路真輝のエリザベートとも違った圧倒的な存在感で演じ切り、ミュージカル女優としての大輪を咲かせた。

この日は、トートが城田優。身長がありずいぶん華やかなトート。丁寧な歌唱に二度目の余裕が感じられ、花總をがっちり受け止めて、非常にバランスのいいコンビだった。

ルキーニは歌舞伎界のホープ、尾上松也。端正な顔立ちをメイクとヒゲで精悍さを強調。歌舞伎の大仰な台詞回しとこぶしの効いた歌がルキーニにぴったりだった。

フランツは前回と同じく田代万里生だったが、年齢を重ねてからの演技に工夫が見られ、ずいぶんこなれてきたようだ。歌はさすが。

ゾフィーは香寿たつき。1996年の宝塚初演でルドルフを演じていたとは、いまとなっては信じられないが、難曲を見事にクリア、貫録もたっぷりで大健闘だった。

そのルドルフは京本大我。繊細な美少年タイプで、ブロンドの髪がよく似合い、幸うすいるルドルフを好演。城田との「闇に広がる」はボーイズラブの動く写真集のようだった。

前回の蘭乃、井上芳雄、山崎育三郎、剣幸といったメンバーもそれぞれ良かったが、今回は花總のエリザベートがとにかく圧倒的で、周りもその魅力に引っ張られているような感じの舞台だった。なお、この公演、8月末まで同劇場でロングランされるが、その後の全国公演の予定はない。発売と同時に完売の人気だけに、いずれ再演されるとみられているが、まだ発表されていないのが現状だ。

©宝塚歌劇支局プラス7月16日記 薮下哲司




早霧×咲妃×望海 雪組ゴールデントリオ絶好調!

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写真©宝塚歌劇団


早霧×咲妃×望海 雪組ゴールデントリオ絶好調!ハンカチ揺れる珠玉の舞台「星逢一夜」

「ルパン3世」でブレイクした早霧せいなを中心とした雪組公演、ミュージカル・ノスタルジー「星逢一夜」(上田久美子作、演出)とバイレ・ロマンティコ「ラ・エスメラルダ」(斎藤吉正作、演出)が、17日、宝塚大劇場で開幕した。今回はこの模様を報告しよう。

「星―」は、雪組得意の日本物。江戸中期の九州・三日月藩(架空の藩)。藩主の次男坊、紀之介(早霧)は、源太(望海風斗)ら百姓の子供たちと気楽に天文学ごっこに興じる毎日だった。藩主に父親を殺害された泉(咲妃みゆ)だけは、紀之介とはなかなかうちとけなかったが、いつしか惹かれあう仲に。しかし、跡取りの長男が亡くなり、紀之介が藩の後継ぎ、春興(はるおき)として江戸に参内することになったことから3人の運命は大きく変わっていく。

古事記と日本書紀に登場する衣通(そとおり)姫伝説を自由に解釈した「月雲の皇子」でデビュー、その卓越した構成力で瞠目させ、続くブラームスとクララ・シューマンの切ない恋を情感たっぷりに描いた「翼ある人々」も抜群のセンスで高い評価を得た上田氏待望の大劇場デビュー作。江戸時代の天文学者といえば岡田准一が主演した松竹映画「天地明察」が記憶に新しいが、今回の舞台はこれとは関係なく、岐阜・郡上藩主で天文学好きの金森頼錦と郡上一揆をヒントに、九州の架空の藩の出来事に置き換えたオリジナルのストーリー。子供のころ結び合った無垢な友情が、時がたって互いが支配者と被支配者に隔たり、敵対せざるをえなくなったことから生まれる悲劇的世界を背景に、お互い愛しあいながらも成就することのない激しい愛がドラマチックに展開する。

紀之介が春興と名を改め、将軍の右腕となり税制改革を推進していく間に、幼いころの思い出が脳裏をまったくかすめなかったはずはないと思いたいのだが、人は立場が変わると心まで変わってしまうものだろうか。そのあたりの紀之介の変節が寂しい限りだが、クライマックスの源太との対決から、泉との場面への展開は見事だった。そして、余韻の残るラストシーンでは、満員の大劇場の客席からは堰を切ったように嗚咽の声と涙があふれ、白いハンカチが揺れた。細かいところで注文はあるが今回は不問に付そう。オリジナル作品としては傑出した出来といえよう。

早霧は、自由奔放に育った少年時代もよかったが、三日月藩の後継ぎとして江戸城に参内したあと、天文学の知識のおかげで一介の田舎侍から将軍に要職に抜擢され、武士として洗練されていく雰囲気が非常によくでた好演。独特のピンと張りつめた歌声も役柄によく合っていた。

