写真提供:東宝演劇部
望海風斗×平原綾香 ダブルキャストで競演「ムーランルージュ!ザ・ミュージカル」
2019年にブロードウェーで初演、コロナ禍で上演が中断するも21年に再開、トニー賞を総なめにした話題のミュージカル「ムーランルージュ!ザ・ミュージカル」が東京・帝国劇場で日本初演の幕を開けている。ヒロインを元雪組トップスター、望海風斗と歌姫、平原綾香がダブルキャストで演じる話題作だ。
ニコール・キッドマン、ユアン・マクレガーが主演した2001年のミュージカル映画の舞台化で、1900年代初頭のパリ、作曲家志望の貧乏なアメリカ人青年と高級ナイトクラブ、ムーランルージュの踊り子であり娼婦サティーンの報われないラブストーリーを既成のヒットポップスを自由自在に取り入れた音楽と豪華な装置と個性的な衣装でつづった目のくらむようなスペクタクルミュージカルだ。
とにかくお金がかかっていて、劇場内は赤で統一され、シャンデリアや巨大な象のはりぼてなどあたかもムーランルージュにいるような雰囲気に。半世紀ほど前、ミュージカル「Oh!Calcutta」をムーランルージュで見たことがあるが、その時のうらぶれた感じは全くない。開演前から舞台上にきわどい衣装の男女のダンサーが登場、セクシーな動きや奇術を披露、客席から拍手がわく。観客にパリのナイトクラブに潜り込んだような感覚を持ってもらおうという狙いだ。
ムード作りは満点、さてどんな物語が展開されるのか。ボヘミアンの純情青年クリスチャン(井上芳雄/甲斐翔真)と高級娼婦サティーン(望海/平原)の恋は、一目ぼれから発展、その時点でなにやら悲劇的結末が予想され、二人の間に立ちはだかるデューク(伊礼彼方/K)に対するサティーンのクリスチャンへの愛想尽かしはなにやら歌舞伎の世界、飾りがポップで斬新な割に中身はびっくりするほどオーソドックスで古風。ただそれが逆に今の時代には新鮮なのかも。
エルトン・ジョンの名曲「ユアソング」をメーンに、音楽はすべて既成曲をコラージュしたミュージカルで、松任谷由実はじめ日本を代表するシンガーソングライターが訳詞を担当している。なかでも一幕の終わりに主人公二人が歌う「エレファント・ラブ・メドレー」は一曲の中に10数曲が織り込まれている。ほかにもクラシックやスタンダード、ポップスやロックなど多彩で、どんな世代もどこかで知っている曲に出会うはず。そんな面白さはある。
映画のニコール・キッドマンの印象が強いヒロインのサティーンは、望海と平原のダブルキャスト。
宝塚退団後すぐにオーディションがあり、まだ男役が抜け切れていない時期にこの役に選ばれたという望海。「ダイヤモンドは永遠に」「紳士は金髪がお好き」「マテリアルガール」と登場シーンのダイヤモンドメドレーから、そんなパワフルな持ち味を生かしつつ、安定感のある充実した歌唱と緩急自在の芝居心のある演技で舞台を制した。一方、平原は、登場するさまざまなポップスに声質が合っていて伸びのある歌声がなんとも心地よかった。
クリスチャン役の井上は、「ジェーン・エア」を見た後では、やや若作りかなあと思ったのだが、歌唱力、演技力がずば抜けていて、年齢を感じさせなかった。キャリアの重ね方の巧さというのだろうか。もう一人の甲斐は、そのままの自然体で役にぴったり、歌のフィーリングもよく適役だった。
デュークの伊礼とKはじめアンサンブルに至るまで日本を代表するパフォーマーばかり。なかでもボブ・フォッシー張りのダイナミックな群舞(ソニア・タイエ振付)を踊るダンサーたちのレベルの高さがみもの。フレンチカンカンなど斬新な照明やカラフルな衣装でよく映えた。
公演は8月31日まで帝国劇場で。