©️宝塚歌劇団
礼真琴、10年後のルーチェは探偵見習い?星組公演「めぐり会い再び」開幕
礼真琴を中心とした星組によるミュージカル・エトワール「めぐり会い再びnext generation真夜中の依頼人(ミッドナイト・ガールフレンド)」(小柳奈穂子作、演出)とレビュー・エスパーニャ「Gran Cantante‼(グランカンタンテ)」(藤井大介作、演出)が23日、宝塚大劇場で開幕した。2011年に柚希礼音時代の星組で上演され大人気となったコメディシリーズの第3弾とスペインの祭りをテーマにしたスパニッシュレビューの二本立て、108期生38人のお披露目もあって、日頃の憂さを忘れさせてくれるのにもってこいの春らしい番組だ。
「めぐり会い―」は、「めぐり会いは再び」その翌年に上演された続編「めぐり会いは再び2nd~star bride~」に続くシリーズ第3弾。続編で夢咲ねね扮するシルビアの弟で礼が扮していたルーチェの10年後のお話。第一作は「ルパン3世」「はいからさんが通る」「今夜、ロマンス劇場で」などでいまやすっかりエース的存在になった小柳奈穂子氏の大劇場デビュー作。マリヴォー原作の「愛と偶然の戯れ」をベースに自由に脚色したラブコメディーだったが、今回は完全オリジナル。
田舎領主のオルゴン伯爵家の末の息子、ルーチェ(礼)は、故郷のフォスフォール村を出て大学に進んだものの、卒業後は友人のレグルス(瀬央ゆりあ)が経営する探偵事務所の居候兼手伝いというニート同然の暮らしぶり。恋人のアンジェリーク(舞空瞳)とも10年以上のつきあいだがなかなか進展せず、目下。絶縁状態。そんな時、爵位を持つルーチェにしかできない探偵の仕事が舞い込む。王家の花婿選びに潜入して、秘宝を狙う怪盗をつきとめてほしいというものだった……。
礼はじめオルゴン伯爵家の執事ユリウスの天寿光希、メイド長ブランの白妙なつ、ローウェル公爵の姪レオニード役の音波みのり、旅芸人一座の座長フォーマルハット役の美稀千種の5人が前作のキャラクターをそのまま受け継いだほか、退団した美弥るりからが扮していたキャラクターや、真風涼帆が扮していた劇作家のように組替えで不在のキャラクターにはそれなりの理由をつけ、前2作を見ていないとわからないコアなギャグがちりばめられており、ファンにはこたえられない楽屋落ちが楽しめる。前2作に出演していた主なメンバーでも全く別のマダム・グラファイス役で出演している専科の万里柚美という例もある。
ということで、前2作を知らなくてもまとまった一つのお話になっているものの、前2作を見ていない人はもちろん見ている人も思い出しがてら公演DVDを引っ張り出して予習しておいた方が数倍楽しめる。何しろ10年前の作品の続きだ。天寿と音波はこの公演で退団することが決まっているので、それなりの見せ場が工夫してあるのもうれしい。
最初からハッピーエンドになることがわかっているお話ではあるので、いかに面白く展開していくかというのがよし腕の見せ所。これまでの作品が短くコンパクトだったこともあってルーチェが花婿選びに潜入して邪魔が入るあたりの中半でややだれるところもあるが終わり良ければすべてよしの典型的なパターン。数年後にまたこの続きを見たいものだ。
礼は出来の悪い伯爵家のボンボン役を、このうえなくキュートに演じていて魅力的。ダンスコンテストでの舞空とのデュエットなど二人のコンビならではの見せ場も用意されていて、肩の力を抜いて自然体で楽しんで演じている感じが見ていて気持ちがいい。こんな礼をみたかったとファンも思っていたのではないだろうか。
舞空は、礼扮するルーチェとは対照的に公爵家の深窓のお嬢さんというイメージではなく自立するしっかり者の現代っ子的な雰囲気を体全体ににじませて溌溂としたつくり込み。
ダンスの見せ場も多く、礼とのコンビぶりがますます似合ってきた。
ルーチェが居候を決め込む親友のレグルスの瀬央は、実際にも礼と95期の同期ということもあってなんでも話せるというバディ的感覚が二人の間によく出ていた。
ほかに探偵事務所のメンバーは有沙瞳の女優ティア。天華えまの劇作家セシル。水乃ゆりの発明家アニスの3人。それぞれ面白いキャラクターだが発明家に扮した水乃のはっちゃけぶりが楽しかった。
国王失脚を謀る宰相オンブルの綺城ひか理とその息子ロナンの極美慎。この手の物語の中のあるべき敵役的存在の二人だが、この二人のキャラがいまいち立っていないのが弱いところ。とはいえ美形親子に罪はない。
この公演で退団する天寿と音波はさすがのベテランぶりでこの祝祭劇を脇できっちり締めていた。天寿扮するユリウスが今回初登場となる美穂圭子が演じる歌姫エメロードの大ファンというお遊びも楽しかった。ショーも含めて美穂の滑らかな美声健在も耳福。
ほかに稀惺かずと詩ちづるの双子コンビ、天飛華音、奏碧タケル、大希颯のコソ泥3人トリオなどの若手陣のはつらつぶりも印象的だった。
一方、ショー「Gran Cantnte」はスペイン語で「素晴らしい歌い手」という意味だそうで、もちろん礼のことをたたえたタイトル。道化たちの太鼓の音に誘われて舞台中央に登場するプロローグから、その突き抜けるような歌声に思わず聴き惚れる。目にも鮮やかな純白の衣装に裏地が赤の純白のマントを持った男役陣の群舞に展開、華やかなカーニバルが始まる。
全編スペインの祭りをテーマに情熱的に繰り広げるスパニッシュショーで、中詰めではスペインを舞台にした宝塚の名作の主題歌をメドレーで歌い継ぐという趣向がある。「情熱のバルセロナ」(極美)「誰がために鐘は鳴る」(美穂)「去りゆきし君がために」(礼)「バレンシアの熱い花」(輝咲玲央、紫りら、天華えま、有沙、小桜ほのか、綺城、音波)「哀しみのコルドバ」(瀬央)といった具合。宝塚ならではのスパニッシュミュージカルをショーで蘇らせたのはなかなかの趣向だった。ここでも礼と美穂の歌声が抜群だった。
後半の見どころはマタドールに扮した礼と牛に扮した瀬央の濃厚なダンスとオラシオンに扮した舞空がソロで踊り狂ったあと礼が登場して群舞に展開するピラール祭り。極美ら若手男役陣に誘われるように登場する108期38人のサフラン祭りのラインダンスもコロナ禍で通常の稽古ができなかった期とは思えない見事な晴れ姿だった。
フィナーレのエトワールは天寿がつとめ、瀬央が背負った二番手羽は右半分の大きな羽、舞空が左半分の大きな羽で中央の礼を迎えるという形。あまりみたことのない異例の形だった。
©宝塚歌劇支局プラス4月23日記 薮下哲司