公演チラシを転載 ©️宝塚歌劇団
瀬央ゆりあ主演、星組公演「ザ・ジェントル・ライアー」無事開幕!
星組の人気スター、瀬央ゆりあ主演によるミュージカル・コメディ「ザ・ジェントル・ライアー」~英国的、紳士と淑女のゲーム~(田淵大輔脚本、演出)が19日からKAAT神奈川芸術劇場で開幕した。2月1日からの宝塚バウホール公演が公演関係者からコロナ感染者が出て全公演中止になったが、神奈川公演は予定通り上演され、23日に急きょライブ配信が決まり、観劇することができた。
「ザ・ジェントル・ライアー」は「サロメ」や「ドリアン・グレイの肖像」で知られる詩人であり劇作家のオスカー・ワイルド原作による戯曲「理想の夫」をもとにしたミュージカル。原作は「アーネスト・イン・ラブ」の原作となった「まじめが肝心」とともに英国の上流階級の人間模様を皮肉たっぷりに描いたにワイルドのクラシックなコメディだ。「理想の夫」のタイトルで何度か映画化されており、直近では1999年にルパート・エベレット、ケイト・ブランシェット、ミニー・ドライバー、ジュリアン・ムーアという豪華キャストで映画化され「理想の結婚」のタイトルで日本でも公開されている。
舞台は19世紀末のロンドン。プレイボーイの子爵アーサー(瀬央)は、親友の議員ロバート(綺城ひか理)邸で開かれた夜会に招かれて参加したところ、彼とかかわりの深い3人の女性と鉢合わせしてしまう。かつて惹かれあいながらも現在はロバートの妻となっているガートルード(小桜ほのか)顔を合わせればけんかとなるロバートの妹メイベル(詩ちづる)そして、財産目当てでアーサーに近づいたものの、さらによい条件の相手を見つけて3日で婚約を破棄したローラ(紫りら)の3人だ。ローラは、ロバートの旧悪をネタに議会での不正な演説を強要、困ったロバートはアーサーに助けを求めるのだが……。
原作はアーサーとロバートの二人が主役のお話で、これをアーサー中心に3人の女性の恋のさやあてのようなコメディに仕立てた。アーサーは34歳独身という設定(原作では36歳)、アーサーとローラの関係に「仮面のロマネスク」のバルモンとメルトゥイユ侯爵夫人を想起させるものがあり、ラクロの「危険な関係」のイギリス版といった大人の恋のゲームという感覚が濃厚にただよう。舞台装置、衣装が非常に凝っていて19世紀ロンドンの上流階級の雰囲気を巧みに再現、ごく自然に見るものをワイルドの世界に誘った。
主演の瀬央も、何不自由のないイギリス上流階級の御曹司を持ち前の品の良さで巧まずして体現、この物語の世界観に何の違和感もなく溶けこんでいた。本来はもっと遊び人という感覚だが、そこは宝塚、程よく抑えぎみなところが瀬央にぴったりだった。
ロバート役の綺城は、端正な容貌にひげを蓄えて登場。アーサーの助けを借りて崖っぷちから切り抜ける青年議員を真摯に演じぬいて好印象。これまでにない難役をさわやかに見せ切ったのが綺城ならではだった。
アーサーをめぐる3人の女性はローラに扮した紫が計算高い大人のムードで圧倒的な迫力。音波みのり休演による急な代役にもかかわらず、見事な演技でその実力をみせつけた。
ロバートの妻、ガートルードの小桜も、断ち切れぬアーサーへの思いに悶々としながらロバートとの愛を貫く難しい役を的確に表現、「シラノ・ド・ベルジュラック」のロクサーヌに続く好演。セリフの声がかつての星組トップだった遠野あすかによく似ていて思わず遠野がいるのかと錯覚するほどだった。
そしてロバートの妹メイベルの詩。月組から星組に組替えになって初の大役。物語の中ではそれほど大きな役ではないのだが終わってみれば実質ヒロイン役であることがわかる仕組み。ちょっとしたどんでん返しではある。歌舞伎「梅ごよみ」のお蝶役のようなおいしい役どころ。詩はそんなメイベルを明るく生き生きと演じた。歌唱力も申し分なくこれからの星組娘役の大きな戦力になるのは必至だろう。
アーサーの父親の美稀千種やフィブス役の大輝真琴の達者なところがきちんと脇を締めたほかロバートの若い秘書トミーに起用された稀惺かずとがはじけた演技で笑いを取っていたのが印象的。一方、水乃ゆりが夜会に扇子を忘れた令嬢役という小さな役だったのはややもったいなかった。
原作のエスプリを巧みに生かし品のいいコメディに仕上がっていた。
公演は25日まで。無事千秋楽まで完走できることを祈りたい。
©宝塚歌劇支局プラス2月23日記 薮下哲司