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Channel: 薮下哲司の宝塚歌劇支局プラス
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紅×七海×小柳 絶好調のミュージカルコメディ「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」

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紅ゆずる×七海ひろき×小柳奈穂子 絶好調のミュージカルコメディ

好評裏に東京公演を終えた紅ゆずる主演の星組公演、ミュージカル「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」(小柳奈穂子脚本、演出)大阪公演がシアター・ドラマシティで始まった。今回はこの模様を報告しよう。

「キャッチ-」は、1960年代のアメリカに登場した若き天才詐欺師、フランク・アバネイル(紅)の奇想天外な生き様を、彼を追い続けるFBI捜査官カール・ハンラティ(七海ひろき)との駆け引きを中心に、当時のポップミュージック風に仕立てた音楽をちりばめ、洒落た歌とダンスシーンでつづったミュージカルコメディ。アバネイル自身の自伝をもとにしたレオナルド・ディカプリオ主演の同名映画(2002年)を舞台化したブロードウェーミュージカルの翻訳公演だ。実はこの作品、松岡充、今井清隆の主演、荻田浩一の演出で2014年に日本でも上演されているが、今回の星組公演は、紅はじめ出演者の好演もあって日本初演バージョンをはるかに上回る出来の良さ。「ルパン三世」で好調の波に乗る小柳氏がまたまた新たなヒットを飛ばしたといえそうだ。

マイアミ空港のロビー、ベンチに座り新聞で顔を隠していた青年が新聞から顔を出すとそれがフランクこと紅。拍手が起こると同時に、七海扮するFBI捜査官のカールが客席から登場、銃をつきつけていきなり逮捕劇が始まる。と思ったら、紅が客席に向かって「なぜ僕が逮捕されるのか、みなさん知りたいでしょう」と歌いだし、テレビのバラエティショー仕立てでフランクの回想が展開していく。なんとも洒落た出だしで、見るものを一気に舞台に引き込んでいく。

紅はここから約25分間、歌いっぱなししゃべりっぱなし。父親の仕事の関係でニューロシェルの高校に転校したフランクは、前に通っていた高校の制服を着ていたことから生徒たちにフランス語の代用教師と間違えられ、教師の振りをするのだが、それが詐欺師としての第一歩となる。両親が離婚、どちらかを選択できなかったフランクは家出。人は身なりで相手が信じ込むことを知ったフランクはパイロットの制服を注文、IDカードを偽造、偽パイロットとして世界中を駆け回り、偽造小切手を乱発して世界各国で換金、一気に億万長者に。FBIのカールは必死にフランクを追いかけ、やっと追い詰めたロサンゼルスでまんまと逃げられてしまう。クリスマスの夜、フランクは公衆電話からカールに電話をかけ謝罪するが、カールはそんなフランクに少年の純粋な心を見て、徐々に親近感を覚えていく。

60年代だから出来た詐欺ではあるが、人間の盲点を突いた鮮やかな手口は、開いた口がふさがらない。その鮮やかさに笑っているうちに、破天荒な明るさの裏にひそむフランクの孤独感が浮き上がり、フランクと父親フランク・シニア(夏美よう)の親子の情愛、フランクとカールの人間としての温かいつながり、そしてフランクとブレンダ(綺咲愛里)の純愛と、随所にちりばめられた情感こもるエピソードに思わずほろりとさせられる。まさに小柳マジックの真髄だ。フランク、カール、フランク・シニア、ブレンダそれぞれのソロの歌詞がストーリーとうまくマッチして感動を盛り上げる。その手際はフランクの詐欺以上の鮮やかさだ。シニアがジュニアに話して聞かせる「ねずみとチーズ」のエピソードの伏線も効いている。

紅はパイロット、ドクターとさまざまに変身、最大限にかっこよさを披露しながら、少年の純粋な心根もたくみに表現して好演。歌唱にも豊かな表現力がつき男役としての魅力も増した、宝塚での代表作の一つになるだろう。

七海は、宙組から星組に組替えして一作目だが、真面目で人情味あふれる捜査官カール役を、絶妙の間合いでユーモアをたたえて演じ、宙組の最後だった「TOPHAT」のプロデューサー、ホレス役に続いていい仕事をした。星組での今後の活躍に期待したい。

ヒロイン役の綺咲は、プロローグでちらりと顔を出すが、本格的には2幕からの登場で、出番が少ないのが難だが、フランクが詐欺師だとわかってからも愛を貫き「本当のあなたが好き」と切々と歌うソロに説得力があった。

父親役の夏美、ブレンダの父親役の悠真倫と専科勢はさすがの達者さで脇をしめた。なかでも夏美はストーリー上からも重要な役どころを好演した。

若手では七海の部下の3人、如月蓮、瀬稀ゆりと、瀬央ゆりあのコンビネーションが絶妙。星組男役陣の呼吸の良さをうかがわせた。芝居もそうだがダンスも「ドント・ブレイク・ザ・ルール」のラストで一直線にピタッと決まるところはまさに男役芸の極地だ。ほかにも医者役などアンサンブルで活躍した拓斗れいのすっきりした男役ぶりが印象的だった。公演は7月6日まで梅田芸術劇場シアタードラマシティで。

©宝塚歌劇支局プラス6月30日  薮下哲司 記



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