「ガラスの仮面」より
12~1月の「エリザベート」ガラコンサートに出演が決定、再び初代トートとして歌声を披露することになった元雪組トップスター、一路真輝が、大阪松竹座で開幕した「ガラスの仮面」で、伝説の大女優、月影千草役を演じ、その圧倒的な存在感で舞台を締めている、今回はこの模様を中心に最近のタカラジェンヌOGの活躍ぶりをお伝えしよう。
坂東玉三郎、蜷川幸雄ら錚々たるメンバーが舞台化してきた美内すずえ原作「ガラスの仮面」のG2演出による新バージョンが初演されたのは2年前、東京の青山劇場だった。同劇場の舞台機構をフルに使い、原作のさまざまな場面を再現して好評だったが、今回の再演は大阪が松竹座、東京が新橋演舞場ということで舞台装置を一新して回り舞台を駆使した新演出となり、脚本も大幅に書き換えての再演となった。
美内の原作は1976年から連載がスタート、少女漫画ファンに熱狂的なファンを生みながら現在も連載中という長大なもの。平凡な少女、北島マヤが、演劇の才能を見出され、ライバルの姫川亜弓と切磋琢磨しながら女優として成長していく様子を描いたいわばバックステージもの。彼女たちが演じる劇中劇が、作品の重要なファクターになっており、数多くの演目が登場する。今回の舞台ではマヤと亜弓がそれぞれのイメージとは全く逆のキャラクターの役を与えられた「ふたりの王女」の劇中劇を後半のクライマックスにドラマチックに展開する。
一幕は長大な原作を要領よくまとめたダイジェスト版。北島マヤには貫地谷しほり、姫川亜弓には先ごろ俳優、妻夫木聡と結婚したばかりのマイコ。マヤを陰ながら応援する速水には小西遼生、マヤを思う芝居仲間の桜小路には浜中文一といったキャスト。
マヤに扮した貫地谷は、初々しい雰囲気を醸しながらも芝居心のあるしっかりした演技のバランスがよく、マヤのイメージにぴったりの好演。亜弓役のマイコも華やかで存在感があり、良家の子女という雰囲気がうまくはまった。
そんななかで彼女たちがあこがれる伝説の大女優、月影役の一路は、一幕後半の見せ場で、少女時代から現在まで早変わりで見せ、圧倒的な存在感を示した。二幕では幻の舞台「紅天女」の舞を披露、クライマックスを華やかに彩った。大劇場でトップをはった経験が生き、台詞の声にも他を圧倒する張りがあり、伝説の大女優にふさわしいパワーがみなぎった。出番はそれほど多くないが、きわめて印象的で当たり役になりそうだ。
作品的には少々展開が早すぎて、原作を知るファンには細部が物足りず、芸能界のバックステージものとしてもやや甘いところがあるが、長大な原作を正味二時間強にまとめ、そつなく少女漫画エンタテイメントに仕上げている。
G2といえば霧矢大夢と真飛聖がダブルキャストでヒロインのイライザを演じたミュージカル「マイ・フェア・レディ」も演出、この夏、東西で上演された。これも再演で、ヒギンズ教授の寺脇康文、ピッカリング大佐の田山涼成、ドゥーリトルの松尾貴史、ピアス夫人の寿ひずるらが初演と同じ。ヒギンズの母の高橋恵子とフレディの水田航生が新しく加入した。舞台はほぼ前回と同じ演―出だが、寺脇と田山のかけあいがあうんの呼吸、ドゥーリトルに扮した松尾も絶好調で全体的にもコミカルなタッチが増えた印象。ただしちょっと軽すぎるような感じもなきにしもあらず。
ヒロインはスケジュールの関係で霧矢バージョンしか見られなかったが、退団直後の前回より「ラ・マンチヤの男」のアルドンサ役を経験してきたとあって女優度はさすがにあがっていた。アスコット競馬場での失態の場面のおかしさが最高で、舞踏会の場面以降、ヒギンズ邸に帰ってからが、いまいち演出が平凡で霧矢も精彩を欠いたのが残念。ミュージカル初体験という高橋は、英国貴婦人を品格十分に表現。舞台にいるだけですでに大きな存在感、いい女優になった。
一方、この夏、宝塚OG公演で外せなかったのはミュージカル「CHICAGO」。神奈川からスタート、ニューヨーク、東京を経て8月下旬に大阪公演があった。
