桜木みなと等が歌の成果を披露、宙組バウワークショップ開催
将来を期待される各組スター候補生たちの歌唱力のさらなるレベルアップを狙った「Bow Singing Workshop」~宙~(中村一徳構成、演出)が、6月2日~4日まで宝塚バウホールでおこなわれた。今回はこの模様を報告しよう。
以前、各組の歌唱力に秀でたメンバーを選抜して行われた「エンカレッジコンサート」という催しがあったが、今回はそれとはちょっと趣旨が異なり、期待のスター候補生に、出演することによってさらに歌唱力をアップしてほしいと願いを込めたコンサート。各組のトップバッターを務めた宙組は研2から研9までの16人が選ばれた。
座長格は美月悠(研9)、桜木みなと(研8)、彩花まり(同)、伶美うらら(同)の4人。これに和希そら(研7)、留依蒔世(研6)、瑠風輝(研5)らの新人公演主役クラスが参加した。各人が次々に登々場、一幕と二幕で1曲ずつソロを披露するというシンプルなコンサートで、25分の休憩をはさんで2時間5分、公演期間も3日間5回だけ。しかし、宝塚の将来を担うスター候補生が大挙出演するとあって、会場は熱心なファンで満員の盛況だった。私が見た日には元星組トップの瀬戸内美八や元宙組の悠未ひろの姿もあった。
男役は黒燕尾、娘役は白のドレスという宝塚ならではの正装で出演者全員が勢ぞろい。ミュージカル「RENT」の名曲「シーズン・オブ・ラブ」を歌って華やかにスタート。曲が終わり、和希だけが残ってミュージカル「モーツァルト!」から「僕こそミュージック」を歌ってコンサートが始まった。
各人が歌いたい曲を何曲か提出、重ならないように調整を加えての選曲だというが、瀬戸花まり(研7)が「ミスサイゴン」から「命をあげよう」鷹翔千空(研2)が「レ・ミゼラブル」から「星よ」遥羽らら(研5)が「マイ・フェア・レディ」から「踊りあかそう」とミュージカルからの曲が続くのは、やはり最近の傾向。いずれも安定感ありよく声もでて、楷書のようなきっちりとした歌唱だった。なかでは瑠風が歌った「ファントム」からの「Where in the World」が表現力豊かで聴かせた。
宝塚の曲も真名瀬みら(研2)と小春乃さよ(研5)が歌った「NEVER SAY GOODBYE」からの同名主題歌と「愛の真実」星風まどか(研3)と希峰かなた(研4)の歌った「薔薇の封印」からの「私のバンパイア」と「The Arbiter」とミュージカルからの曲が続いた。なかでは真名瀬と小春乃が曲のよさとともに印象に残った。「NEVER―」を役者がそろったときにもう一度見たいと思う。
華妃まいあ(研4)と澄風なぎ(研4)による宙組のテーマソングともいうべき「夢・アモール」(「シトラスの風」から)に続いて留依は「トゥーランドット」から「誰も寝てはならぬ」を絶唱。これも聴かせた。この曲は留依が音楽学校の文化祭でも歌った曲ではなかったかと思う。
一幕ラストは伶美の「瑠璃色の地球」彩花の「LET ME BE YOUR STAR」美月の「カサブランカの夜霧」そして桜木が「This is The Moment」を歌って締めくくった。彩花の実力が抜きんでているが、松田聖子のヒット曲を歌った伶美、ミュージカル「ジキルとハイド」の曲を歌った桜木も好唱。二人とも見せ方がうまい。
二幕は桜木を中心にした7人による「GLORIOUS‼」から華やかにスタート。宝塚メドレーが続いたが小春乃の「レ・ミゼラブル」の「HOME」留依の「ロミオとジュリエット」の「僕は怖い」が抜きんでたうまさで耳に残った。最後は伶美が「モーツァルト!」から「ダンスはやめられない」桜木が「ガイズ&ドールズ」の「運命よ、今夜は女神らしく」彩花と美月が「THE SCARLET PINPARNEL」から「あなたを見つめると」と「目の前の君」を歌って締めくくった。
真名瀬や鷹翔といった下級生には何物にも代えがたい貴重な経験となっただろうし、もともと歌の実力に定評のあった中堅どころの生徒たちにはさらなる自信になったことだろう。しかし一番のうれしい驚きは伶美の成長ぶりだろう。二曲ともよく声が伸びて、歌う表情には余裕さえうかがえた。あと、桜木に改めて豊かなスター性を感じた。二人の今後のさらなる活躍を期待したい。
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©宝塚歌劇支局プラス6月6日記 薮下哲司