©️宝塚歌劇団
朝美絢、野望に燃える美貌の医師を熱演「海辺のストルーエンセ」大阪公演開幕
雪組の人気スター、朝美絢が主演したミュージカル・フォレルスケット「海辺のストルーエンセ」(指田珠子作、演出)大阪公演が24日、梅田芸術劇場シアタードラマシティで開幕した。18世紀のデンマークを舞台に、一介の町医者ストルーエンセが、王の侍医から摂政として政権を握るまで上り詰めながら、王妃との不倫の恋で窮地に堕ちるまでの波乱万丈の人生を描いたコスチュームプレイ。シンプルな装置に斬新な照明、新作オペラを見るような美しいステージングが印象的な舞台だ。
サブタイトルについているフォレルスケットとはノルウェー語で「最高にしあわせ」といった意味の日本語にはない表現なのだそう。至福のミュージカルということらしいが、ある意味ではそうとも取れある意味ではそうでもない不思議なミュージカルだった。
主人公のドイツ人医師ヨハン・ストルーエンセはデンマークでは誰もが知る名高い歴史上の人物。「ロイヤル・アフェア 愛と欲望の迷宮」(2012年)など再三映画化され、オペラにもなっているほどだが、日本での知名度は低い。18世紀中半、フランス革命が起きる30年ほど前、自由平等の啓蒙思想が盛り上がりかけてはいるもののまだまだ封建的思想が確固たる時代のデンマーク王室のお話だ。
息苦しい世界を変えたいと野望を持つドイツ人医師ストルーエンセ(朝美)は、ひょんなことからデンマーク王クリスチャン(縣千)の元侍従長ブラント(諏訪さき)と知り合い、王の専属医として王室に入ることになり……。旧態依然とした王室の現実を見たストルーエンセは、王に取り入って政治の実権を握り、様々な改革案を進言する。
ストルーエンセに扮した朝美は、ワークショップを含めるとこれが4度目の外箱主演作。人間みな自由で平等という啓蒙思想に傾倒、世の中を変えようと野心に燃える青年像をストレートに作り上げた。自分の理想を実現するため、周囲の迷惑顧みず猪突猛進しゃにむに取り組んで自滅する姿は、某政治家を思い浮かべて思わず苦笑いしたが、朝美が演じるとその純粋さが微笑ましく、もう少し寛容な気持ちでやれよと思わず応援したくなった。役柄的には少々偏執的なところはあるものの、18世紀ロココ調の斬新なコスチュームプレイは誰よりよく似合った。
アル中で精神を病むデンマーク王クリスチャンの縣。その王妃カロリーネの音彩唯、クリスチャンの元侍従長ブラントの諏訪の3人がそのほかの主要な役どころ。縣は、幼いころから王位につき継母のユリアーネ(愛すみれ)がすべてを差配する王宮で居場所がなく享楽にふけり精神を病む国王役に真摯に取り組み熱演。凛とした立ち姿がますます元宙組トップだった凰稀かなめに似てきたように思う。音彩も、国王との不仲からストルーエンセに惹かれていく王妃役を抜群の歌唱力で納得させてくれた。なかでもストルーエンセが国王の専属医になるきっかけを作り、その後、彼の右腕となっていくブラントを演じた諏訪が本来の実力を発揮、役を大きく膨らませて作品自体の幅を広げた功績は大きい。舞台姿も「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」新人公演のころと比べてずいぶん垢ぬけた印象。
奏乃はるとや真那春人らベテランの活躍も頼もしく、王立劇団の女優スザンナを演じた白峰ゆりの華やかな美貌も舞台を大きく彩っていた。
©宝塚歌劇支局プラス2月25日記 薮下哲司