鳳稀かなめ、夢咲ねね、元星組コンビが熱演「1789」大阪公演
ミュージカル「1789」~バスティーユの恋人たち~(小池修一郎潤色、演出)大阪公演が梅田芸術劇場メインホールで上演中。今回は、凰稀かなめがマリー・アントワネット、オランプに夢咲ねねが扮したバージョンについて報告しよう。
在団中に「銀河英雄伝説」のラインハルト「風と共に去りぬ」のレット・バトラー、そして「ベルサイユのばら」のオスカルと大役を次々に出演した凰稀。すっきりとした男役のイメージがあるだけに、マリー・アントワネットと聞いたときは、イメージがわかなかったのだが、ピンクのバラをイメージしたゴージャスな衣装で登場した凰稀のアントワネットは息をのむ美しさ。ロック調の歌も自然な発声でリズムにもうまく乗っていて、聞いていて心地よかった。芝居も、台詞が自然体でいながら押し出しがあって、いい意味で非常に大きく見えた。後半のクラシック調のソロがやや弱いように聞こえたが、これは演出だったのかもいしれない。
東宝版の「1789」は、アントワネットを天。農民の青年ロナンを地。その恋人オランプは両者をつなぐ存在で、この3人がメーン。今回見たロナンとオランプは加藤和樹と夢咲だった。小池徹平、神田沙也加バージョンに比べて二人とも大柄で、凰稀アントワネットとともに、ずいぶん見映えする舞台だった。
加藤のロナンが、背が高くて美丈夫で決してうまくはないのだが台詞に押し出しがあり、パリに出てきたときに広場で演説するデムーラン(渡辺大輔)やロベスピエール(古川雄大)らとすぐに打ち解けるあたりや、パレ・ロワイヤルでのオランプ(夢咲)との出会いで、オランプが一目ぼれするくだりに説得力があった。一方、夢咲も、さすが大劇場仕込みのスケールの大きい芝居で、感情の起伏を的確に表現、歌の巧拙を超えてこのミュージカルが、オランプが重要な存在であることを強烈に印象付けた。なにより舞台姿が華やかだ。
作品的には、花總、小池、神田バージョンを見たときに思った以上に、フランス革命の発端をそれぞれの立場からわかりやすく描いていることに感心させられたが、「ベルばら」ではないのにアントワネットをことさら肯定的に描いているのにはやはり多少の疑問が残った。
とはいうもののロナンの妹ソレーヌ(ソニン)を歌う革命の女闘士に仕立てたり、群像劇としての人物描写が巧みで、最後まであきさせなかった。「レ・ミゼラブル」に続く東宝のヒットシリーズになる予感がする。
振付も宝塚版とは一新。二幕冒頭の球戯場のバトルダンスも新たな振付になった。男性が入って全体的には迫力が増しているのだが、ここのダンスだけは女性ばかりの宝塚の方がパワフルに感じたのはなぜだろう。
装置は、松井るみが担当しているが、宝塚版とは大きくことなり、大きな跳ね橋のような装置を上げたり下げたりして、宮殿になったり、牢獄になったりするアイデアはスケール感もあって、バックの映像とともに最近の舞台美術では一番すぐれたものといえるだろう。
大阪公演は6日まで。
©宝塚歌劇支局プラス5月30日記 薮下哲司
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