星組トップスター、礼真琴を中心にした「Le Rouge et le Noir」+赤と黒+(谷貴矢潤色、演出)が、21日、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで開幕した。「1789」「ロックオペラ モーツァルト」を手掛けたフランスのプロデューサー、アルベール・コーエンが2016年にパリで初演、大評判となったロックオペラの日本初演。クラシカルななかにも映像を駆使した斬新な装置をバックに、フレンチロックの軽快な音楽と赤と黒を基調にしたポップな衣装で繰り広げられる愛憎のドラマ、スタンダールの原作を忠実になぞりながら、鮮やかな現代の舞台に仕立て上げた。
明晰な頭脳と美貌を武器に富と名声を手に入れようとする青年ジュリアン・ソレルの野望と挫折の物語は、ジェラール・フィリップ主演の映画版が有名だが、宝塚でも菊田一夫版の昔から、近くは柴田侑宏脚本、演出による「恋こそ我がいのち」にはじまる一連の作品群が馴染み深い。柴田版もその後「赤と黒」に改題され、直近では2020年、名古屋御園座月組公演で珠城りょう主演により再演されている。
この物語には二番手男役にふさわしい役がなく、柴田版では前半と後半で役を分けるという手が使われてきたが、今回の舞台は、暁千星扮する原作にない歌手ジェロニモをストーリーテラーとして登場させて原作のさまざまな役を受け持たせたところが新味で、暁の所を得た好演もあってスタンダールの長編を歌とダンスでテンポよくダイジェストすることに成功している。
幕が開いてトップハット姿の暁が客席に向かって話しかけるプロローグから快調の滑り出し。暁の紹介で舞台奥から礼扮するジュリアン・ソレルが登場、ポップロック風の主題歌「心の声」を歌い上げると、もうすっかりフレンチミュージカルの世界に。
文学史上、最も魅力的な男性像といわれるジュリアン・ソレルは、前半は上昇志向の強い野心丸出しの傲慢さで反感を強め、後半でピュアな心情を徐々に浮き上がらせていくというのがジュリアン・ソレルのジュリアン・ソレルたるゆえんなのだが、礼のソレルは、最初から世間知らずの初々しい青年という雰囲気で、野望に燃えるギラギラとした感じに欠けていて、前半と後半でメリハリが感じられなかったのがちょっと惜しい気がしたが、礼ならではのキュートなジュリアン・ソレルで押し通し、それはそれで魅力的だった。ウィリアム・ルソー&ソレルの難曲を楽々と歌う実力は礼ならでは、暁との男役同士のコンビ感も実にいい感じだった。
その暁は、原作にないオリジナルのジェロニモという歌手役。時には黒、時には赤の派手なコートを着て歌とダンスでストーリーテリングを任され、後半では原作のコラゾフ侯爵に当たるジュリアンにマチルド攻略のアドバイスをする役割もあるなかなかおいしい役を余裕たっぷりに好演。一幕の礼の歌をバックに暁がダイナミックなダンスを披露する場面は見応え十分、二幕でも二人を中心にしたビッグナンバーがあって歌、ダンスに本領を発揮した。
対照的な二人の相手役レナ―ル夫人は有沙瞳、マチルドは詩ちづる。いずれも適役好演。
有沙は、ジュリアンからの愛の告白によって貞淑なレナ―ル夫人の心が乱れ、崩れていく様子を礼とのデュエットダンスでみごとに表現、一方、詩もはねっ返りだが知的、ジュリアンを翻弄するマチルドをコケティッシュに演じた。なかでも二幕冒頭の歌とダンスが魅せた。
レナール夫人に思いを寄せるムッシュー・ヴァルノに扮したひろ香佑とその夫人、小桜ほのか、マチルドの父親ラ・モール伯爵の英真なおき、フェルバック元帥夫人の白妙なつといった脇筋も充実、ジュリアンへの思いをレナ―ル夫人に伝える召使エリザ役の瑠璃花夏も印象的な役回りを好演した。ジェロニモの眷属として常に舞台を見守る希沙薫のルージュ、碧海さりおのノワールはじめ影の存在も「ロミオとジュリエット」に通じる死生観を舞台に漂わせた。