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早霧せいな×咲妃みゆコンビが名作に挑戦!雪組公演「ローマの休日」開幕
永遠のフェアリー、オードリー・ヘップバーンのハリウッドデビュー作で、アメリカ本国より日本で大ヒット、日本でのヘップバーン人気を決定づけた映画「ローマの休日」が早霧せいなを中心とした雪組でミュージカル化(田淵大輔脚本、演出)され、名古屋・中日劇場で14日から開幕した。今回はこの模様を報告しよう。
ヨーロッパ某国のプリンセス・アンが、海外視察旅行中のローマで、宿舎を抜け出し、偶然出会った新聞記者のジョーと生涯初めての一日だけの自由な休日を満喫する姿を描いたロマンティックコメディ。あまりにも有名な映画で、見ていない人はいないぐらいの名作だ。宝塚でも1962年の正月に当時研1だった初風諄を王女役に大抜擢、明石照子とのコンビで舞台をニューヨークに移して「絢爛たる休日」というタイトルで上演されたことがある。「ローマの休日」のタイトルでの舞台化も二度あって、最初は大地真央、山口祐一郎が主演した東宝版。最近では朝海ひかるが王女役を演じたバージョンがあった。どちらもなかなかの好舞台だったが、なかでも大地が演じたアン王女は、一日が終わって宿舎に帰ることを決意する場面の感情の起伏の表現が見事で、映画を何度も見て、知っている話なのに思わずほろりとさせた。
今回の宝塚版は、基本的に映画をベースに「スペイン広場のジェラート」や「真実の口」「祈りの壁」そしてラストの「記者会見」など有名な場面はすべて再現しながら、巧みにミュージカルナンバーを織り交ぜて構成、映画をそのまま追体験できる舞台化に仕上げている。早霧扮するジョーと咲妃みゆ扮するアン王女がベスパに乗ってローマ見物する場面は舞台でも第一幕のクライマックスになっていて、映像を駆使して楽しい見せ場に盛り上げた。
ただ基本、王女、記者、カメラマンの3人だけの芝居なので出演者の多い宝塚的には不向きな題材でもあり、脇をさまざまにふくらませて、涙ぐましい工夫を凝らしているのがなんとも微笑ましい。通信社のローマ支局が結構広いスペースで何人も記者がいるのには思わず笑ってしまった。その割にはスペイン広場の階段の装置がお粗末でがっかり。映画との大きな違いは、後半、王国の諜報員たちと大立ち回りを演じる船上パーティーを普通のナイトクラブにしたこと。装置の都合かどうか知らないがこれは改悪。川に飛び込んで脱出、服を乾かすためにジョーのアパートに立ち寄るという必然性がここで失われてしまい、感情の高まりがやや弱まったと思うのだがどうだろうか。大地版に比べてアン王女のオリジナル曲が弱いのも残念だった。
とはいうもののジョー役の早霧が、久々のスーツ物で好青年ぶりをいかんなく発揮、スクープ狙いの記者が、純真な王女の前で、徐々に人間味を取り戻していく様子を巧みに表現して、なんともさわやかだった。
王女役の咲妃は、冒頭の謁見シーンから初々しさはよく出ていてチャーミングなのだが、オードリーのイメージが強いからか、全体的には何か物足りない。「春の雪」はじめ「星逢一夜」や「るろうに剣心」など日本ものはあれだけ似合うのにプリンセス役は思いのほか映えない。姿勢のせいもあるが、王女としての品格のようなものが希薄。まだ手探り状態かもしれないが、客席の視線を跳ね返すような強烈な自信とパワーでもって臨んでほしい。
カメラマンのアーヴィング役は彩凪翔。無精ひげをはやして、だらしない雰囲気をうまく出して好演。王女の髪をカットする美容師役マリオは月城かなと。陽気なイタリア男をマンガチックに作りこんでの登場。予想通りのオーバーな役作りで、さほど面白くはないが楽しげに演じているのがいい。この二人は8月の梅芸公演前半のみ役替わりとなる。
ほかでは支局長役の鳳翔大。それからアーヴィングの恋人役フランチェスカ役の星乃あんりぐらいしか目立った役はなく、しかも、それほど重要な役でもないので、印象は薄い。王国の警視総監役が真那春人で二幕冒頭にソロがあったのと、クラブの歌手役で久城あすがムーディーな歌声をきかせてくれたのが収穫だったぐらい。
役が少ないという不満はあるものの、作品自体のロマンティックな雰囲気はうまく醸し出され、題材的には宝塚にぴったりの作品だとはいえるだろう。
©宝塚歌劇支局プラス6月15日記 薮下哲司
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