泉役の咲妃も、紀之介を父の仇とはねつけながらも、惹かれていく女心をたくみに表現、台詞がやや現代的にすぎるところがあって、やや興がそがれる場面もあったが、源太との間で揺れる心は、切ないくらい伝わった。

そして源太の望海が、また素晴らしかった。常に泉を思いながらも、泉が紀之介を好きだということを知って身をひこうとする健気さ、常に他人への思いやりが第一のやさしい心根の男として描かれたこの役を、望海が全身全霊で演じ、客席の涙腺を一人でゆるめていた。まさにおいしい儲け役。望海の代表作の一本になるだろう。

この3人以外では、将軍役の英真なおきが、クリアな口跡と圧倒的な貫録でまたひとつ当たり役を増やし、紀之介の養育係、鈴虫の香稜しずるが達者ぶりを発揮した。ほかは、幼馴染の村の百姓の子供たちでちょび康の彩風咲奈と汐太の永久輝せあ、春興の部下となる猪飼秋定役の彩凪翔が印象に残る役。娘役では紀之介の母親、美和役の早花まこの凛とした風情、紀之介と結婚することになる将軍の姪、貴姫役の大湖せしるに存在感があった。

一方「ラ・エスメラルダ」は、芝居とは打って変わった情熱の国スペインをイメージした華やかなラテンショー。プロローグから早霧以下全員が海賊に扮し、金キラの衣装で暑苦しく歌い踊る。彩凪と永久輝がカーレーサーで競う場面、咲妃がカルメンに扮し早霧と彩風を相手に踊る闘牛場の場面、望海がメーンのパリのナイトクラブ(ここでは英真なおきも出演)、彩風から始まり早霧を中心にスターパレードとなる中詰のサンホセの火祭り、彩風をフィーチャーしたアーチストの場面などが途切れなく続く。緩急自在というよりは急急といった感じで息もつかせず、あっという間の55分間。芝居の余韻が吹っ飛んでしまったほど。早霧のスタイリッシュなダンス、望海の歌をふんだんにフィーチャーしながらも彩凪と彩風にそれぞれソロの場面を担当させるなど二人を売り出そうという意図が明確に表れたショーでもあったが、彩凪の黒髪が茶髪の彩風に比べて視覚的には印象的。歌は彩風に分があった。

フィナーレは彩凪と透水さらさのデュエットダンスから始まり、早霧を中心とした純白の男役群舞へと発展、そして早霧×咲妃、彩凪×沙月愛奈、彩風×星乃あんりのトリプルデュエットからパレードへ。エトワールは今作で退団する透水だった。大湖と永久輝、香綾と月城、鳳翔大と蓮城まこと、彩凪、彩風そして望海、咲妃、早霧の順でパレード。彩凪と彩風が三番手羽を背負った。

©宝塚歌劇支局プラス7月20日記 薮下哲司


もう少しパワフルさがあれば… 鳳月杏の初主演バウ公演「スターダム」

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鳳月杏初主演による花組公演、ミュージカル「スターダムSTARDOM」(正塚晴彦作、演出)が24日、宝塚バウホールで開幕した。今回はこの模様を報告しよう。

昨年の「KINGDOM」に続くベテラン、正塚氏の「ダム」シリーズ第二作。今回は、1980年代のアメリカ、かつては絶大な人気を誇った視聴者参加のオーディション番組を舞台に、番組で優勝して歌手デビューを夢見る若者たちの青春群像を、彼らを利用して視聴率アップをはかろうとする大人たちの打算をからませて描いた辛口のバックステージものミュージカル。

視聴率の低迷から打ち切りの噂も出ているオーディション番組に、ある日、あたりの空気が一変するような資質を持つ歌手リアム(鳳月)が登場、審査員のサイモン(天真みちる)らはにわかに色めき立つ。結局、財閥の御曹司ながら歌手を目指すネイサン(水美舞斗)ら9人が勝ち残り、番組は地方から場所をニューヨークに移し、決勝へとコマを進める。ところが優勝候補のリアムとネイサンに思いがけない出来事が起こり、いったん出身地に帰らないといけない事態になる。前半はよくあるバックステージもので新味はなかったが、二幕に入ってからようやく話が動きだし、正塚氏らしいひねりのきいたラストへと展開していく。オーディション番組が背景とあってカーペンターズやサイモンとガーファンクルなど80年代のヒット曲がふんだんに登場するのも楽しい聴きもの。

リアムの鳳月は、長身で、スター性のある華やかな個性にも恵まれ、新しいタイプの宝塚の男役として申し分のないビジュアルだが、最初の登場シーンに、審査員をうならせるだけの存在感があったかというとなんともいえない。歌の声質の軽さが原因か。リアムにはちょっとした過去があり、それが審査員たちをひきつける何とも言えない陰のある魅力につながっていて、あとから考えるとその辺の雰囲気はよくでていたと思うが、とりあえずは歌でがつんと印象付けないといけない場面なので、もっとパワフルさがほしい。資質は十分にあるのでさらなる精進を望みたい。

