©️宝塚歌劇団
桜木みなと、チョイ悪の魅力で新境地「カルトワイン」大阪公演開幕
宙組の人気スター、桜木みなと主演によるミュージカル・プレイ「カルトワイン」(栗田優香作、演出)大阪公演が2日、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで開幕した。南米ホンジュラスの貧しい青年が、持って生まれた資質で、誰も損をしない詐欺を働いて世間を煙に巻くというコメディタッチのミュージカル。昨年、竹久夢二の半生を描いた「夢千鳥」で鮮烈なデビューを果たした栗田氏の第二作だが、前作とは打って変わってハリウッド映画に登場しそうな愉快犯を主人公に、随所に宝塚らしさも盛り込みながら現代社会の拝金主義を痛烈に風刺した痛快コメディーを仕立て上げた。桜木と親友役の瑠風輝とのコンビネーションも抜群で、二人にとっても忘れられない作品になりそうだ。
21世紀初頭のニューヨーク。風色日向扮するオークショニアが登場。これから始まるワインオークションの説明をひとくさり。摩天楼林立する夜景をバックに開かれているヴィンテージワインのオークション会場へと進んでいく。次々に高価な値段で競り落とされていくワインに出席者たちの羨望のため息がもれるなか、ワイン通なら知らないものはないワインコレクターのカミロ・ブランコ(桜木みなと)がさっそうと登場、歌とダンスで盛り上がった後、いわくありげなワインを取り出しオークションに出品するのだが、そこへFBI捜査官トミー(秋奈るい)が踏み込んできて、カミロを詐欺罪で逮捕、会場は大騒動となる。とここまでがプロローグ。
場面変わって10年前のホンジュラス。生きるためにマラス(やくざ)になったシエロ(桜木)だが、幼馴染の親友フリオ(瑠風)の父親ディエゴ(松風輝)殺害を命じられ、殺すことができず病弱のフリオの妹モニカ(美星帆奈)もつれて逃亡、アメリカに密入国するための命がけの旅にでる。旅の途中でディエゴが強盗の手によって死んでしまうなど早くもドラマチックな愁嘆場があり、シエロが他人にはない鋭い味覚の感覚があることやシエロとフリオの友情など、この前段がよく書きこまれていて、すべて後半の伏線としてじわじわと効いてくるのが心憎い。
アメリカに着いたシエロとフリオはひょんなことからギャングのボスで実業家のチャポ(留依蒔世)に見初められ、彼が経営するレストランに雇ってもらうことになる。シエロは、レストランのオーナー(寿つかさ)の娘でソムリエのアマンダ(春乃さくら)にワインのテイスティングを教えてもらううち、自分が天才的な味覚と臭覚の持ち主であることを自覚、安価なワインをブレンドしてヴィンテージワインそっくりの味に仕上げることに成功、モニカの手術代に困っていたフリオのために一度だけのつもりで偽造する、ところがこれが大成功。カミロ・ブランコの名でワイン業界の若きカリスマにのし上がっていく。とまあざっとこんなストーリー。
栗田氏が実際にあった事件をベースに全くオリジナルな話として作り上げたストーリーだというが、騙した方も騙された方も誰も被害者ではないという摩訶不思議な物語。面白すぎるお話ではある。これに幼馴染の男の友情物語が軸としてきちんとあって、恋した女性が同じ女性という宝塚の王道ストーリーを踏んでいるとあればもう文句つけようがない。あとは見てもらうしかない。
カミロの桜木は、ホンジュラスの貧民街で育ち、地道に働くより簡単に稼げる方に流されてどんどん悪の道にはまっていった典型的な若者。しかし根はまっとうでやさしいところもある。そんな根っからの悪党になりきれないチョイ悪の青年像を生き生きと魅力的に演じた。濃いメイクで甘いマスクに精悍さが増し、男役としてずいぶんたくましさがましてきたようだ。
カミロの一番の理解者、幼馴染のフリオを演じた瑠風。役としてもよく書けているが彼女も役を見事に自分のものにしていて見ていて惚れ惚れとするくらいの好演だった。力まず桜木の横で自由に存在している雰囲気がフリオによく生かされていた。久々に再会する場面、ラストの面会の場面などなんともいえないペーソスと笑いがこみ上げた。男二人の友情物語としても非常に傑出していると思う。
ヒロイン格のアマンダは春乃さくらが扮したが、それほど出番は多くなく、桜木とのからみもソムリエ修行の場面くらいしかないのだが、再会してからの女心の微妙な揺れ動きの表現はなかなか真に迫ったものがあった。これは演技指導のたまものだろうか。
ほかにチャポに扮した留依やカルロスの寿、フリオの父親の松風など適材適所、専科の五峰亜希も、腹に一物ある女社長を貫禄十分に演じ切った。久々に役に恵まれたといっていいだろう。
若手では風色がオークショニアとしてオークション会場での進行役で目立つ役ではあるがやや役不足、ワンポイントだが運転手ミゲル役の真白悠希、裁判で証言するマシュー役の聖叶亜といった下級生の熱演が印象的だった。
「夢千鳥」とは全く違ったジャンルの作品だが、軽さのなかに芯のあるテーマが隠されていて最後まで見ごたえがあった。三井聡、百花沙里の振付、手島恭子の音楽も快調で、今後の栗田作品がさらに楽しみだ。
©宝塚歌劇支局プラス 7月2日記 薮下哲司