北翔海莉×妃海風 新生星組プレお披露目公演「大海賊」熱狂の千秋楽
ついこの間、柚希礼音×夢咲ねねが退団したばかりの星組で、一か月後の6月12日には新トップコンビ、北翔海莉×妃海風が誕生、プレお披露目公演、ミュージカル・ロマン「大海賊」―復讐のカリブ海―(中村暁作、演出)とロマンチック・レビュー「Amourそれは…」(岡田敬二作、演出)の全国ツアーがスタート。その公演が5日、大阪・梅田芸術劇場メインホールで千秋楽を迎えた。今回はこの模様を報告しよう。
横浜から始まったこの全国ツアー公演。初日の神奈川県民ホールは、北翔の開演アナウンスから歓声と拍手に包まれ、北翔のトップを待ち望んだファンの思いがひとつになった感動の公演になった。終着地となった大阪公演も4、5日の2日4回公演のチケットは発売と同時に完売、新コンビに対する期待の大きさがうかがえる熱い公演となった。この日の12時公演は、元花組トップの蘭寿とむを始め、鈴奈沙也、蓮水ゆうやら北翔が宙組時代に一緒に舞台に立ったメンバーが大挙応援にかけつけ、応援する彼女らに客席からは拍手が巻き起こるなど、新トップ誕生にふさわしいおめでたムードが充満した。
そんな中、始まった「大海賊」は、17世紀のカリブ海を舞台に、イギリスの手先となった海賊エドガー(十輝いりす)に襲撃され、両親を殺害されたサンタ・カタリーナ島のスペイン総督の息子エミリオ(北翔)が、エドガーに敵意を持つ海賊に助けられ、海賊となってエドガーに復讐するというお話。2001年、月組の紫吹淳のトップ披露公演として東京宝塚劇場と全国ツアーで上演された作品。当時月組だった、北翔は本公演でエドガーの手下デイヴィッド、新人公演でエドガー、全国ツアーでは「聞き耳」の3役を演じており、北翔本人の思い入れもひとしおで、今回のプレお披露目公演に選ばれた。
初演は見ているが、ほとんど記憶になく忘れていた作品だったが、実力派の北翔と妃海の好演で、今回初めて見るような錯覚をもつほど新鮮な舞台だった。プロローグで北翔が圧倒的な歌唱力で主題歌を披露、あっという間に舞台に引き込まれていった。金髪のロングヘアが華やかで、ひとまわり大きく見え、これまでの地味なイメージはどこへやら。まばゆいばかりのセンターオーラと存在感で、終始舞台をリード。復讐に燃えるエミリオの揺れる気持ちが痛いように伝わり、作品自体が生き返ったような気がした。
なかでも北翔扮するエミリオと妃海扮するエレーヌが初めて出会い、一目で恋に落ちるシーンの説得力はこの二人だからこそ。舌を巻く巧さとはまさにこのことだろう。結構、つじつまのあわないところもある大ざっぱなストーリーだが、この二人のこの場面があることで全体が引き締まった。この二人が「大海賊」自体を底上げしたといっても過言ではないだろう。
北翔は冒頭の初々しい少年時代(意外と似合った)から、若くして海賊のリーダーになる後半と、側転を交えた激しい殺陣など大車輪の活躍ぶり。クリアな台詞と充実した歌唱で申し分のない出来栄えだった。
相手役の妃海も出番はそう多くないが、歌える強みを最大限に発揮、貴族のプリンセスらしい品格も的確に表現して、実力を発揮した。このコンビ、歌にダンスに芝居にと三拍子そろったまさに本来の意味での黄金コンビ。これなら何が来ても安心して見ていられそうだ。
初演で湖月わたるが演じたエドガーに扮した十輝は、救いようのない残虐非道な悪党で、楽しんで演じているが、人柄かそれほど悪い人間に見えないのがおかしい。それでも、宙組時代の彼女を思うと、ずいぶん成長したなあと感慨深いものがあった。
エミリオの海賊仲間では礼真琴扮するキッドが一番のウェートを占めており、礼の弾んだ演技と歌のうまさでひときわ印象的。男役としての粗削りな雰囲気もでてきて、上り調子の勢いが感じられた。「拝み屋」の夏樹れいの歌と芝居にも注目
あとエドガーの部下フレデリックの十碧れいやが、珍しく憎々しい悪役を好演。ロックウェルの麻央侑希も柄でみせた。ただ、このところ同じような役ばかりが続いており、次なるジャンプに期待したい。娘役ではアン役の音波みのりの清楚な表情とはうらはらな男前な演技がかっこよかった。
「Amour」は、2009年の宙組公演の再演。大和悠河のサヨナラ公演であり、今回からトップ娘役になった妃海の初舞台公演でもある。そしてもちろん北翔も出演していた。そんなゆかりの公演だが、北翔のトップ披露ということで、中盤に彼女のための英語による懐メロメドレーが新たに加えられた。「ルート66」や「Mrロンリー」を客席おりして会場を後方までくまなく回り、握手のサービスをしながらきっちり歌いあげ、エンターテナーぶりを発揮。ここで客席の蘭寿を紹介。会場は大いに沸いた。これは昨年のディナーショーの一場面の再現。このように大劇場のソロで長時間持たせることができるスターの登場はショー作家にとっては百万の味方になるだろう。
「ル・ポワゾン」「シトラスの風」に続いての岡田氏のロマンチック・レビュー再演となるが、白井レビューの伝統を今に受け継ぐゴージャス&ソフトタッチが見る者の心をいやす。まだまだ現役で頑張ってほしい。
フィナーレは北翔、妃海のトップコンビをはさんで十輝と礼が二番手格で小さめの羽を背負ってパレード。新生星組を強烈に印象付けた。「キャッチ」組と合流しての次回の大劇場公演「ガイズ&ドールズ」がますます楽しみになってきた。
©宝塚歌劇支局プラス7月5日 薮下哲司 記
↧
北翔海莉×妃海風 新生星組プレお披露目公演「大海賊」熱狂の千秋楽
↧