風色日向、念願の公演やっと実現、宙組「Never Say Goodbye」新人公演
宝塚大劇場での公演がコロナ禍で中止になったミュージカル「Never Say Goodbye」-ある愛の軌跡-(小池修一郎作、演出)新人公演(熊倉飛鳥担当)が、102期の風色日向の主演で14日、東京宝塚劇場でようやく実現、ライブ配信で見ることができた。舞台機材のトラブルで開演が15分遅れるというハプニングはあったものの、中止からやっと公演が実現、熱のこもった舞台となった。
宝塚大劇場での公演がロシアのウクライナ侵攻が始まった時とほぼ重なり、スペイン内戦を背景にしたこの作品が、現実とリンクして見ていて息苦しささえ感じさせただが、あれからほぼ二か月、戦火は収まるどころか激しさを増すばかり。主人公のジョルジュが死を覚悟して義勇軍として戦場に向かうラストシーンは前回以上になんともいえない虚しさがよぎった。
現実と切り離してみるのはなかなか難しい舞台だったが、それはそれとして新人公演の成果について言及したい。まず、一本立ての大作の新人公演のセオリーである時間短縮は、二幕冒頭のサン・ジョルディの祭りとPUSCのチャリティの二場面とフィナーレをカット、休憩なしで約1時間50分にまとめた。初演時の新人公演では前半のパーティーの場面をカットしたためジョルジュとキャサリンの出会いの場面がなく、ずいぶん乱暴なカットだと思ったのだが、今回は、前半はほぼそのまま残し、ストーリーとしてもわかりやすくよくまとまっていた。
冒頭のオリーブの丘は、ペギー(潤花)が105期の山吹みどり。エンリケ(奈央麗斗)は奈央と同じ107期の風翔夕(かざと・ゆう)が起用され、二幕冒頭の登場も含めて現代の若者像を二人がさわやかに描出、暗くなりがちな舞台を救ってくれた。この舞台で唯一明るい未来を感じさせる場面だった。
主人公のカメラマン、ジョルジュ(真風涼帆)に扮した風色は、「エルハポンーイスパニアのサムライ」以来二度目の新人公演主演。「シャーロックホームズ」ではモリアーティ大佐役だったので、満を持しての二度目の主演。歌、ダンス、芝居と三拍子そろった逸材だが、さわやかな個性が身上の人なので、第一印象としては陰のある人気写真家という、大人のムードを醸しだすにはまだ少々早かった感。トップスターを何年も務めてきた和央ようかや真風が演じた役なので、新人公演クラスの若いスターがなぞるだけではなかなか深みが出ないのが辛いところだ。とはいえ風色は今の持てる力をフルに発揮して、風色なりのジョルジュを見せてくれた。特に後半のオリーブの丘のデュエットから戦場のダンスの高揚感は見事だった。
キャサリン(潤花)は新人公演初ヒロイン、風色と同期の102期の春乃さくら。登場シーンから押し出しの強い演技で自立した強い女性のイメージを強調、やや背伸びした感はあるが大人っぽい雰囲気で作りこみ、圧倒的な迫力でキャサリンを演じ切った。前回の本公演でエトワールを務めていたぐらいなので歌声は美しいが、二幕のソロがやや不安定で、感情を込める芝居の歌唱法にひと工夫がほしい。
闘牛士のヴィセント(芹香斗亜)は、新人公演主演経験もある101期の実力派、鷹空千空。強烈な目力と凛とした立ち姿で存在を誇示。この人がこの役を演じると安心して見ていられ、しかも役が大きく膨らんだ。
もう一人の重要人物、アギラール(桜木みなと)は前回「シャーロックホームズ」で主演した亜音有星。風色と同じさわやかな個性が身上だが、今回は濃い役に徹して熱演。ただどうみても善人にしかみえないところが弱みといえば弱み。
ジョルジュの恋人である大女優エレン(天彩峰里)は、105期の愛未サラ。華やかな雰囲気を巧みに表現、歌唱も安定していて好感度大。今後に期待したい。
前回ヒロインを演じた花宮沙羅は占い師イザベラ(小春乃さよ)に扮して美声を聞かせてくれた。歌といえば注目のラ・パッショナリア(留依蒔世)は104期の朝木陽彩(あさぎ・ひいろ)が起用されよく通る声で歌いこんだ。市長(若翔りつ)の雪輝(せつき)れんやの歌声にも注目。出世役のタリック(亜音)は105期の泉堂成(せんどう・なる)がういういしく演じていた。
