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北翔海莉、鹿児島弁で熱演、サヨナラ公演「桜華に舞え」「ロマンス‼」開幕

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北翔海莉、鹿児島弁で熱演、サヨナラ公演「桜華に舞え」「ロマンス‼」開幕

星組トップコンビ、北翔海莉と妃海風のサヨナラ公演、グランステージ「桜華に舞えSAMURAI The FINAL」(斎藤吉正作、演出)とロマンチック・レビュー「ロマンス‼」(岡田敬二作、演出)が、26日、宝塚大劇場で開幕した。今回はこの公演の初日の模様をお伝えしよう。

「桜華―」は、幕末から明治初期の激動の時代に生きた薩摩藩士、中村半次郎(のちの桐野利秋)の波乱の半生を描いたドラマティックなミュージカル。西郷隆盛に心酔、西郷と共に新政府の要職に就きながら、西郷が新政府と袂を分かった時点で一緒に下野、西郷率いる薩摩が新政府軍と戦った西南戦争の際、西郷の右腕として活躍、ともに戦死した。人斬り半次郎という通称があるくらいの剣客で、激しい気性だったといわれるが、半面、友情や義に厚く、多くの人に慕われたともいわれている。斎藤氏は、この桐野という人物を、北翔のサヨナラ公演のために、紅ゆずる扮する幼馴染の親友、隼(しゅん)太郎や妃海ふんする会津藩士の娘、大谷吹優(ふゆ)といった架空の人物を配することで、実在の人物として伝えられる豪快な性格とともに繊細な心の部分を巧みに浮かび上がらせて、男役北翔にぴったりの魅力的な人物像を生み出した。「大海賊」「ガイズ&ドールズ」「こうもり」と続いた北翔にとって最後に当たり役に恵まれたといえそうだ。

あまりにもネイティブな鹿児島弁の台詞が慣れるまで聞き取りにくいのと、やや性急な展開で、ストーリーについていくのが精いっぱいのようなところもなきにしもあらずで、もう少し整理して緩急をつけた方がいいとも思うが、それら前半のいろんな枝葉がラストの城山の場面で一気に収れん、大クライマックスとなって、客席号泣シーンになだれ込む力技はなかなかのものだった。

冒頭は、昭和7年5月15日。時の首相、犬養毅(麻央侑希)が暗殺される場面から始まる。青年将校が叫んだ「維新」という言葉から、犬養はかつていた一人の男を思い浮かべる。舞台は、死に際の犬養の回想という形で展開していく。新聞記者時代の犬養が西南戦争を取材した経験があるというところからインスパイアしたらしい意表を突いたプロローグ。暗殺シーンから一転「SAMURAI The FINAL」の字幕の前、半次郎こと北翔が野太刀自顕流の長刀を持ってかっこよくせりあがり、一気に明治元年の薩摩vs会津の戊辰戦争へと展開していく。

半次郎こと桐野に扮する北翔は、剣を持てば豪快に、普段は直情的な熱血漢、しかし、家族や友人、愛する人には人一倍真心のこもった優しい心の持ち主といった、典型的な薩摩隼人像を、北翔ならではのクリアな台詞と、明快な歌声、さらにはダイナミックな殺陣で見事に表現している。鹿児島弁も出身者が聞いても何ら違和感がないというほど。

親友・隼太郎役の紅は、幼馴染で一緒に剣を競った仲間で、半次郎と一緒に上京、ともに新政府の要職に就くが、下野した半次郎と西南戦争では敵味方になって剣をまみえることになる。芝居心のある紅の演技が、後半、薩摩に帰郷する場面あたりから際だって印象的で、北翔に対する紅の受けがしっかりしていたからこその盛り上がりといえよう。

妃海ふんする吹優は、戊辰戦争の時、父の仇である半次郎に命を助けられたのだが、戦火の衝撃で記憶を失っているという設定。その時、半次郎も手に傷を負っていた。戦後、2人は再会、因縁浅からぬ仲となる。妃海は、前半は薙刀を持っての勇ましい武家娘、後半は傷病兵を看護する健気な看護婦として、こちらも女性の強さと優しさを両方にじませての好演だった。涼やかな美声は健在。

