芹香斗亜、17年目のトップ披露「エクスカリバー」開幕
宙組の新トップスター、芹香斗亜のプレお披露目公演、ミュージカル「エクスカリバー」(稲葉太地潤色、演出)が23日、東京池袋の東京建物ブリリアホールで開幕した。6世紀のイギリスを舞台に、異民族の侵略から祖国を救う王に選ばれたアーサー王の物語はこれまで何度も映画や舞台になり、宝塚でも1998年の宙組第一作はじめ3度上演されているが、今回の作品はこれに新たな視点を加えて描いた韓国発のオリジナル。相手役に春乃さくらを迎えて宙組9代目の新トップ、芹香のスタートにふさわしい感動的でパワフルなミュージカルだった。
場内が暗転「宙組の芹香斗亜です」の開演アナウンスが流れると客席からは割れんばかりの拍手。初日独特の高揚感あふれる祝福ムードの中、幕が上がるとプロローグは、予言者マーリン(若翔りつ)が、横暴な王、ウーサー(雪輝れんや)から聖剣エクスカリバーを取り上げ、岩山に封印する場面、松風輝のナレーションによってマーリンがウーサーから長男アーサーを引き離したことも語られる。プロローグから謎めいた荘厳な雰囲気。
そして映像を駆使したタイトルのあと待望の芹香登場。森の中から馬を追って舞台奥から走り抜けてきた芹香は少年時代のアーサーという設定。ブルーの衣装に金髪がよく似合い、若々しいことこのうえなくなんとも魅力的。フレッシュな新トップ誕生を強烈に印象づけた。
物語は育ての親エクター(松風)と兄のように慕うランスロット(桜木みなと)との平和な生活を営んでいたアーサーの前にマーリンがあらわれ、アーサーが亡き王ウーサーの息子であることを告げたことから急展開していく。ランスロットとアーサーが幼馴染であることがまず目新しく、聖剣をいとも簡単に引きぬいたアーサーの前に現われたグィネヴィア(春乃さくら)が従来のお姫様ではなく女戦士であるということも新解釈。
アーサーとランスロットが同時にグィネヴィアに惹かれるという新解釈によって、二幕の展開がわかりやすく納得のいくものに生まれ変わり、芹香の好演とともに王として生きる男の孤独が際立った。聖剣エクスカリバーをもって孤高の王として立ち上がるラストシーンの芹香にトップスターまでの道の険しさがダブり思わず感涙させるものがあった。
「スカーレット・ピンパーネル」「NEVER SAY GOODBYE」のフランク・ワイルドホーンの音楽が実に力のこもったもので、耳に残るメロディアスな曲がないのが残念だったが、どの曲もパワフルでダイナミック。圧倒的な迫力で舞台を制した。
芹香は、ピュアな心を持った少年がそのまま大人になっていく様子をりりしく巧みに表現、安定感のある豊かな歌唱力で、ラストを感動的に盛り上げた。新トップスターのお披露目というセレモニー的な要素は一切ない正攻法のミュージカルだが、内容自体が選ばれし者の苦悩を描いたものだけに、なかなか深味のあるトップ披露公演だった。
初日は夫のワイルドホーンとともに元宙組トップ、和央ようかも観劇、終演後は立ちあがって芹香を声援、大きな拍手を送っていたのが印象的だった。
相手役の春乃は、華やかで明るい個性が、弓矢を持った女戦士といういでたちがよく似合い、新たなグィネヴィア像を巧みに表現した。最初のソロがやや不安定で心配したが、後半は持ち直し、芹香とのデュエットも早くも息がぴったり。芹香の個性とも相性がよさそうで新たなトップコンビの明るい未来が見えたようだった。
ランスロットの桜木は、アーサーの兄貴分という新たな設定。うぶな少年アーサーを何かとリードする役回りで、これまであまりみたことがないトップ、二番手の立ち位置がなかなか新鮮。桜木の芯のある男役演技が魅力的だった。
この物語の影の役として登場する予言者マーリンの若翔とアーサーの異母姉モーガンに起用された真白悠希。二人とも濃い役どころで存在自体すでにインパクトがあるが、この二人の歌唱力が素晴らしく、なかでも二幕ラスト近くの二人のデュエットが圧倒的で、思わず引き込まれた。真白は104期生の男役。「カジノロワイヤル」で若翔が怪演していたツヴァイシュタイン博士を新人公演で演じていたのが印象的だったが、大抜擢に見事応えた形となった。
ほかに専科から出演した悠真倫のウルフスタン、エクターの松風とベテランがわきを固め、アンサンブルの宙組メンバーが村人や戦士など場面が変わるごとに違う役で登場、様々な役でサポート、力強いコーラスを聞かせてくれたのも宙組の底力を感じさせた。なかでも「カジノロワイヤル」新人公演で主演した大路りせが一幕ではウルフスタンの息子、二幕では円卓の騎士と敵味方で奮闘していた。
フィナーレはなくラインアップして挨拶だけというシンプルなものだったが、充実感あふれる舞台に客席からは拍手が鳴りやまなかった。芹香は、公演の実現に感謝の言葉を述べ、客席の和央を紹介「大先輩の前で緊張と不安でドキドキの舞台でした」と笑わせるなど終始明るい笑顔であいさつ。さわやかなトップ披露初日だった。