瑠風輝が成歩堂隆一の先祖に!宙組公演「大逆転裁判」開幕
宙組の人気スター、瑠風輝主演による「逆転裁判」シリーズ第4弾、ミュージカルロマン「大逆転裁判」~新・蘇る真実~(鈴木圭脚本、演出)が、19日、梅田芸術劇場シアタードラマシティで開幕した。2009年に蘭寿とむ主演で初演、同年に「2」13年には悠未ひろ主演でスピンオフの「3」が上演、これまではアメリカを舞台に翻案されていたが今回は、本家帰り、初演の主人公だった成歩堂(なるほど)隆一の先祖・隆ノ介が明治初頭のロンドンで活躍するという話で再登場となった。
カプコンの人気ゲームソフトを舞台化したこのシリーズ。法廷を舞台に無実の罪に問われた依頼人を救うべく主人公が事件の真相を暴いていくゲーム。今回はオリジナルというが、実際の法廷では考えられない無謀な展開が続くので、まともに筋を追っていてはばかばかしくなるので、ここは瑠風のかっこいい「異議あり!」ポーズと出演者たちのオーバーなコメディー演技に大笑いすることに切り替えて、宝塚新喜劇風に割り切って楽しみたい。
イギリスへの留学が決まった親友の亜双葉(あそうば)一真(風色日向)に誘われて同じ船で密航した法学生、隆ノ介(瑠風)だが、途中、亜双葉が事故死してしまい、法学の勉強だけでなくロンドン上陸まで拒否される。たまたま船に同乗していた探偵シャーロック・ホームズ(鷹翔千空)が身請け引受人になってくれることになり滞在が許されることになる。ここまで序盤の10分間足らずで、もうその荒唐無稽な展開にあぜんとするばかり。
同行していた法務助手の御琴羽寿沙都(山吹ひばり)とともにホームズ邸に滞在することになった二人は、その夜に開かれるヴィクトリア女王(小春乃さよ)主催の仮面舞踏会に誘われる。龍ノ介は、そこで日本人留学生、夏目漱石(凰海るね)殺人事件に遭遇、犯人に疑われたホームズが、弁護を隆ノ介に頼んだことから、とんでもない裁判シーンが展開されることになる。
大英帝国の植民地だったゼングファ共和国の大使ブラッド・メニクソン(汝鳥伶)とバッキンガム宮殿の執務長ニーナ・ジョーンズ(天彩峰理)の回想が冒頭にちらりとでてくるのが謎解きのヒントになっているが、ことの顛末は見てのお楽しみ。これまでのフェリックス・ライトものとは違ったべたなコメディー感覚が全編を覆っていて、ツボにはまった客席は爆笑の連続。そんななかで大国に支配される小国の悲哀、戦争の残酷さ無意味さもさらりと描いているが、ゲーム感覚の軽いノリの物語の中ではすべてが虚構に見えてしまうので現実味がなくなってしまったのは計算外かも。
そんなことはさておき初ドラマシティとなった瑠風は、二幕通して詰襟の黒い学生服一着だけという宝塚には珍しく着たきり雀?だが、ショートカットにしたヘアスタイルがすらりとした長身と甘いマスクによく似合ってさわやかそのもの。蘭寿直伝という「異議あり!」ポーズもばっちり決まり、長セリフも難なくこなした。二幕冒頭の夢の場面から現実に戻る場面の仰天早替わりや久々に主題歌を歌いながらの客席降りもあってサービス満点。持ち前の歌唱力もさらに磨きがかかり、バウ初主演だった「リッツ・ホテルくらいに大きなダイヤモンド」のころから思うとずいぶんスターとしての貫禄がついてきたようだ。
ヒロイン格の御琴羽寿沙都役の山吹は、「夢千鳥」の彦乃役で注目したが、その後新人公演ヒロインを3度、バウヒロインも経験、今回は龍ノ介の法務助手という役どころ。龍ノ介とは仕事のパートナーであり、ほのかに恋ごころを抱いているといった間柄。2人してどうやって密航したのかとか、がちがちのホームズ・ファンというありえない設定など細かい疑問は抜きにして龍ノ介の謎解きを強力にサポート。美人で頭脳明晰、誰からも好かれる明るいタイプの女子を山吹ならではの自然体で好演した。
シャーロック・ホームズの鷹翔は、登場シーンからたっぷりつくり込み、まさにゲームの世界の人物という感覚。オーバー気味の演技にはわけがあってそれはラストで明かされるのだが、年頭のバウ主演作よりずいぶん楽しそう、生き生きとした鷹翔にこちらまでうれしくなった。
亜双義役の風色は、龍ノ介の会話には何度も出てくる重要な役なのだが登場シーンからすでに亡霊という難役。短いソロがありそのなめらかな美しい歌声に風色の真価を見たよう。
専科の汝鳥と天彩は前述の役どころで、冒頭から登場、二幕で物語を動かす大きな役となっていく。汝鳥はいまさら言うまでもないが、天彩がちょっとした過去のある難役を彼女ならではの芝居心でさらりと演じて巧演した。
ほかに挙動不審な夏目漱石に扮した凰海、優希しおんが演じた検事バロック・バンジークスなどマンガ的な人物も多数登場、ラストの「大逆転」に疾走する。
とはいうものの装置も衣裳もわざと古めかしくつくり込み、久々鈴木演出ならではの満天の星空の下での瑠風と山吹のラブシーンも含めて昭和の宝塚を見ているような感覚。大劇場の花組公演といい、これといいなんともレトロな舞台だった。
©宝塚歌劇支局プラス7月19日記 薮下哲司