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蘭乃はな熱演、東宝版「エリザベート」と劇団四季のディズニーミュージカル新作「アラジン」

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蘭乃はな熱演、東宝版「エリザベート」と劇団四季のディズニーミュージカル新作「アラジン」

ミュージカル「エリザベート」(小池修一郎潤色、演出)の新演出による東宝版が東京・帝国劇場で上演中。エリザベートは花總まりと蘭乃はなのダブルキャストで、全期間完売の人気公演だが、まず蘭乃バージョンから報告しよう。また劇団四季の新作ミュージカル「アラジン」そして来日ミュージカル「ジャージーボーイズ」と今話題のミュージカルもあわせて報告しよう。

「エリザベート」東宝版は、ウィーンオリジナルを潤色した小池修一郎演出の宝塚バージョンの男女版。ただ東宝版は宝塚版とは微妙に違っていて、歌詞は同じなのに演出が違ったり、ある場面とない場面があったりするので、東宝版がウィーンオリジナルの翻訳公演だと思われがちだ。しかし、宝塚版よりはオリジナルに近いものの東宝版もオリジナルのテイストとは全く異なったいわば小池版。オリジナルはエリザベートの半生にハプスブルク家の崩壊と旧体制から新体制に変わりつつある時代の胎動を重ね合わせた硬派のミュージカルで、ラブロマンスの甘さは全くない。しかもオリジナルのトートはエリザベートのエロスの象徴として登場する。宝塚版のピュアラブの対象とはえらい違いだ。東宝版のトートはとりあえずエリザベートのエロスの象徴で、トートダンサー(宝塚版では黒天使)を裸にしてそのあたりを強調してはいるが、トート自体はヘアスタイルや衣装が中性的で演じ手が男役から男優に変わっただけでずいぶんあいまいな印象。今回は新演出ということでそのあたりの大幅な改変を期待したのだが、巨大な棺の前ですべてが展開、装置が新しくなっただけだった。

例にもれずこの公演もダブルキャストシフトでエリザベートの花總、蘭乃以外に、主なところでトートが井上芳雄と城田優、フランツ・ヨーゼフが田代万里生と佐藤隆紀、ルキーニが山崎育三郎と尾上松也、ゾフィーが剣幸と香寿たつきが交互に出演する。

私が見た日は、エリザベートは蘭乃。蘭乃は、昨年、宝塚版でエリザベートを演じたばかり。退団後初仕事に東宝版エリザベートのタイトルロールに抜擢という、破格の再出発となった。もともと歌唱力には不安があったが、退団時には克服して、見事なエリザベートを演じ切って有終の美をかざった。今回も少女時代から老境までを凛とした演技と気品あるたたずまいで演じ切り、予想をはるかに上回る好演。宝塚版より歌のキーが低く、地声から裏声の高音に移るところがやや不安定で聴いていてハラハラさせた。ところどころ花總にそっくりなところもあって、大先輩の影響もみてとれた。それにしてもこの舞台度胸のよさはどうだ。今後の活躍が大いに期待できそうだ。

トートは井上芳雄。トートというにはちょっと弱々しいイメージがあったのだが、メークを研究、特に目つきがこれまでの井上とは別人のよう。歌もパワフルでひ弱な感じは全く感じられなかった。あふれるような男性的魅力という点には欠けるかもしれないが、井上的には新境地開拓といったところか。「最後のダンス」や「闇は広がる」は聴かせた。

ルキーニは山崎育三郎。これまで東宝版はずっと高嶋政宏が当たり役にしてきたが、今回から降板。新キャストになった。「レディべス」や「ロミオとジュリエット」など端正な若者役が似合う山崎だが、ひげを蓄えたルキーニの扮装が思いのほかよく似合い、黒っぽい男くささもあって、なかなかの好演だった。物語の進行役もかねる陰の主役でもあるので、歌詞が流れないように気を付けてほしい。

フランツ・ヨーゼフは田代万里生。ついこの間までルドルフだったのにと思うとなんだか感慨深い。歌唱力は問題がなく、台詞もいいが、ひげを蓄えてもなにをしてもまだルドルフが抜けきらず、少年のように見えてしまう。特に後半、田代なりによくやっているのだが、皇帝であり父親であるというにはちょっと無理があった。この配役はやや挑戦ではあったと思う。

