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星条海斗、満を持してバウ初主演!「フォルスタッフ」開幕
専科の星条海斗が初主演した月組公演、バウ・ミュージカル「FALSTAFF~ロミオとジュリエットの物語に飛び込んだフォルスタッフ~」(谷正純作、演出)が10日、宝塚バウホールで開幕した。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。
今回、バウ初主演となった星条は2000年初舞台。真琴つばさ時代の月組に配属され、173センチの長身とエキゾチックな風貌、ダイナミックな演技で注目され、2006年「暁のローマ」新人公演で初主演した。以来10年ぶりのセンターだ。
「FAL―」は、シェイクスピアが生み出した架空の騎士フォルスタッフを主人公にしたミュージカルコメディ。大酒飲みで、好色、盗人、卑怯者といいところはまるでないのだがどこか憎めない性格で、シェイクスピア作品の登場人物のなかでも人間味豊かで人気があり、ベルディがオペラで取り上げ、怪優オーソン・ウェルズも自ら主演、映画化している。そのフォルスタッフに星条が挑戦した話題作だ。
15世紀初頭のロンドン。放蕩三昧の毎日を送っていたフォルスタッフ(星条)と皇太子ハリー(暁千星)だが、王子の父、ヘンリー4世が崩御したことで、王子は過去を清算。フォルスタッフに国外追放を命じる。フォルスタッフは、従妹を頼ってイタリアのベローナにやってくる。到着したその日は偶然、キャピュレット家で仮面舞踏会が開かれる日だった。フォルスタッフは一夜の晩餐にありつこうとその舞踏会に潜り込むのだが…。サブタイトルにもあるように「ロミオとジュリエット」の世界に侵入したフォルスタッフが2人のラブストーリーに飛び入りして、なんだかへんてこりんなことになる、という奇想天外なコメディーだ。
星条のフォルスタッフは、本来のイメージの太鼓腹の老人という外見ではなく、紫のカツラに華やかな白のコスチュームという宝塚らしい派手ないでたち。うぶな王子を利用して夜な夜な遊びまくっている風情は、シェイクスピアの作品に登場するフォルスタッフの若い頃を彷彿させる。そのあたりの華やかさは十分で、何かにつけて強引なところもよくでていて、王子がずるずる引っ張られていく雰囲気をよくだしていた。他人のことを考えない迷惑な上司という感じだ。
そんなフォルスタッフが追放されて行き着いた場所がベローナ。仮面舞踏会に忍び込んだフォルスタッフが、ロミオ(暁2役)同様、ジュリエット(美園さくら)に一目ぼれしてしまうという展開。バルコニーに忍び込んで、ジュリエットのロミオへの告白を自分へのものと勘違いするあたりまではなかなか面白い。ただそのあとが…。フォルスタッフがロミオとジュリエットの世界に飛び入りするという着想は抜群だったのだがなんとなくアイデア倒れの感じ。フォルスタッフが二人の恋をぶちこわすのではなく応援する側にたってしまうからだ。ここはもっとはちゃめちゃな大騒動に展開してほしかった。
とはいえ、星条は久々のセンターを思う存分楽しんでいる感じが伝わり、見る者の心も温かくしてくれる。ただ、フォルスタッフにぴったりかというとそうでもなかったのが意外だった。星条の演技の質は、やや硬質で「ベルサイユのばら」のアランのような直情的な男を演じさせると、右に出るものがいないのだが、こういう懐の深い役になるとやや単調な感じは否めない。それがベローナに行ってから、思いのほか弾まない原因なのかもしれない。宝塚だからと言って綺麗なフォルスタッフにする必要もなかったのかもしれない。これは星条が悪いのではなく演出の問題だろう。
月組期待の若手、暁はハリー皇太子とロミオの二役。少年っぽいかわいい男役のイメージ通りの役をそのまま体現、フォルスタッフに対する態度を急変させる皇太子役の方が面白かったが、どちらもぴったりはまった。ジュリエットの美園とは「1789」新人公演以来のコンビ。「ロミオとジュリエット」は、フランス版とは違って、有名なシーンはほぼ原作に忠実に登場、美園は古風でういういしい清楚な雰囲気を巧みに作り込みながらも現代的な雰囲気もかいまみせたジュリエットだった。暁とのコンビもよく似合っていた。
ほかではティボルト役の宇月颯、マキューシオ役の蓮つかさがさすがの実力を発揮した。
風間柚乃、天紫珠李、蘭世恵翔といった話題の下級生も勢ぞろいしたが、これといった目立つ役ではなかった。
一方、専科の汝鳥伶がレイトン卿、大公、ロレンス神父、薬屋と場面ごとに別の役で登場、星条を強力にサポート、4役それ自体をギャグにしているのが一番おかしかった。
©宝塚歌劇支局プラス10月13日記 薮下哲司