暁千星主演、月組「NOBUNAGA」新人公演&麻央侑希を中心とした「バウ・シンギング・ワークショップ~星~」開催
月組期待のホープ、暁千星(研5)が主演した「NOBUNAGA信長」―下天の夢―(大野拓史作、演出)の新人公演(同)が28日、宝塚大劇場で行われた。今回はこれと26日から28日まで宝塚バウホールで開催された麻央侑希を中心とした「バウ・シンギング・ワークショップ~星~」(中村一徳構成、演出)の模様をあわせて報告しよう。
「NOBUNAGA」はトップスター、龍真咲のサヨナラ公演のために作られた演目で、龍の個性に合わせて作られているので、新人公演の主演者は誰が演じてもかなりやりにくいのではないかと思ったが、作品自体にそれほど惜別モードはなく、暁も比較的自由にのびのびと演じて、暁ならではの若々しい信長像を浮き上がらせた。
ただ、それにしてもこのストーリー、改めて見ると史実も何もあったものではないむちゃくちゃな展開。唯一、帰蝶の信長への犠牲的な愛に心を動かされたのも束の間、信長が彼女を切り捨ててしまうのだから何とも救いようがない。信長を筆頭に登場人物の誰にも感情移入できる人物がいないというのがまずもって致命傷だ。本能寺の変のあと、ロルテスの手引きで大海原に脱出するエンディングは、義経がチンギス・ハーンになった「この恋は雲の涯まで」を思い出した。大野氏は前作の「前田慶次」が100周年最高の収穫で、期待しただけに大きな肩すかしだった。狙いどころはいいのだが、あれもこれも欲張りすぎて、収拾がつかなくなった典型か。
さてその新人公演だが、主演の暁は、少年っぽさが魅力の男役スター。長身で見映えがよく、冒頭、ザンバラ髪に長い刀を背にもってすっくと仁王立ちした姿はなんともかっこよく、さながら若き日の信長がそのまま舞台に登場したかのよう。「敦盛」の舞を省略したのは正解だった。歌は声がよく伸びて、公演ごとの成長がうかがえるが、台詞とともに男役としてはかなり高い声がネックで周囲から「おやかたさま」と呼ばれる信長の男らしい貫録がでない。この一点が暁の課題だろう。ただ後半の銀橋のソロは感情もよくでて聴かせた。
妻の帰蝶(本役・愛希れいか)は紫乃小雪。暁と同期(研5)で初ヒロイン。新人公演などで徐々に頭角を現してきたが、愛しながらも報われないという内面の表現や、長刀を持っての殺陣など、演技的にも所作的にも高度な技術を要求される難役を無難にこなして、高得点だった。重要な役のわりには出演場面があまり多くなく、真価を発揮できていないようだったので、次回の公演に期待したい。
日本征服を企むローマ出身の騎士ロルテス(珠城りょう)は輝生かなで(研4)。カールした金髪にブーツ姿の外見は見栄えがして存在感は際立った。しかし、本来はこの役がこの舞台を取り仕切らないといけないのだが、書き込み不足でずいぶん中途半端な役になってしまい、本役の珠城以上に新人公演の輝生にはどうしていいかよくわからない迷いが出ていたように見えた。信長の大きさに感服して、心酔していく後半部分が納得のできる演技になればさらによくなるだろう。
明智光秀(凪七瑠海)は夢奈瑠音(研7)。羽柴秀吉(美弥るりか)が春海ゆう(研7)。足利義昭(沙央くらま)が蓮つかさ(研6)という配役。春海は冒頭の群舞のセンターで鋭い目線とシャープな動きでひときわ目立ち、強烈なインパクト。夢奈は、本役の凪七を踏襲した誠実で丁寧な演技に好感が持てた。義昭に扮した蓮の芝居心のある演技もよく、この3人は、個性的にも役にふさわしくそれぞれが好演だった。
娘役は主なところでねね(早乙女わかば)が叶羽時(研7)、お市(海乃美月)が結愛かれん(研2)だったが、名前の大きさに比べてそれほどの役でもないがそれぞれ雰囲気をよくつかんでいた。
