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井上芳雄主演「ナイスガイinニューヨーク」開幕!真琴つばさ、カバーアルバム発売、京都顔見世開幕

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井上芳雄主演「ナイスガイinニューヨーク」大阪から開幕!真琴つばさ、カバーアルバム発売、京都顔見世開幕

 

 ミュージカル界のプリンス、井上芳雄が、ニール・サイモンのコメディーに挑戦した「ナイスガイinニューヨーク」(福田雄一上演台本、演出)が2日、大阪・サンケイホールブリーゼから開幕した。元雪組娘役トップの愛原実花がフラッパーな役で共演するこの新作舞台の模様と、元月組のトップスター、真琴つばさの6年ぶりCDリリースの話題、加えて耐震工事で休館中の南座に代わって先斗町歌舞練場で始まった京都の師走恒例「吉例顔見世興行~東西合同大歌舞伎~」の模様をお伝えしよう。

 

 「ナイスガイ―」は、「おかしな二人」などで有名なコメディーの天才ニール・サイモンのデビュー作「カム・ブロウ・ユア・ホーン」を福井雄一が新たに日本版の上演台本を書いたリニューアル版。フランク・シナトラ主演で映画化されていて、そのタイトルが「ナイスガイ・ニューヨーク」だったことから今回もその伝で、井上がシナトラの持ち歌4曲を歌い、さしずめミュージカル・コメディーといった趣。冒頭から井上と愛原のテンションの高い笑いのやりとりが連続、客席はいきなり爆笑に次ぐ爆笑。全編この調子で、台本なのかアドリブなのか判然としない登場人物のチグハグな台詞の応酬がとにかくおかしい。

 

 1960年代のニューヨーク。自由気ままな独身生活を送っていたアラン(井上)のアパートに12歳年下の真面目な弟バディ(間宮翔太朗)が転がり込んでくる。厳格な父親(高橋克実)から逃げてきたのだが、アパートには、アランの恋人で売れない歌手のコニー(吉岡里帆)や上の階に住む女優の卵ペギー(愛原)、それに父親や母親(石野真子)までが入れ代わり立ち代わり出入りしてとんでもない大騒動が展開する。

 

 デビュー作らしい勢いのある展開で、フランク・シナトラに合わせた映画版よりも、ずっと面白く、井上の個性に合わせて歌をふんだんに入れ込んだ福田脚本は、現代風に弾んでいてとにかく笑わせる。父親役の高橋がトランプそっくりのヘアスタイルとネクタイで登場するあたりから笑いは最高潮に達し、出演者のテンションの高い演技に、見ている方が唖然ボー然、空いた口が塞がらないまま舞台は疾走、石野のスローなしゃべり口調で一幕はついに噴火する。最初は笑うまいと思っていたのだが最近これだけ笑った舞台はない。井上がここまで緩急自在のコメディー演技ができるようになったことに感服した。

 

 愛原は、映画ではジル・セント・ジョンが演じていたマリリン・モンローを思わせるフラッパーな女優志願の女の子の役で、超ミニのギンギラドレスでバディに迫るくだりをKY感覚で大熱演。これまでにない新境地かも。弟役の間宮も、晩生で真面目な青年が、がらりと変わってプレイボーイに変身、兄貴のお株を奪うくだりを実にさらっと見せた。あとは高橋の怪演に拍手だ。

 

 歌は「カム・ブロウ・ユア・ホーン」のほか「パル・ジョーイ」から「レディ・イズ・ア・トランプ」。映画「パパは王様」の主題歌でS・マックイーンの映画「マンハッタン物語」でも使われた「コール・ミー・イレスポンシブル」。「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」で耳馴染みの「カム・フライ・ウィズ・ミー」の4曲。いずれもシナトラが歌った名曲で、もちろん井上が美声を聴かせてくれるが、全員が歌って踊るナンバーもあり、それが実に楽しい。ミュージカルではないが、下手なミュージカルよりずっとミュージカルらしい間合いのよさとテンポ、落としどころをわきまえた洗練された感覚に乾杯。東京公演は7日からシアタークリエで。

 

