劇団四季「オペラ座の怪人」×「ファントム」大阪で同時上演
牧貴美子×真彩希帆、二人のクリスティーヌが競演
ガストン・ルルー原作によるゴシックロマン「オペラ座の怪人」をミュージカル化した二つの作品が、大阪で同時に上演されている。劇団四季「オペラ座の怪人」と梅田芸術劇場製作によるミュージカル「ファントム」で、四季の実力派、牧貴美子と元雪組娘役トップの真彩希帆、二人のクリスティーヌの競演が見どころだ。
原作は、パリのオペラ座地下に棲みつきオペラ座を影で支配していた怪人エリックを主人公に、彼が恋した歌姫クリスティーヌと彼女の幼馴染ラウル子爵との恋の三角関係を中心に展開する怪奇ロマン。サイレント時代から何度も映画化されてきたが、どれも醜悪な顔を仮面で隠した怪人のおどろおどろしい生きざまを描いた猟奇趣味的なB級テイストだったが、そのイメージを覆して普遍性を持たせたのがミュージカル「オペラ座の怪人」だ。
アンドリュー・ロイド・ウェーバー作曲、ハロルド・プリンス演出により1987年のロンドンで初演以来36年にわたってロングラン、日本では劇団四季が88年から現在まで各地で上演を続けている。一方、「ファントム」は、原作を大きく脚色したアーサー・コピット脚本、モーリー・イェストン作曲で、それ以前から企画されながらブロードウェーでは日の目を見ずニューヨーク郊外でのトライアウト公演中に、宝塚歌劇団がインターナショナルバージョンの版権を取得、2004年に和央ようか、花總まりのコンビによって宙組で初演、その後再演をくりかえし、08年には大沢たかお主演で梅芸版が初演され、14年から城田優が引き継いでいる。
同じ原作をもとにしているものの、アプローチが全く違い、ロイド・ウェーバー版が原作をもとに怪人を中心にクリスティーヌとラウルの愛と赦しのドラマに昇華したのに対し、コピット版は、怪人の出生の秘密にポイントに置き、親子愛を前面に出しメロドラマに徹したつくりに仕上げた。続けてみるとロイド・ウェーバーとイェストンの音楽性の違いも興味深い。
劇団四季版は現在、怪人役を4人、クリスティーヌ役を6人、ラウル役を4人のキャストで交互に上演しているが、観劇した7月29日は、怪人が清水大星、クリスティーヌが牧貴美子、ラウルが岸佳宏という配役。カルロッタの河村彩をはじめほかのキャストもほぼ初見の俳優が多かったが、さすが実力派ばかりでレベルの高いステージだった。なかでもクリスティーヌを演じた牧は2018年に研究所入所。「ジーザス・クライスト・スーパースター」で初舞台を踏んだばかりのコロナ後の俳優。これまでのクリスティーヌのイメージを払しょくする大柄の美形、オペラ出身の歌唱の実力に加え、怪人とラウルの狭間で葛藤する姿で時には妖艶な雰囲気も漂わせ、目からうろこのクリスティーヌだった。カルロッタの河村の歌唱も素晴らしかった。
一方、今回の「ファントム」は当初、クリスティーヌ役は、真彩とsaraのダブルキャストの予定だったが、初日当日にsaraの体調不良による全公演休演が発表され、真彩がすべての公演に出演している。演出を19年公演と同じく城田優が担当、ファントムを城田と加藤和樹、ラウルに当たるシャンドン伯爵を城田と大野拓朗のダブルキャストで城田が三刀流をこなしていることでも話題を呼んでいる。
演出を城田が担当するようになってから装置や衣装が豪華になり、今回も幕開きのオペラ座前の場面など出演者が客席から登場するなど華やかなそのもの。シャンデリアが落ちる代わりにファントムが天井から降りてくる一幕ラストもさらに効果的な演出になった。
そんな中、クリスティーヌに扮した真彩のリリカルなソプラノの美声は、宝塚時代からさらに磨きがかかり、冒頭の「パリのメロディ」の軽やかな歌声は、シャンドン伯爵を魅了するに十分。続いて、オペラ座の衣裳部屋でファントムを虜にする「ホーム」、ファントムに歌のレッスンを受ける「あなたこそ音楽」とどれも耳に心地よく、とりわけ二幕のクライマックス、ファントムに顔を見せてと歌う「まことの愛」は鳥肌モノで、史上最高のクリスティーヌといっていい素晴らしさだった。パワフルでダイナミックなロイド・ウェーバーの音楽とは違った抒情性にあふれた曲想が真彩の声質にぴったりあったようだ。
「オペラ座の怪人」には登場しない怪人の母親ベラドーヴァも真彩が早替わりで演じ、こちらではしなやかなダンスも披露、非凡な才能を見せつけた。
作品としての完成度の高さは「オペラ座の怪人」に譲るとして、真彩の存在で大いに点数があがった「ファントム」だった。
「オペラ座の怪人」は27日まで大阪四季劇場、「ファントムは」6日まで梅田芸術劇場メインホール、14日から9月10日まで東京国際フォーラムホールCで上演される。
©宝塚歌劇支局プラス8月2日記 薮下哲司