明日海りおと花乃まりあが、大人の恋のかけひき!「仮面のロマネスク」全国ツアー開幕
明日海りおら花組による、ミュージカル「仮面のロマネスク」(柴田侑宏脚色、中村暁演出)とグランドレビュー「Melodia」―熱く美しき旋律―(中村一徳作、演出)全国ツアー公演が、2日、大阪・梅田芸術劇場メインホールから始まった。今回はこの公演の初日の模様をお伝えしよう。
「仮面―」は、そのあまりにも不道徳な内容から長らく発禁本だったラクロ原作の「危険な関係」のミュージカル化。映画、舞台で何度も取り上げられているが、宝塚では1997年に高嶺ふぶき、花總まり、轟悠らの出演によって雪組で初演、その後2012年に大空祐飛、野々すみ花、北翔海莉の出演で15年ぶりに宙組によって中日劇場で再演され、以来今回4年ぶりの再々演となった。
稀代のプレイボーイ、ヴァルモン子爵と若き未亡人メルトゥイユ侯爵夫人の恋の駆け引きを軸に2人の大人な関係を描いている。最も宝塚らしくない内容の作品だが、退廃的な生活のなかでピュアなものを求める人の純粋な心を浮き彫りにした柴田氏の脚本はさすがの力技。まさかと思った原作が宝塚で生き生きと舞台化、今回も見応えある舞台に仕上がっている。再演は植田景子氏が演出を担当したが今回は中村氏にバトンタッチ、せりや盆回しをなくした全国ツアーならではのシンプルな演出で、濃厚な舞台を再現した。
幕が開くと純白の軍服姿のヴァルモン役の明日海が後ろ向きに登場。振り向きざまカーテン前上手へ。下手にメルトゥイユ役の花乃が登場、意味深な愛のデュエットを歌ったあと芹香斗亜扮するダンスニーがことのあらましを説明、メルトゥイユ邸のサロンでの夜会へと展開していく。1830年のパリ。といえばフランス革命から40年後。再び王政が復活、貴族は夜ごと夜会を開き、庶民の不満は爆発寸前、革命前のような不穏な時代だ。
女遊びは誰にも負けないというプレイボーイの青年貴族ヴァルモンは、明日海にとっては最もイメージにそぐわないタイプの役どころ。しかし、冒頭からやや臭めの男役演技でオーバーに見せ込む。少し前の明日海ならちょっと無理をしているなあという感じが見えて、見るほうが赤面するという幼さがあったのだが、この舞台では無理感が全くなく、さらりと自然に流す演技を体得したよう。こうなると、女性を誘惑する仕草も堂に入ったもの。低音のなめらかな台詞とともに演技に幅があり、ますます魅力的な男役になってきた。
一方、メルトゥイユの花乃は、豪華なドレスにも助けられたが、したたかながら心の奥に寂しさをたたえるメルトゥイユという女性をスケール感豊かに演じ、明日海と対等に存在した。退団発表後最初の舞台となったが、堂々とした舞台姿に何か吹っ切れたものを感じたのは私だけだろうか。歌唱にも情感がこもった。
芹香斗亜は、初演で轟、再演で北翔が演じたダンスニー男爵。恋を知らないういういしい22歳の青年という役どころで、これはこれまでのどのダンスニーより一番似合っていた。どことなくユーモラスで恋するセシル(音くり寿)がヴァルモンと一夜を過ごしたことを知って落胆、メルトゥイユの誘惑に乗ってしまうという宝塚的にはとんでもない展開も、ユーモアいっぱいコミカルに見せたのはなかなかだった。
ヴァルモンとメルトゥイユの賭けの対象になるトゥールベル夫人役は仙名彩世。思いがけないヴァルモンの誘いに心が揺れながら必死で抗う女心を品格を失わず見事に表現。さすが演技巧者。この舞台の大きなポイントとなった。
これら主要な登場人物4人のバランスが、この花組公演は実にぴったりで、これまでの宝塚版のなかでも一番しっくりときた。ただ、いくら豪華な衣装でオブラートに包み、宝塚ならではの純愛ムードで盛り上げても、中身の不道徳さは変わらず、明日海はじめ出演者の好演に支えられてはいるものの、全国ツアーの内容かどうかについては疑問が残った。ドラマシティなどの特別公演ならいざ知らず、予備知識なしに見る全国の家族連れの観客にとっては酷な舞台かも。これを見て宝塚もずいぶん進んでいるなあと思う初めての観客がいればしめたものだが。
さてほかの出演者は、セシルの婚約者ジェルクールが鳳月杏。ヴァルモンとは違った嫌みなタイプのプレイボーイを、さらりとかっこよく演じて印象的。メルトゥイユ家の執事ロベールの夕霧らいとメイド頭のヴィクトワールの芽吹幸奈。ヴァルモンの従者アゾランを演じた優波慧といった脇も好演。さらにジル(華雅りりか)ルイ(帆純まひろ)ジャン(聖乃あすか)の泥棒トリオがいいアクセントになっていた。
「Melodia」は、「新源氏物語」と二本立てだったレビューを全国ツアーバージョンに再構成したもの。中身は本公演とほぼ同じで、柚香光ら全国ツアーに出演していないスターの出番に鳳月が入ったりしてカバーしている。ジャズありスパニッシュありのダイナミックでパワフルなステージ。明日海と花乃のデュエットダンスなど、息の合った2人のコンビぶりが十分に楽しめる。本公演で柚香に対して鳳月が女役で絡んだスペインの場面は男に鳳月が入り、相手役には聖乃あすかが抜擢された。聖乃のきりっとした美貌と男役らしいシャープなダンスに注目。
公演は22日の北海道まで続く。
©宝塚歌劇支局プラス9月3日記 薮下哲司