©️宝塚歌劇団
月城かなと、後姿の美学、月組公演「グレート・ギャツビー」千秋楽
コロナ第7波の直撃で初日がずれ込んだうえ、中盤の公演も中止を余儀なくされた月城かなとを中心とした月組公演、ミュージカル「グレート・ギャツビー」(小池修一郎脚本、演出)が22日、宝塚大劇場で千秋楽を迎え、ライブ配信された。
何度かチケットがありながらその公演がすべて中止になってしまい、結局、千秋楽をライブ配信で観劇することになった。大劇場公演でこんな経験は初めてのこと。期待の舞台だっただけに生の舞台が見られなかったことは残念だが、ライブ配信で見られたことに感謝しよう。
さて「グレート・ギャツビー」だが、小池修一郎氏の大劇場第三作目として1991年8月「華麗なるギャツビー」のタイトルで杜けあきを中心とした雪組公演として宝塚大劇場で初演され、小池氏がミュージカル作家としてゆるぎない評価を得た記念すべき作品である。デイジーに扮した鮎ゆうきのサヨナラ公演でもあった。初演の舞台を見て、宝塚で初めて外部に通用するミュージカルが誕生、そのままアメリカ人キャストによってブロードウェーで上演しても十分通用すると絶賛したのを昨日のように覚えている。
それから31年、宝塚はすっかりミュージカル中心の劇団となり、小池氏は日本を代表するミュージカル作家となった。なんとも感慨深いものがある。その後「華麗なるギャツビー」はタイトルを「グレート・ギャツビー」と変え、2008年に日生劇場で瀬奈じゅん主演によって二幕ものに生まれ変わった。今回は、それを大劇場バージョンにさらにグレードアップしての上演。
ジーグフェルドフォーリーズのレビュー場面はじめさまざまなナンバーが新たに付け加えられミュージカルとしての体裁はさらに華やかになり、語り口も洗練されたが、間口が広がった分、初演の研ぎ澄まされた人物関係のタイトな感覚が薄れたように感じた。それだけ初演の印象が強かったということになるのだろうか。
とはいえギャツビーに扮した月城は男役としての美貌が冴えわたり「今夜、ロマンス劇場で」の時とは別人のよう。後姿の美しさも、杜けあき、瀬奈じゅんにひけをとらない凛々しさだった。非常に丁寧なつくり込みでそれ自体は素晴らしいが、ギャツビーの陰の部分がにじみでるとさらによくなるだろう。ニック役の風間柚乃のいつもながらの手堅い演技、トム・ブキャナン役の鳳月杏の圧倒的な悪の魅力、ジョージ・ウィルソン役の光月るうの無の存在感と主要キャストの誰もが適役好演、月組の芝居力をみせつけた。
欲を言えば歌唱、演技とも申し分ないのだが海乃美月がタイプ的にデイジー役としての説得力がなかったことか。鮎ゆうき、純名里沙、紫とも、城咲あいとこれまで4人のデイジーを見てきたが、この役がこの舞台の一番のかなめであることがよくわかった舞台でもあった。
今回、専科から英真なおきが運転手とギャツビーの父親役、輝月ゆうまがウルフシェイム役で参加したが、ウルフシェイムのナンバーなど輝月が本領を発揮、強烈なインパクトがあった。病後復帰の英真にやや精気がなかったように感じたのがやや気になった。
娘役ではトムの愛人マートルに扮した天紫珠李の体当たり的演技もみどころ。ジョーダン・ベイカー役の彩みちるとともに娘役力を大いに発揮した。
若手ではピロクシー役の礼華はる、エディ役の彩海せらに上り調子の勢いが感じられ、同様に娘役もデイジーの妹ジュディのきよら羽龍、マートルの妹キャサリン役の白河りりもはつらつとした演技で目をひいた。男役ではギャツビーの少年時代を演じた瑠皇りあにスター性を感じ、エトワールに抜擢された一乃凛(いちの・りん)の今後にも注目したい。
31年ぶりに大劇場に甦った「グレート・ギャツビー」様々な思いがかけめぐった舞台であったことは確かだ。
©8月22日宝塚歌劇支局プラス 薮下哲司
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