ネイサンの水美は、リアムという強敵の出現に動揺し、激しく対抗しながらも徐々にリアムの力量を認めていくあたりを、かっこよく表現していた。ダンスの切れの良さは大きな武器、歌もずいぶんよくなってきた。歌に台詞に、もう少し強弱のメリハリめりはりをつけることができればさらによくなるだろう。

審査員のサイモンを演じた天真は、相変わらずの達者さで主演の二人をよくサポートした。かつてロックスターだったという華やかな雰囲気もきっちり出ていて、しかもある程度の年齢をにじませた貫録もあり、後半は天真が全体をさらったといっても過言ではない。専科生のような落ち着きはらった感じではない、スター性のある新たな脇役像といっていいだろうか。主役を邪魔せずに、しかもこんなに魅力的な脇役は珍しい。フィナーレのダンスも見事だった。

特にヒロインという役はなく、桜咲彩花扮するダイアンが一番大きな役。その相手役、車の修理工ジェイクを演じた亜蓮冬馬が、甘いマスクとともに芝居心のある演技で印象に残った。歌がなかったのが残念だったが要注目だ。

若手中心の公演で、これまであまり役のつかなかった生徒にも大きな役がつき、オーディション番組と会って歌もふんだんにあるが、なかでベンジャミン役の高峰潤が儲け役。ほかに番組の司会者ヴィクターを演じた冴華りおなのすっきりとした雰囲気も印象的だった。

©宝塚歌劇支局プラス7月25日記 薮下哲司

夢咲ねね退団後初舞台、ミュージカル「サンセット大通り」大阪で千秋楽

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夢咲ねね退団後初舞台、ミュージカル「サンセット大通り」大阪で千秋楽

5月に退団したばかりの元星組トップ娘役、夢咲ねねの退団後初舞台となったミュージカル「サンセット大通り」(鈴木裕美演出)が、8月2日、大阪、シアターBRAVA!で千秋楽を迎えた。今回はこの模様を報告しよう。

「サンセット-」は1950年ごろのハリウッドが舞台。サイレント映画の大スター、ノーマが、文無しの新進脚本家ジョーを利用して、銀幕にカムバックを図ろうとするが、すでに忘れられた存在のノーマに誰も見向きもしない。ビリー・ワイルダー監督の名作をもとにアンドリュー・ロイド・ウェーバーが曲をつけて忠実に舞台化したミュージカル。1993年のロンドン初演はパティ・ルポン、翌94年のブロードウェー初演はグレン・クローズが主演、いずれも大評判となった。ノーマの豪邸の装置に巨費がかかり、長らく日本での上演が見送られてきたが、簡易セットでの上演が可能になった2012年、宝塚を退団したばかりの安蘭けい主演で日本上演が実現、以来3年ぶりの再演。

今回はノーマ役が安蘭と濱田めぐみのダブルキャスト。ジョー役が安蘭のときが平方元基、濱田のときは柿澤勇人、そしてジョーの仕事仲間ベティ役に夢咲ねねが起用された。3年前の初演は彩吹真央が演じた役だ。

まず、作品の出来だが、初演に比べて演出や振付が大幅に変わりずいぶんグレードアップしたうえ、安蘭、濱田が、全く異なるアプローチで役に挑み、見ごたえがあった。特に安蘭のノーマが絶品だった。初演のときは若さが勝って、役を完全に自分のものにしきれていないような感じがなくもなかったが、今回は2度目の余裕もあるのか、見事なノーマだった。前半のジョーを手玉に取るくだりが時にはコケティッシュで可愛く、ユーモアを交え、それがかつての大女優という大きな存在感を見事に表現していた。クライマックスの大階段の見せ場も鬼気迫る熱演、見ているこちらの背筋がぞくっとするほどの迫力だった。ロイドウェーバーの曲がかなり高低差のある難曲で、実力派の安蘭にしてもやや不安定なところがあったが、演技力と表現力でカバーしていた。

千秋楽は濱田のノーマだったが、歌の実力はさすがピカイチ。一音の狂いもない見事な歌唱で圧倒した。演技的にもすきのない出来。ただ、安蘭のノーマを見た後で見ると、歌も台詞も同じなのに演技の微妙な間が、作品自体の仕上がりに大きく作用することを再確認させられた舞台でもあった。かつての大スターというカリスマ性は出ていたと思う。

一方、ジョー役の平方元基と柿澤勇人。どちらも好演だった。平方の柄の大きいいかにもヤンキーな感じが役にぴったりで、映画オリジナルのウィリアム・ホールデンをほうふつさせた。ノーマとベティの間で揺れる心情を非常に分かりやすく演じ、この三角関係なら宝塚でもできるのではないかと思わせるぐらいの主人公としての存在感があった。歌と演技の細かさでは柿澤に分があった。

