天飛華音、孤高の作家を熱演、星組公演「My Last Joke」開幕
星組期待のホープ、天飛華音が初主演、孤高の作家エドガー・アラン・ポーの半生に挑んだバウ・ゴシック・ロマンス「My Last Joke」‐虚構に生きる‐(竹田悠一郎作、演出)が18日、宝塚バウホールで開幕した。
萩尾望都原作「ポーの一族」の主人公がエドガーとアランということで、宝塚ファンにもなんとなく親しみ深いエドガー・アラン・ポーだが、ゴシック小説や推理小説などの元祖として後世の作家に大きな影響を与えたカリスマ的存在。そんなポーの愛と苦悩に満ちた実像に迫ったのがこの作品。宙組公演初日翌日の悲しい事件後、大劇場は休演中。再開第一弾としては内容的にやや暗く、見るのが辛いが、天飛はじめ星組実力派メンバーの熱演ぶりに救われた舞台だった。
19世紀前半のアメリカ。若いころに実の両親を失い、育ての親の義母もなくしたエドガー(天飛)は、叔母の家に身を寄せ、他人を寄せ付けず自室に閉じこもって短編や詩の創作活動に専念していた。そんなエドガーの前に年の離れた従妹のヴァージニア(詩ちづる)が無邪気に現れ、エドガーの閉じた心を解き放っていく。周囲の反対を押し切って二人は結婚するのだが、ヴァージニアは若くして病魔に侵されてしまう。年の離れたカップルの報われない愛を芯に作家としてのエドガーの異能ぶりも描いていく。
バウ初主演となった天飛は、蘭寿とむを思わせる見るものを吸い込むような目力があり、それが時に限りなく優しく、限りなくうつろに、また限りなく鋭く突き刺さる。感情の起伏の激しいエドガーを縦横無尽に表現した。苦悩する天飛もいいが、笑顔が魅力的なのでもっと明るい役をみたかったとの思いも残った。
ヴァージニアを演じた詩はとにかくかわいい。「赤と黒」のマチルドのようなしたたかな女性役もうまかったが、ピュアな少女もよく似合う。本来の詩の持ち味がよく出たと思う。
ほかに印象に残ったのはエドガーの才能をいち早く見抜く女性作家フランシスに扮した瑠璃花夏のあでやかさ、エドガーのよき理解者であり物語の進行役も務めたナサナエルの稀惺かずとのさわやかな個性、エドガーと対立する編集者クリスウォルドの碧海さりおの存在感、そしてエドガーの死の影ともいうべき大鴉の鳳真斗愛の不気味な妖しさだった。
作者が思いを募らせているほどエドガー・アラン・ポーという人物の内面と作家としての偉大さが表現できたかどうかは、やや疑問が残ったが、天飛はじめ出演者が懸命に役をそして時代を生きたことは確かな舞台だった。フィナーレナンバーがなく挨拶だけというのは、作品の性質としてわかる気もするが「ME&MY GIRL」の素晴らしいフィナーレを見た後では寂しい感じは否めなかった。
©宝塚歌劇支局プラス10月19日記 薮下哲司