©宝塚歌劇団
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感動モノの「ローマの休日」役替わり&バウワークショップ
早霧せいなを中心とした雪組によるタカラヅカ・シネマティック「ローマの休日」(田淵大輔脚本、演出)の役替わり公演が30日、梅田芸術劇場メインホールで始まった。同時に宝塚バウホールでは煌羽(きらは)レオを中心とした「バウ・シンギング・ワークショップ」~雪~(中村一徳構成、演出)も28~30日まで開かれた。今回はこの二つの雪組公演の模様をお伝えしよう。
まず「ローマの休日」だが6月14日に名古屋・中日劇場で開幕、東京公演を終えての大阪公演。しかも、彩凪翔がカメラマン、アーヴィング役から美容師マリオ役に。月城かなとがマリオ役からアーヴィング役にスイッチした役替わり公演からスタートしたとあって、初日の梅田芸術劇場は三階席まで立錐の余地もない超満員、絶好調の雪組らしい熱気あふれる初日風景となった。
中日の初日以来の観劇となったが、役替わりの2人に言及する前にまず、特筆したいのはアン王女役の咲妃みゆのこの一か月半の見事な変身ぶり。中日初日はまだ役の大きさにやや手探り状態なところがあり、王女としての風格のようなものが形だけで身体全体に浸みわたっていなかったような感じがあったのだが、さすがに名古屋、東京と公演を重ねての大阪ではそれが見事に体現されていた。登場シーンの謁見の間での演出がかなりオーバーになってメリハリが効いたのと、そのあとの寝室でのドクター(真條まから)との何気ない会話が、逃避行のきっかけになっていることをきちんと分からせるなど、きめ細かい演技がパーフェクト。ジョーと束の間の休日を楽しむ間のお茶目な雰囲気もずいぶん自然。そして「祈りの壁」のあたりから後半、特に記者会見の場面の、それまでの雰囲気をがらりと変えた凛とした佇まいのすばらしさはまさに感動ものだった。なかにはまだどう見ても庶民の娘にしか見えないという人もいたが、どこを見ていたのだろうと思うほどだった。
早霧のジョー役は、新聞記者独特のいいかげんでありながら憎めないダンディーな男ぶりがさらに冴えわたり、咲妃を好リードしたことが舞台全体を弾ませたことも見逃せない。「祈りの壁」でのアン王女の無垢な祈りが、ジョーの中に変化をもたらす結果になるのだが、そのあたりの心の動きもウェットにならずにさらっと描き出し、真っ直ぐな歌とともにかえって心にしみた。
彩凪と月城の役替わりは、美容師マリオに扮した彩凪が、予想通りとはいえ思い切りのいい作り込みで、オーバーなアクションに加えてアドリブを連発、会場をおおいに沸かせた。
「るろうに剣心」の武田観柳役以来、どうしたのかと思うほどの変身ぶりで、アーヴィング役もどうしようもないやさぐれ感が半端じゃなかったが、こちらも本役以上に似合っていた。
月城のアーヴィングも、生来の整った表情をできるだけ封印したひげ面で登場。それがまただらしない雰囲気をよくだしていて、2人とも芝居の雪組生の面目躍如だった。どちらがどちらとも言いようがないほど、どちらも似合っていた。こんな役替わりも珍しいのではないか。
作劇的には船上パーティーをナイトクラブに改変したのは今回改めてみても解せなかったが、よく知られた映画を巧みに宝塚に移し替えた手腕は大いに買えた。クラブで思い出したがクラブの歌手を演じた久城あすの「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」がますます乗っていて感じがでていたので記しておきたい。
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さて花、星組に続く雪組の「バウ・シンギング・ワークショップ」に移ろう。「Joyful‼」の主題歌から賑やかに開幕したコンサート、雪組は最上級生の研9の煌羽を筆頭に天月翼(研8)橘幸(研7)妃華ゆきの(同)が中心メンバー。これに永久輝せあ(研6)有沙瞳(研5)彩みちる(研4)といった赤丸上昇中の有望株が続き、最下級生の縣千(研2)と優美せりな(同)まで計16人が出演。全体としては総花的なスタイルのコンサートだった。
諏訪さき(研4)の「君の瞳に恋してる」からスタートしたが2曲目で彩が「ウィキッド」から「ポピュラー」という難曲に挑戦、マイクさばきに課題が残ったがこれはなかなかのもの。二幕では「レ・ミゼラブル」から「オン・マイ・オウン」を披露。これも絶唱だったがまるでミュージカルのオーディションのような選曲に彩の個性を見た思いがした。いつでも外の世界で通用しそうな歌唱だった。
最下の縣は「ロミオとジュリエット」から「僕は怖い」優美は「キス・ミー・ケイト」から「ソー・イン・ラブ」をいずれも丁寧に歌った。二幕の「若き日の唄は忘れじ」の「恋の笹舟」のデュエットもよかった。
挑戦だなあと思ったのは叶ゆうり(研6)の「レ・ミゼラブル」からの「独白」。英語で歌った。有沙が二幕で歌った「Amazing Grace」も大曲だったが一幕の「シェルブールの雨傘」の方が可憐でよかった。ほかに印象的だったのは研3の星加梨杏(せいか・りあん)眞ノ宮るいがデュエットした「オーシャンズ11」からの「JUMP!」がはつらつとして楽しかった。
期待のスター候補生、永久輝は一幕トリで「ラブ・ネバー・ダイ」から「Til I Hear You Sing」を歌った。登場しただけで一斉に客席から双眼鏡が動く気配が感じられるなどさすがのスターオーラ。幕を閉じるにふさわしい大曲を英語で熱唱したが、二幕で歌った「青い星の上で」のようないかにも宝塚の明るい曲想がよく似合っていた。
一方、今回センターを取った煌羽は、きりっとした顔立ちが印象的な二枚目で、2013年の「ベルサイユのばら・フェルゼン編」新人公演でオスカル役を演じ「初風緑を思わせる美しいオスカル」(宝塚歌劇支局)と評している。その後、特に際立った印象がなく、今回、久々の注目公演だ。煌羽は一幕では「黒い鷲」二幕では大トリで「ジキルとハイド」から「This is The Moment」を歌ったが、後者の渾身の歌唱が印象的だった。
©宝塚歌劇支局プラス7月31日記 薮下哲司