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月城かなと、美貌に傷をつけて好演「ブラック・ジャック」ライブ配信
月組トップスター、月城かなと主演による全国ツアー公演、ミュージカル・ロマン「ブラック・ジャック」~危険な賭け~(正塚晴彦作、演出)ジャズ・オマージュ「FULL SWING
!」(三木章雄作、演出)の4日に行われた福岡公演の様子がライブ配信された。
マンガの神様、手塚治虫原作の傑作シリーズを舞台化した「ブラック・ジャック」~危険な賭け~は、1994年、手塚治虫記念館が宝塚大劇場横にオープンしたのを機に、安寿ミラを中心とした花組でショー「火の鳥」(草野旦作、演出)とともに上演された作品。主人公のブラック・ジャックが顔に傷のある無免許の医師という設定で、主演の安寿がトップスターとして初めて顔に傷をつけて登場するというので公演前にメーキャップ発表会を開くほどの話題作だった。以後、別バージョンが未涼亜希主演によって雪組で上演されているが、オリジナルバージョンは28年ぶり、ブラック・ジャック連載開始50周年を記念しての再演だ。
1980年代の中南米の某国。天才医師ブラック・ジャック(月城かなと)は英国情報部の依頼で、軍事クーデターにより命を狙われたビクトリア女王(麗千里)の命を救う。その報酬を受け取るためロンドンのヒースロー空港に到着したとき、混雑するロビーで突然倒れこんだブックメイカー(賭け屋)のケイン(風間柚乃)を鮮やかな手つきで処置する。ケインの元恋人アイリス(海乃美月)からケインの手術を依頼されたブラック・ジャックは最初は断ろうとするが、アイリスが昔の患者で恋人だった如月惠に瓜二つだったことから心が揺らぐ・・・。
マンガがモノクロということで舞台も出演者の衣装や装置をモノクロのトーンで統一、血の赤だけを強調した舞台は、初演をそのまま踏襲、正塚作品らしいスタイリッシュなムードが色濃く漂い、80年代という設定がかえって新鮮で、いまみても古さを感じさせない。高橋城作曲による主題歌「かわらぬ思い」はいまや宝塚を代表する名曲に数えられ、初めて観るファンも月城の朗々たる歌唱にすっかり納得しただろう。
ストーリーはほぼ初演通り。月城のブラック・ジャックはそのクールなたたずまいが役柄にぴったりとあって適役好演。アイリス役の海乃美月も知的な情報部員という役がうまくはまった。初演で真矢みきが演じた元情報部員ケイン役の風間も、頭に爆弾を抱えながらも生き急ぐ男の焦りのような感覚を巧みに表現、そのクリアなセリフ回しがここでも効果的だった。
愛華みれが演じたケインの相棒ジョイは礼華はる。長身と甘いマスクが映えてさわやかな印象。匠ひびきが演じたブラック・ジャックの影には入団2年目の一輝翔琉(いちき・かける)が抜擢され好演したのも注目だった。原作から唯一の登場人物ピノコは美海そらが起用され独特のセリフ回しで強く印象付けた。
ショー「FULL SWING!」は、今年の年頭に上演されたものの続演だが、初演の鳳月杏、暁千星ら主要キャストが出ていないので、役替わりや新しい場面への変更があり、鳳月のところに風間、暁のところに礼華や夢奈瑠音が入るなどしてカバー。月城のウェートがぐっと増したようにも見え、なかなか新鮮な舞台となった。エトワールは風間が務め、公演の二番手としての責任を全う、今後のさらなる活躍に期待したい。
©宝塚歌劇支局プラス12月4日 薮下哲司