ゾフィーは剣幸。「ハロー・ドーリー!」や「ショーボート」とこのところミュージカル女優として絶好調。「エリザベート」には縁がなく、小池作品へは彼の大劇場デビュー作「天使の微笑、悪魔の涙」以来26年ぶりの出演。しかし剣のゾフィーはさすがだった。声の出し方のバランスがうまく、低音から高音まで音域が広い歌も見事にパワフルに歌い切った。皇太后としての品と貫録も見応え十分だった。

ルドルフは古川雄大。前回からの続投だが、はかなげな美少年ぶりは今回もぴったりだった。井上との「闇は広がる」はぞくぞくする色気があった。

あと宝塚の「エリザベート」初演に出演していた未来優希が、エリザベートの母親ルドヴィカと娼館の女主人マダム・ヴォルフの一人2役で出演。いずれも彼女特有のクリアでパワフルな歌声が際だち、舞台全体を締める見事な出来栄えだった。

宝塚版との大きな違いの一つにトートの台詞の「死は逃げ場ではない」が東宝版にはないこと。宝塚版での決めぜりふだけになんだか肩すかしのような気もするのだった。花總版はまた改めて報告することにしよう。公演は8月26日まで。

一方、クリント・イーストウッドが監督した映画版が昨年公開され、昨年度の洋画ベストワンなどの栄誉を勝ち取った「ジャージーボーイズ」のワールドツアー公演が、東急シアターオーブで開幕した。

「シェリー」や「君の瞳に恋してる」で60~70年代に活躍したアメリカのポップグループ、フォーシーズンズの結成から解散、さらに再結成コンサートまでの紆余曲折の約30年を4人のメンバーがそれぞれの立場から回想、春夏秋冬の4章にわけてつづっていく。トニー賞で作品賞ほか4部門を受賞した話題作の日本初演だ。

シンプルなセットだが、照明や転換が洒落ていてプロの仕事。この辺がやはり本物、一味違う。そして、舞台を見ると映画が舞台を忠実に映画化していたこともよくわかる。グループとして成功するまでの前半は映画を見ていた方が理解しやすいかも。成功したグループにありがちなさまざまな葛藤をフランキー・ヴァリ役にふんしたヘイデン・ミラネーズが出ずっぱりの歌いまくりで魅せる。出演者の圧倒的な歌唱力と存在感にブロードウェーの底力を感じさせた。公演は7月5日まで。

また、劇団四季の新作ミュージカル「アラジン」のロングランが、5月24日から東京、四季劇場「海」でスタートした。すでに来年6月までチケットが完売という超人気公演だ。「美女と野獣」「ライオンキング」「アイーダ」「リトルマーメイド」に続く四季とディズニーのコラボ第5作目。昨年ブロードウェーで開幕したばかりの新作の最速日本公演でもある。

92年製作の同名ヒットアニメの舞台版で、魔法のランプから登場するランプの精ジーニーの活躍、主人公のアラジンとプリンセスジャスミンが乗る魔法のじゅうたんのスペクタクルなど楽しい見せ場がいっぱい。まさにディズニーマジックが堪能できるミュージカルだ。

アラジン役の島村幸大、ジャスミン役の岡本瑞恵、ジーニー役の瀧山久志といずれもオーディションだそうだが、それぞれ歌にダンスに実力は第一人者。とりわけ瀧山の自由奔放な硬軟自在な演技が素晴らしく、新たなミュージカルスターの誕生といっても大げさではないだろう。一幕後半のジーニー登場のナンバーは「美女と野獣」の「ビーアワーゲスト」以上のビッグナンバーで目も覚める楽しさだった。

「ホールニューワールド」の肝を「自由」と訳した高橋知伽江の訳詩もさえていて、ラストが分かってはいても心地よく盛り上がるのがいかにもディズニーミュージカル。四季は「ライオンキング」に続く新たな鉱脈をまた見つけたようだ。

©宝塚歌劇支局プラス6月27日記 薮下哲司



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