©宝塚歌劇支局プラス4月14日記 薮下哲司
宝塚大劇場での公演がコロナ禍で中止になったミュージカル「Never Say Goodbye」-ある愛の軌跡-(小池修一郎作、演出)新人公演(熊倉飛鳥担当)が、102期の風色日向の主演で14日、東京宝塚劇場でようやく実現、ライブ配信で見ることができた。舞台機材のトラブルで開演が15分遅れるというハプニングはあったものの、中止からやっと公演が実現、熱のこもった舞台となった。
宝塚大劇場での公演がロシアのウクライナ侵攻が始まった時とほぼ重なり、スペイン内戦を背景にしたこの作品が、現実とリンクして見ていて息苦しささえ感じさせただが、あれからほぼ二か月、戦火は収まるどころか激しさを増すばかり。主人公のジョルジュが死を覚悟して義勇軍として戦場に向かうラストシーンは前回以上になんともいえない虚しさがよぎった。
現実と切り離してみるのはなかなか難しい舞台だったが、それはそれとして新人公演の成果について言及したい。まず、一本立ての大作の新人公演のセオリーである時間短縮は、二幕冒頭のサン・ジョルディの祭りとPUSCのチャリティの二場面とフィナーレをカット、休憩なしで約1時間50分にまとめた。初演時の新人公演では前半のパーティーの場面をカットしたためジョルジュとキャサリンの出会いの場面がなく、ずいぶん乱暴なカットだと思ったのだが、今回は、前半はほぼそのまま残し、ストーリーとしてもわかりやすくよくまとまっていた。
冒頭のオリーブの丘は、ペギー(潤花)が105期の山吹みどり。エンリケ(奈央麗斗)は奈央と同じ107期の風翔夕(かざと・ゆう)が起用され、二幕冒頭の登場も含めて現代の若者像を二人がさわやかに描出、暗くなりがちな舞台を救ってくれた。この舞台で唯一明るい未来を感じさせる場面だった。
主人公のカメラマン、ジョルジュ(真風涼帆)に扮した風色は、「エルハポンーイスパニアのサムライ」以来二度目の新人公演主演。「シャーロックホームズ」ではモリアーティ大佐役だったので、満を持しての二度目の主演。歌、ダンス、芝居と三拍子そろった逸材だが、さわやかな個性が身上の人なので、第一印象としては陰のある人気写真家という、大人のムードを醸しだすにはまだ少々早かった感。トップスターを何年も務めてきた和央ようかや真風が演じた役なので、新人公演クラスの若いスターがなぞるだけではなかなか深みが出ないのが辛いところだ。とはいえ風色は今の持てる力をフルに発揮して、風色なりのジョルジュを見せてくれた。特に後半のオリーブの丘のデュエットから戦場のダンスの高揚感は見事だった。
キャサリン(潤花)は新人公演初ヒロイン、風色と同期の102期の春乃さくら。登場シーンから押し出しの強い演技で自立した強い女性のイメージを強調、やや背伸びした感はあるが大人っぽい雰囲気で作りこみ、圧倒的な迫力でキャサリンを演じ切った。前回の本公演でエトワールを務めていたぐらいなので歌声は美しいが、二幕のソロがやや不安定で、感情を込める芝居の歌唱法にひと工夫がほしい。
闘牛士のヴィセント(芹香斗亜)は、新人公演主演経験もある101期の実力派、鷹空千空。強烈な目力と凛とした立ち姿で存在を誇示。この人がこの役を演じると安心して見ていられ、しかも役が大きく膨らんだ。
もう一人の重要人物、アギラール(桜木みなと)は前回「シャーロックホームズ」で主演した亜音有星。風色と同じさわやかな個性が身上だが、今回は濃い役に徹して熱演。ただどうみても善人にしかみえないところが弱みといえば弱み。
ジョルジュの恋人である大女優エレン(天彩峰里)は、105期の愛未サラ。華やかな雰囲気を巧みに表現、歌唱も安定していて好感度大。今後に期待したい。
前回ヒロインを演じた花宮沙羅は占い師イザベラ(小春乃さよ)に扮して美声を聞かせてくれた。歌といえば注目のラ・パッショナリア(留依蒔世)は104期の朝木陽彩(あさぎ・ひいろ)が起用されよく通る声で歌いこんだ。市長(若翔りつ)の雪輝(せつき)れんやの歌声にも注目。出世役のタリック(亜音)は105期の泉堂成(せんどう・なる)がういういしく演じていた。
©宝塚歌劇支局プラス4月14日記 薮下哲司