©️宝塚歌劇団 新人公演プログラムより抜粋転載
瑠皇りあ 待望の初主演、月組「フリューゲル」新人公演
月組期待のスター、瑠皇りあ(103期)が初主演したミュージカル「フリューゲル」~君がくれた翼~(斎藤吉正脚本、演出)新人公演(平松結有担当)が7日、宝塚大劇場で開かれた。開始早々、マイクトラブルのハプニングがあったが瑠皇らの機転の効いたアドリブで乗り越え、それを機に全体的に一気にテンションが上がり、新人公演最年長の7年目での初主演となった瑠皇の安定感のある演技が印象的な舞台だった。
ベルリンの壁崩壊直前、民主化の波に揺れる東ドイツで西ドイツのスーパーアイドル、ナディアのコンサートが開かれることになり、その身辺警護を任命された東ドイツ国家人民軍の広報担当ヨナスとナディアが反発しあいながらもお互い同胞として惹かれあっていくさまを中心にした作品で、新人公演は本公演で月城かなとが演じているヨナスを瑠皇、海乃美月演じるナディアを花妃舞音(106期)が演じた。
2人の話のほかにヨナスと生き別れになった母親との話、アフガニスタンで救った革命戦士サーシャの亡命を助ける話、ヨナスを監視する国家保安省ヴォルフ大尉の陰謀などが重層的に絡まり、全体的に展開が性急なのは新人公演も同じ。二人が心を許しあうきっかけとなるナディアが「フリューゲル」をホテルの部屋で爪弾く場面がやや唐突で感情の変化が作者の思うほど観客に伝わらないもどかしさがあったのは新人公演を見て改めて感じた。ナディアが「フリューゲル」を歌う必然性が感じられないのでここをもうちょっと工夫すると、ラストがもっと生きただろう。盛り沢山すぎてまとまりにかけたちょっと残念な舞台ではあるが、新人公演のメンバーは誰もが真摯に役に取り組み、清々しい印象を残した。
新人公演初主演となった瑠皇は、本公演ではサーシャの恋人アランを演じているが、容姿が本役の月城とみまごうばかりの凛々しさで、軍服姿がよく似合い、セリフにも力があって男役としての歌と演技に余裕と安定感があった。開始早々、部長役きよら羽龍のマイクトラブルによる出遅れのアクシデントにも「誰か呼びに行ってこい!」ととっさのアドリブを発し、場を救い、それが逆に功を奏し、その後、舞台全体を引き締める結果となった。コロナ禍で新人公演がなかった時に育ってきた一人だけに、ここで主演出来たことは本当によかったと思う。
ナディアを演じた花妃は研2で抜擢された「今夜、ロマンス劇場で」新人公演以来2度目のヒロイン。生意気盛りのスーパーアイドルがヨナスと出会って徐々に変化して自立していく様子を自然体で表現、アイドルらしいキュートな感じがよく出ていた。
鳳月杏演じるヴォルフ大尉は彩路(あやじ)ゆりか(103期)。元雪組トップ、早霧せいなに似た雰囲気で声までそっくり。7年目での初の大役となった。立ち姿もすっきりしていてセリフもパワーがあり好演だが、本役の鳳月が存在感たっぷりに演じているので比べるのは少々酷だが、この役にはやや線が細い印象。新人公演卒業後の次なるチャンスを待ちたい。
風間柚乃が演じているルイスには研2の雅耀(みやび・よう)が抜擢された。本公演のショー、大正時代の場面でマネキンに扮してその美貌が注目されている新星だ。目鼻立ちがくっきりとしたアイドル的容姿が大劇場によく映え、溌溂とした演技に好感が持てたが、男役としての発声がまだまだ発展途上。とはいえ、今後が大いに期待される逸材の登場だ。
ヨナスの母エミリア(白雪さち花)を演じたのは白河りり(103期)新人公演のまとめ役でもあり、立派にこの舞台のカギとなる役どころを務めあげた。梨花ますみが演じている文化部長役はきよら羽龍(104期)。冒頭のトラブル時、マイクなしで2階まで通る透き通った声で落ち着いた演技を披露、舞台度胸のよさを証明した。これまでにはない役どころだったが、すでに大役を多く経験しているだけに役への適応とともにさすがの対応だった。
ほかに目だったのはヨナスの部下トーマ(礼華はる)の七城雅、監視塔の係員ルドルフ(彩音星凪)の天つ風朱李、大学生ゲッツ(彩海せら)の一輝翔琉、そしてサーシャ(天紫珠李)の羽音みか(103期)といったところ。本公演で桃歌雪が演じている東ドイツの物理学者で物語の語り手アンジーを演じた咲彩いちご(104期)の力強いセリフが新人公演の大きなパワーになっていたことも特筆したい。