そしてベティの夢咲。彼女はワンキャストなので両バージョンともに出演したが、フィアンセがいながらその親友で才能はあるが、それを発揮できないちょっとだらしないジョーにひかれていくキャリアウーマンを、地に足のついた演技で表現、なにより宝塚の娘役で培った品を崩さずに演じたのが素晴らしかった。映画ではナンシー・オルソンが演じていた役だが、ノーマ役のグロリア・スワンソンの怪演にすっかり影を潜めていた。しかし、今回のバージョンでは、ノーマとの対比がしっかりと描かれており、夢咲が演じたことで役自体がかなり重要な役どころになった。そして安蘭、平方、夢咲の3人の関係性のバランスが非常によかったことも幸いした。それは、濱田、柿澤、夢咲のときより顕著だった。なぜかと考えてふと思ったことは、宝塚と四季という土壌の違いだったのかもしれない。執事役の鈴木綜馬、監督役の浜畑賢吉と主要な脇役を四季出身者で固めたこの舞台、濱田、柿澤バージョンはまるで四季の舞台を見ているような錯覚に陥った。そこに一人夢咲が入っているのはさすがに違和感がある。それに比べると、安蘭と同じ舞台にいる夢咲はなんとなくしっくりくるのだ。見るほうの勝手な思い込みかもしれないが、舞台というのはそんなものだ。

とはいえ、日本初演時の舞台より数段見ごたえのある舞台に仕上がっていた。1994年にロンドンのオリジナルの舞台を見ているが、オープニングの死体が浮かぶプールの場面から度肝を抜かれ、豪邸がそのまませり上がってその下からバーのセットが登場するという大がかりな舞台装置だった。今回は前回同様、階段を回すことによって場面転換するという簡易バージョンではあるが、演出によって転換をかなりスピーディーにしてテンポアップ。ダンスナンバーもバージョンアップされた。二幕冒頭の撮影所の場面。数年ぶりに撮影所にきたノーマをベテランの照明係が覚えていて、スポットを当てる場面は、映画でも印象的だったがこの舞台でも大きなハイライト。ノーマが「アズ・イフ・ウイ・ネヴァー・セイ・グッバイ」と歌う場面は感動的だ。

©宝塚歌劇支局プラス8月3日記 薮下哲司

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月城かなと、永久輝せあ、期待の2人が火花、雪組「星逢一夜」新人公演

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月城かなと、永久輝せあ、期待の2人が火花、雪組「星逢一夜」新人公演

今年一番の佳作と評判の雪組公演、ミュージカル・ノスタルジー「星逢一夜」(上田久美子作、演出)新人公演が8月4日、宝塚大劇場で上演された。今回はこの模様を報告しよう。

身分が違ってもそんなことは何でもなかった幼少期の無垢な友情が、大人になって支配者と被支配者に立場が明確になったことから生まれる悲劇、これまでの宝塚にはなかったドラマチックな展開に、連日、大劇場は涙の洪水、某新聞には「新たな名作の誕生」とまで称賛された本公演。新人公演は、雪組の次代の担い手との期待が高まる月城かなとが紀之介(早霧せいな)、永久輝せあが源太(望海風斗)に扮するとあって、早々に立ち見も売り切れ、キャンセル待ちの長蛇の列ができるほどの人気となった。

真っ暗な舞台に蛍の群れが天の川のように戯れる幻想的な雰囲気の中、奥から紀之介に扮した月城が登場、続いて泉役の彩みちる(本役・咲妃みゆ)源太役の永久輝がからんでドラマチックな群舞が展開、本公演通り、これからのストーリーを暗示するような印象的なプロローグから始まった。ところが残念なことに、月城が第一声から明らかに本調子ではないことがわかるハスキーな歌声。どうやら声をつぶしていたようだ。最後まで調子が戻らず、台詞ものどをかばうようにソフトな声で通し、少年時代などそれが吉と出た場面もあったし、役作りとしては非常に手堅かったが、ここぞというときに声が出ず、紀之介という役の熱っぽい雰囲気がよく伝わらなかった。月城にとっても不本意な出来だっただろう。月城の魅力は何といっても直情的で情熱的な男役演技だ。そんな紀之介を見たかったと思うのは誰しも同じ。最後の新人公演主演、東京公演では体調を整えて万全を期してほしい

主演の体調がすぐれないと、それをかばう相手役にも影響が出てしまう。いい例が源太役、の永久輝。本役の早霧と望海は、思い切りぶつかりあって、それがドラマチックな高揚感を生み出している。月城と永久輝もラストの対決シーンは激しくぶつかり合っているのだが、永久輝の月城に対する遠慮と思いやりが出てしまっているような感じで、なんだかすごくあっさりした対決になったようにも思う。もちろん、永久輝の源太は、永久輝ならではの素直な演技で、クライマックスシーンでは客席はすすり泣きの声がもれるほどだったので、こちらのうがちすぎなのかもしれないのだが。いずれにしてもスター性は十分の2人。試練を乗り越えて、さらに大きく成長してほしい。

