©️宝塚歌劇団
礼真琴を中心とした星組全国ツアー公演、ミュージカル・プレイ「モンテ・クリスト伯」(アレクサンドル・デュマ・ペール原作、石田昌也脚本、演出)とレビュー・エスパーニャ「Gran Cantante‼」(藤井大介作、演出)が、9月1日から梅田芸術劇場メインホールで開幕した。宙組初演から9年ぶりの再演となった「モンテ・クリスト伯」と、先ごろ東京公演が終わったばかりの新作ショーの二本立てだが、月組から組替えとなった暁千星の星組お目見えとしても注目の公演となり、初日の客席は超満員に膨れ上がった。
「モンテ・クリスト伯」は「巌窟王」のタイトルでもしられ、幾度となく映画化、舞台化されたデュマの名作。19世紀初頭のフランス、若き一等航海士エドモン・ダンテス(礼)は、美しき婚約者メルセデス(舞空瞳)との結婚も決まり幸せの絶頂にあったが、彼に嫉妬する貴族のフェルナン(瀬央ゆりあ)会計士のダングラール(輝咲玲央)検事のヴィルフォール(綺城ひか理)の陰謀によって身に覚えのない罪を着せられ、孤島の監獄に投獄されてしまう。獄内でファリア神父(美稀千種)と知り合ったダンテスは脱獄に成功、モンテ・クリスト島の財宝を手に入れ、モンテ・クリスト伯爵となり、彼を絶望のどん底におとしめた人々に復讐を開始する。
宙組初演では、これを舞台で上演しようとする高校の演劇部のメンバーがストーリーの進行役として登場したのだが、今回はその役目を脱獄したダンテスを救った密輸船のボス、ルイジ・ヴァンパ(天華えま)とのちにダンテスの部下となる乗組員ベルツッチオ(暁千星)が担い、物語を転がしていくという設定に代わり、天華と暁の出番がこれで飛躍的に増え、暁の役はもともと後半で非常においしい役なので星組お披露目としてはこれ以上ない船出となった。もともと膨大な原作のダイジェスト版的なところはあるものの初演よりも随分すっきりとした印象。後半からラストにかけてはかなり宝塚的に脚色されているが、原作とは違って見終わってすがすがしい気持ちになれるのでいいとしよう。
礼のダンテスは、幸せの絶頂からどん底に陥れられ復讐鬼として再び世に現われるあたりの執念のようなものが人柄のせいでどうしても薄い感じはするのだが、さまざまな扮装で早変わりしながら復讐を果たすあたりを楽しんで演じている様子がうかがえ、舞台姿に余裕のようなものが見えてきたのが頼もしく感じられた。メルセデスの舞空は前半、ほとんど出番がなく、後半のダンテスとの再会の場が見せ場となるが、ここがなかなか見事で見る者の紅涙を絞り、一気に点を稼いだ。
ダンテスを貶める瀬央、輝咲、綺城の3人は、主人公をいじめる役をするとどうしてこんなに似合うのだろうというほど誰もがはまっていた。なかでも瀬央のフェルナンは初演時は朝夏まなとが演じた役なのでもう少しいい役だと記憶していたのだがなんとも救いようのない役。ところがそれを瀬央が、それらしく巧みに演じるものだから参ってしまう。綺城にも同じことがいえた。
その点、暁が演じたベルツッチオは底抜けに明るい男の役で、暁の個性にぴったり合っているうえ、後半はモンテ・クリスト伯になりすましたダンテスの腹心の部下となり、行き過ぎた復讐をいさめる役目までするなど、これ以上ない得な役まわり。初演は凰稀と同期の緒月遠麻が演じた役だ。暁が生き生きと好演した。
あとメルセデスの息子でダンテスと決闘することになるアルベールに扮した稀惺かずとの初々しさに逞しさがみえた成長ぶり、有沙瞳の休演で急きょヴィルフォールの妻エロイーズを代役で扮した都優奈の達者な演技も注目だった。
ショーはこの間まで東京宝塚劇場で上演していたスペインの祭りをテーマにした作品のツアーバージョン。ラインダンスを見ただけでもずいぶん少人数になった感じは否めないが、それを感じさせない礼のパワフルな歌声が一番のききどころ。ナンバーは極美の場面に暁が入ったところが大きく変わったぐらいで、あとはほぼ大劇場の縮小バージョンといった感じ。礼に5人の美女がからんだサンファンの火祭りの場面で暁が女役で登場、礼とデュエットする場面がみどころだが、暁のぎごちない動きに思わず笑みが。暁には男役で礼とダンス合戦をしてほしかったが、これはこれからのお楽しみにというところか。それにしても暁は歌もダンスもどの場面も勢いがあって、星組に新風を吹きこみ、組替えは成功だったようだ。
注目のフィナーレは、暁がエトワールで最初に登場。トップの礼、舞空をはさんで下手が暁、上手が瀬央。羽は半分ずつの同じ羽。瀬央と暁のダブル二番手という位置づけを印象づけた。
©宝塚歌劇支局プラス9月1日記 薮下哲司