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早霧せいな、望海風斗またまた一騎打ち!「るろうに剣心」開幕!
和月伸宏の同名ヒット漫画を舞台化した浪漫活劇「るろうに剣心」(小池修一郎脚本、演出)が5日、宝塚大劇場で開幕した。1月9日チケット発売と同時に全期間完売、初日から連日、当日券を求めて長蛇の列ができるなど「ベルばら」なみの異常人気となっている。今回はこの話題の公演の模様を報告しよう。
幕末から明治維新の日本の一大転換期を舞台に、倒幕派の刺客として名をはせた「人斬り抜刀斎」こと緋村剣心を主人公に虚実さまざまな人間関係を描いた原作をもとに、宝塚のエース、小池氏は原作にない新たな人物も登場させ、一大エンターテイメントに仕立て上げた。たまたま現在放送中のNHK朝のテレビ小説「あさが来た」も同じ時代を舞台にしており、裏表の世界として重ね合わせてみるとさらに面白い。
冒頭は、洛西の竹林。長州藩の維新志士、桂小五郎(蓮城まこと)と山縣狂介(夏美よう)井上聞多(美城れん)の前に反幕府勢力の鎮圧を図る新撰組の隊士たちが立ちはだかり斬りかかろうとするところ、忽然と現れた一人の剣士、緋村剣心(早霧せいな)が隊士たちを瞬時になぎ倒す。マンガの世界から抜け出したような早霧のビジュアルと役に対する作り込みが見事だ。
劇団新感線なみの刀と刀が当たる音の効果と、立ち役が刀を振るうと相手が勝手にばたばたと倒れる歌舞伎の殺陣を、群舞の動きを取り入れながら巧みに処理した殺陣(殺陣・森大)が鮮やかに決まる。早霧が刀を振るうたびに後ろの竹林が次々と倒れるあたりもスケール感を感じさせた。まずは、幕末における剣心の立場をここでしっかりと見せつけて、場面は島原の遊郭へ。華やかな花魁道中に転換する。剣心の宿敵、新撰組隊士・加納惣三郎(望海風斗)がここで登場。小五郎の愛人、朱音(あかね)太夫(桃花ひな)に岡惚れした惣三郎が太夫をわがものにせんと辻斬り騒ぎを起こし、そこで剣心と相まみえることになる。ここらあたりの緩急自在の展開は息もつかせない。
そして場面は10数年後の明治11年。不殺(ころさず)の誓いを立て、流浪人となった剣心だが、刀を差していたことから、道場の師範代、薫(咲妃みゆ)に、偽抜刀斎に間違われ、呼び止められる。スリの少年、明神弥彦(彩みちる)や剣心に心酔する佐之助(鳳翔大)も登場、元新撰組隊士で現在は警部補の斎藤一(彩風咲奈)加納と組んで阿片で一攫千金を狙う武田観柳(彩凪翔)元隠密の四乃森蒼紫(月城かなと)さらに女医の高荷恵(大湖せしる)らも登場して主要人物がそろい、物語は急展開していく。倒幕派、幕府側などが入り乱れ登場人物が多く情報量は結構多いのだが、それぞれのキャラクター設定が際だっていて、非常に分かりやすい。特に左之助登場の歌舞伎まがいの「見得」はこれまで見たことがない鳳翔の大きな演技で魅せた。
幕末から明治へ、新しい時代に希望をもったものの、庶民にとっては上が変わっただけで何も変わらず、機を見るに敏な者たちが時代を背負っていくという図式は、昔も今も変わらず、フランス革命後の混沌とした時代を描いた小池氏の傑作「スカーレット・ピンパーネル」を思わせるところもある。特に後半は横浜のフランス商館でストーリーが展開することからよけいにだぶった。
作劇的にやや意外だったのは剣心と加納が恋敵ではなかったことだった。幕末からの因縁の関係であることについてはよく描かれているが、薫を軸にした三角関係とはならなかったところが宝塚的にはやや物足りなかったか。また加納が登場したことで、彩凪が演じた武田がずいぶん小悪党になってしまったのももったいなかったかも。それに対して月城が演じた四乃森のビジュアルがニヒルで抜きんでてかっこよかったのと、永久輝せあが演じた剣心の影の設定が、出番は多くないのだが、永久輝のクールな好演とともに強烈なインパクトを残したのが、宝塚版「るろ剣」の大きな特徴だった。
原作の冒頭の部分に新たな登場人物を加えての展開だが、変わりゆく時代の流れのなかに生きる人々の業がそれぞれに浮かび上がり、かといって暗くならず、誰もが楽しめる娯楽活劇に仕上がった。宝塚にまた新たなヒット作が誕生したと言えるだろう。
その一番の功績は剣心を演じた早霧であることはいうまでもない。マンガから抜け出てきたようなその美しいビジュアルと激しい殺陣の身体能力の軽さにはため息がでるほど。彼女の能力の限界を巧みに引き出した振付陣の仕事も鮮やかだった。普段のゆるさから一瞬にして人斬りの目つきになる剣心独特の変わり身を工夫すればさらにクールな剣心になるだろう。
望海の加納は、望海ならではの役どころで、ほかに考えられないほどの見事さ。ラストには「星逢一夜」に続いて再び早霧との死闘も用意され、これ以上ない二番手のおいしい役を楽しげに演じて見せた。フィナーレの歌手と群舞のセンターも堂々としてもはや貫禄さえ漂った。
薫の咲妃も彼女の個性にはこれが一番なのではないかと思うほどのはまり役。「星逢一夜」の泉のときは、それが一番と思わせるなど、何でもこなせる力量は並大抵ではない。
あと彩風、彩凪の彩彩コンビもどちらもそれぞれ個性にあった役に恵まれ好演。彩風は独特の剣の構え方がかっこよく、彩凪は本来は一番の大悪党なのだが、黒いが軽い小悪党に作り込み、それが似合っていた。どちらもソロがあり、彩凪のガトリング銃(マシンガン)を構えて歌う歌が面白かった。
そして前述した四乃森の月城と剣心の影の永久輝がどちらも際立って素晴らしく、上り調子の勢いを感じさせた。あと左之助の鳳翔もおいしい登場場面で一気に観客をわし掴みにした。そして忘れてはならないのが弥彦少年役の彩の好演。娘役とは思えない芯のあるクリアな台詞と少年らしい闊達さが素晴らしく、なにより可愛かった。
©宝塚歌劇支局プラス2月8日記 薮下哲司