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Channel: 薮下哲司の宝塚歌劇支局プラス
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宙組「エリザベート」新人公演 & バウシンギングワークショップ~花~

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瑠風輝 比類なきトート!宙組「エリザベート」新人公演&
バウシンギングワークショップ~花~開催

朝夏まなとを中心とした宙組で上演中のミュージカル「エリザベート」―愛と死の輪舞―(小池修一郎潤色、演出、小柳奈穂子演出)新人公演(野口幸作担当)が、研5の瑠風輝(るかぜ・ひかる)の主演で9日、宝塚大劇場で行われた。今回はこの公演と和海しょうら16人が出演、11日から13日まで宝塚バウホールで上演された「バウ・シンギング・ワークショップ~花~」(中村一徳構成、演出)の模様をあわせてお伝えしよう。

宙組初日で通算900回を達成した人気ミュージカル、今回は、宝塚初演20周年ということで原点に戻り、演出を改めて見直し、細かいところまでフレッシュアップ。なかでも黄泉の帝王トートを、トップスター、朝夏の個性にあわせて、内面もビジュアルも現代的かつクールな雰囲気に新たに作り直したのが大きな特徴。しかし、新人公演は、プロローグを大幅に短縮、ハンガリー訪問の場面をカット。二幕も「私が踊る時」と病院の場面をカットするなど、ずいぶん大胆な展開となり、トートの作りなどは従来のオーソドックスな様式を踏襲、それが新人公演メンバーにぴったりはまって、見ごたえかつ聴きごたえ十分の新人公演とは思えないほどの見事な仕上がりとなった。


トートに扮した瑠風は「シェークスピア」に続いて二度目の新人公演主演となったが、開幕アナウンスの思いきり低音の声からはやくもムードたっぷり。プロローグのトート降臨シーンがカットされたため、最初の出番は、木登りから転落したエリザベートを死の世界に誘う場面から。ささやくように歌う「エリ~ザベート!」の第一声からぞくぞくするようななめらかな低音、そのしっとりと濡れた歌声に一気に物語の世界に引き込まれた。白いメッシュを入れたロングヘアにひときわ舞台映えする長身、そしてこのなんともいえないセクシーボイスは、いかにも黄泉の帝王トートにぴったり。歴代新人公演トートのなかでも比類がない。最初のこの歌声で瑠風トートの魅力にはまった人が続出したのではないかと思う。決して似ているというわけではないが姿形は湖月わたるの繊細だが豪快な男役の雰囲気に、歌声は姿月あさとをもっとエモーショナルにした感じといえば、わかりやすいかも。とにかく歌唱は100点といっていいだろう。
演技的にはすべてを支配するというにはまだまだ幼くて危なっかしいところもあるが、そのあたりのアンバランスさが逆に新鮮でたまらない魅力だ。「最後のダンス」「闇に広がる」など聞かせどころのツボはきちんと押さえて安心して聴いていられた。研5でここまでできれば上出来だろう。あとはカリスマ性だが、これはこれから場数を踏むことで自ずとつかんでいくことだろう。昨年、バウの「New Wave」での「闇が広がる」の素晴らしい歌声で瞠目したが、どうやら本物だったようだ。今後の活躍をさらに期待したい。

エリザベート(本役・実咲凜音)の星風まどか(研3)も、可憐な少女時代から、大人の女性に成長していく過程を場面ごとに鮮やかに表現、芝居心のある演技を見せた。本公演ではルドルフの少年時代(通称・子ルドルフ)を演じており、それが何とも似合っているので、新人公演でエリザベートと聞いた時も“子エリザ”になるのではとやや不安だったのだが、小柄なはずなのにそれを感じさせず堂々としており「私だけに」のソロのあたりから、舞台姿がずいぶん大きく見えたのには感心させられた。「夜のボート」での留依蒔世とのデュエットも、控えめながらも感情がこもりじっくり聴かせた。研1から抜擢が続き、それだけ期待も大きいが、毎回きちんと答えをだしていくあたり、さすが優等生だ。

フランツ・ヨーゼフ(真風涼帆)は留依蒔世(研6)。歌唱力は瑠風にひけをとらず、甲乙つけがたい逸材。前述の「New Wave」での瑠風との「闇に広がる」のデュエットはもはや伝説となっているぐらいだ。その後、体調を崩して休演したため、やや失速した感は拭えないが、今回のフランツは留依の個性にうまく合い、落ち着きと品格を漂わせた憂い顔の皇帝を巧みに体現していた。

暗殺者ルキーニ(愛月ひかる)は和希そら(研7)。公演の長で全体のまとめ役的な存在だが、主演経験がある強みを如何なく発揮、大きな舞台の使い方を心得たスムーズな動きが物語を支配するルキーニにふさわしかった。登場人物の誰ともからまず、しかし、そう感じさせてはいけないところがルキーニの難しいところだが、和希のルキーニはその辺の呼吸が見事だった。「キッチュ」の余裕たっぷりのアドリブなどそれだけで場をなごませた。プロローグの登場シーンのセリフがやや流れ気味だったが、すぐに持ち直し、本公演にない台詞がふんだんにある新人公演ならではのルキーニを楽しげに演じていた。

