©️宝塚歌劇団
水美×暁 二人のビルを堪能 星組「ME AND MY GIRL」役替わり公演
専科の水美舞斗と星組の暁千星がビルとジョン卿を役替わりで演じる星組公演、ミュージカル「ME AND MY GIRL」(三木章雄脚色、演出)が、博多座で上演中。二人のビルが続けて見られる17、18の両日に観劇、個性の違う二人のビルを堪能できた。宙組公演初日翌日の悲しい出来事の衝撃が尾を引いてまだまだすっきりした気持ちで舞台を見ることがかなわないが、この幸福感にあふれたミュージカルを、宝塚から遠く離れた博多で見ることによって、重苦しさは幾分晴れたように思う。
「ME AND MY GIRL」が宝塚で初演された1987年といえば、劇団四季が「オペラ座の怪人」東宝が「レ・ミゼラブル」初演に向けて大キャンペーンを張っていたころ。宝塚も海外ミュージカルの新作上演の機会をうかがっていたが「マイ・フェア・レディ」の男性版といううってつけの演目「ME AND MY GIRL」に着目、ブロードウェー上陸とほぼ同時に日本での上演権を獲得、剣幸、こだま愛の月組公演として上演を決定、キャッチコピーも「ロンドン、ニューヨーク、宝塚同時上演」だった。
ロンドン版は、ボードビリアン出身のビル役ロバート・リンゼイはじめ出演者たちの熟練した演技とともにかなり高い技量の必要な大人のミュージカル。宝塚移入に当たって、演出の小原弘稔氏は、ビルとサリーの身分違いの恋を前面に押し出して、清潔感あふれる展開に作り直し、これにファンタジー感を付け加えて独自の世界を生み出した。
初演は好評を呼び、すぐさま次の月組公演でも続演するという異例の決定がなされ、月組は1年中「ME AND MY GIRL」を上演することになった。その続演の新人公演でビルに抜擢されたのが入団1年目だった天海祐希、その初々しく清々しい演技で、一夜にしてスター誕生という伝説を生んだのだった。
天海は1985年の退団公演で再びビルを演じ、以来、何度も再演されているが、今回は、2016年、明日海りお、花乃まりあのコンビで再演された花組公演以来7年ぶりの再演。今回の目玉は水美と暁によるビルとジョン卿の役替わり。専科入りして初舞台となる水美と「1789」代役公演の公演で波に乗る暁の競演とあって両バージョンとも見たいというファンが殺到して連日満員御礼、博多座関係者の話によると「博多座開館以来の大入り」という。
舞台は両バージョンともそんなファンの熱い期待を裏切らない素晴らしい出来栄え。水美の大人っぽい色気たっぷりのビル、暁の若々しく天真爛漫なビル、個性の全く違った二通りのビルを堪能できた。バランス的には暁ビル、水美ジョン卿バージョンの方が落ち着いているような気もしたが、水美ビル、暁ジョン卿もほほえましく捨てがたい。これまで何度も見てきた「ME AND MY GIRL」だが、二人の好演もあって今回は特に出来がいい。
水美、暁の役替わりの話題で忘れられがちだが、二人を取り巻く星組共演陣の充実ぶりもその一因。なかでも舞空瞳のサリーが、水美ビルにはちょっぴり大人っぽい雰囲気、暁ビルにはやんちゃな感じ、個性の異なる二人を相手に微妙に違う対応ぶりで、それが実に素晴らしく、2曲ある歌のソロも情感たっぷりで聴かせた。
一方、マリア公爵夫人の小桜ほのかも図書室でのビルとの絡みの舌を巻くうまさ、ジェラルドの天華えまの滑らかな歌声の心地よさ、弁護士パーチェスターのひろ香祐の絶妙の間の演技となんともいえない味のある歌唱、誰もが非の打ちどころがない。これにジャッキー役の極美慎が、男役が女役を演じる時に発散する特有の華やかなスターオーラを存分にまき散らすのだから、もういうことなしなのである。脇がそれぞれ役替わりなしのワンキャストというのも功を奏したようだ。
そして、ビルとサリー、この二人やっぱりランべスに帰るだろうなとにおわせるラストシーンになっているところが一番だった。
1幕ラストの「ランべスウォーク」の客席降りが盛り上がったがフィナーレナンバーも天華×小桜、暁×極美、舞空メーンのラインダンス、水美×暁の燕尾服のダンスとどれもみどころ満載。パターンで変わる舞空と水美、舞空と暁のデュエットダンスは衣装の色も違うという凝り方で最後まで楽しめた。18日のカーテンコールは水美が「きょうからまた若返りました」と笑顔で挨拶すると暁も「昨日までとは見える景色が全然違って新鮮でした。急に腰が悪くなるし」と笑いを誘うなどなごやかそのもの。幸福感にみちあふれた充実した舞台だった。
©宝塚歌劇支局プラス10月18日記 薮下哲司