若手では信長の黒人の家臣、弥助に扮した風間柚乃(研3)が精悍な表情と長身ながらきびきびした動きで存在感を発揮した。象使いが娘役になり弥助が目立ったこともある。ちなみに風間は女優、故夏目雅子さんの姪にあたる。
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一方、麻央侑希(研9)を座長にした星組若手メンバーの「Bow Singing Workshop~星~」は、前回の宙組同様、スター候補生16人によるコンサート形式のショー。各自が歌いたい曲2曲を披露、その合間に自己紹介のMCなどがある。
男役は黒燕尾、娘役は紺色のドレスというスタイルで、まずは「ノバ・ボサ・ノバ」から「ソル・エ・マル」を全員で歌ってオープニング。センターが麻央一人なので、麻央のためのショーのようなつくりでもある。その麻央は、長身にくっきりした小顔、9投身はあろうかと思われるプロポーション抜群で、これほどセンターが似合うスターもいない。歌は一幕で「王家に捧ぐ歌」から「エジプトは領地を広げている」二幕はトリで「オーシャンズ11」から「JACKPOT」を歌い、どちらも歌に聞き惚れるというより容姿に見惚れてしまう。歌の巧拙を超えてスターオーラをまき散らした。これぞ宝塚のスターだと思うのだが、いかがだろう。紅体制の星組でさらなる活躍を見せてほしい。
選曲は宙組同様、ミュージカルからの曲が多く、特に英語の曲が多かったのが特徴。華鳥礼良(研6)は「オペラ座の怪人」から「Wishing You Are Somehow Here Again」と「I Have Nothing」の二曲とも英語で披露。その圧倒的な表現力と歌唱力で魅了した。紫りら(研8)も「The 20th Century Fox Mambo」をマリリン・モンロー風の声色でセクシーかつチャーミングに歌って強烈な印象を残した。歌のうまさでは「NEVER SAY GOODBYE」から同名主題歌を歌った遥斗勇帆(研4)や「ブラックジャック」から「かわらぬ思い」を歌った颯香凛(研2)が聴かせ、表現力では「THE MERRY WIDOW」から「さあ、行こうマキシムへ」を歌った天路そら(研4)がうまかった。また「THE SCARLET PINPARNELL」から「君はどこに」を英語で「銀ちゃんの恋」から「主役は俺だ」を歌った桃堂純(研6)が選曲の個性では際立ち、どちらも柄にぴったりあって高得点だった。
ひろ香祐(研8)、音咲いつき(研8)、新人公演主役経験者の紫藤りゅう(研7)といったあたりは安心して聴いていられ、次期娘役トップが発表された綺咲愛里(研7)は「レ・ミゼラブル」から「夢やぶれて」と「オペラ座の怪人」から「Think of Me」を歌ったが、選曲が大曲すぎて、自分の個性を生かせなかったように思った。
あと綾凰華(研5)極美慎(研3)といった星組期待の美形ホープも健闘、娘役の天彩峰里(研3)と再下級生の夕陽真輝(研2)と天翔さくら(研2)は宝塚の主題歌を歌ったのに好感が持てたが、天彩の「ラムール・ア・パリ」からの「白い花がほほえむ」は、歌の解釈にやや疑問が残った。とはいえ全体的に歌唱のレベルは宙組に比べて段違いで、あっという間の二時間だった。
千秋楽はカーテンコールで全員が一言ずつ感想。それぞれがこのコンサートに出られたことに感謝の弁。麻央が「歌のコンサートで長をすることになって、自分自身が一番びっくり。みんなの歌への熱い思いに、歌に対する考え方が変わった。これからも星組をよろしくお願いします」とあいさつ、万雷の拍手を浴びていた。
©宝塚歌劇支局プラス7月2日記 薮下哲司