異色の配役は礼真琴。戊辰戦争で薩摩に敗れた会津藩士、八木永輝。会津藩の愛奈姫(真彩希帆)を慕っていたが、東京で変わり果てた愛奈姫と出会い、衝撃を受けて、仇敵半次郎暗殺を決意する。鋭い眼光で半次郎をつけねらう刺客を、礼が終始黒い雰囲気で演じこみ、作品にサスペンスフルなアクセントをつけた。明るい青年役が多かった礼にとって新たな役どころの開拓となったようだ。

ほかにも印象的な役が多かったが、薩摩の故郷の村で半次郎を待つ妻ヒサを演じたのが綺咲愛里。もともとは隼太郎の思い人だったが、家同士の縁談で半次郎と結婚するという設定。半次郎が上京した後は、ほとんど出番はないのだが、この設定も後半で効いてくる。夫の不在を一人でしっかりと守る気丈な妻という古風な女性を凛と演じていた。

西郷隆盛はこれが退団公演となる専科の美城れん。汝鳥伶を思わせる恰幅と堂々たる台詞回し。北翔相手に一歩もひけをとらない存在感、退団は本当に惜しまれる。

全体の構成としてはナレーションをうまく使って背景を説明、鹿児島弁とびかう舞台をわかりやすく補足していく。そんななかで麻央演じる犬養だが、記者時代にも犬養と桐野にそれほど強いつながりはなく、ラストに「維新とはなんだったのか」と全体を振り返るシーンで登場、印象的な役に仕立ててあるが、物語自体にはあまり関係がないので、いっそのことないほうがよかったかも。演じる麻央は、若々しい記者時代と老境にさしかかった首相時代をがらりと雰囲気を変えて演じ分けた。

ロマンチック・レビュー「ロマンス‼」は、柔らかいグリーン、ブルー、ベージュといった中間色のドレスを着たレディ―ズのなかから紫色の北翔が登場して歌うプロローグから、ロマンチック・レビューならではのなんともいえないクラシカルなムード。ただ、いくらなんでも前半の展開がややスローにすぎ、選曲もリストの「ため息」からプレスリーやコニー・フランシスの60年代ポップスと続くとああまたかの感じ。「ル・ポワゾン」や「シトラスの風」などの旧作の再演は当時の勢いと懐かしさで見せるが、新作なのだからクラシックにしてもポップスにしてももう少し斬新さとおしゃれ感覚がほしかった。「裸足の伯爵夫人のボレロ」も久々の室町あかねの振り付けということで期待したのだが、夫人役の七海ひろきと礼真琴に息をのむようなあでやかさが足りず不発。盛り上がりに欠く中詰めだった。
そのあとの謝珠栄振付による「友情」が、北翔と星組メンバーの惜別憾を激しいダンスで表現、装置も新鮮で、北翔以下のダンスも切れ味鋭く、見ごたえがあった。このショー唯一のみどころといっていいだろう。ロケットのあとの「イル・モンド」が、北翔と妃海コンビへの最後のプレゼントの場面。二人のきっちりとしたデュエットダンスがなかったのは寂しかったが、スケール感のあるフィナーレとなった。

パレードはエトワールを歌姫、華鳥礼良が務め、礼が三番手羽根を背負って大階段を下り、北翔後の星組を背負う存在であることを強く印象付けた。

北翔は「舞台は打ち上げ花火みたいに一瞬で消えてしまうけれど、私たちのために一生懸命に作ってくださったたくさんの先生方のためにも千秋楽までまだまだ精進してしっかりと務めあげたい。私事ですが、この公演で卒業させていただきますが、桐野ならこういうと思います。「これが終わりじゃない。ここから新しい時代が始まるんだ」と。星組の次の世代にうまくバトンタッチできるよう、最後まで(責任を)まっとうしたい」とあいさつ。満員の客席はスタンディングで北翔ラストステージ初日を盛り上げていた。

©宝塚歌劇支局プラス8月27日記 薮下哲司






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