泉役は彩みちる。2013年初舞台、研3の新星だ。素直な上に非常にしっかりした台詞と演技で、チャンスをものにした。特にラストの月城との逢瀬から別れに至る場面が泣かせた。

ほかでは、ちょび康(彩風咲奈)の陽向春輝、秋定(彩凪翔)の橘幸がいずれもワンポイントながら印象的。陽向の芝居心たっぷりの演技、橘のすっきりとした立ち居振る舞い。いずれも高得点だった。英真なおきが演じた将軍は真條まからが起用された。落ち着いた風情で貫録を示し熱演だったが、やや若さが勝ったか。とはいえ、この公演の鍵を握るといってもいい大役をきっちり演じ切ったのは称賛したい。

娘役では貴姫役(大湖せしる)の有沙瞳が、評判通りの実力派ぶりを示した。このところ舞台映えする見せ方も体得してきたようで、これからが大いに楽しみな存在だ。本公演でヒロインを演じた咲妃は、江戸城下の立ち売り役とフィナーレの三日月の少女役などで出演、華を添えた。

終演後、月城は「私たち新人公演メンバーにはハードルの高いお芝居で、台本を何度も読んで臨みました」とあいさつ「声が本調子ではなかったので東京公演でしっかりリベンジしたい」と話していた。

©宝塚歌劇支局プラス8月5日記 薮下哲司


涼風真世、圧倒的な貫録、ミュージカル「貴婦人の訪問」開幕

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涼風真世、圧倒的な貫録、ミュージカル「貴婦人の訪問」開幕

涼風真世、山口祐一郎、春野寿美礼はじめ日本のミュージカル界を代表する錚々たるメンバーが顔をそろえた新作ミュージカル「貴婦人の訪問」(山田和也演出)が、7月27日、東京・シアター1010のプレビュー公演から開幕した。8月14日からの東京・シアタークリエ公演より一足先に5日から始まった大阪・シアターBRAVA!公演の模様を報告しよう。

かつて私刑(リンチ)同然の裁判によって町を追われた女性クレア(涼風)が、20年後、億万長者となって故郷に帰ってきた。町の財政は破綻、有力者たちはクレアから援助を受けようと掌を返したように歓迎する。クレアは支援を快諾するが、彼女を捨て、現在は町で雑貨屋を営む男アルフレッド(山口)の命と引き換えという条件をつける。自分を苦しめた人々に金の力で復讐しようというクレアに、人々は動揺するが、マスコミはアルフレッドの動向を集中攻撃して…というストーリー。

原作はフリードリッヒ・デュレンマット原作による痛烈な風刺戯曲。1964年にイングリット・バーグマン、アンソニー・クインの主演で映画化され「訪れ」(ベルンハルト・ヴィッキ監督)のタイトルで日本でも公開されている。タイトルからまさかこの映画の原作のミュージカル化とは思わずに見たので、これと同じ原作だと知った時は、衝撃的な結末を知っていただけに、少なからず驚いた。今年のトニー賞でチタ・リベラが主演女優賞にノミネートされた「The Visit」も同じ原作。今回、公演されたものとは曲も演出も異なるが、それにしても、こんな暗い話がミュージカルになるとは、時代も変わったものだ。

舞台は、クレアが帰ってくるというので、町中が大騒ぎになっているところから始まり、自家用機の爆音とともに、さっそうとクレアが帰還する場面となる。まずは涼風が黒ずくめの豪華な衣装で貫録たっぷりに登場する場面がみどころ。市長のマティアス(今井清隆)校長のクラウス(石川禅)警察署長のゲルハルト(今拓哉)牧師のヨハネス(中山昇)たちはクレアに財政援助を依頼する大役を、アルフレッド(山口)に白羽の矢を立て、アルフレッドもそれを快諾する。この時点で、クレアがなぜこの町を出て行ったのかということに対して誰も疑問を抱かない。そして、それは大きな代償をともなうことになる。クレアがアルフレッドの死と引き換えに財政援助を快諾したことから、町の人々のアルフレッドを見る目が豹変していく。身の危険を感じたアルフレッドが街を出ようとすると、駅で待ち構えた群衆たちが、彼が列車に乗るのを阻止するナンバーは身の毛がよだつ。

なんだか、経済至上主義の現在社会の行く末をあぶりだしたような内容。昔、映画を見たときは、現実になるとは思わなかったのだが、いまのご時世、生活の安定のためなら一人や二人いけにえにしても当たり前の社会に成り果てていて、それを50年以上も前に予見した戯曲であったことを再確認。とはいえ何ともうすら寒い話である。

