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真風涼帆主演の宙組ミュージカル・プレイ「ヴァンパイア・サクセション」開幕

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    ©宝塚歌劇団



真風涼帆が、現代に甦ったヴァンパイアに!
ミュージカル・プレイ「ヴァンパイア・サクセション」開幕

宙組のホープ、真風涼帆主演によるミュージカル・プレイ「ヴァンパイア・サクセション」(石田昌也作、演出)が、3日、大阪・梅田芸術劇場シアタードラマシティで開幕した。今回はこの模様を報告しよう。

タイトル通りの吸血鬼もの。宝塚では小池修一郎作による「蒼いくちづけ」あたりからヴァンパイアものがジャンルとして登場、思いついただけでも「薔薇の封印」(同)と「シルバー・ローズ・クロニクル」(小柳奈穂子)などがある。ヴァンパイアではないが狼男を題材にした「ローンウルフ」(小池)というのもあった。今回の作品も、永遠の命を持つヴァンパイアの青年が現代のニューヨークに甦るという設定。長年のヴァンパイア生活に疲れ、生血を吸うことを忘れた「退化したヴァンパイア」という設定が笑わせるが、真風のクールなヴァンパイアはひたすらかっこよく、一方、ヴァンパイアを通して人間の生と死についての根源的な部分に迫った石田氏の脚本が奥深く、笑いながらも考えさせられるなかなかシビアなミュージカルだった。

現代に甦ったヴァンパイアの青年アルカード(真風)は、2001年の9.11事件でがれきの下敷きになった少女を救いだしたことがあるのだが、それから十数年後、大学生に成長したその少女ルーシー(星風まどか)とパーティーで偶然再会、彼女の恋人を装うことになったことがきっかけで恋に落ち、人間になりたいと願うようになる…。基本は二人のラブロマンスが軸だが、かつての敵でいまは親友のヘルシング(愛月ひかる)との友情やヴァンパイアであるアルカードを軍事利用しようとする陰謀などがからんで物語が展開する。

幕開きは、すでに老境を迎えたアルカードとルーシーのカップルが、大きく成長したレモンツリーの前で昔を思い出している場面から。やがて姿を消したアルカードをルーシーが犬笛で呼び出すと中央から若々しく変身した真風が登場、同じく若返った星風とともに華やかなプロローグとなる。この場面は、さらっと見逃しがちだが、見終わった後に振り返るときちんと意味があったことがわかる。なかなか凝ったオープニングだ。

場面変わって、ES細胞研究家サザーランド(華形ひかる)大統領補佐官のグレンダ(美風舞良)民間軍事会社の重鎮ハワード(美月悠)らが会議の席で、歴史上の有名な写真の数々に同一人物らしい青年(真風)が映っていると報告を受けている。リンカーンやヒットラーの横に真風がいるのがおかしい。続いて、9.11事件の際、アルカードが少女ルーシーを助け出す場面が舞台上で再現される。ここまでがいわゆる前振り。

本筋は、チンピラとのいざこざに巻き込まれて逮捕されたアルカードが親友のヘルシングのおかげで釈放される場面から。アルカードが699歳であることや退化したヴァンパイアであることなど現在の状況やヘルシングとの関係がここで説明される。ヘルシングが去った後には、アルカードにしか見えない「死に神の派遣社員」というカーミラ(伶美うらら)が登場、さらに偶然通りがかった老女マーサ(京三紗)の一言が、アルカードのその後に大きな影響を与える。その一言とは「人は永遠に生きることよりも、愛に包まれて死ぬことを願う」というもの。この作品のテーマともなっていて、京が切々と歌うソロが聴きものだ。

真風ヴァンパイアを取り巻く人間界の描写に、いつもの石田流の毒気のあるギャグがちりばめられていておおいに笑えるが、それが真風ヴァンパイアのピュアさを増幅して、さわやかなラストにつながった。

真風は、前髪を垂らして、ちょっとくたびれたヴァンパイアを陰のあるクールな雰囲気で演じて際だった存在感、特に難しい役ではないと思うが、とにかくかっこよかった。星組時代に一度経験しているが宙組移籍後初めてのドラマシティ公演。「王家に捧ぐ歌」「シェイクスピア」に次いでの舞台だが、ずいぶん大きくなった印象を受けた。

ヘルシング役の愛月も、真風の親友役というほぼ対等の役どころを、余裕たっぷりに演じて真風を巧みにサポート。男同士のカップルに間違えられる場面は、石田流のきわどいギャグだが、いやらしくなくさらりとかわしたところもなかなかだった。「エリザベート」のルキーニ役が楽しみだ。

ヒロイン役のルーシーを演じた星風は「相続人の肖像」に次いでのまたまた大抜擢。天真爛漫な少女を星風らしい初々しさで演じて抜擢に応えた。真風と並ぶとやや小柄すぎるような気がするが、はちきれんばかりの笑顔が印象的。

もう一人のヒロイン格はカーミラの伶美。「死に神の派遣社員」というちょっと変わった役どころだが、ケバイ衣装も伶美ならではの着こなしで、台詞にも説得力があって、何よりその美貌が映える。後半でその正体が明かされて、ドラマの大きなカギを握る。楽しんで演じている伶美に乾杯だ。フィナーレの最初に真風との短いデュエットダンスがあるが、見栄えのするコンビぶりで切れのあるダンスも魅力的だった。

あとルーシーの元彼ランディ役で和希そらが起用された。星風との相性は真風より、和希の方がぴったり。金髪のヘアスタイルにも工夫の跡が見られなんとも若々しい。

専科から出演した華形ひかると京三紗は二人とも大きな役で舞台を締めた。華形は、ヴァンパイア研究の学者役。華やかさを保ちながらの渋い演技が光る。大劇場での出番がないのが寂しい限り。京は真風ヴァンパイアに人間になりたいとの思いを強く植え付ける心優しい老女役。舞台にいるだけで心和むその存在感は貴重だ。ハーマン役の美月、クリストファー役の松風輝も芸達者なところを見せた。ケガで休演していた留依蒔世が元気に復帰、得意の歌(ラップ)でワンポイントあげたことも付け加えたい。

©宝塚歌劇支局プラス5月4日記 薮下哲司


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