©️宝塚歌劇団
月組新トップコンビ 鳳月杏、天紫珠李プレ披露公演「琥珀色の雨にぬれて」開幕
月組新トップコンビ、鳳月杏、天紫珠李のプレ披露公演、ミュージカル・ロマン「琥珀色の雨にぬれて」(柴田侑宏作、樫畑亜依子演出)とレビュー・アニバーサリー「GrandeTAKARAZUKA110!」(中村一徳作、演出)全国ツアーが22日、大阪・梅田芸術劇場メインホールから開幕した。
初舞台から19年目、満を持してのトップとなった鳳月と101期生の天紫のプレ披露公演として用意された「琥珀色-」は、1984年、高汐巴、若葉ひろみがトップコンビだった花組に合わせて柴田氏が書き下ろした恋愛心理劇。「フィレンツに燃える」同様、ドストエフスキー原作「白痴」にインスパイアされた作品で、語り口の格調の高さもあって人気が高く、初演以来たびたび再演され、今回は2017年の望海風斗、真彩希帆の雪組コンビのプレ披露公演全国ツアー以来7年ぶりの再演。樫畑演出は前回の2017年版をほぼ踏襲、大幅な改変はなかった。
1920年代初頭のパリ。第一次世界大戦が終わった後の自由と享楽の時代を背景に、婚約者がありながら神秘的な美しさをたたえたマヌカンのシャロンの魅力のとりことなった貴族の青年クロードの揺れる思いを描いたアダルトなラブストーリー。舞台はクロードの回想でシャロンとの出会いから別れまでを描いていく。プロローグのタンゴの群舞から時代のムードは最高潮。
親友ミシェル(礼華はる)の妹フランソワーズ(白河りり)との結婚を控え、何不自由ない生活をしていたクロード(鳳月)の前に、衝撃的に現れた自由奔放な女性シャロン(天紫)。クロードはすべてをなげうってその恋に走ろうとするが、フランソワーズの一途な思いに負けて、結局元の鞘に収まる。しかし、1年後、シャロンと再会して思いが再燃、駆け落ちしようとしたところにフランソワーズが駆けつけて……という展開。これを数年後に、いまだ断ち切れぬ思いのクロードが回顧するという優柔不断な男のセンチメンタルな物語。
理想の女性を求めながら手に入れられなかった悔恨の情を、美しく幻想的に描いた、永井荷風あたりが好みそうな題材で、昨今の時代的感覚からするとなんとも男性目線ストーリー。昭和チックで古めかしいが、鳳月、天紫という実力派が演じるとこれがぴったりとはまるからまか不思議、さらにジゴロのルイ役の水美舞斗がクロードとシャロンを張り合うとくればアダルトムードが一面に漂い、作品の世界観から嘘が消え、見ごたえのある舞台に仕上がった。
後半、クロードがシャロンとマジョレ湖の夕焼けを見るために駆け落ちしようと待ち合わせしたリヨン駅に妻のフランソワーズがあらわれる場面が見せ場。高汐、若葉、秋篠美帆の緊張感あふれる初演が思わず浮かんだが、今回の鳳月、天紫、白河の三人もそれに負けない緊迫感があった。
クロードの鳳月は、凄惨な戦場から帰還した体験から、生きる意味を見出そうとする純粋な部分と貴族としてのしがらみの部分の表現のバランス感覚が巧みで人間味を感じさせた。トレードマークのトレンチコートとソフト帽もことのほかよく似合い、トップ披露にはうってつけの舞台だったことは確かだ。
シャロンの天紫は、冒頭、朝もやかすむフォンテンブローの森のなかから取り巻き連中とともに現れ、居合わせたクロードにタンゴの相手を所望する登場シーンから、誰をも引き付ける華やかな雰囲気づくりが巧みで、娘役演技の蓄積を開花させた。「グレートギャツビー」や「応天の門」「月の燈影」などでの豊富な役の経験がシャロンに生きていた。鳳月とのコンビはどちらも気心が知れているという雰囲気があって、見ていて安心感があった。
ジゴロでクロードとシャロン獲得を張り合うルイ役は専科から水美が特別出演で演じた。「ミー&マイガール」博多座公演以来の宝塚公演への出演ということで本人よりファンの方が熱気むんむんといった感じだったが、この役を水美が演じることによって役が大きく膨らみクロードのシャロンへの強い思いがうかびあがることにもなった。タンゴを踊る場面はさすがの存在感で魅せた。
クロードの婚約者フランソワーズは白河。クロードを一途に思う純粋な気持ちが、クロードの気持ちを動かすだけの真摯な力があって、ただ清楚で可愛いというだけではない確かな気持ちがこもった好演。
兄のミシェルを演じた礼華も、この時代の貴族の青年の普通の感覚をうまく表現した。クラブ、フルールの女将エヴァは白雪さち花。さすがの存在感。彼女の薫陶を受けたジゴロたちは七城雅はじめ月組の若手メンバーがずらり。涼宮蘭奈、天つ風朱李、一輝翔琉など若手美形男役の登竜門的役どころだが全員やや青臭いところが弱みでありそれがまた微笑ましい。
レビューは先日まで上演されていた月城かなと、海乃美月のサヨナラ公演用のレビューを、鳳月、天紫のお披露目用に再構成したもの。月をテーマにした全体の構成はほぼ同じで月城と海乃のところに鳳月と天紫が入り、鳳月の場面だった「アバンギャルド」のところに水美ときよら羽龍が入るといった格好。風間柚乃が歌ったロケットボーイは七城が可愛く決めた。中詰めでは鳳月が客席降りして一階後部席までくまなく回り歓声が上がった。クライマックスの「雪月」の場面は「天にきらめく月に舞う」と月組の明るい未来を予感させるコーナーに生まれ変わり、鳳月、天紫そして水美が歌い踊った。フィナーレでもこの3人がふんだんに歌い踊って新生月組をアピール。久々のショー出演となった水美はダイナミックなダンスは花組時代そのままだが鳳月、天紫の新トップコンビを巧みにサポートするあたりがなんとも清々しかった。
初日カーテンコールで鳳月は「どんな感覚だろうとわくわくしていたのですが月組の仲間といつもと同じ感覚でいられました」と大羽根を背負った印象を笑顔で話し、歓声と拍手で総立ちの中、何度も「ありがとうございます」と大きくお辞儀、ファンへの感謝を忘れなかった。