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瀬戸かずや、バウ初主演!花組公演「アイラブアインシュタイン」開幕
花組の人気スター、瀬戸かずや主演のサイエンス・フィクションラブ・ストーリー「アイラブアインシュタイン」(谷貴矢作、演出)が15日、宝塚バウホールで開幕した。今回はこの模様をお伝えしよう。
「-アインシュタイン」は、20世紀中盤のとあるヨーロッパの国を背景にしたSFファンタジー。60年ほど前の話だが、アンドロイド(人造人間)が開発されていて、人々の生活になくてはならない時代という設定だ。過去を舞台にしたSFとなる。メアリー・シェリー原作の「フランケンシュタイン」の世界をベースにカズオ・イシグロ原作の「わたしを離さないで」やスピルバーグ監督の映画「A・I・」などを連想させる内容。宝塚的には手塚治虫のブラックジャックとピノコの関係も思い出させる。若い作家のデビューらしい現実離れした破天荒でマンガチックな舞台だ。
アルバート教授(瀬戸)が、アンドロイドを開発して数年たち、世はアンドロイドがなくては生活が成立しなくなった時代。仕事を奪われ、アンドロイド撲滅を叫ぶ集団の勢いが増す中、すでに引退しているアルバート教授のもとに、エルザというアンドロイド(城妃美伶)が人間の感情を与えてほしいと訪ねてくる。亡き妻ミレーヴァ(桜咲彩花)の面影を見たアルバートは、仲間のトーマス(水美舞斗)とともに奮闘するのだが…。ストーリーは二転三転、一幕ラストで驚愕の事実が明かされ、二幕からはさらに過去にさかのぼってアルバートの若き日が回想形式で展開、再び元に戻る。果たしてアルバートはエルザに感情を与えることができるのか。
この手の話が好きな人にはこたえられないだろうが、あまり興味のない人にとっては苦痛だろう。かくいう私も一幕前半はどうなることかと心配したが、水美扮するトーマスがミレーヴァの弟であるとわかったあたりから物語が急展開、ほっと一息ついた。二転三転するのでストーリーを明かせないのがつらいが、ラストはきちんと宝塚ならではの愛の大団円で締めくくり、まずは合格点のデビュー作となった。
主人公のアルバートに扮した瀬戸は、「ロミオとジュリエット」や「オーシャンズ11」の涼紫央を思わせる明るい金髪で登場。あまりにそっくりなのにはびっくり。ややくぐもった独特の歌声で主題歌を歌うオープニングから、センターの存在感をきっちり示した。観客はおろかアルバート自身も知らない自分を演じる前半は、さぞ役作りが難しいだろうと同情するが、あとで思い返しても納得がいく演技で、これまで蓄えた実力をさらりと見せたあたりさすがだった。
2人のヒロイン、まずエルザの城妃は、アンドロイドなので、なんとなく「ブラックジャック」のピノコを思わせたが、徐々に感情を知っていく感じを実にうまく出していた。ミレーヴァの桜咲は、当初はアルバートの幻としての登場、二幕から本格的な出番となるが、城妃とは対照的な大人っぽい雰囲気の女性像を品よく表現、「ME AND MY GIRL」でのマリア公爵夫人の時と同様に自分の世界を作りだした。
この舞台の二番手男役はトーマス役の水美。プログラムには「アルバートの親友である科学者」としか書かれていないトーマス役だが、実はミレーヴァの弟で、それ以外にもこのドラマの根幹にかかわるキーマンなのだった。冒頭でエルザをアルバートのもとに連れてくるのもトーマスなので、何かありそうだとは思ったのだが案の定だった。水美はそんな物語の重要な鍵を握る青年を、主役の瀬戸とのバランスを崩さずに、絶妙の立ち位置で表現。二枚目ぶりもすっかり板について、どことなく陰のある雰囲気がたまらない。ますます目が離せなくなった。
ほかに印象的だったのは、反アンドロイド政党の若き党首ヴォルフに扮した亜蓮冬馬。この役も実はどんでん返しがあり、ここまでくればもう何でもありではあるのだが、期待の若手にふさわしい面白い役に仕立ててあった。亜蓮もそれにこたえて精いっぱいの好演。党の幹部ヘルマンに和海しょう、ルドルフに綺城ひか理が配役され、それぞれ目立つ役どころ。こわもて風の和海に甘いマスクが映える綺城と対照的な個性だがどちらも好演。
同じ幹部で別格のヨーゼフは英真なおき。この役も実は…があって、後半にそれが明かされる。英真ならではの腹芸を楽しみたい。
アンドロイドではアルバートの執事でハンス役の天真みちるとアンネ役の梅咲衣舞がコンビで活躍。もう少し面白い役になるはずだが、演出がやや中途半端なような気がした。ほかに朝月希和が珍しく少年ヨハン役を楽しげに演じていた。
フィナーレは水美を中心に和海、綺城、亜蓮の4人の歌とダンスから始まって、燕尾服の瀬戸が登場してひとしきり踊った後、水美らも燕尾に着替えての群舞。そして、瀬戸と城妃、桜咲のトリオダンスという珍しいパターンで締めくくった。
©宝塚歌劇支局プラス9月17日記 薮下哲司