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轟悠が主演 ミュージカル「For the people―リンカーン 自由を求めた男―」開幕

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©宝塚歌劇団




轟悠がリンカーン大統領に!
ミュージカル「For the people―リンカーン 自由を求めた男―」開幕

専科のスター、轟悠が花組メンバーとともに奴隷解放宣言で有名なアメリカの第16代大統領リンカーンの半生に挑んだミュージカル「For the people―リンカーン 自由を求めた男―」(原田諒作、演出)が13日、大阪・シアタードラマシティで初日の幕を開けた。今回はこの模様を報告しよう。

リンカーンといえば奴隷解放、南北戦争、そして暗殺。アメリカ史上で最も偉大な大統領として尊敬され、ゲティスバーグでの演説は今回のタイトルにもなっている。ギリシャ悲劇「オイディプス王」に続いて、トップ・オブ・トップス、轟が演じるにふさわしいビッグネームだ。

作、演出は「ジュ・シャント」でバウ・デビュー。「ニジンスキー」を経て「華やかなりし日々」で大劇場デビュー。「ロバート・キャパ」「南太平洋」「春雷」「ノクターン」そして「白夜の誓い」次いで「アル・カポネ」と力作を連発している若手実力派の原田諒。今回は、ひねらずストレートに堂々たるリンカーンの伝記ドラマに仕立てあげた。

国を二分にするほどの大きな問題に、戦争をも辞さず、ゆるぎない信念で敢然と取り組んだリンカーンの半生記を、現在の日本、しかも宝塚で舞台化することに、どんな意味合いがあるのか、思わず深読みしてしまうが、それは別として、これまでの伝記映画の集大成的な側面もあり、政敵との確執はもちろん夫婦愛や親子の絆など人間的な部分も巧みに取り込んで、アメリカ人なら誰でも知っているリンカーンの足跡をわかりやすくたどっている。ただし「シェイクスピア」と違って史実がはっきりしているだけに、あまりに生真面目すぎて、まるで教科書を舞台化したよう。立派すぎて面白みに欠くともいえる。

幕が開くと、上手と下手に13段の木組みの階段(松井るみ装置)が現れ、その前で大勢の黒人奴隷が奴隷商人にこき使われている様子が暗い照明の中、ダイナミックなダンス(AYAKO振付)で表現される。奴隷商人(高翔みず希)のムチがフレデリック(柚香光)アンナ(桜咲彩花)夫妻にも容赦なくふりおろされ、2人はその場から逃げだしてしまう。客席に降りてきた黒人の男女2人が柚香、桜咲とわかるのはその時。真っ黒に塗ったリアルなメイクで最初は誰かまったくわからない。リンカーンが奴隷解放を心に刻み付けるアメリカ南部の奴隷市場の惨状を再現したハードなプロローグにこれがやわな作品ではないことを強烈に印象付ける。

上手から轟が登場、場面は一転、弁護士時代のリンカーンが殺人罪に問われた黒人少年(千幸あき)を弁護する法廷へスライドする。白人殺害容疑で逮捕された黒人が裁判で無実になることなど有り得なかった時代に、無罪を勝ち取とったリンカーンは、その夜、パーティーに出席、そこでトッド家の令嬢メアリー(仙名彩世)と出会う。

ここで華やかな舞踏会が展開、ようやく宝塚らしい場面となる。メアリーは若き政治家スティーブン(瀬戸かずや)からプロポーズされているが、黒人メイドを気遣うリンカーンに他の男性にない優しさを感じ、次第に惹かれていく。スティーブンはこのあと政敵としてリンカーンの前に立ちはだかる重要な存在となる。第一幕は、弁護士から政界に進出、一度は挫折するが、スティーブンが掲げる、奴隷解放は州の自主性にまかせるという玉虫色の法案が通ったことに憤ったリンカーンが共和党を結成、大統領選挙に出馬、見事当選するまで。

続く第二幕は、華やかな大統領就任祝賀パーティーから。作家として成功したフレデリックも出席するなど順風満帆に見えたが、リンカーンの政策に反対する南部諸州が合衆国を離脱したことから暗雲が。やがて南北戦争が勃発、大統領として絶体絶命のピンチに立たされるなか、弁護士時代からの盟友エルマー(水美舞斗)の戦死、長男ボビー(亜蓮冬馬)が北軍に志願するなど難題山積。それでも奴隷解放の信念を貫き通し、憲法を改正して法案を可決、南北戦争終結に導きながら、終戦の6日後、凶弾に倒れるまでを描いていく。

見終わって一番の思いは、信念を貫くことの大切さと辛さ。リンカーンの死後も1960年代まで南部諸州では人種隔離政策が続いていたことを考えたとき、いまリンカーンの足跡を改めて振り返ることは意義のあることに違いない。ラスト、星条旗に変わった階段の中央で高らかに歌う轟にさまざまな思いがよぎった。

轟リンカーンは、冒頭の登場から法廷での弁護の場面、スティーブンとの公開討論会のディベート、ゲティスバーグの演説と、膨大な台詞を鮮やかにあやつり、どの場面もリンカーンその人になり切ったかのような熱演。有名な演説のフレーズを歌詞に取り込んだ主題歌も豊かな表現力で心に響いた。一作品ごと入魂の演技、二幕からリンカーンのトレードマークであるあごヒゲも轟らしく果敢に挑戦、その真摯な取り組みに感銘を受ける舞台だった。

轟のリンカーン以外では瀬戸が演じた政敵であり恋敵でもあるスティーブン役が一番の大役だろう。リンカーンとは信条が異なり、ディベートでも敗北するものの、大統領となったリンカーンの窮地を救って憲法改正に協力する男気を見せる。感情移入しやすい普通の感覚を持つ人物を、瀬戸が凛とした品位を保って演じ、悲劇的なラストには思わず感涙、拍手だ。

柚香は黒人活動家フレデリック。のちのキング牧師を思わせる人物で、リンカーンの半生になくてはならないアクセントになる人物。その黒塗りメイクはそれだけで強烈なインパクト。集会の場面とリンカーン死後にソロがあり、特にラストのソロが感動的で歌唱力の成長をうかがわせた。

メアリー役の仙名は、親の決めた相手を拒否して、リンカーンに人としての優しさを見抜き惹かれていく、しっかりとした自分を持つ女性を、嫌みなくさわやかに演じ、実力派ヒロインぶりを発揮した。轟とのコンビも相性がよかったと思う。

リンカーンの助手エルマー役の水美もそのきりっとした二枚目ぶりが最大限に生かされた好演。二幕で最初に悲劇的な死をとげるが、それも逆に大きなポイントとなった。

長男ボビーは少年時代が聖乃木あすか、青年時代が亜蓮に代わったが、どちらもいかにもまっすぐな感じでよかった。

あと弁護士仲間ウィリアムの鳳真由も好印象、ポーク大統領の和海しょうはワンポイントだったが貫録ある台詞で場を圧倒した。貫録といえばリー将軍の英真なおきは、いうまでもない。故郷を敵に戦うことはできないと、リンカーンから離れていく場面に説得力を持たせた。

公演は23日までドラマシティ。3月4日から10日まで神奈川芸術劇場。





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