皇太子ルドルフ(桜木みなと/蒼羽りく/澄輝さやと)は研2の鷹翔千空(たかと・ちあき)が抜擢された。貴公子というより好青年という感じの皇太子だったが、約15分間たっぷりルドルフの半生をみずみずしく演じた。カット場面の多い新人公演のなかでここだけはノーカットだっただけに余計に印象に残った。少年時代(星風)は娘役の湖々さくらが初々しく演じた。


あと予想以上に健闘したのが皇太后ゾフィー(純矢ちとせ)を演じた瀬戸花まり(研7)だった。高低差のある難曲をクリアしたばかりか、皇太后としての貫禄と激しい気性を巧みに表現して絶品だった。ほかも全体的にレベルの高さが印象的。全員が役が決まる前からどの役が来ても自分なりに用意ができているという感じがうかがえ、それだけ「エリザベート」が下級生に至るまで生徒たちの憧れの作品であることが改めて再認識できた新人公演でもあった。

※    ※     ※

雪組に続いて行われた花組の「バウ・シンギング・ワークショップ」は、研9の和海しょうと羽立光来を筆頭に研8の水美舞斗、柚香光の4人が中心メンバー。続いて研7の歌姫、乙羽映見、朝月希和、更紗那知といった歌に定評のあるメンバーから研2の咲乃深音、愛乃一真まで16人の出演。

男役は黒の燕尾、娘役は花組カラーのピンクのドレスで勢ぞろい、和海のリードで出演者全員が「Jupiter」を歌い継ぐプロローグからスタート。各自2曲ずつ、これまで通り自分の歌いたい曲を歌うというコンサート形式のステージでトップバッターは飛龍つかさ(研5)の「ル・ポァゾン 愛の媚薬」。いきなり客席からは手拍子が沸き起こるなどつかみは抜群。この飛龍の選曲に代表されるように花組は宝塚の曲が多いのが特徴。2曲目の泉まいら(研3)も「シークレット・ハンター」から「Eres mi amor~大切な人~」だった。一幕はほかにも峰果とわ(研5)が「花吹雪 恋吹雪」。綺城ひか理(研6)が「愛と革命の詩」から「永遠の詩」。極めつけは水美舞斗(研8)の「風と共に去りぬ」からの「君はマグノリアの花の如く」そして柚香光(研8)が花組のカリスマ、大浦みずきがトップ時代に歌った「ジタン・デ・ジタン-夢狩人―」の主題歌といった具合。ミュージカルからの曲もいいが、こうして先輩たちへのリスペクトが肌で感じられるのもなんとも好ましい。水美が二枚目然として無難にこなしたあと、柚香は一幕のトリで登場、歌そのものよりも見せ方が抜群、そのカッコよさはさすがだった。二幕の「オーシャンズ11」からの「夢を売る男」も柚香らしい選曲で、ツボにはまっていた。

歌のうまさでは一幕で「オペラ座の怪人」から「The Music of the Night」二幕で「モーツァルト!」から「影を逃れて」を歌った羽立が群を抜き、どちらも丁寧かつ表現力豊かに歌いこんで聴かせた。娘役では乙羽がずいぶん大人っぽく成熟、美貌のプリマとしても貫録たっぷりで一幕で「慕情」をイントロから英語で、二幕では「ファントム」から「My True Love」を情感たっぷりに歌いこんだ。朝月も一幕を「ジキルとハイド」から「Someone Like You」二幕で「眠らない男ナポレオン」から「女王になる」を歌ったが、とりわけ後者がヘアスタイルを工夫して感じを出し、夢咲ねねと比べても遜色のない素晴らしい出来だった。

若手では亜蓮冬馬(研4)と若草萌香(同)が歌った「Endless Love」のさわやかなカップル感がフレッシュだった。若草は二幕で歌った「皇帝と魔女」の「愛の歌」もよかった。亜蓮は二幕最初でマイケル・ジャクソンの「Billie Jean」に挑戦、よくリズムに乗っていたが燕尾には似合わなかった。

公演の長的存在となった和海は一幕で「THE SCARLET PINPARNEL」からショーブランの「君はどこに」二幕は大トリで「LUNA」から「ANOTHER LIFE」を歌ったがいずれも心のこもった好唱。なかでも後者は宝塚が好きになったきっかけの曲といい、その歌を歌う和海の幸福感があふれ、聴いていて気持ちがよかった。フィナーレも花組の幻の名作「テンダーグリーン」から「心の翼」を全員が歌い継いでコンサートを締めくくり、最後まで宝塚そして花組愛にみちたコンサートだった。

©宝塚歌劇支局プラス8月11日記 薮下哲司



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