復讐に燃えた涼風のクールな感覚が、圧倒的な存在感で魅了した。やりようによっては成りあがりの下品な感じのする役になってしまうのだが、そこはさすがに気品をたたえ、まさにクールビューティーそのものだった。周囲を威圧するような貫録たっぷりの演技に加えて歌唱が素晴らしく、低音から高音までよく伸びていた。涼風の当たり役になりそうな予感がした。全体的にも、このミュージカル、涼風一人で魅せたようなものだった。

山口、今井、石川、中山の男性陣は歌の実力はいまさらいうまでもなく、モーリッツ・シュナイダーとマイケル・リード作曲の難曲をよくクリアしたが、それぞれ強烈な個性の役であるのに、なぜか誰も面白みがない。もっと猥雑でどぎつい感覚があればさらに深みが出ると思う。一方、アルフレッドの妻、マチルダを演じた春野も、歌のソロはさすがだが、演技的にはあっさりしすぎてやや不満だった。

「エリザベート」「モーツァルト!」「ルドルフ」「ダンス・オブ・ヴァンパイア」に次ぐウィーン劇場協会発の新作だが、これまでのようにファンから支持が得られるかどうか、注目したい。

大阪は9日まで。続いて13日から31日まで東京・シアタークリエ。9月4日から6日まで福岡・キャナルシティ劇場、9月11日から13日まで名古屋・中日劇場で上演される。

©宝塚歌劇支局プラス8月7日 薮下哲司 記

明日海りお率いる花組メンバーに黄色い声援、第2回台湾公演、華やかに開幕

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台北國家戯劇院外観
花組台湾公演看板
グッズ売り場の行列
劇場の客席
劇場の舞台


明日海りおらに黄色い声援、第2回台湾公演、華やかに開幕

台風13号の影響で8日の初日が中止、延期になるという前代未聞のハプニングに見舞われた第2回台湾公演、翌9日には無事、台北の國家戯劇院で開幕。宝塚グランドロマン「ベルサイユのばら」フェルゼンとアントワネット編(植田紳爾脚本、演出)とレヴューロマン「宝塚幻想曲」(稲葉大地作、演出)が上演された。現地で9日の公演を観劇したフリージャーナリスト(羽衣国際大学准教授)で宝塚ウォッチャーの永岡俊哉氏が、公演ルポを送ってくれたので紹介しよう。


皆様、こんにちは。羽衣国際大学准教授でフリージャーナリストの永岡俊哉と申します。薮下さんに代わって台湾タカラヅカリポートをお送りします。

[以下、永岡俊哉の台湾リポート]

 台風の影響で初日が中止になった宝塚歌劇団第2回台湾公演だが、台風一過の台北で8月9日に開幕した。今回は明日海りお率いる花組のうち38名に専科の汝鳥伶と美穂圭子を加えた総勢40名の生徒で台北に乗り込み、「ベルサイユのばら」フェルゼンとマリー・アントワネット編とショー「宝塚幻想曲」の2本立てを16日の千秋楽まで合計14回公演する。2年前の星組公演が圧倒的な人気だったこともあり、また、演目が宝塚の代名詞ともいえる「ベルばら」だけあって、今回もほぼチケットは完売だという。私は9日の19時30分公演を観劇したのだが、ほぼ満席状態の台北國家戯劇院は開演前から観客の期待と熱気に包まれていた。(翌10日の19時30分公演も観劇した。)

 冒頭、明日海の中国語での開演アナウンスが流れると、劇場は一気に「ベルばら」の雰囲気に包まれた。そして、中国語で「ベルサイユのばら」と書かれたカーテンを前に小公子と小公女たちが「ごらんなさい」を中国語で歌い出す。しかし、1時間半に短縮されているのでここからはジェットコースタースピードの進行になり、フェルゼンとアントワネット編なので仕方がないとはいうものの、オスカルが父親からジェローデルとの縁談をもちかけられる場面もアンドレがオスカルに毒ワインを盛る場面、さらには「今宵一夜」も無いためにオスカルとアンドレの複雑な関係性が見えてこない。ただの友達にしか見えないと言っても過言ではない。オスカルのフェルゼンへの思いもアンドレがフェルゼンに別れのシーンで告げるだけで、これも実感として湧いてこない。台湾で見ても、梅芸で感じた違和感がぬぐえなかった。しかし、バスティーユのシーンや牢獄のシーンでは最高潮に盛り上がり、大きな拍手の中で幕が下りた。