3年前の「CHICAGO」OG公演を観劇したリンカーンセンター関係者が、宝塚本体よりこちらを選んだといういわくつきの公演で、ニューヨーク公演も好評理に終え、最後の地、大阪は凱旋公演といった形になった。とはいえ、梅田芸術劇場メインホールでの公演は、各回満席とはいかず、やや苦戦した感じ。ニューヨーク公演の模様はマスコミでも取り上げられ周知徹底していたはずなのだが、これには意外だった。前回の公演を見た観客がリピートしなかったのが原因らしい。大阪のファンはたとえ中身がよくても宝塚は華やかでないと満足できないのだ。早い話、装置の転換がなく、下着姿だけのタカラジェンヌは見たくなかったのだろうか。実はそれがたまらない魅力なのだが。凱旋公演もニューヨーク公演同様、全出演者が勢ぞろいしての約20分の「宝塚アンコール」(三木章雄構成、演出)をつければ満員御礼になったと思うのだが、さまざまな理由でつけられなかったのが残念だった。
私が見たのはビリーが姿月あさと、ロキシーが朝海ひかる、ヴェルマが水夏希、ママモートンが初風諄というキャストと、それぞれが峰さを理、大和悠河、湖月わたる、杜けあきの2パターン。いずれも甲乙つけがたい出来栄えだったが、歌、ダンスとバランスがよかったのが前者、役柄の個性が際だったのが後者という印象。
退団して何年もたっているのに峰、姿月の男役演技は、現役時代と変わらないばかりかいまだからこその円熟味が増して見事。朝海、水のコンビはつき雪組のトップ、二番手であり自ずと生まれる呼吸のよさが見ていて気持ちよかった。あと初風のママモートンがさすがの貫録で舞台を締めたが今回初出演となった杜ものびやかな歌声が絶好調、台詞の切れも良くて小気味がよかった。ニューヨークでは、殺しや賄賂など何でもありの内容ながら実はアメリカ讃歌のミュージカルを日本人が女性だけで真摯に演じていることが好感を持って迎えられたそうで、芝居そのものよりもカーテンコールの燕尾服のダンスが好評だったという。
あと元花組の愛華みれが井上ひさし原作の傑作戯曲「頭痛肩こり樋口一葉」の稲葉鑛役で出演、8月の東京公演を終わって9月下旬まで全国公演中だが、永作博美、三田和代、熊谷真美、深谷美歩といった錚々たる女優にまじって堂々と好演していることも特筆したい。
©宝塚歌劇支局プラス9月7日記 薮下哲司
12~1月の「エリザベート」ガラコンサートに出演が決定、再び初代トートとして歌声を披露することになった元雪組トップスター、一路真輝が、大阪松竹座で開幕した「ガラスの仮面」で、伝説の大女優、月影千草役を演じ、その圧倒的な存在感で舞台を締めている、今回はこの模様を中心に最近のタカラジェンヌOGの活躍ぶりをお伝えしよう。
坂東玉三郎、蜷川幸雄ら錚々たるメンバーが舞台化してきた美内すずえ原作「ガラスの仮面」のG2演出による新バージョンが初演されたのは2年前、東京の青山劇場だった。同劇場の舞台機構をフルに使い、原作のさまざまな場面を再現して好評だったが、今回の再演は大阪が松竹座、東京が新橋演舞場ということで舞台装置を一新して回り舞台を駆使した新演出となり、脚本も大幅に書き換えての再演となった。
美内の原作は1976年から連載がスタート、少女漫画ファンに熱狂的なファンを生みながら現在も連載中という長大なもの。平凡な少女、北島マヤが、演劇の才能を見出され、ライバルの姫川亜弓と切磋琢磨しながら女優として成長していく様子を描いたいわばバックステージもの。彼女たちが演じる劇中劇が、作品の重要なファクターになっており、数多くの演目が登場する。今回の舞台ではマヤと亜弓がそれぞれのイメージとは全く逆のキャラクターの役を与えられた「ふたりの王女」の劇中劇を後半のクライマックスにドラマチックに展開する。
一幕は長大な原作を要領よくまとめたダイジェスト版。北島マヤには貫地谷しほり、姫川亜弓には先ごろ俳優、妻夫木聡と結婚したばかりのマイコ。マヤを陰ながら応援する速水には小西遼生、マヤを思う芝居仲間の桜小路には浜中文一といったキャスト。
マヤに扮した貫地谷は、初々しい雰囲気を醸しながらも芝居心のあるしっかりした演技のバランスがよく、マヤのイメージにぴったりの好演。亜弓役のマイコも華やかで存在感があり、良家の子女という雰囲気がうまくはまった。
