©️宝塚歌劇団
月城かなとが若き日の菅原道真に、月組公演「応天の門」開幕
月城かなとを中心とする月組による平安朝クライム「応天の門」‐若き日の菅原道真の事―(田淵大輔脚本、演出)とラテン グルーヴ「Deep Sea」―海神たちのカルナバルー(稲葉太地作、演出)が2月4日、宝塚大劇場で開幕した。「応天の門」は月刊コミックパンチで連載中の歴史漫画の舞台化で、荒唐無稽な時代物かと思いきや、ややコミカルタッチではあるが本格的な装いの日本物。一方、ショーは謎めいた深海を舞台にしたエネルギッシュなラテンショー、寒さを吹き飛ばす熱い二本立てだった。
「応天の門」は、「源氏物語」や「枕草子」に描かれる華やかな文化が咲きほこる少し前、まだ不安定な時代の平安時代前期を舞台に、天皇を中心とする権力の中枢をいかに掌握するか、藤原氏はじめ有力貴族が覇権を争うさなか、菅家の若き秀才、菅原道真と色男で名高い検非違使の長、在原業平が、当時、京の都を跳梁跋扈していた「百鬼夜行」の正体を暴いていくというストーリー。
この時代のものでは柴田侑宏氏が稔幸と星奈優里の主演で舞台化した星組公演「花の業平」がある。十二単などきらびやかな王朝装束が生まれる前なので黒がメインの男役はじめ娘役も衣装が唐模様でずいぶん地味なのと、装置が全体的に暗いが、コミック原作らしいユーモアにあふれ、真面目な道真役の月城と鷹揚な業平役の鳳月杏の絶妙の間合いによるバディ感覚のかけあいが楽しめる。月組の豊富な人材を生かすために、貴族や庶民など多くの役を作り、しかも何度も回想場面を挿入するなどやたらに登場人物が多く、一見、人間関係が複雑そうに見えるが、基本的には道真と業平が風間柚乃扮する藤原基経と対決する話であると頭に叩き込んでいればすんなりと物語に入っていける。そして、夢を追うより足元をしっかり見定めて人と共生することが大切という隠れテーマが清々しかった。
月城は、学問の神様といわれる秀才、道真の正義感あふれる青年時代をみずみずしく表現、黒の烏帽子にくすんだ緑という地味な衣装ながらその目力で最後まで見せぬいた。魂鎮めの祭りでの華やかな衣装で舞うサービス場面もあり、コミックなくだりも月城ならではの達者さでわかせていた。
業平役の鳳月はまさにうってつけの適役。月城扮する道真との絡みの面白さもさることながら、天紫珠李扮する藤原高子との大人な関係を二人のからみなしで見せ切ったのはさすがだった。
海乃美月は、元唐の後宮の女官だったが訳あって京の都にたどり着き、唐渡りに品を扱う店や遊戯場を経営している昭姫(しょうき)役。百鬼夜行に一味をかくまっているという噂を聞いて道真が訪ねたことがきっかけで捜査に協力する。世間知らずだが頭のキレる道真に自然と惹かれていくという展開。人の世の裏表を知り尽くし、逞しく生きる女性を闊達に演じた。海乃ならではの適役好演。
政治の実権を握ろうと画策する藤原良房(光月るう)の養嫡子、基経役の風間柚乃。良房と共謀して時の帝、清和帝(千海華蘭)の後宮に入らんとする多美子(花妃舞音)を毒殺しようとするなど目的のためには手段を選ばない冷徹な青年を、風間ならではの影を見せながら演じ、役を大きく膨らませていた。
天紫が演じた藤原高子は、良房の姪で清和帝に嫁ぐことが決まっていながら業平と駆け落ち、引き裂かれるというドラマチックな人生を送る女性で、この舞台でもいわくありげに登場するが、今回は本筋の人物ではないのでやや中途半端な描かれ方なのが惜しいものの天紫らしい品格で好演した。
この公演で退団する光月の良房、千海の清和帝、いずれも愛のある演技で退団が惜しまれる。大師役で華やかに舞った結愛かれんの舞姫ぶりも目に焼き付けておきたい。
ショー「Deep Sea」は、深海で海神たちがカーニバルを楽しんでいるという設定のダイナミックなラテンレビュー。暗い海の底、海神の遣いたちが誘う中、暗闇が明転すると純白に色とりどりの飾りがついたラテンの衣装に身を包んだ月城を中心に月組メンバー全員が総踊り。華やかなプロローグから数々の深海のカーニバルが繰り広げられる。中詰めのあとの礼華はる、彩海せらを中心とする16人の若手男女が激しく踊るS6「Groovy Grove(眠れぬ夜)」(平澤智振付)が素晴らしいが、最大の見どころ聴きどころはそのあとのS7「Sanctuary(秘密の花園)」(若央りさ振付)だろう。風間柚乃のソロの絶唱にあわせて月城と花園の女に扮した鳳月が息の合った妖しいダンスで魅せた。
フィナーレは5人のエトワールが役替わりで登場するという新趣向。初日は天愛(あまな)るりあがよく伸びる透き通った歌声を披露、たっぷり聴かせてくれた。
©宝塚歌劇支局プラス2月4日記 薮下哲司