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帆純まひろら花組若手が谷崎文学に挑戦、バウ公演「殉情」&
吉田優子作曲家生活40年記念コンサート
花組のホープ、帆純まひろと一之瀬航季がダブルキャストで競演するバウ・ワークショップ「殉情」(石田昌也監修、脚本、竹田悠一郎潤色、演出)が帆純バージョンから一足お先に宝塚バウホールで開幕した。
「殉情」は、谷崎潤一郎原作の「春琴抄」のミュージカル版で、古くは大地真央、春風ひとみの主演による月組大劇場公演「愛限りなく」(内海重典脚本、演出)として上演されているが、今回上演されたのは1995年に星組時代の絵麻緒ゆう主演で上演されたバージョン。好評につき絵麻緒が雪組移籍後に再演され、その後も宙組時代の早霧せいなが蓮水ゆうやとのダブルキャストで今回と同じワークショップとして再演されている。
今回は石田氏が監修に回り、若手の竹田氏にバトンタッチしての上演で、大学生マモルがゼミの石橋教授とともに恋人のユリコに「春琴抄」を解説していくという全体の構成はこれまで通りだが今回はその二人にストーリー性を持たせたのが新味。今回のバージョンではマモルを希波らいとユリコに美里玲菜、教授に紅羽真希が扮した。
明治初期の大阪・道修町の薬問屋。盲目の娘春琴に仕える佐助の愛と献身、美しくも残酷な究極の愛を貫く本筋は佐助が帆純、春琴を朝葉ことのが演じた。
帆純は、早霧を彷彿させるさわやかな個性が最大の武器だが、そんな持ち味を生かしてひたすら女主人に献身的に仕える佐助を演じ、見る者の共感を勝ち取った。不器用なまでに一途な佐助の身上ガストレートに伝わった。
一方、お琴の朝葉はわがままな大店のお嬢さん。佐助をとことん従える嫌われ役を迫真の演技で見せ切った。いわゆるヒロインタイプではないが実力派娘役として今後の活躍をおおいに期待したい。
春琴の両親役で羽立光来と美風舞良というベテランを配し、番頭役の高峰潤も手堅くまとめ、丁稚グループでは末吉に扮した涼香希南のスター性豊かな容貌に注目した。
帆純バージョンは21日まで、引き続き30日から11月7日まで一之瀬バージョンが上演される。
一方、10月15日、池田市内のマグノリアホールで宝塚歌劇団初の女性作曲家、𠮷田優子さんの作曲家生活40年を記念するアニバーサリーコンサートが開催された。
「ベルサイユのばら」「風と共に去りぬ」はじめ数多くの名曲を生み出した寺田瀧雄氏のアシスタントをしながら作曲を学び、今や劇団になくてはならない存在となった。そんな吉田氏の作曲家生活40年を祝ってかけつけたのは元星組娘役トップの南風舞(在団時はまい)元星組トップ、麻路さき、元宙組トップ姿月あさと。そしてコーラスが久留実純、出雲綾、朝峰ひかりの計6人。
1000曲以上あるという吉田氏の作品中、よりすぐりの名曲の数々を時系列的に歌い継いでいくという構成で。初めて全編を担当したという月組バウ公演「シブーレット」を皮切りに、大劇場公演の主題歌デビューとなった花組公演「心の旅路」を麻路と南風がデュエット。
続いて麻路が「イコンの誘惑」姿月が「砂漠の黒薔薇」「エンジェル・オブ・ミュージック」と𠮷田作曲の持ち歌を披露した。
今も歌い継がれる「花の業平」の「忍の乱れ」や新装東京宝塚劇場こけら落とし公演のための祝祭歌は、寺田氏が亡くなった直後にピンチヒッターとして担当、大成功を収めた記念すべき作品。
「ベルサイユのばら」「外伝ベルサイユのばら」からの新曲や宙組第一作「エクスカリバー」から「未来を」などの名曲が次々と披露され、最後は2022年の新曲「フルスイング」を麻路と連弾で披露、花組公演「エンター・ザ・レビュー」を全員で歌って締めくくった。
こうして振り返ってみると、あれもこれもそうだったのかという曲が次々と登場、吉田氏の多彩な音楽性に改めて気づかされ、酔いしれた贅沢な2時間だった。
©宝塚歌劇支局プラス10月15日記 薮下哲司