©️宝塚歌劇団
宙組期待のホープ、鷹翔千空初主演「夢現の先に」ライブ配信
宙組の若手男役ホープ、鷹翔千空の宝塚バウホール公演初主演となったバウ・ドリーミング「夢現(ゆめうつつ)の先に」(生駒怜子作、演出)が16日、ライブ配信された。本来はこの日が千秋楽だったが、公演関係者から新型コロナウィルス感染者が出て5日に初日を開けただけで中断、13日から再開されたばかり。観劇するはずの公演が中止になってしまい配信での観劇となった。追加公演が決まり公演は21日まで延長されることになったのは喜ばしい。
「夢現―」は、毎晩、同じ悪夢にうなされるのが日常となった”僕”アベル(鷹翔)が、夢の中に出てくる”彼”マルリン(亜音有星)の世界で、日頃ひそかに恋焦がれている”彼女”エマとそっくりな女性をみつけ、マルリンたちの助けを借りて、目覚めてからエマ(山吹ひばり)に告白、見事大成功するのだが……。夢と現実を交錯させながら展開する青春ファンタジー。鷹翔の初主演で宙組若手が大挙出演、加えて生駒氏も演出家デビューということで、全体としては非常に初々しくピュアな印象。
アベルがなぜ同じ夢を何度も見るのか、夢に登場するマルリンとは何者か、といった謎解きは後半で分かる仕組みになっているのだが、前半のアベルとエマの初々しいラブストーリーがマルリンの正体が判明する後半とうまくつながっておらず、ストーリーとして全く別物になってしまって、なんだか消化不良な感じ。アベルがエマと幸せになって夢を見なくなり、マルリンが寂しそうな表情をするようになるあたりに後半への伏線があるのだが、何の情報も与えられない観客にはやや無理があるように思った。このあたりは作者の若気の至りか。
それはそれとして初主演の鷹翔は、真面目で女性に対してはおくてな青年を清々しく演じて好演。元月組トップの龍真咲に面影が似ていて、舞台姿をみていると下級生のころの龍がいるような錯覚にとらわれるほど。透き通った歌声やせりふ術などは全く異なるのだが、不思議な感覚だ。
マルリンに扮した亜音は、鷹翔とは全く異なった甘さのあるアイドル的個性の持ち主で、主人公の夢の世界の登場する謎の青年という役どころをその雰囲気だけでみせきったのはなかなかのものだった。
ヒロインのエマに扮した山吹の実力は昨年のバウ公演「夢千鳥」で実証済みだが、今回も臆病なアベルに対して積極的に向かっていくタイプの女性を脚本に書かれた以上に素敵に表現していて役を大きく膨らませていた。何より一目で際立つ整ったスタイルと美貌の持ち主であることが一番の強みだ。
101期の鷹翔が主演ということで、104から107期生のこれからの宙組を担う若手が大挙出演しているフレッシュな公演で、なかでも目立ったのが花屋の店員フランクを演じた大路りせ。長身で甘いマスクが印象的。夢の世界に登場する羊たちのなかでもメロ役の泉堂成と途中から仲間に加わるメイ役の奈央麗斗の2人が新人公演でも抜擢されていただけの存在感があった。あとこの公演で退団する朝木陽彩もフランクに片思いする花屋の店員モニカを好演、アベルの少年時代を演じた風翔夕のすっきりした容姿も目に焼きついた。
©宝塚歌劇支局プラス1月16日記 藪下哲司