新人公演プログラム より
綺城ひか理、さわやか単独初主演、花組「金色の砂漠」新人公演
綺城ひか理(研6)の単独初主演となった花組公演、トラジェディ・アラベスク「金色の砂漠」(上田久美子作、演出)新人公演(町田菜花担当)が、29日、宝塚大劇場で行われた。今回はこの模様をお伝えしよう。
「金色―」は、砂漠の古代王国イスファンを舞台に、王女付きの奴隷ギイ(本役・明日海りお)と王女タルハーミネ(花乃まりあ)のドラマチックな悲恋物語。幼い頃からタルハーミネの奴隷として育ったギイは、タルハーミネがガリア国の王子テオドロス(柚香光)と結婚することになったことから、タルハーミネに積年の思いを告白する。奴隷としか思っていなかったギイからの告白にタルハーミネの心は揺れ、永遠の愛を誓う。二人は駆け落ちしようとするが失敗、王女はギイに力づくで犯されたと嘘の証言をして、テオドロスと結婚、ギイは牢に繋がれる。そこへ王妃アムダリヤ(仙名彩世)が現れ、ギイが自分と前王の子であることを打ち明け、牢から逃がす。現王ジャハンギール(鳳月杏)への復讐を誓ったギイは砂漠の盗賊に仲間入りして機会を狙う。やがて盗賊仲間とともに王宮に侵入したギイはジャハンギールと対決して復讐を果たす。テオドロスは混乱に乗じて帰国したため、ギイはタルハーミネを王妃にすると宣言するが、結婚前夜に砂漠へ逃亡、それを追ったギイとともに「金色の砂漠」で命果てる。因果応報、愛と憎しみの物語。
新人公演は、本公演そのままに進行、フィナーレのショーだけがカットされた。明日海が
扮したギイを演じたのは、「ME AND MY GIRL」新人公演で、優波慧と主演を分け合った綺城ひか理。王女タルハーミネには何度か新人公演のヒロインの経験があり、本公演も大きな役が続いている城妃美伶。この同期コンビの組み合わせが作品にぴったりはまったのと、主要なキャストが全員好演したことで、新人公演とは思えない破たんのないまとまりを見せた。
ギイに扮した綺城は、見た目がすっきりとしていて、いかにもさわやかな印象。役に対しても誠実に取り組んでいる様子が、居住まいと演技からもうかがえた。素直なアプローチが、ギイという青年の純粋な心を浮かび上がらせて、前半は奴隷ながら王女に恋してしまった切なさ、後半は自らの出自を知って復讐に転じる激しい心情、この二つの相反する性格を巧まずして表現できたのは立派だった。歌は、最初の銀橋のソロがやや不安定でハラハラさせたが、後半は落ち着いて高音もよく伸び、心地よかった。
王女タルハーミネの城妃は、星組時代「ロミオとジュリエット」花組移籍後も「カリスタの海に抱かれて」「ME AND MY GIRL」とすでに3回の新人公演でヒロインを演じており、同期ながら綺城に比べてずいぶん舞台経験も豊富なことと、元来が勝ち気なイメージがあり、王女と奴隷という役柄にもうまくあって、絶妙のコンビだった。城妃のキャリアの中でも「アーネスト・イン・ラブ」のセシリィ役と共にベストになったのではないかと思う。
ギイの弟で奴隷のジャー(本役・芹香斗亜)に扮したのは亜蓮冬馬。このところめきめきと役付きもよくなってきた期待の男役だが、期待に十分応えた好演。心根の優しいジャーを繊細に体現、終始ぶれないその姿勢が、ギイと好対照で、語り手としての務めも立派に果たした。
タルハーミネの求婚者、ガリアの王子テオドロス(柚香)は帆純まひろ。すっきりした立ち姿が本役の柚香と相通じるところもあり、見映えのする王子だった。台詞回しとかやや弱い部分もあるが、二枚目男役としてこれからが大いに楽しみな存在だ。
同じ奴隷のプリー(瀬戸かずや)は聖乃あすか。この人も美形男役で花組の期待の星のひとりだが、外見に似合わずひょうきんな演技もしっかりとしていて、本来の実力を発揮した。
要注目の存在だ。
イスファン国の王ジャハンギール(鳳月杏)は、飛龍つかさ。王妃アムダリア(仙名彩世)は春妃うらら。この二人も本役にひけをとらない地に足の着いた演技を見せ、この役が作品に大きなカギを握るだけに、作品の要としての重責をまっとうしたといっていいだろう。
あと娘役は盗賊ラクメ(花野じゅりあ)に扮した.乙羽映見の一段とあか抜けた美貌と気風のいいセリフ、第二王女ビルマーヤ(桜咲彩花)の朝月希和の華やかな存在感が印象的だった。
脇を締めるピピ(英真なおき)の優波、ナルギス(高翔みず希)の矢吹世奈は、優波が前回の「ME AND MY GIRL」のビルの時とは打って変わって活き活きとしていたのに対し、矢吹は逆に芝居に迷いが出たように見えた。
あと特筆しておきたかったのがカゲソロ。オープニングとラストで主題歌のカゲソロを歌った咲乃深音、後半のラブシーンでの若草萌香。どちらも場面を大いに盛り上げたが特に咲乃のなめらかな歌声が、本役の音くり寿にも匹敵するすばらしさだった。
©宝塚歌劇支局プラス11月30日記 薮下哲司
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