永久輝せあ、キャラクター再現率100%の好演!「るろうに剣心」新人公演
当日券を求めて連日長蛇の列ができるほどの大ヒットとなっている雪組公演、浪漫活劇「るろうに剣心」(小池修一郎脚本、演出)の新人公演(田淵大輔担当)が23日、宝塚大劇場で開かれた。主演の永久輝以下キャラクターの再現率は本公演のメンバーにもひけをとらない達成率、若々しくもエネルギッシュな舞台を繰り広げた。今回はこの模様を報告しよう。
新人公演の主な配役は緋村剣心(本役・早霧せいな)が永久輝せあ。神谷薫(咲妃みゆ)が彩みちる。加納惣三郎(望海風斗)が諏訪さき。斎藤一(彩風咲奈)が陽向春輝、武田観柳(彩凪翔)が橘幸、四乃森蒼紫(月城かなと)が縣千。高荷恵(大湖せしる)有沙瞳、相楽佐之助(鳳翔大)が真地佑果。明神弥彦(彩)が希良々うみ。そして剣心の影(永久輝)が鳳華はるなといった面々。
新人公演は時間の関係で、オープニング洛西、竹林のシーンと島原の花魁道中の場面をカット。島原で剣心(永久輝)と加納(諏訪)が出会う場面から開幕。あとは少しずつ削ってフィナーレを全面カットした約1時間45分の短縮バージョン。それでも主要キャストのソロはほぼそのままあり、本公演の雰囲気をよく伝えた要領のいい舞台となった。
マンガが原作の舞台で、登場人物のキャラクター設定がはっきりしており、各人そのキャラクターを形で再現することでほぼ出来上がり、難しい心理的描写などはあまり関係のない作品なので、新人公演の若いメンバーにとってもやりやすい作品だったのかもしれないが、新人公演とは思えない充実した仕上がりで、どの役もそのまま本公演の代役に即使えそうな出来栄えだった。
なかでも剣心の永久輝は、アイメイクに工夫のあとがあり、原作の漫画から抜け出てきたような漫画の剣心そっくりの美剣士ぶり。本公演の早霧をお手本にした所作やキャラクターづくりもうまくはまった。「ルパン三世」以来二度目の新人公演主演だが、前回も漫画のキャラクターを好演、新人公演でこういう形から入る役に連続的に恵まれたのはラッキーだ。大劇場はやはり形を見せられることが一番大事だからだ。もちろん歌唱力もなめらかな歌声で高音までよくのびて安心して聴くことができた。この一年で「アル・カポネ」のベン・ヘクトや「星逢一夜」新人公演の源太(本役・望海風斗)といった役を経験、特に源太の経験が生きたのか、形だけでなく薫を気遣う剣心のちょっとした心の動きも巧みに表現できていた。今後の活躍に期待したい。
相手役、薫の彩は、本公演で明神弥彦を好演しており、新人公演もなんとなくその少年役をひきずったような感じ。剣道少女なので元気なのはいいが、少年がそのまま少女になった感じだった。弥彦少年役がうまかっただけに見ているこちらもやや複雑だった。
加納惣三郎の諏訪は、唯一原作にないオリジナルキャラクターということで、お手本は本役の望海だけ。島原の太夫に入れあげるあまり辻斬り事件を起こして新撰組を追放され欧州に逃亡、維新後に帰国して明治新政府を相手に暴利をむさぼる悪徳貿易商になっているという設定。剣心とは因縁の仲でラストには対決する大きな役だ。望海は、そんな惣三郎をフランス語も交えて余裕たっぷり、緩急自在に演じた。諏訪は、望海よりも長身で見た目が派手で、決して器用ではないのだが、存在の大きさで役の雰囲気をよくつかんだ好演。元花組の男役スターで大地真央や平みちと同期生の諏訪アイの長女という。