 一方、元月組トップでタレントとしても大活躍の真琴つばさが6年ぶりにビクターからCDをリリース、精力的にキャンペーンで飛び回っている。アルバムタイトルは「眠れない夜にあなたのそばにいたい」。なんだか意味深だが、新曲のタイトルが「眠れない夜に」(高橋まさひと作詞、三枝伸太郎作曲)でそれにちなんだもの。カバー曲が中心で故河島英五さんの「酒と泪と男と女」や井上陽水の「いっそセレナーデ」さだまさしの「案山子」など真琴の声質にあった大人な感覚の歌が絶妙に選曲されている。新納慎也作詞、作曲の新曲「Desert Rose」も含め「自分の声質にあった歌をようやく見つけられるようになった」と真琴。独特のビロードのようなベルベットボイスの魅力を十分に発揮したアルバムとなっている。来年2月13日には東京・銀座ヤマハホールで記念コンサートを開くが、この12月10日には大阪北区茶屋町のヌー茶屋町のタワーレコードで初のサイン会(午後5時予定)も開催する。「ぜひ会いに来てください」とファンに呼び掛けている。

 

 「吉例顔見世興行」は、5代目中村雀右衛門襲名披露の最後を飾る大歌舞伎で、客席数が南座の半分の530席というコンパクトな会場であることから顔見世史上初の3部制。一部が片岡愛之助初役による「実盛物語」と坂田藤十郎、新雀右衛門による「仮名手本忠臣蔵」から「道行旅路の嫁入」。「実盛―」は、愛之助が子役時代に初舞台を踏んだ演目。「まさか主役を演じられるようになるとは」と感無量の初役。平家に仕えながらも旧恩を忘れず源氏に肩入れする実盛をすがすがしく演じている。最後に登場する馬は、宝塚雪組公演「前田慶次」で登場した「松風」と同じ馬。久々の再会だった。玄関ロビーには大勢の舞妓さんが休憩していたり、愛之助夫人の女優、藤原紀香が和服姿でひいき筋に挨拶する姿もみられ、顔見世ならではの華やかな雰囲気。

 

 二部は愛之助(松王丸)鴈治郎(梅王丸)孝太郎(桜丸)による「車引」から始まって片岡仁左衛門(伊左衛門)、新雀右衛門(夕霧)による「廓文章~吉田屋~」。遊郭に通い詰めた挙句、感動された伊左衛門がみすぼらしい紙子姿で吉田屋に現れ、夕霧に会わせてほしいと懇願するのだが…。上方和事のエッセンスが詰まった名舞台。仁左衛門が当たり役を手練れの演技で見せる。まさに名人芸である。夕霧の雀右衛門はちょっとした仕草に女性としてのかわいらしさがのぞく。後半で2人と太鼓持ち(廣太郎)とのからみがあるのは「松嶋屋」独特の型。廣太郎がいい味を出した。大詰めで出演者全員が勢ぞろい、襲名口上があるのも華やかだった。二部のトリは海老蔵による「三升曲輪傘売(みますくるわのかさうり)」。石川五右衛門が傘売りに変装しているという体の、手品師まがいの楽しい舞で、粋な色男風の傘売りが、着物の袖から次々にいろんな傘をだして怪しむ男どもをけむに巻くという寸法。海老蔵の鮮やかな手さばきに会場はやんやの喝采だった。

 

 3部は、仁左衛門、孝太郎、彌十郎、吉弥らによる「引窓」。「双蝶々曲輪日記」の八段目で、男山八幡宮に近い八幡の里の田舎家を舞台に、実と義理の親子が繰り広げる人情劇。仁左衛門ふんする与兵衛の情の深さに感動する一幕。そして新雀右衛門が日舞の大曲「京鹿子娘道成寺」を踊り、押し戻しでは海老蔵が佐馬五郎で登場、圧倒的な迫力で幕となる。

 

役者がそろい演目も派手な二部にお得感があるが、一部の「実盛―」三部の「―娘道成寺」も見ごたえは十分。なにより会場がコンパクトで舞台が近く、演者と客席の一体感がこれまでになく厚く、鳴り物や清元も迫力満点、歌舞伎の世界に没入できるのが一番だ。

公演は25日まで。

 

©宝塚歌劇支局プラス12月3日記 薮下哲司

 

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