そんななかで彼女たちがあこがれる伝説の大女優、月影役の一路は、一幕後半の見せ場で、少女時代から現在まで早変わりで見せ、圧倒的な存在感を示した。二幕では幻の舞台「紅天女」の舞を披露、クライマックスを華やかに彩った。大劇場でトップをはった経験が生き、台詞の声にも他を圧倒する張りがあり、伝説の大女優にふさわしいパワーがみなぎった。出番はそれほど多くないが、きわめて印象的で当たり役になりそうだ。
作品的には少々展開が早すぎて、原作を知るファンには細部が物足りず、芸能界のバックステージものとしてもやや甘いところがあるが、長大な原作を正味二時間強にまとめ、そつなく少女漫画エンタテイメントに仕上げている。
G2といえば霧矢大夢と真飛聖がダブルキャストでヒロインのイライザを演じたミュージカル「マイ・フェア・レディ」も演出、この夏、東西で上演された。これも再演で、ヒギンズ教授の寺脇康文、ピッカリング大佐の田山涼成、ドゥーリトルの松尾貴史、ピアス夫人の寿ひずるらが初演と同じ。ヒギンズの母の高橋恵子とフレディの水田航生が新しく加入した。舞台はほぼ前回と同じ演―出だが、寺脇と田山のかけあいがあうんの呼吸、ドゥーリトルに扮した松尾も絶好調で全体的にもコミカルなタッチが増えた印象。ただしちょっと軽すぎるような感じもなきにしもあらず。
ヒロインはスケジュールの関係で霧矢バージョンしか見られなかったが、退団直後の前回より「ラ・マンチヤの男」のアルドンサ役を経験してきたとあって女優度はさすがにあがっていた。アスコット競馬場での失態の場面のおかしさが最高で、舞踏会の場面以降、ヒギンズ邸に帰ってからが、いまいち演出が平凡で霧矢も精彩を欠いたのが残念。ミュージカル初体験という高橋は、英国貴婦人を品格十分に表現。舞台にいるだけですでに大きな存在感、いい女優になった。
一方、この夏、宝塚OG公演で外せなかったのはミュージカル「CHICAGO」。神奈川からスタート、ニューヨーク、東京を経て8月下旬に大阪公演があった。
3年前の「CHICAGO」OG公演を観劇したリンカーンセンター関係者が、宝塚本体よりこちらを選んだといういわくつきの公演で、ニューヨーク公演も好評理に終え、最後の地、大阪は凱旋公演といった形になった。とはいえ、梅田芸術劇場メインホールでの公演は、各回満席とはいかず、やや苦戦した感じ。ニューヨーク公演の模様はマスコミでも取り上げられ周知徹底していたはずなのだが、これには意外だった。前回の公演を見た観客がリピートしなかったのが原因らしい。大阪のファンはたとえ中身がよくても宝塚は華やかでないと満足できないのだ。早い話、装置の転換がなく、下着姿だけのタカラジェンヌは見たくなかったのだろうか。実はそれがたまらない魅力なのだが。凱旋公演もニューヨーク公演同様、全出演者が勢ぞろいしての約20分の「宝塚アンコール」(三木章雄構成、演出)をつければ満員御礼になったと思うのだが、さまざまな理由でつけられなかったのが残念だった。
私が見たのはビリーが姿月あさと、ロキシーが朝海ひかる、ヴェルマが水夏希、ママモートンが初風諄というキャストと、それぞれが峰さを理、大和悠河、湖月わたる、杜けあきの2パターン。いずれも甲乙つけがたい出来栄えだったが、歌、ダンスとバランスがよかったのが前者、役柄の個性が際だったのが後者という印象。
退団して何年もたっているのに峰、姿月の男役演技は、現役時代と変わらないばかりかいまだからこその円熟味が増して見事。朝海、水のコンビはつき雪組のトップ、二番手であり自ずと生まれる呼吸のよさが見ていて気持ちよかった。あと初風のママモートンがさすがの貫録で舞台を締めたが今回初出演となった杜ものびやかな歌声が絶好調、台詞の切れも良くて小気味がよかった。ニューヨークでは、殺しや賄賂など何でもありの内容ながら実はアメリカ讃歌のミュージカルを日本人が女性だけで真摯に演じていることが好感を持って迎えられたそうで、芝居そのものよりもカーテンコールの燕尾服のダンスが好評だったという。
あと元花組の愛華みれが井上ひさし原作の傑作戯曲「頭痛肩こり樋口一葉」の稲葉鑛役で出演、8月の東京公演を終わって9月下旬まで全国公演中だが、永作博美、三田和代、熊谷真美、深谷美歩といった錚々たる女優にまじって堂々と好演していることも特筆したい。
©宝塚歌劇支局プラス9月7日記 薮下哲司