©️宝塚歌劇団
新人公演プログラムより抜粋転載
月組ホープ、105期七城雅初主演「応天の門」新人公演
月城かなとが、学問の神様、菅原道真の若き日を好演している月組公演、平安朝クライム「応天の門－若き日の菅原道真の事」（田淵大輔脚、演出）新人公演（中村真央担当）が、105期生の七城雅（ななしろ・みやび）の主演によって2月21日宝塚大劇場で行われた。
灰原薬の原作漫画は現在も連載中とかで、舞台もストーリーが完結するわけではないのだが検非違使の長であり歌人でもある在原業平が若き日の菅原道真と出会い、その頭脳明晰さに驚いて、平安時代初期の京の都に跳梁跋扈していた「百鬼夜行」という謎の集団の正体を突き止める手助けを頼むという展開はなかなか面白いアイデア。そして、その正体がわかってもおいそれと手出しできないというというところがなんとも現代的だ。
新人公演は本公演をなぞるようにほぼ忠実に展開、本公演で月城が演じた主演の道真は105期のトップを飾って七城雅が務めた。「今夜、ロマンス劇場で」新人公演で暁千星が演じた大蛇丸を豪快に演じて強烈な印象を残したホープだ。「グレート・ギャツビー」新人公演では鳳月杏が演じたトム・ブキャナン役を演じたらしいが、宝塚での公演が中止となり、東京での新人公演のライブ配信を見逃したので、今回が本拠地での初の大役見参ということになった。七城以下はじめて認識する顔が多く、フレッシュで生きのいい新人公演らしい新人公演という印象。
七城は、初めて見た大蛇丸とはうってかわって登場シーンから若々しく健康的でさわやかな印象。若き日の道真というにふさわしい佇まい。そのまま自然体で最後まで演じぬいた。トム・ブキャナンを見ていないので何とも言えないが、役としてはこちらの方が七城に合っているようだ。いずれにしても幅広いリクエストにきちんと応えられるスキルをすでに持ち合わせているということは、今後の活躍を期待されている証だろう。
鳳月が演じた業平にはさらに下級生の107期の一輝翔琉（いちき・かける）が抜擢された。彼女も研1の時に阪急の初詣ポスターに起用されるなど劇団期待のひとり。長身で立ち姿が美しく、すっきりとした表情がなんともりりしい。「グレート・ギャツビー」新人公演では春海ゆうが演じたアンソニー役だったから、劇団の期待値の大きさがわかろうというもの。道真より年上という設定の業平役は、研2という若さではかなりの難度だったと思うが、そのゆったりとした貴族的風情を鳳月にならってよくにじませた。さすがに本役の月城と鳳月のような親密なバディ感は出なかったが、これが本来の距離感かもと思わせる納得性も持たせていた。歌唱はまだまだ発展途上といった印象だが、これはこれからの努力で何とでもカバーできそう。スターオーラの輝きは格別だった。
海乃美月が演じた昭姫は103期の羽音みか。新人公演の長の期で初ヒロインを射止めた。道真より年上という設定なので、こちらは七城とのコンビがぴったりだった。姉御肌的なきっぷのよさといった雰囲気を巧みに表現、新人公演全体のまとめ役的な存在でもあった。
風間柚乃が演じた藤原基経は同じ103期の瑠皇りあ。「グレート・ギャツビー」新人公演でも風間が演じたニック役を演じており、演技巧者として信頼度が高いのだと思うが、今回もこの舞台の軸となる基経を腹芸も含めて立派に務めあげた。
天紫珠李が演じている藤原高子は「グレート・ギャツビー」でヒロインのデイジー役を演じた104期のきよら羽龍。すでに大役を何度も経験済みで、この舞台で最も難しいとされる高子役を存在感たっぷりに体現した。平安朝らしい衣装を着る役が少ない中、唯一終始華やかな衣装で登場、その美貌が一段と輝いた。業平に扮した一輝と一度だけ目を見合わせる場面があるのだが、その美しさに思わず息をのんだ。一時、部分休演していたので心配だったが元気そうで安心した。
ほかに印象に残ったのは千海華蘭が演じた清和帝を演じた天つ風朱李（107期）。娘役が演じているのかと思うほどの高い声で演じ、少年天皇らしい初々しさを品格とともによく表現していた。礼華はるが演じている藤原常行を演じた105期の遥稀れおの清涼感あるさわやかな演技も目に焼き付いた。
©宝塚歌劇支局プラス2月22日記 薮下哲司