斉藤の陽向、武田の橘、四乃森の縣は、キャラクターの造形は本役をなぞった形で熱演。それぞれソロもあったが、陽向の銀橋のソロが聴かせた。橘のコミカルな造形は本役の彩凪翔より代役の真那春人を意識したところがあり、細かいギャグを飛ばして客席をわかせるなど、ここぞとばかり場をさらったのはなかなかだった。その点、縣は長身で見映えはいいのだが、動きにもっとシャープさがほしかった。ソロも不安定で課題ありだった。
鳳翔大が演じた左之助の真地は、さすが実力派、完璧なキャラクターづくりで臨み、登場シーンの歌舞伎調の口上はよく声も通り、永久輝と呼吸もぴったりだった。この場面で下手で拍子木をうつのは明神弥彦役の希良々。本役の彩が絶妙に演じているだけに、やや分が悪いが大健闘といっていいだろう。いかにもやんちゃな少年という感じがよくでていた。
娘役では高荷恵役の有沙を忘れてはならない。物語の鍵を握る人物の一人でもあり、剣心をめぐる重要なキャラクターでヒロインの薫とは対照的な役どころだが、有沙は、本役の大湖と比べてもひけをとらない大人っぽさで魅力的に演じ、演技派ぶりを見せつけた。
あと瓦版売り(真那)の叶海世奈、新聞売り(久城あす)のゆめ真音、セバスチャン(香陵しずる)の星加梨杏といったワンポイントがある脇もはつらつと演じて、体の底上げに貢献していた。雪組メンバーの層の厚さが頼もしく感じられる新人公演だった。
©宝塚歌劇支局プラス2月24日記 薮下哲司
○…花組の華雅りりか、羽立光来(はりゅう・みつき)、朝月希和の3人が、26、27の両日、池田市の逸翁美術館マグノリアホールで「第7回マグノリアコンサート・ドゥ・タカラヅカ」(三木章雄構成、演出)に出演、素晴らしい歌声を披露した。幸いなことに追加公演を見ることができたので、この模様も報告しておこう。
歌には定評のあるこの3人、ほかの花組メンバーが「アーネスト・イン・ラブ」と「リンカーン」に分かれている中、このコンサート組に選ばれ、約二か月間、みっちり稽古を積んで、満を持しての本番だ。
ピアノ一台のシンプルなコンサートで、3人の歌を堪能してもらおうという趣向。会場にちなんで「マグノリアの花の如く」の三重唱から開幕したコンサートは、朝月の「素直になれなくて」羽立のオペラ「トゥーランドット」から「誰も寝てはならぬ」華雅のオペラ「リナルド」から「私を泣かせてください」といきなり英語やイタリア語の歌からスタート。どれも自分の歌にこなしていて、3人のこのコンサートに賭ける意気込みがひしひしとうかがえる。このあともミュージカルメドレーや映画音楽コーナーと自分たちの好きな歌を楽しみながら歌い、本来の歌唱力をふんだんに発揮した。
なかでも羽立が歌った「モーツァルト!」の名曲「星から降る金」は本来女性が歌う歌で男役の歌う歌ではないのだが、低音から高音まで見事な使い分けで、これは鳥肌ものだった。朝月は「ファントム」からの「私は真実の愛」華雅は「スカーレット・ピンパーネル」の「あなたを見つめると」と、娘役それぞれの選曲も、微妙に色分けがあって、しかもどちらにもぴったり合っていた。かと思うと二人で「ロシュフォールの恋人たち」の「双子姉妹の歌」をデュエット、これは華やかだった。もちろん次回花組公演の「ミー&マイガール」のメドレーもあり「ランべス・ウォーク」では大いに盛り上がるなど一時間強ではもったいない充実したコンサートだった。
次回は月組メンバーでの公演が予定されているが、大劇場ではなかなか聞けない実力派のスターたちの活躍の場として、もう少し回数を増やしてほしいと切に思った。
©宝塚歌劇支局プラス2月27日記 薮下哲司