©️宝塚歌劇団
礼真琴、2022年有終の美、星組公演「ディミトリ」千秋楽
礼真琴を中心とする星組よる浪漫楽劇「ディミトリ~曙光に散る、紫の花」(生田大和脚本、演出)メガファンタジー「JAGUAR BEAT―ジャガービート―」(斎藤吉正作、演出)が13日宝塚大劇場で千秋楽を迎えた。長い入院生活で初日を観劇できず、新人公演から観劇するという逆パターンになってしまったが先日、本公演を無事観劇、千秋楽も観劇することができた。
「ディミトリ」は、13世紀前半、東ヨーロッパの小国ジョージアを舞台にした物語。礼扮するディミトリは、隣国ルーム・セルジュークの第4王子。友好の証しとして人質としてジョージアの王宮で育ち、ジョージア国王ギオルギ(綺城ひか理)の妹、ルスダン(舞空瞳)とは幼いころから心を寄せあっていた。しかし、平和な日々は突如来襲したモンゴルのチンギス・ハーン(輝咲玲央)の軍勢によって破られる。国王ギオルギが瀕死の重傷を負い、ルスダンを女王、その王配にディミトリをという遺言を残して世を去る。二人にとっては思いがけない幸せだったが、そのことが国の実権を握る副宰相アヴァク(暁千星)らの反発を招き、さらにはジョージアと同じくモンゴルに侵略され国土を失った亡国ホラムズの帝王ジャラルッディーン(瀬央ゆりあ)の侵攻も相まって、二人の前途には思いがけない人生が待ち構えていた。
並木陽原作の「斜陽の国のルスダン」をもとに生田氏が脚本化、次々と目まぐるしく展開するストーリーを物乞い(美稀千種)を進行役にわかりやすく説明、最後まで目の離せないドラマチックな舞台に仕上げている。「今夜、ロマンス劇場で」から始まった2022年の大劇場の新作群の中でも「蒼穹の昴」に並ぶ出来栄えといっていい。
本来ならハッピーエンドになるはずの二人が、戦争によって引き裂かれ、流転の人生に流されていくという展開が、まさに今日的で、しかも舞台がジョージアという場所であることも含めて、2022年の最後を締めくくるにふさわしい作品だった。
内容もさることながら宝塚歌劇としての見せ場も心得たもので、まず生田氏が魅せられたというジョージアンダンスを戦闘場面で効果的に使ったほか、礼と舞空のトップコンビはじめ瀬央とこの公演から星組大劇場公演に参加した暁とのバランス、そしてこの公演が星組最後となる綺城、白人奴隷ミへイル役の極美慎の起用法などまことに的を得ていて、それぞれの個性が生かされているのが見ていて気持ちがよかった。
ディミトリに扮した礼には、陰のある王子という役柄がぴったりあって、後半の大きな山場もしっかりと見せ抜き、男役としてもさらにグレードアップした感。ルスダンの舞空は、無垢な少女からは母として女王として成長していく様を丁寧に表現、見事なヒロイン芝居をみせてくれた。
帝王ジャラルッディーンの瀬央の鮮やかな登場ぶりと貫禄、そして副宰相アヴァクに扮した暁のディミトリへの嫉妬からくる狡猾さの表現もなかなか見事で、最後に翻意、ルスダンに忠誠を尽くすという誓いの言葉に力強さがみなぎった。
国王ギオルギの綺城の見事な包容力、その妻バテシバの有沙瞳も好演。ただ有沙の出番があまりにも少ないのは残念だった。白人奴隷ミレイルの極美はワンポイントだが個性を生かした役どころで印象的だった。
ほかにジャラルッディーンの側近ナサウィーに扮した天華えまも目に焼き付いた。娘役はタマラ王女に抜擢された藍羽ひよりのほかは小桜ほのか、瑠璃花夏、詩ちづるがリラの精、水乃ゆりが女官長というのはちょっと贅沢だった。
とはいえ美稀扮する物乞いが支配するこの舞台、おおいに見ごたえがあったといっていいだろう。
「ジャガービート」は、礼をジャガーに例えて、ノンストップで走りまくる体力勝負のショー。オープニングに暁が登場、ラインダンスが前半にあったり、燕尾服の群舞のあとにはデュエットダンスという定番を外したつくりで、綺城が青、暁が黒、赤が天華、白が極美と衣装も脱オーソドックス、それはそれで面白いが、あまりのスピード感に見る方が疲れてしまった。
暁が新加入しただけで星組の雰囲気ががらりと変わったのはえらいもの。礼と暁のダンスのからみもあってそこは新鮮だったが、芝居の余韻が吹っ飛んでしまうほどのパワフルなショーだった。