 ただ、台湾の観客の反応で驚いたのが、アンドレが橋の上で撃たれて死ぬシーンでの笑い。台湾の人の感覚なので理由はわからないのだが、アンドレが一度撃たれて倒れてから歌い出す時に笑いが起き、さらに撃たれて倒れてから再度立ち上がりオスカルに末期の一言を言うシーンでは爆笑と言ってもいいほどの笑いが起き、あんなに感動的なシーンが笑いに包まれるというおかしな具合になってしまったのだ。演じている芹香斗亜はかなりやりにくかっただろう。(この点については、芹香が翌日から死に方に工夫を凝らしたようで、私が2回目に観た10日夜公演では笑いは減っていた。また、劇場にも観客にも慣れたということだろうが、10日公演は全般的に芝居が良くなっていて、舞台上の演者から気迫のようなものが感じられた。)

 一方、ショーはタカラヅカらしいパワフルさに日本的要素や中国語の歌も取り入れた「宝塚幻想曲」で、音楽が始まり開演アナウンスが流れると、観客は「待ってました!」とばかりに大きな拍手と声援を送り、劇場は終始熱気と興奮に包まれた。ゴージャスな衣装と華麗な群舞に、ため息ともつかない歓声が上がり、舞台上の演者はさらにそれに乗せられるように歌い、踊る。明日海が笑顔を振りまくと黄色い声が飛び、芹香や瀬戸かずや、柚香光、鳳真由が舞台の前に出てウインクを飛ばすと握手の手が伸びる。また、明日海や斗亜(芹香)などと書かれた手作りの団扇で応援する観客も居て、劇場のボルテージは上がっていく。そしてそれに応えてさらに笑顔と握手をプレゼントする男役たち…。台湾の観客は熱いショーが好みということだろう。一方、娘役も専科の美穂が歌唱力で劇場を圧倒したのを始め、芽吹幸奈や白姫あかり、菜那くらら、仙名彩世らが見事なダンスや衣装さばき、それに輝くような笑顔に歌唱といった一級品の娘役芸で舞台を華麗で豪華なものにしていた。そして、フィナーレ前に明日海と美穂が「望春風」という台湾の国民的な歌を歌うシーンでは、拍手と声援が最も大きくなったのはもちろん、客席からも歌を口ずさむ声が聞こえるなど、おおいに盛り上がった。

 ただ、ハードスケジュールのためか生徒にかなり疲れが出ているようで(食べ物が合わない生徒も居るようで)、9日は黒燕尾の群舞などで、動きに固さというか、ずれが目立ったのが残念だった。(ただ、これも10日には改善されていて、とても揃った気迫に満ちた花組らしい黒燕尾に戻っていて安心した。)

 一方、ロビーの売店ではパンフレットやクリアファイル、Tシャツなどのグッズに行列ができ、売れ行きもなかなかのようで、また組を変えて、別の演目で公演することが台湾での宝塚ファンづくりにつながると感じた。(以上、永岡リポート)


 2年前の星組公演同様、今回も台湾のファンは宝塚を楽しんだ様子がいきいきと伝わってくる永岡氏のルポでした。「ベルばら」の橋の上の場面の反応にはびっくりでした。韓国・ソウル公演のときには笑いは起こらなかったような気が。1974年の月組初演の時はこの場面、もっとあっさりしていたのですが、翌年の花組公演「アンドレとオスカル編」あたりからややしつこくなってきた感はあり。今回はオスカルとアンドレの見せ場がほとんどなくて、いきなりこの場面なので、ちょっと違和感があったかも。台湾の観客の正直な反応に感じ入りました。いずれにしても、連日40度近い酷暑の台北、千秋楽までメンバー全員の健康を祈りましょう。

©宝塚歌劇支局プラス8月10日記 薮下哲司


写真(撮影:永岡俊哉氏)は上から 

 台北國家戯劇院の外観
 花組台湾公演看板
 宝塚グッズショップの様子
 劇場の客席(4階建てで豪華なつくり)
 劇場の舞台(両端に中国語の字幕の電光板が見える)

轟悠 圧倒的な貫録、まさに宝塚歌舞伎の頂点、ギリシャ悲劇「オイディプス王」開幕

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オイディプス王のチラシ


轟悠 圧倒的な貫録、まさに宝塚歌舞伎の頂点、ギリシャ悲劇「オイディプス王」開幕

トップ・オブ・トップ、専科の轟悠が主演するギリシャ悲劇「オイディプス王」(小柳奈穂子脚本、演出)が8月13日、宝塚バウホールで開幕した。ソフォクレス原作のこの有名な悲劇を宝塚でどう料理するのか興味津々のこの舞台。今回はこの模様を報告しよう。

舞台中央に大きな階段がしつらえられ、いかにもこれからギリシャ悲劇が始まりますよという石造り風の荘厳なムード。二村周作氏の装置が開幕前からいつもの宝塚ではない雰囲気を漂わせる。

舞台が暗転して下手にスポットが当たると憧花ゆりの扮するアポロンの巫女が登場。オイディプスがテーバイの王になったいきさつをかいつまんで説明する。この物語のすべてが語り尽くされている憧花の大事なナレーションのあと、オイディプス王に扮した轟が、舞台中央から長いマントを翻してさっそうと登場する。その貫録、見せ方のうまさ、まさに宝塚の男役芸を極めた轟ならではの登場シーンだ。思わず晩年の春日野八千代が「花供養」で最初に登場した場面を思い出した。それほどインパクトがあった。ここを見るだけでも、見た価値はあったと思わせるほどだ。

さて「オイディプス王」だが、「父を殺し、母をめとるであろう」との予言の実現を避けるために放浪の旅に出たコリントスの王子オイディプス(轟)は、怪物スフィンクスを退治した功績で、テーバイの王に迎えられる。しかし、数年後に災厄が起き、オイディプスが国を救うために請うた神託に「前王ライオスを殺した犯人を罰せよ」とのお告げがでたため、ライオス殺しの犯人を捜すうちに衝撃的な真実が明らかになっていく。

ギリシャ悲劇の代表的な傑作で、紀元前以来2500年にわたって上演され続けている。とはいうものの、宝塚的というものとは対極にあるような作品で、芝居としては面白いが、決して明るく楽しいものではない。ミュージカルにもなりにくい作品である。小柳氏は、チェーホフの「かもめ」の宝塚版のとき同様、音楽劇という手法を取り入れ、台詞を歌にしたうえで原作に忠実に宝塚化している。そしてそれが、女性だけが演じる宝塚というフィルターを通して、宝塚ならではの不思議な空間を作り出すことに成功、もとよりかなり特殊な話を女性だけの宝塚という劇団が表現することによって、フィクションがフィクションを生む、これまで見たことのない新たなギリシャ悲劇の世界が生まれた。有名なお話なので、ネタバレにはならないと思うが、轟扮するオイディプスの母親が凪七瑠海という配役は、普通なら考えられないが、それが衝撃と共に力で納得させてしまうところが何とも不思議。
轟のオイディプスは、その貫録、その存在感はもとより、しなやかな立ち居振る舞いに加えてギリシャ悲劇らしい大時代的な台詞回しもよくこなれて、どの場面も、一幅の動く絵画をみているよう。ギリシャ悲劇ならぬ宝塚歌舞伎をみているようだった。「第二章」や「The Lost Glory」の現代ものも素敵だが、こういうコスチュームプレーの圧倒的な存在感は見事だ。これをみていて先日、安蘭けいが演じた「サンセット大通り」の大スター、ノーマ役を轟で見たいとふと思った。実現は難しいだろうが、さぞ圧巻だろう。

轟を中心に専科、月組そして宙組の研1生という混合キャストだが、轟以外で役的に一番大きな役は華形ひかるが扮したクレヨン。轟を相手に堂々としたセリフ回しと存在感で、舞台に厚みをだした。とにかく芝居巧者ばかりがそろっていて、それぞれがワンポイントずつある見せ場、きかせどころに登場、ここぞとばかりに持ち味を披露してくれるのが見ていて、なんとも楽しい。

コロスの長の夏美よう、盲目の預言者ティレシアスの飛鳥裕、コリントスの使者の悠真倫、鍵を握る羊飼いの沙央くらまといったそうそうたるベテラン勢の好演にまじって報せの者に扮した光月るうが、口跡のいいセリフでラストを鮮やかに締めたのも感服した。

そして、月組の人気男役スター、凪七がオイディプスの妻でありながら、実は母親であったことがわかる衝撃の役、イオカステを、凛とした美しさと演技、芯のある高音の台詞で見事に演じ切った。男役が女役を演じることのできる宝塚の強みが、最大限に発揮できた役だったと思う。凪七は「エリザベート」のエリザベート、「ミー&マイガール」のジャッキーと女役を演じる機会が多い男役スターだが、このイオカステはそんな凪七の女役が一番映えた役といってもいいかもしれない。腕の細さにびっくりで、普段よくこれで娘役をリフトできるなあと妙なところでも感心させられた。

休憩なしの1時間半、宝塚を見たというよりも、本格的な芝居を見たという感覚。ギリシャ悲劇を見るならわざわざ宝塚で見なくともいいようなものだが、出演者がすべて女性で全体のトーンが柔らかく、ラストの目をつぶしたオイディプスの血まみれのメイクがまるで歌舞伎の隈取りのように美しく、ああ、これが宝塚のギリシャ悲劇なんだと妙に納得させられた。好き嫌いはあろうが、何にでも挑戦できるのが宝塚の面白いところ。宝塚にまた新たな可能性を開いた作品といっていいと思う。

©宝塚歌劇支局プラス8月16日記 薮下哲司


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